説明

接近通報音出力装置

【課題】所望のタイミングでスピーカの種々の異常を検出することが可能な接近通報音出力装置を提供すること。
【解決手段】走行駆動手段として少なくともモータを備える車両に搭載され、車両が前記モータによって走行していることを少なくとも満たす第1の走行状態であるときにスピーカから接近通報音を出力する接近通報音出力装置であって、前記車両が前記第1の走行状態以上の高速走行が行われている第2の走行状態であるときに、前記スピーカによる接近通報音の出力を停止させ、前記スピーカが集音手段として機能し出力する信号に基づいて前記スピーカの故障を検出する故障検出制御手段を備えることを特徴とする、接近通報音出力装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車その他、走行駆動手段としてモータを有する車両に搭載され、当該車両が低速でモータ走行を行っている際に、車両の接近を歩行者に報知するための接近通報音をスピーカから出力する接近通報音出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車が広く普及しており、その静粛性により歩行者等にとって危険な場面があるという問題点が指摘されている。従来のエンジン車両の場合、歩行者はそのエンジン音によって容易に車両の接近に気付くことができるが、ハイブリッド自動車のように走行駆動手段としてモータを有する車両が、低速でモータ走行を行っているときには、ロードノイズ(タイヤと路面の摩擦音、風切り音等)やモータの励磁音といった小さい音しか発生しないため、車両の接近に気付くのが困難な場合がある。電気自動車や燃料電池自動車においても同様である。
【0003】
係る問題に対し、低速モータ走行時に何らかの音を発生させる装置を、この種の車両に搭載させることを義務付け、或いは推奨する動きが見られる。これに応じて、自動車メーカでは、低速でモータ走行を行っている際に、車両の接近を歩行者に報知するための接近通報音をスピーカから出力する装置について、研究及び実用化が進められている。接近通報音としては、エンジン音に擬した音、歩行者にとって親和性の高い音を出力することが考えられている。
【0004】
この種の接近通報音出力装置においては、断線や故障によってスピーカが本来の機能を発揮できないという事態を回避する必要性が存在する。このため、接近通報音出力装置は、何らかの故障検出手段を有することが望ましい。
【0005】
特許文献1には、気付き音を発生させるためのスピーカの動作抵抗を検出することにより、スピーカの異常を検出する装置について記載されている。この装置では、まずスピーカに電力を供給するパワーアンプの制御端子に制御信号を加え、パワーアンプを遮断状態(出力トランジスタがオフの状態)にし、次にスピーカに接続されたトランジスタをオフの状態から活性状態にし、当該トランジスタのコレクタの電圧に基づいてスピーカの異常を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−136831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の特許文献1に記載の装置では、断線等によるスピーカの異常は検出することができるものの、出力低下や特性異常については検出することができない。また、車両の発進前(すなわち停止時)にのみ異常検出を行っているため、検出頻度を任意に決定することができない場合がある。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、所望のタイミングでスピーカの種々の異常を検出することが可能な接近通報音出力装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
走行駆動手段として少なくともモータを備える車両に搭載され、車両が前記モータによって走行していることを少なくとも満たす第1の走行状態であるときにスピーカから接近通報音を出力する接近通報音出力装置であって、
前記車両が前記第1の走行状態以上の高速走行が行われている第2の走行状態であるときに、前記スピーカによる接近通報音の出力を停止させ、前記スピーカが集音手段として機能し出力する信号に基づいて前記スピーカの故障を検出する故障検出制御手段を備えることを特徴とする、
接近通報音出力装置である。
【0010】
この本発明の一態様によれば、車両が第1の走行状態以上の高速走行が行われている第2の走行状態であるときにスピーカによる接近通報音の出力を停止させ、スピーカが集音手段として機能し出力する信号に基づいてスピーカの故障を検出するため、所望のタイミングでスピーカの種々の異常を検出することができる。
【0011】
また、本発明の一態様において、
前記故障検出制御手段は、例えば、前記スピーカが集音手段として出力する信号の特徴量が閾値を下回る場合に、前記スピーカが故障していると判定する手段である。
【0012】
また、本発明の一態様において、
車速を検出する車速検出手段を備え、
前記閾値は、前記車速検出手段により検出された車速が大きくなるのに応じて大きく変更される値であるものとしてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様において、
前記車両はエンジンとモータを走行駆動手段として備えるハイブリッド自動車であり、
エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段を備え、
前記異常判定制御手段が、車両が前記第2の走行状態であり且つ前記エンジンが運転されている場合に前記判定を行う際の前記閾値は、前記エンジン回転数検出手段により検出されたエンジン回転数が大きくなるのに応じて大きく変更される値であるものとしてもよい。
【0014】
また、本発明の一態様において、
車両の位置を検出する車両位置検出手段を備え、
前記閾値は、前記車両位置検出手段により検出された車両位置に応じて変更されるものとしてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様において、
前記特徴量は、例えば、ダイナミックレンジ、ピーク電圧、平均値、実効値、周波数、FFT解析結果のいずれか又は組み合わせである。
【0016】
また、本発明の一態様において、
前記故障検出制御手段は、
前記スピーカが出力する信号に基づいて前記スピーカの故障を検出する故障検出部と、
該故障検出部と、前記接近通報音の元となる信号を生成する信号生成部とのいずれか一方を、前記スピーカに選択的に接続させる切り替え部と、
を備えるものとしてもよい。
【0017】
また、本発明の一態様において、
前記故障検出制御手段は、前記スピーカが出力する信号の比較対象となる比較データを記憶した記憶手段を備え、前記スピーカが出力する信号と該記憶手段に記憶された比較データとの類似性を評価し、類似性が低い場合に前記スピーカが故障していると判定する手段であるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所望のタイミングでスピーカの種々の異常を検出することが可能な接近通報音出力装置を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の接近通報音出力装置が搭載される車両100の構成の概略を示す図である。
【図2】モータ走行時におけるプラネタリギヤ140の各ギヤの力学的な関係を概念的に示す共線図である。
【図3】エンジン/モータ走行時におけるプラネタリギヤ140の各ギヤの力学的な関係を概念的に示す共線図である。
【図4】本発明の第1実施例に係る接近通報音出力装置1のシステム構成図である。
【図5】ダイナミックスピーカ10の構成を示す断面図である。
【図6】車速やエンジン回転数と閾値の関係を規定したマップの一例である。
【図7】本実施例に係る制御装置20により実行される処理の流れをフローチャートの形式で示した図である。
【図8】本発明の第2実施例に係る接近通報音出力装置2のシステム構成図である。
【図9】本発明の接近通報音出力装置が搭載される車両の他の構成の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0021】
<第1実施例>
以下、図面を参照し、本発明の第1実施例に係る接近通報音出力装置について説明する。本発明の接近通報音出力装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車その他、走行駆動手段としてモータを有する車両に搭載され、低速でモータ走行を行っている際に車両の接近を歩行者に報知するための接近通報音をスピーカから出力する装置である。以下の説明では、本発明の接近通報音出力装置は、ハイブリッド自動車に搭載されたものとして説明する。
【0022】
[車両の概略構成]
まず、本発明の一実施例に係る接近通報音出力装置が搭載される車両100の概略について説明する。図1は、本発明の接近通報音出力装置が搭載される車両100の構成の概略を示す図である。車両100は、エンジン110、第1モータ120、及び第2モータ130がプラネタリギヤ140によって連結され、ハイブリッド制御用ECU(Electronic Control Unit)160によって各種走行制御が実行されるハイブリッド自動車である。
【0023】
エンジン110は、例えば、ガソリン等の燃料により主に走行用の動力を出力する内燃機関である。第1モータ120及び第2モータ130は、例えば、外表面に永久磁石が貼り付けられたローターと三相コイルが巻回されたステーターとからなる発電可能なPM型の同期発電電動機である。エンジン110の出力する動力は、第1モータ120、第2モータ130、及びプラネタリギヤ140からなるトランスアクスルを介して車軸に伝達される。
【0024】
プラネタリギヤ140のサンギヤには、サンギヤ軸を介して第1モータ120の回転軸が連結されている。プラネタリギヤ140のリングギヤには、リングギヤ軸及び減速機を介して第2モータ130の回転軸が連結されている。また、リングギヤのリングギヤ軸には、ギヤ機構を介して車軸が連結されている。そして、複数のピニオンギヤを連結したキャリアには、ダンパ等を介してエンジン110のクランクシャフトが連結されている。なお、係るプラネタリギヤによる動力分割の原理等については、既に種々のものが公知となっているため、詳細な説明は省略する。
【0025】
第1モータ120及び第2モータ130は、バッテリ150に接続されている。バッテリ150は、例えばリチウムイオン電池である。バッテリ150は、第1モータ120や第2モータ130において回生制御が行なわれることにより充電され、第1モータ120や第2モータ130において力行制御が行なわれる際にはこれらに電力を供給する。
【0026】
ハイブリッド制御用ECU160は、例えばCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等がバスを介して接続されたマイクロコンピュータである。ハイブリッド制御用ECU160には、アクセル開度や車速V、シフト位置、クランク角センサの出力から算出されたエンジン回転数Ne、バッテリ150のSOC(States Of Charge;充電率)等の各種情報が入力される。
【0027】
ハイブリッド制御用ECU160は、上記のように入力されるアクセル開度やシフトポジション、車速V等に基づいて、ドライバがアクセル操作によって出力要求したドライバ要求トルクTd#を算出し、これに駆動軸の回転数Nd、及び所定の係数を乗じて、ドライバ要求動力Pdを算出する。駆動軸の回転数Ndは、例えば第2モータに取り付けられた回転センサ(レゾルバ)からの値に基づいて計算する。
【0028】
そして、ドライバ要求動力Pdと補機要求Pa(電動エアコンプレッサ、その他の走行に直接関係しない電動機器が要求する電力)を加算して、出力要求Pwを算出する。出力要求Pwが、バッテリ150の供給可能電力Pb未満である場合は、第2モータ130の動力のみにより走行する(モータ走行)。この場合、ドライバ要求トルクTdをギヤ機構のギヤ比で除した値が第2モータ130の要求トルクTm#となる。図2は、モータ走行時におけるプラネタリギヤ140の各ギヤの力学的な関係を概念的に示す共線図である。図中、上下方向の変位が回転数(サンギヤ回転数Ns、キャリア回転数Nc、リングギヤ回転数Nr)を、矢印が出力されているトルクを示している。なお、バッテリ150の供給可能電力Pbは、バッテリ150のSOC等から算出される。また、出力要求Pwを、バッテリ150の供給可能電力Pbではなく、所定の閾値と比較しても構わない。
【0029】
一方、出力要求Pwがバッテリ150の供給可能電力Pb以上である場合は、エンジン110、第1モータ120、及び第2モータ130を駆動して走行を行なう(エンジン/モータ走行)。この場合、まず、出力要求Pwからバッテリ150の供給可能電力Pbを差し引いて、エンジン要求動力Peを算出する。そして、エンジン110をエネルギー効率よく運転できる運転ライン(トルクと回転数からなる座標を連ねたもの)上で、エンジン要求動力Peを実現可能な点の座標を、エンジンの目標トルクTe#、目標回転数Ne#とする。
【0030】
第1モータ120については、目標回転数Ne#と現在のリングギヤの回転数Nrから、目標回転数Nj#を次式(1)に基づいて計算する。式中、ρはプラネタリギヤのギヤ比である。
【0031】
Nj#={(1+ρ)・Ne#−Nr}/ρ …(1)
【0032】
そして、第1モータ120が回転数Nj#で駆動されるように、次式(2)のフィードバック制御を行なう。式中、Njは第1モータ120の実際の回転数である。また、K1は比例項のゲインであり、K2は積分項のゲインである。
【0033】
Tj#=前回Tj#+K1・(Nj#−Nj)+K2・∫(Nj#−Nj)dt …(2)
【0034】
第1モータ120の目標トルクTj#が決定されると、エンジン110と第1モータ120の駆動によってリングギヤに出力されるトルク(以下、直達トルクTerという)を次式(3)により算出し、ドライバ要求トルクTd#から直達トルクTerを差し引いたトルクをギヤ機構のギヤ比で除し、第2モータ130の目標トルクTm#を算出する。
【0035】
Ter=−Tj#/ρ …(3)
【0036】
図3は、エンジン/モータ走行時におけるプラネタリギヤ140の各ギヤの力学的な関係を概念的に示す共線図である。
【0037】
ハイブリッド制御用ECU160は、このようにエンジン110の目標回転数Ne#及び目標トルクTe#、第1モータ120の目標回転数Nj#及び目標トルクTj#、第2モータ130の目標トルクTm#を算出すると、これらを実現するように、エンジンの点火時期制御、スロットルモータ制御、各モータのインバータへの電力印加制御等を実行する。
【0038】
なお、ハイブリッド制御用ECU160には、ユーザが、モータ走行を優先的に行うEV走行モードを選択可能にするEVモードスイッチが接続されてよい。このEVモードスイッチが操作されたオン信号を出力すると、ハイブリッド制御用ECU160は、モータ走行を優先的に行うEV走行モードで上記各制御を実行する。
【0039】
[接近通報音出力装置]
図4は、車両100に搭載された本発明の第1実施例に係る接近通報音出力装置1のシステム構成図である。図示するように接近通報音出力装置1は、ダイナミックスピーカ10と、制御装置20と、を備える。制御装置20は、例えば、接近通報音生成部22と、D/A変換器24と、故障検出部26と、A/D変換器28と、スイッチ30と、切り替え制御部32と、を備える。これらの構成のうち、接近通報音生成部22、故障検出部26、及び切り替え制御部32は、マイクロコンピュータの一機能として実現されるソフトウエア機能部であってもよいし、論理回路等によって構成されるハードウエア機能部であってもよい。
【0040】
図5は、ダイナミックスピーカ10の構成を示す断面図である。ダイナミックスピーカ10は、例えば主要な構成として、マグネット12と、コーン紙14と一体に振動可能なボイスコイル16と、を備える。ボイスコイル16に電力が供給されると、マグネット12が生じさせている磁界との関係で、ボイスコイル16及びコーン紙14が一体に振動して音を発生させる。逆に、コーン紙14に空気振動、すなわち音が供給されると、ボイスコイル16及びコーン紙14が一体に振動し、マグネット12が生じさせている磁界との関係で、ボイスコイル16に起電力が生じる。この結果、コーン紙14に音が供給されると、この音に応じた電圧信号がボイスコイル16から出力されることになる。このように、ダイナミックスピーカ10は、電力を供給することによって音を発生させると共に、集音手段として機能して電流信号を出力することもできる。
【0041】
制御装置20は、ハイブリッド制御用ECU160と通信可能に接続されており、ハイブリッド制御用ECU160から車速Vやエンジン回転数Ne等の情報が入力される(ハイブリッド制御用ECU160に入力される情報を、ハイブリッド制御用ECU160と共に参照可能な構成であってもよい)。
【0042】
接近通報音生成部22は、ダイナミックスピーカ10のコーン紙14に接近通報音を出力させるためのデジタル信号を生成し、D/A変換器24に出力する。ここで、所望の音とは、例えばエンジン音に擬した音であってもよいし、その他、歩行者が不快感を覚えることなく車両の接近に気付くことが可能な種類の音であれば如何なる種類の音であってもよい。D/A変換器24は、接近通報音生成部22が生成したデジタル信号をアナログ信号(電圧信号)に変換し、スイッチ30を介してダイナミックスピーカ10のボイスコイル16に供給する。
【0043】
接近通報音生成部22は、例えばハイブリッド制御用ECU160から入力される車速Vが所定車速V1未満であり(車両が停止状態である場合を除く)、且つエンジンが停止している場合に(以上が、特許請求の範囲における「第1の走行状態」に相当する)、上記のような信号を送出する。
【0044】
故障検出部26は、ダイナミックスピーカ10が集音手段として機能した場合に、A/D変換器28を介してダイナミックスピーカ10が出力した信号を解析し、ダイナミックスピーカ10及びその接続関係の故障を検出する。ここで、故障には、断線や機能停止の他、出力低下、出力特性の変化等の特性異常も含まれ得る。この際に集音される音は、ロードノイズ、エンジン音、各モータの励磁音等である。故障検出部26による故障検出の詳細については、後述する。
【0045】
スイッチ30は、故障検出部26と、接近通報音生成部22とのいずれか一方を、ダイナミックスピーカ10に選択的に接続させる。スイッチ30は、切り替え制御部32によって切り替え制御が行われる。切り替え制御部32は、例えばハイブリッド制御用ECU160から入力される車速Vが所定車速V2未満である場合に、接近通報音生成部22とダイナミックスピーカ10を接続させ、車速Vが所定車速V2以上である場合に(特許請求の範囲における「第2の走行状態」に相当する)、故障検出部26とダイナミックスピーカ10を接続させるようにスイッチ30を制御する。なお、所定車速の関係は、V1≦V2である。
【0046】
なお、スイッチ30を省略した構成とすることも可能である。この場合、故障検出部26は、接近通報音生成部22の故障検出を行ったり、接近通報音生成部22の動作モニターとして機能したりすることができる。
【0047】
故障検出部26は、ダイナミックスピーカ10が接続されている状態において、所定の故障検出タイミングで(例えば所定時間毎に)、ダイナミックスピーカ10及びその接続関係の故障検出を実行する。係る故障検出は、例えば、A/D変換器28を介して入力される信号のダイナミックレンジ、ピーク電圧、平均値、実効値、周波数、FFT解析結果等の特徴量(又はこれらの組み合わせ)を閾値と比較し、特徴量が閾値を下回る状態が一定時間継続した場合に、ダイナミックスピーカ10が故障していると判定する。また、このような故障/正常の択一判定に限らず、特徴量を想定量と比較し、下回る量が小さければ、出力低下等の軽微な故障であると判定してもよい。そして、重度の故障の場合と、軽微な故障の場合とで運転者に対する、接近通報音出力装置の故障に関する警告の態様を変更すると好適である。例えば、重度の故障の場合には何らかの警告メッセージを表示すると共に音声で警告を発し、軽微な故障の場合には警告メッセージの表示のみを行うことが考えられる。
【0048】
また、係る特徴量の比較対象となる閾値は、車速Vやエンジン回転数Neに応じて変更してもよい。具体的には、車速Vが大きくなるのに応じて閾値が大きくなるように閾値を変更し、エンジン110が運転中であればエンジン回転数Neが大きくなるのに応じて閾値が大きくなるように閾値を変更する。車速Vが大きくなるとロードノイズが増大し、エンジン回転数Neが大きくなるとエンジン音が大きくなるからである。このように、エンジン音をダイナミックスピーカ10に検出させることを考慮すると、ダイナミックスピーカ10はエンジン110付近に取り付けることが望ましい。
【0049】
車速Vとエンジン回転数Neの双方を加味して閾値を決定する場合は、これらをパラメータとする関数やマップを適用して閾値を決定する。図6は、車速Vやエンジン回転数Neと閾値の関係を規定したマップの一例である。
【0050】
更に、この閾値は、ナビゲーション装置等において把握されている地図データ上の車両の位置に応じて変更されてもよい。悪路や繁華街等を走行している時には、ロードノイズが大きくなることが想定されるからである。
【0051】
以下、本実施例の接近通報音出力装置1が有する制御装置20により実行される処理の流れについて説明する。図7は、本実施例に係る制御装置20により実行される処理の流れをフローチャートの形式で示した図である。本フローは、例えば所定周期をもって繰り返し実行される。
【0052】
まず、制御装置20は、ハイブリッド制御用ECU160その他から、車速Vやエンジン回転数Neの情報を取得する(S200)。
【0053】
次に、制御装置20では、切り替え制御部32によって車速Vが所定車速V2以上であるか否かが判定される(S202)。
【0054】
車速Vが所定車速V2未満であると判定された場合は、切り替え制御部32は、接近通報音生成部22とダイナミックスピーカ10を接続させるようにスイッチ30を制御する(S204)。
【0055】
そして、接近通報音生成部22によって、車速Vが所定車速V1未満であり、車両が停止状態でなく、且つエンジンが停止しているか否かが判定される(S206〜S210)。これらの全てを満たす場合、接近通報音生成部22は、ダイナミックスピーカ10に接近通報音出力のための信号を送出する(S212)。
【0056】
一方、S202において車速Vが所定車速V2以上であると判定された場合は、切り替え制御部32は、故障検出部26とダイナミックスピーカ10を接続させるようにスイッチ30を制御する(S214)。
【0057】
故障検出部26は、故障検出タイミングであるか否かを判定し(S216)、故障検出タイミングであると判定された場合には、ダイナミックスピーカ10からA/D変換器28を介して入力される信号を解析し、ダイナミックスピーカ10及びその接続関係の故障検出を実行する(S218)。
【0058】
以上説明した本実施例の接近通報音出力装置1によれば、車両が低速モータ走行を行っている第1の走行状態であるときにダイナミックスピーカ10から接近通報音を出力し、第1の走行状態に比して高速走行を行っている第2の走行状態であるとき、すなわち接近通報音を出力する必要性の低いときに、ダイナミックスピーカ10による接近通報音の出力を停止させると共に、ダイナミックスピーカ10が集音手段として機能し出力する信号に基づいてダイナミックスピーカ10の故障を検出するため、所望のタイミングでダイナミックスピーカ10の種々の異常を検出することができる。
【0059】
なお、ダイナミックスピーカ10の故障を検出した場合の処理については、種々のものが考えられるが、警告音の出力、警告メッセージの表示等が行われてもよいし、モータ走行を禁止ないし制限してもよい。また、前述したEV走行モードへの移行を禁止してもよい。後述の第2実施例においても同様である。
【0060】
<第2実施例>
以下、図面を参照し、本発明の第2実施例に係る接近通報音出力装置について説明する。本発明の接近通報音出力装置は、第1実施例と同様、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車その他、走行駆動手段としてモータを有する車両に搭載され、低速でモータ走行を行っている際に車両の接近を歩行者に報知するための接近通報音をスピーカから出力する装置である。以下の説明では、本発明の接近通報音出力装置は、ハイブリッド自動車に搭載されたものとして説明する。また、[車両の概略構成]については、第1実施例と共通するため、説明を省略する。
【0061】
[接近通報音出力装置]
図8は、車両100に搭載された本発明の第2実施例に係る接近通報音出力装置2のシステム構成図である。図示するように接近通報音出力装置2は、ダイナミックスピーカ10と、制御装置20と、を備える。制御装置20は、例えば、接近通報音生成部22と、D/A変換器24と、故障検出部26と、A/D変換器28と、スイッチ30と、切り替え制御部32と、比較データ記憶部34と、を備える。これらの構成のうち、接近通報音生成部22、故障検出部26、及び切り替え制御部32は、マイクロコンピュータの一機能として実現されるソフトウエア機能部であってもよいし、論理回路等によって構成されるハードウエア機能部であってもよい。以下、第1実施例と機能的に相違する故障検出部26、及び比較データ記憶部34を中心に説明し、その他の構成要素については、第1実施例と同様であるものとして説明を省略する。
【0062】
第2実施例に係る故障検出部26は、第1実施例のように単にA/D変換器28を介して入力される信号の特徴量を閾値と比較して故障検出を行うのではなく、信号の入力波形を周波数解析し、集音された筈の音との類似性を評価することによって、故障検出を行う。
【0063】
より具体的には、ダイナミックスピーカ10の取り付け位置に応じて集音されるべき音(エンジン近傍であればエンジン音、モータ近傍であればモータ励磁音、その他の位置であればロードノイズ等)のデータを比較データ記憶部34に格納しておき、A/D変換器28を介して入力される信号との類似性を評価し、類似性が高く且つ十分な特徴量を有する場合に、ダイナミックスピーカ10が正常であると判定する。逆に、類似性が低い場合や十分な特徴量を有さない場合には、ダイナミックスピーカ10が故障していると判定する。
【0064】
比較データ記憶部34は、例えばEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の不揮発性メモリである。比較データ記憶部34に格納されるデータは、例えば車速Vやエンジン回転数Neに対応した音データである。すなわち、「低車速・低エンジン回転数」、「中車速・高エンジン回転数」、…のような場面に分類され、それぞれの場面における音データが存在する。
【0065】
係るデータは、予め実験により得られたものであってもよいし、車両において学習されたデータであってもよい。後者の場合、故障検出部26は、ロードノイズ、エンジン音、モータ励磁音等の学習データをサンプリングして混合正規分布等の統計モデルを作成しておき、比較データ記憶部34に記憶させておく。そして、作成された統計モデルによって入力信号の尤度を評価することによって前述の類似性評価を行う。
【0066】
このような故障検出を行うことにより、ダイナミックスピーカ10の異常を、より高精度に検出することができる。
【0067】
以上説明した本実施例の接近通報音出力装置2によれば、接近通報音を出力する必要性の低いときに、ダイナミックスピーカ10による接近通報音の出力を停止させると共に、ダイナミックスピーカ10が集音手段として機能し出力する信号に基づいてダイナミックスピーカ10の故障を検出するため、所望のタイミングでダイナミックスピーカ10の種々の異常を検出することができる。
【0068】
更に、本実施例の接近通報音出力装置2によれば、信号の入力波形を周波数解析し、集音された筈の音との類似性を評価することによって故障検出を行うため、ダイナミックスピーカ10の異常を、より高精度に検出することができる。
【0069】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0070】
例えば、本発明の接近通報音出力装置が搭載されるハイブリッド自動車は、図1に例示した構成に限らず、図9に示すような直列型のハイブリッド自動車であってもよい。図9は、本発明の接近通報音出力装置が搭載される車両の他の構成の概略を示す図である。この主のハイブリッド自動車では、エンジン110の出力パワーは第1モータによって電力に変換され、係る電力を利用して第2モータが車両を駆動する。
【0071】
また、本発明の接近通報音出力装置は、ハイブリッド自動車ではなく電気自動車や燃料電池自動車に搭載されることもできる。この場合、ダイナミックスピーカ10はモータの近傍に取り付けることが望ましく、A/D変換器28を介して入力される信号の特徴量の比較対象となる閾値は、モータ回転数が大きくなるのに応じて大きくなるように変更されてよい。
【符号の説明】
【0072】
1、2 接近通報音出力装置
10 ダイナミックスピーカ
20 制御装置
22 接近通報音生成部
24 D/A変換器
26 故障検出部
28 A/D変換器
30 スイッチ
32 切り替え制御部
34 比較データ記憶部
100 車両
110 エンジン
120 第1モータ
130 第2モータ
140 プラネタリギヤ
150 バッテリ
160 ハイブリッド制御用ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動手段として少なくともモータを備える車両に搭載され、車両が前記モータによって走行していることを少なくとも満たす第1の走行状態であるときにスピーカから接近通報音を出力する接近通報音出力装置であって、
前記車両が前記第1の走行状態以上の高速走行が行われている第2の走行状態であるときに、前記スピーカによる接近通報音の出力を停止させ、前記スピーカが集音手段として機能し出力する信号に基づいて前記スピーカの故障を検出する故障検出制御手段を備えることを特徴とする、
接近通報音出力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の接近通報音出力装置であって、
前記故障検出制御手段は、前記スピーカが集音手段として出力する信号の特徴量が閾値を下回る場合に、前記スピーカが故障していると判定する手段である、
接近通報音出力装置。
【請求項3】
請求項2に記載の接近通報音出力装置であって、
車速を検出する車速検出手段を備え、
前記閾値は、前記車速検出手段により検出された車速が大きくなるのに応じて大きく変更される値である、
接近通報音出力装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の接近通報音出力装置であって、
前記車両はエンジンとモータを走行駆動手段として備えるハイブリッド自動車であり、
エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段を備え、
前記異常判定制御手段が、車両が前記第2の走行状態であり且つ前記エンジンが運転されている場合に前記判定を行う際の前記閾値は、前記エンジン回転数検出手段により検出されたエンジン回転数が大きくなるのに応じて大きく変更される値である、
接近通報音出力装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の接近通報音出力装置であって、
車両の位置を検出する車両位置検出手段を備え、
前記閾値は、前記車両位置検出手段により検出された車両位置に応じて変更される、
接近通報音出力装置。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項に記載の接近通報音出力装置であって、
前記特徴量は、ダイナミックレンジ、ピーク電圧、平均値、実効値、周波数、FFT解析結果のいずれか又は組み合わせである、
接近通報音出力装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の接近通報音出力装置であって、
前記故障検出制御手段は、
前記スピーカが出力する信号に基づいて前記スピーカの故障を検出する故障検出部と、
該故障検出部と、前記接近通報音の元となる信号を生成する信号生成部とのいずれか一方を、前記スピーカに選択的に接続させる切り替え部と、
を備えることを特徴とする、接近通報音出力装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の接近通報音出力装置であって、
前記故障検出制御手段は、前記スピーカが出力する信号の比較対象となる比較データを記憶した記憶手段を備え、前記スピーカが出力する信号と該記憶手段に記憶された比較データとの類似性を評価し、類似性が低い場合に前記スピーカが故障していると判定する手段である、
接近通報音出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−56400(P2012−56400A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200260(P2010−200260)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】