説明

接触帯電装置

【発明の詳細な説明】
イ.発明の目的〔産業上の利用分野〕
本発明は接触帯電装置に関する。更に詳しくは、外部より電圧を印加した帯電部材を被帯電体に当接させて帯電(除電を含む)を行う装置の改善に関する。
〔従来の技術〕
以下、便宜上電子写真複写機等における被帯電体たる感光体に対する接触帯電装置を例にして説明する。
従来この種の接触帯電装置においては、1KV程度の交流成分を含む直流電圧を外部より印加した導電性繊維毛ブラシあるいは導電性弾性ローラ等の帯電部材(導電性電位維持部材)を感光体表面に接触させることにより、該感光体表面上に電荷を導いて所定の電位に帯電するように構成されていた。
第8図は従来のこの種の接触帯電装置の一例を示す概略構成図である。
図においては1は感光体、2は帯電部材としての帯電ローラ、3は電源を示す。
帯電ローラ2は、導電性金属芯棒2aの周囲にEPDM・NBR・発泡ウレタンゴム等のゴム層2dを形成した単層構成のものである。従来このローラ2の体積抵抗率は101Ωm程度のものを用いていた。これはニップ部分(本書では帯電ローラ2と感光体1との接触面積をいい、本例では幅1mm、長さ220mmである)の抵抗で1.89×102Ωに相当する。但し帯電ローラ2は外径φ12mm、ゴム層2dの厚さ3mmの場合である。
〔発明が解決しようとする問題点〕
しかし実際には被帯電体たる感光体面を上記のような帯電ローラで帯電処理する場合、感光体面にピンホールがあると、その部分が正常に帯電されないという欠点があった。
つまり帯電ローラと感光体面上のピンホールが対峙した時に、帯電ローラからピンホールに向けて火花放電が発生し大電流が流れる。その結果、帯電ローラに印加している電源出力が低下し、その部分の感光体表面上の帯電が正常に行われなくなるものである。その場合感光体上には軸方向全長に渡って電位が正しくのらなくなり、画像として反転現象では黒くなり(一般に黒オビと呼ぶ)、正規現象では白く抜ける(一般に白オビと呼ぶ)現象があらわれる。
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、接触帯電装置における上記の感光体等の被帯電体表面の損傷による帯電不良を防止するとともに、安定した帯電性能を有する接触帯電装置を提供することを目的とする。
ロ.発明の構成〔問題点を解決するための手段〕
本発明は、被帯電体と接触して被帯電体を帯電する帯電部材と、前記帯電部材に電力を供給する電源と、を有し、前記帯電部材は導電性基体と、抵抗層と、を備える接触帯電装置において、前記抵抗層の体積抵抗率をρ、前記抵抗層の厚さをl、前記電源の電圧をE、前記電源の容量をPとすると

ただしA=(1×10-3)2[m2
を満たすことを特徴とする。
〔作用〕
上記の構成により、帯電部材の最終表面電位が火花放電開始電位より低く、かつ帯電開始電位以上になるような抵抗と静電容量をそなえた層を帯電部材が有することで、被帯電体上の欠陥部分(ピンホール)と帯電部材が対峙しても火花放電が生ずることなく、しかも被帯電体を均一に安定に帯電させることが可能となる。
〔実施例〕
以下、本発明を図に基づいて具体的に詳述する。第1図は本発明の一実施例を示す接触帯電装置の概略構成図である。
図において、1は被帯電体としてのドラム状電子写真感光体の一部であり、ドラム基体1aの外周面に感光層(有機半導体、アモルファスシリコン、セレン等の光導電性半導体材料層)1bを形成してなるもので、矢示a方向に所定の速度で面移動駆動される。なお上記の感光体はドラム状に限らずベルト状もしくはシート状であってもよい。
2は上記のドラム状感光体(以下感光ドラムという)1面に所定圧力をもって接触させた帯電部材としての帯電ローラであり、感光ドラム1の回転に伴い矢示方向に従動回転する。
その帯電ローラ2は、例えば金属芯棒(導電性基体)2aの周面に、体積抵抗率が10Ωm程度になるように処理したEPOM・NBR・発泡ウレタンゴム等の導電性弾性ゴム層(以下、内層という)2bと、体積抵抗率が1014Ωm程度のマイラ・ナイロン等の抵抗層(以下、外層という)2cとを被覆した二層構成のものを用いる。ただし二層以上設けることもある。この場合、各層の抵抗及び静電容量の和を帯電ローラ2の抵抗及び静電容量とし説明を行う。
3は帯電ローラ2に電圧を印加する電源であり、直流電圧(DC)に交流電圧(AC)が重畳されている。なお、本実施例では、AC成分は感光ドラム表面電位を均一にするために重畳されているものとしてとらえ、各部分の電位変化のモデルとしては、DCを帯電ローラに印加した場合の過度現象と等価であるとし説明を行う。
a)帯電不良対策まず始めに、感光ドラム上のピンホールが帯電ローラと対峙した時に発生する帯電不良の対策を前記第8図のような単層構成の帯電ローラを用いて検討を行った。
感光ドラム上のピンホールが帯電ローラと対峙した時に感光ドラム上に正常に帯電できなくなるのは、前述のように帯電ローラからピンホールに向けて火花放電が行われ、大電流が流れるからである。
その結果、流れる電流が電源の容量を越えてしまい、電源出力が低下して感光ドラムへの帯電が行われなくなるものである。
そこで、火花放電対策としては、帯電ローラとピンホールが対峙した時に、通常より多くの電流が流れたとしても、それが電源出力低下の原因とならないような電源容量を電源に持たせればよい。
そこで電源容量をP、ピンホール部分の帯電ローラの抵抗をR、電源電圧をEとすると、

の関係を満たす電源容量であればよい。
さらに、体積抵抗率の定義より、

ただし、ρ:帯電ローラの体積抵抗率l:帯電ローラの肉厚A:ピンホールの面積であるから、

の関係を満たすρlであれば火花放電による帯電異常は発生しない。ここで例えばA=(1×10-3)2〔m2〕、EはDC成分−750V、AC成分Vpp=1500Vとし、Pは10Wとすると、

という条件を得る。
ここで帯電ローラの肉厚lを例えば、3.0mmとするとρの範囲はρ>2.81×101Ωm ……(5)
となる。
b)交流の通りにくさところが前記第8図に示したような単層構成の帯電ローラでは、均一帯電のために印加されている交流が通りにくいという問題が発生した。
つまり、ニップ部での抵抗は帯電ローラの高湿環境下での吸水による抵抗の低下を考慮して十分に余裕をもたせ1.14×1010Ω程度のものを使うことになる。
しかしこの抵抗をもつ帯電ローラへの印加電圧を交流で1600Vppとした場合、電源は0.05μAしか流れない。
その結果交流による感光ドラムの電位ならし効果が期待できず、感光ドラム上に帯電ムラが発生した。
c)交流を通すそこで次に前記第1図に示すような二層構成の帯電ローラ2を用い、該ローラ2の内層2bには101Ωmの材料を、また外層2cにはニップ部分での抵抗(内層と外層の和)が前記の単層の抵抗値(1.14×1010Ω)と等しくなる材料を選出した。すると外層2cは体積抵抗率は大きくなるが、静電容量も同時に具備することになった。
その結果、この帯電ローラを流れる交流は0.6mAにもなり、電位ならし効果により感光ドラム上での帯電ムラも解消された。
d)帯電ローラの帯電能力さらに、より大きなピンホールに対する火花放電対策、および、より大きな交流を流すことによる帯電ムラの低減効果を考えた場合、帯電ローラのニップ部分の抵抗及び静電容量はより適切な値が要求される。
そこで帯電ローラの外層2c部分の材料を種々検討した。しかし材料によっては帯電ローラの表面電位がローラの回転と共に徐々に低下し、ついには所望の電位を感光ドラムに帯電できなくなるものもあった。
そこで計算により、帯電ローラ2の表面電位変化を求め、帯電ローラ2の外層2c部分の適切な抵抗と静電容量の範囲を求めた。
e)帯電ローラの表面電位変化まず等価回路を用いて、帯電ローラ1回転分の電圧変化を求めた。次に回転数を無限回にした時の帯電ローラ表面の電圧を求めた。さらに感光ドラムに帯電可能な帯電ローラ表面電位を実験により求めた、その条件を満たす帯電ローラ外層2cの抵抗と静電容量範囲を求めた。
第2図は前記第1図における帯電ローラ2と感光ドラム1との成す等価回路を示す。
図において、C1・R1はニップ部分の感光ドラム1の静電容量と抵抗、C2・R2はニップ部分の帯電ローラ2の静電容量と抵抗、R3は帯電抵抗、E2は帯電開始電圧、E1は印加電圧、V1・V2はそれぞれ感光ドラム1と帯電ローラ2の電圧、Sは帯電ローラの周面上における或る特定の部分がニップ部に突入したときオン・離れるときオフとなることを表わすスイッチである。
上記第2図の等価回路より導出した帯電ローラ2の表面電位の変化を第3図に示す。
図中t1は帯電ローラがニップ部を通過するのに要する時間、t2は帯電ローラが1回転する時間である。
ここでt=0の時の帯電ローラ表面電位は次のようになる。


ただしV20は帯電ローラの初期値である。
またニップ部分での帯電ローラの電圧は



と表わされ、次いでニップを離れて再度ニップ部に突入するまでの帯電ローラ電圧は、



のように表わされる。
帯電ローラが回転するに従い、帯電ローラの表面電圧は上記式(6)・(7)・(8)を満たしながら変化する。
また帯電ローラがニップ部を離れる時の帯電ローラ電位は第3図中の一点鎖線で示される。
ここで帯電ローラの回転数を無限回としたときニップ部を離れる時の帯電ローラの最終表面電圧Vn→∞は次のように示される。




第3図中(6)〜(9)は上記式(6)〜(9)の示す部分を明示したものでる。さらに二点鎖線は感光ドラムの表面電位変化を示している。これは常に帯電ローラの表面電位よりもE2(帯電開始電圧)の分だけ低い。
第3図ではVn→∞が帯電開始電圧E2より大きい場合を示している。つまりこの場合、この帯電ローラの外層2Cの抵抗と静電容量は十分に帯電能力をもっていることを示している。
f)R2・C2の範囲を求める。
次に帯電ローラを無限回回転した時の帯電ローラ表面電位が帯電開始電圧E2より大きくなる帯電ローラ外層2cの抵抗R2と、静電容量C2の範囲を前記(9)式を用いて求めた。条件として印加電圧E1=−1300V、感光ドラムのニップ部分での抵抗R1=4.00×1012Ω、静電容量C1=3.10×10-10Fとした。
また帯電開始電圧E2は以下の方法で実測により求めた。即ち、帯電ローラの抵抗R2がほぼ0である帯電ローラを用い、印加電圧E1と感光体表面電圧V1の関係をまず求めた。
第4図はその結果を示したもので、縦軸に感光体表面電圧V1、横軸に印加電圧E1をとり、その印加電圧E1を変化させて、それに対する感光体表面電圧V1をプロットしたものである。なお感光体はOPCを用いた。
この図より次の関係が導出される。
V1=E1−E2 =E1−(−560) ……(10)
したがってE2=−560Vが実験的に求められた。この結果から次のことが云える。つまり、印加直流電圧E1に対し帯電は閾値を有し、約−560V(但しこの電圧は印加する電源の極性感光体の容量に依存する値である)から帯電が開始し、その帯電開始電圧以上の電圧印加に対しては、得られる表面電位V1はグラフ上傾き1の直線的な関係がある。
さらにはこの特性は環境特性的(例えば高温・高湿、低温・低湿環境)にも、ほぼ同等の結果が得られた。
以上の条件において帯電ローラを無限回回転した時の帯電ローラ表面電位が帯電開始電圧E2以上になるR2・C2の範囲を前記(9)式から導くことができる。その計算結果を第5図に示す。
第5図中○印はE1−V2が帯電開始電圧より大きくなるR2C2
×印はE1−V2が帯電開始電圧より小さくなるR2C2を示す。
図から明らかなようにR2C2が以下の範囲を満足すれば、帯電ローラ表面電位は帯電開始電位より高くなることが云える。
1)C2≧10-2.1(F)のときR2≦1015(Ω)
2)10-2.1(F)>C2≧10-9(F)のときR2≦1012(Ω)
3)C2<10-9(F)のときR2≦104/C2また前記(4)式よりl=100μの場合の体積抵抗率ρは、ρ>8.44×10-2×(100×10-6)-1=8.44×102〔Ωm〕
となる。
また外層2cに上記の条件を満たす体積抵抗率ρを持たせたときのニップ部分の抵抗R2は次のように求められる。


したがって上記の結果と前記1)・2)・3)の結果より、R2の範囲は最終的に次のようになる。
4)C2≧10-2.1(F)のとき3.87×102(Ω)<R2≦1015(Ω)
5)10-2.1(F)>C2≧10-9(F)のとき3.87×102(Ω)<R2≦1012(Ω)
6)C2<10-9(F)のとき3.87×102(Ω)<R2≦104/C2次に、帯電ローラ2の外層2cとして、前記第5図における○印の領域にある厚さ25μのセロハン(R2=1.14×1010Ω、C2=3.89×10-10)を用いたところ、次のような結果を得た。
E1=−1300Vを印加して感光ドラム1の電位を測定したところ−380Vとなり、前記(9)式より得られる感光ドラムの表面電位−378Vとよく一致し、このモデルが正しいことが証明された。
さらに感光ドラム上にピンホールをつくってもリークは全く発生せず帯電ムラのない安定した画像が得られた。
なお前記の実施例においては帯電部材をローラ状に形成したが、例えば第6図に示すように、帯電ローラ2の外層2cをベルト状にしてもよい。このように構成すると、外層2c中の残留電荷が消去する時間が長くとれ、帯電能力の回復が促進される。その結果、外層2cの材料の抵抗はより大きなものまで選ぶことが可能となり、材料の選択の幅が広がるという利点がある。さらにベルト状にすることで帯電幅も広がりより確実な帯電が可能となる。
また第7図のように帯電ローラの内層2bを中空のハニカム状、又はスポンジ状にしてもよい。このようにした場合、簡単に広いニップ幅を得ることが可能となり、ベルト状にした場合と同じ効果が得られる。
また本実施例では帯電ローラに印加する外部電源の極性はマイナスで説明してきたが、プラスの場合も同様に説明できる。
ハ.発明の効果以上説明したように本発明によれば、帯電部材の抵抗層の体積低効率をρ、この抵抗層の厚さをl、帯電部材に電力を供給する電源の電圧をE、電源の容量をPとすると

ただしA=(1×10-3)2[m2
を満たすようにしたことにより以下のような効果が得られる。
帯電部材の抵抗と静電容量とを上記のような条件に設定することにより、被帯電体にピンホールなどの欠陥があっても、その部分で帯電不良を生ずることなく、しかも被帯電体を安定に帯電することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例を示す接触帯電装置の概略構成図、第2図はその等価回路図、第3図は帯電部材(帯電ローラ)の表面電位の変化を示すグラフ、第4図は印加電圧と感光体表面電圧との関係を示すグラフ、第5図は帯電ローラが無限回回動したときその表面電位が帯電開始電圧以上になる場合とならない場合の抵抗と静電容量との関係を示す説明図、第6図・第7図は本発明の他の実施例を示す接触帯電装置の概略構成図、第8図は従来例の同上図である。
1は被帯電体(感光ドラム)、2は帯電部材(帯電ローラ)、3は電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】被帯電体と接触して被帯電体を帯電する帯電部材と、前記帯電部材に電力を供給する電源と、を有し、前記帯電部材は導電性基体と、抵抗層と、を備える接触帯電装置において、前記抵抗層の体積抵抗率をρ、前記抵抗層の厚さをl、前記電源の電圧をE、前記電源の容量をPとすると

ただしA=(1×10-3)2[m2
を満たすことを特徴とする接触帯電装置。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第6図】
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【第7図】
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【第4図】
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【第5図】
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【第8図】
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【公告番号】特公平7−92617
【公告日】平成7年(1995)10月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−331149
【出願日】昭和62年(1987)12月26日
【公開番号】特開平1−172857
【公開日】平成1年(1989)7月7日
【出願人】(999999999)キヤノン株式会社