説明

接触抵抗の測定方法、および、電気機器の余寿命推定方法

【課題】遮断器そのものについての劣化状態を測定することにより、接点の接触抵抗を正確に測定することができる。
【解決手段】本発明に係る接触抵抗の測定方法は、樹脂製絶縁カバーの内部に設けられ、所定の金属からなる接点の接触抵抗を測定する方法であって、(a)樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータと、接触抵抗との相関を予め取得する工程と、(b)樹脂製絶縁カバーのデータX1を取得する工程とを備える。そして、(c)工程(a)で予め取得した相関に基づいて、工程(b)で取得したデータX1に対応する接触抵抗Y1を得る工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器が備える接点の接触抵抗の測定方法、および、電気機器の余寿命推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電気機器、例えば、遮断器の余寿命推定方法は、特許文献1に記載されているように、遮断器内の接点における遮断電流と遮断回数を計測する。そして、これらの計測値から損耗量を推定し、遮断器の余寿命を推定している。
【0003】
特許文献2に記載された遮断器の余寿命推定方法では、大気中の温度、湿度、腐食性ガスの種類、濃度、海塩粒子、海岸からの距離の組み合わせに基づく複数の環境状態を用意し、その環境状態それぞれに対して暴露試験用の銀板を暴露する。そして、各環境状態それぞれにおける銀板の硫化銀皮膜厚さと接触抵抗との相関を求めて予めデータベース化し、このデータベースを用いて、銀板の硫化銀皮膜厚さに対応する接触抵抗を推定し、遮断器の余寿命を推定している。
【0004】
【特許文献1】特開平11−67021号公報
【特許文献2】特開2001−215187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、遮断器を設置した環境中のガスや温度や塵埃の影響により、接点表面の状態が変化して劣化が早まるにもかかわらず、環境の影響を考慮していない。そのため、環境の影響が大きい場合には、遮断器の余寿命を正確に推定することができないという問題点があった。
【0006】
一方、特許文献2に記載の方法は、遮断器と別個に用意した暴露試験用の銀板についての劣化状態を測定する。しかし、遮断器そのものについての劣化状態を測定するものではないため、遮断器の余寿命を正確に推定することができないという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、遮断器そのものについての劣化状態を測定して、接点の接触抵抗を正確に測定し、それにより遮断器の余寿命を正確に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る接触抵抗の測定方法は、外囲体の内部に設けられ、所定の金属からなる接点の接触抵抗を測定する方法であって、(a)前記外囲体の外側表面状態に関するデータと、前記接触抵抗との相関を予め取得する工程と、(b)前記外囲体の前記データを取得する工程とを備える。そして、(c)前記工程(a)で予め取得した前記相関に基づいて、前記工程(b)で取得した前記データに対応する前記接触抵抗を得る工程を備える。
【0009】
本発明の電気機器の余寿命推定方法は、前記外囲体と前記接点とを備える電気機器の余寿命を推定する方法であって、(d)請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された接触抵抗の測定方法を用いて、前記接点の前記接触抵抗を測定する方法を備える。そして、(e)前記工程(d)で測定された前記接点の前記接触抵抗に基づいて前記電気機器の余寿命を推定する工程を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接触抵抗の測定方法によれば、電気機器、例えば、遮断器そのものについての劣化状態を測定することにより、接点の接触抵抗を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<実施の形態1>
本実施の形態に係る電気機器の余寿命推定方法は、外囲体と、外囲体の内部に設けられ、所定の金属からなる接点とを備える電気機器の余寿命を推定する方法である。本実施の形態では、電気機器は、従来の一般的な遮断器であるものとする。
【0012】
外囲体は、例えば、樹脂製絶縁物からなる遮断器のカバー、ベース、ケースが該当する。この外囲体の外側表面には、取っ手が設けられていてもよい。樹脂製絶縁物には、例えば、ポリエステルが該当する。本実施の形態では、外囲体は、樹脂製絶縁物からなる遮断器のカバー(以下、樹脂製絶縁カバー)であり、樹脂製絶縁物はポリエステルであるものとする。
【0013】
所定の金属は、例えば、銀(Ag)、あるいは、銀を含む合金である。ここでいう銀を含む合金には、例えば、銀とタングステン(W)からなる合金、あるいは、銀とタングステンと炭素(C)からなる合金が該当する。本実施の形態では、所定の金属は、銀とタングステンからなる合金であるとし、以下、所定の金属からなる接点を、銀系接点と呼ぶことにする。
【0014】
本実施の形態に係る遮断器の余寿命推定方法は、まず、接触抵抗の測定方法を用いて、銀系接点の接触抵抗を測定する。ここでいう接触抵抗の測定方法は、樹脂製絶縁カバーの内部に設けられ、銀とタングステンの合金からなる接点の接触抵抗を測定する方法である。この接触抵抗の測定方法について説明する。
【0015】
第1の工程では、余寿命を推定する対象となる遮断器(以下、推定対象品)と同じ材料構成、つまり、銀系接点と樹脂製絶縁カバーとからなる遮断器を多数用意する。ここで、多数用意する遮断器には、新品、および、長年使用された劣化品(以下、使用品)の両方用意する。なお、本実施の形態では、遮断器同士の定格電流は同一ではなく、定格電流は異なるものとし、例えば、200A〜800Aの範囲にあるものとする。
【0016】
第2の工程では、多数の使用品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータを取得する。この樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータは、単一の測定項目について測定したデータである。この測定項目は、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着する硝酸イオン量、硫酸イオン量、塩素イオン量等のイオン量、樹脂製絶縁カバーの外側表面の光沢、色彩のいずれか一つである。またデータの取得は、接点を内部に有したままの状態で行う。これにより、遮断器を使用可能な状態で行うことになり、遮断器を長時間停止する必要がない。なお、以下で説明するデータの取得についても、同様に、接点を内部に有したままの状態で行うものとする。
【0017】
本実施の形態における単一の測定項目は、樹脂製絶縁カバーの外側表面に単位面積当たりに付着する硝酸イオン量であるものとする。この硝酸イオン量は、市販のイオン試験紙を用いて測定される。このイオン試験紙を用いれば、容易かつ短時間で硝酸イオン量を現場で測定することができる。
【0018】
あるいは、硝酸イオン量は、イオンクロマト法を用いて測定する。具体的には、例えば、4cm2角に切断した濾紙を純水に浸し、その濾紙を樹脂製絶縁カバーの外側表面に貼り付け、その表面に付着する硝酸イオンを回収してサンプリングする。そして、この濾紙を所定量、例えば、10gの純水に入れ、濾紙でサンプリングした硝酸イオンを純水に溶解させ、イオンクロマト法で測定する。そして、イオンクロマト法の測定値と、純水の量(10g)と、濾紙面積(4cm2)とから、樹脂製絶縁カバーの単位面積(1cm2)あたりの硝酸イオン量(mg/cm2)を算出する。
【0019】
こうして、使用品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に付着する硝酸イオン量を測定したデータを取得する。それとともに、銀系接点の接触抵抗についても測定しておく。
【0020】
第3の工程では、多数の新品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータを取得する。ここでいうデータは、第2の工程と同様、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着する硝酸イオン量について測定したデータである。それとともに、銀系接点の接触抵抗についても測定しておく。
【0021】
第4の工程では、第2の工程および第3の工程で取得した外側表面に付着する硝酸イオン量のデータと、接触抵抗とを相関図にてグラフ化する。そして、図1に示すように、相関関係を表す一本の線であるマスターカーブを求める。このようにして、外側表面状態の硝酸イオン量のデータと、接触抵抗との相関を予め取得する。なお、硝酸イオン量、および、接触抵抗それぞれの対数をとって相関図を作成すれば、図1に示すような直線状のマスターカーブが得られた。
【0022】
このように、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態は、銀系接点の接触抵抗と相関が強い。この理由は次の通りである。遮断器周囲のガスや湿度などの環境の影響によって銀系接点の表面が劣化し、銀系接点の接触抵抗は経時的に変化する。一方、樹脂製絶縁カバーの外側表面は環境と直接接触し、銀系接点の接触抵抗と同様に、樹脂絶縁性カバーの外側状態も環境の影響を受けているためである。
【0023】
第5の工程では、推定対象品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータを取得する。ここでいうデータは、第2の工程と同様、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着する硝酸イオン量について測定したデータX1である。
【0024】
第6の工程では、第4の工程で予め取得した相関に基づいて、第5の工程で取得した推定対象品のデータX1に対応する接触抵抗Y1を得る。
【0025】
以上の第1〜第6の工程からなる接触抵抗の測定方法によれば、推定対象品について、樹脂製絶縁カバー内部に設けられた銀系接点の接触抵抗を測定することができる。そのため、従来、銀系接点の接触抵抗を測定しようとすると、測定対象品の破損や開封が必要であったが、本実施の形態に係る接触抵抗の測定方法によれば、推定対象品については破損や開封を必要とせずに、銀系接点の接触抵抗を測定することができる。また、新たな設備を追加する必要もない。さらに、本実施の形態に係る接触抵抗の測定方法は、遮断器そのものについての劣化状態を測定するため、銀系接点の接触抵抗を正確に測定することができる。
【0026】
次に、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着する硝酸イオン量を測定したが、この利点について説明する。銀系接点に硫化銀皮膜が形成されても、遮断器の銀系接点における通電電流が1A以上であれば、その皮膜は接触抵抗に影響しないことは、非特許文献1に記述のように周知である(非特許文献1:土屋金弥、「電気接点技術」、総合電子出版社、1980年、p.49)。しかし、通電電流が1A以上である場合においても、銀系接点の接触抵抗は劣化する。その主原因は、環境中のNOxである。以下、その理由について説明する。
【0027】
銀系接点内の銀は、環境中のNOxと反応すると硝酸銀を生じ、環境中のSOxと反応すると硫化銀、および、硫酸銀を生じる。このうち、硝酸銀の融点(212℃)は、硫化銀の融点(845℃)、硫酸銀(657℃)よりも低温であり、硝酸銀は、硫化銀や硫酸銀よりも低温で除去されやすい。そのため、通電により温度上昇が生じると、硫化銀や硫酸銀よりも相対的に硝酸銀が融解して除去され、銀系接点の表面は消耗する。
【0028】
一方、タングステン、タングステンカーバイド、炭素は、NOxと反応せずに残るため、銀系接点の組成が変化する。これらタングステン、タングステンカーバイド、炭素は、銀よりも電気抵抗率が1桁大きいため、銀系接点の組成においてこれらが占める率が大きくなると、接触抵抗が増加する。
【0029】
このように、銀系接点内の銀が硝酸銀となって除去されると、銀系接点の組成変化が生じ、さらには表面形状が凹となる形状変化も生じるため、接触抵抗は増加する。接点が銀のみからなる場合には、この傾向はより顕著となる。このように、銀系接点に1A以上の通電が行われる場合には、環境中の硝酸イオン量は、銀系接点の接触抵抗の劣化に大きく影響し、銀系接点の接触抵抗と強い相関を有する。
【0030】
本実施の形態では、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着する硝酸イオン量について測定する。この硝酸イオン量は、上述したとおり、銀系接点に1A以上の通電が行われる場合において、接触抵抗と相関が強い。そのため、銀系接点の接触抵抗を正確に測定することができる。
【0031】
また、イオン試験紙を用いて硝酸イオン量を測定した。これにより、容易かつ短時間でこれらイオン量を現場で測定することができる。また、イオンクロマト法を用いて硝酸イオン量を測定した。これにより、イオン試験紙がなくても硝酸イオン量を測定することができる。
【0032】
次に、本実施の形態に係る遮断器の余寿命推定方法について説明する。
【0033】
第7の工程では、あらかじめ多数の新品と多数の使用品の接触抵抗値と使用年数のデータから、測定した銀系接点の接触抵抗と使用年数との相関関係を明らかにする。ここで、新品の使用年数は0年である。この場合、接触抵抗の対数と使用年数の対数との相関をとると、直線関係を示すことがわかった。
【0034】
第8の工程では、上述した接触抵抗の測定方法を用いて、測定対象品について銀系接点の接触抵抗Y1を測定する。そして、図2に示すように、新品の接触抵抗測定値を使用年数0年にプロットし(点A)、測定した銀系接点の接触抵抗Y1と、推定対象品の使用年数Zとを相関図にプロットする(点B)。そして、図2に示すように、点Aと点Bから、測定対象品の劣化傾向線を求める。なお、接触抵抗Y1、および、使用年数Zそれぞれの対数をとって相関図を作成するとよい。
【0035】
第9の工程では、遮断器の余寿命を推定する。そのために、まず、銀系接点の接触抵抗の閾値T1を設定する。この閾値T1は、規定をもとに設定してもよいし、過去の事例から設定してもよい。そして、上述した劣化傾向線と、接触抵抗の閾値T1との交点(点C)を求め、劣化傾向線に基づいて、銀系接点の接触抵抗の閾値T1に対応する使用年数、つまり寿命年数W1を求める。次に、寿命年数W1から使用年数Zを減算し、余寿命W1−Zを推定する。こうして、測定された銀系接点の接触抵抗Y1に基づいて、遮断器の余寿命W1−Zを推定する。
【0036】
以上の工程からなる本実施の形態に係る遮断器の余寿命推定方法は、正確に測定した銀系接点の接触抵抗を用いて遮断器の余寿命を推定するため、正確に遮断器の余寿命を推定することができる。なお、遮断器の定格電流が異なっても、図1のマスターカーブは同じであり、測定対象品の劣化傾向線について、接触抵抗と使用年数の関係は同じであった。
【0037】
また、本実施の形態では、新品についてプロットした点Aと、測定対象品についてプロットした点Bとから劣化傾向線を引いた。しかし、これに限ったものではなく、定期的に余寿命診断をする場合には、測定対象品について前回プロットした点と、今回プロットする点とから劣化傾向線を引いてもよい。このようにすることで、例えば、NOxなどの環境が変化して寿命年数W1が変化する場合でも、正確な余寿命を求めることができる。
【0038】
また、本実施の形態では、樹脂製絶縁カバーの樹脂製絶縁物は、ポリエステルであり、所定の金属は、銀とタングステンからなる合金であるものとして説明した。しかし、これに限ったものではなく、樹脂製絶縁物は、フェノール樹脂であってもよく、所定の金属は、銀とタングステンと炭素からなる合金であっても、上述の効果を得ることができる。また、本実施の形態では、外囲体として樹脂製絶縁物からなるカバーを用いたが、接点と同じ材質であれば、環境の影響度合いを等しくすることができる。
【0039】
また、本実施の形態では硝酸イオン量を測定する場合について説明した。しかし、これに限ったものではなく、樹脂製絶縁カバーの外側表面の硫酸イオン量、塩素イオン量等のイオン量、光沢、色彩のいずれか一つを用いてもよい。この場合においても、遮断器そのものについての劣化状態を測定するため、上述と同じように、銀系接点の接触抵抗を正確に測定することができる。なお、硫酸イオン量、塩素イオン量等のイオン量を測定する場合には、硝酸イオン量の測定方法と同様、イオン試験紙、または、イオンクロマト法を用いて測定するとよい。
【0040】
また、カバーの樹脂製絶縁部は少なくともその一部に炭酸カルシウムなどのカルシウムを含有してもよい。その場合、カバーに付着する硝酸イオンはカルシウム成分と反応して硝酸カルシウムとなる。上述したデータとして取得される硝酸イオン量は、この樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着する硝酸カルシウムの硝酸イオン量にほぼ等しい。この硝酸カルシウムは、環境中から飛来し、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着したカルシウム塩と、環境中のNOxとが反応して生成されるものである。そのため、環境中にカルシウム塩が存在しない場合には、樹脂製絶縁カバーの樹脂製絶縁物にカルシウム塩、例えば、炭酸カルシウムを予め含むようにしておけば、硝酸イオン量を確実に測定することができる。
【0041】
<実施の形態2>
本実施の形態において、樹脂製絶縁物は、アルミナとガラス繊維を含有する黒色のポリエステル樹脂であるものとし、所定の金属は、銀とタングステンと炭素からなる合金であるものとする。本実施の形態において、ポリエステルが黒色である理由は、後述するように、樹脂製絶縁カバーの光沢、色彩を測定するためである。なお、黒色のみならず、同一色であればよい。以下、本実施の形態に係る遮断器の余寿命推定方法について説明する。
【0042】
第1の工程では、推定対象品と同じ材料構成、つまり、銀系接点と樹脂製絶縁カバーとからなる新品、および、使用品を多数用意する。本実施の形態においても、実施の形態1と同様、遮断器同士の定格電流は同一ではなく、定格電流は異なるものとし、例えば、200A〜800Aの範囲にあるものとする。
【0043】
第2の工程では、多数の新品と多数の使用品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータと接触抵抗のデータを取得する。本実施の形態では、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータは、実施の形態1と異なり、複数の測定項目について測定したデータから算出される一の指標のデータである。
【0044】
さらに、本実施の形態では、一の指標は、マハラノビスの距離であり、上述の複数の測定項目は、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着する硝酸イオン量、硫酸イオン量、塩素イオン量等のイオン量、および、樹脂製絶縁カバーの外側表面の光沢、色彩である。
【0045】
硝酸イオン量等イオン量の測定は、例えば、市販のイオン量試験紙を用いて測定し、光沢の測定は、例えば、光沢計を用いて測定し、色彩の測定は、例えば、色差計を用いて測定する。これらは、市販されており、大きさが手ごろであるため、現場において容易に測定可能である。こうして複数の測定項目について測定したデータから、一の指標であるマハラノビスの距離のデータを算出する。それとともに、銀系接点の接触抵抗についても測定しておく。
【0046】
第3の工程では、第2の工程で取得したマハラノビスの距離のデータと、接触抵抗とを相関図にてグラフ化する。そして、図3に示すように、相関関係を表す一本の線であるマスターカーブを求める。このようして、外側表面状態のマハラノビスの距離のデータと、接触抵抗との相関を予め取得する。なお、マハラノビスの距離、および、接触抵抗それぞれの対数をとって相関図を作成すれば、図3に示すような直線状のマスターカーブが得られた。
【0047】
第4の工程では、推定対象品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータを取得する。ここでいうデータは、第2の工程と同じ複数の測定項目について測定したデータから算出されるマハラノビスの距離のデータX2である。
【0048】
第5の工程では、第3の工程で予め取得した相関に基づいて、第4の工程で取得した推定対象品のデータX2に対応する接触抵抗Y1を得る。
【0049】
その後、実施の形態1の第7〜第9の工程を同様に行うことにより、図2に示したように、測定された銀系接点の接触抵抗Y1に基づいて、遮断器の余寿命W1−Zを推定する。
【0050】
以上の第1〜第5の工程からなる接触抵抗の測定方法によれば、実施の形態1と同様に、遮断器そのものについての劣化状態を測定するため、銀系接点の接触抵抗を正確に測定することができる。また、実施の形態1の測定項目は、硝酸イオン量についてのみであったが、本実施の形態では、光沢や色彩を測定項目に加え、複数の測定項目から総合的に樹脂製絶縁カバーの外側表面状態を測定する。そのため、本実施の形態に係る遮断器の余寿命推定方法は、より正確な銀系接点の接触抵抗に基づいて、遮断器の余寿命をより正確に推定することができる。
【0051】
<実施の形態3>
本実施の形態において、樹脂製絶縁物は、炭酸カルシウムとガラス繊維を含有するポリエステル樹脂であるものとし、所定の金属は、銀とタングステンと炭素からなる合金であるものとする。実施の形態2では、樹脂製絶縁カバーの外側表面の光沢、色彩を測定項目とするため、樹脂製絶縁物に黒色のポリエステルを用いた。本実施の形態では、実施の形態2と異なり、樹脂製絶縁カバーの外側表面の光沢、色彩を測定項目としないため、樹脂製絶縁物の色は問わない。以下、本実施の形態に係る遮断器の余寿命推定方法について説明する。
【0052】
第1の工程では、推定対象品と同じ材料構成、つまり、銀系接点と樹脂製絶縁カバーとからなる新品、および、使用品を多数用意する。本実施の形態においても、実施の形態1と同様、遮断器同士の定格電流は同一ではなく、定格電流は異なるものとし、例えば、200A〜800Aの範囲にあるものとする。
【0053】
第2の工程では、多数の新品と多数の使用品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータと接触抵抗のデータを取得する。本実施の形態は、実施の形態2と同様、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータは、複数の測定項目について測定したデータから算出されるマハラノビスの距離のデータである。
【0054】
本実施の形態は、実施の形態2と異なり、複数の測定項目は、所定の判定方法により、接触抵抗と相関が有ると判定された測定項目のみを含む。ここで、所定の判定方法は、マハラノビス・タグチ法(MT法)で算出されるSN比に基づいて判定する方法である。このSN比は、複数の測定項目のうち、所定の測定項目を使用した場合と、所定の測定項目を使用しなかった場合について求められる。そして、両者のSN比を比較することにより、その測定項目の有効性を判定することができる。
【0055】
図4は、複数の測定項目として、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着するナトリウムイオン量、アンモニアイオン量、カリウムイオン量、カルシウムイオン量、塩素イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量を測定し、それぞれについてSN比を縦軸に示した要因効果図である。なお、これらのイオン量のサンプリング方法には、実施の形態1で示したイオンクロマト方法を用いる。
【0056】
この図4では、測定項目ごとに、該当する測定項目を使用した場合を「有」、該当する測定項目を使用しなかった場合を「無」として、SN比が示されている。この図において、「有」のSN比が「無」のSN比よりも大きい場合には、接触抵抗と相関があると判定される。この判定方法によって接触抵抗と相関が有ると判定される図4の測定項目は、塩素イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量である。
【0057】
本実施の形態では、上述した判定方法により選定された測定項目(塩素イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量)のみの測定データから、マハラノビスの距離を算出する。それとともに、銀系接点の接触抵抗についても測定しておく。
【0058】
第3の工程では、第2の工程で取得したマハラノビスの距離のデータと、接触抵抗とを相関図にてグラフ化する。そして、図5に示すように、相関関係を表す一本の線であるマスターカーブを求める。このようして、外側表面状態のマハラノビスの距離のデータと、接触抵抗との相関を予め取得する。なお、マハラノビスの距離、および、接触抵抗それぞれの対数をとって相関図を作成すれば、図5に示すような直線状のマスターカーブが得られた。
【0059】
第4の工程では、推定対象品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータを取得する。ここでいうデータは、第2の工程で選定された測定項目のみについて測定したデータから算出されるマハラノビスの距離のデータX3である。
【0060】
第5の工程では、第3の工程で予め取得した相関に基づいて、第4の工程で取得した推定対象品のデータX3に対応する接触抵抗Y1を得る。
【0061】
その後、実施の形態1の第7〜第9の工程を同様に行うことにより、図2に示したように、測定された銀系接点の接触抵抗Y1に基づいて、遮断器の余寿命W1−Zを推定する。
【0062】
以上の第1〜第5の工程からなる接触抵抗の測定方法によれば、外側表面状態の測定項目が多い場合でも、接触抵抗と強い相関をもつ測定項目のみを用いてマハラノビスの距離を算出することができる。これにより、効果のない測定項目は排除して、有効な測定項目のみを用いてマハラノビスの距離を算出するため、無駄な計算を省くことができる。そのため、本実施の形態に係る遮断器の余寿命推定方法によれば、実施の形態2の効果に加え、短時間で容易かつ正確に接触抵抗を測定することができる。
【0063】
図6に、環境と接触していない樹脂製絶縁カバーの内側表面に付着する塩素イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量を測定して算出したマハラノビスの距離のデータと、銀系接点の接触抵抗との相関図を示す(点P)。図に示されるように、接触抵抗の変化に対して、この場合のマハラノビスの距離のデータはほとんど変化しなかった。
【0064】
同じ図6に、樹脂製絶縁カバーの外側表面に付着する塩素イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量を測定して算出したマハラノビスの距離と、銀系接点の接触抵抗との相関図を示す(点Q)。図に示されるように、接触抵抗の変化に応じて、この場合のマハラノビスの距離のデータも変化しため、このマハラノビスの距離のデータは接触抵抗の評価に適している。
【0065】
なお、ここまで説明した実施の形態では、新品多数の表面状態データと接触抵抗のデータを多数取得したが、新品のかわりに、正常品多数の測定データとしてもよい。新品のかわりに正常品のデータを用いた場合であっても、第7の工程で正常品の使用年数をプロットすることにより、図2と同じ図を得ることができる。
【0066】
なお、上記の実施の形態では、塩素イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量が接触抵抗と相関があったが、アンモニアイオン量、カルシウムイオン量が相関がある場合もある。例えば、樹脂製絶縁カバーがフェノール樹脂の場合に、外側表面に付着するイオン量として、ナトリウムイオン量、アンモニアイオン量、カリウムイオン量、カルシウムイオン量、塩素イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量を測定した。そして、それぞれについてSN比を縦軸に示した要因効果図を調べると、硝酸イオン量、硫酸イオン量以外に、アンモニアイオン量、カルシウムイオン量も接触抵抗と相関があることが分かった。そこで、樹脂製絶縁カバーがフェノール樹脂の場合には、測定項目として硝酸イオン量、アンモニアイオン量、カルシウムイオン量の測定データから、マハラノビスの距離を算出するとともに、銀系接点の接触抵抗についても測定するとよい。その後、ポリエステル樹脂の場合と同様、マハラノビスの距離、および、接触抵抗それぞれの対数をとって相関図を作成すれば、直線状のマスターカーブが得られる。
【0067】
<実施の形態4>
実施の形態3では、選定した測定項目から算出したマハラノビスの距離に基づいて、遮断器の余寿命を推定した。本実施の形態では、その方法に加えて、選定した測定項目から算出したマハラノビスの距離に基づいて、樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率を推定する遮断器の余寿命推定方法について説明する。
【0068】
第1の工程では、推定対象品と同じ材料構成、つまり、銀系接点と樹脂製絶縁カバーとからなる新品、および、使用品を多数用意する。本実施の形態においても、実施の形態1と同様、遮断器同士の定格電流は同一ではなく、定格電流は異なるものとし、例えば、200A〜800Aの範囲にあるものとする。
【0069】
第2の工程では、多数の新品と多数の使用品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータを取得する。ここでいうデータは、複数の測定項目について測定したデータから算出されるマハラノビスの距離のデータである。ここで、複数の測定項目は、実施の形態3と同様の判定方法により、接触抵抗と相関が有ると判定された測定項目(例えば塩素イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量)のみを含む。
【0070】
そして、銀系接点の接触抵抗に加え、本実施の形態では、樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率も測定しておく。ここでは、樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率を、温度20℃、湿度50%の状態において測定した。
【0071】
第3の工程では、実施の形態3と同様、外側表面状態のマハラノビスの距離のデータと、接触抵抗との相関を予め取得する。さらに、本実施の形態では、第2の工程で取得したマハラノビスの距離のデータと、樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率とを相関図にてグラフ化する。そして、図7に示すように、相関関係を表す一本の線であるマスターカーブを求める。なお、マハラノビスの距離、および、表面抵抗率それぞれの対数をとって相関図を作成すれば、図7に示すような直線状のマスターカーブが得られた。
【0072】
第4の工程では、推定対象品について、樹脂製絶縁カバーの外側表面状態に関するデータを取得する。ここでいうデータは、第2の工程で選定された測定項目のみについて測定したデータから算出されるマハラノビスの距離のデータX3である。
【0073】
第5の工程では、図5に示したように、第3の工程で予め取得した相関に基づいて、第4の工程で取得した推定対象品のデータX3に対応する接触抵抗Y1を得る。さらに、本実施の形態では、図7に示すように、第3の工程で予め取得した相関に基づいて、第4の工程で取得した推定対象品のマハラノビスの距離のデータX3に対応する表面抵抗率Y2を得る。
【0074】
その後、実施の形態1の第7〜第9の工程を同様に行うことにより、図2に示したように、測定された銀系接点の接触抵抗Y1に基づいて、遮断器の余寿命W1−Zを推定する。
【0075】
第6の工程では、あらかじめ多数の新品と多数の使用品の表面抵抗率と使用年数のデータから、測定した表面抵抗率と使用年数との相関関係を明らかにする。ここで、新品の使用年数は0年である。この場合、表面抵抗率の対数と使用年数の対数とで相関をとると、直線関係を示すことがわかった。
【0076】
第7の工程では、上述した表面抵抗率の測定方法を用いて、測定対象品について樹脂性絶縁カバーの表面抵抗率Y2を測定する。そして、図8に示すように、新品の表面抵抗率を使用年数0年にプロットし(点A)、測定した樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率Y2と、測定対象品の使用年数Zとを相関図にプロットする(点B)。そして、図8に示すように、点Aと点Bから、測定対象品の劣化傾向線を求める。なお、表面抵抗率Y2、および、使用年数Zそれぞれの対数をとって相関図を作成するとよい。
【0077】
第8の工程では、遮断器の余寿命を測定する。そのために、まず、樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率の閾値T2を設定する。この閾値T2は、規定をもとに設定してもよいし、過去の事例から設定してもよい。そして、上述した劣化傾向線と、表面抵抗率の閾値T2との交点(点C)を求め、劣化傾向線に基づいて、樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率の閾値T2に対応する使用年数、つまり寿命年数W2を求める。次に、寿命年数W2から使用年数Zを減算し、余寿命W2−Zを推定する。こうして、測定された樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率Y2に基づいて、遮断器の余寿命W2−Zを推定する。
【0078】
なお、本実施の形態では、新品多数の表面状態データと絶縁抵抗率のデータを多数取得したが、新品のかわりに、正常品多数の測定データとしてもよい。新品のかわりに正常品のデータを用いた場合であっても、第7の工程で正常品の使用年数をプロットすることにより、図8と同じ図を得ることができる。
【0079】
また、実施の形態3までに述べたような接触抵抗Y1に基づいて推定した余寿命W1−Zと、本実施の形態4の表面抵抗率Y2に基づいて推定した余寿命W2−Zとを比較し、どちらか短いほうを遮断器の余寿命としてもよい。
【0080】
このような本実施の形態に係る遮断器の余寿命推定方法では、遮断器内の銀系接点の接触抵抗を測定するとともに、同時に、樹脂製絶縁カバーの表面抵抗率についても測定し、カバー表面の絶縁劣化診断も併せて行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施の形態1に係る遮断器の余寿命推定方法を説明する相関図である。
【図2】実施の形態1に係る遮断器の余寿命推定方法を説明する相関図である。
【図3】実施の形態2に係る遮断器の余寿命推定方法を説明する相関図である。
【図4】実施の形態2に係る遮断器の余寿命推定方法を説明する相関図である。
【図5】実施の形態3に係る遮断器の余寿命推定方法を説明する相関図である。
【図6】実施の形態3に係る遮断器の余寿命推定方法を説明する相関図である。
【図7】実施の形態4に係る遮断器の劣化診断方法を説明する相関図である。
【図8】実施の形態4に係る遮断器の劣化診断方法を説明する相関図である。
【符号の説明】
【0082】
A 新品、B 推定対象品、C 交点、T1,T2 閾値、W1,W2 寿命年数、X1〜X3 データ、Y1 接触抵抗、Y2 表面抵抗率、Z 使用年数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外囲体の内部に設けられ、所定の金属からなる接点の接触抵抗を測定する方法であって、
(a)前記外囲体の外側表面状態に関するデータと、前記接触抵抗との相関を予め取得する工程と、
(b)前記接点を内部に有したままの状態で前記外囲体の前記データを取得する工程と、
(c)前記工程(a)で予め取得した前記相関に基づいて、前記工程(b)で取得した前記データに対応する前記接触抵抗を得る工程とを備える、
接触抵抗の測定方法。
【請求項2】
前記所定の金属は、銀または銀を含有する合金であり、
前記データは、前記外囲体の外側表面に付着する硝酸イオン量を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の接触抵抗の測定方法。
【請求項3】
前記外囲体はカルシウムを含有する樹脂製絶縁物を備えることを特徴とする、
請求項2に記載の接触抵抗の測定方法
【請求項4】
前記データは、前記外囲体の外側表面に付着する硝酸イオン量に加えて、さらに硫酸イオン量、塩素イオン量、アンモニアイオン量、カルシウムイオン量、前記外囲体の外側表面の光沢、色彩のいずれか一つまたは複数を含むことを特徴とする、
請求項2または請求項3に記載の接触抵抗の測定方法。
【請求項5】
前記外囲体と前記接点とを備える電気機器の劣化を推定する方法であって、
(d)請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された接触抵抗の測定方法を用いて、前記接点の前記接触抵抗を測定する方法と、
(e)前記工程(d)で測定された前記接点の前記接触抵抗に基づいて前記電気機器の余寿命を推定する工程とを備える、
電気機器の余寿命推定方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記外囲体の外側表面における表面抵抗率をも取得し、
(f)前記工程(b)で取得された前記表面抵抗率に基づいて前記電気機器の余寿命を推定する工程をさらに備える、
請求項5に記載の電気機器の余寿命推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−298572(P2008−298572A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144704(P2007−144704)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】