説明

推進工事における坑口の止水推進構造

【課題】坑口支持部を残置した状態での防護コンクリートの設置を実現可能とした推進工事における坑口の止水推進構造を提供する。
【解決手段】坑口の開口縁に沿って一端が当接すると共に、この他端の周縁に沿って坑口に挿入された掘進機6の外周面に密接するように止水ゴム14が取り付けられた止水器と、この止水器の外周面に沿って止水器を囲むように組み立てられた鉄筋17、18と、止水器9及び鉄筋を取り囲むようにして掘進機6の外周面に密接する状態でコンクリートにより一体成型された坑口支持部24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工事における坑口の止水推進構造に関する。詳しくは、発進立坑に開口された坑口からの地下水などの流入を阻止しながら、掘進機や埋設管を推進する坑口の止水推進構造に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道管などを地中に敷設する推進工事における坑口の止水推進構造として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。具体的には、特許文献1に記載された推進工事における坑口の止水推進構造は、図6に示すように、坑口101に取り付けられる止水器107に掘進機102を挿入した状態で止水器107の後端に、掘進機102の胴体外周を取り囲むような枠体103が取り付けられている。
【0003】
この止水器107は、掘進機102の胴体外周を取り囲むようにフランジ付の円筒形外殻108と、円筒形外殻108に掘進機102の胴体外周に密着させる止水ゴム109と、止水ゴム109を取り付ける押え板110を有して構成されている。
【0004】
更に、掘進機102と枠体103との間の空洞部104に硬化材(生コンクリート)105が充填されることで支持部106が形成されている。
【0005】
特許文献1に記載された推進工事における坑口の止水推進構造では、こうした構造を採用することによって、掘進機の初期推進時に生ずる大きな振れを、枠体103と硬化材105とが一体となった支持部106で掘進機102の外周面を密接状に支持し、止水ゴム109の反転捲れによる地下水等の流入及び掘進機102の計画線形逸脱の防止を可能とするものである。
【0006】
ここで、推進工事完了後は止水器107を残した状態で枠体103と硬化材105とが一体となった支持部106が解体撤去される。
【0007】
そして、図7に示すように、立坑112内に埋設管113が附設されることになるが、立孔112内を掘削した土砂等で埋め戻す際には、埋設管113を埋め戻された土圧から防護する必要性が生じる。
【0008】
そこで、坑口から埋設管113の外周を囲むように新たに鉄筋が組み込まれ、この鉄筋を内包する型枠にコンクリートを打設して防護コンクリート114が附設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4512072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、立坑内での坑口コンクリートの解体撤去は、限られた空間内でコンクリートブレーカー等での作業を行うために粉塵、騒音等による過酷な作業を強いられる。
【0011】
また、解体されたコンクリートは地上に引き揚げられて産業廃棄物として処理される。従って、坑口コンクリートの解体、撤去には多くの作業日数を要する。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであって、坑口支持部を残置した状態での防護コンクリートの設置を実現可能とした推進工事における坑口の止水推進構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る推進工事における坑口の止水推進構造は、坑口の開口縁に沿って一端が当接すると共に、他端の周縁に沿って前記坑口に挿入される掘進機の外周面に密接するように止水ゴムが取り付けられた止水器と、前記止水器の外周面に沿って同止水器を囲むように組み立てられた鉄筋と、前記止水器及び鉄筋を取り囲むようにして前記掘進機の外周面に密接する状態でコンクリートにより一体成型された坑口支持部とを備える。
【0014】
ここで、坑口の開口縁に沿って一端が当接すると共に、他端の周縁に沿って坑口に挿入される掘進機の外周面に密接するように止水ゴムが取り付けられた.止水器によって、坑口からの地下水や土砂の噴出を防止することが可能となる。
【0015】
また、止水器の外周面に沿って止水器を囲むように組み立てられた鉄筋と、この止水器及び鉄筋を取り囲むようにして掘進機の外周面に密接する状態でコンクリートにより一体成型された坑口支持部とを備えることによって、掘進機の拘束性と止水ゴムの反転捲れ防止による水密性確保が可能となる。
【0016】
更に、推進工事完了後には立坑内に設置される埋設管を立坑内に埋め戻される土圧より防護するための防護コンクリートの施工が行われるが、坑口支持部を解体撤去することなく防護コンクリートの一部として活用することが可能となる。
【0017】
また、坑口支持部鉄筋は、防護コンクリートの施工の際に組み立てられる鉄筋と同等のものを配することにより、防護コンクリートの施工の際に配力筋の接合を行うことで一体化することが好ましい。
【0018】
また、配力筋の一端側に、坑口支持部の開放端面に露出する状態で鉄筋継手が取り付けられることによって、防護コンクリートの施工の際に組み立てられる配力筋との接続を容易に行うようにすることが好ましい。
【0019】
また、坑口支持部と掘進機外周面との間に、坑口支持部に固着される緩衝体を有することによって、掘進機の振れによる衝撃を緩和するとともに、埋設管との密着性を確保することが好ましい。
【0020】
また、緩衝体と掘進機外周面との間に滑材を介在させることによって、掘進機と緩衝体との摩擦を低減させるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の推進工事における坑口の止水推進構造によれば、坑口支持部を残置した状態での防護コンクリートの設置が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造における推進工事の概要を説明するための模式図である。
【図2】本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造における坑口に止水器を取り付けた一例を説明するための模式図である。
【図3】本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造の一例を説明するため模式図である。
【図4】本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造による防護コンクリートの施工例を説明するための模式図である。
【図5】本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造による防護コンクリートの施工後の状態を説明するための模式図である。
【図6】従来の坑口の止水推進構造の一例を説明するための模式図である。
【図7】従来の坑口の止水推進構造による防護コンクリートの施工例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参酌しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0024】
図1は本発明を適用した坑口の止水推進構造における推進工事の概要を説明するための模式図である。
【0025】
ここで示す推進工事では、発進立坑1内の壁面に対して支圧壁2を配置し、この支圧壁2に連接した状態で底面に載置した発進架台3上に、その基端が支圧壁2に支持された状態で元押ジャッキ4を設置する。
【0026】
更に、元押ジャッキ4の対向壁面には坑口5を開口し、この元押ジャッキ4で掘進機6の基端を押し出すことで掘進機6先端の掘削カッター7が坑口5内を通過して地山A内を掘進させながら埋設管(図示せず。)を敷設する。
【0027】
ここで、図2(図2(イ)は本発明における坑口に止水器を取り付けた一例を説明するための側面模式図を示し、図2(ロ)は本発明における坑口に止水器を取り付けた一例を説明するための正面模式図を示す。)は、本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造における坑口に止水器を取り付けた一例を説明するための模式図である。
【0028】
発進立坑1内の壁面(山留材)8に掘進機6の先端に設けられる掘削カッター7が挿入可能な内径を有する坑口5に止水器9が溶接で取り付けられている。
【0029】
この止水器9は、円筒形状とされる止水坑口部10と、この止水坑口部10の基端開口縁に周設されるフランジ部11と、このフランジ部11に押え板12及び櫛形調整板13で取り付けられる止水ゴム14により構成されている。
【0030】
また、止水ゴム14は、その内径が掘進機6及び埋設管(図示せず。)の外径よりも小さな内径とされ、この止水ゴム14の内周縁が折れ曲がった状態で掘進機6及び埋設管(図示せず。)の外周面に密接された構成とされている。
【0031】
次に、図3(図3(イ)は本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造の一例を説明するための側面模式図を示し、図3(ロ)は本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造の一例を説明するための正面模式図を示す。)は、本発明を適用した推進工事における坑口の止水推進構造の一例を説明するための模式図である。
【0032】
ここで、掘進機6及び埋設管(図示せず。)の外周面にグリースオイルなどのゲル状の滑材(図示せず。)が塗布されている。更に、その外表面が凹凸状に形成される緩衝帯16が掘進機6及び埋設管(図示せず。)に巻着され、その先端側が止水ゴム14位置となるように調整されている。
【0033】
このようにして取り付けられた止水器9の止水坑口部10を取り囲むように複数の主鉄筋17が組み立てられ、この主鉄筋17に対して直交する配力筋18が防護コンクリートの施工の際に組み立てられる一定間隔ごとに配筋されている。
【0034】
この配力筋18の先端は壁面8に当接されると共に、その基端には鉄筋継手19が取り付けられている。この鉄筋継手19は図4に示すように、両端開口状とされ、その内周面に雌ネジ(図示せず。)が形成されている。
【0035】
また、配力筋18の外周面に形成される雄ネジ(図示せず。)を鉄筋継手19の一方の開口端より雌ネジの略中央位置まで螺合された状態とされている。
【0036】
ここで、鉄筋継手19の他方の開口端に当接された状態で型枠15が組み立てられている。この型枠15は壁面8との間で止水器9、主鉄筋17及び配力筋18を取り囲むようにして掘進機6の外周面に密接状に取り付けられている。
【0037】
このようにして組み立てられた型枠15内に生コンクリート20を注入することで止水器9、主鉄筋17及び配力筋18を生コンクリート20で一体化された坑口支持部24が形成されることになる。
【0038】
この坑口支持部24により掘進機6の周壁面が坑口支持部24の緩衝体16に支持されながら前進することになる。従って、掘進機6の後端に順次連結される埋設管(図示せず。)の周壁面に滑材を塗布することで振動等に振れることなく保持することが可能となる。
【0039】
なお、本実施例では止水坑口部が円筒形状である場合について詳述するものであるが、掘進機は必ずしも円筒形状ではなく、他に矩形、又はいびつな円形状のものもある。
【0040】
従って、止水坑口部の坑口形状も掘進機の形状に合わせることとなるが、掘進機の胴体外周を取り囲むように型枠を取り付けることで、型枠内に注入される生コンクリートは掘進機の胴体外周に密接状となり水密性を高めた止水推進構造となる。
【0041】
また、本実施の形態に係る配筋構造は、防護コンクリートと強固に一体化を可能とするものであるが、必ずしも主鉄筋及び配力筋から構成される配筋構造とする必要性はない。
【0042】
例えば、立坑底面が軟弱地盤の場合では防護コンクリートの配筋構造が両方向主鉄筋とすることもあり、防護コンクリートの配筋構造に合わせた配筋構造とすることが好ましい。
【0043】
また、本実施の形態に係る鉄筋継手は、防護コンクリートの施工の際に組み立てられる配力筋との接続を容易に行うことを可能とするものであるが、必ずしも鉄筋継手を設ける必要性はない。
【0044】
例えば、防護コンクリートを施工するために組み立てられた鉄筋を溶接で接続する構成であっても構わないが、立坑内への鉄筋突出による危険性の回避及び作業の効率化を図るという点において鉄筋継手を設ける機構を採用した方が好ましい。
【0045】
また、本実施の形態に係る緩衝体は、掘進機の振れによる衝撃を緩和するとともに、埋設管との密着性を確保するものであるが、必ずしも緩衝体を設ける必要性はない。
【0046】
例えば、掘進機の振れが小さくなることが想定される土質の場合には緩衝体を設けない構成であっても構わないが、掘進機の胴体外周との密接性を高めるという点において緩衝体を設けた構成とすることが好ましい。
【0047】
また、本実施の形態に係る滑材は、緩衝体と掘進機外周面との間に滑材を介在させることで掘進機と緩衝体との摩擦を低減させることを可能とするものであるが、必ずしも滑材を設ける必要性はない。
【0048】
例えば、緩衝体に摩擦係数の小さい素材を採用する、あるいは緩衝体と掘進機外周面との間に常に水を注入するなどの構成であっても構わないが、確実性及び作業性の効率化を図るという点においてグリースオイルなどのゲル状の滑材を塗布した方が好ましい。
【0049】
このような本発明の坑口の止水推進構造では、まず、止水坑口部10と推進機6との空隙に高濃度泥水を所要圧力になるように注入する。
【0050】
ここで、前記図1において詳述したように、掘削カッター7を駆動回転させて元押ジャッキ4で掘進機6を地山A内に押し込むように掘削作業を行う。
【0051】
この掘進機6が地山Aに収まるまでの初期工程は、到達立坑までの全推進工程の中で土砂崩壊や掘進機の計画線形逸脱が最も多い工程となる。
【0052】
このように掘進機6の初期推進時に生ずる大きな振れは、止水坑口部10の止水器9及び主鉄筋17、配力筋18を生コンクリートで一体化された坑口支持部24により掘進機6の周壁面が支持されることで抑制することが可能となる。
【0053】
また、緩衝体16は掘進機6の振れによる衝撃を緩和するとともに、埋設管との密着性を確保することができる。更に、グリースオイル等の滑材は、掘進機本体6と緩衝体16との摩擦を低減させることができる。
【0054】
また、図4(図4(イ)は本発明を適用した坑口の止水推進構造による防護コンクリートの施工例を説明するための側面模式図を示す、図4(ロ)は本発明を適用した坑口の止水推進構造による防護コンクリートの施工例を説明するための側面模式図を示す。)は本発明を適用した坑口の止水推進構造による防護コンクリートの施工例を説明するための模式図である。
【0055】
ここで、推進工事完了後に、坑口支持部24の緩衝体16と埋設管Cとの間に施していた滑材を除去し、清掃した後にセメントミルク等(図示せず。)が注入される。
【0056】
次に、図5に示すように発進立坑1内に敷設される埋設管Cが発進立坑1内に埋め戻される土砂Dの土圧から防護するために防護コンクリート25が埋設管Cの外周面を取り囲むように附設される。
【0057】
この防護コンクリート25は、まず、コンクリート打継面27がチッピング等の表面処理をされた後、坑口支持部24の端面に露出する鉄筋継手19の雌ネジ(図示せず。)に防護コンクリート25内に配筋される配力筋18Aを螺着連結すると共に、この配力筋18Aに対して主鉄筋17Aが配筋される。
【0058】
このようにして埋設管C周囲に組み立てられた主鉄筋17A及び配力筋18Aを取り囲むようにして型枠15Aを組み立てられる。
【0059】
更に、型枠15A内に生コンクリート20が打設されることで埋設管Cの周囲を取り囲むように防護コンクリート25が形成される。
なお、図中28は地上から埋設管C内への出入りができるためのマンホールを示す。
【0060】
このような構成の推進工事における坑口の止水推進構造では、推進工事完了後に坑口支持部を取り壊すことなく防護コンクリートとして活用することが可能となる。
【0061】
また、推進工事完了後に、坑口支持部の解体及び撤去作業が不要となることで粉塵、騒音等による過酷な作業が無くなるとともに、かなりの作業日数を短縮することとなる。
【0062】
また、坑口支持部の防護コンクリートとの接合面に鉄筋継手を配置することで防護コンクリート内に配筋される配力筋と溶接等によらないで容易に接続することができ、坑口支持部との一体的な施工が可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 発進立孔
2 支圧壁
3 発進架台
4 元押ジャッキ
5 坑口
6 掘進機
7 掘削カッター
8 壁面
9 止水器
10 止水坑口部
11 フランジ部
12 押え板
13 櫛形調整板
14 止水ゴム
15、15A 型枠
16 緩衝体
17、17A 主鉄筋
18、18A 配力筋
19 鉄筋継手
20 生コンクリート
24 坑口支持部
25 防護コンクリート
27 コンクリート打継面
28 マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑口の開口縁に沿って一端が当接すると共に、他端の周縁に沿って前記坑口に挿入される掘進機の外周面に密接するように止水ゴムが取り付けられた止水器と、
前記止水器の外周面に沿って同止水器を囲むように組み立てられた鉄筋と、
前記止水器及び鉄筋を取り囲むようにして前記掘進機の外周面に密接する状態でコンクリートにより一体成型された坑口支持部とを備える
推進工事における坑口の止水推進構造。
【請求項2】
前記鉄筋は、前記止水器の周囲に所要数配置された主鉄筋と、該主鉄筋に対して直交し所定間隔ごとに配置された配力筋とを有する
請求項1に記載の推進工事における坑口の止水推進構造。
【請求項3】
前記配力筋の一端側に、前記坑口支持部の開放端面に露出する状態で鉄筋継手が取り付けられる
請求項2に記載の推進工事における坑口の止水推進構造。
【請求項4】
前記坑口支持部と掘進機外周面との間に、同坑口支持部に固着される緩衝体を有する
請求項1、請求項2または請求項3に記載の推進工事における坑口の止水推進構造。
【請求項5】
前記緩衝体と前記掘進機外周面との間に滑材を介在させる
請求項4に記載の推進工事における坑口の止水推進構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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