説明

接線流れ濾過デバイス、および幹細胞富化のための方法

【課題】非幹細胞成分を除去することによって、骨髄成分または血液成分の異種性混合物を、幹細胞について富化するための方法を提供することであって、この方法は、接線流れ濾過デバイスを使用して、非幹細胞成分を分離する工程を包含する。
【解決手段】本発明のデバイスおよび方法を使用することによって得られた幹細胞について富化された細胞集団などは、例えば、骨髄再構成のため、または、心筋を含む傷害された組織の修復のためなどの目的のための、個人への注入に適切な組成物を調製するために使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2003年11月24日出願の、米国仮出願第60/524,511号(その全内容が本明細書中に参考として援用される)に対する利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
幹細胞について富化された細胞集団は、しばしば、研究または治療における使用のために所望されている。幹細胞の代表的な供給源としては、特に「動員された」ドナーからの、骨髄、全末梢血、白血球のフェレーシス(leukopheresis)もしくはアフェレーシスの生成物、または他のより希な供給源(例えば、臍帯血および組織もしくは器官の懸濁物)が挙げられる。幹細胞の富化は、数種類の方法でなされている。代表的な方法としては、密度段階勾配(density step gradient)(例えば、FICOLL−HYPAQUE(登録商標)、コロイド状シリカなど)、エルトリエーション(elutriation)、遠心分離、低張ショックによる赤血球の溶解、およびこれらの方法の種々の組み合わせが挙げられる。一例として、骨髄からの幹細胞の精製は、赤血球および顆粒球の除去を必要とし、これは、しばしば、FICOLL−HYPAQUE(登録商標)密度勾配遠心分離によって達成される。これらの方法の各々には欠点があり、その欠点の1つは、例えば、密度勾配遠心分離媒体を除去するために、富化工程が実施された後に骨の折れる洗浄工程を必要とすることである。
【0003】
富化の後、細胞は、代表的に、反復性のプロセスにより洗浄される。この工程は、一般に、富化された細胞懸濁物を遠心管に入れる工程、および遠心機を用いて、これらの細胞を管の底にペレット化する工程を包含する。この管は、遠心機から取り出され、そして、上清が、ペレット化された細胞からデカントされる。洗浄液体が管に添加され、そして細胞ペレットが再懸濁される。これらの工程は、代表的に2〜4回繰り返される。
【0004】
この洗浄プロセスの1つの欠点は、連続的な再懸濁および遠心分離が、細胞の生存度を減少させ、そして細胞溶解を増加させ得ることである。遠心分離による洗浄の別の欠点は、細菌もしくは他の感染性因子が細胞を汚染する機会である。全ての物質の滅菌が維持されていたとしても、遠心管を繰返し開くこと、そして、ピペットおよび洗浄溶液のボトルの空気への曝露は、汚染を生じ得る。汚染の危険性は、いくつかの医療監督官庁が、「閉鎖」系のみが細胞の取り扱いに使用されることを要求しているほど、十分に有意なものである。
【0005】
濾過方法はまた、後の使用のために他の血液成分を保持しながら、血液から細胞を除去するために使用されている。このような方法は、一般に、他の血液成分をフィルタを通して、回収容器へと通過させながら、回収不能な形態でフィルタ上に細胞を捕捉する。例えば、フィルタは、同種免疫反応の発生率が、輸血の後に最小限にされるように、血液から白血球を除去するのに利用可能である。白血球の除去は、代表的に、マット状のプラスチック繊維メッシュから作製されたフィルタを使用してなされる。このメッシュは、通常、細胞がフィルタの深さ全体で捕捉され、それにより、フィルタが詰まること(白血球が平面上で捕捉される場合に起こる)を防ぐように、十分な深さを有する網目状のマトリクス内に白血球を捕捉するように配置される。
【0006】
細胞の物理的な捕捉に加え、フィルタの物質および大きな表面積は、白血球が表面に不可逆的に接着することを可能にする。これらの接着した細胞の多くは、まさにいくつかの医療手順に所望されるものである。捕捉およびフィルタへの接着という得られる組み合わせは、血液注入療法の前の処分のために白血球を除去するための非常に効率的な手段を生み出す。しかし、白血球が所望される細胞である場合、この濾過方法は有利ではない。
【0007】
種々の粒子の分画において有用な方法は、接線流れ濾過(TFF)または「十字流れ」濾過である。TFFは、孔性膜フィルタの表面に対して平行な流体の動きによるものである。膜の孔は、流体の通過、および代表的には孔より小さい流体内にある粒子の通過を可能にする。さらに、フィルタに対して平行な流体の十字流れ(または「接線」流れ)は、フィルタ表面上での、孔よりも大きな粒子の蓄積を防ぐ。
【0008】
TFFは、種々の物質の大まかな分離のために使用される。薬学分野における接線流れ濾過の使用は、非特許文献1により総説されており、この文献は、注射用滅菌水の濾過、溶媒系の浄化、およびブロスおよび細菌培養物からの酵素の濾過を含む。Marinaccioら(特許文献1)は、血漿フェレーシスのための、血液からの粒子状血液成分の除去における使用のためのプロセスを報告し、Robinsonら(特許文献2)は、血球および血小板を患者内に再注入することを可能にする、血液からの血漿の除去のためのTFFの使用を記載する。
【0009】
別の用途において、TFFは、ビールの濾過(具体的には、酵母細胞および他の懸濁された固体のような粒子を除去するため)について報告されている(特許文献3)。Kotheら(特許文献4)は、乳汁または初乳からの免疫グロブリンの精製におけるTFFの使用を開示し、そして、Castino(特許文献5)は、抗ウイルス物質ならびにウイルス粒子および細胞を含有するブロスからの、抗ウイルス物質(例えば、インターフェロン類)の分離におけるその使用を記載する。同様に、TFFは、細胞破片からの細菌の酵素の分離において使用されている(非特許文献2)。さらに、接線流れ濾過ユニットは、培養培地中に懸濁された細胞の濃縮において使用されている(例えば、非特許文献3を参照のこと)。
【0010】
TFFはまた、サイズによりリポソームと脂質粒子とを分離することが報告されている(Lenkら、特許文献6)。TFFは、リポソームおよび脂質粒子(このような粒子の異種性の集団からの規定されたサイズ範囲を有する)の形成および単離を可能とする((Lenkら、前出)。
【0011】
しかし、TFFは、生物学的液体の大まかな分画、および例えば、リポソームの分離に使用されている一方で、規定された特徴が異なる生細胞集団の分離のためのTFFの使用は、当該分野では認められていない。特に、無菌性、細胞の生存度および再生活性を維持しながら、他の骨髄細胞または血球、および組織または器官の懸濁物からの幹細胞の選択的に分離することに関する固有の問題は、対処されていない。さらに、他の細胞集団(例えば、サイズ範囲が重なる集団)の除去は、現行の手順では解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第85/03011号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,423,738号明細書
【特許文献3】欧州特許第0208450号明細書
【特許文献4】米国特許第4,644,056号明細書
【特許文献5】米国特許第4,420,398号明細書
【特許文献6】米国特許第5,948,441号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Genovesi、1983年、J.Parenter.Aci.Technol.,第37巻,p.81
【非特許文献2】Quirkら、1984年、Enzyme Microb.Technol.,第6巻,p.201
【非特許文献3】Radlett、1972年、J.Appl.Chem.Biotechnol.,第22巻,p.495
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、無菌性、細胞の生存度、および再生性、ならびに細胞の活性を保存しながら、他の骨髄または血液成分(血漿、赤血球および/または血小板を含む)から幹細胞を選択的に富化するためのさらなるデバイスおよび方法に対する必要性が、当該分野に存在するままである。本発明は、これらおよび他の必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、骨髄、血液および血液調製物、組織および組織または器官の調製物からの、幹細胞または先祖細胞(progenitor cell)の分離に関する。特に、幹細胞について富化された細胞集団は、接線流れ濾過デバイスの使用により調製される。富化された幹細胞集団の調製のためのデバイスの使用方法が提供される。本発明のデバイスおよび方法を使用することによって得られた幹細胞について富化された細胞集団などは、例えば、骨髄再構成のため、または、心筋を含む傷害された組織の修復のためなどの目的のための、個人への注入に適切な組成物を調製するために使用され得る。
【0016】
本発明の接線流れ濾過デバイスは、十字流れチャンバを有するリムーバーユニット、濾液チャンバ、およびリムーバーユニットと濾液チャンバとの間に配置されたフィルタを備える。このフィルタは、片側(保持液表面)で十字流れチャンバと、そしてもう片側(濾液表面)で濾液チャンバと流体連絡する。十字流れチャンバは、幹細胞を含む、骨髄または血液成分のようなサンプルを十字流れチャンバに導入し、フィルタの保持液表面と平行になるように適合された入口を有する。出口がまた、フィルタの保持液表面の反対側にあるチャンバの部分に中央に配置された十字流れチャンバ内に提供される。接線流れ濾過デバイスにおける使用に適切なフィルタは、代表的に、約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲の平均孔サイズを有する。幹細胞の富化における使用のための特定の実施形態において、フィルタは、約3ミクロン〜約7ミクロン、または約3ミクロン〜約5.5ミクロンの平均孔サイズを有する。代表的に、リムーバーユニットは、単回使用の使い捨てアセンブリとして提供される。
【0017】
さらに、このデバイスは、十字流れチャンバの入口への所定の投入速度のサンプルを提供するための手段、および濾液の、フィルタを通り濾液チャンバに入る濾過速度を制御するための手段を包含し得る。濾過速度制御手段は、濾過速度を、フィルタに対して抵抗のない濾過速度未満に制限する。幹細胞を含むサンプルは、白血球フェレーシスデバイスのような供給源デバイス、または、例えば、白血球フェレーシスデバイスから回収されるサンプルを含む容器などから供給され得る。
【0018】
接線流れ濾過デバイスは、さらに、回収ユニットを備え得る。回収ユニットは、リムーバーユニットの十字流れチャンバとループ形式で相互連絡され得る入口および出口を備える。このデバイスのこの実施形態において、十字流れチャンバの入口は、回収ユニットの出口と流体連絡しており、十字流れチャンバの出口は、回収ユニットの入口と流体連絡している。回収ユニットは、さらに、サンプル入口および洗浄入口を備え得る。接線流れ濾過デバイスの特定の実施形態において、サンプル入口および洗浄入口は、単一の共有入口である。代表的に、洗浄入口は、交換流体または洗浄流体の供給源と流体連絡する。交換流体または洗浄流体は、例えば、等張緩衝液または組織培養培地であり得る。
【0019】
回収ユニットのサンプル入口は、幹細胞を含む、骨髄または血液成分のようなサンプル供給源と流体連絡する。本発明の1つの実施形態において、骨髄または血液成分を含むサンプル供給源は、針を備えるシリンジ、またはドナーもしくは患者から骨髄を除去するために特別に設計された専用のデバイスである。TFFデバイスおよびこのデバイスの操作は、より詳細に、2002年6月19日に出願された米国仮特許出願第60/390,730号、およびWO2004/000444(各々は、その全体が本明細書中に参考として援用される)に記載されている。
【0020】
本発明のデバイスの1つの実施形態は、骨髄のサンプルを幹細胞について富化するための接線流れ濾過デバイスを含む。このデバイスは、フィルタで隔てられた十字流れチャンバおよび濾液チャンバを備えるリムーバーユニット;所定の投入速度のサンプルを十字流れチャンバの入口を通して提供するための手段;およびフィルタを通る濾過速度を調節するための手段を備える。このデバイスにおいて、十字流れチャンバは、入口および出口を有し、出口は、チャンバの上側部分に中央に配置され、そして、入口は、フィルタの上に配置され、フィルタに対して実質的に平行に十字流れチャンバへと流体を導入し、そして、フィルタは、約5ミクロンの孔サイズを有し、これらにより、十字流れチャンバ内の保持液で、サンプルは幹細胞について富化される。
【0021】
本発明の別の実施形態において、血液成分のサンプルを、幹細胞について富化するための接線流れ濾過デバイスが提供され、このデバイスは、リムーバーユニット;所定の投入速度のサンプルを十字流れチャンバの入口を通して提供するための手段;およびフィルタを通る濾過速度を維持するための手段を備える。このデバイスにおいて、リムーバーユニットは、濾液チャンバの下にあり、かつフィルタにより隔てられた十字流れチャンバを備え、そして、この十字流れチャンバは、チャンバの下側部分に中央に配置された出口と、フィルタの下に配置された入口とを有し、フィルタに対して実質的に平行な十字流れチャンバに流体を導入する。そして、フィルタは、約5ミクロンの孔サイズを有し、これらにより、十字流れチャンバ内の保持液で、サンプルは幹細胞について富化される。
【0022】
本発明はまた、骨髄成分、血液成分、組織、または幹細胞を含む組織もしくは器官の調製物のサンプルから幹細胞を分離するための方法を提供する。この方法の工程は、以下:(1)サンプルを、リムーバーユニット内の入口を通してリムーバーユニットに導入する工程;(2)サンプルを、約1ミクロン〜約10ミクロンの孔サイズを有するフィルタに対して実質的に平行な十字流れに供する工程;(3)流体を、フィルタを通す濾過に供する工程;および(4)サンプルから非幹細胞成分を選択的に除去して、幹細胞について富化された細胞集団を形成する工程を包含する。このサンプルは、リムーバーユニットへの導入の前に、白血球フェレーシス、密度遠心分離(density centrifugation)、差次的溶解(differential lysis)、濾過、またはバフィーコートの調製によって部分的な精製または富化に供され得る。1つの実施形態において、サンプルは、フィルタ表面を横切って、渦状の動きで十字流れチャンバに流れるように誘導される。さらに、幹細胞について富化された細胞集団は、洗浄溶液で洗浄され得る。
【0023】
本発明の1つの特定の実施形態において、細胞サンプル(例えば、幹細胞を含む、骨髄成分のサンプル)は、サンプル内の、幹細胞に類似する見かけ上のサイズの細胞の縮み(shrinkage)を生じる因子を含む、前処理溶液と接触させられる。縮んだ細胞は、濾過膜を通過可能であり、幹細胞についてより富化された細胞集団を提供する。1つの特定の実施形態において、縮みを受けるように誘導される細胞は、顆粒球(例えば、好中球など)である。この実施形態において有用な1つの具体的な溶液は、例えば、生理学的に受容可能な溶液中に、有効量のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む。この生理学的に受容可能な溶液は、例えば、希釈したリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)のような低張塩溶液であり得る。あるいは、前処理溶液は、例えば、マンニトールもしくはグルコースのような糖を含む高張溶液を含み得るか、または、高張塩溶液であり得る。なお別の実施形態において、縮みが誘導される細胞は、縮んだ細胞の膨張を防ぐ因子で細胞サンプルを処理または前処理することによって、再膨張しないように防止される。1つの実施形態において、抗膨張因子は、チロシンリン酸化を防止する因子(例えば、ゲニステイン(genistein)など)である。なお別の実施形態において、抗膨張因子は、ナトリウム−水素交換体の作用を阻害する。なお別の実施形態において、例えば、骨髄成分を含む細胞サンプルが懸濁された溶液は、ナトリウム塩を含まず、この溶液は、ナトリウム−水素交換体による水素とナトリウムとの交換をブロックして細胞の再膨張の誘導を防止する。
【0024】
本発明の方法において、細胞サンプルから除去された非幹細胞成分は、例えば、支質、血漿、血小板、赤血球などを含む。富化された細胞集団は、少なくとも約10%の幹細胞を含み得るが、代表的には、少なくとも約20%以上の幹細胞を含む。本発明の方法の1つの実施形態において、工程(1)、(2)および(3)は、幹細胞について富化された細胞集団を形成するために少なくとも2回繰り返される。幹細胞について富化された細胞集団は、幹細胞療法を必要とする患者への注入のために使用され得る。
【0025】
さらなる実施形態において、幹細胞について富化された細胞集団は、例えば、内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、ニューロン、樹状細胞、および他の細胞型を含む、治療において有用な他の細胞型を形成するように誘導され得る。種々の幹細胞誘導法が、当業者に周知である。
【0026】
本発明の方法において使用される細胞サンプルは、代表的に、個々のドナーから回収される。ドナーは、幹細胞療法を受ける患者、または別の個体であり得る。ドナーから細胞サンプルを回収する前に、ドナーは、例えば、M−CSF、G−CSF、GM−CSF、または高用量もしくは低用量のシクロホスファミドなどのような幹細胞動員因子を用いる処置を受け得、造血幹細胞について富化された細胞集団を生じる。幹細胞動員因子は、CD34幹細胞の増殖を誘導し、これが、末梢血流に放出される。骨髄、血液(例えば、白血球フェレーシスサンプル)、組織、または、個々のドナーからの組織もしくは器官の調製物は、次いで、本発明の接線流れ濾過(TFF)ユニットに導入される。TFFユニットは、十字流れチャンバ、濾液チャンバ、ならびに十字流れチャンバおよび濾液チャンバと流体連絡するフィルタを備える。代表的に、TFFデバイスにおいて使用されるフィルタは、約3ミクロン〜約5.5ミクロンの孔サイズを有する。造血細胞について富化された細胞サンプルは、所定の投入速度および所定の濾過速度でTFFユニットを通して再循環され、この所定の投入速度は、代表的には、所定の濾過速度の少なくとも5倍であり、そして、所定の濾過速度は、フィルタに対して抵抗のない濾過速度未満であり、CD34白血球に対して富化された、単離された細胞集団を提供する。この方法は、血漿、血小板および赤血球を含む非白血球血液成分を実質的に含まない、富化された細胞集団を生じ得る。この方法により生成された富化された細胞集団は、細胞集団の約2%〜約10%、約5%〜約40%、またはそれ以上を構成するように、CD34細胞の割合を高め得る。
【0027】
本発明の性質および利点のさらなる理解は、明細書の残りの部分を参照して、明らかとなる。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
幹細胞と非幹細胞成分とを含む被験体からのサンプルから、幹細胞を分離するための方法であって、該方法は、以下:
(i)該サンプルをリムーバーユニット(1)に導入する工程であって、該リムーバユニット(1)は、該リムーバーユニット内の入口(6)を通る十字流れチャンバ(3)を備える、工程;
(ii)該サンプルを、約1ミクロン〜約10ミクロンの孔サイズを有するフィルタ(5)に実質的に平行な十字流れに供する工程;
(iii)該流体を、該フィルタを通す濾過に供する工程;および
(iv)該サンプルから非幹細胞成分を選択的に除去して、幹細胞について富化された細胞集団を形成する工程
による、接線流れ濾過デバイス上での分離を含有する、方法。
(項目2)
リムーバーユニットへの導入のために、白血球フェレーシス、密度遠心分離、差次的な溶解、濾過、またはバフィーコートの調製によって、前記被験体からのサンプルを調製する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記サンプルが、骨髄、組織懸濁物、器官懸濁物、または血液成分である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記非幹細胞成分が、支質、赤血球、血漿および血小板である、項目1に記載の方法。
(項目5)
工程(i)、(ii)および(iii)を少なくとも2回繰り返して、幹細胞について富化された細胞集団を形成する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記幹細胞が、造血幹細胞、間葉性幹細胞、または多能性幹細胞である、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記造血幹細胞が、CD34細胞である、項目5に記載の方法。
(項目8)
前記幹細胞が、造血幹細胞、間葉性幹細胞、または多能性幹細胞である、項目3に記載の方法。
(項目9)
前記造血幹細胞が、CD34細胞である、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記被験体が、幹細胞動員因子を投与することによる、幹細胞動員を受けている、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記幹細胞動員因子が、M−CSF、G−CSF、GM−CSF、またはシクロホスファミドである、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記接線流れ濾過デバイスが、前記十字流れチャンバの入口に所定の投入速度の前記サンプルを提供するための手段;前記フィルタを通り前記濾液チャンバに入る濾過速度を制御するための手段を有し、該濾過速度制御手段が、該濾過速度を、該フィルタに対して抵抗のない濾過速度未満までに制限する、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記サンプルは、前記幹細胞と本質的に同じサイズを有する細胞集団の細胞の縮みを誘導するように前処理される、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記本質的に同じサイズを有する細胞集団が、顆粒球である、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記前処理が、前記細胞を、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有する生理学的に受容可能な溶液に接触させる工程を包含する、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記DMSOの最終濃度が、5%と20%との間である、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記DMSOの最終濃度が、10%と15%との間である、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記DMSOの最終濃度が、12.5%である、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記DMSOの最終濃度が、15%である、項目17に記載の方法。
(項目20)
前記生理学的に受容可能な溶液が、低イオン強度のものである、項目15に記載の方法。
(項目21)
前記前処理が、前記細胞を、グリセロールを含有する生理学的に受容可能な溶液に接触させる工程を包含する、項目13に記載の方法。
(項目22)
前記グリセロールの最終濃度が、0.5mol/Lと2.5mol/Lとの間である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記グリセロールの最終濃度が、1mol/Lである、項目21に記載の方法。
(項目24)
顆粒球が、溶解により前記細胞混合物から優先的に除去される、項目14に記載の方法。
(項目25)
溶解が、有効量のDMSOおよびグリセロールへの前記サンプルの連続的な接触によって達成される、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記サンプルの接触が、低浸透圧強度の溶液との接触である、項目25に記載の方法。
(項目27)
骨髄または血液成分のサンプルを幹細胞について富化するための方法であって、以下:
(i)接線流れ濾過(TFF)ユニットに該サンプルを導入する工程であって、該TFFユニットは、十字流れチャンバ、濾液チャンバ、ならびに該十字流れチャンバおよび該濾液チャンバと流体連絡するフィルタを備え、該フィルタは、約1ミクロン〜約10ミクロンの孔サイズを有する、工程;
(ii)所定の投入速度および所定の濾過速度で該サンプルをTFFユニットを通して再循環させる工程であって、該所定の投入速度は該所定の濾過速度の少なくとも5倍であり、ここで、該所定の濾過速度は、該フィルタに対して抵抗のない濾過速度未満である、工程;ならびに
(iii)幹細胞について富化された細胞集団を単離する工程
を包含する、方法。
(項目28)
前記富化された細胞集団が、実質的に非白血球成分を含まない、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記幹細胞について富化された細胞集団を個体に投与する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目30)
前記サンプルが、少なくとも1種の幹細胞動員因子で処理された被験体からのものである、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記幹細胞動員因子が、M−CSF、G−CSF、GM−CSF、またはシクロホスファミドである、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記幹細胞が、レシピエントに注入される、項目29に記載の方法。
(項目33)
前記レシピエントが、前記被験体に対して自家性である、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記レシピエントが、前記被験体に対して同種異系性である、項目32に記載の方法。
(項目35)
前記レシピエントが、骨髄再生を必要としている、項目32に記載の方法。
(項目36)
前記レシピエントが、骨髄機能廃絶化療法を受けている、項目32に記載の方法。
(項目37)
前記レシピエントが、心臓組織の修復を必要としている、項目32に記載の方法。
(項目38)
前記レシピエントが、心筋梗塞を経験している、項目32に記載の方法。
(項目39)
前記レシピエントが、うっ血性心不全を罹患している、項目32に記載の方法。
(項目40)
前記レシピエントが、心機能不全を罹患している、項目32に記載の方法。
(項目41)
前記富化された幹細胞集団が、循環内に注入される、項目32に記載の方法。
(項目42)
前記富化された幹細胞集団が、冠状動脈内に注入される、項目32に記載の方法。
(項目43)
前記富化された幹細胞集団が、傷害された心臓組織に直接適用される、項目32に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】図1A〜1Cは、血液生成物サンプルから、白血球、そしてまた単球を分離するための接線流れ濾過デバイスの実施形態を図示する。図1Aは、白血球の富化のためのデバイスの実施形態を提供し、この図において、十字流れチャンバは、濾過チャンバの上にある。
【図1B】図1A〜1Cは、血液生成物サンプルから、白血球、そしてまた単球を分離するための接線流れ濾過デバイスの実施形態を図示する。図1Bは、デバイスの正面図を図示し、この図において、サンプルの投入は、フィルタの下からであり、濾液は、単球の富化のために、フィルタを上向きに通過する。
【図1C】図1A〜1Cは、血液生成物サンプルから、白血球、そしてまた単球を分離するための接線流れ濾過デバイスの実施形態を図示する。図1Cは、図1Bに図示されるデバイスの頭上から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(特定の実施形態の説明)
本発明は、骨髄成分、血液成分、組織、または組織もしくは器官の懸濁物の、異種性の混合物を含む細胞サンプルを処理して、幹細胞の富化された集団を提供するための方法を提供する。本発明の1つの局面において、非幹細胞成分(例えば、支質、血漿、血小板および/または赤血球など)を選択的に除去することによって幹細胞を富化するための方法が提供される。別の局面において、他の大きな細胞型(例えば、顆粒球のような多形核細胞)を混合物から選択的に除去することによって幹細胞を富化するための方法が提供される。特定の実施形態において、骨髄細胞サンプルは、縮んだ非幹細胞が、TFFデバイスのフィルタを通過し、幹細胞から分離されるように、ほぼ同じサイズの非幹細胞を縮ませる因子で処理され得る。
【0030】
幹細胞の富化された集団は、代表的には、骨髄成分を含むサンプルまたは流体混合物から調製される。用語「骨髄成分」とは、本明細書中で使用される場合、代表的に、骨髄中に存在し、罹患状態および非罹患状態で存在するような物質を含む、任意の物質を指す。骨髄成分は、幹細胞を含み、そして、例えば、リンパ球、単球、赤血球、好中球、好酸球、ナチュラルキラー(NK)細胞、および/または血小板、可溶性もしくは不溶性のタンパク質もしくはタンパク質複合体(例えば、酵素、免疫グロブリン、または免疫グロブリン−抗原複合体)、他の巨大分子成分(例えば、脂質)、または、物理的に分離され得、その正確な分子もしくは細胞の構成とは無関係な全血の任意の他の部分(例えば、支質、血漿または血清)が挙げられ得る。
【0031】
サンプルまたは流体混合物は、本発明の方法を実施する前に、幹細胞について部分的に富化され得る。用語「幹細胞」は、用語「前駆細胞(precursor cell)」、「先祖細胞(progenitor cell)」または「CD34細胞」と交換可能に使用される。これらの用語は、例えば、リンパ球、骨髄球および赤血球の先祖細胞、ならびに、内皮細胞;筋肉細胞(平滑筋細胞および心筋細胞を含む);神経細胞および骨格細胞(骨および軟骨を形成するものを含む)を生じ得る先祖細胞を含む、造血幹細胞を含む。
【0032】
本発明の特定の局面において、多形核細胞(PMN)または顆粒球を含む細胞集団が、幹細胞から分離される。この集団は、代表的に、好中球、好酸球および好塩基球、ならびに、それらの前駆体を含み、そして、この出願においてPMNと呼ばれる。
【0033】
本明細書中で使用される場合、用語「幹細胞の集団」とは、幹細胞を含む細胞の任意の群を指す。幹細胞の集団は、上述のように、広範囲の幹細胞のサブタイプ、または、特定のサブタイプ(例えば、内皮細胞または筋肉細胞の前駆体または先祖細胞)を含み得る。用語「富化」、「富化する」、および「富化された」とは、骨髄成分の混合物を、本明細書中に簡潔に記載され、2002年6月19日に出願された米国仮特許出願第60/390,730号、およびWO2004/000444(各々が、その全体が参考として本明細書中に援用される)により完全に記載されるデバイスを使用して処理され、その後、本発明の方法によって、最初の細胞サンプル(すなわち、富化前)よりも、他の成分に関して高い割合の生存可能な幹細胞を有する細胞集団を生じることをいう。本明細書中で使用される場合、用語「生存可能」とは、適切な培養条件下、または、患者もしくは適切な動物モデルへの再注入の際に、分化可能な幹細胞をいう。
【0034】
本発明に従うデバイスは、幹細胞の集団について富化するために、接線流れ濾過を利用する。用語「接線流れ濾過」および「十字流れ濾過」は、交換可能に使用され、そして、流体混合物からの懸濁された粒子(例えば、細胞)の分離(流体混合物中の異種性の粒子混合物からの規定された特徴(例えば、所望のサイズ範囲)の粒子の分離を含む)を指す。これらの粒子は、代表的にはいくらか陽圧下で、流体混合物(例えば、サンプル流体)を、フィルタ(例えば、サンプル流体に面するフィルタの表面)に対して実質的に平行または接線方向にあるサンプルチャンバに通過もしくは循環させ、濃縮された粒子もしくは幹細胞を含む流体混合物を膜表面に対して接線方向に流し続けることによって分離される。
【0035】
一般に、どの粒子が「濾液」中に取り除かれたかの判定、すなわち、フィルタを通過した流体の部分、および「保持液」内に保持された粒子の判定は、種々の要因に依存する。このような要因としては、例えば、フィルタの孔サイズ、投入速度、濾過速度、流体混合物中の粒子の濃度、温度、および流体混合物の粘度が挙げられる。本明細書中で使用される場合、「孔サイズ」とは、フィルタ内の孔の平均サイズをいう。「投入速度」は、サンプル(例えば、流体混合物)が、フィルタを収容するチャンバ内に導入される速度をいう。(例えば、本発明のデバイスの特定の実施形態において)サンプルが、フィルタを横切って複数回再循環させられる場合、投入速度はまた、「再循環速度」とも呼ばれる。「十字流れ」とは、フィルタを横切る流体混合物の実質的に平行(すなわち、フィルタ表面に対して任意の方向で平行)な流れをいう。「十字流れ速度」は、フィルタ全体およびフィルタに対して実質的に平行な、サンプルまたは流体混合物の流速をいう。流体混合物の十字流れ速度は、一般に、種々のパラメータ(例えば、投入速度、ならびに、フィルタを収容するチャンバのサイズおよび形状を含む)に依存する。「濾過速度」は、フィルタを通る流体混合物の流速をいう。本発明に従うデバイスおよび方法についての濾過速度は、代表的に、抵抗のない(すなわち、開放管の)濾過速度未満である。「排出速度」は、フィルタを通過する流体混合物(すなわち、濾液)以外の、十字流れチャンバからの流体混合物の除去速度をいう。排出速度は、一般に、(投入速度)−(濾過速度)に等しい。
【0036】
本明細書中で使用される場合、用語「フィルタ」は、複数の孔を有する任意の物質、または物質の組み合わせから作製された任意の物品を指し、この孔は、この物品を横切る十字流れに供されるサンプルもしくは流体混合物の1つ以上の成分(例えば、血液成分および/または骨髄成分)がこの物品を通過することを可能にし、それによって、これらの成分(例えば、非幹細胞、タンパク質、血漿、血清、血小板など)を、他の成分(例えば、幹細胞)から分離する。フィルタの表面は、任意の適切な面積(例えば、直径約42mm〜約145mm)を有し得るが、より大きい面積およびより小さな面積のフィルタが使用され得る。特定の実施形態において、1つのみのフィルタがTFFデバイスにおいて使用される。他の実施形態において、追加のフィルタがTFFデバイスにおいて使用され得る。
【0037】
本発明のTFFデバイスにおいて代表的に使用されるフィルタは、広範な有機ポリマーフィルタから選択され得る。このようなフィルタとしては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:ナイロン、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、酢酸セルロース/硝酸セルロース、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、およびポリアミドの微小孔膜。他のフィルタ(例えば、セラミックフィルタおよび金属フィルタ)もまた使用され得る。親水性および疎水性、帯電性および非帯電性の両方のフィルタが使用され得る。特定の用途において、親水性フィルタが好ましくあり得る。
【0038】
本発明のフィルタは、代表的に、フィルタの面積全体にわたって分散された多数の孔を含む。特定の実施形態において、フィルタは、孔サイズの変化が少ない複数の孔を有する。例えば、孔サイズの可変性は、約±20%であり得るか、または、約±0%〜約±20%の範囲内であり得る。代表的な実施形態において、「核孔(nuclepore)」または「軌道がエッチング処理された(track etched)」フィルタが使用される(例えば、Poretics(登録商標)ポリエチレンもしくはポリカーボネートの軌道がエッチング処理されたフィルタ膜(Osmonics,Minnetonka,MN))。これらのフィルタは、代表的に、材料内に厳密に制御された孔サイズを有する滑らかな表面を有する。このようなフィルタは、代表的に、放射活性粒子の供給源に、非孔性プラスチックの平坦なシートを曝露することによって調製され、これらの粒子は、プラスチックシートに穴を開けるのに十分エネルギー性である。この「軌道」は、次いで、化学溶媒またはエッチング剤に曝露することによって直径が拡大される。孔のサイズは、軌道のエッチング条件により制御され得る。
【0039】
本発明は、骨髄、血液、組織、または組織もしくは器官の懸濁物中の種々の細胞型間の差異を利用して、幹細胞について富化する。このような差異としては、例えば、サイズ、形状および/または変形性の差異が挙げられ得る。ヒトの骨髄、血液、組織、または組織もしくは器官の懸濁物中の細胞のサイズおよび変形性は、代表的に、細胞の型ごとに変化する。赤血球(赤血球(red blood cell))は、代表的に、両凹面のディスク形状であり、徐核されており、約7ミクロンの長径を有し、そして比較的変形性である。多形核の白血球細胞は、代表的に、球状であり、そしてまた、約7ミクロンであるが、赤血球よりも変形性が少ない。単核細胞では、リンパ球が、代表的に7ミクロン〜10ミクロンであり、単球は、通常、10ミクロン〜15ミクロンの範囲である。幹細胞は、一般に、単球と同じサイズ範囲である。
【0040】
種々の実施形態において、フィルタの孔サイズは、幹細胞について富化し、そして/または、骨髄、血液成分、組織、または組織もしくは器官の懸濁物を分画して、それにより、回収された細胞集団を幹細胞について富化するために選択される。例えば、特定の実施形態において、10ミクロン〜15ミクロンの見かけ上の直径を有する幹細胞、および7ミクロンの見かけ上の直径を有する赤血球は、約5ミクロンの孔サイズを有するフィルタを使用して、TFFにより分離され得る。
【0041】
他の実施形態において、フィルタの孔サイズは、約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲、約3ミクロン〜約8ミクロンの範囲、または約3ミクロン〜約5.5ミクロンの範囲内であり得る。約3ミクロンの範囲内のフィルタの孔サイズは、ほとんどの幹細胞および白血球を保持し得、幹細胞から赤血球のあまり効率的でない除去を達成し得る。対照的に、約8ミクロンの範囲のフィルタの孔サイズは、赤血球のより効果的な除去を達成し得るが、濾液内への幹細胞および白血球の損失を増加し得る。約3ミクロン〜約5.5ミクロンのフィルタサイズが、代表的に、幹細胞について富化するために使用される。
【0042】
他の骨髄成分、血液成分、組織成分、または組織もしくは器官の懸濁物成分からの幹細胞の富化はまた、投入速度、濾過速度、および/またはサンプルもしくは流体混合物中の細胞の濃度により影響され得る。例えば、赤血球は、他の細胞型よりも変形性であり、そして、それゆえ、赤血球の長径よりも小さな(例えば、約7ミクロン未満の)孔サイズを有するフィルタをより容易に通過され得る。特定の例において、赤血球は、約5.5ミクロンの孔サイズを有するフィルタを用いて白血球から分離され得る。
【0043】
他の細胞性骨髄成分、または組織もしくは器官の懸濁物成分からの幹細胞の富化はまた、同じ投入速度または再循環速度下で、抵抗のない(すなわち、開放管の)濾過速度未満である濾過速度を維持することにより達成され得る。他の実施形態において、濾液への白血球の損失は、濾過速度を上回る投入速度または再循環速度を維持することにより減少され得る。例示的な実施形態において、投入速度または再循環速度は、濾過速度の、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍または少なくとも約100倍であり得る。
【0044】
TFFによる幹細胞分画のための種々の骨髄成分、血液成分、組織、または組織もしくは器官の懸濁物を含むサンプルまたは流体混合物は、種々の供給源から得られ得、そして、処理の種々の段階のいずれかにおける、血液製剤の流体混合物を含み得る。例えば、骨髄および血液の供給源は、ヒトまたは非ヒトのいずれかであり得る。さらに、流体混合物は、例えば、骨髄、全血、全血の種々の希釈物、または、例えば、血漿もしくは他の血液成分を除去することによる処理に供された全血もしくは血液希釈物、または、組織もしくは器官の懸濁物であり得る。従って、流体混合物は、例えば、すでに幹細胞について少なくとも部分的に富化された血液細胞集団を含み得る。
【0045】
骨髄成分もしくは血液成分、骨髄もしくは血球の集団、または組織もしくは器官の懸濁物は、当業者に公知の方法により調製され得る。このような方法としては、代表的に、ヘパリン処理した骨髄もしくは血液の回収、アフェレーシスもしくは白血球フェレーシス、バフィーコートの調製、ロゼット処理(rosetting)、遠心分離、密度勾配遠心分離(例えば、FICOLL−HYPAQUE(登録商標)、PERCOLL(登録商標)、スクロースなどを含む密度勾配物質)、非白血球細胞の差次的な溶解、濾過などが挙げられる。
【0046】
骨髄成分または血液成分を含む流体混合物は、必要に応じて、所望のように希釈または濃縮され得る。例えば、特定の実施形態において、骨髄成分または血液成分は、1:2、1:5、1:10、または任意の他の適切な希釈で希釈される。骨髄成分または血液成分は、例えば、等張緩衝液(例えば、PBS、またはHEPES緩衝化生理食塩水)、組織培養培地などにおいて希釈され得る。代表的に、TFFに供される骨髄成分または血液成分のサンプルは、1mlあたり約10個〜約10個の細胞の細胞濃度を有し、このうち少なくとも約10%〜20%が幹細胞である。さらに、PMNの数は、約60%〜約75%の細胞数から、約50%以下まで減らされる。
【0047】
骨髄もしくは血液の細胞集団、または組織もしくは器官の懸濁物は、幹細胞の富化された集団の所望の使用に応じて、種々の型の被験体から得られ得る。例えば、被験体は、健常な被験体であり得る。あるいは、細胞は、骨髄再構築を必要とする被験体(例えば、化学療法処置に起因して骨髄が損傷を受けていることが見出されている癌患者)から得られ得る。骨髄または血液の細胞集団はまた、例えば、M−CSF、GM−CSF、G−CSF、または低用量もしくは高用量のシクロホスファミド(Deliliersら,Leuk.Lymphoma 43:1957,2002)などのような幹細胞動員因子を投与された個体から回収され得る。個体は、富化された細胞集団を受ける患者、近親者、またはHLAがマッチする個体であり得る。
【0048】
図1A〜1Cに図示されるような本発明に従うデバイスは、代表的に、十字流れチャンバ(3)および濾液チャンバ(4)を備える。フィルタ(5)は、これらの間に位置決めされ、片方の表面で十字流れチャンバと流体連絡し(保持液表面)、そして、もう一方の表面は、濾液チャンバと流体連絡する(濾液表面)。十字流れチャンバ、濾液チャンバ、およびフィルタは、リムーバーユニット(1)を構成する。リムーバーユニットは、単回使用の使い捨てアセンブリとして提供され得、本発明の単離方法において使用するために滅菌および準備され得る。リムーバーユニットアセンブリは、各サンプルが幹細胞について富化されるように使用される。本発明の1つの特定の実施形態において、十字流れチャンバは、代表的に、約55mlの容量を有し、そして、濾液チャンバは、約25mlの容量を有する。フィルタの直径は、代表的に、十字流れチャンバの直径と実質的に同じである。本発明の利用を実証するために使用される特定の実施形態において、フィルタは、直径約140mm〜約143mmである。
【0049】
本発明の方法において、流体混合物は、流体入口(6)を通って十字流れチャンバ(3)に入り、この流体入口(6)は、代表的に、フィルタの保持液表面に近接して設置されており、その結果、流体混合物(例えば、サンプル)は、フィルタの保持液表面に対して実質的に平行なチャンバに入る。代表的に、流体は、流体出口(7)を通って十字流れチャンバ(3)から除去され、この流体出口(7)は、通常、フィルタの保持液表面に対して垂直に、十字流れチャンバの一部に配置される。特定の例示的な実施形態において、十字流れチャンバ入口(6)の直径は、約7mm〜約8mmであり、そして、十字流れチャンバ出口(7)の直径は、約8mm〜約10mmである。濾液は、濾液チャンバ(4)内の出口(8)から除去される。
【0050】
代表的に、流体混合物は、フィルタの表面(保持液表面)を横切る流体混合物の十字流れが、流体および細胞をフィルタの接触表面(すなわち、境界層)において穏やかに中断して、逆混合するのに十分高い速度であるように、十分な投入速度で十字流れチャンバに導入される。本明細書中で使用される場合、「境界層」とは、フィルタの保持液側に近接して保持液側にある流体の層(代表的には、フィルタを通過する流体に取り残される)をいう。この境界層の中断は、フィルタの接触表面の物質がフィルタに入ること、または、効率的な濾過を妨げ得る沈滞となることを防ぐことによって、効率的な濾過を促進する。しかし、流体混合物の投入速度は、通常、十分な数の白血球の溶解を生じるのに十分ではない。
【0051】
特定の実施形態において、骨髄成分または血液成分は、流体混合物を十字流れチャンバ(3)へとポンプで駆動することによって、フィルタの保持液表面を通過する。フィルタを横切あせて流体の十字流れを駆動するために使用されるポンプは、「十字流れポンプ」または「再循環ポンプ」(14)と呼ばれる。十字流れポンプは、細胞に対して実質的な損傷(例えば、細胞の溶解)を生じることなく、流体混合物をチャンバ内に、そして、フィルタを通して、特定の投入速度で導入するのに十分な、十字流れチャンバ(3)と流体連絡する任意のポンプ駆動デバイスを含み得る。本発明における使用に適切な十字流れポンプとしては、例えば、蠕動ポンプ、ピストンポンプ、ダイアフラムポンプ、またはローラーポンプが挙げられ得る。蠕動ポンプは、例えば、TFFデバイスを「閉鎖」系の一部として維持することが所望される場合に使用され得る。
【0052】
流体混合物は、代表的に、濾過速度を超える投入速度で、十字流れチャンバ(3)にポンプ駆動される。例示的な実施形態において、投入速度は、約1680ml/分であり、濾過速度は、約15ml/分である。他の例示的な実施形態において、投入速度は、約1600ml/分〜約1800ml/分であり、濾過速度は、約10ml/分〜約20ml/分である。非幹細胞物質(例えば、赤血球、免疫複合体、タンパク質、PMNなど)は、フィルタ(5)を通って濾液チャンバ(4)へと通過する。
【0053】
上で議論したように、濾過速度は、代表的に、抵抗のない(すなわち開放管)速度よりも低い。濾過速度は、例えば、濾液チャンバ出口のサイズを減少もしくは制限することによって、第2のポンプ手段(例えば、「濾過ポンプ」)を使用して流れを制限することによって、などで、制御され得る。
【0054】
別の例示的な実施形態において、流体混合物のデバイス内への導入は、流体内に渦状の動きを生じる。これは、例えば、例えば、濾過速度の約5倍または約10倍〜約100倍の投入速度で、円筒状の十字流れチャンバにある円状のフィルタに対して実質的に平行に、流体混合物を導入することによってなされ得る。このフロースルーは、円筒状のチャンバ内に位置し、フィルタに対して垂直な、代表的には、フィルタ表面の中心に近接する出口(7)によって除去される。この配置は、フィルタの中心に向かって内向きに流れにらせんを生じる。この流れは、代表的に、幹細胞の実質的な溶解を引き起こすような、乱流でも、このような高速でもない。上で議論したように、十字流れはまた、境界層が結合または沈滞することを防ぐために、フィルタ表面を「こすり」得る。投入速度が濾過速度に対して大きく(例えば、少なくとも約5倍)なるように投入速度を較正することによって、得られる幹細胞の富化された集団は、サンプルの細胞集団内の全細胞数に対する幹細胞の割合と比較した場合、少なくとも約5%、または少なくとも約20%、または少なくとも約60%、またはそれ以上の幹細胞であり得る。
【0055】
別の例示的な実施形態において、保持液は、分離効率を高めるために再循環される。例えば、骨髄成分もしくは血液成分、または組織もしくは器官の調製物を含む流体混合物は、十字流れチャンバ内に導入され得、そして、濾過の間に、保持液が、十字流れチャンバ内の流体出口(7)を通って別のチャンバ(例えば、流体が最初に提供されていたチャンバ(「回収ユニット」;(2)))へと引かれ得る。次いで、回収ユニット内の流体混合物が、十字流れユニットへと再び導入され得る。回収ユニット(2)とリムーバーユニット(1)とを「ループ形式」で接続することによって、流体混合物の連続的な再循環および濾過が達成され得る。あるいは、保持液は、十字流れチャンバ(3)の流体出口(7)を通って引かれ、十字チャンバ入口へと直接(すなわち、回収ユニットまたは別のチャンバを通過することなく)再導入され得る。流体混合物は、任意の適切な時間にわたって、十字流れユニットを通過させられ得る。特定の実施形態において、流体混合物は、所望の幹細胞の純度または富化を達成するために、約5分〜約60分間、またはそれより長時間再循環され得る。
【0056】
なお別の実施形態において、流体混合物の容量は、緩衝液、洗浄溶液、または他の溶液(まとめて、「交換液体」と呼ばれる)を添加することにより調節され得る。洗浄溶液は、例えば、回収ユニットにおいて(例えば、溶液入口(13)を介して)、リムーバーユニット内でポンプ(14)において、リムーバーユニットへと、そしてリムーバーユニットから延びるチュービングにおいて、または、任意の他の都合の良い位置において、流体混合物と合わされ得る。こうして、保持液内の細胞は、同じ操作において、富化および洗浄され得る。代表的に、洗浄溶液は、細胞と等張性である。適切な緩衝液および洗浄溶液は、種々の緩衝液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)またはHEPES緩衝化生理食塩水)、組織培養培地などを含有し得る。
【0057】
特定の実施形態において、例えば、骨髄、血液、組織、または組織もしくは器官の調製物からの細胞集団を含む細胞サンプルは、閉鎖された無菌系において幹細胞の集団について富化される。本明細書中で使用される場合、用語「閉鎖された無菌系」または「閉鎖系」は、非滅菌の空気、大気もしくは循環空気、または他の非滅菌の条件への曝露が最小にされるかまたは排除された系をいう。細胞集団を富化するための閉鎖系は、一般に、上部が開放の管における遠心分離、細胞の戸外での移動、組織培養プレートもしくは密封していないフラスコ内での細胞の培養などは除外する。例えば、任意の細胞容器、インキュベータ、組織培養容器、または細胞処理のための他の装置(下記参照)を備える濾過システム全体は、「閉鎖」系として維持され得る。代表的な実施形態において、閉鎖系は、幹細胞の無菌的な富化を可能にし、必要に応じて、非滅菌空気に曝露されることなく、最初の回収容器から密封可能な組織培養容器への移動を可能にする。代表的に、蠕動ポンプ(図1A〜1C;(15))手段が、閉鎖系において使用される。
【0058】
本発明の別の局面において、骨髄成分もしくは血液成分、または組織もしくは器官の懸濁物の異種性の混合物は、非幹細胞の混合物(例えば、支質、血漿、血小板、赤血球などを含む)から選択的に骨髄成分または血液成分を除去することによって、幹細胞について実質的に富化される。本明細書中で使用される場合、用語「実質的に富化される」とは、保持液に回収された細胞集団が、所望されるように多数の回数の再循環の後に、代表的には、少なくとも約5%、より代表的には少なくとも約20%、または少なくとも約60%の所望の細胞(例えば、幹細胞)から構成されることを意味する。他の実施形態において、骨髄成分または血液成分などの異種性の混合物は、幹細胞について富化されて、実質的に非幹細胞成分を含まない幹細胞の富化された集団を形成する。本明細書中で使用される場合、用語「実質的に含まない」とは、幹細胞の富化された集団が、少なくとも約10%〜約50%の幹細胞を含むことを意味する。
【0059】
特定の変数が、このデバイスの性能に影響することが決定されている。例えば、フィルタの孔サイズ、液体の総容量、再循環速度および濾過速度、ならびに、これらの2つの速度と実行時間との間の比が、幹細胞の収率に影響し得る。幹細胞についての最適な分離条件を決定するために、分離の実行は、パラメータの変数を使用して行われ得、この実行において、細胞濃縮物(保持液)および濾液が、経時的に性能をモニターするために定められた間隔でサンプリングされる。これらの結果から、最適なフィルタの孔サイズ、システムの総容量、再循環速度および濾過速度が決定され得る。
【0060】
本発明のこの局面の例示的な実施形態において、TFFデバイスは、約55mlの容量を有する十字流れチャンバ(3)、および約25mlの容量を有する濾液チャンバ(4)を備える。さらに、このデバイスは、以下から構成される:約1ミクロン〜約10ミクロン、より代表的には、約2ミクロン〜約8ミクロン、なおより代表的には、約3ミクロン〜約5ミクロンの孔サイズを有する複数の孔;約142mmのフィルタ直径を有するフィルタ。この実施形態において、投入速度は、約1600ml/分〜約1800ml/分に設定され;濾過速度は、約12ml/分〜約17ml/分である。最初の流体混合物は、代表的に、少なくとも約10個/mlの細胞(例えば、白血球および他の細胞)の細胞濃度を有する。本発明のこの実施形態で達成された富化された幹細胞集団は、約1100万〜約2000万個の幹細胞を含み、これは、細胞の総数の約10%〜約20%を占める。
【0061】
本発明の別の局面において、骨髄成分または血液成分の異種性混合物は、非幹細胞成分の選択的な除去(例えば、混合物からの支質およびリンパ球の除去を含む)により、幹細胞について実質的に富化される。本明細書中で使用される場合、用語「選択的な除去」、「選択的に除去される」および「選択的に除去する」とは、1つの細胞型の優先的な除去および別の細胞型の富化をいう。この局面の例示的な実施形態において、TFFデバイスは、約55mlの容量を有する十字流れチャンバ(3)および約25mlの容量を有する濾液チャンバ(4)を備える。さらに、このデバイスは、以下から構成される:約1ミクロン〜約10ミクロン、より代表的には、約2ミクロン〜約8ミクロン、または約3ミクロン〜約5ミクロンのフィルタ孔サイズ;約1600ml/分〜約1800ml/分の投入速度;約12ml/分〜約17ml/分の濾過速度;そして約142mmのフィルタ直径。最初の流体混合物は、代表的に、1mlあたり少なくとも約10個の細胞(例えば、幹細胞および他の細胞)の細胞濃度を有する。この実施形態において、デバイスは、逆の様式で操作された。
【0062】
本発明のなお別の実施形態において、骨髄、血液、組織から、または組織もしくは器官の調製物からの血液成分の異種性混合物は、幹細胞と同じサイズおよび変形性を有する特定の細胞型の除去を容易にするために前処理される。このような細胞としては、多形核顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球などを含む)が挙げられ得る。1つの実施形態において、この前処理は、骨髄成分または血液成分の、細胞膜を通して浸透圧勾配を生じさせ得る因子との接触を包含し、それによって、水の流出による細胞の縮みを誘導する。このような因子としては、ジメチルスルホキシド、グリセロール、塩化ナトリウムなどが挙げられ得るがこれらに限定されない。DMSOが使用される場合、最終的なDMSOの有効濃度は、約5%と約20%との間、または約10%と約15%との間であり得る。特定の実施形態において、DMSOの有効濃度は約12.5%または約15%である。DMSOは、緩衝液または低イオン強度の生理学的に受容可能な溶液中に溶解され得る。使用され得る別の因子は、グリセロールである。グリセロールの有効量は、0.5mol/Lと約2.5mol/Lとの間である。特定の実施形態において、グリセロールの最終濃度は、約1mol/Lである。これらの因子に細胞を接触させることにより、所望でない顆粒球の溶解をもたらし得る。溶解は、DMSOおよびグリセロールへの連続的な曝露により達成され得る。使用される溶液は、低浸透圧強度の溶液媒体を含み得る。所望でない細胞の誘導された縮みは、これらの細胞を濾過による除去をより受けやすくし、接線流れ濾過によるこれらの細胞集団の選択的な除去を可能にする。分離プロセスの間の細胞の再膨張を防ぐ有効量の因子がまた含められ得る。このような因子としては、チロシンリン酸化を防ぐ因子(例えば、ゲニステイン)、または、ナトリウム−水素交換体の作用を阻害する因子が挙げられ得るがこれらに限定されない。
【0063】
(富化した細胞集団の培養、拡大、および分化)
本発明の1つの実施形態において、本発明の方法は、幹細胞の富化された集団を得るために使用され、この集団は、例えば、同種異系性または自家性の移植に有用な組成物を生成するために使用され得る。特定の実施形態において、幹細胞の富化された集団は、接線流れ分離手順の後、さらに、造血幹細胞について富化される。末梢血白血球の供給源からの造血幹細胞の富化の方法は、当該分野で公知であり、本明細書中に記載されるように単離された、幹細胞の富化された集団を用いる使用に適合され得る。例えば、幹細胞の富化された集団は、さらに、例えば、免疫磁気分離技術(例えば、Rowleyら,Bone
Marrow Transplant.21:1253,1998;Denning−Kendallら,Br.J.Haematol.105:780,1999を参照のこと)を使用して、CD34細胞についてさらに富化され得る。骨髄または血液の供与体は、移植を受ける患者、近親者、HLAがマッチする個体などから単離され得る。
【0064】
なお別の実施形態において、本発明の方法はまた、例えば、先祖細胞(例えば、造血先祖細胞または内皮先祖細胞)または目的の因子(例えば、造血成長因子または脈管形成成長因子)を分泌する細胞が富化された細胞集団のような、非幹細胞のサブセットを得るために使用される。例えば、循環中の内皮先祖細胞(CEP)は、例えば、VEGFR−2およびAC133(ならびに、例えば、VE−カドヘリンおよびE−セレクチン)の共発現によって、循環CD34細胞のサブセットとして同定され得る(例えば、Peichevら,Blood 95:952,2000を参照のこと)。白血球の富化された集団は、さらに、例えば、VEGER−2およびAC133に対する抗体と共に免疫磁気分離技術を使用して、CEPについて富化され得る。また、CEPは、ドナーからの細胞集団の単離、および、TFFを使用する富化の前に、個々のドナーにおいて動員され得る。この方法において、ドナーは、例えば、VEGFのようなサイトカインで処理され得る(例えば、Gillら,Circ Res.,88:167,2001を参照のこと)。さらに、なお他の実施形態において、内皮様循環脈管形成細胞(CAC)(例えば、VEGF、HGF、G−CSFおよびGM−CSFを分泌する)は、白血球の富化された集団を、フィブロネクチンコーティングした表面上で、例えば、VEGF、bFGF、IGF−1、EGFおよびFBSと共に培養し、次いで、非接着細胞を廃棄することによって得られる(例えば、Rehmanら,Circulation 107:1164,2003を参照のこと)。
【0065】
さらに、幹細胞の富化された集団は、多能性の先祖細胞または幹細胞の拡大を誘導するように培養され得る。例えば、CD34幹細胞は、造血成長因子(例えば、IL−1、IL−3、IL−6、幹細胞因子(SCF)、顆粒球−単球コロニー刺激因子(GM−CSF)およびG−CSFの組み合わせ)と共に培養することによって、インビトロで拡大され得る(例えば、Sunら,Haematologica 88:561,2003を参照のこと)。先祖細胞または幹細胞は、任意の種々のサイトカインおよび成長因子で連続的に処理されて、造血系統、または非造血系統の細胞への分化を誘導され得る。
【0066】
他の実施形態において、幹細胞の富化された集団は、分化(例えば、先祖細胞の分化、またはより分化した細胞型(例えば、単球または単球由来の樹状細胞)の分化転換(transdifferentiation))を誘導するのに適した条件下で培養され得る(本明細書において使用される場合、「分化転換」とは、一般に細胞分裂の必要が全くない、分化した細胞の表現型の調節のプロセスをいい、このプロセスによって、分化した細胞が、形態学的および/または機能的に異なる細胞型へと分化する)。例えば、樹状細胞への分化に加え、単球は、培養条件に依存して、他の造血細胞型または非造血細胞型(例えば、マクロファージ、破骨細胞および内皮様細胞を含む)へと形質転換され得る(例えば、Beckerら,J.Immunol.139:3703,1987;Nicholsonら,Clin Sci.99:133,2000;Havemannら,Novel Angiogenic Mechanisms:Role of Circulating Progenitor Endothelial Cells 47−57(Nicanor I.Moldovan編,2003)を参照のこと)。また、白血球の富化された集団は、任意の種々のサイトカインまたは成長因子を使用して、比較的未分化な細胞のサブセット(例えば、多機能性の先祖細胞および幹細胞)の、造血系統または非造血系統への分化を誘導する条件下で培養され得る。このような分化は、当業者に公知の方法による細胞拡大の前後に誘導され得る。
【0067】
本発明の特定の実施形態において、幹細胞について富化された細胞の集団は、再生または再増殖(repopulation)を必要とする人において、細胞または組織の再生または再増殖に影響を与えるために使用され得る。このような人は、患者が、幹細胞の投与から恩恵を受ける任意の状態(パーキンソン病、糖尿病、慢性心疾患、腎疾患、肝不全、癌、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病を含む)に罹患し得るか、または、遺伝的もしくは後生的な(epigentic)欠損を防止するための遺伝子療法を必要とし得る。
【0068】
本発明の特定の実施形態において、幹細胞のレシピエントは、ドナーに対して自家性であっても、同種異系性であってもよい。レシピエントは、骨髄再生の必要があり得る。なぜならば、この個体は、骨髄機能廃絶化療法(myeloablative therapy)を受けているからである。別の例において、レシピエントは、心臓組織の修復を必要とし得る。なぜならば、この個体は、心筋梗塞を経験したか、または、うっ血性心不全もしくは心機能不全を罹患しているからである。いずれの場合も、本発明の方法により単離された、富化された幹細胞集団は、循環中に注入され得る。心筋梗塞を経験したか、または心機能不全もしくは心不全を罹患しているレシピエントにおいて、富化された幹細胞集団は、冠状動脈内に直接注入され得るか、または、傷害された心臓組織に直接適用され得る。幹細胞および富化された幹細胞集団の投与のための方法および組成物は、当業者に公知であり、本発明の新規性の一部とはみなされない。
【0069】
以下の実施例は、単に本発明の種々の局面を例示するものとして提供され、多少なりとも本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0070】
(実施例1:)
この実施例は、正常なドナーから回収した骨髄のサンプルからの幹細胞集団の富化を簡単に記載する。骨髄サンプルを、接線流れ濾過による富化の前に、縮み誘導因子で処理した。簡単には、50mlの骨髄を正常なボランティアの寛骨から引き出し、ヒスタミンを補充した15mlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を添加して、凝固を防止した。一晩貯蔵した後、この調製物の3分の1(約33ml)を、水中30%のジメチルスルホキシド(33ml)と混合した。室温で10分間インキュベートした後、3mlの25%ヒト血清アルブミン(HSA)の溶液を添加し、そして、この混合物を、上に簡単に記載し、より完全には、2002年6月19日に出願された米国仮特許出願第60/390,730号およびWO2004/000444(各々が、参考として本明細書中に援用される)に記載される、接線流れ濾過デバイスの再循環チャンバ内にロードした。2回の容量の調節の後、混合物中の細胞を、接線流れ濾過に供し、0.625%のHSAを含むPBSを連続的に補充した。実行の終わりに、これらの細胞を回収し、分析した。この調製物は、実質的に赤血球および血小板を含まないことが分かった。全体の細胞数のうちのCD34細胞の割合は、4.78%から18.2%まで増加したが、蛍光流れ分析により測定した好中球ゲート(neutrophil gate)における細胞の割合は、53.9%から51.7%まで減少した。好中球ゲート中の細胞の平均方散乱(mean forward scatter)は、約400から約250まで減少し、細胞の損傷を示した。今日までの最適な方法は、骨髄吸引液を、DMSOおよびPBSの混合物で10〜20分間処理した後、TFFデバイスで60分間の濾過から構成される。DMSOショックは、存在する他の細胞集団に付随的な損傷を与えることなく、PMNの縮みを生じた。結果は、CD34/CD45細胞集団およびCD133細胞集団の濃縮であったが、PMN細胞およびリンパ球の減少した集団を提供する。1つのプロトコールにおいて、骨髄吸引液を、希釈したPBS中のDMSOで20分間処理し、その後、(細胞の安定化のために)ヒト血清アルブミンを添加し、引き続いて、TFFデバイスにロードした。結果は、投入した物質の具体的な細胞濃度に依存して変動し得る。2つの実施例の実行を、表Iに例示する。
【0071】
【表1】

【0072】
表Iは、細胞のサイズの減少およびTFFシステムによる除去に起因する、最初の最大74%から53%への、PMNの部分的な減少を示す。CD34/CD45細胞集団の富化は、実行1において5%から18%であり、実行2において4.2%から13%であった。さらに、リンパ球集団の減少は、実行1において16%から7%であり、実行2において18%から10%であった。回収された先祖細胞の数は、実行1において1100万個、実行2において1600万個であり、これらは、本明細書中で参照された臨床治験において回収されたものをはるかに超越している。これらの骨髄由来の幹細胞は、コロニー形成アッセイが、短期間にわたり、活発なコロニー形成を伴って実施されるという点で、正常な幹細胞機能が可能である、CD133細胞はまた、実行2に例示されるような、単離かつ濃縮された幹細胞集団にも存在し、0.1%が、出発物質中に存在したことに留意すべきであり、そして、1.3%が最終調製物中に存在した。
【0073】
(実施例2)
この実施例は、上記のように幹細胞が富化された細胞集団が、急性心筋梗塞を経験した患者を処置するための使用方法を記載する。簡単には、TFFで骨髄から精製した幹細胞を、急性心筋梗塞を経験した患者の冠状動脈に注入し、その後、ステントを移植する。引き続く心筋の再構築は、左心室の末期容量の増加および引き続く心不全による死亡の可能性の減少をもたらす。
【0074】
本明細書中に提供されるこれらの実施例は、特許請求される本発明の範囲を例示することが意図されるが、特許請求される本発明の範囲を制限することは意図されない。本発明の他の改変物は、当業者に容易に明らかであり、添付の特許請求の範囲により包含される。本明細書中に援用される全ての刊行物、特許、特許出願および他の参考文献はまた、本明細書中に参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【公開番号】特開2011−182803(P2011−182803A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−143589(P2011−143589)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【分割の表示】特願2006−541397(P2006−541397)の分割
【原出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(500513619)ノースウエスト バイオセラピューティクス,インコーポレイティド (9)
【Fターム(参考)】