説明

接触冷感と耐切創性に優れた防護布帛

【課題】耐切創性に優れ、且つ、着用時の清涼感に優れる防護布帛を提供する。
【解決手段】芯糸の周囲に、鞘糸1(2a)として、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維から選ばれたフィラメント糸をカバーリングし、さらに鞘糸2(2b)として、高強度ポリエチレン繊維をカバーリングしてなる二重被覆糸を用いてなる接触冷感と耐切創性に優れた防護布帛。鞘糸1が、パラ系アラミド繊維の捲縮糸であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は従来になく軽くて柔軟で、着用時の清涼感と耐切創性に優れた防護布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
軽くて柔軟な布帛は、使用する繊維の素材や目付を選択することによって得られるが、耐切創性も兼ね備えた布帛は、簡単に得ることができなかった。耐切創性に優れた布帛を得るには、樹脂の中にコロイダルシリカなどの粒子を混入し、布帛に樹脂加工するか、または他の耐切創性が優れた繊維を編織して使用するなどの手段がとられており、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、高強度ポリエチレン繊維などに代表される引っ張り強度が高く、特にヤング率の高い繊維が使用されていた。
【0003】
とりわけ、パラ系アラミド繊維は、耐切創性に優れる防護布帛として広く用いられている。例えば消防服、自動車レース用のレーシングスーツ、製鉄用作業服または溶接用作業服、手袋などの防護衣料として好んで用いられている。中でも、耐熱性とともに高強度特性をも併せ持ったパラ系アラミド繊維は、引裂き強さと耐熱性を要するスポーツ衣料や作業服、ロープ、タイヤコードなどに利用されており、また刃物によって切れにくいことから創傷防止のための作業用手袋などにも利用されている。
【0004】
パラ系アラミド繊維は、ポリパラフェニレンテレフタールアミド(PPTA)繊維が良く知られており、例えば米国特許第3,767,756号明細書、特公昭56−128312号公報にPPTA繊維の製造方法が開示されている。一方、メタ系アラミド繊維は、パラ系アラミド繊維のように耐切創性や、高い引っ張り強さはないが、その耐熱性を特長として消防服や断熱フィルター、耐熱収塵フィルター、電気絶縁材料などに用いられている。
【0005】
従来、これら耐熱高機能フィラメント糸を用いて衣料製品などの繊維製品を製造する際には、伸縮性のないフィラメント糸や紡績糸などの形態で該繊維が利用されているにすぎなかった。しかし、フィラメント糸や紡績糸などの伸縮性のない糸条を布地に加工し、消防服、レーシングスーツまたは作業服等の衣料製品を製造しても、該衣料製品の伸縮性が劣っているため、該衣料製品を着用した場合に、着心地が悪く、また活動しにくいという難点があった。また、同様に伸縮性の無い糸条から作られた従来の作業用手袋は着用感が悪く、作業効率を低下させる原因となっていた。
【0006】
かかる市場の要求に鑑みて、耐熱高機能フィラメント糸に捲縮を付与する方法についての研究、提案が多数なされている。例えば、パラ系アラミド繊維などの高弾性率繊維に低弾性率繊維を混合して押込み法により捲縮を付与する方法(特許文献1)、アラミド繊維をその分解開始温度以上、分解温度未満(メタ系アラミド繊維の場合390℃以上460℃未満)に加熱した非接触ヒーターを用い仮撚り捲縮加工した後、弛緩熱処理することにより捲縮を付与する方法(特許文献2)、パラ系アラミド繊維などの耐熱高機能繊維糸条に撚りを加えた後、130〜250℃での水熱処理または140〜390℃での乾熱処理により熱セットを行い、次いで撚りの解撚を行う方法(特許文献3)などが公知である。
【0007】
また、捲縮糸をストレッチ性のある弾性繊維の周りに捲回してなる被覆糸を用いて、織編物を構成することにより、耐燃焼性、耐熱性、ストレッチ性に優れる防護用手袋などが得られることも報告されている(特許文献4〜6)。
【0008】
しかし、上記の方法で得られた防護用手袋などでは、良好な耐熱性や耐切創性が得られるものの、アラミド繊維そのものの熱伝導率が低いため、着用時の清涼感が乏しく、蒸れやすいという欠点があった。一方、高強度ポリエチレン繊維を用いた防護手袋はその高い熱伝導率のため、着用時の清涼感に優れ、長時間の着用でも蒸れにくいという特徴があるが、耐切創性はアラミド繊維に及ばず、十分な耐切創性は得られなかった(例えば、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−192839号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−280120号公報(特許請求の範囲、[0024])
【特許文献3】特開2001−248027号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2004−011060号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2003−193345号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2003−193314号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特許第4513929号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、耐切創性に優れ、且つ、着用時の清涼感に優れる防護布帛を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)芯糸の周囲に、鞘糸1として、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維から選ばれたフィラメント糸をカバーリングし、さらに鞘糸2として、高強度ポリエチレン繊維をカバーリングしてなる二重被覆糸を用いてなる接触冷感と耐切創性に優れた防護布帛。
(2)鞘糸1が、パラ系アラミド繊維の捲縮糸である上記(1)に記載の防護布帛。
(3)芯糸が、弾性繊維である上記(1)または(2)に記載の防護布帛。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防護布帛は、従来では得られなかった、高い切創性を持ち、且つ、着用時の清涼感に優れるとともに、手袋などに用いた際のフィット性や着用時の作業性もよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で用いる二重被覆糸の一例を示す概略側面図である。
【図2】本発明で用いる二重被覆糸の製造方法の一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の防護布帛について詳細を説明する。図1は本発明の二重被覆糸の一例を示す概略側面図である。二重被覆糸(A)は、芯糸(1)の周りが鞘糸1(2a)によってカバーリングされ、さらに鞘糸2(2b)によってカバーリングされている。
【0015】
本発明の防護布帛の編織成に用いられる二重被覆糸において、芯糸としては、被覆糸に伸縮性が付与される点より、伸縮性のある弾性繊維が好ましく用いられる。弾性繊維としては、高い伸縮性をもつポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかるポリウレタン系弾性繊維は、その断面形状は特に限定されるものではなく、円形であっても扁平であってもよく、またその繊維はモノフィラメントであっても溶着されたマルチフィラメントであってもよい。
【0016】
かかる弾性繊維の繊度としては、11〜940dtexの範囲が好ましく、22〜350dtexの範囲がより好ましい。11dtex未満であるとカバーリングおよび手袋編成工程で糸切れの原因となり、また手袋における着用時のフィット性が十分なものを得ることができない。一方、940dtexを越えると、手袋編機のゲージ数に合わなくなるため好ましくない。また、破断伸度は300%以上であることが好ましく、300%未満であると手袋を形成した時に十分な伸縮性を得ることができない。
【0017】
本発明の防護布帛に用いられる二重被覆糸において、鞘糸1は、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維から選ばれたものが用いられる。これらの繊維はいずれも、原糸の特性として、JIS L 1013 8.5に準じて測定した引張強さが1.75N/tex以上と高強度であり、分解開始温度が400℃より高く耐熱性に優れたものである。前記引張強さが1.75N/tex未満の場合は、被覆糸を用いた布帛に高度の耐屈曲性と耐摩耗性などの耐久性を付与することができなくなり、防護用布帛には不向きなものとなる。好ましくは前記引張強さが1.75〜3.5N/tex程度である。
【0018】
ここで、パラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維(東レ・デュポン社製、商品名「ケブラー」)及びコポリパラフェニレン−3,4'−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商品名「テクノーラ」)等がある。また、全芳香族ポリエステル繊維としては、クラレ社製、商品名「ベクトラン」等があり、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維としては、東洋紡績社製、商品名「ザイロン」等がある。これらの繊維の中でも、高強度、高弾性率で耐切創性に優れている点からパラ系アラミド繊維が好ましく、特にポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維が好ましい。
【0019】
鞘糸1の繊度は、用途目的に応じ、表面外観、伸縮性、風合い等を考慮して適宜選択すればよい。鞘糸1の繊度は、用途目的に応じて20〜1600dtexの範囲が好ましい。
【0020】
さらに鞘糸1の単繊維繊度は、用途に応じて0.1〜10dtexの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.4〜5dtexの範囲である。0.1dtex未満では、製糸効率が低くコストアップとなり、10dtexを超えると、剛性が高く、柔軟性の求められる手袋には向かない。
【0021】
鞘糸1は、毛羽や埃が発生しにくいフィラメント糸が好ましく、また、該フィラメント糸を捲縮加工して得られる捲縮糸が、防護布帛に柔軟性が付与される観点より好ましく用いられる。前記捲縮糸は、例えばパラ系アラミド繊維等の高強力繊維からなる糸条に撚りを加える加撚工程と、次いで高温高圧水蒸気や高温高圧水を用いる湿熱処理や、電熱ヒーターなどを用いて乾熱処理をする加熱工程と、更に前記撚りを解く解撚工程と、を実施することにより製造される。製造方法としては、連続式仮撚加工法またはバッチ(非連続)式製造方法が挙げられ、より好ましくは、捲縮糸のかさ高性が良い点や、捲縮糸の繊維がバラけている点すなわち解撚状態が良い点から連続式仮撚加工法を用いる。
【0022】
より具体的に、連続式仮撚加工法を用いた製造方法について述べる。
【0023】
この仮撚加工法においては、送り出しローラーによって供給糸条チーズから引き出された糸は、ヒーター、仮撚り装置、巻き取りローラーを経て、巻き取りボビンに巻き上げられる。仮撚り装置には例えば仮撚りスピンドルではスピナーを装着でき、該スピナーのピンに糸を巻いて装着し、スピンドルを回転させると、送り出しローラーと仮撚りスピンド
ルの間の糸は、例えばS撚りが加えられ(加撚工程)、この撚りが加えられている糸をヒーターで熱セット(乾熱処理)し、仮撚りスピンドルと巻き取りローラーの間では前記と反対の例えばZ撚りが加えられることによって撚りが解かれ(解撚工程)て、捲縮糸となる。仮撚り装置と巻き取りローラーの間は冷却ゾーンであり、空気冷却に任せるのが好ましい。仮撚りを与える方法には上述の仮撚りスピンドルのほか、糸を高速回転する円筒の内壁や円盤の外周あるいは高速走行するベルトの表面と接触させ、摩擦によって仮撚りを与える方法、すなわちニップベルトやフリクションディスクなどが用いられる。
【0024】
上記の仮撚加工法による製造方法において、パラ系アラミド繊維の捲縮糸を製造する場合は、仮撚り加工前のパラ系アラミド繊維として、水分率が好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、特に好ましくは1〜10%のものを使用するのがよい。撚りを加える前の水分率が20%を超えると、乾熱処理において熱が糸へ効率よく伝わらなくなり熱セット効果が得られないために良好な捲縮糸になり難く、一方、撚りを加える前の水分率が1%未満であると、糸道ガイドなどの擦れにより糸がフィブリル化を起こす恐れがある。
【0025】
また鞘糸1として捲縮糸を用いる場合、鞘糸1がパラ系アラミド繊維である場合は、JIS L 1013 8.11 A法に準じて測定した伸縮伸長率が20%以上であることが好ましく、より好ましくは20〜70%である。伸縮伸長率が20%以上であると、布帛の伸縮性や柔軟性に優れるため、作業性の良いものとなり、一方、70%以下であると芯糸、特に弾性繊維との調和がよく、布帛に凹凸が発生せずに外観品位がよいものとなる。
【0026】
本発明の防護布帛に用いられる二重被覆糸において、鞘糸2は、接触冷感の点で熱伝導性に優れる高強度ポリエチレン繊維が用いられる。該高強度ポリエチレン繊維は、熱伝導率が5W/m・K(ワット毎メートル毎ケルビン)以上と高い。前記熱伝導率が5W/m・K未満の場合は、被覆糸を用いた布帛に接触冷感を付与することができなくなる。好ましくは前記熱伝導率が8〜80W/m・K程度である。ここで、高強度ポリエチレン繊維としては、東洋紡績社製、商品名「ダイニーマ」「ツヌーガ」、DSM社製、商品名「ダイニーマ」、ハネウエル社製、商品名「スペクトラ」等がある。
【0027】
また、該高強度ポリエチレン繊維は、原糸の特性として、JIS L 1013 8.5に準じて測定した引張強度が1.2N/tex以上と高強度である。前記引張強度が1.2N/tex未満の場合は、被覆糸を用いた布帛に高度の耐屈曲性と耐摩耗性などの耐久性を付与することができなくなり、防護用布帛に不向きなものとなる。好ましくは前記引張強さが1.2〜3.5N/tex程度である。
【0028】
鞘糸2は、毛羽や埃が発生しにくいフィラメント糸が好ましい。フィラメント原糸または該フィラメント原糸を捲縮加工して得られる捲縮糸のいずれでもよいが、糸の形態において効率よく接触冷感が得られる観点より、フィラメント原糸が好ましく用いられる。
【0029】
鞘糸2の繊度は、用途目的に応じ、表面外観、伸縮性、風合い等を考慮して適宜選択すればよいが、鞘糸1の繊度と同じかそれ以上で、且つ50〜1600dtexの範囲とするのが好ましい。鞘糸1の繊度より小さいと、被覆を良くするために鞘糸2のカバーリングの撚り数を高くする必要があるため、カバーリング加工設備への過負荷や生産効率面等で不具合が生じる。
【0030】
本発明の二重被覆糸は、優れた伸縮性を得る観点から、まず鞘糸1が芯糸の周囲を一重にカバーリングし、さらに鞘糸2が前記カバーリング糸の周囲を一重にカバーリングする。このカバーリング糸において、一重めのカバーリングに用いる鞘糸1を下撚り糸、二重めのカバーリングに用いる鞘糸2を上撚り糸という。上撚り糸のカバーリングの撚り方向は、トルクを打ち消すため、下撚り糸のカバーリングの撚り方向の逆方向にかけるのが好ましい。
【0031】
具体的には、芯糸となるポリウレタン系弾性繊維の周囲に、鞘糸1として、高強度かつ耐熱性に優れるパラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維またはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維をカバーリングし、さらに鞘糸2として、熱伝導率が高い高強度ポリエチレン繊維をカバーリングした二重被覆糸となし、該二重被覆糸を用いて編物や織物などの布帛にすることにより、接触冷感と耐切創性に優れた本発明の防護布帛が得られる。
【0032】
次に、本発明の二重被覆糸の製造方法について説明する。図2は本発明の二重被覆糸の製造方法の一例を示す概略模式図である。
【0033】
カバーリングの際には市販のカバーリング機等が好ましく用いられる。
【0034】
図2は、芯糸(1)の周囲に、鞘糸1(2a)を一重にカバーリングし、さらに鞘糸2(2b)を一重にカバーリングする例である。図2において、芯糸(1)として使用するポリウレタン系弾性繊維は転がし給糸ローラー(3)により積極送りされ、フィードローラー(4)との間でプレドラフトし、次いでフィードローラー(4)とデリベリローラー(11)の間で更にドラフトする。
【0035】
鞘糸1(2a)および鞘糸2(2b)は、市販の高速ワインダーにより、Hボビンに巻き取られた後、図2のように下段スピンドル(5)および上段スピンドル(7)に、夫々設置され、スピンドルを回転させることによって芯糸(1)に巻き付けられ、二重被覆糸(A)を形成する。
【0036】
得られた二重被覆糸(A)は、テイクアップローラー(13)によりチーズ(14)に巻き取られる。
【0037】
また、この時、鞘糸2のカバーリングの撚り方向は、トルクを打ち消すため、鞘糸1のカバーリングの撚り方向の逆方向にかけるのが好ましい。
【0038】
鞘糸1および鞘糸2を芯糸にカバーリングする際、鞘糸1および鞘糸2のカバーリングの撚り数は、鞘糸の繊度により適宜選択すればよいが、下記式(1)で表わされる撚り係数(K)の値が約500〜5,000程度、好ましくは約1,000〜3,000程度であるのが好適である。
【0039】
K=T×D1/2 (1)
〔但し、Tはカバーリングの撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す。〕
【0040】
また、鞘糸2のカバーリングの撚り数においては、鞘糸1のカバーリングの撚り数と同じかそれ以下とするのが好ましい。鞘糸1のカバーリングの撚り数より大きいと、前記同様にカバーリング加工設備への過負荷や生産効率面等で良くない。
【0041】
撚り係数(K)が小さすぎると、特に芯糸がポリウレタン系弾性繊維の場合、織物や編物等の布帛を形成した際、鞘糸1および鞘糸2の単位面積当たりの繊維量が少なくなり、鞘糸1が有している耐切創性、ならびに鞘糸2が有している熱伝導率の良さが反映されなくなる。
【0042】
一方、撚り係数(K)が大きすぎると、芯糸に対する鞘糸1の巻回数が多くなることで被覆糸を構成する芯糸と鞘糸、および鞘糸同士の隙間や、各鞘糸の単繊維の間隔が狭くなるため布帛の柔軟性が劣る。
【0043】
鞘糸1および鞘糸2を芯糸にカバーリングする際、芯糸のドラフトの倍率は、1.5〜5.0程度、好ましくは2.0〜4.0であるのが好適である。1.5未満であるとカバーリング工程の鞘糸が被覆しにくくなり、5.0を越えるとカバーリング工程において糸切れしやすくなり、生産性が悪くなる。この場合のドラフトの倍率は、全体すなわち図2の給糸ローラー(3)からデリベリローラー(11)の間のドラフトを指す。
【0044】
本発明において、二重被覆糸を用いた防護布帛とは、編物や織物、さらには組み紐などの組み物、ロープなどの糸条物から作製される編物や織物およびひも状物であり、それらは公知の加工装置により作製できる。
【0045】
本発明の防護布帛の接触冷感は、後述の試験方法にて得られるqmaxが0.08W/cm以上であり、好ましくは0.10W/cmである。qmaxが0.08W/cm未満の場合は、十分な清涼感が得られない。
【0046】
また本発明の防護布帛の耐切創性は、JIS T 8052:2005試験方法で得られる切創力が4N以上であり、好ましくは6N以上である。切創力が4N未満の場合は、十分な耐切創性能が得られない。
【0047】
かかる防護布帛表面には、接触冷感と耐切創性を阻害しない範囲で、ゴムまたは樹脂のコーティング材を被着することができる。
【実施例】
【0048】
以下実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0049】
各物性等の評価方法は、次の方法に依拠した。
【0050】
[繊度]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.3 B法(簡便法)により測定した。
【0051】
[引張強さ]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.5により引張強さを測定した。
【0052】
[伸縮性]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.11.A法により伸縮伸長率を測定した。測定前の前処理として、測定試料をかせ状にしてガーゼに包んだまま、90℃20分間の温水処理を行い、室温で自然乾燥させた。
【0053】
[接触冷感]
布帛の接触冷感は、カトーテック株式会社製、KES−F7、サーモラボII型を用いて、環境温度20℃、湿度65%RH、接触圧力98cN/cm、接触面積9cm(3cm×3cm)の測定条件にて熱移動量のピーク値qmax(W/cm)を測定した。なお、このqmaxの値が大きいほど、接触冷感が優れるものである。
【0054】
[耐切創性(切れ難さCut resistance )]
JIS T 8052:2005 防護服−機械的特性−鋭利物に対する切創抵抗性試験方法により切創力(N)を測定した。なお、この切創力の値が大きいほど、切れ難いものである。
【0055】
[実施例1]
総繊度440dtex、単繊維繊度1.7dtex、引張強度2.0N/tex、水分率が7%のポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維(以下PPTAと記す)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のフィラメント糸条を用いて、加撚方向がS方向の仮撚り加工を行い、PPTAフィラメントの捲縮糸を得た。得られた捲縮糸の伸縮伸長率は22%であった。
図2に示されるカバーリング工程を使用して、繊度117dtex、破断伸度530%のポリウレタン系弾性繊維(東レ・オペロンテックス株式会社製、商品名「ライクラ」(登録商標))を芯糸に用い、鞘糸1(下撚り糸)として前記で得られたパラ系アラミド繊維の捲縮糸をらせん状に巻き付け、さらに鞘糸2(上撚り糸)として総繊度440dtex、単繊維繊度1.1dtex、引張強度2.7N/tex、熱伝導率50W/m・Kの高強度ポリエチレン繊維(東洋紡績株式会社製、商品名「ダイニーマ」(登録商標)、SK60)のフィラメント糸条をパラ系アラミド繊維の捲縮糸と反対方向にらせん状に巻き付けて、以下の加工条件にて被覆糸を得た。
【0056】
スピンドル回転数:5000rpm
芯糸のドラフト:3.0倍
鞘糸1(下撚り糸)のカバーリング撚り数Tとその撚り方向:350回/m、S方向
鞘糸2(上撚り糸)のカバーリング撚り数Tとその撚り方向:350回/m、Z方向
【0057】
得られた被覆糸を1本、13ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給して、重さ26g/枚、掌部の目付360g/mの手袋を編みあげた。この手袋は、ソフトでボリューム感豊かな風合いを有し、伸縮性に富み装着感がよく、接触冷感(qmax:0.17W/cm)、耐切創性(切創力:6.5N)とも優れるものであった。
【0058】
[実施例2]
鞘糸2(上撚り糸)として、総繊度440dtex、単繊維繊度1.2dtex、引張強度1.4N/tex、熱伝導率10W/m・Kの高強度ポリエチレン繊維(東洋紡績株式会社製、商品名「ツヌーガ」(登録商標))のフィラメント糸条を用いたほかは、実施例1とまったく同様の方法で手袋を作製した。
得られた手袋は、重さ25.5g/枚、掌部の目付350g/mであり、ソフトでボリューム感豊かな風合いを有し、伸縮性に富み装着感がよく、接触冷感(qmax:0.14W/cm)、耐切創性(切創力:7.2N)とも優れるものであった。
【0059】
[比較例1]
鞘糸2(上撚り糸)として、総繊度470dtex、引張強度0.7N/tex、熱伝導率1.5W/m・Kのナイロン繊維(東レ株式会社製)のフィラメント糸条を用い、カバーリング撚り数Tを335回/mとしたほかは、実施例1と同様の方法で手袋を作製した。
【0060】
得られた手袋は、重さ27g/枚、掌部の目付370g/mであり、ソフトでボリューム感豊かな風合いを有し、伸縮性に富み、耐切創性(切創力:6.0N)が優れるものであったが、接触冷感(qmax:0.06W/cm)に欠け、清涼感が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の防護布帛は、清涼感と耐切創性に優れているので、漁業、農業、食品産業、医療、ハイテク産業等における作業用防護手袋あるいはスポーツ用防護手袋などに有用である。
【符号の説明】
【0062】
A :被覆糸
1 :芯糸
2a:鞘糸1
2b:鞘糸2
3 :転がし給糸ローラー
4 :フィードローラー
5 :下段スピンドル
6 :下段ベルト
7 :上段スピンドル
8 :上段ベルト
9 :Hボビン
10 :スネルガイド
11 :デリベリローラー
12 :ガイドバー
13 :テイクアップローラー
14 :チーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸の周囲に、鞘糸1として、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維から選ばれたフィラメント糸をカバーリングし、さらに鞘糸2として、高強度ポリエチレン繊維をカバーリングしてなる二重被覆糸を用いてなる接触冷感と耐切創性に優れた防護布帛。
【請求項2】
鞘糸1が、パラ系アラミド繊維の捲縮糸である請求項1に記載の防護布帛。
【請求項3】
芯糸が、弾性繊維である請求項1または2に記載の防護布帛。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−207328(P2012−207328A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72580(P2011−72580)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】