説明

接着複合コアセルベートならびにそれを作製および使用する方法

接着複合コアセルベートは、1種類以上のポリカチオンと1種類以上のポリアニオンとの混合物で構成される。当該接着複合コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとは、硬化の際に、互いに、共有結合により架橋される。当該接着複合コアセルベートは、従来の生体接着剤と比較した場合には、水系用途において有効な、いくつかの望ましい特徴を有する。本明細書に記載の接着複合コアセルベートは、基体に適用する場合には、水において、良好な界面張力を呈する(すなわち、それらは、玉になるというよりも、むしろ、界面全体に広がる)。加えて、当該複合コアセルベートの、分子間で架橋する能力により、当該接着複合コアセルベートの凝集強度が増加する。当該接着複合コアセルベートには、生体接着剤および薬物送達デバイスとして、数多くの生物学的用途がある。特に、本明細書に記載の接着複合コアセルベートは、水中用途、および、水が存在する状況、例えば生理学的条件など、において、特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2009年7月23日に出願された米国非仮出願第12/508,280号に基づく優先権を主張するものである。本願は、本明細書によりその全体が参照により組み入れられるものとする。
【0002】
配列表への相互参照
本明細書に記載のタンパク質は、配列識別番号(配列番号)により参照される。これら配列番号は、配列識別子<400>1、<400>2、等に数値的に対応するものである。記録された、コンピュータが読める形式(computer readable format;CFR)の、本配列表は、参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0003】
謝辞
本発明に繋がった研究は、一部、米国国立衛生研究所、助成金番号第R01 EB006463号により資金援助を受けた。米国政府は、本発明中の特定の権利を有している。
【背景技術】
【0004】
骨折は今日の社会における深刻な健康上の懸念事項である。骨折自体に加え、骨折には、多数のさらなる健康上のリスクが付随する。例えば、関節内骨折は、関節表面に広がり軟骨表面を断片化する骨損傷である。軟骨表面の骨折は、消耗性の(debilitating)外傷後関節炎に繋がる場合が多い。外傷後関節炎の発症における主な決定因子は、損傷時の付与エネルギー量、外傷後関節炎に対する患者の遺伝的素因(またはその欠如)、ならびに整復(reduction)の精度および維持、であると考えられている。これら3つの予後因子のうち、整形外科の介護者によりコントロール可能な唯一の因子は、整復の達成および維持である。関節表面(軟骨)および骨幹端(軟骨の直下の骨の部分)の粉砕損傷は、整復した(整列させた)位置に維持することが特に困難である。これは、この領域の骨の質および種類に関係している。これは、チタンインプラントまたはステンレス鋼インプラントを用いる固定の制限にも関係している。
【0005】
現在では、ステンレス鋼インプラントおよびチタンインプラントは固定の主要な方法であるが、それらのサイズおよびそれらを配置させるために必要なドリリングは、骨および軟骨のより小さな小片の正確な徒手整復(manipulation)および整復を妨げるものとなることが多い。機械的固定に対する代替法として、様々な骨接着剤が試験されてきた。これらは次の4つのカテゴリーに分類される:ポリメチルメタクリレート(PMMA)、フィブリンをベースとする糊、リン酸カルシウム(CP)セメント、およびCP樹脂複合材。補綴物の固定に使用されるPMMAセメントはよく知られた欠点を有しており、そのうちの最も深刻なものの1つは、発熱凝結反応から発生した熱が、隣接する骨組織を殺してしまい得る、というものである。また、骨に対する結合が乏しいことにより、PMMAセメント補綴物破損の主な原因である無腐性のゆるみ(aseptic loosening)も引き起こされる。
【0006】
1970年代以降、骨移植片の固定および軟骨の修復のために、血液凝固タンパク質フィブリノーゲンを基にしたフィブリン糊が試験されてきたが、未だに広く有効利用はされていない。フィブリン糊の欠点の1つは、それらが、プールされたヒトドナー血液から製造される、というものである。つまり、それらは、感染を伝染してしまうリスクを抱えており、また、可能性として、供給が限られてしまう可能性がある。
【0007】
CPセメントは、例えばリン酸四カルシウム、リン酸二カルシウム無水物、およびβ型リン酸三カルシウムなどの、1つ以上の形態のCPの粉末である。この粉末は、水と混合されると、ヒドロキシアパタイトを含む1つ以上の形態のCP結晶が絡み合うことにより凝結し固まるペースト、を形成する。CPセメントの利点としては、等温凝結(isothermal set)、立証されている生体適合性、骨伝導性、が挙げられ、また、それらは、治癒の際のヒドロキシアパタイト形成のためのCaおよびPOのリザーバーとして役に立つ。主要な欠点は、CPセメントは、もろく、低い機械的強度を有しており、それゆえ、小さな関節セグメントの、安定した整復に理想的なものではない、というものである。CPセメントは、多くは、骨空隙充填剤として使用されている。CPセメントの機械的性質が乏しいことにより、CP粒子とポリマーとの複合セメントがもたらされた。粒子相およびポリマー相の体積分率を変動させることにより、糊の係数(modulus)および強度を、自然骨の係数および強度へと調整することが可能であり、これは、我々に開かれている道でもある。
【0008】
骨折に伴う全体的な健康への影響および現在の固定法の不完全な状態を考えると、新たな固定法が必要である。
【発明の概要】
【0009】
本明細書では、生分解性の接着複合コアセルベート(adhesive complex coacervate)の合成およびそれらの使用について記載する。当該接着複合コアセルベートは、1種類以上のポリカチオンと1種類以上のポリアニオンとの混合物で構成される。当該ポリカチオンとポリアニオンとは、硬化の際に、互いに、共有結合により架橋される。当該接着複合コアセルベートは、従来の接着剤と比較した場合には、水系用途において有効な、いくつかの望ましい特徴を有する。本明細書に記載の接着複合コアセルベートは、基体に適用する場合には、水において、低い界面張力を呈する(すなわち、それらは、玉になるというよりも、むしろ、界面全体に広がる)。加えて、当該複合コアセルベートの、分子間で架橋する能力により、当該接着複合コアセルベートの凝集強度が増加する。当該接着複合コアセルベートには、生体接着剤および薬物送達デバイスとして、数多くの生物学的用途がある。特に、本明細書に記載の接着複合コアセルベートは、水中用途、および、水が存在する状況、例えば生理学的条件など、において、特に有用である。
【0010】
本発明の利点は、一部は以下に続く説明において記載し、一部は当該説明から明らかであるか、または、以下に記載の各局面の実施により学びとることができる。以下に記載の利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘されている要素および組み合わせにより実現および達成される。前述の一般的な説明も、以下の詳細な説明も、単に、例示的なものであり、かつ、説明上のものであって、制限的なものではない、とのことは理解されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本明細書に組み入れられ、かつ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、以下に記載するいくつかの局面を説明するものである。
【図1】図1は、pH依存性のコアセルベートの構造および接着メカニズムの1つのモデルを示す。(A)ポリアミン(赤色)と対となる、低電荷密度を有するポリリン酸塩(黒色)は、nmスケールの複合体を形成する。これら複合体は実効正電荷を有する。(B)拡張された高い電荷密度のポリリン酸塩は、二価カチオン(緑色の記号)が存在するときに、および、よりコンパクトなより低い電荷密度のポリアミンによって、連結されるネットワークを形成する。これらのコポリマー上の実効電荷は負である。(C)Oまたは添加された酸化剤による3,4‐ジヒドロキシフェノール(D)の酸化により、キノン(Q)と一級アミン側鎖との間の架橋が開始される。このコアセルベートは、静電相互作用、3,4‐ジヒドロキシフェノール側鎖、および、基質タンパク質への、キノンにより媒介される共有結合性カップリングを通じて、ヒドロキシアパタイト表面に接着することが可能である。
【図2】図2は、本発明におけるポリカチオンおよびポリアニオンとして用いることができるP.カリフォルニカ(P.californica)により産生されるいくつかのタンパク質配列、ならびに、本発明において有用な合成ポリカチオンおよびポリアニオンを示す。
【図3】図3は、本発明におけるポリカチオンおよびポリアニオンとして用いることができるP.カリフォルニカ(P.californica)により産生されるいくつかのタンパク質配列、ならびに、本発明において有用な合成ポリカチオンおよびポリアニオンを示す。
【図4】図4は、本発明におけるポリカチオンおよびポリアニオンとして用いることができるP.カリフォルニカ(P.californica)により産生されるいくつかのタンパク質配列、ならびに、本発明において有用な合成ポリカチオンおよびポリアニオンを示す。
【図5】図5は、本発明におけるポリカチオンおよびポリアニオンとして用いることができるP.カリフォルニカ(P.californica)により産生されるいくつかのタンパク質配列、ならびに、本発明において有用な合成ポリカチオンおよびポリアニオンを示す。
【図6】図6は、本発明におけるポリカチオンおよびポリアニオンとして用いることができるP.カリフォルニカ(P.californica)により産生されるいくつかのタンパク質配列、ならびに、本発明において有用な合成ポリカチオンおよびポリアニオンを示す。
【図7】図7は、本発明におけるポリカチオンおよびポリアニオンとして用いることができるP.カリフォルニカ(P.californica)により産生されるいくつかのタンパク質配列、ならびに、本発明において有用な合成ポリカチオンおよびポリアニオンを示す。
【図8】図8は、ドーパ架橋の種々のメカニズムを示す。
【図9】図9は、本明細書に記載の複合コアセルベートの、小さな「スポット溶接による接合部(spot welds)」を適用して、骨折(A)、小骨損傷(B)を修復するための、または、合成足場を骨組織に結合させるため(C)の、デュアルシリンジシステムを示す。
【図10】図10は、模倣コポリマーの構造およびUV/VIS特徴決定を示す。(A)Pc3類似体である1は、88.4モル%のリン酸塩、9.7モル%のドーパミド、および0.1モル%のFITC側鎖を含有していた。Pc1類似体である2は、8.1モル%のアミン側鎖を含有していた。いずれの場合も、残りはアクリルアミドサブユニットであった。(B)カテコール型の3,4−ジヒドロキシフェノールに特徴的な280nmにおける単一のピークが、1のスペクトル中に存在していた。NaIOによる酸化の後に、キノン型に対応する395nmにおけるピークが現れ、3,4−ジヒドロキシフェノール含有ポリマーの、予想された酸化還元挙動が確認された。
【図11】図11は、混合した高分子電解質の、pH依存性の複合コアセルベーションを示す。(A)低pHでは、等しい量のアミンおよびリン酸側鎖を有する1および2の50mg/ml混合物は、安定したコロイド状PECを形成した。pHが上昇するにつれて、ポリマーは凝縮し、高密度液体複合コアセルベート相になった。pH10では、当該コポリマーは、溶液中に溶け、酸化的に架橋されて、透明なヒドロゲルになった。(B)コポリマー側鎖密度から算出した、pHの関数としてのコポリマー側鎖の実効電荷。(C)PECの直径(丸)は、2〜4のpH範囲を通じて、ほぼ3倍増加した。pH4より上では、複合体は綿状の固まりになり、それらのサイズは測定できなかった。ゼータ電位(四角)は、算出した実効電荷に一致して、pH3.6付近でゼロであった。
【図12】図12は、接着複合コアセルベートの液体特性を示す。pH7.4では、1および2の溶液は、等しい量のアミンおよびリン酸側鎖を含有していた。
【図13】図13は、二価カチオンおよび高分子電解質の相図を示す。固定されたpH8.2において、アミンのリン酸側鎖に対する比およびリン酸側鎖の二価カチオンに対する比を変動させた。溶液の状態はグレースケールで表されている。コアセルベート相の質量(mg)は濃い灰色の四角で指し示されている。星印で指し示されている組成物は、結合強度を試験するのに用いられた。
【図14】図14は、コアセルベート結合骨の結合強度、剪断弾性係数、および寸法安定性を示す。(A)二価カチオン比が、リン酸側鎖に対して0から0.4になるにつれて、破損時の結合強度はおよそ50%増加し、剛性は2倍になった。市販のシアノアクリレート接着剤で湿潤結合させた検体を基準として使用した。(すべての条件について、n=6)(B)4ヶ月間PBS(pH7.2)中に完全に沈めた、接着させた骨検体の結合は、感知できるほどは膨張しなかった。
【図15】図15は、酸化の前および後におけるドーパミンコポリマーのUV‐visスペクトルを示す(pH7.2)。酸化の前に存在していたカテコールピークは、キノン型へと変わった。左上図:p(DMA[8]−Aam[92])。左下図:p(AEMA[30]−DMA[8])。右図:ドーパミンコポリマーの酸化架橋によるヒドロゲル形成。(A)p(DMA[8]−Aam[92])。(B)p(EGMP[92]−DMA[8])。(C)p(AEMA[30]−Aam[70])と混合したp(DMA[8]−Aam[92])。(D)p(AEMA[30]−Aam[70])と混合したp(EGMP[92]−DMA[8])。括弧でくくられている数字は、側鎖のモル%を指し示している。矢印は、スペクトルが経時的に変化する方向を指し示している。
【図16】図16は、ポリ(EGMP[92]−DMA[8])におけるドーパミン酸化のpH依存性を示す。矢印は、スペクトルが時間とともに変化する方向を指し示している。上図:pH5.0、時間経過挿入図。下図:pH6.0。
【図17】図17は、(A)ヒト包皮繊維芽細胞、(B)ヒト気管繊維芽細胞、および(C)ラット初代星状細胞の、接着剤との直接接触を示す(赤色の自己発光性の大きな塊、白色の星印)。細胞形態、フィブロネクチン分泌、および運動性は、糊の非存在下で成長している細胞と区別できない。緑色=中間径フィラメントタンパク質。赤色=分泌されたフィブロネクチン(fibronection)。青色=DAPI染色核。
【図18】図18は、複数断片ラット頭蓋冠欠陥モデルを示す。(A)欠陥の発生。(B)骨蓋(bone cap)の断片化。(C)欠陥における断片の整復。(D)骨糊の適用。(E〜F)糊の硬化(暗色化)。断片は、EおよびFにおいては、堅く固定されている。
【図19】図19は、接着複合コアセルベートの形成に対するpHおよび正規化実効電荷の効果を示す。
【図20】図20は、Pc1〜Pc8のアミノ酸モル%を提示する。
【図21】図21は、アミン修飾ゼラチンを作製するための反応スキームを示す。
【図22】図22は、(A)水における接着複合コアセルベートの一例(白色の矢印)、ならびに(B)凝結および架橋のメカニズムとともに、高分子電解質の相挙動、を示す。
【図23】図23は、ポリリン酸塩−ゼラチン−二価カチオン混合物の相図を示しており、:(A)Ca2+組成物、pH5;(B)Ca2+組成物、pH7.4;(C)Mg2+組成物、pH5;(D)Mg2+組成物、pH7.4。各混合物中のコポリマーの総濃度は5重量%であった。可溶性の組成物は白色であり、凝縮し複合コアセルベートになった組成物は明るい灰色であり、ゲルまたは固い固体沈殿物を形成した組成物はより暗い灰色である。四角の中の数字は、分離した複合コアセルベート相の濃度(重量%)を表す。数字のない灰色のボックスは、複合コアセルベートを含有するものであったが、体積が低すぎて濃度の正確な測定ができなかった。複合コアセルベートを含有する組成空間は、Mg2+で、より高く、また、pHに伴って増加する。Mg2+固相は、固いCa2+沈殿物よりも、より柔らかく、かつ、よりゲル様であった。
【図24】図24は、動的振動レオロジーにより決定された固化温度を示す。(A)Ca2+/ゼラチン/ポリリン酸塩のレオロジー。弾性係数(G’、黒色の記号)は、0.15より大きいCa2+比にて温度を0℃から40℃へ上昇させるにつれて、S字状に上昇した。(挿入図)固化またはゲル化温度である、弾性係数(G’)と粘性係数(G”、灰色の記号)との交差は、Ca2+比を増加させるに伴って低下した。明確にするために、0.25Ca2+比は、挿入図から除外されている。(記号:◆0.3/0.6、■0.25/0.6、▲0.2/0.6、●0.15/0.6のCa2+比)。(B)Mg2+/ゼラチン/ポリリン酸塩のレオロジー。(記号:◆0.8/01.0、■0.9/1.0、▲1.0/01.0のMg2+比)。当該比較測定は、0.1%の一定の歪みおよび1.0hzの周波数で行なった。
【図25】図25は、剪断強度を、二価カチオン比と温度との関数として示す。(A)一定のアミン比にて、リン酸塩に対するCa2+比を変動させた。(B)一定のアミン比で、Mg2+比を変動させた。試験は、温度制御されたウォーターバス中に完全に沈めた被着体を用いて行なった(pH7.4)。暗色のバーは、酸化架橋なしで、37℃で行なった剪断試験を表している。白色のバーは、酸化架橋なしで、転移温度より下で行なった剪断試験を指し示している。斜交平行線模様のバーは、ドーパミド側鎖に対して1:2の比のNaIOによる酸化架橋後に37℃で行なった剪断試験を表している。架橋された結合を硬化させ(24時間)、温度制御されたウォーターバス中に完全に沈めながら試験した。バーは、平均+/−標準偏差を表している(すべての組成物について、n=9)。
【図26】図26は、化学線により架橋可能な基を有するポリカチオンおよびポリアニオンの合成、ならびに、それに続く、そのポリアカチオン(polyacation)およびポリアニオンの架橋を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本化合物、組成物、物品、デバイス、および/または方法を開示および記載するに先立ち、以下に記載の各局面は、特定の化合物、合成法、または使用に限定されるものではなく、従って、当然、様々であってもよい、ことが理解されるべきである。また、本明細書において用いられている用語法は、特定の局面を記述することのみを目的としたものであり、かつ、限定することを意図したものではない、とのことも理解されるべきである。
【0013】
本明細書では、および、添付の特許請求の範囲では、多くの用語が参照されることとなるが、それら用語は、以下の意味を有するよう定義されるものとする:
【0014】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられているように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈から明らかにそうでないと示されていない限り、複数の指示物を含む、とのことに留意しなければならない。よって、例えば、「(1つの)医薬担体(a pharmaceutical carrier)」への言及には、2つ以上のそうした担体の混合物が含まれる、等である。
【0015】
「所望により選択される(optional)」または「所望により(optionally)」は、続いて記載されている事象または状況が生じても生じなくてもよいとのこと、ならびに、その記述にはその事象または状況が生じる場合の事例および生じない場合の事例が含まれるとのこと、を意味する。例えば、「所望により置換される低級アルキル」という句は、その低級アルキル基が、置換されていてもされていなくてもよいとのこと、ならびに、その記述には非置換低級アルキルおよび置換のある低級アルキルの両方が含まれるとのこと、を意味する。
【0016】
本明細書において、範囲は、「約」ある特定の値から、および/または、「約」もう1つの特定の値まで、のように表されていることがある。このような範囲が表されている場合には、別の局面では、その、ある特定の値から、および/または、もう一方の特定の値まで、が含まれる。同様に、「約」という先行詞の使用により概数として値が表されている場合には、その特定の値は別の局面を形成する、とのことが理解されるものとする。それぞれの範囲の端点は、他方の端点に対して、および、他方の端点とは無関係に、の両方で、有意なものである、とのことがさらに理解されるものとする。
【0017】
本明細書および結びの特許請求の範囲における、組成物または物品中のある特定の要素または成分の重量部への言及は、重量部が表されているその組成物または物品中の、その要素または成分と、他のなんらかの要素または成分との間の重量関係を示すものである。よって、2重量部の成分Xと5重量部の成分Yとを含有する化合物においては、XおよびYは、2:5の重量比で存在し、また、当該化合物中にさらなる成分が含有されるかどうかにかかわらず、この比で存在する。
【0018】
成分の重量パーセントは、そうでないと具体的に述べられていない限り、その成分が含まれている製剤または組成物の総重量を基準にしたものである。
【0019】
本願の全体において用いられている例えばR、R、R、R、R、R13〜R22、A、X、d、m、n、s、t、u、v、w、およびxなどの変数は、そうでないと述べられていない限り、前に定義したものと同一の変数である。
【0020】
本明細書において用いられている「アルキル基」という語は、1〜25個の炭素原子による、分岐した、または、分岐していない飽和炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシル等、である。より長鎖のアルキル基の例としては、これに限定されるものではないが、パルミチン酸基が挙げられる。「低級アルキル」基は、1〜6個の炭素原子を含有するアルキル基である。
【0021】
本明細書に記載の化合物は、いずれも、薬剤的に許容できる塩であってもよい。一局面では、薬剤的に許容できる塩は、遊離酸を、適切な量の薬剤的に許容できる塩基で処理することにより調製する。代表的な薬剤的に許容できる塩基は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、リシン、アルギニン、ヒスチジン、等である。一局面では、反応は、水単独中で、または、不活性な水混和性有機溶媒と組み合わせた水中で、約0℃〜約100℃の温度で、例えば室温などで、行なう。当てはまる場合の特定の局面においては、用いられている塩基に対する本明細書に記載の化合物のモル比は、任意の特定の塩について望まれる比を与えるよう選択される。例えば遊離酸出発物質のアンモニウム塩を調製するには、その出発物質をおよそ1当量の薬剤的に許容できる塩基で処理して、中性塩を産生させてもよい。
【0022】
もう1つの局面では、当該化合物が塩基性基を有する場合には、それを、例えばHCI、HBr、またはHSOなどの酸によりプロトン化して、カチオン性塩を産生させてもよい。一局面では、当該化合物の、酸または塩基との反応は、水単独中で、または、不活性な水混和性有機溶媒と組み合わせた水中で、約0℃〜約100℃の温度で、例えば室温などで、行なう。当てはまる場合の特定の局面においては、用いられている塩基に対する本明細書に記載の化合物のモル比は、任意の特定の塩について望まれる比を与えるよう選択される。例えば遊離酸出発物質のアンモニウム塩を調製するには、その出発物質をおよそ1当量の薬剤的に許容できる塩基で処理して、中性塩を産生させてもよい。
【0023】
本明細書において記述するのは、生分解性の接着複合コアセルベートおよびそれらの用途である。通常、当該複合体は、所望のpHで安定した水性複合体を生じるための、バランスのとれた比率のカチオンおよびアニオンの混合物である。当該接着複合コアセルベートは、少なくとも1種類のポリアカチオン(polyacation)および少なくとも1種類のポリアニオンを含むものであり、ここでは、少なくとも1種類のポリカチオンおよび/またはポリアニオンが生分解性であり、かつ、当該ポリカチオンおよびポリアニオンが、互いに架橋可能な少なくとも1つの基を含む。当該コアセルベートの各成分およびそれを作製する方法を以下に記載する。
【0024】
当該接着複合コアセルベートは、個々のポリマー成分が相全体にわたり拡散する動的構造を有する会合性の液体である。複合コアセルベートは、レオロジー的には、粘弾性ポリマー溶液というよりもむしろ、粘性粒子分散液のように挙動する。上記で記載したように、当該接着複合コアセルベートは、水中のまたは湿った基体に適用する場合には、水において、低い界面張力を呈する。言い換えれば、当該複合コアセルベートは、玉になるというよりも、むしろ、界面全体に均等に広がる。加えて、分子間架橋の際に、当該接着複合コアセルベートは、強い、不溶性の凝集性材料を形成する。
【0025】
反対に、本明細書に記載の接着複合コアセルベートに対する前駆体となり得る高分子電解質(polyeletrolyte)複合体(polyelectrolyte complex;PEC)は、小さなコロイド状粒子である。例えば、図11Aを参照すると、pH3.1および4.2におけるPECの溶液は、約300nmの直径を有するコロイド状粒子の、乳白色の溶液として存在する。pHを7.2および8.1へと上昇させた際には、PECは凝縮し、濃縮ポリマーの液相(コアセルベート相)と希薄平衡相とになる。この局面では、PECは、本明細書に記載の接着複合コアセルベートに変わり得る。
【0026】
高分子電解質複合体と接着複合コアセルベートとの間の相挙動の違いに関する好例のモデルを、図1に提示する。低pHでは、反対に帯電した高分子電解質は静電的に会合して、当該懸濁液を安定化させる実効(net)正表面電荷を有するナノ複合体になり、PEC1を生じる。pHを上昇させるにつれて、複合体の実効電荷は、正から負へと変化するが、実効中性付近にとどまる。PECは、pHをさらに上昇させることにより複合コアセルベート2に変わり得る緩い沈殿物相を形成し得る(図1)。よって、特定の局面では、PECの、複合コアセルベートへの転換は、pHおよび/または多価カチオンの濃度を調整することにより「誘因され(triggered)」てもよい。例えば、PECは、4以下のpHにて作製してもよく、また、PECのpHは、PECを複合コアセルベートに変えるために、7.0以上、7.0〜9.0、または8.0〜9.0へと上昇させてもよい。それに続く、ポリカチオンとポリアニオンとの間の架橋(例えば、酸化および図1Cに示されているような共有結合性架橋)により、結果として、本明細書に記載の接着複合コアセルベートの形成がもたらされる。
【0027】
当該ポリカチオンおよびポリアニオンは、硬化の際にこの2つのポリマー間を架橋して新たな共有結合、および、最終的には接着剤を生じることを可能にするような基、を含有する。架橋のメカニズムは架橋基の選択に応じて様々であってもよい。一局面では、当該架橋基は、求電子体であってもよく、また、求核体であってもよい。例えば、当該ポリアニオンは、1つ以上の求電子(electrohilic)基を有していてもよく、かつ、当該ポリカチオンは、その求電子基と反応して新たな共有結合を生じさせることが可能な1つ以上の求核基を有していてもよい。求電子基の例としては、これらに限定されるものではないが、無水物基、エステル、ケトン、ラクタム(例えば、マレイミドおよびスクシンイミド)、ラクトン、エポキシド基、イソシアネート基、およびアルデヒドが挙げられる。求核基の例は以下に提示されている。あるいは、当該ポリアニオンは、1つ以上の求核基を有していてもよく、かつ、当該ポリカチオンは、その求核基と反応して新たな共有結合を生じさせることが可能な1つ以上の求電子基を有していてもよい。
【0028】
もう1つの局面では、当該ポリカチオンおよびポリアニオンは、それぞれ、化学線により架橋可能な基を有する。本明細書で用いられているように、硬化または重合に関連した「化学線により架橋可能な基(actinically crosslinkable group)」は、当該ポリカチオンとポリアニオンとの間の架橋が、化学線照射(actinic irradiation)、例えばUV照射、可視光照射、電離放射(例えばガンマ線またはX線照射)、マイクロ波照射等、によって行なわれる、ということを意味する。化学線硬化法は当業者にとって周知である。当該化学線により架橋可能な基は、例えばオレフィン基(olefinic group)などの不飽和有機基であってもよい。本明細書において有用なオレフィン基の例としては、これらに限定されるものではないが、アクリル酸基、メタクリル酸基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリル基、ビニル基、ビニルエステル基、またはスチレニル基が挙げられる。架橋を促進するための重合開始剤の使用について、以下に詳細に記載する。
【0029】
もう1つの局面では、架橋は、アジド基を通じての光活性化架橋(light activated crosslinking)を介して、当該ポリカチオンとポリアニオンとの間で起こってもよい。ここでもまた、新たな共有結合が、この種類の架橋の際に形成される。
【0030】
もう1つの局面では、当該架橋可能な基は、酸化架橋を受けることが可能な任意の基を含む。「酸化架橋(oxidative crosslinking)」という語は、基または部分の、酸化を受け、その後、引き続き、新たな共有結合を生じさせるべく別の基と反応する能力、と定義される。酸化架橋を受けることが可能な基の一例としては、酸化剤の存在下で酸化を受けることが可能なジヒドロキシル置換芳香族基が挙げられる。一局面では、当該ジヒドロキシル置換芳香族基は、ジヒドロキシフェノールまたはハロゲン化ジヒドロキシフェノール基、例えばドーパおよびカテコール(3,4ジヒドロキシフェノール)など、である。例えば、ドーパの場合、これを酸化してドーパキノンにしてもよい。ドーパキノンは、隣接するドーパ基または別の求核基のいずれかと反応することが可能な求電子基である。酸化剤、例えば酸素など、または、他の添加剤、例えばこれらに限定されるものではないがペルオキシド、過ヨウ素酸塩(例えば、NaIO)、過硫酸塩、過マンガン酸塩、二クロム酸塩、遷移金属酸化剤(例えば、Fe+3化合物、四酸化オスミウム)、もしくは酵素(例えば、カテコールオキシダーゼ)など、の存在下で、当該ジヒドロキシル置換芳香族基を酸化してもよい。
【0031】
一局面では、当該ポリアニオンおよび/またはポリカチオンは、酸化架橋を受けることが可能な少なくとも1つのジヒドロキシル芳香族基を含み、ここでは、このジヒドロキシル芳香族基は、共有結合によりこのポリアニオンまたはポリアニオンに付着している。一局面では、当該ポリカチオンもポリアニオンも、共に、酸化架橋を受けることが可能なオルト−ジヒドロキシ芳香族基を含む。もう1つの局面では、当該ポリカチオンはオルト−ジヒドロキシ芳香族基を含み、かつ、当該ポリアニオンは、酸化型のジヒドロキシル芳香族基と反応して共有結合を形成することが可能な求核基を含む。
【0032】
特定の局面では、当該酸化剤は安定化されていてもよい。例えば、酸化還元活性のない過ヨウ素酸塩と複合体を形成する化合物は、結果として、安定化された酸化剤になり得る。言い換えれば、この過ヨウ素酸塩は、非酸化型に安定化されており、この複合体である間はジヒドロキシル置換芳香族基を酸化することができない。この複合体は可逆的なものであり、また、非常に高い安定度定数を有している場合であっても、少量の、複合体を形成していない過ヨウ素酸塩が形成される。この安定的ではあるが可逆的な酸化剤により、酸化架橋の速度を制御するための酸化剤の徐放が可能となる。ジヒドロキシル置換芳香族基は、この少量の遊離過ヨウ素酸に対して当該化合物と競合する。この遊離過ヨウ素酸が酸化されるにつれて、より多くが当該複合体から放出されるが、これは、平衡状態にあるためである。一局面では、六員環上に一群となったシス,シス−1,2,3−トリオールを有する糖は、競合的過ヨウ素酸塩複合体を形成し得る。安定した過ヨウ素酸塩複合体を形成する具体的な化合物の一例は、1,2−O−イソプロピリデン−アルファ−D−グルコフラノースである。当該安定化された酸化剤は、架橋の速度を制御することができる。理論に縛られることは望まないが、当該安定化された酸化剤により酸化の速度が遅くなるため、接着剤が不可逆的に固まる前に、酸化剤を添加し基体を配置する時間がある。
【0033】
当該酸化されたクロスリンカーの安定性は様々であってもよい。例えば、酸化可能なクロスリンカーを含有する、本明細書に記載のポリアニオンを含有するホスホノは、溶液中で安定であり、また、それら自身とは架橋しない。これにより、当該ポリカチオン上に存在する求核基が、当該酸化されたクロスリンカーと反応することが可能となる。これは本発明の望ましい特徴であり、これにより、分子間結合の形成、および、最終的には、強い接着剤の形成、が可能となる。有用な求核基の例としては、これらに限定されるものではないが、ヒドロキシル、チオール、および窒素含有基、例えば置換または非置換アミノ基およびイミダゾール基など、が挙げられる。例えば、リシン、ヒスチジン、および/またはシステインの残基は、当該ポリカチオン中へと組み込まれていてもよく、また、求核基を導入していてもよい。これの一例を図8に示す。ドーパ残基1を酸化して、ドーパキノン残基2を形成することができる。ドーパキノンは、反応性中間体であり、別のポリマーまたは同一のポリマー上のドーパ残基と架橋(すなわち、反応)してジ−ドーパ基を生じ得る。あるいは、このドーパキノン残基は、Michael型付加を介して、例えばアミノ、ヒドロキシル、またはチオール基などの求核体と反応して新たな共有結合を形成し得る。図8を参照すると、リシル基、システイニル基、およびヒスチジル基は、このドーパキノン残基と反応して、新たな共有結合を生じる。ドーパは適切な架橋基であるが、例えばチロシンなどの他の基を本明細書において用いてもよい。本明細書に記載の接着複合コアセルベートの使用に関する架橋の重要性について、以下で検討する。
【0034】
他の局面では、当該ポリカチオンおよび/またはポリアニオン上に存在するクロスリンカーは、遷移金属イオンと配位複合体を形成していてもよい。例えば、遷移金属イオンを、ポリカチオンおよびポリアニオンの混合物に添加してもよく、ここでは、両ポリマーは、この遷移金属イオンに配位することが可能なクロスリンカーを含有している。配位および解離の速度は、クロスリンカー、遷移金属イオン、およびpHの選択により制御することができる。よって、上記で記載したような共有結合性架橋に加え、架橋は、静電結合、イオン結合、または他の非共有結合を通じて起こってもよい。例えば鉄、銅、バナジウム、亜鉛、およびニッケルなどの遷移金属イオンを本明細書において用いてもよい。
【0035】
当該ポリカチオンおよびポリアニオンは、通常、特定のpHにおいて複数の帯電可能な基を有するポリマー骨格で構成される。これらの基は、ポリマー骨格に対してペンダントで(pendant)あってもよく、および/または、ポリマー骨格内に組み込まれていてもよい。特定の局面では、(例えば、生物医学的用途においては)、当該ポリカチオンは、カチオン基またはpHを調整することにより容易にカチオン基へと変わり得る基を有する任意の生体適合性ポリマーである。一局面では、当該ポリカチオンはポリアミン化合物である。当該ポリアミンのアミノ基は、分岐していてもよく、または、ポリマー骨格の一部であってもよい。当該アミノ基は、選択されたpHにてカチオン性アンモニウム基を産生させるためにプロトン化されてもよい一級、二級、または三級アミノ基であってもよい。通常は、当該ポリアミンは、そのポリマーが実効中性電荷を有するpHであるその等電点(pI)に反映されるように、関係したpHでは、負電荷に比較して大過剰の正電荷を有するポリマーである。当該ポリカチオン上に存在するアミノ基の数は、最終的には、特定のpHにおけるポリカチオンの電荷を決定する。例えば、当該ポリカチオンは、10〜90モル%、10〜80モル%、10〜70モル%、10〜60モル%、10〜50モル%、10〜40モル%、10〜30モル%、または10〜20モル%のアミノ基を有していてもよい。一局面では、当該ポリアミンは、7より有意に大きいpIで、約7のpHにおいて、過剰な正の電荷を有する。以下で検討するように、pI値を上昇させるべく、さらなるアミノ基が当該ポリマー中へと組み込まれてもよい。
【0036】
一局面では、当該アミノ基は、当該ポリカチオンに付着したリシン、ヒスチジン、またはイミダゾールの残基に由来するものであってもよい。任意のアニオン性対イオンを、当該カチオン性ポリマーとの会合において用いることができる。これらの対イオンは、当該組成物の本質的な成分に物理的かつ化学的に適合性のものであるべきであり、また、そうでない場合には、生成物のパフォーマンス、安定性または美しさ(aesthetics)を過度に損なわないものである。そうした対イオンの非限定的な例としては、ハロゲン化物(例えば、塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物)、硫酸塩およびメチル硫酸塩が挙げられる。
【0037】
一局面では、当該ポリカチオンが天然に存在するものである場合には、当該ポリカチオンは、天然の生物から産生される正に帯電したタンパク質であってもよい。例えば、P.カリフォルニカ(P.californica)により産生されたタンパク質を、当該ポリカチオンとして用いてもよい。図2〜6は、P.カリフォルニカ(P.californica)により産生されるいくつかのセメントタンパク質のタンパク質配列を示している(Zhao et al.“Cement Proteins of the tube building polychaete Phragmatopoma californica”J.Biol.Chem.(2005)280:42938−42944)。図20では、各タンパク質のアミノ酸モル%が提示されている。図2〜5を参照すると、Pc1、Pc2、Pc4〜Pc18(それぞれ、配列番号1、2、5〜19)は、ポリカチオンであり、ここでは、これらポリマーは、中性pHにおいてカチオン性である。当該タンパク質中に存在するアミノ酸の種類および数は、所望の溶液の性質を達成するべく、様々であってもよい。例えば、図20を参照すると、Pc1はリシンが豊富(13.5モル%)であり、一方、Pc4およびPc5はヒスチジンが豊富(それぞれ、12.6および11.3モル%)である。
【0038】
もう1つの局面では、当該ポリカチオンは、遺伝子または修飾された遺伝子または例えば細菌、酵母、雌ウシ、ヤギ、およびタバコ等の異種宿主中のいくつかの遺伝子からの複数の部分を含有する複合遺伝子、の人工的な発現により産生される組換えタンパク質である。もう1つの局面では、当該ポリカチオンは遺伝的に修飾されたタンパク質であってもよい。
【0039】
もう1つの局面では、当該ポリカチオンは、生分解性ポリアミンであってもよい。当該生分解性ポリアミンは、合成ポリマーであってもよく、または天然に存在するポリマーであってもよい。当該ポリアミンを分解し得るメカニズムは、用いるポリアミンに応じて様々となる。天然ポリマーの場合には、それらは、そのポリマーを加水分解してポリマー鎖を切断することが可能な酵素があるために、生分解性である。例えば、プロテアーゼは、ゼラチンのような天然タンパク質を加水分解することができる。合成生分解性ポリアミンの場合には、それらは、化学的に不安定な結合も有する。例えば、β−アミノエステルは、加水分解可能なエステル基を有する。当該ポリアミンの性質に加え、例えば当該ポリアミンの分子量および当該接着剤の架橋密度などの他の考察は、生分解性の度合いを変更するべく、変えられてもよい。
【0040】
一局面では、当該生分解性ポリアミンは、多糖、タンパク質、または合成ポリアミンを含む。1つ以上のアミノ基を有する多糖を本明細書において用いてもよい。一局面では、当該多糖は、例えばキトサンなどの天然の多糖である。同様に、当該タンパク質は、合成化合物であってもよく、または天然に存在する化合物であってもよい。もう1つの局面では、当該生分解性ポリアミンは、合成ポリアミン、例えばポリ(β−アミノエステル)、ポリエステルアミン、ポリ(ジスルフィドアミン)、混合ポリ(エステルおよびアミドアミン)、ならびにペプチド架橋ポリアミンなど、である。特定の局面では、当該ポリアニオンのみならず当該ポリカチオンも、ゲル化せず、かつ、低エンドトキシンであることが望ましい。
【0041】
当該ポリカチオンが合成ポリマーである場合には、多種多様なポリマーを用いることができるが;しかしながら、例えば生物医学的用途などの特定の用途においては、当該ポリマーは、生体適合性であり、かつ、細胞および組織に対して無毒性であることが望ましい。一局面では、当該生分解性ポリアミンは、アミン修飾天然ポリマーであってもよい。「アミン修飾天然ポリマー」という語は、天然状態のポリマーを変化させるために引き続き操作または処理がなされた任意の天然ポリマー、と定義される。例えば、当該天然ポリマーは、本明細書に記載の技術を用いて、化学的に修飾されていてもよい。あるいは、当該天然ポリマーを酵素により変性させるかまたは消化してもよい。一局面では、当該アミン修飾天然ポリマーは、例えば1つ以上のアルキルアミノ基、ヘテロアリール基、または1つ以上のアミノ基で置換された1つの芳香族基、で修飾されたゼラチンまたはコラーゲンなどの、アミン修飾タンパク質であってもよい。アルキルアミノ基の例を式IV〜VIに示すが、

式中、R13〜R22は、独立して、水素、アルキル基、または窒素含有置換基であり;
s、t、u、v、w、およびxは1〜10の整数であり;かつ
Aは1〜50の整数であり、
ここで、このアルキルアミノ基は、共有結合により当該天然ポリマーに付着している。一局面では、当該天然ポリマーがカルボキシル基(例えば、酸またはエステル)を有する場合には、このカルボキシル基をポリアミン化合物と反応させて、アミド結合を生じさせてもよく、また、当該アルキルアミノ基をポリマー中に組み込んでもよい。よって、式IV〜VIを参照すると、アミノ基NR13は、共有結合により当該天然ポリマーのカルボニル基に付着している。
【0042】
式IV〜VIに示されているように、アミノ基の数は、様々であってもよい。一局面では、当該アルキルアミノ基は、−NHCHNH、−NHCHCHNH、−NHCHCHCHNH、−NHCHCHCHCHNH、−NHCHCHCHCHCHNH、−NHCHNHCHCHCHNH、−NHCHCHNHCHCHCHNH、−NHCHCHCHNHCHCHCHCHNHCHCHCHNH、−NHCHCHNHCHCHCHCHNH、−NHCHCHNHCHCHCHNHCHCHCHNH、または−NHCHCHNH(CHCHNH)CHCHNH、であり、ここで、dは0〜50である。
【0043】
一局面では、当該アミン修飾天然ポリマーは、芳香族基に直接的または間接的に付着した1つ以上のアミノ基を有するアリール基を含んでいてもよい。あるいは、当該アミノ基は、芳香環中に組み込まれていてもよい。例えば、当該芳香族アミノ基は、ピロール、イソピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、またはインドールである。もう1つの局面では、当該芳香族アミノ基としては、ヒスチジン中に存在するイソイミダゾール基が挙げられる。もう1つの局面では、当該生分解性ポリアミンは、エチレンジアミンで修飾されたゼラチンであってもよい。
【0044】
一局面では、当該ポリカチオンは、1つ以上のペンダントアミノ基を有するポリアクリル酸塩を含む。例えば、その骨格は、例えばこれらに限定されるものではないがアクリル酸塩、メタクリル酸塩、アクリルアミド等のアクリル酸モノマーの重合に由来するホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。一局面では、当該ポリカチオンの骨格はポリアクリルアミドである。他の局面では、当該ポリカチオンはブロックコポリマーであり、ここでは、そのコポリマーのセグメントまたは一部は、そのコポリマーを生じさせるために用いられるモノマーの選択に応じたカチオン基を有する。
【0045】
一局面では、当該ポリカチオンはポリアミノ化合物である。もう1つの局面では、当該ポリアミノ化合物は、10〜90モル%の三級アミノ基を有する。さらなる一局面では、当該ポリカチオンポリマーは、R、R、およびRが、独立して、水素もしくはアルキル基であり、Xが酸素もしくはNRであり、ここで、Rは水素もしくはアルキル基であり、かつ、mが1〜10である、式I

の少なくとも1つの断片またはその薬剤的に許容できる塩を有する。もう1つの局面では、R、R、およびRはメチルであり、かつ、mは2である。式Iを参照すると、ポリマー骨格は、ペンダント−C(O)X(CHNR単位を有するCH−CR単位で構成されている。この局面では、式Iを有する断片は、アクリル酸塩、メタクリル酸塩、アクリルアミド、またはメタクリルアミドの残基である。図3(構造CおよびD)および図6(4および7)は、式Iの断片を有するポリカチオンの例を示しており、ここでは、ポリマー骨格は、上記で検討したようなアクリルアミドおよびメタクリル酸塩の残基に由来するものである。一局面では、当該ポリカチオンは、分子量が10〜20kdである、カチオン性の三級アミンモノマー(2−ジメチルアミノ−エチルメタクリレート)とアクリルアミドとのフリーラジカル重合生成物であり、15〜30モル%の三級モノマー濃度を有する。図4(構造EおよびF)および図6(5)では、本明細書において有用なポリカチオンの例が提示されており、ここでは、イミダゾール基は、ポリマー骨格に直接的に付着している(構造F)か、または、リンカーを介して、ポリマー骨格に間接的に付着している(メチレンリンカーを介した構造E)。
【0046】
ポリカチオンと同様に、当該ポリアニオンは、合成ポリマーであってもよく、または天然に存在するものあってもよい。一局面では、当該ポリアニオンが天然に存在するものである場合には、当該ポリアニオンは、P.カリフォルニカ(P.californica)から産生される負に帯電したタンパク質である。図2および7は、P.カリフォルニカ(P.californica)により産生される2種類のタンパク質(Pc3aおよびPc3b)の配列を示している(Zhao et al.“Cement Proteins of the tube building polychaete Phragmatopoma californica”J.Biol.Chem.(2005)280:42938−42944)。図20を参照すると、Pc3aおよびPc3bは、ポリホスホセリンで本質的に構成されており、これは、中性pHにおいてアニオン性である。他の天然に存在するポリアニオンの例としては、グリコサミノグリカン、例えばコンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、デルマタン硫酸、およびヒアルロン酸など、が挙げられる。
【0047】
当該ポリアニオンが合成ポリマーである場合には、それは、通常、アニオン基またはpHを調整することにより容易にアニオン基へと変わり得る基を有する任意のポリマーである。アニオン基へと変わり得る基の例としては、これらに限定されるものではないが、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ボロン酸基、硫酸基、ホウ酸基、またはリン酸基が挙げられる。上記で検討した考察が満たされる場合には、任意のカチオン性対イオンを、当該アニオン性ポリマーとの会合において用いることができる。アニオン性基の選択に応じて、この基は、ポリマー骨格に対してペンダントであってもよく、および/または、ポリマー骨格中に組み込まれていてもよい。
【0048】
一局面では、当該ポリアニオンはポリリン酸塩である。もう1つの局面では、当該ポリアニオンは、10〜90モル%のリン酸基を有するポリリン酸化合物である。例えば、当該ポリリン酸塩は、天然に存在する化合物、例えばホスビチン(卵タンパク質)のような高度にリン酸化されたタンパク質、象牙質(天然の歯のリンタンパク質)、カゼイン(リン酸化された乳タンパク質)、骨タンパク質(例えばオステオポンチン)、またはDNAなど、であってもよい。もう1つの局面では、当該ポリリン酸塩は、無機ポリホスホン酸塩、例えばポリメタリン酸ナトリウム(グラハムの塩(Graham’s salt))など、である。
【0049】
他の局面では、リン含有(phosphorous containing)ポリマーをポリアニオンに変えてもよい。例えば、リン脂質またはリン糖酸(phosphosugar)はポリアニオンではないが、それらは、それらを用いてリポソームまたはミセルを作製することにより、ポリアニオンへと変えることができる。よって、この局面では、当該複合コアセルベートは帯電したコロイドである。あるいは、当該コロイドは、本明細書に記載のいずれかのポリアニオンまたはポリカチオンにより作製してもよい。
【0050】
もう1つの局面では、当該ポリリン酸塩は合成化合物であってもよい。例えば、当該ポリリン酸塩は、ポリマー骨格に付着したペンダントリン酸基を有するポリマーであってもよく、および/または、ポリマー骨格中に存在していてもよい(例えば、ホスホジエステル骨格)。一局面では、当該ポリリン酸塩は、天然化合物を化学的または酵素学的にリン酸化することにより生じさせてもよい。一局面では、天然のセリンリッチタンパク質をリン酸化して、ホスホン酸基を当該タンパク質中へと組み込んでもよい。もう1つの局面では、多糖上に存在するヒドロキシル基をリン酸化して、本明細書において有用なポリアニオンを生じさせてもよい。
【0051】
一局面では、当該ポリアニオンは、1つ以上のペンダントリン酸基を有するポリアクリル酸塩を含む。例えば、その骨格は、例えばこれらに限定されるものではないがアクリル酸塩、メタクリル酸塩、アクリルアミド等のアクリル酸モノマーの重合に由来するホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。一局面では、当該ポリアニオンの骨格は、ポリアクリルアミドの重合に由来するものである。他の局面では、当該ポリアニオンはブロックコポリマーであり、ここでは、そのコポリマーのセグメントまたは一部は、そのコポリマーを生じさせるために用いられるモノマーの選択に応じたアニオン基を有する。さらなる一局面では、当該ポリアニオンは、ヘパリン硫酸、ヒアルロン酸、キトサン、および当該分野において典型的に用いられる、他の生体適合性かつ生分解性のポリマーであってもよい。
【0052】
一局面では、当該ポリアニオンはポリリン酸塩である。もう1つの局面では、当該ポリアニオンは、Rが水素もしくはアルキル基であり、かつ、nが1〜10である、式II

を有する少なくとも1つの断片またはその薬剤的に許容できる塩を有するポリマーである。もう1つの局面では、Rはメチルであり、かつ、nは2である。式Iと同様に、式IIのポリマー骨格は、アクリル酸塩またはメタクリル酸塩の残基で構成されている。式IIの残りの部分はペンダントリン酸基である。図7(構造B)は、式IIの断片を有する、本明細書において有用なポリアニオンの一例を示しており、ここでは、ポリマー骨格は、アクリルアミドおよびメタクリル酸塩の残基に由来するものである。一局面では、当該ポリアニオンは、分子量が10,000〜50,000、好ましくは30,000である、エチレングリコールメタクリレートホスフェートとアクリルアミドとの共重合生成物であり、45〜90モル%の量のリン酸基を有する。
【0053】
上記で記載したように、当該ポリカチオンおよびポリアニオンは、架橋可能な基を含有する。一局面では、当該ポリカチオンおよびポリアニオンには、本明細書において定義されている、化学線により架橋可能な基が含まれる。当該ポリカチオンおよびポリアニオンとして用いることができる、上記で記載した(合成のまたは天然に存在する)いずれのポリマーも、修飾されて、当該化学線により架橋可能な基を含んでいてもよい。例えば、当該ポリカチオンは、1つ以上のペンダントアミノ基(例えば、イミダゾール基)を有するポリアクリル酸塩であってもよい。ポリアニオンの場合には、一局面では、ポリリン酸塩は、修飾されて、当該化学線により架橋可能な基(単数または複数)を含んでいてもよい。例えば、ここでは、当該ポリカチオンおよびポリアニオンは、R、R、およびRが、独立して、水素もしくはアルキル基であり、Xが酸素もしくはNRであり、ここで、Rは水素もしくはアルキル基であり、かつ、mが1〜10である式VII

を有する少なくとも1つの断片またはその薬剤的に許容できる塩を含むが、ここで、RまたはRの少なくとも1つは化学線により架橋可能な基である。一局面では、式VIIを参照すると、Rはメチルであり、Rは水素であり、Rはアクリル酸基またはメタクリル酸基であり、XはNHであり、かつmは2である。
【0054】
一局面では、当該ポリアニオンは、前に記載したような酸化架橋を受けることができる1つ以上の基を含んでいてもよく、かつ、当該ポリカチオンは、酸化されたクロスリンカーと反応して新たな共有結合を生じさせることができる1つ以上(on or more)の求核体を含有する。一局面では、当該ポリアニオンは、酸化を受けることが可能な少なくとも1つのジヒドロキシル芳香族基を含み、ここでは、このジヒドロキシル芳香族基は、共有結合によりこのポリアニオンに付着している。ジヒドロキシル芳香族基の例としては、ドーパ残基またはカテコール残基が挙げられる。上記で記載したいずれのポリアニオンも、修飾されて、1つ以上のジヒドロキシル芳香族残基を含んでいてもよい。一局面では、当該ポリアニオンは、2つ以上のモノマー間の重合生成物であり、ここでは、それらモノマーのうちの1つは、共有結合によりそのモノマーに付着しているジヒドロキシル芳香族基を有する。例えば、このモノマーは、このモノマーに付着しているジヒドロキシル芳香族基とのフリーラジカル重合を受けることが可能な不飽和基を有していてもよい。例えば、当該ポリアニオンは、(1)ホスフェートアクリレートおよび/またはホスフェートメタクリレートと(2)第二アクリル酸塩および/または第二メタクリル酸塩との間の重合生成物であって、その第二アクリル酸塩または第二メタクリル酸塩に共有結合したジヒドロキシル芳香族基を有する重合生成物であってもよい。もう1つの局面では、当該ポリアニオンは、リン酸モノアクリロキシエチルとドーパミンメタクリルアミドとの間の重合生成物である。図6中のポリマー3および7は、それぞれ、ポリアニオンおよびポリカチオン中へと組み込まれたドーパ残基の例を提示したものである。これらポリマーのそれぞれでは、ペンダントドーパ残基を有するポリアニオン3およびポリカチオン7を生じさせるべく、ペンダントドーパ残基を含有するアクリル酸塩が、適切なモノマーと重合されている。
【0055】
理論に縛られることは望まないが、ジヒドロキシル芳香族基(単数または複数)を有するポリアニオンは、それらが、それ自身と溶液中でゆっくりと反応するという点で、安定である。よって、当該ポリアニオンは、まず、ポリカチオンと、分子間架橋経由で反応して(例えば、ポリカチオンは求核基またはジヒドロキシル芳香族基を有する)、複合コアセルベートを生じる。これにより、当該複合コアセルベートの使用および投与に関する数多くの利点がもたらされる。例えば、当該ポリカチオンおよびポリアニオンは、予め混合し、これらポリマーの連続投与の代わりに、対象に対して投与してもよい。これにより、現在利用可能な生体接着剤では選択肢ではない複合コアセルベートの投与が大いに単純化される。
【0056】
当該ポリカチオンは天然に存在する化合物(例えば、P.カリフォルニカ(P.californica)からのタンパク質)であってもよく、かつ、当該ポリアニオンは合成化合物である、とのことが想定される。もう1つの局面では、当該ポリカチオンは、合成化合物であってもよく、かつ、当該ポリアニオンは天然に存在する化合物(例えば、P.カリフォルニカ(P.californica)からのタンパク質)である。さらなる一局面では、当該ポリアニオンもポリカチオンも共に合成化合物である。
【0057】
当該接着複合コアセルベートは、所望により、1種類以上の多価カチオン(すなわち+2以上の電荷を有するカチオン)を含有していてもよい。一局面では、当該多価カチオンは、1種類以上のアルカリ土類金属で構成される二価カチオンであってもよい。例えば、当該二価カチオンは、Ca+2および/またはMg+2であってもよい。他の局面では、+2以上の電荷を有する遷移金属イオンを、当該多価カチオンとして用いてもよい。pHに加え、当該多価カチオンの濃度により、コアセルベート形成の速度および程度が決まり得る。理論に縛られることは望まないが、流体における粒子間の弱い凝集力は、過剰な負の表面電荷を架橋する多価カチオンにより媒介され得る。本明細書において用いられる多価カチオンの量は様々であってもよい。一局面では、この量は、当該ポリアニオンおよびポリカチオン中に存在するアニオン基およびカチオン基の数に基づく。例えば、当該多価カチオンがカルシウムおよびマグネシウムの混合物である場合には、当該ポリカチオンはポリアミンであり、当該ポリアニオンはポリリン酸塩であり、ならびに、カルシウムのアミン/リン酸基に対する比は0.1〜0.3であってもよく、また、マグネシウムのアミン/リン酸基に対する比は0.8〜1.0であってもよい。実施例では、接着複合コアセルベートの作製に関する多価カチオンの量および他の物理的状態の選択について取り組む。
【0058】
特定の局面では、当該コアセルベートは、1種類以上の開始剤も含む。例えば、光開始剤(photoinitiator)が当該コアセルベート中に捕捉されていてもよい。よって、架橋可能な基が、化学線により架橋可能な基である場合には、当該光開始剤が活性化される(例えば光に曝される)際に、架橋が当該ポリカチオンとポリアニオンとの間で起こり得る。光開始剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ホスフィンオキシド、ペルオキシド基、アジド基、α−ヒドロキシケトン、またはα−アミノケトンが挙げられる。一局面では、当該光開始剤としては、これらに限定されるものではないが、カンファーキノン、ベンゾインメチルエーテル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、またはDarocure(登録商標)型もしくはIrgacure(登録商標)型、例えばDarocure(登録商標)1173もしくはIrgacure(登録商標)2959、が挙げられる。参照により組み入れられる欧州特許第0632329号において開示されている光開始剤を、本明細書において用いてもよい。他の局面では、当該光開始剤は、例えばこれらに限定されるものではないがリボフラビン、エオシン、エオシンy、およびローズベンガルなどの、水溶性光開始剤である。
【0059】
特定の局面では、開始速度を上昇させるべく、開始剤系の吸収プロファイルを広幅化するために、複数の開始剤を用いてもよい。例えば、異なる波長の光により活性化される2種類の異なる光開始剤を用いてもよい。もう1つの局面では、化学的な開始剤を光開始剤と組み合わせて用いてもよい。もう1つの局面では、共開始剤(co−initiator)を、本明細書に記載の重合開始剤のいずれかと組み合わせて用いてもよい。一局面では、当該共開始剤は、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルベンゾエート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2−エチルヘキシル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、3−(ジメチルアミノ)プロピルアクリレート、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、または4−(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンである。
【0060】
特定の局面では、当該光開始剤および/または共開始剤は、共有結合により当該ポリカチオンおよび/またはポリアニオンに付着している。もう1つの局面では、当該開始剤は、当該ポリカチオンおよびポリアニオンの骨格上に化学的にグラフトしてもよい。よって、これらの局面では、当該光開始剤および/または共開始剤は、共有結合によりポリマーに付着しており、ポリマー骨格に対してペンダントである。このアプローチは、製剤を単純化(simply)し、かつ、おそらく、保存および安定性を高めるものとなる。
【0061】
当該接着複合コアセルベートは、多数の種々の方法で合成してもよい。一局面では、当該接着複合コアセルベートは、少なくとも1種類のポリアカチオン(polyacation)と少なくとも1種類のポリアニオンとを混和することを含むプロセスにより作製してもよく、ここでは、少なくとも1種類のポリカチオンおよび/またはポリアニオンは生分解性であり、かつ、当該ポリカチオンおよびポリアニオンは、互いに架橋可能な少なくとも1つの基を含む。
【0062】
特定の局面では、混和物のpHおよび/または少なくとも1種類の多価カチオンの濃度を調整して、当該接着複合コアセルベートを作製してもよい。重合可能なモノマーを用いて当該コアセルベートを作製するための好例の技術は、実施例において提示されている。
【0063】
本明細書において作製される接着複合コアセルベートは、その後の相変化を受けることが可能であり、これにより、水に不溶性の接着剤の形成が最終的にもたらされる。一局面では、接着剤は、当該接着複合コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋することにより製造される。本明細書において前に記載の技術およびアプローチのいずれを用いて当該ポリカチオンとポリアニオンとを架橋してもよい。もう1つの局面では、当該接着剤は、:
(a)本明細書に記載の接着複合コアセルベートを加熱すること;および
(b)そのコアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、
を含むプロセスにより製造してもよく、ここでは、工程(a)が工程(b)の前、工程(b)の後、または工程(b)と同時に行なわれて接着剤が製造されてもよい。
【0064】
この局面では、当該接着複合コアセルベートを加熱および架橋することにより、このコアセルベートは不溶性の固体(すなわち接着剤)に変わる。温度は、コアセルベートの性質(すなわち、ポリカチオン、ポリアニオン、多価カチオン等の選択)に応じて様々であってもよい。例えば、室温で、複合コアセルベートが存在していてもよい。しかしながら、温度が37℃である対象中へと当該コアセルベートを注入することにより、当該コアセルベートは、体温にて固化する。以下で検討するように、これには、薬物の送達についてのみならず、組織/骨修復においても、数多くの用途がある。
【0065】
他の局面では、当該接着剤は、
(a)本明細書に記載の接着複合コアセルベートを調製すること;
(b)その接着複合コアセルベートのpHを調整すること;および
(c)そのコアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、
を含むプロセスにより製造されるが、ここでは、工程(b)が工程(c)の前、工程(c)の後、または工程(c)と同時に行なわれて接着剤が製造されてもよい。
【0066】
この局面では、pHを調整することにより複合コアセルベートを接着剤に変える。pHの調整は多数の技術により達成され得る。例えば、複合コアセルベートと組み合わせての第二成分(例えば、酸または塩基)の送達によりpHを能動的に変化させて、この複合コアセルベートを不溶性の固体に変えてもよい。あるいは、複合コアセルベートを、pHの変化により複合コアセルベートが不溶性の固体に変わり得る、複合コアセルベートのpHとは異なるpHを有する環境の中へと導入してもよい。一局面では、pHを、7.0以上のpHへ、または最大8.0のpHまで、上昇させる。
【0067】
本明細書に記載の接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤には、生物学的な糊(biological glue)および送達デバイスとしての数多くの用途がある。例えば、当該コアセルベートは、低初期粘度、重量ではほとんどが水である、1より大きい比重、水性環境における低い界面張力を有しているが、これらはすべて、それらの、湿った表面に対して接着する能力に寄与するものである。当該接着複合コアセルベートの結合メカニズム(すなわち架橋)に関するさらなる利点としては、凝結の際の熱発生が低いことが挙げられるが、これにより、生きている組織に対するダメージが防がれる。in situ発熱重合による熱の発生を避けるべく、成分を予備重合してもよい。これは、大部分は、上記で記載したような非常に穏やかな条件下における、分子間で架橋する当該接着複合コアセルベートの能力により、当然のことである。
【0068】
本明細書に記載の接着複合コアセルベートは、多数の種々の生物学的基体に適用することができる。当該基体は、in vitroまたはin vivoで接触させてもよい。当該コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋する際に、水に不溶性の固体が生じ、これが、強い接着剤をもたらす。接着複合コアセルベート内の架橋の速度は、例えばpHおよび酸化剤または架橋を促進するような他の薬剤の存在により制御してもよい。接着複合コアセルベートを基体に適用するための1つのアプローチは、図9中に見い出すことができる。図9に示されている技術は、本明細書では、「スポット溶接(spot welding)」と称するが、そこでは、接着複合コアセルベートは、基体の明確な特定の領域において適用される。一局面では、当該接着複合コアセルベートは、in situで作製してもよい。図9Aを参照すると、低pH(例えば5)のポリカチオンおよびポリアニオンで構成される予め形成された安定したPEC溶液1が、シリンジの使用により、より高いpH(例えば、10)の酸化剤で構成される硬化溶液2と同時に基体に適用されている。混合の際、この硬化溶液は、基体の表面上でそれらポリマーを架橋することにより、接着複合コアセルベートを同時に生じる。
【0069】
もう1つの局面では、図9Bを参照すると、ポリアニオン3およびポリカチオン4の溶液が、同時に基体に適用されている。この溶液の一方は、接着複合コアセルベートを産生させるべく、もう一方よりも高いpHを有している。図9Bを参照すると、ポリアニオン3は、ポリカチオン溶液4よりもpHが低いが;しかしながら、当該ポリアニオンは当該ポリカチオンよりも高いpHを有する溶液中にあってもよい、とのことも想定される。より高いpHを有する溶液は、架橋を促進するべく、酸化剤を含んでいてもよい。
【0070】
図9Cは、スポット溶接のもう1つの局面を示している。この局面では、基体は、ある特定のpHのポリカチオンでプライミングされる。次に、当該接着複合コアセルベートをin situで作製するべく、より高いpHの当該ポリアニオンの溶液が、当該ポリカチオンに適用される。基体はまずポリアニオンでプライミングされ、その後にポリカチオンが続いてもよい、とのことも想定される。次いで、架橋を促進するために酸化剤を当該複合コアセルベート上に別々に適用して、接着複合コアセルベートを産生させてもよい。あるいは、基体がプライミングされた後に適用される溶液は、当該接着複合コアセルベートが形成され、その後in situで架橋されるよう、酸化剤を含有していてもよい。
【0071】
本明細書に記載の接着複合コアセルベートの性質により、それらは、水中用途、例えば対象に対する投与など、に理想的なものとなっている。例えば、当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤を用いて、数多くの種々の骨折および骨破壊(break)を修復してもよい。当該コアセルベートは、いくつかのメカニズムを通じて、骨(および他のミネラル)に接着する(図1C参照)。骨のヒドロキシアパタイトミネラル相(Ca(PO(OH))の表面は、正および負の両電荷の配列である。当該ポリアニオン上に存在する陰性基(例えばリン酸基)は、正の表面電荷と直接的に相互作用し得るか、または、それは、当該ポリカチオンおよび/または多価カチオン上のカチオン基を通じて負の表面電荷へ架橋され得る。同様に、当該ポリカチオンの、これらの負の表面電荷との直接相互作用は接着に寄与するであろう。また、当該ポリカチオンおよび/またはポリアニオンがカテコール部分を含有する場合には、それらは、当該コアセルベートの、湿りやすいヒドロキシアパタイトへの接着を促進し得る。他の接着メカニズムとしては、酸化されていないクロスリンカー(例えば、ドーパまたは他のカテコール)の、ヒドロキシアパタイトへの直接結合が挙げられる。あるいは、酸化されたクロスリンカーは、骨基質タンパク質(bone matrix protein)の求核性側鎖にカップリングしていてもよい。
【0072】
このような破壊(break)の例としては、完全骨折、不完全骨折、線状骨折、横骨折、斜骨折、圧迫骨折、らせん骨折、粉砕骨折、圧縮骨折(compacted fracture)、または開放骨折が挙げられる。一局面では、当該骨折は、関節内骨折または頭蓋顔面骨骨折である。例えば関節内骨折などの骨折は、軟骨表面に広がり軟骨表面を断片化する骨損傷である。当該接着複合コアセルベートは、そうした骨折の整復の維持に役立ち、より低侵襲性の手術を可能にし、手術室時間を低減させ、コストを削減し、かつ、外傷後関節炎のリスクを低減させることによってより良好な転帰をもたらす可能性がある。
【0073】
他の局面では、当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤を用いて高度粉砕骨折の小断片をつないでもよい。この局面では、骨折した骨の小さな小片を既存の骨に接着させてもよい。例えば、当該コアセルベートを、骨折した骨および/または既存の骨に適用してもよい。機械的固定器を用いて小断片に穴をあけることにより小断片の整復を維持することは特に困難なことである。断片の数が少なくなるほど、および、多くなるほど、問題はより大きくなる。一局面では、裂け目全体を充填するというよりも、むしろ、骨折を固定するために、当該接着複合コアセルベートまたはその前駆体を、少量注入して、上記で記載したようなスポット溶接による接合部を作製してもよい。この小さな生体適合性のスポット溶接による接合部は、周辺組織の治癒の妨害を最小限に抑えるであろうし、また、必ずしも生分解性である必要がなくなるであろう。この点では、これは、永久的にインプラントされる金物(hardware)と同様のものとなるであろう。
【0074】
他の局面では、当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤を用いて、足場を、骨および他の組織、例えば軟骨、靱帯、腱、軟部組織、器官、膜様組織(例えば膣膜、鼻粘膜、羊膜)およびこれら物質の合成誘導体など、に固着させてもよい。本明細書に記載の複合体およびスポット溶接技術を用いて、当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤を、生物学的な足場を対象中に配置するために使用することができる。当該コアセルベートは、生物学的な足場に適用してもよく、および/または、足場を固着させる前に骨または組織に適用してもよい。本明細書に記載の接着複合コアセルベートで構成される小さい接着性タック(tack)は、足場の中または外への細胞の遊走または小分子の輸送を妨げないであろう。特定の局面では、当該足場は、骨および組織の成長または修復を促進する1種類以上の薬物を含有していてもよい。他の局面では、当該足場は、感染を防ぐ薬物、例えば抗生物質など、を含んでいてもよい。例えば、当該足場は、当該薬物でコーティングされていてもよく、または、その代替として、当該薬物は、その薬物が足場から経時的に溶出するよう足場内に組み込まれていてもよい。
【0075】
当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤には、数多くの歯科用途がある。本明細書に記載のスポット溶接技術を用いて、当該接着複合コアセルベートを、口腔中の特定の点(例えば、顎、歯の部分)に適用してもよい。例えば、当該コアセルベートは、退縮欠陥の治療に用いて歯肉組織の高さおよび幅を増加させることができ、また、歯肉縁における付着した歯肉組織の量を増加させることができ、また、付着した歯肉組織の区域を増加させることができる。口腔外科においては、それらを用いて、軟部組織の転帰を改善すること、および、新しい骨を骨再生誘導法(guided bone regeneration)の処置において成長させること、ができるであろう。さらに、当該コアセルベートは、歯周処置の後に歯茎の創傷治癒を促進すること、および、出血を防ぐかまたは減少させるのを助けること、ができる。以下で検討するように、当該コアセルベートを用いて、生物活性剤(bioactive agent)を送達してもよい。よって、当該コアセルベートを用いて、生物活性剤を歯茎および歯根に送達してもよい。他の局面では、当該コアセルベートを用いて、歯科インプラントを歯に固着させてもよい(例えば、歯冠、義歯)。あるいは、当該コアセルベートを、歯の象牙質またはエナメル質表面の準備をするためのプライマーとして用いて、歯科用セメントを結合させてもよい。
【0076】
他の局面では、当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤は、基体を骨に接着させることができる。基体の例としては、金属基体(例えば、プレート、医療用インプラント等)、繊維、ホイル、布切れ、または対象内にインプラントすることができる他のあらゆる材料、が挙げられる。当該コアセルベートは、使用前に、基体および/または骨に適用してもよい。例えば、骨折した骨を修復するのに、酸化チタン、ステンレス鋼、または他の金属から作られたインプラントが一般に用いられている。当該接着複合コアセルベートまたはその前駆体は、基体を骨に接着させる前に、金属基体、骨、または、その両方に対して適用してもよい。特定の局面では、当該ポリカチオンまたはポリアニオン上に存在する架橋基は、酸化チタンと強い結合を形成することができる。例えば、ドーパは湿った酸化チタン表面に強く結合することができる、とのことが示されてきた(Lee et al.,PNAS 103:12999(2006))。よって、骨の断片を結合させることに加え、本明細書に記載の接着複合コアセルベートは、金属基体の骨への結合を促進することができ、これにより、骨の修復および回復が促進され得る。
【0077】
当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤は、1種類以上の生物活性剤を含んでいてもよい、とのことも想定される。当該生物活性剤は、当該複合体を骨に適用する場合に骨の成長および修復を促進することとなる任意の薬物であってもよい。放出の速度は、当該複合体を調製するのに用いる材料の選択、ならびに、その薬剤が塩である場合には当該生物活性剤の電荷、により制御してもよい。特定の局面では、温度および/またはpHの変化により接着複合コアセルベートを不溶性の固体に変える場合には、当該複合コアセルベートを対象に投与し、in situで不溶性の固体を生じさせてもよい。よって、この局面では、この不溶性の固体は、限局性制御薬物放出デポ剤(localized controlled drug release depot)として働き得る。生物活性剤を送達するのみならず、組織と骨とを同時に固定もすることで、より多くの患者に快適さをもたらし、骨の治癒を加速させ、および/または感染を防ぐことができる可能性がある。
【0078】
当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤を、他の種々の外科的処置において用いてもよい。例えば、接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤を用いて、外傷により、または、外科的処置自体により引き起こされる裂傷を修復してもよい。一局面では、当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤を用いて、対象において角膜または結膜の裂傷を修復してもよい。他の局面では、当該接着複合コアセルベートおよびそれらから製造される接着剤を用いて、対象の血管において血流を阻害してもよい。通常は、当該接着複合コアセルベートを当該血管中へと注入し、その後に、当該コアセルベートを不溶性の固体に変え、かつ、その血管を部分的または完全にブロックするべく、架橋(例えば、複合コアセルベートの加熱または本明細書に記載の他の架橋技術)が続く。この方法には、止血、または腫瘍もしくは動脈瘤への血流を阻害するための人工的な塞栓症の作製など、数多くの用途がある。
【実施例】
【0079】
以下の実施例は、本明細書において記載および請求されている化合物、組成物、および方法をどのように作製および評価するのかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されたものであり、また、純粋に例示的なものであるよう意図されたものであり、かつ、本発明者らが彼らの発明であると考えるものについての範囲を限定するよう意図されたものではない。数字(例えば、量、温度等)に関する精度を確保するべく努力がなされてきたが、いくらかの誤差および偏差は考慮されるべきである。特に断りがない限り、部は重量部であり、温度は℃で表されているかまたは周囲温度であり、また、圧力は大気圧であるかまたはその付近である。反応条件、例えば成分の濃度、所望される溶媒、溶媒の混合物、温度、圧力、ならびに、記載のプロセスから得られる生成物の純度および収率を最適化するために用いることができる他の反応の範囲および条件など、についての数多くの変形および組み合わせが存在する。こうしたプロセス条件を最適化するために必要となるのは、合理的かつルーチン的な実験法のみである。
【0080】
I.接着複合コアセルベートの合成および特徴決定
模倣コポリマーの合成および特徴決定
Pc3類似体
ドーパ類似モノマー(ドーパミンメタクリルアミド、DMA)を、公開されている手順のわずかな改変により調製した。(Lee BP,Huang K,Nunalee FN,Shull KR,Messersmith PB.Synthesis of 3,4−dihydroxyphenylalanine(DOPA)containing monomers and their co−polymerization with PEG−diacrylate to form hydrogels.J Biomater Sci Polym Ed 2004;15(4):449−464)。簡単に言うと、ホウ酸塩−ドーパミン複合体を、pH>9にて、塩化メタクリロイルと反応させた。酸性化によりホウ酸塩−カテコール結合を壊した後に、生成物を、酢酸エチルで洗浄し、ヘキサンから再結晶し、H NMR(400MHz、DMSO−TMS)により検証した:d8.8−8.58(2H、(OH)−Ar−)、7.92(1H、−C(=O)−NH−)、6.64−6.57(2H、CHH(OH)−)、6.42(1H、CH(OH)−)、5.61(1H、−C(=O)−C(−CH)=CHH)、5.30(1H、−C(=O)−C(−CH)=CHH)、3.21(2H、C(OH)−CH−CH(NH)−C(=O)−)、2.55(2H、C(OH)−CH−CH(NH)−C(=O)−)、1.84(3H、−C(=O)−C(−CH)=CH)。
【0081】
重合の前に、リン酸モノアクリロキシエチル(monoacryloxyethyl phosphate;MAEP、ポリサイエンス社)をMeOH中に希釈し、ヘキサンで抽出して、ジエンを除去した。コポリマー1は、90モル%のMAEP、8モル%のDMA、2モル%のアクリルアミド(Aam、ポリサイエンス社)、および0.1モル%のFITC−メタクリルアミドを、MeOH中で、5重量%の最終モノマー濃度にて混合することにより調製した。フリーラジカル重合は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)で開始され、60℃で、24時間、密封アンプル中で進行した。同様の手順を用いて、図2〜7に示されているポリマー3〜7を作製した。コポリマー1(図10)は、セファデックスLH−20カラム(シグマアルドリッチ社)上、MeOH中でのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により回収し、回転蒸発により濃縮し、DI水に溶解させ、凍結乾燥させた。
【0082】
1のMWおよび多分散指数(polydispersity index;PDI)は、小角光散乱検出器(Brookhaven BI−MWA)および屈折率モニター(Brookhaven BI−DNDC)に接続されたPLgelカラム(ポリマーラボ社)上、DMF中でのSECにより決定した。カラムはポリスチレン標準により較正した。1のMWは245kdaであり、1.9のPDIであった。ドーパミン側鎖濃度および反応性はUV/VIS分光法により検証した(e280=2600M−1cm−1)。リン酸側鎖濃度は、自動滴定装置(Brinkmann Titrando 808)を用いて、0.005MのNaOHでの滴定により決定した。1のUV/visスペクトルは、カテコール型のドーパミンに特徴的な280nmにおける単一の吸収ピークを含有していた(図10B)。pH5.0での、1:1のモル比のNaIOの、1への添加により、このドーパカテコールは、予想通り、395nm付近に吸収ピークを有するドーパキノンへと酸化された。このドーパキノンピークは、pH<5では、数時間の間、安定であった。
【0083】
Pc1類似体
Pc1のリシン側鎖は、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA、ポリサイエンス社)により模倣した。コポリマー2(図10)は、10モル%のAPMAおよび90モル%のAamをDI水に溶解させ、Nで脱気し、2モル%の過硫酸アンモニウム(ポリサイエンス社)で重合を開始させることにより合成した。重合は、50℃で、24時間、密封アンプル中で進行した。ポリマーは、3日間の水に対する透析により回収し、次いで、凍結乾燥させた。一級アミン側鎖モル%は、H NMR(400MHz、DMSO−TMS)により、d13.45(3H、−CH3)とd51.04(1H、RC(=O)CHR2)との比から決定した。2のMWおよびPDIは、Superose6カラム(ファルマシア社)上、PBS(20mM PO、300mM NaCl、pH7.2)中でのSECにより決定した。カラムはポリ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート標準により較正した。2のMWは165kdであり、PDIは2.4であった。
【0084】
コアセルベートの形成および特徴決定
2の5重量%水溶液を、1の5重量%水溶液に、撹拌しながら、標的とするアミン/リン酸塩比に達するまで滴加した。総コポリマー濃度は50mg/mlであった。30分間混合した後に、pHを、NaOH(6M)で調整した。高分子電解質複合体(PEC)形成の助けとなるpH(<4)の組成物を、DI HO中で、1mg/mlへと希釈し、PECのゼータ電位とサイズ分布とを、ゼータサイザー3000HS(マルバーン・インスツルメンツ社)上で測定した。より高いpHにて、コアセルベートした(coacervated)組成物を、2500rpmで、マイクロフュージ(microfuge)(エッペンドルフ)中で、25℃で2分間遠心し、コアセルベート相を収集した。両相の体積を測定した。このコアセルベート相を、凍結乾燥させ、秤量して、それらの質量と濃度とを決定した。
【0085】
3〜10のpH範囲にわたる、リン酸塩のアミン側鎖に対するモル比1:1にて混合した、1および2(合わせた濃度が50mg/ml)の相挙動を、図11Aに示す。総イオン化可能側鎖濃度に正規化した、算出した実効コポリマー電荷を、図11Bに示す。還元剤であるアスコルビン酸塩を、ドーパに対して1:5のモル比で添加し、Oによるドーパの酸化およびそれに続く上昇したpHでの架橋の速度を減じた。低pHでは、当該高分子電解質は、コロイド状の高分子電解質複合体(PEC)の、安定した乳白色の溶液を形成した。動的光散乱により決定した、pH2.1におけるPECの平均直径は、狭い分散度で360nmであり、pH4.0では1080nmまで増加した(図11C)。pH3.6におけるゼータ電位の正から負への交差は、当該複合体の、算出したpH依存性の実効電荷に、十分に合致した(図11B)。粒子サイズは、pH4より上では、複合体が綿状の固まりになったため、正確には測定できなかった。実効電荷がリン酸側鎖の脱プロトン化に起因して増加するにつれて、コポリマーは凝縮し、高密度第二相になった。pH5.1では、分離した相は、緩い低密度沈殿物の特性を有していた。pH7.2および8.3では、高密度相は、凝集性の液体複合コアセルベートの特性を有していた(図12)。これらコポリマーを、コアセルベートした相において、それぞれ、148および153mg/mlへと約3倍濃縮した。pH9.5では、高分子電解質混合物は、高密度非液体イオン性ゲルを形成した。pH10では、コポリマーは、溶液中に溶け、ドーパキノンおよびアミン側鎖を通じて自然に架橋されて、透明なヒドロゲルになった。
【0086】
キレート剤EDTAを用いての二価カチオンの抽出の結果、P.カリフォルニカ(P.californica)チューブの圧縮強度が50%減少し、接着性が10倍減少し、糊の多孔質構造がつぶれた。模倣高分子電解質の相挙動に対する二価カチオンの効果は、0:1〜1:1の範囲の、二価カチオンのリン酸側鎖に対する比とともに、1:1〜0:1の範囲の、アミンのリン酸側鎖に対する比で、1および2を混合して、コアセルベート相図(図13)を作製することにより調査した。pHは海水のpHである8.2に固定し、二価カチオンは、元素分析により決定された天然糊における近似Mg2+/Ca2+比であるMg2+およびCa2+の4:1混合物として添加した。最も高い質量のコアセルベート(濃い灰色の四角)は、より高い、アミンのリン酸側鎖に対する比と、より低い、二価カチオンのリン酸側鎖に対する比とを有する混合物において生じた。より低いポリアミン比を有する混合物は、より高い二価カチオン/リン酸側鎖比においてさえ透明であった(透明色の四角)。より高いアミン/リン酸塩比および二価カチオン/リン酸塩比においては、溶液は、わずかな沈殿物を伴って混濁していた(明るい灰色の四角)が、PECを含有する溶液(中くらいの灰色の四角)よりも混濁はずっと少なかった。
【0087】
機械的結合試験
帯鋸を用いて、地元の食料品店から入手したウシ大腿骨皮質骨から、およそ1cmの骨試験検体を切断し、320グリットのサンドペーパーで磨き、−20℃で保存した。ドーパ側鎖に対して1:2のモル比のNaIOを、2つの湿った骨検体それぞれの1つの面に、均等に適用した。1cmの骨界面間の空間を完全に満たすのに十分な体積である40mlの試験コアセルベート溶液をピペットで適用し、また、それらの骨検体を、少し過剰な接着剤をひねり出しながら互いに押し合わせ、クランプし、すぐに、PBS(20mM PO、150mM NaCl、pH7.4)に浸したガーゼの中に包んだ。この適用されたコアセルベートは、時期尚早の架橋を防ぐべく、ドーパに対して1:5のモル比でアスコルビン酸塩を含有していた。この結合させた検体を、100%の湿度維持するために、浸されたスポンジを含有する密封容器中で、37℃にて、少なくとも24時間インキュベートした。基準検体を、40mlのロックタイト401瞬間接着剤を用いて全く同じ様式で結合させた。比較のための利用可能な硬組織医療用接着剤がなにもないため、市販の非医療グレードのシアノアクリレートを用いた。機械的試験は、特注の材料試験システム上で、1kgのロードセルを用いて行なった。機器を制御し、LabView(National Instruments社)を用いてデータを取得した。結合させた対のうちの一方の骨を、結合界面から1mm横にクランプした。2つ目の骨は、結合界面の1mm横に配置された切れ味の悪い刃に対して、0.02mm/秒のクロスヘッド速度で押した。結合強度試験は、乾燥を防ぐべく、当該湿った検体の包みをはがした直後に、室温にて行なった。試験の後に、それら結合を、破損の様式について調べた。結合領域は、紙上に骨接触表面の輪郭をトレースし、そのトレースを切り出し、その面積を、切り出した紙の重量から決定することにより測定した。少なくとも6つの検体を、各条件について試験した。
【0088】
剪断弾性係数および破損時の強度は、図13において星印でマークされた3つのコアセルベート化(coacervating)組成物に湿っている間に結合させたウシ皮質骨検体を用いて測定した。この3つの組成物におけるコアセルベート密度は、二価カチオン比を増加させるに伴って(それぞれ、120、125、および130mg/mlへと)増加した。十分に水和させた検体の当該係数および結合強度は、いずれも、二価カチオン濃度を増加させるに伴って増加し、市販のシアノアクリレート接着剤で結合した湿った骨の37%の強度に達した(図14A)。基準点としてシアノアクリレート接着剤を用いたが、これは、比較のための臨床用の骨接着剤がなにもないためである。当該模倣接着剤の強度は、350kPaであると推定される天然のP.カリフォルニカ(P.californica)糊および季節に応じて320〜750kPaにわたると推定されるイガイ(mussel)の足糸の糊の強度の約1/3でもある。ほぼすべての場合において、これらの結合は、凝集的に両骨界面上に接着剤を残して破綻したが、これは、これら組成物が、ヒドロキシアパタイトとの強い界面結合を形成した、とのことを示唆していた。これらの結合は、数ヶ月間pH7.2でPBS中に完全に沈めた後において、感知できるほどの収縮も膨張もなく、寸法的には安定であった(図14B)。硬化および長期間の水への曝露の際の寸法安定性は、有用な骨接着剤には重要な要件である。
【0089】
ドーパミンにより媒介されるコポリマー架橋
1:1のモル比での3の溶液へのNaIOの添加により、すぐに、および、定量的に、ドーパ(280nm)はドーパキノン(392nm)へと酸化された。数分以内に、このキニン(quinine)ピークは、反応性キノンが共有結合性ジドーパ架橋を形成するにつれて、広い全吸収(general absorption)へと減衰した(図15、左上図)。キノンと一級アミンとの間の架橋(図15、左下図)は、ジドーパ架橋よりもより広い全吸収をもたらした。したがって、ドーパミン酸化および架橋化学現象は、当該ドーパミンコポリマーにおいて、予想通りに挙動した。当該ドーパミンコポリマーは、酸化架橋の結果、速やかにヒドロゲルを形成した(図15、AおよびC)。酸化されたホスホドーパミン3は、単独ではゲル化しなかった(図15B)が、4と混合した場合には速やかにゲル化した(図15D)。POコポリマー間の分子間ジドーパ架橋は阻害されたが、分子間ドーパ−アミン架橋は阻害されなかった。これにより、合成接着剤の製剤および送達に有用であり得る架橋制御メカニズムが提供される。
【0090】
pHにより誘因される、ドーパにより媒介される架橋
ドーパ酸化のpH依存性と動態とを探究するために、当該ドーパミンコポリマーの架橋を、UV−Vis分光法により評価した。p(EGMP[92]−DMA[8])(3)を用いた結果を図16に示す。UV−visスペクトルは、化学量論量のNaIOの添加後、時間を増加させて取得した。pH5.0(上図)では、ドーパキノン吸光度(398nm)は、およそ15分で最大となり、数時間にわたり安定なままであった(挿入図)。pH6.0では、398nmにおける吸光度は、<1分でピークになり、310および525nmにおけるピークを有する広い吸光度へと展開した。この広い吸光度は、ゲルが形成されないことから、ドーパキノン架橋に起因するものではない(図16)。比較のために、6を低pHで酸化し架橋したが、より有意に低い速度においてであった(不掲載)。
【0091】
結果が示しているのは、当該ドーパキノンは低pHで安定であるとのこと、および、ジドーパ架橋は、ホスホドーパミンコポリマーにおいては、より高いpHにおいて阻害されたとのことである。当該ポリアミンの存在下では、共有結合性架橋は、分子間アミン−ドーパ結合の方へと向けられた。それが、当該合成接着剤の制御された送達および凝結への経路をつくるものであることから、これは重要な観察である。
【0092】
in vitro細胞毒性
各40重量%の3および4の溶液を低pHで混合して、高分子電解質複合体を形成した。この溶液を、NaIOで部分的に酸化し、滅菌ガラス製カバースリップへの適用の直前にNaOHで塩基性化した。接着剤で処理したカバースリップを、培養プレートのウェルの底に置き、かつ、血清含有培地に入ったヒト包皮繊維芽細胞、ヒト気管繊維芽細胞、およびラット初代星状細胞を、30K個の細胞/ウェルにて、別々のウェルに添加した(図17)。24時間後に、これらの細胞を、4%パラ−ホルムアルデヒド(formaldehdye)で固定し、次いで、細胞形態を可視化するために中間径フィラメントタンパク質であるビメンチン(緑色、A〜B)、ECM分泌を評価するために細胞周囲のフィブロネクチン(赤色、B)、初代星状細胞の形態を可視化するためにグリア繊維性タンパク質(緑色、C)、および核を可視化するためにDAPI(青色、C)、について免疫染色した。接着剤の顆粒状の塊は、オレンジがかった赤色に自己発光した(A〜C)。
【0093】
代表的画像(図17)においては、すべての細胞型は、接着剤なしでガラス上で成長している細胞と区別できない形態を有していた。これらの細胞は、正常な運動性を有しており、いくつかの場合においては、接着剤に直接接触するプロセスに至っていた。毒性は見られなかった。
【0094】
ラット頭蓋冠欠陥モデル
断片化欠陥の作製と接着複合コアセルベートによる修復とを図18A〜Fに示す。オスのSprague Dawley系ラット(256〜290g)(ハーラン社)を、ケタミン(65mg/kg)、キシラジン(7.5mg/kg)、およびアセプロマジン(0.5mg/kg)の混合液で麻酔した。十分な麻酔深度にて、目を眼軟膏剤で覆い、頭の毛を剃り、頭皮をイソプロパノールおよびブタジエンで消毒した。定位フレームにて準備したラットを用い、およそ5000RPMで作動する圧縮空気駆動式ドリルは、定位の目の細かいマニピュレーターを用いて下げた。開頭部位にて滅菌生理食塩水またはPBSを連続的に適用し、その一方で、特注の穿頭器具を、600ミクロン(ラットの頭蓋の厚さとして前に決定し、このラットの年齢を本実験で用いた)下げた。その結果が、頭蓋を貫く、円形の精確な穴であり、その下にある硬膜または脈管構造には観察できるような影響はほとんど見られない(図18A〜B)。細い曲がったピンセットで骨プラグを回収し、止血鉗子と細い骨鉗子とを用いて砕いて断片化した(図18B)。骨の断片を当該欠陥へと戻して(図18C)、5μlの試験接着剤(当該骨折の適用直前に混合した3および4)をマイクロピペッターで適用した(図18D)。低粘度接着剤溶液(送達の直前に硬化溶液と混合した予め形成させたPEC)は、直ちに、かつ、きれいに、当該骨折中へと入り込んだ。5分以内にこれら断片は十分に固定され、変位することなくピンセットでトントントンと素早く叩くことができた。接着剤は、硬化するにつれて、暗い赤みがかった茶色に変化し続けた(図18E〜F)。
【0095】
II.アミン修飾ポリマーから作製される接着複合コアセルベート
A.材料および方法
材料
低エンドトキシンのゲル化しないゼラチン(MW 3.5kDa)は、Gelita社(アイオワ州スーシティ(Souix City))により提供されたものであった。1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびエチレンジアミン二塩酸塩は、サーモサイエンティフィック社から購入した。リン酸モノアクリロキシエチル(MAEP)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)は、ポリサイエンス社から購入した。過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)、セファデックスLH−20、塩酸ドーパミンは、シグマアルドリッチ社から入手した。
【0096】
ポリホスホドーパミド合成
ポリホスホドーパミド(polyphosphodopamide)コポリマー(ポリ(MAEP85−DMA15))は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を開始剤として用いる、MAEPとドーパミンメタクリルアミド(DMA)とのフリーラジカル重合により合成した。当該コポリマーは、セファデックスLH−20カラム(シグマアルドリッチ社)上、MeOH中でのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により回収した。MeOHを除去し、当該コポリマーを、水に再懸濁し、凍結乾燥させ、−80℃で保存した。当該コポリマー中のドーパミド側鎖のモル%を、UV/vis分光法により決定したが、:カテコール型のドーパミドは、279nmにおける吸収ピークを有する(λ279=2600M−1cm−1)。
【0097】
ゼラチン修飾
アミン修飾ゼラチンを作製するための一般的な反応スキームを図21に提示する。ゼラチン(100mg/ml)を、エチレンジアミン二塩酸塩(ゼラチンカルボキシル基に対して1:1のモル比)と混合した。6MのHClでpHを5.2に調整した。エチレンジアミン二塩酸塩に対して1.2:1のモル比のEDCを、この反応混合物に、撹拌しながら添加した。反応は、室温で2時間進行した。このアミン修飾ゼラチンを、DI水に対して3日間透析し、次いで、凍結乾燥させた。一級アミン側鎖濃度は、標準としてグリシンを用いて、ニンヒドリンアッセイにより決定した。ゼラチン(水中、1mg/ml)のゼータ電位測定値は、マルバーン・ゼータサイザー・ナノ−ZS ZEN 3600(マルバーン・インスツルメンツ社、英国ウスターシャー)を用いて、電気泳動により決定した。
【0098】
ゼラチンコアセルベート形成
アミン修飾ゼラチンの50mg/ml水溶液(pH5.0)を、種々の二価カチオン比(Ca2+またはMg2+)を有するポリ(MAEP85−ドーパ15)の50mg/ml水溶液(pH5.0)に、撹拌しながら、標的とするアミン/リン酸塩比に達するまで滴加した。この混合物のpHを、NaOHで、7.4へと上昇させた。コアセルベート相を、24時間、沈降させておいた。このコアセルベート相と平衡相とを分離し、それらの体積を測定した。このコアセルベート相を、凍結乾燥させ、秤量して、それらの質量と濃度とを決定した。
【0099】
動的レオロジー
弾性係数(G’)および貯蔵弾性係数(storage modulus)(G”)は、応力制御レオメーター(TAインスツルメント社、AR500)上にて、コーンおよびプレート配置(20mmの直径、4℃のコーン)を用いて測定した。コアセルベート組成物を比較するために、当該測定は、温度を0.5℃/分の速度で0℃から40℃へと上昇させながら、1Hzの一定の周波数および0.1%の動的な歪みで行なった。
【0100】
接着剤結合強度
水鋸を用いて、5052アルミニウムシート(0.050インチ)から、0.12×0.6×5cmのアルミニウム試験被接着体を切断した。これら被接着体を、600グリットのスーパーファインサンドペーパーで磨き、次いで、ASTM D2651の手順に従ってクリーニングした。簡単に言うと、これら被接着体を、MeOH中で2回超音波処理し、風乾させ、ノクロミックス(nochromix)および硫酸の溶液中へと15分間漬け、次いで、DI水で徹底的にすすぎ、結合させるまでDI水中で保存した。クリーニングの12時間以内に、これら被接着体を結合させた。各接着剤試料について、9つの湿ったアルミニウム試験検体を結合させた。ドーパミド側鎖に対して1:2のモル比のNaIOを、2つのアルミニウム被接着体の結合領域に、均等に適用した。試験コアセルベート溶液(6μl)を、ピペットで、湿った被接着体に適用し、次いで、これらを、約25mm重なり合わせながら互いに押し合わせ、クランプし、すぐに、NaOHによりpH7.4に調整された水の中に沈めた。硬化したこれら結合させた検体は、特定の温度にて、およそ24時間、水の中に完全に沈めた。剪断強度は、温度制御されたウォーターバス中に完全に沈めたこれら被接着体を、100Nのロードセルを備えたインストロン3342材料試験システム上に載せて、測定した。機器を制御し、Bluehill Liteソフトウェア(インストロン社)を用いてデータを取得した。
【0101】
B.結果
接着複合コアセルベートは、低MW(3〜5kda)のゲル化しないコラーゲン加水分解物を当該ポリカチオンとして用いて作製した。理解される通り、このコラーゲン加水分解物は、生理的pHでは、ホスホドーパコポリマー(ポリ(MAEP)85−コ−ドーパミド15))を有する複合コアセルベートを形成しなかった。エチレンジアミンを用いてのカルボン酸側鎖のアミノ化により、アミン濃度はおよそ16モル%へと上昇し、pIは5.5から10.4へとシフトした。アミノ化コラーゲンは、25℃で、広い範囲の組成物にわたって、高密度コアセルベートを形成した。pH5では、濃縮コアセルベートは、0.5〜1.0の、アミンのリン酸側鎖に対する比、および、最大0.8までの、Ca2+のリン酸塩に対する比、にて形成された(図23A)。いずれの組成物も沈殿しなかった。pH7.4では、コアセルベーション空間はより狭まり、;0.2よりも高いCa2+比では、コポリマーは、pHの上昇に伴う、混合した高分子電解質およびCa2+の、低下した溶解度を反映して、固い固体として沈殿した(図23B)。
【0102】
Mg2+の、当該高分子電解質のコアセルベーションに対する個々の効果についての調査により、Ca2+と比較しての有意な違いが明らかとなった。pH5では、コアセルベートした領域は、より広かった。リン酸塩に対して最大1:1までのMg2+の比において、いずれの組成物も沈殿しなかった(図23C)。Mg2+に伴って、コポリマーは凝縮し、より濃縮されたコアセルベートになったが、>380mg/mlのいくつかの場合においては、初期コポリマー濃度からほぼ8倍の増加となった。pH7.4では、コアセルベーション範囲はより広くなり、高いMg2+比においては、上昇したpHに伴う低下した溶解度に起因して、流体および固体の混合相を有する組成物が生じる(図23D)。より高いpHにおける、この広がったコアセルベーション空間は、当該高密度流体コアセルベートが、可溶性の高分子電解質と不溶性の固体との間の安定してバランスのとれた中間体である、とのことを再び説明している。高いMg2+比における固化状態の物理的性質は、非流体ではあるが、固いCa2+沈殿物よりも、より柔らかく、かつ、よりゲル様であり、これは、ことによると、流体コアセルベートおよび固体に対する脱溶媒和の中間状態を反映している。Mg2+複合体のこのはっきりとした物理的性質および溶解度プロファイルは、おそらく、Ca2+イオンと比較した、Mg2+イオンの、より小さい半径、より高い電荷密度、およびより小さい配位数の結果である。Mg2+は、リン酸塩のような、単一の嵩高い配位子を配位させる傾向があるが、これは、この小さなイオンの周りに複数の配位子は収まらないためである。結果として、その溶媒和圏(solvation sphere)のうちの多くが保持される。他方では、より大きいCa2+イオンは、いくつかの嵩高い配位子を収容することができ、その結果、その溶媒和圏の置換および配位子間の架橋形成がもたらされる。混合したMg2+およびCa2+を用いて調製されたコアセルベートは、それぞれのカチオンのコアセルベートした領域間の空間を塞いだ。
【0103】
図23中の相図が経験的に説明しているのは、どのようにして、分泌顆粒と海水との間のpH差が、当該天然接着剤の急速ではあるがタイミングのよい初期凝結反応を駆動する相変化を誘因することができたのか、ということである。凝縮した流体複合コアセルベート相は、安定したコロイド状複合体とゲル化または沈殿したポリマー塩との間の熱力学的バランスがとれている。当該天然接着剤の組成物は、分泌経路内でコアセルベーション境界の内側に収まるよう、しかし、海水の上昇したpHではコアセルベートした領域の外側となるよう、適合させてもよい。言い換えれば、それらは、分泌に際してpH依存性の相変化を受けるよう構成される。例えば、0.4のCa2+比および0.3より大きいアミン比を有する4列目の組成物(図23AおよびB)は、pH5ではコアセルベートされるが、pH7.4以上では固体である。
【0104】
0℃では、図23B中のコアセルベートした領域はおよそ1列下へとシフトしたが、一方、37℃では、1列上へシフトする(不掲載)。上昇するCa2+比および0.6の固定されたアミン比でのpH7.4におけるいくつかの組成物のこの温度依存性の相転移を、動的振動レオロジーにより、より詳細に調査した(図24A)。低い温度では、粘性剪断弾性係数(viscous shear modulus)(G”)は、弾性係数(G’)よりも大きかったが、これは、当該複合コアセルベートの流体特性に合致する。温度を増加させるに伴い、G’はCa2+比依存的様式でS字状に上昇した。組成物が粘性の流体から耐荷重弾性固体へと変化し始める転移温度と解される、G’=G”である交差点(図24A、挿入図)は、0.15、0.20、0.25、および0.30のCa2+比について、それぞれ、36、21、12、および9℃であった。Mg2+含有コアセルベートは性質的に類似した挙動を示し、:pH7.4では、最大0.8までのMg2+のリン酸塩に対する比においては、G’とG”との交差がなく、より高い比においては、交差温度は、Mg2+比を増加させるに伴って再び下降した。37℃での弾性係数は、Mg2+では、Ca2+でよりもずっと低かった(図24B)が、これは、固化したMg2+コアセルベートの、より水和したゲル様の質に合致する。
【0105】
0.6で固定されたアミン比とともに0〜0.3の範囲のCa2+比を用いて形成した結合は、当該組成物の転移温度を十分に上回る37℃で温度制御されたウォーターバス中に完全に沈めた磨いたアルミニウム被接着体を用いて試験した。重ね剪断強度は、Ca2+を最大0.3の比まで増加させるに伴って増加した(図25A、黒色のバー)。0.2および0.25Ca2+/0.6アミンの組成物は、それらのそれぞれの転移温度よりわずかに下、10および20℃においても試験した。いずれの場合にも、転移温度より上での結合強度は、転移温度より下で(図25A、白色のバー)よりも大きかった。当該試験セットアップの条件下では、ポリリン酸塩のドーパミド側鎖とゼラチンのアミンとの間には、共有結合性酸化架橋がほとんどないようであり、:ドーパ酸化の速度は、pH7.4では、8.2よりもずっと遅く、溶解したOの、狭い結合間隙(62μm)への拡散は限られ、また、ドーパ酸化を示す、接着剤の、はっきりとした褐色化は見られなかった。したがって、この、転移温度より上での結合強度の増加は、主に、接着剤の状態変化に起因するものであった。1.0のMg2+比での同様の試験は、より著しい増加、すなわち、転移温度より下でよりも、転移温度より上では、結合強度が6倍以上の増加を示した(図25B)。実際問題として、これらの結果が示したのは、温度差を、当該合成接着剤の初期凝結を誘因するための便利な手段として利用することができるということ、および、この温度誘因は、二価カチオン比の小さな変化により生理学的に妥当な範囲内に調整することができるということである。
【0106】
次に、当該合成接着剤の結合強度への、共有結合性架橋の寄与について調査するべく、ドーパミド側鎖に対して0.5当量のNaIOを結合手順の最中に添加することにより、ポリホスフェートドーパミド(polyphosphate dopamide)側鎖とゼラチンアミンとの間の酸化カップリングを開始させた。結合を硬化させ、pH7.4に調整した水の中に完全に沈めながら、37℃で試験した。結合強度は、Ca2+およびMg2+の両方とも、二価カチオン比を増加させるに伴って増加した(図25、平行線模様のバー)。Mg2+での最大結合強度は、765kPaに達し、Ca2+の結合強度の2倍であった。
【0107】
結論として、当該接着複合コアセルベートは、可溶性ポリマーと不溶性ポリマー塩との間で不安定にバランスのとれた、高密度の、部分的に水に非混和性の流体であった(図22A中の白色の矢印を参照)。図22Bを参照すると、上列は、当該高分子電解質の相挙動を表している。下列は、相挙動の特徴を、水中糊の作製に関するいくつかの問題の解決に結びつけたものである。初期凝結反応である、流体複合コアセルベートから不溶性の固体への変化は、pH、温度、またはその両方の変化により誘因される。共有結合性硬化は、カテコールと一級アミン側鎖との間の酸化カップリングを通じて起こる。
【0108】
III.光架橋性(photocrosslinkable)ポリマーの調製
メタクリル酸グラフトポリリン酸塩の合成(図26)
N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(5モル%)、リン酸モノメタクリロキシエチル(94.95モル%)およびFITC−メタクリルアミド(0.05モル%)の混合物をメタノール(90重量%)に溶解させた。開始剤AIBN(2モル%)を添加し、この溶液をアルゴンで30分間パージした。重合は65℃で24時間進行した。メタクリル酸塩に、コポリマーのアミン側鎖、ごく少量のt−オクチルピロカテキン、2.1当量のトリエチルアミンおよび1当量の塩化メタクリオリル(methacryolyl chloride)を添加し、この反応物を30分間撹拌した。このメタクリル酸グラフトコポリマーを、LH−20セファデックス上、MeOH中でのサイズ排除クロマトグラフィーにより精製した。このコポリマーを、回転蒸発により濃縮し、次いで、脱イオン水に溶解させ、凍結乾燥させた。
【0109】
メタクリル酸グラフトポリアミンの合成(図26)
保護モノマーN−(t−BOC−アミノプロピル)メタクリルアミド(10モル%)を、最小量のメタノールに溶解させ、水で希釈した。モノマーN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(5モル%)およびヒドロキシプロピルメタクリルアミド(85モル%)および開始剤AIBN(2モル%、最小量のメタノール中)を添加した。総モノマー濃度は2重量%であった。この溶液をアルゴンで30分間パージし、次いで、65℃で24時間加熱した。このターポリマーを、3日間の脱イオン水における透析(12,000〜14,000MWCO)により精製し、次いで、凍結乾燥させて、当該ポリマーを白色固体として得た。
【0110】
このメタクリル酸塩ターポリマーをDMFに溶解させ、次いで、遊離アミン基に対して、2.1当量のトリエチルアミンを、続いて1当量の塩化メタクリロイルを、添加した。この反応物を30分間撹拌した。t−BOC基は、5当量のTFAを添加することにより除去した。この脱保護したターポリマーを、ジエチルエーテルで沈殿させ、DI水に再懸濁し、凍結乾燥させた。メタクリロリル(methacrylolyl)置換の度合いは、H NMRにより、ビニルプロトンシグナルの、エチルおよびプロピルプロトンシグナルに対する比を用いて算出した。
【0111】
光架橋(photocrosslinking)(図26)
光開始剤IRGACURE2959(0.1重量%)を、メタクリレート化した(methacrylated)コポリマーの5重量%水溶液に添加した。この溶液を、ノバキュア光硬化光源を用いて、365nmで照射した。
【0112】
本願全体を通じて、様々な文献が参照されている。本明細書に記載の化合物、組成物および方法をより十分に記述するために、これら文献の開示内容全体は、本明細書により、参照により本願中へと組み入れられるものとする。
【0113】
本明細書に記載の化合物、組成物および方法に対して、種々の変更および変形を行なうことが可能である。本明細書に記載の化合物、組成物および方法の他の局面は、本明細書の考察ならびに本明細書において開示されている化合物、組成物および方法の実施から自明となる。本明細書および実施例は例示的なものとみなされる、ということが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のポリアカチオン(polyacation)および少なくとも1種類のポリアニオンを含み、ここでは、少なくとも1種類のポリカチオンおよび/またはポリアニオンが生分解性であり、かつ、前記ポリカチオンおよびポリアニオンが、互いに架橋可能な少なくとも1つの基を含む、生分解性の接着複合コアセルベート(adhesive complex coacervate)。
【請求項2】
前記ポリカチオンが、多糖、タンパク質、または合成ポリアミンを含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項3】
前記タンパク質が、組換えタンパク質または遺伝的に修飾されたタンパク質を含む、請求項2のコアセルベート。
【請求項4】
前記ポリカチオンが、アミン修飾天然ポリマーを含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項5】
前記ポリカチオンが、アミン修飾タンパク質を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項6】
前記アミン修飾天然ポリマーが、1つ以上のアルキルアミノ基、ヘテロアリール基、または1つ以上のアミノ基で置換された1つの芳香族基、で修飾されたゼラチンまたはコラーゲンを含む、請求項4のコアセルベート。
【請求項7】
前記ポリカチオンが、エチレンジアミンで修飾されたゼラチンを含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項8】
前記ポリカチオンが、生理的pHにおいて、7より大きいpI値を有する、請求項1のコアセルベート。
【請求項9】
前記ポリアニオンが、1つ以上の硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、ホウ酸基、ボロン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項10】
前記ポリアニオンが、ポリリン酸化合物を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項11】
前記ポリリン酸化合物が、天然化合物、化学的に修飾された天然化合物、または合成類似体を含む、請求項10のコアセルベート。
【請求項12】
前記天然化合物が、DNA、環状ポリホスホン酸塩、またはタンパク質を含む、請求項11のコアセルベート。
【請求項13】
前記化学的に修飾された天然化合物が、リン酸化されたタンパク質または多糖を含む、請求項11のコアセルベート。
【請求項14】
前記ポリリン酸化合物が、ポリマー骨格に対してペンダントである(pendant)少なくとも1つのリン酸基、および/または、ポリマー骨格中に組み込まれた少なくとも1つのリン酸基を含む、請求項10のコアセルベート。
【請求項15】
前記ポリアニオンが、1つ以上のペンダントリン酸基を含むポリアクリル酸塩を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項16】
前記ポリアニオンが、Rが水素もしくはアルキル基であり、かつ、nが1〜10である、式II

を含む少なくとも1つの断片またはその薬剤的に許容できる塩を含むポリマーを含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項17】
がメチルであり、かつ、nが2である、請求項16のコアセルベート。
【請求項18】
前記ポリリン酸化合物が、10〜90モル%のリン酸基を含む、請求項10のコアセルベート。
【請求項19】
前記ポリアニオンおよび/またはポリカチオンが、酸化を受けることが可能な少なくとも1つのジヒドロキシル芳香族基を含み、ここでは、前記ジヒドロキシル芳香族基が、共有結合により前記ポリアニオンに付着している、請求項1のコアセルベート。
【請求項20】
前記コアセルベートが、少なくとも1種類の多価金属カチオンを含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項21】
前記多価カチオンが、1種類以上の二価カチオンまたは1種類以上の遷移金属イオンもしくは希土類金属を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項22】
前記多価カチオンが、Ca+2および/またはMg+2を含む、請求項21のコアセルベート。
【請求項23】
前記組成物が、1種類以上の生物活性剤(bioactive agent)をさらに含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項24】
前記コアセルベートが、可逆的酸化剤複合体をさらに含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項25】
前記ポリカチオン上の架橋基が求核基を含み、かつ、前記ポリアニオン上の架橋基が求電子基を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項26】
前記ポリカチオン上の架橋基が求電子基を含み、かつ、前記ポリアニオン上の架橋基が求核基を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項27】
前記ポリカチオンおよびポリアニオン上の架橋基が、酸化架橋(oxidative crosslinking)を受けることが可能なオルト−ジヒドロキシ芳香族基を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項28】
前記ポリアニオン上の架橋基がオルト−ジヒドロキシ芳香族基を含み、かつ、前記ポリカチオンが、前記架橋基と反応して共有結合を形成することが可能な求核基を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項29】
前記ポリカチオン上の架橋基がオルト−ジヒドロキシ芳香族基を含み、かつ、前記ポリアニオンが、前記架橋基と反応して共有結合を形成することが可能な求核基を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項30】
前記ポリアニオンおよび前記ポリカチオン上の架橋基が、化学線により架橋可能な基を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項31】
前記化学線により架橋可能な基が、オレフィン基(olefinic group)を含む、請求項30のコアセルベート。
【請求項32】
前記オレフィン基が、アクリル酸基、メタクリル酸基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリル基、ビニル基、ビニルエステル基、またはスチレニル基を含む、請求項31のコアセルベート。
【請求項33】
前記ポリカチオンが、1つ以上のペンダントアミノ基を含むポリアクリル酸塩を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項34】
前記ポリカチオンが、1つ以上のペンダントイミダゾール基を含むポリアクリル酸塩を含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項35】
前記コアセルベートが、重合開始剤および所望により共開始剤(co−initiator)をさらに含む、請求項1のコアセルベート。
【請求項36】
前記重合開始剤が、(1)ラジカル開始剤、熱開始剤、もしくは光開始剤(photoinitiator)のうちの1つ以上、または(2)2種類以上のラジカル開始剤、熱開始剤、もしくは光開始剤、を含む、請求項35のコアセルベート。
【請求項37】
前記光開始剤および所望により共開始剤が、共有結合により前記ポリカチオンおよび/またはポリアニオンに付着している、請求項36のコアセルベート。
【請求項38】
前記光開始剤が、リボフラビン、エオシン、エオシンy、またはローズベンガルを含む水溶性開始剤を含む、請求項36のコアセルベート。
【請求項39】
前記光開始剤が、ホスフィンオキシド、ペルオキシド、アジド化合物、α−ヒドロキシケトン、またはα−アミノケトンを含む、請求項36のコアセルベート。
【請求項40】
(a)請求項1〜39の接着複合コアセルベートを加熱すること;および
(b)前記コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、
を含むプロセスにより製造される接着剤であって、ここでは、工程(a)が工程(b)の前、工程(b)の後、または工程(b)と同時に行なわれて前記接着剤が製造されてもよい、接着剤。
【請求項41】
工程(b)が、前記ポリカチオンとポリアニオンとの間の架橋を促進するべく、酸化剤の使用を含む、請求項40の接着剤。
【請求項42】
前記酸化剤が、O、NaIO、ペルオキシド、または遷移金属酸化剤、または可逆的酸化剤複合体を含む、請求項41の接着剤。
【請求項43】
(a)請求項1〜39の接着複合コアセルベートを調製すること;
(b)前記接着複合コアセルベートのpHを調整すること;および
(c)前記コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、
を含むプロセスにより製造される接着剤であって、ここでは、工程(b)が工程(c)の前、工程(c)の後、または工程(c)と同時に行なわれて前記接着剤が製造されてもよい、接着剤。
【請求項44】
前記多価カチオンがカルシウムおよび/またはマグネシウムであり、前記ポリカチオンがポリアミンであり、前記ポリアニオンがポリリン酸塩であり、ならびに、カルシウムのアミン/リン酸基に対する比が0.1〜0.3であり、また、マグネシウムのアミン/リン酸基に対する比が0.8〜1.0である、請求項43の接着剤。
【請求項45】
工程(b)が、前記接着複合コアセルベートのpHを、7.0以上のpHへと上昇させることを含む、請求項43の接着剤。
【請求項46】
工程(b)が、前記接着複合コアセルベートのpHを、最大8.0までのpHへと上昇させることを含む、請求項45の接着剤。
【請求項47】
工程(c)が、前記ポリカチオンとポリアニオンとの間の架橋を促進するべく、酸化剤の使用を含む、請求項43の接着剤。
【請求項48】
前記酸化剤が、O、NaIO、ペルオキシド、遷移金属酸化剤、または可逆的酸化剤複合体を含む、請求項47の接着剤。
【請求項49】
酸化架橋を受けることが可能な少なくとも1つのジヒドロキシル芳香族基を含むポリアニオンまたはポリカチオンを含む化合物であって、前記ジヒドロキシル芳香族基が、共有結合により前記ポリアニオンまたはポリカチオンに付着している化合物。
【請求項50】
前記ポリアニオンが、ポリリン酸塩を含む、請求項49の化合物。
【請求項51】
前記ポリリン酸化合物が、天然化合物、化学的に修飾された天然化合物、または合成類似体を含む、請求項50のポリアニオン。
【請求項52】
前記ポリリン酸化合物が、ポリマー骨格に対してペンダントである少なくとも1つのリン酸基、および/または、ポリマー骨格中に組み込まれた少なくとも1つのリン酸基を含む、請求項50の化合物。
【請求項53】
前記ポリアニオンが、1つ以上のペンダントリン酸基を含むポリアクリル酸塩を含む、請求項49の化合物。
【請求項54】
前記ジヒドロキシル芳香族基が、ドーパまたはカテコール部分を含む、請求項49の化合物。
【請求項55】
前記ポリアニオンが、(1)ホスフェートアクリレートおよび/またはホスフェートメタクリレートと(2)第二アクリル酸塩および/または第二メタクリル酸塩との間の重合生成物であって、前記第二アクリル酸塩または第二メタクリル酸塩に共有結合したジヒドロキシル芳香族基を含む重合生成物である、請求項49の化合物。
【請求項56】
前記ポリアニオンが、リン酸モノアクリロキシエチルとドーパミンメタクリルアミドとの間の重合生成物である、請求項49の化合物。
【請求項57】
(a)骨折した骨を請求項1〜39の接着複合コアセルベートと接触させること、および(b)前記コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、を含む、対象において骨折を修復するための方法。
【請求項58】
前記骨折が、完全骨折、不完全骨折、線状骨折、横骨折、斜骨折、圧迫骨折、らせん骨折、粉砕骨折、圧縮骨折(compacted fracture)、開放骨折、関節内骨折、または頭蓋顔面骨骨折を含む、請求項57の方法。
【請求項59】
前記方法が、骨折した骨の小片を既存の骨に接着させることを含む、請求項57の方法。
【請求項60】
基体(substrate)を対象の骨に接着させるための方法であって、(a)前記骨および/または基体を請求項1〜39の接着複合コアセルベートと接触させること;(b)前記基体を前記骨に適用すること;ならびに(c)前記コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、を含む方法。
【請求項61】
前記基体が、金属基体、ホイル、繊維、または布切れを含む、請求項60の方法。
【請求項62】
骨組織の足場を対象の骨に接着させるための方法であって、(a)前記骨および/または組織を請求項1〜39の接着複合コアセルベートと接触させること;(b)前記骨組織の足場を前記骨および組織に適用すること;ならびに(c)前記コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、を含む方法。
【請求項63】
前記組織が、軟骨、靱帯、腱、軟部組織、器官、膜様組織、またはその合成誘導体を含む、請求項62の方法。
【請求項64】
前記足場が、前記骨および組織の成長または修復を促進する1種類以上の薬物を含む、請求項62の方法。
【請求項65】
請求項1〜39の接着複合コアセルベートの、歯科用途における使用。
【請求項66】
前記使用が、歯科欠陥を治療することを含む、請求項65の使用。
【請求項67】
歯科インプラントを固着させるための方法であって、(a)口腔の基体および/または歯科インプラントに請求項1〜39の接着複合コアセルベートを適用すること;(b)前記歯科インプラントを前記基体に付着させること;ならびに(c)前記コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、を含む方法。
【請求項68】
請求項1〜39の接着複合コアセルベートを対象に対して投与することを含む、1種類以上の生物活性剤を送達するための方法。
【請求項69】
対象において角膜および/または結膜の裂傷を修復するための方法であって、(a)前記裂傷に請求項1〜39の接着複合コアセルベートを適用すること、および(b)前記コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、を含む方法。
【請求項70】
対象の血管において血流を阻害するための方法であって、(a)請求項1〜39の接着複合コアセルベートを前記血管中へと導入すること、および(b)前記コアセルベート中のポリカチオンとポリアニオンとを架橋すること、を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A−6D】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図18E】
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【図18F】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公表番号】特表2013−500072(P2013−500072A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521803(P2012−521803)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/043009
【国際公開番号】WO2011/011658
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(506051429)ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション (25)
【Fターム(参考)】