説明

接触状態検出回路、生体信号取得装置、健康機器

【課題】電極の接触状態が従来よりも迅速に評価でき、品質の高い生体信号が記録できる生体信号取得装置を提供する。
【解決手段】インピーダンス測定回路20は、電極10に電流を加えて接触インピーダンスを測定し、電圧Vimpを出力する。インピーダンス計算回路40は、電圧Vimpから接触インピーダンスの値を計算し、インピーダンスの値に対応した電圧Vcalを出力する。基準電圧発生回路50は、接触インピーダンスの基準値に基づいた電圧Vrefを供給する。比較器60は、2つの電圧VcalとVrefとの比較を行い、電極の接触状態の判定を行う。これにより、電極の接触状態の変動を迅速に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触型電極を人体の所定部位に接触させて生体信号を取得する生体信号取得装置に関するものであり、さらに詳しくは、電極と皮膚の接触状態を検知する回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳波図、心電図等、生体の電気信号を測定し記録する生体信号取得装置が広く用いられている。このような生体信号取得装置を用いる際、生体に取り付ける電極と皮膚との接触インピーダンスを軽減し、品質の良い信号を記録するために、導電性のゲル等を介して電極を取り付けることが多い。
【0003】
しかし、病院等において短時間のみ生体信号の測定する際には、導電性のゲルを介した電極を用いて、据置型の生体信号取得装置で測定が行うことができるので良いが、通常の生活を送りながら生体信号の測定を行う場合は、使い勝手の面から導電性ゲル等を用いない接触型電極(乾電極とも呼ばれる)が用いられ、携帯型の生体信号計測装置で測定されることが多い。
【0004】
接触型電極を用いて収集される生体信号の品質は、電極と皮膚との密着度によって大きく変動する。一般に、接触型電極と皮膚との接触状態を検出するために、電極の接触インピーダンスが測定され、測定した接触インピーダンスの値に基づいて接触状態が判定されている。
【0005】
図13は、特許文献1に記載の生体信号取得装置の構成を示す。生体信号取得装置900は、電極部910と本体920とで構成される。本体920は、生体信号増幅集積回路をなしているAD変換部921、インピーダンス測定部922、表示部923、入力部924、出力部925、CPU926、ROM927、RAM928、生体信号記録部929および外部I/F930を有し、各構成要素はCPUバス931により相互に接続されている。
【0006】
電極部910で取得された生体信号は、AD変換部921で所定の電圧範囲まで増幅され、所定のサンプリング条件でデジタルデータに変換される。図14に示す区間T1(例えばt1=10秒)分のデジタルデータは、図13のRAM928の所定領域であるバッファへ一時的に記憶される。インピーダンス測定部922は、バッファ内に記憶された10秒分のデジタルデータに基づいて接触インピーダンスを測定し、電極と皮膚との接触状態を判定する。そして、接触状態が良好であると判断された場合、RAM128のバッファと異なる領域に、後続の区間T2(例えばt2=50秒)分の生体信号のデータを記録し、生体信号の取得処理を終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−102695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電極の接触状態が悪い場合では電波などの外来ノイズが混入し、電極で取得する信号が不安定になるため、生体信号取得装置で取得する信号の品質が劣化する。従来の生体信号取得装置では、生体信号増幅集積回路(AD変換部921)の後にインピーダンス測定部922を配置した構成を採っていたため、接触状態の急な変化に対応できないという課題を有していた。例えば、区間T2の生体信号を記録している最中に、時刻t=txに電極が皮膚から離れた状態へ急に変化しても、AD変換部921自身では信号の品質を判定できないため、誤測定のデジタルデータを出力し続けていた。その結果、RAM928および生体信号記録部929で「無効」な生体信号を「有効」と誤認識して記録し、取得する信号品質の劣化を招いていた。
【0009】
そこで、本発明では上記従来の課題を解決するもので、品質の高い生体信号が記録できる生体信号取得装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明の接触状態検出回路は、
電極と皮膚との接触状態を検出する接触状態検出回路であって、
前記電極に交流電流を加える測定用電流源を有し、前記電極の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定回路と、
前記インピーダンス測定回路の出力信号に基づいて、前記接触インピーダンスに対応する第1の電圧を第1のノードに出力するインピーダンス計算回路と、
前記接触状態を検出するためのインピーダンスのしきい値に対応する第2の電圧を第2のノードに出力する基準電圧生成回路と、
前記第1の電圧と前記第2の電圧とを比較する比較器
を備えていることを特徴とする。
【0011】
これにより、電極の接触インピーダンスの測定を行うと共に、インピーダンスの計算を行うことで、電極と皮膚の接触状態を迅速に検知することができ、取得する生体信号のデータの品質が確保できるという利点がある。
【0012】
請求項2に記載の接触状態検出回路は、
請求項1に記載の接触状態検出回路において、
前記測定用電流源は、前記交流電流の周波数が調整可能である
ことを特徴とする。
【0013】
これにより、請求項1の構成において、さらに請求項2で交流電流の周波数を調整可能にすることで、異なる周波数においても接触インピーダンスの測定が可能となり、接触インピーダンスの周波数特性が得られるという利点がある。
【0014】
請求項3に記載の接触状態検出回路は、
請求項1に記載の接触状態検出回路において、
前記インピーダンス計算回路は、絶対値計算回路を備える
ことを特徴とする。
【0015】
これにより、請求項1の構成において、さらに請求項3で絶対値計算回路を有することで、インピーダンスの値が容易に得られるという利点がある。
【0016】
請求項4に記載の接触状態検出回路は、
前記基準電圧生成回路は、
一端が電源電圧に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第1の抵抗素子と、
一端が前記第2のノードに接続され、他端が接地電圧に接続された第2の抵抗素子とを
備える
ことを特徴とする。
【0017】
これにより、請求項1の構成において、さらに請求項4で抵抗分圧の構成を用いて基準電圧を容易に生成させることができる。
【0018】
請求項5に記載の接触状態検出回路は、
請求項4に記載の接触状態検出回路において、
前記基準電圧生成回路は、
前記第1または第2の抵抗素子の抵抗値が調整可能である
ことを特徴とする。
【0019】
これにより、請求項4の構成において、さらに請求項5で抵抗素子の抵抗値を変えることで、接触状態を判定するしきい値を可変にすることができるため、より多くの電極に接触状態検出回路に適用できるという利点がある。
【0020】
請求項6に記載の接触状態検出回路は、
請求項1に記載の接触状態検出回路において、
前記基準電圧生成回路は、
一端が電源電圧に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第1の電流源と、
一端が前記第2のノードに接続され、他端が接地電圧に接続された第3の抵抗素子とを備える
ことを特徴とする。
【0021】
これにより、請求項1の構成において、さらに請求項6で定電流源と抵抗素子を備えることにより基準電圧を容易に発生させることができる。
【0022】
請求項7に記載の接触状態検出回路は、
前記基準電圧生成回路は、
前記第1の電流源の電流値または前記第3の抵抗素子の抵抗値が調整可能である
ことを特徴とする。
【0023】
これにより、請求項6の構成において、さらに請求項7で抵抗素子の抵抗値を変えることで、接触状態を判定するしきい値を可変にすることができるため、より多くの電極に接触状態検出回路に適用できるという利点がある。
【0024】
請求項8に記載の接触状態検出回路は、
n個の電極(nは2以上の整数)と皮膚との接触状態を検出する接触状態検出回路であって、
前記n個の電極の内から一つを選択する選択回路と、
前記電極に交流電流を加える測定用電流源を有し、前記電極の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定回路と、
前記インピーダンス測定回路の出力信号に基づいて、前記接触インピーダンスに対応する第1の電圧を第1のノードに出力するインピーダンス計算回路と、
前記接触状態を検出するためのインピーダンスのしきい値に対応する第2の電圧を第2のノードに出力する基準電圧生成回路と、
前記第1の電圧と前記第2の電圧とを比較する比較器
を備えていることを特徴とする。
【0025】
これにより、複数の電極の接触状態を検出したい場合に、接触インピーダンスを測定する電極が選択可能な接触状態検出回路を1つ備えることにより、全ての電極の接触状態を調べることできる。
【0026】
請求項9に記載の接触状態検出回路は、
請求項8に記載の接触状態検出回路において、
前記測定用電流源は、前記交流電流の周波数が調整可能である
ことを特徴とする。
【0027】
これにより、請求項8の構成において、さらに請求項9で交流電流の周波数を調整可能にすることで、異なる周波数においても接触インピーダンスの測定が可能となり、接触インピーダンスの周波数特性が得られるという利点がある。
【0028】
請求項10に記載の接触状態検出回路は、
請求項8に記載の接触状態検出回路において、
前記インピーダンス計算回路は、絶対値計算回路を備える
ことを特徴とする。
【0029】
これにより、請求項8の構成において、さらに請求項10で絶対値計算回路を有することで、インピーダンスの値が簡単に得られるという利点がある。
【0030】
請求項11に記載の接触状態検出回路は、
請求項8に記載の接触状態検出回路において、
前記基準電圧生成回路は、
一端が電源電圧に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第1の抵抗素子と、
一端が前記第2のノードに接続され、他端が接地電圧に接続された第2の抵抗素子とを
備える
ことを特徴とする。
【0031】
これにより、請求項1の構成において、さらに請求項4で抵抗分圧の構成を用いて基準電圧を容易に生成させることができる。
【0032】
請求項12に記載の接触状態検出回路は、
請求項11に記載の接触状態検出回路において、
前記基準電圧生成回路は、
前記第1または第2の抵抗素子の抵抗値が調整可能である
ことを特徴とする。
【0033】
これにより、請求項11の構成において、さらに請求項12で抵抗素子の抵抗値を変えることで、接触状態を判定するしきい値を可変にすることができるため、より多くの電極に接触状態検出回路に適用できるという利点がある。
【0034】
請求項13に記載の接触状態検出回路は、
請求項8に記載の接触状態検出回路において、
前記基準電圧生成回路は、
一端が電源電圧に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第1の電流源と、
一端が前記第2のノードに接続され、他端が接地電圧に接続された第3の抵抗素子とを備える
ことを特徴とする。
【0035】
これにより、請求項1の構成において、さらに請求項6で定電流源と抵抗素子を備えることにより基準電圧を容易に発生させることができる。
【0036】
請求項14に記載の接触状態検出回路は、
請求項13に記載の接触状態検出回路において、
前記基準電圧生成回路は、
前記第1の電流源の電流値または前記第3の抵抗素子の抵抗値が調整可能である
ことを特徴とする。
【0037】
これにより、請求項13の構成において、さらに請求項14で抵抗素子の抵抗値を変えることで、接触状態を判定するしきい値を可変にすることができるため、より多くの電極に接触状態検出回路に適用できるという利点がある。
【0038】
請求項15に記載の生体信号取得装置は、
生体信号を取得する生体信号取得装置であって、
請求項1から14のいずれか一つに記載の接触状態検出回路と、
前記接触状態検出回路によって得られたアナログ信号をデジタルコードに変換する
AD変換器と、
前記AD変換器によって得られたデジタルコードを記録する記録部とを備える
ことを特徴とする。
【0039】
これにより、電極が皮膚に接触している状態を確保することが重要な生体信号取得装置において、接触状態検出回路を用いると、接触状態の検出を迅速に行うことができ、信号品質の高い生体信号の取得ができる。
【0040】
請求項16に記載の健康機器は、
請求項1から14のいずれか一つにおいて、
先端に前記n個の電極(nは1以上の整数)のそれぞれが取り付けられ、皮膚に対して進退運動を行うn個の押圧体と、
前記接触状態検出回路と、
前記n個の押圧体のそれぞれに前記進退運動を制御するための制御信号を送る制御部と
を備える
ことを特徴とする。
【0041】
これにより、電極と皮膚とが接触している状態だけでなく、離れている状態も重要である健康機器についても、接触状態検出回路を用いると押圧体の動作状態の検出を迅速に行うことができ、機器の制御が容易にできるという利点がある。
【発明の効果】
【0042】
本発明の接触状態検出回路によれば、電極と皮膚の接触状態が急に変化しても、取得する生体信号の有効性をAD変換が行われる前に迅速に検出することができる。したがって、高品質でかつ信頼性の高い生体信号を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態1に係る接触状態検出回路の構成例を示す図
【図2】インピーダンス測定回路の構成例を示す図
【図3】インピーダンス計算回路の構成例を示す図
【図4】基準電圧生成回路の構成例を示す図
【図5】基準電圧生成回路の別の構成例を示す図
【図6】接触インピーダンスの測定の具体例を示す図
【図7】図1に示した接触状態検出回路の動作を説明するための図
【図8】本発明の実施形態2に係る接触状態検出回路の構成例を示す図
【図9】図8の変形例を説明する図
【図10】生体信号取得装置の構成例を示す図
【図11】健康機器の構成例を示す図
【図12】図11に示した健康機器の動作を説明するための図
【図13】従来の生体信号取得装置の構成を示す図
【図14】従来の生体信号取得装置の動作を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の各実施形態を通して同様の機能を有する構成要素については同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0045】
《第1の実施形態》
図1は、第1の実施形態による接触状態検出回路100の構成例を示す。接触状態検出回路100は、電極にインピーダンス測定用の電流を加え、生体信号に重畳したインピーダンス信号を示すアナログ信号Vimpと、アナログ信号Vimpに基づいて接触状態が判定された接触不良検出信号Vdetを出力する。接触状態検出回路100は、インピーダンス測定回路20と接触状態評価回路30とを備える。
【0046】
〔インピーダンス測定回路〕
図2は、インピーダンス測定回路20の構成例を示す。インピーダンス測定回路20は、測定用電流源21で構成される。電極側(ノードN1)に交流電流Iを加えると、接触状態検出回路側のノードN2の電圧V2は、電流Iと接触インピーダンスの値(Z)の積で表される電圧が生体信号に重畳された値となる。電圧V2は、接触状態検出回路100のアナログ信号Vimpとして出力されるので、V2=Vimpで表される。また、図2のようにノードN1とN2は同じノード、つまりV1=V2であっても良い。
【0047】
交流電流の周波数は生体信号の周波数帯域(例えば、0.01〜200Hz)より高い周波数(例えば、1kHz)に設定するのが好ましい。それは、接触状態検出回路100の後段で生体信号と接触インピーダンス信号を分離し、解析や記録を行うためである。
【0048】
生体信号の周波数帯域で接触インピーダンスを測定する場合は、接触インピーダンス信号の取得だけができる。その理由は、接触インピーダンス信号(例えば100mV)が生体信号(例えば数10μV)より遥かに大きく、生体信号が接触インピーダンス信号に埋もれてしまうためである。
【0049】
測定用電流源21は、交流電流Iの周波数を変更する(例えば10Hzに変更)ことにより、接触インピーダンスの測定周波数を変更することができる。複数の周波数について測定を行うことにより、接触インピーダンスの周波数特性を得ることができる。
【0050】
また、測定用電流源21は、電流Iの振幅Iaが調整可能である構成にすることが望ましい。電極の種類、皮膚の表面状態や、取得する生体信号の種類など、測定条件が異なっても、インピーダンス測定で生じる電圧を適宜調整することができる。また、参照電極として用いる電極用に、交流電流Iにおける電流の方向を反対に設定できる機能を備えているのが望ましい。
【0051】
〔接触状態評価回路〕
図1に示す接触状態評価回路30は、電極10の接触インピーダンスと所定の基準インピーダンスを比較し、電極の接触状態を判定する回路である。接触状態評価回路30は、インピーダンス計算回路40と、基準電圧生成回路50と、比較器60とを備える。
【0052】
《インピーダンス計算回路》
インピーダンス計算回路40は、インピーダンス測定回路20で測定され出力された電圧V2から、電極10の接触インピーダンス値に対応する電圧Vcalに変換する回路である。インピーダンス計算回路40の構成を図3に示す。インピーダンス計算回路40は、絶対値回路41と定数倍回路42とで構成される。上述したように、接触インピーダンスZの値は複素数で表されるため、複素数Zの絶対値を求める演算を行うことにより、接触インピーダンスの大きさが簡単に計算できる。定数倍回路42は、インピーダンス測定回路20で加える電流Iの振幅Iaの値に基づいて、定数倍の演算を行う回路である。
【0053】
通常、電極と皮膚の等価回路は抵抗Rと容量Cの直並列回路で表され、接触インピーダンスZは、実数成分と虚数成分を含む複素インピーダンスで表現される。そのため、接触インピーダンスは、電流Iの周波数に依存する。接触インピーダンスZの大きさを求めるために、複素インピーダンスの絶対値(|Z|)が計算される。
【0054】
なお、複素数の絶対値は、インピーダンス測定回路20で電圧V2の実数成分と虚数成分を前もって抽出し、絶対値回路41で複素数の絶対値を求める演算を行っても良い。もし、接触インピーダンスの実数成分と虚数成分の内、どちらか一方が極端に大きい信号であることが分かっている場合、インピーダンス計算回路40の演算を簡略化することが可能である。例えば、接触インピーダンスの実数成分が虚数成分より遥かに大きい場合は(例えば100倍以上)、虚数部分のインピーダンス信号を無視して、実数成分だけを定数倍回路42に入力し、電圧Vcalを出力しても良い。
【0055】
《基準電圧生成回路》
基準電圧生成回路50は、接触インピーダンスのしきい値に基づいた基準電圧Vrefを生成する回路である。基準電圧生成回路50の構成例を図4に示す。電源電圧Vddと接地電圧Vssとの間に、2つの抵抗素子R1およびR2が直列接続されている。抵抗素子R2が接触インピーダンスの基準値に対応する。基準電圧Vrefは、電源電圧Vddを抵抗分割した電圧であり、次式のように表現できる。
【0056】
【数1】

【0057】
図4の基準電圧生成回路50は、抵抗素子R2の抵抗値を制御することで、数1で表される電圧Vrefを調整できる。電極の種類を変えたり、電極を付ける場所を変えたりして、接触インピーダンスが異なる特性を示したときに、基準電圧Vrefの調整が行われる。なお、基準電圧生成回路50は、抵抗素子R1の抵抗値が調整可能な構成であっても良い。
【0058】
また、基準電圧生成回路は、図5に示した回路構成であっても良い。図5に示した基準電圧生成回路50aは、電源電圧Vddと接地電圧Vssとの間に、電流源51および抵抗素子R3が直列に接続されている。抵抗素子R3の抵抗値が接触インピーダンスの基準値に対応する。基準電圧Vrefは、電流源51の電流値をIrefとすると、次式のように表現できる。
【0059】
【数2】

【0060】
基準電圧生成回路50aにおいて、抵抗素子R3の抵抗値を制御することで、数1で表される電圧Vrefを調整できる。なお、基準電圧生成回路50aは、電流源51の電流値Irefを制御できる構成であっても良い。
【0061】
《比較器》
比較器60は、接触インピーダンスに対応する電圧Vcalと、基準インピーダンスに対応する電圧Vrefとを比較する。例えば、比較器60の出力Vdetは、電圧Vcalが電圧Vrefよりも低い場合はローレベルになり、電圧Vcalが電圧Vrefよりも低くない場合はハイレベルになる。この出力Vdetが、そのまま接触状態検出回路100の接触不良検出信号として出力される。したがって、電極の接触インピーダンスが基準のインピーダンス値よりも大きい場合、接触不良検出信号Vdetがハイレベルになり、電極の接触不良が生じていることが分かる。このとき、当該電極のつけ直しを促すなどの情報を、機器を介してユーザに送ることができる。
【0062】
〔具体例〕
次に、図6と図7を参照しながら、接触状態検出回路100の動作特性について具体例を挙げて説明する。
【0063】
図6は、接触型電極と接触状態検出回路100を用いた場合の、接触インピーダンスの周波数特性の測定例を示す。接触インピーダンスは、インピーダンス計算回路40で算出されたものである。インピーダンスの基準値は、図6のインピーダンスの特性を基にユーザが決定し(例えば、2MΩとする)。基準電圧生成回路50の抵抗R2の値を調整することができる。
【0064】
図7は、接触状態検出回路100を用いて生体信号を取得するときのタイムチャートを示す。時刻t=t0に電極を接触させた状態で、インピーダンスの測定を開始する。インピーダンスの計算結果が基準値(例えば2MΩ)以下のため、接触不良検出信号Vdetがローレベル(接地電圧Vss)を示し、電極が接触している状態にあることがわかる。
【0065】
時刻t=txに接触状態が急に悪化したと仮定する。インピーダンスの計算結果が基準値(2MΩ)を超え、接触不良検出信号Vdetがハイレベル(電源電圧Vdd)に変わる。その結果、ユーザは電極が皮膚から離れたことをすぐに把握できる。
【0066】
このように、接触状態検出回路100を用いると、電極の接触状態が急に変化しても、取得する生体信号の有効性が迅速に判別できる。従って、接触状態検出回路100の後段に記録部を配置し、接触不良検出信号Vdetがハイレベルを示す時に、無効な生体信号を記録しないように制御を行うことができる。
【0067】
また、接触状態検出回路100は、常時接触インピーダンスをモニタできるため、従来技術のように、接触インピーダンスを一時的にモニタする時間T1、後続の測定時間T2の設定を行うという制約を受けず、測定時の柔軟性が増すという効果を奏する。
【0068】
以上、本発明の接触状態検出回路100を用いることで、高品質な生体信号の記録が実現できるという効果を奏する。
【0069】
《第2の実施形態》
図8は、第2の実施形態に係る接触状態検出回路200の構成を示す。接触状態検出回路200は、選択回路70と選択信号SELを用いて、n個の電極10(nは2以上の整数)の中から1個の電極(k番目の電極とする)を選択し、インピーダンス測定を行い、当該電極の接触状態を判定する。選択回路70で選択したk番目の電極の接触インピーダンスに対応するアナログ電圧Vimpkと、接触不良検出信号Vdetkが出力される。図8のように、選択信号SELは複数ビットで構成される制御信号であっても良い。例えば、接触状態検出回路200が8個の電極10の接触状態を検出する場合は(n=8)、選択信号SELは3ビット必要である。8個の電極10全ての接触状態を検知したい場合は、3ビットの選択信号SELの全組合せ8通りを時分割で切り替えて、それぞれの接触不良検出信号Vdetkをモニタすれば良い。
【0070】
以上のように、本実施形態により、1つの接触状態検出回路200で、複数の電極の接触状態を監視することができるという効果を奏する。特に、ユーザが椅子に座っている等、静止した状態で生体信号の測定を行う時に、全ての電極の接触状態を常時監視する必要が無いために、接触状態検出回路200は有用である。
【0071】
また、本実施形態は、接触インピーダンスの計算が複雑な式で表される場合にも有用である。インピーダンス測定回路20と接触状態評価回路30をそれぞれ1つ有するだけでよく、小面積で低コストな接触状態検出回路が実現できる。
【0072】
《第2の実施形態の変形例》
図9は、第2の実施形態の変形例に係る接触状態検出回路200aを示している。電極10のそれぞれにインピーダンス測定回路20を設け、全ての電極について接触インピーダンスの測定を常時行いながら、インピーダンス値を算出したい1個の電極(k番目の電極とする)を選択して、当該電極の接触状態を判定する。
【0073】
接触状態検出回路200aは、選択回路70で選択したk番目の電極の接触インピーダンスに対応するアナログ電圧Vimpkと、接触不良検出信号Vdetkを出力する。
【0074】
本実施形態は、インピーダンスの測定回数が単位時間当たりに頻繁に発生する場合や、配置する電極の位置が離れている場合に、接触状態検出回路200aの回路規模を比較的小規模に収めることができる点で有用である。
【0075】
《生体信号取得装置》
図10のように、接触状態検出回路100は、生体信号取得装置300に適用可能である。本実施形態の生体信号取得装置300では、3個の電極の接触状態をそれぞれ検出する。生体信号取得装置300は、電極10、接触状態検出回路100、出力制御部180、接触不良表示部181、AD変換器190、生体信号取得装置の本体320で構成される。
【0076】
(電極からAD変換までの動作)
k番目の電極10からAD変換器190までの動作を説明する。k番目の接触状態検出回路100は、k番目の電極部10のアナログ信号Vimpkおよび接触不良検出信号Vdetkを出力する。出力制御部180は、接触状態に応じて、アナログ信号Vimpkが有効な時のみ、実際の測定データを出力するという制御を行う。例えば、接触不良検出信号Vdetkがローレベル(接触している状態)の場合は、出力Vimpk‘は入力データVimpkをそのまま出力する。一方、Vdetkがハイレベル(離れている状態)の場合は、出力Vimpk‘は接地電圧Vss(または電源電圧Vdd)を出力する。AD変換器190では、Vimpk‘のアナログデータを所定のサンプリング時間でデジタルコードIMPkに変換する。
【0077】
接触不良表示部181は、LED等の表示素子から構成される、ユーザに電極の接触不良を伝達し、電極の装着し直しを促す。接触不良検出信号出力Vdetがローレベルの場合はLEDが消灯し、ハイレベルの場合はLEDが点灯する。
【0078】
(生体信号取得装置本体の動作)
生体信号取得装置の本体320は、入力部321、出力部322、DSP323、RAM324、波形表示部325、記録部326、外部インターフェース327で構成される。
【0079】
入力部321は、ボタンやファンクションキー等を有し、生体信号取得装置300の各種設定やイベント等の入力に用いられる。出力部322は、例えばスピーカであり、接触不良が生じた時など、音によって機器のユーザに各種情報を報知するために用いられる。
【0080】
DSP323は、各構成要素を制御し、生体信号取得装置300に必要な各種動作を実現する。また、高速フーリエ変換やデジタルフィルタリングなど、信号解析用のアルゴリズムなどを実行し、生体信号のデータ解析の後処理も行う。
【0081】
RAM324は、DSP323が作業するための領域として用いられる他、各種データの一時的な記憶領域としても用いられる。
【0082】
波形表示部325は、生体信号の生データやDSPで行った演算の解析結果などを表示する他に、本体側でも接触不良表示部181と同じ機能を有する。
【0083】
記録部326は、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリから構成され、取得した生体波形データや、データの取得に関係する情報各種(取得時間やユーザの個人情報等)等が記憶される。記録部326は本体320と着脱可能に接続されても良い。
【0084】
外部I/F327は、例えば生体信号の分析を行う外部機器等を接続するためのインターフェース回路であり、周知のシリアルインターフェース(RS−232C、USB、IEEE1394等)によって構成される。外部インターフェースは、外部モニタなど特定のインターフェースを介して外部機器に表示部と同じ画像を送るところである。
【0085】
以上のように、生体信号取得装置300を用いれば、内蔵の接触状態検出回路100で、電極の接触状態をリアルタイムに検出でき、出力制御部180で有効な生体信号データだけを抽出できるため、信号品質の高い生体信号を記録できるという利点がある。
【0086】
《健康機器》
図11のように、接触状態検出回路100は、指圧マッサージ機などの健康機器400に適用可能である。健康機器400は、4本指の代わりをする4本の圧迫部を用いて、圧迫部と皮膚との接触面にそれぞれ小さな電極10を配置しておき、圧迫動作と減圧動作それぞれの動作モードにおいて、電極と皮膚との接触インピーダンスをモニタしながら、指圧マッサージを行うものである。指圧マッサージのような健康機器では、圧迫部と皮膚が接触している状態だけでなく、圧迫部が皮膚から離れている状態の制御も重要になる。
【0087】
健康機器400は、電極10、圧迫部410、接触状態検出回路100、接触状態表示部420および、制御部430を備えている。k番目の電極の接触状態を表す信号に関しては、接触不良検出信号Vdetkに代えて、接触状態検出信号Vdetk‘を出力する。接触状態検出信号Vdetk‘は、接触状態検出回路100の接触インピーダンスが基準インピーダンスより低い時(接触した状態)にハイレベルを示し、基準インピーダンスより低くない時(離れた状態)にローレベルを表す。
【0088】
図12は、指圧マッサージ機として用いる健康機器400の動作の一例を説明する図である。時間T1に腕のつぼを圧迫部で圧迫し(モードT1)、後続の時間T2に圧迫部を腕から離す(モードT2)を繰り返す。
【0089】
時刻t=t0に、k番目の圧迫部は、制御部430からの制御信号Vfkを受け、皮膚を圧迫し、モードT1に移行する。この間、接触状態検出回路100の接触状態検出信号Vdetk‘がハイレベルを示し、制御部430に送られる。T1秒経過後にモードT2に移行した時、制御部430は制御信号Vfkを圧迫部410に送り、減圧動作が行われ、圧迫部と皮膚は離れる。ここで、接触状態検出回路100の接触状態検出信号Vdetk‘がローレベルを示し、制御部430に送られる。
【0090】
以上のように、本発明の健康機器400を用いると、電極と皮膚とが接触しているか、離れているかの両方の状態をリアルタイムに検出できるため、圧迫と減圧の制御を正確に行うことができる。
【0091】
なお、電極のインピーダンス測定は必ずしも常時行わなくても良い。特に圧迫するモードでは電極を皮膚に押し付けている状態のため、インピーダンス測定は間欠的に行われても良い。接触状態検出回路100および健康機器400で消費する電力が節約できるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明にかかる接触状態検出回路は、電極を人体の所定部位に接触させて生体信号を取得する、例えば携帯型脳波計測装置等の生体信号取得装置に有用である。また、接触状態に応じて圧迫動作が制御される携帯用マッサージ機等の健康機器にも有用である。
【符号の説明】
【0093】
Vdd 電源電圧
Vss 接地電圧
Vcal インピーダンスの電圧換算値(計算値)
Vref 基準電圧
Vimp インピーダンス信号のアナログデータ
Vdet 接触不良検出信号
Vimpk インピーダンス信号のアナログデータ
Vimp1〜Vimp3 インピーダンス信号のアナログデータ
Vimp1‘〜Vimp3‘ インピーダンス信号のアナログデータ
Vdetk 接触不良検出信号
Vdet1〜Vdet3 接触不良検出信号
Vdetk‘ 接触状態検出信号
Vdet1‘〜Vdet3‘ 接触状態検出信号
Vf1〜Vf4 制御信号
I 測定用電流源の電流値
Ia 測定用電流Iの振幅
IMP1〜IMP3 インピーダンス信号のデジタルデータ
N1 インピーダンス測定回路の電極側ノード
N2 インピーダンス測定回路の接触状態評価回路側ノード
V1 インピーダンス測定回路のノードN1の電圧
V2 インピーダンス測定回路のノードN2の電圧
R1、R2、R3 抵抗素子

10 電極
20 インピーダンス測定回路
21 測定用電流源
30 接触状態判定回路
40 インピーダンス計算回路
41 絶対値回路
42 定数倍回路
50 基準電圧生成回路
51 電流源
60 比較器
70 選択回路
100 接触状態検出回路
180 出力制御部
181 接触不良表示部
190 AD変換器
200、200a 接触状態検出回路
300 生体信号取得装置
320 生体信号取得装置本体
321 入力部
322 出力部
323 DSP
324 RAM
325 波形表示部
326 記録部
327 外部I/F
330 DSPバス
400 健康機器
410 圧迫部
420 接触状態表示部
430 制御部

900 生体信号取得装置
910 電極部
920 本体
921 AD変換部
922 インピーダンス測定部
923 表示部
924 入力部
925 出力部
926 CPU
927 ROM
928 RAM
929 生体信号記録部
930 外部I/F
931 CPUバス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と皮膚との接触状態を検出する接触状態検出回路であって、
前記電極に交流電流を加える測定用電流源を有し、前記電極の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定回路と、
前記インピーダンス測定回路の出力信号に基づいて、前記接触インピーダンスに対応する第1の電圧を第1のノードに出力するインピーダンス計算回路と、
前記接触状態を検出するためのインピーダンスのしきい値に対応する第2の電圧を第2のノードに出力する基準電圧生成回路と、
前記第1の電圧と前記第2の電圧とを比較する比較器
を備えた接触状態検出回路。
【請求項2】
請求項1において、
前記測定用電流源は、前記交流電流の周波数が調整可能である
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項3】
請求項1において、
前記インピーダンス計算回路は、絶対値計算回路を備える
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項4】
請求項1において、
前記基準電圧生成回路は、
一端が電源電圧に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第1の抵抗素子と、
一端が前記第2のノードに接続され、他端が接地電圧に接続された第2の抵抗素子とを
備える
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項5】
請求項4において、
前記基準電圧生成回路は、
前記第1または第2の抵抗素子の抵抗値が調整可能である
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項6】
請求項1において、
前記基準電圧生成回路は、
一端が電源電圧に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第1の電流源と、
一端が前記第2のノードに接続され、他端が接地電圧に接続された第3の抵抗素子とを備える
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項7】
請求項6において、
前記基準電圧生成回路は、
前記第1の電流源の電流値または前記第3の抵抗素子の抵抗値が調整可能である
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項8】
n個の電極(nは2以上の整数)と皮膚との接触状態を検出する接触状態検出回路であって、
前記n個の電極の内から一つを選択する選択回路と、
前記電極に交流電流を加える測定用電流源を有し、前記電極の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定回路と、
前記インピーダンス測定回路の出力信号に基づいて、前記接触インピーダンスに対応する第1の電圧を第1のノードに出力するインピーダンス計算回路と、
前記接触状態を検出するためのインピーダンスのしきい値に対応する第2の電圧を第2のノードに出力する基準電圧生成回路と、
前記第1の電圧と前記第2の電圧とを比較する比較器
を備えた接触状態検出回路。
【請求項9】
請求項8において、
前記測定用電流源は、前記交流電流の周波数が調整可能である
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項10】
請求項8において、
前記インピーダンス計算回路は、絶対値計算回路を備える
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項11】
請求項8において、
前記基準電圧生成回路は、
一端が電源電圧に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第1の抵抗素子と、
一端が前記第2のノードに接続され、他端が接地電圧に接続された第2の抵抗素子とを
備える
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項12】
請求項11において、
前記基準電圧生成回路は、
前記第1または第2の抵抗素子の抵抗値が調整可能である
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項13】
請求項8において、
前記基準電圧生成回路は、
一端が電源電圧に接続され、他端が前記第2のノードに接続された第1の電流源と、
一端が前記第2のノードに接続され、他端が接地電圧に接続された第3の抵抗素子とを備える
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項14】
請求項13において、
前記基準電圧生成回路は、
前記第1の電流源の電流値または前記第3の抵抗素子の抵抗値が調整可能である
ことを特徴とする接触状態検出回路。
【請求項15】
生体信号を取得する生体信号取得装置であって、
請求項1から14のいずれか一つに記載の接触状態検出回路と、
前記接触状態検出回路によって得られたアナログ信号をデジタルコードに変換する
AD変換器と、
前記AD変換器によって得られたデジタルコードを記録する記録部とを備える
ことを特徴とする生体信号取得装置。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか一つにおいて、
先端に前記n個の電極(nは1以上の整数)のそれぞれが取り付けられ、皮膚に対して進退運動を行うn個の押圧体と、
前記接触状態検出回路と、
前記n個の押圧体のそれぞれに前記進退運動を制御するための制御信号を送る制御部と
を備える
ことを特徴とする健康機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate