説明

掻痒の治療及び/又は予防剤

【課題】 掻痒の治療及び/又は予防のために有用な医薬を提供すること。
【解決手段】 下記式(I):


(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基等の基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、掻痒の治療及び/又は予防のための医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む掻痒の治療及び/又は予防のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
掻痒とは皮膚などをかいたり、こすったりしたくなるような不快な感覚であり、多くの皮膚疾患における重要な症状の一つである。掻痒を伴う多くの皮膚疾患においては、患者自身が患部を掻き破る(掻破行動とも言う)ことによって、症状の悪化や慢性化が起こることが問題となる。
【0003】
掻痒を惹起する因子としては、ヒスタミン、ブラジキニン、サブスタンスPなどの神経ペプチド、タンパク質分解酵素、プロスタグランジン、血小板活性化因子、ロイコトリエンB4、リンフォカインなどが知られている。例えば、アトピー性皮膚炎の掻痒を抑えるための医薬としては、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、ステロイド剤、及び保湿剤などが知られている。
【0004】
また、一酸化窒素合成酵素(NOS)により産生される一酸化窒素(NO)がアトピー性皮膚炎などに起因する掻痒に関与することも知られている。特許文献1には、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)を選択的に阻害する化合物を有効成分とする掻痒治療薬が記載されている。
【0005】
さらに、イオンチャネル型グルタミン酸受容体は、NMDA型、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)型、カイニン酸型のサブユニットに分類されるが、これらの受容体はヒトや動物において、中枢神経系のみならず、皮膚の感覚神経終末にも分布し、例えば、痛み(侵害刺激)の伝達に関与することが示唆されている。そして、特許文献2には、グルタミン酸受容体を選択的に阻害する化合物を有効成分とする掻痒治療薬が記載されている。
【0006】
一方、下記式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特許文献3参照)、過酸化脂質生成抑制作用(特許文献4参照)、抗潰瘍作用(特許文献5参照)、及び血糖上昇抑制作用(特許文献6参照)等が知られている。
【0007】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(非特許文献1;非特許文献2参照)。このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。しかしながら、これまでエダラボンが掻痒の治療及び/又は予防に対して有効であるか否かの検討については全く報告がない。
【0008】
【特許文献1】特開2002−138052号公報
【特許文献2】特開2003−81872号公報
【特許文献3】特公平5−31523号公報
【特許文献4】特公平5−35128号公報
【特許文献5】特開平3−215425号公報
【特許文献6】特開平3−215426号公報
【非特許文献1】Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997
【非特許文献2】Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、掻痒の治療及び/又は予防のために有用な医薬を提供することにある。本発明の課題は、特に、抗ヒスタミン作用以外の機序を有する上記医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として、式(I)で示されるピラゾロン誘導体を用いて、掻痒に対する治療効果について検討した。その結果、上記ピラゾロン誘導体の投与により、掻痒を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、下記式(I):
【化2】

(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、掻痒の治療及び/又は予防のための医薬が提供される。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、掻痒は、皮膚掻痒症である。
本発明の好ましい態様によれば、掻痒は、人工透析による掻痒である。
本発明の好ましい態様によれば、掻痒は、掻痒が皮膚炎、蕁麻疹、湿疹、虫刺され、花粉症若しくは食物アレルギーによる掻痒;黄疸に伴う掻痒;腎臓病、糖尿病、膠原病若しくは悪性腫瘍の合併症としての掻痒;又は温熱寒冷刺激による掻痒である。
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体は、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである。
【0013】
本発明の別の側面によれば、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、抗掻痒剤が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の局面によれば、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の治療及び/又は予防有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、掻痒を治療及び/又は予防する方法が提供される。
【0015】
本発明のさらに別の局面によれば、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の治療及び/又は予防有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、掻痒を抑制する方法が提供される。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、掻痒の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0017】
本発明のさらに別の側面によれば、抗掻痒剤の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明による医薬は、掻痒を効果的に治療及び予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明による掻痒の治療及び/又は予防のための医薬、並びに抗掻痒剤(本明細書中では、これらを総称して、本発明の医薬と略記する場合がある)は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0020】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I')又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I')又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0021】
【化3】

【0022】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0023】
1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0024】
1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0025】
1及びR2の定義における炭素数3〜5のアルキレン基としては、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、メチルトリメチレン基、エチルトリメチレン基、ジメチルトリメチレン基、メチルテトラメチレン基等が挙げられる。
【0026】
2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0027】
2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0028】
3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0029】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0030】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0031】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0032】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0033】
3,3',4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0034】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0035】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0036】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等のアミンとの塩が挙げられる。この他、生理的に許容されるものであれば塩の種類は特に限定されることはない。
【0037】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0038】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜100mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.1〜100mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0039】
本発明の医薬としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0040】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0041】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0042】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0043】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の医薬において上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0044】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的又は非経口的に投与することができる。非経口投与の投与経路も特に限定されず、静脈内、動脈内に注射投与することができる。
【0045】
本発明の医薬は、掻痒の発症に先立って予防的に投与しておくこともできる。また、掻痒を発症した患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、本発明の医薬を該患者に投与することができる。
【0046】
本発明の医薬の投与対象となる掻痒は最も広義に解釈される。掻痒としては、皮膚などをかいたり、こすったりしたくなるような不快な感覚の全てを包含し、皮膚で生じる掻痒のほか、粘膜や角膜で生じる掻痒などが挙げられる。掻痒としては、皮膚掻痒症(例えば、肉眼的には明らかな皮膚症状を認めないのに皮膚がかゆい場合など;老人性皮膚掻痒症などを含む);人工透析による掻痒;皮膚炎(アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎などを含む)、蕁麻疹、湿疹、虫刺され、花粉症又は食物アレルギーなどによる掻痒(好ましくは、皮膚炎、蕁麻疹、湿疹による掻痒);黄疸に伴う掻痒;腎臓病、糖尿病、膠原病又は悪性腫瘍などの合併症としての掻痒;並びに、温熱寒冷刺激による掻痒などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の医薬は、上記したような掻痒の治療及び/又は予防のために使用することができると同時に、上記したような掻痒を抑制するための抗掻痒剤としても使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0048】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンと称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0049】
試験例:動物実験モデルを用いた試験
(1)使用動物
BALB/c系マウス(雄,6週齢,セアック吉冨)を管理区域内にて1週間予備飼育した後、試験に使用した。
【0050】
(2)使用薬剤
秤量したエダラボンを少量の1N NaOH で完全に溶解した後、HC1でpH 7.2〜7.6に中和し、それを生理食塩水でメスアップした溶液を注射液とした。
【0051】
(3)試験方法
1群9匹のBALB/c系マウスを使用した。マウスは予め抗トリニトロフェニル(TNP)モノクローナルIgE 10μg/0.3mLを静脈内投与することで感作する。感作の24時間後に抗原溶液(0.75%ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)含有アセトン/オリーブ油(3:1))を右耳介の両面に5μLづつ塗布した。エダラボンは、抗原塗布直前および抗原塗布より30分後の計2回、10mL/kgを静脈内投与した。抗原塗布より正確に1時間後、マウスを予め馴らしておいた行動観察用のガラス容器(直径18cm×高さ20cm)へ1匹ずつ収容し、その後30分間の行動を無人環境下でビデオカメラ撮影した。後にこのビデオの再生画より、30分間の掻痒行動回数を計数し評価した。なお、マウスの掻痒行動は後足による右耳介もしくは右耳介周辺の1秒間以上の引っ掻き行為を1回とし、前足による顔掻き(グルーミング)は除外した。
【0052】
また、ビデオ撮影終了直後にマウスの右耳介の厚さをダイヤルゲージを用いて測定し、予め測定しておいた前値からの差として即時型浮腫量を評価した。
【0053】
(4)試験結果
30分間の掻痒行動回数の測定結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
エダラボンの静脈内投与(0.1〜10mg/kg)は、IgE依存性(アレルギー性)の掻痒行動を用量依存的に抑制し、1mg/kg以上の用量では有意であった。なお、状態観察では薬剤投与に起因するような沈静・傾眠作用等は全く認められなかった。
【0056】
また、即時型浮腫量を評価した結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
エダラボンは掻痒行動と同時に認められる皮膚の即時型浮腫反応を1mg/kgの用量で有意に抑制した。
【0059】
(5)まとめ
エダラボンの静脈内投与により、用量依存的かつ有意な掻痒抑制作用が認められた。一方、今回の投与スケジュールでは、即時型浮腫反応の抑制作用が1mg/kgの用量で確認された。この浮腫抑制作用に関しては掻痒抑制作用とは別の機序で作用したものとも考えられる。実験に用いたBALB/cマウスは、掻痒に対するヒスタミンの関与は少ないが、掻痒行動と同時に認められる皮膚の即時型浮腫反応(血管透過性亢進)にはマスト細胞の脱顆粒、ヒスタミンが関与しているとされている。従って、エダラボンにはヒスタミンを介さない機序で掻痒を抑制する作用の他に、マスト細胞の脱顆粒を含めたヒスタミンを介する機序により皮膚の浮腫反応を抑制する可能性がある。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、掻痒の治療及び/又は予防のための医薬。
【請求項2】
掻痒が皮膚掻痒症である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
掻痒が人工透析による掻痒である、請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
掻痒が皮膚炎、蕁麻疹、湿疹、虫刺され、花粉症若しくは食物アレルギーによる掻痒;黄疸に伴う掻痒;腎臓病、糖尿病、膠原病若しくは悪性腫瘍の合併症としての掻痒;又は温熱寒冷刺激による掻痒である、請求項1に記載の医薬。
【請求項5】
式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである、請求項1から4の何れかにに記載の医薬。
【請求項6】
下記式(I):
【化2】

(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、抗掻痒剤。
【請求項7】
式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである請求項6に記載の抗掻痒剤。


【公開番号】特開2008−37753(P2008−37753A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352502(P2004−352502)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】