説明

接触冷感に優れた編地及び該編地を用いてなる接触冷感肌着

【課題】編糸が綿100%、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる編地であって、接触冷感性能Q-max値が0.3W/cm2以上の肌着用編地を提供する。
【解決手段】綿100%、又は綿/再生セルロース混紡よりなる糸をガス焼きして毛羽を除去し、糸又は糸を編成後の編地にシルケット加工を行うか、シルケット加工糸を編成した編地に再度シルケット加工を行った後、バイオ加工することによって得られる接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感に優れた編地を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体皮膚に対する接触冷感に優れた編地及び該編地を用いた肌着に関する。
【背景技術】
【0002】
編織物に接触冷感を付与する方法としては、天然繊維や合成繊維からなる編織物に、接触冷感効果を有する機能剤などを固着させる、或いは接触冷感性能を有する繊維で構成された糸を用いて製編織を行う等の方法が採用されてきた。
【0003】
繊維材料に機能材を固着させるものとしては、特開2002-235278号では、吸水性ポリマーを内包した多孔質無機粉末粒子を繊維に把持させたもの(特許文献1)、特開2004―332168号では、分子量が2000以下のポリオール類をセルロース繊維重量に対して2〜30重量%を含浸、乾燥、硬化して固着させた変性セルロース系繊維(特許文献2)、特開2006-161226号では融点が25〜37℃であり、潜熱の放出・吸収を伴って可逆的に固液相転移する潜熱蓄熱材を封入してなるマイクロカプセルが繊維に固着されてなることを特徴とする接触冷感性能を有する繊維構造物が開示されている(特許文献3)。
【0004】
また、使用する繊維或いは構造に特徴のあるものとしては、特開2004-270075号では、ポリエーテルブロックアミド共重合体である熱可塑性エラストマーを含有し、Q-max値0.2J/sec/cm2以上であることを特徴とする接触冷感に優れた繊維を使用したものが提案されており(特許文献4)、また、特開2008−308804号では、単層又は複層で形成されている織物からなる衣料用布帛であって、裏面が主として仮撚加工が施されたフィラメントであり、親水性のエチレンビニルアルコール樹脂を少なくとも表層に含む捲縮繊維糸で形成されていることにより、接触冷感と吸汗性に加えて多量発汗時のべたつきを抑え、快適性の高い衣料用布帛及びこれを用いた衣類も開示されている(特許文献5)。上記のような機能剤を固着させたものは衣料に使用した場合、湿潤時の不快感を防止することができ、かつ、優れた風合いや肌触りを付与するとされている。
【0005】
しかしながら上記したような機能剤を繊維もしくは繊維材料表面に固着させたものが充分な接触冷感を得るためには、大量の薬剤を含有させる必要があり、風合いや肌触りが悪くなるという欠点があった。また、機能繊維を使用する場合は、理論的には接触冷感が期待できるものの、いまだその性能は充分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002―235278号公報
【特許文献2】特開2004―332168号公報
【特許文献3】特開2006-161226号公報
【特許文献4】特開2004-270075号公報
【特許文献5】特開2008−308804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、編糸が綿100%、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる編地であって、接触冷感性能Q-max値が0.3W/cm2以上の肌着用編地を提供することを目的とする。
これまで接触冷感機能を有する薬剤を使用せず、綿又は綿/再生セルロース混紡素材固有の風合いや肌触りが良好で、接触冷感機能Q-max値が0.3W/cm2以上の性能を持つ綿100%、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる肌着はなかった。そこで、本発明では接触冷感に優れた綿100%、又は綿/再生セルロース混紡糸編地を得る方法として、シルケット加工によって繊維自体の吸湿性能を向上させて水分率を高めることで生地の吸熱性能を高め、更に糸でのガス焼きによる毛羽除去、編地のバイオ加工を行って生地の毛羽を抑えて平滑にすることで、肌との接触面積を増大させ、肌から生地へ熱が伝わり易くし、上記接触冷感機能の向上を達成した。尚、本発明で述べるQ-max値が0.3W/cm2以上とは、Q-max値が一定面積、一定質量の熱板に所定の熱を蓄え、これが試料表面に接触した直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱流量のピーク値である。したがって、Q-max値は、着衣したときに試料に奪われる体温を体現していると考えられる。したがって、Q-max値が大きいほど接触冷感性能が高いとされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる糸を編成して得られる、接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感性能に優れた編地に関する。接触冷感性能は、上記の測定法によって得られた値である。
接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感性能に優れた編地は、綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる糸を、ガス焼きして毛羽を除去して糸の状態でシルケット加工をして編地とするか、またはガス焼きして毛羽を除去した糸を編地に編成後編地にシルケット加工を行った後に、編地をバイオ加工することによって得られる。更に、綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる糸をガス焼きして毛羽を除去し、ついでシルケット加工を行って得た糸を編成して編地となし、該編地に再度シルケット加工を行った後にバイオ加工することにより、接触冷感性能がより優れた編地を得る。編地の編成はフライス地として編成することが好ましく、編地は肌着として使用することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明による肌着用編地は、従来品に見られるように綿素材に対して、各種薬剤を使用して製品素材を加工するか、もしくは、吸水性、蓄熱性を有する微粒子を繊維に付着させたり、綿以外の機能性繊維材料を混合したりして接触冷感を高めるものではなく、従来知られている技術を組み合わせることにより、接触冷感性を高めQ-max値が0.3W/cm2以上の肌触りの良い肌着用編地を得ることが出来たものである。
このように、本発明の肌着用編地は、素材表面に何等の異成分が存在せず、編地が肌に密接して身体表面の熱や汗を吸収するよう構成されているので、着心地が良く安心して着用することができる肌着用素材である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる糸を使用する。糸の使用番手は細番手のものが良く、好ましくは双糸で番手40/2以上、更に好ましくは番手60/2以上のものを用いる。本発明の製造工程においては、まず、原糸を常法によりガス焼きして毛羽を除去し、皮膚面への接触を良好とする。ついでシルケット加工を行うが、この処理は、糸の状態で連続的に、又は綛の状態でシルケット加工を行った後、編成して編地とするか、又は毛羽を除去後、糸を編成して編地にシルケット加工を行う。
【0011】
更に、糸の状態でシルケット加工を行った後、編地に編成後再度シルケット加工を行うことにより、より接触冷感性の高い編地を得ることが出来る。シルケット加工は、通常の条件によりNaOH処理、一次絞り、温水洗浄、及び二次絞り等の処理を行う。シルケット加工により、苛性ソーダ液によって綿糸は膨潤して繊維断面が円形に近づき、表面が平滑になると同時に吸湿性も向上する。編地の編成においては、肌着とした場合の肌への密着性を大とする緻密な編地とすることが好ましく、天竺、スムース、フライス編みが適当であり、特にフライス編みとして編成するのが好ましい。
【0012】
シルケット加工を終えて編成され、又はシルケット加工を終えた編地は、ついでバイオ加工を行う。公知のセルロース分解酵素であるセルラーゼを使用し、処理温度、処理溶液のpHを適宜選択して処理を行う。温水での洗浄により繊維内に浸透した繊維分解酵素の機能を停止させる失活処理を行う。バイオ加工により、加工工程中で発生した編地のピリング及び毛羽立ちを除去し、平滑で滑らかな表面として肌と編地との接触面積を増大させ、肌から生地へ熱が移動する効果を高めることが出来た。本発明による編地について接触冷感性能を測定したところ、Q-max値が0.3W/cm2以上の編地であった。前記のような処理を行うことによって得られた編地は、接触冷感性能が従来の編地に較べて格段に優れているので、この編地によって編成される肌着は、吸湿性、涼感に優れたものである。
【実施例】
【0013】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
綿100%の番手80/2の綿糸を毛焼き後にシルケット加工を行った。シルケット加工を行った綿糸はフライス編みで編成を行った。
編み条件は30インチ、18ゲージ、編込み長456mm/100Wである。編地は、同様の条件で再度シルケット加工をし、バイオ加工を行った。シルケット加工は苛性濃度20%×30℃の処理浴に60秒浸漬後、水洗、湯洗、中和、水洗を連続的に行った。
バイオ加工は、セルラーゼ2g/l×50℃の処理浴で60分間処理を行った後、湯洗、水洗を行い、その後80℃×30分で失活処理を行う。得られた編地、試料1について接触冷感性能と吸湿性を測定した。
【0014】
Q-max値の測定
20.5℃の温度に設定した試料台の上に20cm角に切った編地を置き、編地の上に40.5℃の温度に温められた貯熱板を接触圧0.098N/cm2で重ねた直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱量のピーク値を測定した。測定には、サーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いた。
吸湿性の測定
5cm角に切った試料を乾燥機において4時間放置し、シリカゲル入りのデシケーター内に一晩放置したのち試料の絶乾重量を測定する。20℃×65%RHの環境下に24時間放置したのち試料の重量を測定する。その後、20℃×90%RHの環境下に24時間放置したのち重量を測定する。それぞれの重量から絶乾重量を引くことで吸湿量を求めた。
この実施例1で得られた試料1の接触冷感性能は、0.352W/cm2で、吸湿性は、20℃×65%RHの環境下では8.5%、20℃×90%RHの環境下では13.4%であった。
【0015】
〔実施例2〕
綿/レーヨン=30%/70%の80/2の糸を使用する以外は実施例1と同じ条件で処理を行い接触冷感性能、及び吸湿性を測定した。実施例2で得られた試料2の接触冷感性能は、0.321W/cm2で、吸湿性は、20℃×65%RHの環境下では10.5%、20℃×90%RHの環境下では16.9%であった。
【0016】
〔実施例3〕
綿100%の番手80/2の綿糸を用いフライス編みで編成を行った。編み条件は実施例1と同様の条件で行った。糸でのガス焼き、糸のシルケット加工、編地のバイオ加工は行うが、編地のシルケット加工は行わない。この実施例で得られた試料3の接触冷感性能は、0.303W/cm2で、吸湿性は、20℃×65%RHの環境下では8.1%、20℃×90%RHの環境下では12.1%であった。
〔実施例4〕
綿100%の番手80/2の綿糸を用いフライス編みで編成を行った。編み条件は実施例1と同様の条件で行った。糸でのガス焼き、編地のシルケット加工、編地のバイオ加工は行うが、糸のシルケット加工は行わない。この実施例で得られた試料4の接触冷感性能は、0.322W/cm2で、吸湿性は、20℃×65%RHの環境下では8.2%、20℃×90%RHの環境下では12.3%であった。
【0017】
比較例1〜4の作成
比較のため、比較例1〜4について試料5,6,7,8をそれぞれ作成し、その性能を測定した。
〔比較例1〕
綿100%の番手80/2の綿糸を用いフライス編みで編成を行った。編み条件は実施例1と同様の条件で行った。糸でのガス焼き、糸、編地のシルケット、バイオ加工は行わない。(試料5)試料5の接触冷感性能は、0.265W/cm2で、吸湿性は、20℃×65%RHの環境下では7.2%、20℃×90%RHの環境下では10.6%であった。
〔比較例2〕
綿100%の番手80/2の綿糸を用いフライス編みで編成を行った。編み条件は実施例1と同様の条件で行った。糸でのガス焼き、編み地のバイオ加工は行い、糸、編地のシルケット加工は行わない。(試料6)試料6の接触冷感性能は、0.274W/cm2で、吸湿性は、20℃×65%RHの環境下では7.2%、20℃×90%RHの環境下では10.6%であった。
【0018】
〔比較例3〕
綿100%の番手80/2の綿糸を用いフライス編みで編成を行った。編み条件は実施例1と同様の条件で行った。編地のシルケット加工のみ行い、糸でのガス焼き、糸、編地のシルケット加工、編地のバイオ加工は行わない。(試料7)試料7の接触冷感性能は、0.285W/cm2で、吸湿性は、20℃×65%RHの環境下では7.9%、20℃×90%RHの環境下では11.9%であった。
〔比較例4〕
綿100%の番手80/2の綿糸を用いフライス編みで編成を行った。編み条件は実施例1と同様の条件で行った。糸でのガス焼き、糸のシルケット加工を行い、編地のシルケット加工、バイオ加工は行わない。(試料8)試料8の接触冷感性能は、0.291W/cm2で、吸湿性は、20℃×65%RHの環境下では8.1%、20℃×90%RHの環境下では12.1%であった。
上記実施例及び比較例によってえられた試料1〜8の加工条件及び性能についての測定結果を下表に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
上記のように、本発明によって得られる肌着用編地は、接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感に優れた編地である。本発明においては、毛羽を除去した糸、又は該糸を用いて編成されたフライス地にシルケット加工を行い、編地をバイオ加工することによって接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感に優れた編地が得られた。一方、比較例から明らかなように、シルケット加工、及びバイオ加工のいずれかのみを行っても、本発明による接触冷感性能効果を達成することができなかった。
次に、本発明肌着製品と、従来法による肌着製品について、8名の着用者による接触冷感着用官能試験を行った。
【0021】
【表2】

表2より、実施例1〜4で作成した編み地はQ-max値が高く、吸湿性も高く、官能試験においても冷感を感じた被験者が多かった。
一方、比較例1〜4で作成した編み地はQ-max値が低く、吸湿性も低く、官能試験においても冷感を感じた被験者は少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明による肌着用編地は、綿素材に対して各種薬剤を使用して製品素材を加工するか、綿以外の機能性繊維材料を混合したりして接触冷感を高めるものではなく、従来知られている技術を組み合わせることにより接触冷汗性能を高めた綿又は綿/再生セルロース混紡素材よりなる編地であるので着心地が良く、安心して着用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる糸を編成して得られる、接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感性能に優れた編地。
【請求項2】
綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる糸を、ガス焼きして毛羽を除去してシルケット加工を行った後に該糸を編成し、編地をバイオ加工することによって得られる、接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感性能に優れた編地。
【請求項3】
綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる糸を、ガス焼きして毛羽を除去して編成後、編地にシルケット加工を行った後にバイオ加工することによって得られる、接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感性能に優れた編地。
【請求項4】
綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなる糸をガス焼きして毛羽を除去し、ついでシルケット加工を行って得た糸を編成して編地となし、該編地に再度シルケット加工を行った後にバイオ加工することによって得られる接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感性能に優れた編地。
【請求項5】
接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感性能に優れた編地の編成を、フライス地として編成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の編地。
【請求項6】
綿100%よりなる糸、又は綿/再生セルロース混紡糸よりなり、接触冷感性能がQ-max0.3W/cm2以上である接触冷感性能に優れた請求項1乃至5のいずれかに記載の編地よりなる肌着。

【公開番号】特開2010−281002(P2010−281002A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134166(P2009−134166)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】