説明

接触水素化法

【課題】炭素−ヘテロ原子二重結合を有する基質を水素化するのに有用な水素化法を提供する。
【解決手段】本発明では、式(II):[Ru(L)(L’)XY]
[式中、XおよびYは、同時にまたは独立して、水素原子またはハロゲン原子、ヒドロキシ基、またはアルコキシ、カルボキシルまたは他のアニオン性基を表し、mは、1または2であり、mが1のときwは1であり、mが2のときwは0であり、Lは、ホスフィノ−アミンまたはホスフィノ−イミン二座配位子であり、L’は、ジホスフィンである]の触媒を使用して、水素化法により炭素−ヘテロ原子二重結合を含む化合物を還元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触水素化の分野に関し、特に、炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物を還元するための水素化法における、P−N二座配位子を随伴する金属錯体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素−ヘテロ原子二重結合基、例えばケトン、アルデヒドまたはイミン基の還元は、化学分野の基礎反応の1つであり、多くの化学的方法で利用されている。
【0003】
このような変換が可能な数種の異なる方法が知られており、これらは元系の性質に従って4つの主要タイプに分類できる:
a)酵素法、還元を触媒するために酵素を用いる、
b)水素化物法、金属水素化物、例えばLiAlHを用いる、
c)水素移動法、水素供与体、例えば2級アルコールおよび特にイソプロパノール(PrOH)を使用する、
d)水素化法、分子水素を用いる。
【0004】
しかし実際には、酵素が繊細でありかつ還元できる化合物の構造に関して限界を有するので、最初の2つの方法を工業的に利用するのは困難である。他方、水素化物法には、高反応性で有害かつ高価な水素化物を使用しなければならない。
【0005】
水素移動法および水素化法の両者では、還元剤を活性化するための酵素または酵素系(例えば前酵素)、すなわちそれぞれアルコールまたは分子水素が必要とされる。
【0006】
水素の移動により炭素−ヘテロ原子二重結合を還元するための触媒の多くがすでに公知であるにもかかわらず、水素移動法では、還元剤として多くの溶剤を使用しなければならずかつ触媒を多量に使用しなければならないので、工業用途としてはいまだに困難である。
【0007】
実際のところ、水素化法は、還元剤として多量の溶剤を要する水素移動法と異なり、安価な水素ガスを使用しかつ少量の溶剤でまたは溶剤不含であっても実施できることから最も興味深い方法である。しかし、水素化法はアルコールを活性化するよりも困難な分子水素の活性化を含む。
【0008】
炭素−ヘテロ原子二重結合の水素化に使用できる触媒の開発は、化学的な目標をこれまでに達成できておらず、最近になって、ケトンを水素化するための新しい触媒が数種見出された。
【0009】
単純なケトンを水素化するための触媒としてこれまでに報告されたものは同一の一般式を有し、二座配位子で配位されたルテニウム原子、2つの単座配位ホスフィンまたはアミンまたは2つの二座配位子を含有する。二座配位子は通常ジホスフィン(P−P)またはジアミン(N−N)であり、金属中心は2つのリン原子および2つの窒素原子と配位している。非常に効果的な前酵素は、式[Ru(P−P)(N−N)Cl]のものである(R. Noyori et al., in Angew. Chem. Int. Ed., 2001, 40, 41; Morris et al. in Organometallics, 2000, 19, 2655; or Takasago EP 0901997 and JP 11189600)。
【0010】
前記文献に引用される例により、これまでに報告された触媒が配位子構造および金属中心周囲の配位面において殆ど変化を有さないことが分かる。このような多様性の乏しさから、活性の調節および水素化法の実施は容易でない。従って、このような触媒は一般的にBINAP等の配位子の使用を必要とするか、長時間の困難かつ単調な合成を必要とする複雑なキラルジアミンを使用しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、水素化には、配位構造および金属中心周辺の配位面に多様性を有する触媒または前触媒を使用すること、容易かつ迅速に製造できる配位子を使用することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の問題点を解決するために、本発明は、P−N二座配位子を随伴する金属錯体を一般的に触媒または前触媒として使用する水素化法により炭素−ヘテロ原子二重結合を含む化合物を還元する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、分子水素(H)を使用して、触媒または前触媒(以後、特別な場合を除いて"錯体"と称する)および塩基の存在下に、基質のC=OまたはC=N二重結合を水素化して相当の水素化化合物を製造する方法に関する。
【0014】
さらに特に、本発明の方法で還元できる典型的な基質は、式:
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、
Wは、酸素原子またはNR基であり、
Rは、水素原子、ヒドロキシ基、置換されていてよい環状、直鎖または分枝鎖のC〜C−アルキルまたはアルケニル基、または置換されていてよい芳香族基であり;
およびRは、同時にまたは独立して、水素、置換されていてよい芳香族基、置換されていてよい環状、直鎖または分枝鎖アルキルまたはアルケニル基、または置換されていてよいヘテロ環基であり;
記号R、RおよびRの2つが一緒になって置換されていてよい環を形成する]の基質であり、式:
【0017】
【化2】

【0018】
[式中、W、RおよびRは、式(I)で定義した通りである]の相当の水素化化合物が製造される。
【0019】
、RおよびRの可能な置換基は、ハロゲン原子、OR、NRまたはR基であり、ここでRは、水素原子または環状、直鎖または分枝鎖C〜C10−アルキルまたはアルケニル基である。
【0020】
およびRは異なっていてよいので、ここでは式(I’)の最終生成物はキラルであってよく、方法中に使用する触媒の性質に応じて、実質的に純粋なエナンチオマーまたは立体異性体混合物を含有してよいと理解される。
【0021】
有利な基質はイミン(W=NR)、ケトンまたはアルデヒド(W=O)であり、これらはそれぞれ製薬、農薬または香料産業において最終生成物または中間体として有用なアミンまたはアルコールを生じる。
【0022】
特に有利な基質は、ケトンまたはアルデヒドであり、これは香料産業で最終生成物または中間体として有用なアルコールを生じる。特に有利な基質は、イミンであり、これは特に製薬または農薬産業で有用な、繰り返して述べるが最終生成物または中間体としてのアミンを生じる。
【0023】
本発明の方法は、式(II):
[Ru(L)(L’)XY] (II)
[式中、
XおよびYは、同時にまたは独立して、水素またはハロゲン原子、ヒドロキシ基あるいはC〜C−アルコキシまたはアシルオキシ基を表し、
mは、1または2であり、
mが1のときwは1であり、mが2のときwは0であり;
Lは、一般式:
【0024】
【化3】

【0025】
で表されるN−P二座配位子であり、式(III)中、
点線は単結合または二重結合を表し;
nは1〜4の整数であり、
zは、0または1であり、それぞれの場合に、点線で示される炭素−窒素結合が二重結合または単結合であり;
は、水素原子、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C10−アルキルまたはアルケニル基、RCOアシル基、またはRSO基であり、
は、C〜C−アルキルまたはアリール基であり;
およびRは、同時にまたは独立して、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C−アルキルまたはアルケニル基、置換されていてよい芳香環、またはOR2’またはNR2’3’基であり、
2’およびR3’はRおよびRで定義したものであり、あるいは
前記RおよびRは、一緒に結合し、RおよびRが結合しているリン原子を含んで5〜10個の原子を有する飽和環または芳香環を形成し;
、R、RおよびRは、同時にまたは独立して、水素原子、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C10−アルキルまたはアルケニル基、置換されていてよい芳香環、またはOR4’またはNR4’5’基であり、R4’およびR5’は、RおよびRで定義されたものであり;あるいは2つの個々のRおよび/またはR基は一緒に結合し、前記RまたはRがそれぞれ結合している炭素原子を含んでC〜Cの飽和環または芳香環を形成し;あるいは
およびRは場合により一緒に結合し、点線で示された結合の炭素原子およびN原子を含んで、置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよい、5〜10個の原子を有する飽和または不飽和ヘテロ環を形成してよく;
L’は、式:
【0026】
【化4】

【0027】
のP−P二座配位子を表し、式中、
およびRは、式(III)で定義したものであり、
Qは、置換されていてよい直鎖または環状C〜C−アルキレン基、置換されていてよいメタロセンジイルまたはC〜C22−アリーレンまたはビアリールジイル基である]の錯体を使用することを特徴とする。
【0028】
〜RおよびQの可能な置換基は、C〜C10−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、カルボン酸エステル、C〜C−アルキル基、またはC〜C12−シクロアルキルまたは芳香族基である。
【0029】
配位子LおよびL’は、キラルでもアキラルでもよい。従って、本発明は非対称の水素化に有用な式(II)の錯体を提供する。
【0030】
式(II)の有利な態様において、XおよびYは、同時にまたは独立して、水素または塩素原子、ヒドロキシ基、C〜C−アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシまたはイソプロポキシ基、またはC〜C−アシルオキシ基、例えばCHCOOまたはCHCHCOO基であり;
mは、1または2であり、mが1の時wは1であり、mが2の時wは0であり;
Lは、一般式:
【0031】
【化5】

【0032】
のN−P二座配位子を表し、
式中、
nは、1〜3の整数であり;
は、水素原子、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C−アルキルまたはアルケニル基であり;
およびRは、同時にまたは独立して、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C−アルキル基、置換されていてよい芳香環または前記基RおよびRは、一緒に結合し、前記RおよびRが結合しているリン原子を含んで、5〜6個の原子を有する飽和環または芳香環を形成してよく;
、R、RおよびRは、同時にまたは独立して、水素原子、置換されていてよい直鎖、分枝鎖C〜C−アルキル基、置換されていてよい芳香環;あるいは個々のRおよび/またはR基は一緒に結合して、前記RまたはR基がそれぞれ結合している炭素原子を含んで、C〜C飽和環または芳香環を形成してよく;あるいは
およびRは、場合により一緒に結合し、点線で示される結合の炭素原子およびN原子を含んで、置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよい、5〜6個の原子を有する飽和ヘテロ環を形成してよく;
L’は、式(IV)のP−P二座配位子を表し、
式中、RおよびRは、式(III’)で定義した通りであり、
Qは、置換されていてよい直鎖C〜C−アルキレン基、置換されていてよいフェロセンジイルまたはビフェニルジイルまたはビナフチルジイル基である。
【0033】
〜RおよびQの可能な置換基はC〜C−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、カルボン酸エステル、C〜C−アルキル基、またはC〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である。
【0034】
式(II)の錯体の別の有利な態様において、XおよびYは、同時にまたは独立して、水素または塩素原子、ヒドロキシ基、C〜C−アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシまたはイソプロポキシ基であり、またはC〜C−アシルオキシ基、例えばCHCOOまたはCHCHCOO基であり;
mは、1または2であり、mが1の時wは1であり、mが2の時wは0であり;
Lは、一般式:
【0035】
【化6】

【0036】
のN−P二座配位子を表し、
Gは、式:RC=NRの基またはC=N官能基を含有する置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよいヘテロ環、例えば2−ピリジル、1−オキサゾリニル、2−イミダゾリルまたは2−イソキノリニル基であり;
は、水素原子、置換されていてよい直鎖または分枝鎖C〜C−アルキル基または置換されていてよい芳香環であり;
n、R、R、R、R、Rは、請求項2で式(III’)に定義した通りであり;
L’は、式(IV)のP−P二座配位子を表し、ここでRおよびRは、式(III’)で定義した通りであり、
Qは、置換されていてよい直鎖C〜C−アルキレン基、置換されていてよいフェロセンジイルまたはジフェニルジイルまたはビナフチルジイル基である。
【0037】
〜R、QおよびGの可能な置換基は、C〜Cアルコキシまたはポリアルキレングリコール基、カルボン酸エステル、C〜C−アルキル基、またはC〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である。
【0038】
本発明の方法で使用するのに特に有利であるのは、式:
[Ru(L)XY] (II’)
[式中、
XおよびYは、同時にまたは独立して、水素または塩素原子、メトキシ、エトキシまたはイソプロポキシ基、またはCHCOOまたはCHCHCOO基であり;
Lは、式(V)または(V’):
【0039】
【化7】

【0040】
の配位子であり、
式(V’)中の点線はフェニルまたはナフチル基の存在を示し;
bは、1または2であり;
G’は、RC=NR基またはC=N官能基を含有する、置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよいヘテロ環、例えば2−ピリジル、2−イソキノリニル、1−オキサゾリニル、または2−イミダゾリル基であり;
は、水素原子または置換されていてよいC〜C直鎖または分枝鎖アルキル基であり;
およびRは、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C−アルキル基または芳香環であり;
は、水素原子、置換されていてよい直鎖または分枝鎖C〜C−アルキル基または置換されていてよい芳香環である]の錯体である。
【0041】
〜R、RおよびG’の可能な置換基は、C〜C−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、C〜C−アルキル基、またはC〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である。
【0042】
式(II’)の錯体の別の態様では、
Lは、式(VI)または(VI’):
【0043】
【化8】

【0044】
の配位子であり、
式(VI’)中の点線はフェニルまたはナフチル基の存在を示し;
、R、Rおよびbは、式(V)または(V’)で定義した通りであり;
およびRは、同時にまたは独立して、水素原子、置換されていてよい直鎖または分枝鎖C〜C−アルキル基、または置換されていてよい芳香環であり;または
およびRは、場合により一緒に結合して、置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよい飽和ヘテロ環、例えば2−ピロリジン、2−ピペリジンまたは2−モルホリンヘテロ環を形成する。
【0045】
〜R、RおよびRの可能な置換基は、C〜C−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、C〜C−アルキル基、C〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である。
【0046】
さらに、本発明の方法において特に有利に式:
[Ru(L)(L’)XY] (II’)
[式中、
XおよびYは、同時にまたは独立して、水素原子または塩素原子、メトキシ、エトキシまたはイソプロポキシ基、またはCHCOOまたはCHCHCOO基であり;
L’は、式(IV)のP−P二座配位子であり、
およびRは、式(V)に定義される通りであり、
Qは、置換されていてよいブタン−1,4−ジイル基、置換されていてよいフェロセンジイルまたはビナフチルジイル基であり;
Lは、式(VI)または(VI’)の配位子である]の錯体を使用する。
【0047】
Qの可能な置換基は、C〜C−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、C〜C−アルキル基、またはC〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である。
【0048】
式(II")の錯体の別の有利な態様において、Lは式(V)または(V’)の配位子である。
【0049】
式(II’)または(II")の錯体は、我々の知る限り、新規の化合物であり、従って発明性を有する。
【0050】
前記した配位子の多くは従来技術において公知であり、例として別個に定義されていない限り、文献に記載される方法で製造できる。新規配位子は、当業者の一般的な知識に基づく公知の方法を変化させることにより、製造することができる。いくつかの参考文献を例として引用する。
【0051】
本発明の方法で使用する錯体は、単離または精製を行うことなく、使用直前に水素化反応媒体中で現場製造できる。また、使用前に単離してもよい。その合成の実験的方法は実質的に両者において類似している。さらに錯体を製造して溶液中に貯蔵してもよく、貯蔵して長期間安定である。
【0052】
前記錯体は以下の文献に記載される方法に類似した方法で製造できる、例えばNoyori et al. in JP 11189600, Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 1703〜1707, Yang et al. C. R. Acad. Sci., Ser. Ilc; Chim. 1999, 2, 251, Quimbach et al. Tetrahedron, 2000, 56, 775である。
【0053】
前記したように、錯体は単離または精製を行わない幾つかの方法で、使用直前に水素化媒体中で現場製造することができる。式(II)の錯体を有利に現場製造するための可能な方法の1つが、式:
[Ru("ジエン")("アリル")]
[式中、
"ジエン"は、2つの炭素−炭素二重結合を有し、共役しているかまたはしていない環状または直鎖炭化水素、例えば1,5−シクロオクタジエン(COD)または1,3−ブタジエンを表し、
"アリル"は、1つの炭素−炭素二重結合を有する直鎖または分枝鎖C〜C−炭化水素、例えばアリル(CHCHCH)またはメチルアリル(CHCCHCH)基を表す]の適当なRu錯体と、有利に金属対して有利に1等量の非配位酸、例えばHBF・Et2Oとを反応させ、得られた溶液を、前記した所望量の配位子L、場合により配位子L’で処理し、得られた混合物を最後に1級または2級アルコールの存在下に塩基で処理することから成ることが確認された。
【0054】
有利な[Ru(ジエン)(アリル)]は、[Ru(COD)(アリル)]または[Ru(COD)(メチルアリル)]である。
【0055】
式(II)の錯体を有利に現場製造するための別の方法は、式[Ru(C)(Cl)]のルテニウム錯体を、前記した所望量の配位子L、場合により配位子L’と反応させ、次いで得られた反応混合物をアルコールの存在下に塩基で処理することを含む。
【0056】
どのような場合にも、錯体を現場製造するために選択される方法とは無関係に、使用する塩基は有利に本発明の方法で使用する塩基と同一である。
【0057】
前記したように、式(II)、(II’)または(II")の錯体は、炭素−ヘテロ原子二重結合を含有する化合物の水素化により還元を実施するのに非常に有用である。典型的な方法は、塩基および場合により溶剤の存在下に、式(II)、(II’)または(II")の錯体と基質とを混合し、混合物を選択した圧力および温度で分子水素を用いて処理することから成る。
【0058】
本発明の方法で使用する、方法の実質的なパラメーターである錯体を、広い範囲の濃度で反応媒体へ添加できる。錯体の濃度値は、基質の量に対して0.1ppm〜50000ppmの範囲であってよく、従ってそれぞれ基質/錯体比(/com)が10〜20と成るが、これに限定するものではない。有利には、錯体濃度は0.1〜5000ppmの範囲であり、すなわちS/com比はそれぞれ10〜200である。さらに有利に、使用される濃度範囲は0.5〜1000ppmであり、それぞれ2×10〜1000のS/com比に相当する。言うまでもなく、錯体の至適濃度は、錯体の性質および方法中のH圧力によって変化する。
【0059】
前記したように、本発明の方法は塩基の存在下で実施される。
【0060】
基質が塩基性であるか常用の塩基である場合、塩基自体が基質となってもよい。例えば有機非配位塩基、例えばDBU、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、カルボン酸塩、例えば酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウム、またはアルコレートまたは水酸化物塩を例として挙げられるが、これに限定するものではない。有利な塩基は式(RO)M’またはROM"(式中、M’はアルカリ土類金属であり、M"はアルカリ金属であり、Rは水素または直鎖または分枝鎖のC〜C−アルキル基である)の化合物から成る群より選択されるアルコラートまたは水酸化物塩である。
【0061】
反応混合物に添加すべき塩基の有用な量は、比較的広い範囲であってよい。錯体に対して0.5〜90000モル等量(例えば塩基/錯体=0.5〜90000)、有利には5〜10000、特に有利に10〜5000モル等量の範囲であるが、これに限定するものではない。しかし、基質および錯体の構造によって、少量の塩基を添加することにより(例えば塩基/錯体=1〜5)高い水素化物収量を達成できることは特記すべきである。
【0062】
水素化反応は、溶剤の存在または不在下で実施できる。溶剤が必要とされるまたは実用性の面から使用される場合、水素化反応に常用の任意の溶剤を本発明の目的のために使用してよい。例えば芳香族溶剤、例えばベンゼン、トルエンまたはキシレン、炭化水素溶剤、例えばヘキサンまたはシクロヘキサン、エーテル、例えばテトラヒドロフラン、さらに第1級または第2級アルコールあるいはこれらの混合物であるが、これに限定するものではない。当業者は、水素化反応を至適化するためにそれぞれに最も適した溶剤を選択することができ、第1級または第2級アルコール、例えばエタノールまたはイソプロパノールが有利な溶剤である。
【0063】
本発明の水素化反応において、反応は10〜80×10Pa(1〜80bar)の範囲のH圧力で実施できる。また、当業者は、触媒の負荷量および溶剤による基質の希釈の関数として、圧力を調節できる。例えば典型的な圧力は1〜40×10Pa(1〜40bar)である。
【0064】
水素化が実施できる温度は、0℃〜100℃、有利には20℃〜40℃の範囲である。当業者は、出発物質および最終生成物、存在するのであれば溶剤の融点および沸点の関数として有利な温度を選択できる。
【0065】
さらに意外なことに、場合によっては式(II’)のヒドリドまたはジアセタト錯体の存在下に塩基なしで、特定の基質を相当のアルコールへ水素化できることが見出された。
【0066】
従って、本発明は、アリールまたはジアリールを錯体の存在下に水素化して相当のアルコールへ還元する方法に関し、前記方法では、錯体が式:
[Ru(L)XY] (II’)
[式中、
Lは、式(V)、(V’)、(VI)または(VI’)の配位子であり;
Xは、水素原子でありかつYは水素原子または塩素原子、メトキシ、エトキシまたはイソプロポキシ基、またはCHCOOまたはCHCHCOO基であり;
XおよびYは、水素原子またはCHCOOまたはCHCHCOO基である]の錯体であることが特徴である。
【0067】
前記方法は一般的に、基質を先に定義した式(II’)の錯体と場合により溶剤の存在下に混合し、混合物を選択した圧力および温度で分子水素で処理することにより、実施される。基質に対する錯体の濃度、溶剤の性質、方法におけるH圧力および温度は前記した通りである。
【実施例】
【0068】
本発明を以下の実施例により詳細に説明し、この際、温度は摂氏であり、記号は従来一般の意味を有する。
【0069】
以後記載される全ての方法は、特別な記載のない限り、不活性雰囲気下に実施される。水素化は、ステンレススチールオートクレーブ内に設置された開口ガラス管中またはシュレンクフラスコ中で実施された。常用のHガス(純度:99.99%以上)を使用した。全ての基質および溶剤をAr下に適当な乾燥剤から蒸留した。NMRスペクトルをBruker装置(400.1MHzでH、100.6MHzで13C、および121.4、145.8または161.9MHzで31P)により、通常300Kで測定して記録した。化学シフトをppmで列挙した。
【0070】
例1
式(II)のRu錯体の製造
【0071】
【表1】

【0072】
配位子(VI)−1は、FLUKAから購買入手できる。
【0073】
配位子(VI)−2および(VI)−3は、文献に記載される方法で、相当のアミノ酸から製造された(K. Kashiwabara, et al.; Bull. Chem. Soc. Jpn., 1981, 54, 725; S. sakuraba, et al.; Chem, Pharm. Bull., 1995, 43, 927; A. Saitoh, et al.; Synlett., 1999, 4, 483; A. Saitoh et al.; J. Org. Chem., 2000, 65, 4227)。
【0074】
配位子(IV)−1,2,3は、Aldrich Chemical Companyから購買入手できる。
【0075】
a)錯体[RuHCl((VI)−I]の製造
イソプロパノール(5ml)を、[RuCl(COD)](Ru300mg、1.07mmol)、NaOH(200mg、5.0mmol)および(VI)−1(510mg、2.2mmol)から成る混合物へ、アルゴン流下に添加し、得られた懸濁液を6時間攪拌し、その間、明るい黄色の沈澱が形成された。水(30ml)を添加し、混合物をさらに1時間攪拌した。次いでシュレンクガラス濾過フリットを用いて濾過し、水(3×10ml)で洗浄し、真空乾燥させた。トルエン/ヘキサンからの再結晶により、錯体の純粋なサンプルが得られた。収率=386mg、60%。
【0076】

【0077】
b)錯体[RuHCl((VI)−I)]の製造
トルエン(40ml)中の[RuHCl(PhP)](Schunn et al. Inorg. Synth., 1970, 131に記載されるようにして製造した)(1002mg、1.00mmol)および(VI)−1(458mg、2.00mmol)から成る溶液を攪拌し、40℃で24時間加熱し、次いで100℃でさらに2時間加熱した。次に、溶液の約半分を真空下に黄色懸濁液から除去し、次に周囲温度で濾過により黄色沈殿物をそのまま回収した。濾液をペンタンで洗浄し、真空中で乾燥させて[RuHCl(VI)−I)]520mgを得た(0.87mmol、収率=87%)。
【0078】

【0079】
c)錯体[RuCl((VI)−1)]の製造
[RuHCl((VI)−1)]の50mgのサンプルを塩化メチレン(1.0ml)中に溶解し、得られた溶液を室温で24時間放置した。ジエチルエーテル(2ml)の添加により明るい黄色の沈殿物が得られた。収率=43mg、81%)。
【0080】

【0081】
d)錯体[Ru(Cl)((VI)−1)]の製造
トルエン(5ml)を[RuCl(COD)](300mg、1.07mmol)および(VI)−1(510mg、2.2mmol)の混合物へ添加し、得られた懸濁液をアルゴン下に12時間還流し、その間、明るい黄色の沈殿が形成された。混合物を室温まで冷却し、固体を濾別し、トルエン(3×5ml)次いでエーテル(3×5ml)で洗浄し、真空乾燥させた。収率=582mg、91%)。
【0082】

【0083】
e)[RuHCl((VI)−2)]の製造
この錯体は、a)またはb)に記載される方法と同様の方法で製造された。
【0084】
収率=67%(方法aに準ずる)
【0085】

【0086】
f)錯体[RuCl((VI)−2)]の製造
この錯体は、d)またはc)に記載される方法と同様の方法で製造された。
【0087】
収率=83%(方法cに準ずる)
【0088】

【0089】
g)錯体[RuHCl((VI)−3)]の製造
この錯体は、a)またはb)に記載される方法と同様の方法で製造され、ジアステレオマー混合物が得られた。しかし、単離された固体は、ケトン水素化における触媒前駆体として有効に使用された。
【0090】
h)錯体[RuHCl((IV)−2)((VI)−1)]の製造
トルエン(5ml)中の[RuHCl(IV−2)(PPh)](300mg、0.29mmol)(Abdur-Rashid, K. et al. Organometallics 2001, 20, 1047に従って製造された)および(VI)−1(70mg、0.30mmol)から成る混合物を6時間還流した。得られた溶液を1mlに濃縮し、ヘキサン(10ml)を添加し、明るい黄色の生成物を得た。収率=261mg、90%。
【0091】

【0092】
i)錯体[RuHCl((IV)−2)((VI−2)]の製造
この錯体は、h)に記載される方法と同様の方法で製造された。収率=272mg、93%。
【0093】

【0094】
j)錯体[RuHCl((IV)−1)((VI)−1)]の製造
前駆体[RuHCl((IV)−1)(PPh]の合成:THF(20ml)を、(IV)−1(2.0g、3.6mmol)およびRuHCl(PPh(3.3g、3.4mmol)から成る混合物へ添加し、得られた懸濁液をAr下に6時間還流した。次に溶液を乾燥するまで真空下に蒸発させ、残留物をCHCl(2×15ml)で抽出し、濾過した。濾液を乾燥するまで蒸発させ、エーテル(20ml)を残留物へ添加した。懸濁液をN下に1時間攪拌した。赤褐色の固体を濾別し、エーテル(2×5ml)で洗浄し、真空乾燥させた。収率=2.46g、72%。
【0095】

【0096】
表題の錯体の合成:THF(5ml)中の(VI)−1(240mg、1.03mmol)溶液を[RuHCl((IV)−1)(PPh)](950mg、1.0mmol)へ添加し、得られた溶液を20℃で2時間攪拌した。溶剤を真空下に除去し、固体をTHF(3.0ml)で抽出し、濾過した。ヘキサン(20ml)を濾液へ添加し、淡黄色の固体を得、これを濾別し、ヘキサン(2×5ml)で洗浄し、真空乾燥させた。収率=623mg、67%。
【0097】
これには2種のジアステレオマーが2:1の割合で存在する。
【0098】

【0099】
k)錯体RuHCl((IV)−3)((VI)−1)の製造
前駆体[RuHCl((IV)−3))(PPhの合成、n=1、2:THF(20ml)を、(IV)−3(1.29g、2.6mmol)およびRuHCl(PPh(2.36g、2.6mmol)から成る混合物へ添加し、懸濁液をAr下に6時間還流した。溶剤を真空下に除去し、固体をTHF(10ml)で抽出し、濾過した。濾液を乾燥するまで蒸発させ、エーテル/ヘキサン(1:5)混合物(20ml)を添加した。懸濁液を2時間激しく攪拌した。赤褐色の固体を濾別し、ヘキサンで洗浄し、真空乾燥させた。収率=1.85g、69%(n=1およびn=2の異性体混合物1:1に基づく)。
【0100】

【0101】
表題錯体の合成:THF(2.0ml)中の(VI)−1(240mg、1.03mmol)溶液を[RuHCl((IV)−3)(PPH(n=1、2。比1:1)900mgへ添加し、混合物をN下に20℃で1時間攪拌した。混合物を濾過し、ヘキサン(20ml)を濾液へ添加し、黄緑色の固体が沈澱し、これを濾過し、ヘキサンで洗浄し、真空乾燥させた。収率=582mg、76%。
【0102】
これには2種のジアステレオマーが1.5:1の割合で存在する。
【0103】

【0104】
l)錯体 トランス−[RuH((IV)−2)((VI)−1)]の製造
前駆体[K(18−クラウン−6)][RuH3((IV)−2)(PPh)]の合成:THF(2ml)を、[RuHCl((IV)−2)(PPh)](100mg、0.10mmol)、KH(20mg、0.5mmol)および18−クラウン−6(26mg、0.10mmol)から成る混合物へ、Hガスの雰囲気下に添加した。混合物を5時間攪拌し、窒素雰囲気下に濾過し、ヘキサン(10mlg)を濾液に添加し、淡赤褐色固体を沈澱させた。収率=95mg、74%。
【0105】

【0106】
表題錯体の合成:C(0.6ml)中の[K(18−クラウン−6)][RuH((IV)−2)(PPh)](100mg、77mmol)および(VI)−1(20mg、86mmol)から成る混合物を12時間放置した。NMRスペクトルは、トランス−二水素化物錯体の明かな形成を示している。
【0107】

【0108】
m)錯体[Ru(AcO)2((VI)−1)]の製造
CHCl(3ml)中のRu(AcO)(13.1mg、0.03mmol)(Lindsay et al, J. Chem. Soc. Dalton. Trans. 1985, 2321に従って製造)および(VI)−1(27.5mg、0.12mmol)の溶液を周囲温度で24時間放置した。真空中での溶剤の除去により、明るい黄色粉末38mgを得た。収率=93%。
【0109】

【0110】
例2
[RuXY((VI))]または[RuXY(VI)(IV)]を用いたケトンの接触水素化
水素ガス(1〜3atm)の雰囲気下に室温で、例1に記載した式(VI)の配位子を随伴する触媒量の錯体は、KOPr3〜10等量と共に、ニートなケトンの相当のアルコールへの水素化を効果的かつ迅速に触媒した。[RuHCl((VI)−2)]と基質としてのアセトフェノンを用いた一般的な触媒操作は以下の通りである:
アセトフェノン(2.0g)を、[RuHCl((VI)−2)](5mg)およびKOPr(5mg)を含有するシュレンクフラスコへ、水素ガス流下させながら添加した。フラスコを液体窒素温度まで冷却し、Hガスで充満させ、密封し、室温までゆっくりと加熱した。混合物を12時間激しく攪拌した。反応混合物のHNMRスペクトルは、ケトンのアルコールへの完全な変換を示した。これらの条件下で、表2に記載される錯体は、ケトンを相当のアルコールへ100%変換した(表2)。
【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
Sub.=基質:1)=アセトフェノン、2)=アセトン、3)=2,2−ジメチル−1−フェニル−プロパン、4)=3,3−ジメチル−2−ブタノン、5)=5−ヘキセノ−2−オン
Com/base:基質に対するモル比(ppm)
Conv.=12時間後の、ケトンから相当のアルコール(すなわち、各々、1−フェニル−1−エタノール、イソプロパノール、2,2−ジメチル−1−フェニル−プロパノール、3,3−ジメチル−2−ブタノールおよび5−ヘキセノ−2−オール)への変換率(%で表示、GCまたはNMRで分析)
反応条件:Hガス(〜3.5atm)、20℃
*基質2.5gに対して、C1g中で水素化を実施した
1)40℃でHガス下に(〜60atm)、例3に記載した水素化条件下で、試験を行った
2a)e.e.(Sエナンチオマー)=10%;2b)e.e.(Sエナンチオマー)=40%
例3
現場製造された[RuXY((VI)−1)]または[RuXY((VI)−1)((IV)−4)]を用いる、2−エチル−4−(2’,2’,3’−トリメチル−3’−シクロペンテニ−1’−イル)−2−ブテナ−1−アールの接触水素化
[Ru(COD)(メチルアリル)]からのRu/(VI)−1溶液の現場製造:以下に記載される方法全てを不活性雰囲気下で実施する。[Ru(COD)(メチルアリル)]31.9mg(0.1mmol)をCHCl1mlに溶解し、HBF・EtO0.10mmolを溶液に添加した。こうして製造した溶液を室温で2時間攪拌し、次に2−ジフェニルホスフィノエチルアミン((VI)−1)45.8mg(0.2mmol)を添加し、得られた混合物を室温で2時間攪拌した。
【0114】
[Ru(C)(Cl)]からのRu/(VI)−1溶液の現場製造:
DMF(1.5ml)中の[RuCl(C)](25.0mg、0.05mmol)および(VI)−1(45.8mg、0.20mmol)溶液を100℃で1時間加熱した。黄色溶液から溶剤を真空除去し、残留物(黄色固体)をCHCl(0.5ml)中に回収した。
【0115】
水素化:
前記Ru/(VI)−1溶液1.0μl(基質に対して0.0001mmol、10ppm)を、i−PrOH(2.20ml)中の基質(2.06g、10.0mmol)およびt−BuOK(100.8mg、0.90mmol)から成る溶液へ添加し、得られた溶液を磁気攪拌しながら60゜で、H(40bar)に曝露した。モル比は前触媒1mol対t−BuOk9000mol対基質100000mol{1:9000:100000}であり、i−PrOH中の基質の出発濃度は〜2.4Mであった。2−エチル−4−(2’,2’,3’−トリメチル−3’−シクロペンテニ−1’−イル)−2−ブテノ−1−オールへの変換は3時間以内に終了した。更なる操作を同じ規模および同じ条件で実施し、錯体およびt−BuOKの量を変化させたが、非常に少ない錯体添加量の場合での変換を除いて、ほぼ同様の結果が得られた。基質量に対して1〜5ppmの触媒を用いた後者の操作は、反応時間を延長しかつ/または圧力および/または温度を高めることにより、強いて完全にすることが可能である。現場製造されたRu/(VI)−1/(IV)−1溶液を用いた操作も実施した。
【0116】
【表4】

【0117】
サンドラナール:2−エチル−4−(2’,2’,3’−トリメチル−3’−シクロペンテニ−1’−イル)−2−ブテナ−1−アール
a)XおよびYは、水素原子またはアルコキシ基を表す
b)比較のため、例1b)の方法で予め製造された錯体を用いて試験を実施した
Com/base:基質に対するモル比(ppm)
Conv./time=規定の時間(h)でのサンドラナールの相当するアルコールへの変換(%、GCにより分析)
§:配位子(IV)−4の構造:
【0118】
【化9】

【0119】
配位子(IV)−4は、FLUKAから購入可
*[Ru(COD)(メチルアリル)]から現場製造された錯体
**(VI)−1 0.1mmolおよび(IV)−4 0.1molを添加する以外は前記の方法で製造される、[Ru(COD)(メチルアリル)]から現場製造された錯体
***[Ru(C)(Cl)]から製造された錯体
例4
現場製造された[RuCl((VI)−1)]を用いる、数種のケトンの接触水素化
例3に記載の方法に類似した水素化法を利用する。結果を表4に記す。
【0120】
【表5】

【0121】
Sub:基質:1)=3,3−ジメチル−5−(2’,2’,3’−トリメチル−3’−シクロペンテニ−1’−イル)−4−ペンテノ−2−オン;2)=4−(2’,6’,6’−トリメチル−1’−シクロヘキセニ−1’−イル)−3−ブテノ−2−オン
Com/base:基質に対するモル比(ppm)
Conv.=3時間後の、ケトンの相当するアルコールへの変換(%、GCによる分析)
*例3のようにして[Ru(C)(Cl)]から製造された錯体
例5
[RuXY((VI))]または[RuXY(VI)(IV)]を用いたイミンの接触水素化
水素ガス(1〜3atm)の雰囲気下に室温で、例1に記載した式(VI)の配位子を随伴する触媒量の錯体は、KOPr5〜10等量と共に、イミンの相当のアミンへの水素化を効果的かつ迅速に触媒した。[RuHCl((VI)−1)]と基質としてのN−(1−フェニルエチリデン)−ベンゼンアミンを用いた一般的な触媒操作は以下の通りである:
N−(1−フェニルエチリデン)−ベンゼンアミン(4.0g)およびC(1g)を、[RuHCl((VI)−1)](105mg)およびKOPr(10mg)を含有するシュレンクフラスフラスコへ、水素ガスを流下させながら添加した。フラスコを液体窒素温度まで冷却し、Hガスで充満させ、密封し、室温までゆっくりと加熱した。混合物を12時間激しく攪拌した。反応混合物のHNMRスペクトルは、イミンのアミンへの完全な変換を示した。これらの条件下で、表5に記載される錯体は、イミンを相当のアミンへ100%変換した(表5)。
【0122】
【表6】

【0123】
Sub.:基質:1)=N−(フェニルメチレン)−ベンゼンアミン、2)=N−(1−フェニルエチリデン)−ベンゼンアミン、3)=N−(1−フェニルエチリデン)−ベンゼンメタンアミン
Com/base:基質に対するモル比(ppm)
Conv./time=規定の時間(h)でのイミンの相当するアミンへの変換(%、NMRにより分析)
反応条件:Hガス(〜3.5atm)、20℃
*ニートな基質の水素化
例6
現場製造された[Ru(V)XY]または[Ru(VI)XY]を用いる、アルデヒドの接触水素化
i)例で使用する式(V)または(VI)の新規配位子の製造
A. 3−(ジシクロヘキシルホスフィノ)−1−プロピルアミン((VI)−4)
ジシクロヘキシルホスフィン10g(54mmol)、アリルアミン3.1g(54mmol)およびジテルチオブチルペルオキシド0.2gを、窒素下にオートクレーブ中で、150℃で2時間攪拌した。得られた混合物を真空蒸留して分別し、所望のアミノホスフィン(無色の液体)を純度92%および収率50%で得た。
【0124】

【0125】
B.2−[2−(ジイソブチルホスフィノ)−エチル]ピリジン((V)−1)
ジイソブチルホスフィン10g(68mmol)、2−ビニルピリジン7.1g(68mmol)および2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、VAZO(R)64)0.1gを窒素下にガラス反応容器中で、85℃で2時間攪拌した。得られた混合物を真空蒸留により分別して所望のアミノホスフィン(無色の液体)を純度95%および収率60%で得た。
【0126】

【0127】
C. 2−[2−ジイソブチルホスフィノ)−エチル]−1H−イミダゾール((V)−2)
ジイソブチルホスフィン10g(6.8mmol)、1−ビニルイミダゾール6.4g(68mmol)および2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、VAZO(R)64)0.1gを窒素下にガラス反応容器中で、85℃で2時間攪拌した。得られた混合物を真空蒸留により分別して所望のアミノホスフィン(無色の液体)を純度96%および収率50%で得た。
【0128】

【0129】
ii)[Ru(COD)(メチルアリル)]からのRu/(配位子)溶液の現場製造
以後記載される全ての方法は、不活性雰囲気下に実施される。[Ru(COD)(メチルアリル)]31.9mg(0.1mmol)をCHCl1ml中に溶解し、HBF・EtO0.10mmolを溶液へ添加した。こうして得られた溶液を室温で2時間攪拌し、次に所望の配位子0.2mmolを添加し、得られた混合物を室温で2時間攪拌した。最後に、得られた溶液へCHCl9mlを添加した。
【0130】
iii)水素化
不活性雰囲気下のグローブボックス内のシュレンク管で、表6または7(欄A)に記載される適量のナトリウムメトキシドを、表6または7(欄B)に記載される適量のイソプロパノールへ溶解した。次に、表6または7(欄B)に記載される適量のサンドラナールを混合物へ添加し、5分攪拌した。得られた溶液へ、表6または7(欄C)に記載される適量のRu/(配位子)溶液(所望の配位子を使用して上記のようにして製造される)を添加した。10分攪拌した後、溶液をボンベに以降し、溶液を40℃に加熱してH 30atm下に放置した。反応をGCで追跡調査し、出発化合物が無くなり次第、反応物を室温まで冷却し、圧力を1atmに低下させた。
【0131】
配位子の構造、量および各試験の結果を表6または7に要約する。
【0132】
【表7】

【0133】
【表8】

【0134】
a)XおよびYは、水素原子またはアルコキシ基を表す
サンドラナール:2−エチル−4−(2’,2’,3’−トリメチル−3’−シクロペンテニ−1’−イル)−2−ブテナ−1−アール
Com/base:基質に対するモル比(ppm)
Conv./time=規定の時間での、アルデヒドの相当のアルコールへの変換(%、GCにより分析)
*配位子(VI)−5:
【0135】
【化10】

【0136】
A=試験に使用するNaOMeのグラム
B=試験に使用するPrOHのグラム;試験に使用するサンドラナールのグラム
C=試験に使用するRu/(V)またはRu/(VI)溶液の体積(ml)
例7
[RuXY((V’))]を使用するケトンの接触水素化
【0137】
【表9】

【0138】
配位子(V’)−1および(V’)−2は、STREMから購買入手できる
配位子(V’)−3および(V’)−4は、Gao et al. Polyhedron 1996, 15, 1241に記載される方法に従い、相当のアミンから製造された
−錯体[RuCl((V’)−1)]の製造
錯体は、(V’)−1(562mg、1.408mmol)と[RuCl(DMSO)](341mg、0.616mmol)を還流トルエン(20ml)中で8時間攪拌して反応させることにより製造され、その間に橙色の沈殿物が形成される。室温で冷却した後、固体を濾別し、冷トルエンおよびヘキサンで洗浄し、最後に真空乾燥させた。[RuCl((V’)−1)] 376mgを得た(収率66%)。
【0139】

【0140】
−錯体[RuCl((V’)−2)]の製造
錯体は、(V’)−2(255mg、0.580mmol)および[RuCl(PPh](270mg、0.282mmol)を、トルエン(20ml)中で、30分、室温で反応させることにより製造された。次に、溶液を8時間還流し、次に得られた赤紫色の溶液を室温まで冷却させた。少量の固体を濾液から除去した後に、得られた溶液を5mlまで濃縮し、ペンタン100mlを添加しかつ懸濁液を2時間攪拌することにより、生成物を沈澱させた。最後に、沈殿物を濾過して回収し、ペンタンで洗浄し、真空乾燥させた。[RuCl((V’)−2)] 300mgを得た(収率=100%)。
【0141】

【0142】
−錯体[RuCl((V’)−3)]の製造
錯体は、(V’)−3(190mg、0.529mmol)および[RuCl(PPh](221mg、0.231mmol)を、CHCl(10ml)中、室温で18時間反応させることにより、製造された。得られた赤い溶液を1mlまで濃縮し、ペンタン50mlを添加しかつ2時間攪拌することにより、生成物を沈澱させた。最後に、沈殿物を濾過して回収し、ペンタンで洗浄し、真空乾燥させた。赤橙色の[RuCl((V’)−3)] 160mgを得た(収率=78%)。
【0143】

【0144】
−錯体[RuCl((V’)−4)]の製造
錯体は、(V’)−4(225mg、0.529mmol)および[RuCl(PPh](230mg、0.240mmol)を、CHCl(10ml)中、室温で3日間反応させることにより製造された。得られた溶液を1mlまで濃縮し、ペンタン50mlを添加しかつ懸濁液を2時間攪拌することにより生成物を沈澱させた。最後に、沈殿物を濾過して回収し、ペンタンで洗浄し、真空乾燥させた。[RuCl((V’)−3)] 140mgを得た(収率=60%)。
【0145】

【0146】
相当のアルコールへの基質の水素化
PrOH中の2.1Mの基質アリコット(前記基質20mmolを表す)、所望量のBuOKをオートクレーブ中に入れ、塩基が完全に溶解するまで攪拌した。その後、CHCl中に溶解した所望の錯体の貯蔵溶液(一般的に金属濃度0.02M)を適量で前記溶液へ添加した。次に、オートクレーブをHで3回パージし、最後にHでの45bar下に60℃で加熱した。反応をGCで追跡調査し、反応生成物が無くなり次第、反応混合物を室温まで冷却し、圧力を1atmまで低下させた。結果を表9に要約する。
【0147】
【表10】

【0148】
Sub.=基質、1)=アセトフェノン、2)=3,3−ジメチル−5−(2’,2’,3’−トリメチル−3’−シクロペンテニ−1’−イル)−4−ペンテノ−2−オン
Com/base:基質に対するモル比(ppm)
Conv./time=規定の時間(h)での、基質の相当のアルコールへの変換(%、GCによる分析)
例8
塩基の添加なしに、数種の[RuXY((VI)−1)]を使用した、アセトフェノンの接触水素化
水素ガス(40atm)の雰囲気下に60℃で、表1に記載される触媒量の[RuHCl((VI)−1)]は、塩基の添加なしに、アセトフェノンのフェニルエタノールへの水素化を迅速に触媒した。10ppmの触媒/基質(c/s)比で[RuHCl((VI)−1)]を使用する際の典型的な触媒操作は以下の通りである:
シュレンク管中で、Arおよび周囲温度下に、[RuHCl((VI)−1)](12mg、0.02mmol)(例1bで製造される)をい−PrOH(1ml)に懸濁し、得られた懸濁液を約5分攪拌した。最終的に分散した淡黄色の[RuHCl((VI)−1)]懸濁液20μl(0.0004mmol)を、i−PrOH(14.4ml)中のアセトフェノン(4.80g、40mmol)溶液へ添加し、これをAr下にオートクレーブへ入れた。オートクレーブを密封し、Hで40barの圧力をかけ、その内容物を攪拌し、60℃に加熱した。GCによる分析のためにサンプルを定期的に取り出し、反応時間および結果を表10に記載する。
【0149】
【表11】

【0150】
Com:基質に対するモル比(ppm)
Conv./time=規定の時間(時間(h)または分(m))での、基質の相当のアルコールへの変換(%、GCによる分析)
*比較例のため、同じ実験法であるがHガスを使用せずに(水素移動による還元)試験を実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子水素(H)を用いて錯体および塩基の存在下に基質のC=OまたはC=N二重結合を相当の水素化化合物へ水素化する方法において、前記錯体が、式(II):
[Ru(L)(L’)XY] (II)
[式中、
XおよびYは、同時にまたは独立して、水素またはハロゲン原子、ヒドロキシ基あるいはC〜C−アルコキシまたはアシルオキシ基を表し、
mは、1または2であり、
mが1のときwは1であり、mが2のときwは0であり;
Lは、一般式:
【化1】

で表されるN−P二座配位子であり、式(III)中、
点線は単結合または二重結合を表し;
nは1〜4の整数であり、
zは、0または1であり、それぞれの場合に、点線で示される炭素−窒素結合が二重結合または単結合であり;
は、水素原子、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C10−アルキルまたはアルケニル基、RCOアシル基、またはRSO基であり、
は、C〜C−アルキルまたはアリール基であり;
およびRは、同時にまたは独立して、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C−アルキルまたはアルケニル基、置換されていてよい芳香環、またはOR2’またはNR2’3’基であり、
2’およびR3’はRおよびRで定義したものであり、あるいは
前記RおよびRは、一緒に結合し、RおよびRが結合しているリン原子を含んで5〜10個の原子を有する飽和環または芳香環を形成し;
、R、RおよびRは、同時にまたは独立して、水素原子、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C10−アルキルまたはアルケニル基、置換されていてよい芳香環、またはOR4’またはNR4’5’基であり、R4’およびR5’は、RおよびRで定義されたものであり;あるいは2つの個々のRおよび/またはR基は一緒に結合し、前記RまたはRがそれぞれ結合している炭素原子を含んでC〜Cの飽和環または芳香環を形成してよく;あるいは
およびRは場合により一緒に結合し、点線で示された結合の炭素原子およびN原子を含んで、置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよい、5〜10個の原子を有する飽和または不飽和ヘテロ環を形成してよく;
L’は、式:
【化2】

のP−P二座配位子を表し、式中、
およびRは、式(III)で定義したものであり、
Qは、置換されていてよい直鎖または環状C〜C−アルキレン基、置換されていてよいメタロセンジイルまたはC〜C22−アリーレンまたはビアリールジイル基であり、
〜RおよびQの可能な置換基は、C〜C10−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、カルボン酸エステル、C〜C−アルキル基、またはC〜C12−シクロアルキルまたは芳香族基である]であることを特徴とする、水素化法。
【請求項2】
基質を、式:
[Ru(L)(L’)XY] (II)
[式中、
XおよびYは、同時にまたは独立して、水素または塩素原子、ヒドロキシ基、C〜C−アルコキシ基またはC〜C−アシルオキシ基であり;
mは、1または2であり、mが1の時wは1であり、mが2の時wは0であり;
Lは、一般式:
【化3】

のN−P二座配位子を表し、
式中、
nは、1〜3の整数であり;
は、水素原子、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C−アルキルまたはアルケニル基であり;
およびRは、同時にまたは独立して、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C−アルキル基、置換されていてよい芳香環であり;または
前記基RおよびRは、一緒に結合し、前記RおよびRが結合しているリン原子を含んで、5〜6個の原子を有する飽和環または芳香環を形成してよく;
、R、RおよびRは、同時にまたは独立して、水素原子、置換されていてよい直鎖または分枝鎖C〜C−アルキル基、置換されていてよい芳香環;あるいは2つの個々のRおよび/またはR基は一緒に結合して、前記RまたはR基がそれぞれ結合している炭素原子を含んで、C〜C飽和環または芳香環を形成してよく;あるいは
およびRは、場合により一緒に結合し、点線で示される結合の炭素原子およびN原子を含んで、置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよい、5〜6個の原子を有する飽和ヘテロ環を形成してよく;
L’は、式(IV)のP−P二座配位子を表し、
式中、RおよびRは、式(III’)で定義した通りであり、
Qは、置換されていてよい直鎖C〜C−アルキレン基、置換されていてよいフェロセンジイルまたはビフェニルジイルまたはビナフチルジイル基であり;
〜RおよびQの可能な置換基はC〜C−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、カルボン酸エステル、C〜C−アルキル基、またはC〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である]の錯体の存在下に水素化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基質を式:
[Ru(L)(L’)XY] (II)
[式中、
X、Y、L’、mおよびwは請求項2に定義した通りであり;
Lは、一般式:
【化4】

のN−P二座配位子を表し、
Gは、式:RC=NRの基またはC=N官能基を含有する置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよいヘテロ環であり;
は、水素原子、置換されていてよい直鎖または分枝鎖C〜C−アルキル基または置換されていてよい芳香環であり;
n、R、R、R、R、Rは、請求項2で式(III’)について記載した通りであり;
〜R、QおよびGの可能な置換基は、C〜Cアルコキシまたはポリアルキレングリコール基、カルボン酸エステル、C〜C−アルキル基、またはC〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である]の錯体の存在下に水素化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
基質を、式:
[Ru(L)XY] (II’)
[式中、
XおよびYは、同時にまたは独立して、水素または塩素原子、メトキシ、エトキシまたはイソプロポキシ基、またはCHCOOまたはCHCHCOO基であり;
Lは、式(V)または(V’):
【化5】

の配位子であり、
式(V’)中の点線はフェニルまたはナフチル基の存在を示し;
bは、1または2であり;
G’は、RC=NR基またはC=N官能基を含有する置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよいヘテロ環であり;
は、水素原子または置換されていてよいC〜C直鎖または分枝鎖アルキル基であり;
およびRは、置換されていてよい直鎖、分枝鎖または環状C〜C−アルキル基または芳香環であり;
は、水素原子、置換されていてよい直鎖又は分枝鎖C〜C−アルキル基または置換されていてよい芳香環であり;
〜R、RおよびG’の可能な置換基は、C〜C−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、C〜C−アルキル基、またはC〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である]の錯体の存在下に水素化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
基質を、式:
[Ru(L)XY] (II’)
[式中、
XおよびYは、請求項4に定義した通りであり、
Lは、式(VI)または(VI’):
【化6】

の配位子であり、
式(VI’)中の点線はフェニルまたはナフチル基の存在を示し;
、R、Rおよびbは、請求項4の式(V)または(V’)で定義した通りであり;
およびRは、同時にまたは独立して、水素原子、置換されていてよい直鎖または分枝鎖C〜C−アルキル基、または置換されていてよい芳香環であり;または
およびRは、場合により一緒に結合して、置換されていてよくかつ他のヘテロ原子を含有してよい飽和ヘテロ環を形成し;
〜R、RおよびRの可能な置換基は、C〜C−アルコキシまたはポリアルキレングリコール基、C〜C−アルキル基、C〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基である]の錯体の存在下に水素化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
基質を、式:
[Ru(L)(L’)XY] (II’)
[式中、
XおよびYは、同時にまたは独立して、水素原子または塩素原子、メトキシ、エトキシまたはイソプロポキシ基、またはCHCOOまたはCHCHCOO基であり;
L’は、式(IV)のP−P二座配位子であり、
およびRは、請求項4の式(V)に定義した通りであり、
Qは、置換されていてよいブタン−1,4−ジイル基、置換されていてよいフェロセンジイルまたはビナフチルジイル基であり;
Q基の可能な置換基は、C〜Cアルコキシまたはポリアルキレングリコール基、C〜C−アルキル基、またはC〜C10−シクロアルキルまたは芳香族基であり;
Lは、請求項5の式(VI)または(VI’)の配位子である]の錯体の存在下に水素化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
基質を、式:
[Ru(L)(L’)XY] (II’’)
[式中、X、YおよびL’は、請求項6に定義した通りであり、Lは、請求項4の式(V)または(V’)の配位子である]の錯体の存在下に水素化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
式:
[Ru("ジエン")("アリル")]
[式中、
"ジエン"は、2つの炭素−炭素二重結合を有し、共役しているかまたはしていない環状または直鎖炭化水素を表し、
"アリル"は、1つの炭素−炭素二重結合を有する直鎖または分枝鎖C〜C−炭化水素を表す]の適当なRu錯体と非配位酸とを反応させ、得られた溶液を、請求項1から7までのいずれか1項に記載される所望量の配位子L、場合により配位子L’で処理し、得られた混合物を最後に1級または2級アルコールの存在下に塩基で処理することにより現場製造される錯体の存在下に、基質を水素化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
[Ru("ジエン")("アリル")]が[Ru(COD)(アリル)]または[Ru(COD)(メチルアリル)]であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
式[Ru(C)(Cl]のルテニウム錯体を、請求項1から7までのいずれか1項に記載される所望量の配位子L、場合により配位子L’と反応させ、得られた反応混合物を次にアルコールの存在下に塩基で処理することにより現場製造される錯体の存在下に、基質を水素化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
水素化反応における塩基が、有機非配位塩基、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸塩、カルボン酸塩またはアルコラートまたは水酸化物塩であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
塩基が、式:
(RO)M’またはROM"
[式中、
M’は、アルカリ土類金属であり、
M"は、アルカリ金属であり、
は、水素あるいは直鎖または分枝鎖のC〜C−アルキル基である]の化合物から成る群より選択されるアルコラートまたは水酸化物の塩であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
錯体の存在下に分子水素(H)を用いて水素化することによりアリールまたはジアリールケトンを相当のアルコールへ変換するための還元法において、錯体が、式:
[Ru(L)XY] (II’)
[式中、
Lは、請求項4または5に記載の式(V)、(V’)、(VI)または(VI’)の配位子であり;
Xは、水素原子でありかつYは、水素または塩素原子、メトキシ、エトキシまたはイソプロポキシ基あるいはCHCOOまたはCHCHCOO基であるか;または
XおよびYは、水素原子またはCHCOOまたはCHCHCOO基である]の錯体であることを特徴とする、アリールまたはジアリールケトンを相当のアルコールへ変換するための還元法。
【請求項14】
還元される基質が、式:
【化7】

[式中、
Wは、酸素原子またはNR基であり、
Rは、水素原子、ヒドロキシ基、置換されていてよい環状、直鎖または分枝鎖のC〜C−アルキルまたはアルケニル基、または置換されていてよい芳香であり;あるいは
およびRは、同時にまたは独立して、水素、置換されていてよい芳香族基、置換されていてよい環状、直鎖または分枝鎖アルキルまたはアルケニル基、または置換されていてよいヘテロ環基であり;
記号R、RおよびRの2つが一緒になって置換されていてよい環を形成し;
、RおよびRの可能な置換基は、ハロゲン原子、OR、NRまたはR基であり、ここでRは、水素原子または環状、直鎖または分枝鎖C〜C10−アルキルまたはアルケニル基である]の基質であり、式:
【化8】

[式中、W、RおよびRは、式(I)で定義した通りである]の相当の水素化化合物が得られることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
式:
【化9】

[式中、
Wは、酸素原子であり、
およびRは、請求項14に定義した通りである]の基質を水素化することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
式:
【化10】

[式中、
Wは、NR基であり、
およびRは、請求項14に定義した通りである]の基質を水素化することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
水素化を溶剤の不在下に実施することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
水素化を、溶剤である1級または2級アルコール中で実施することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
溶剤が、エタノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
式(II):
[Ru(L)(L’)XY] (II")
[式中、L、L’、XおよびYは、請求項6または7に定義した通りである]の錯体。

【公開番号】特開2012−87138(P2012−87138A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266106(P2011−266106)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【分割の表示】特願2002−526727(P2002−526727)の分割
【原出願日】平成13年9月11日(2001.9.11)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】