説明

揚水管および揚水管の構築方法

【課題】外管に曲がりが生じた場合にも内管および断熱材を確実かつ容易に設置でき、施工費用が安価である揚水管および揚水管の構築方法を提供すること。
【解決手段】連続地中壁5の形成予定位置の地盤3に掘削した溝27内に外管17を建て込み、溝27にコンクリート29等を打設して連続地中壁5内に外管17を埋設する。次に、外管17および外管17の下部に設置した排水管9を仮排水設備として使用しつつ、連続地中壁5の内側に底版13、側壁15等を構築する。そして、内管19に固定された複数のスペーサ33によって外管17と内管19との間に空間35を確保しつつ、外管17内に内管19を挿入し、下蓋25を固定して空間35の下端を閉鎖する。その後、外管17と内管19との間の空間35に粉体状または流体状の断熱材21を充填し、上蓋23を固定して空間35の上端を閉鎖する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚水管および揚水管の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)などの低温液化ガスを貯蔵するための地下タンクでは、周辺地盤から浸透してくる地下水を汲み上げるため、タンクに揚水管が一体化されてきた。
【0003】
図4は、従来の地下タンク101の揚水管107付近の断面図である。図4に示すように、一般に、揚水管107は、地下タンク101の周囲に設けられる連続地中壁105内に設置される。揚水管107は、地下タンク101内の低温液化ガスの冷熱によって内部が凍結しないように、外管111と内管113とからなる二重管構造となっている。外管111と内管113との間には、断熱材117が配置される。
【0004】
地下タンク101を構築するには、まず、地盤103に連続地中壁105を形成するための溝を掘削して外管111を建て込み、溝内にコンクリート等を打設して外管111を連続地中壁105に埋設する。次に、外管111の下部に排水管109を設置する。そして、外管111および排水管109を排水設備として使用しつつ、地下タンク101の本体を構築する。
【0005】
その後、断熱材117を貼り付けた内管113を外管111の内部に挿入する。さらに、外管111と内管113との間の空間の下端に下蓋121を、上端に上蓋123を固定する。
【0006】
断熱材117は、フォームグラス(泡ガラス)またはポリウレタンフォーム(PUF)の整形品が用いられる。断熱材117は内管113に接着された後、スチールバンド(図示せず)で固定され、スチールバンドの外側が繊維補強樹脂(FRP)や板金などの補強材119によって補強される。内管113の外周面には多数のスペーサ115が設けられる。スペーサ115は、断熱材117を貫通して断熱材117の表面から突出するように設けられる。スペーサ115は、内管113を外管111の内部に挿入する際に、断熱材117が外管111に接触して破損するのを防止する。
【0007】
また、従来、低温流体を輸送する際などに、二重管構造の断熱管が用いられている。二重管構造の断熱管では、内管と外管との間を真空にする、内管と外管との間にパーライト粉末、ガラス微小中空球体を封入する等の方法で、内管と外管との間に断熱層が形成される(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2000−81192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の地下タンク101の構築方法では、連続地中壁105のコンクリートの打設中に外管111に10〜15cm程度の曲がりが生じることがある。この場合、外管111に内管113を挿入する際に、スペーサ115を配置していても外管111に断熱材117が接触し、断熱材117が破損して断熱性能が低下するという問題点がある。
【0010】
断熱材117の破損を防ぐため、あらかじめ外管111の曲がりを想定して径の大きな外管111を用いる方法があるが、工事費用が増大する。また、整形品の断熱材117は高価であるうえ、内管113への取付加工が煩雑であり、費用が嵩む。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、外管に曲がりが生じた場合にも内管および断熱材を確実かつ容易に設置でき、施工費用が安価である揚水管および揚水管の構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するための第1の発明は、連続地中壁内に建て込まれた外管と、外周面にスペーサを有し、前記外管内に挿入された内管と、前記外管と前記内管との間に充填された粉体状または流体状の断熱材と、前記内管と前記外管との間の空間の上端部と下端部とをそれぞれ閉鎖する蓋と、前記外管の下端付近に、前記外管の内空と砕石層とが連通するように設けられた管と、を具備することを特徴とする地下構造物の揚水管である。
【0013】
断熱材には、粉体状のパーライト、発泡スチロールビーズなどが用いられる。断熱材には、粉体状の断熱材とセメントミルクとを混合して流体状としたものを用いてもよい。この場合、セメントミルクが硬化すると断熱材は固体状となる。
【0014】
第1の発明では、外管と内管との間に充填される断熱材として、粉体状または流体状のものを用いることにより、工事費用を抑えることができる。
【0015】
第2の発明は、連続地中壁内に外管を建て込む工程(a)と、前記外管を排水設備として使用しつつ、前記連続地中壁内に地下構造物を構築する工程(b)と、前記外管内に内管を挿入する工程(c)と、前記外管と前記内管との間に、粉体状または流体状の断熱材を充填する工程(d)と、を具備することを特徴とする地下構造物の揚水管の構築方法である。
【0016】
第2の発明では、例えば、工程(c)で、内管と外管との間の空間の下端が閉鎖するように下蓋を設置し、工程(d)の後、内管と外管との間の空間の上端が閉鎖するように上蓋を設置する。また、工程(c)では、内管の外周面に設けられたスペーサによって外管と内管との間に空間を確保しつつ、外管内に内管を挿入するのが望ましい。
【0017】
断熱材には、粉体状のパーライト、発泡スチロールビーズなどが用いられる。断熱材には、粉体状の断熱材とセメントミルクとを混合して流体状としたものを用いてもよい。この場合、セメントミルクが硬化すると断熱材は固体状となる。
【0018】
第2の発明では、断熱材を貼付していない内管を外管に挿入するため、外管に曲がりが生じた場合にも内管を確実かつ容易に設置できる。また、外管と内管との間に充填される断熱材として、粉体状または流体状のものを用いることにより、工事費用を抑えることができる。
【0019】
第3の発明は、第2の発明の揚水管の構築方法を用いて構築されたことを特徴とする地下構造物の揚水管である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、外管に曲がりが生じた場合にも内管および断熱材を確実かつ容易に設置でき、施工費用が安価である揚水管および揚水管の構築方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、地下タンク1の垂直方向の断面図である。図1に示すように、地下タンク1は、連続地中壁5、揚水管7、排水管9、底版13、側壁15等からなる。
【0022】
連続地中壁5は、地盤3内に筒状に形成される。揚水管7は、連続地中壁5の内部に設置される。側壁15は連続地中壁5の内周に沿って形成される。底版13は、側壁15の下端に形成される。底版13の下方の地盤3には、砕石層11が形成される。排水管9は、揚水管7の下端付近と砕石層11とが連通するように設置される。
【0023】
揚水管7は、外管17、内管19、断熱材21、上蓋23、下蓋25等からなる。外管17は、連続地中壁5に埋設される。外管17の上端は地盤3の上方に配置される。内管19は、外管17の内側に配置される。内管19の下端は外管17の内部に、上端は外管17の上端よりも上方に配置される。内管19は、外周面43に所定の間隔をおいて複数のスペーサ33が設けられる(図2(b)図)。
【0024】
断熱材21は、外管17と内管19との間に充填される。上蓋23は、外管17と内管19との間の空間35(図2(b)図)の上端部を閉鎖するように設置される。下蓋25は、外管17と内管19との間の空間35(図2(b)図)の下端部を閉鎖するように設置される。
【0025】
断熱材21は、粉体状のパーライト(真珠岩系パーライト、黒曜石系パーライト)、発泡スチロールビーズ等である。断熱材21には、粉体状のパーライトや発泡スチロールビーズ等とセメントミルクとを混合して流体状としたものを用いてもよい。この場合、セメントミルクの硬化後は断熱材21は固体状となる。
【0026】
次に、地下タンク1を構築する方法について説明する。図2は、地下タンク1の連続地中壁5付近の拡大断面図である。図2(a)図は、連続地中壁5内に外管17を建て込んだ状態を示す図である。地下タンク1を構築するには、図2(a)図に示すように、まず、連続地中壁5の形成予定位置の地盤3に溝27を掘削し、溝27内に外管17を建て込む。そして、溝27にコンクリート29等を打設して、連続地中壁5内に外管17を埋設する。外管17は、内周面45の下部に下蓋25が溶接固定される。次に、外管17の下部に排水管9を設置する。
【0027】
図2(b)図は、外管17内に内管19を挿入した状態を示す図である。図2(b)図に示す工程では、仮設ポンプ(図示せず)を設置して外管17および排水管9を仮排水設備として使用しつつ、連続地中壁5の内側に底版13、側壁15等を構築する。なお、排水管9は、底版13の下方に形成された砕石層11と外管17とが連通するように設置される。
【0028】
次に、外管17内に内管19を挿入する。上述したように、内管19の外周面43には、軸方向および周方向に所定の間隔をおいて複数のスペーサ33が固定される。図2(b)図に示す工程では、スペーサ33によって外管17と内管19との間に空間35を確保しつつ、外管17内に内管19を挿入する。
【0029】
外管17内に内管19を挿入した後、内管19の下端部31を下蓋25に溶接により固定する。下蓋25は、内管19と外管17との間の空間35の下端を閉鎖する。
【0030】
図2(c)図は、空間35に断熱材21を充填した状態を示す図である。図2(c)図に示す工程では、外管17と内管19との間の空間35(図2(b)図)に、断熱材21を充填する。パーライトや発泡スチロールビーズ等の粉体状の断熱材21を用いる場合、外管17と内管19との間の空間35に、上方から直接投入する。また、空気を利用して断熱材21を投入する場合もある。
【0031】
図3は、粉体状の断熱材21を空気を利用して充填する方法を示す図である。図3に示す方法では、一端を送風機39に接続したホース37を外管17と内管19との間の空間35に挿入し、送風機39から送った矢印Aの方向の空気にのせて、ホース37の途中に設けた断熱材貯蔵部41から断熱材21を空間35内に運搬する。そして、ホース37を空間35の下端から順次引き上げつつ、断熱材21を空間35内に充填する。
【0032】
断熱材21には、粉体状のパーライトや発泡スチロールビーズ等とセメントミルクとを混合して流体状としたものを用いてもよい。流体状の断熱材21を用いる場合、外管17と内管19との間の空間35に断熱材21を上方から直接投入する。また、モルタルポンプを用いて投入してもよい。
【0033】
図2(c)図に示す工程では、空間35に断熱材21を充填した後、外管17の上端部32(図2(b)図)と内管19の外周面43に上蓋23を溶接固定する。上蓋23は、内管19と外管17との間の空間35の上端を閉鎖する。上蓋23を固定した後、仮設ポンプ(図示せず)を本設ポンプ(図示せず)に入れ替え、地下タンク1を完成する。
【0034】
本実施の形態では、連続地中壁5のコンクリート打設時に外管17に曲がりが生じても、内管19に取り付けたスペーサ33により外管17と内管19との間に空間35を確保しつつ、内管19を外管17内に容易に挿入することができる。また、内管19の挿入後に断熱材21を設置するため、外管17に内管19を挿入する際に断熱材21が破損せず、断熱性能の低下がない。さらに、外管17と内管19との隙間が従来よりも狭くても内管19を問題なく挿入できるため、径が小さい外管17を用いることができ、工事費用を削減できる。
【0035】
本実施の形態で断熱材21として用いた粉体状のパーライト(真珠岩系パーライト、黒曜石系パーライト)の熱伝導率は、従来から用いてきたフォームグラスやポリウレタンフォームとほぼ同等である。外管17と内管19との間の空間35の幅が従来と同等である場合、本実施の形態では空間35の全体に断熱材21が充填されるため、従来と比較してより高い断熱性能を確保できる。
【0036】
また、粉体状のパーライトは従来から用いてきたフォームグラスやポリウレタンフォームと比較して安価であり、設置に特別な技術が必要でないため、全体の工事費用を抑えることができる。さらに、工事が簡単にできるため、工期を短縮できる。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかる揚水管および揚水管の構築方法の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】地下タンク1の垂直方向の断面図
【図2】地下タンク1の連続地中壁5付近の拡大断面図
【図3】粉体状の断熱材21を空気を利用して充填する方法を示す図
【図4】従来の地下タンク101の揚水管107付近の断面図
【符号の説明】
【0039】
1………地下タンク
5………連続地中壁
7………揚水管
9………排水管
17………外管
19………内管
21………断熱材
23………上蓋
25………下蓋
33………スペーサ
35………空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続地中壁内に建て込まれた外管と、
外周面にスペーサを有し、前記外管内に挿入された内管と、
前記外管と前記内管との間に充填された粉体状または流体状の断熱材と、
前記内管と前記外管との間の空間の上端部と下端部とをそれぞれ閉鎖する蓋と、
前記外管の下端付近に、前記外管の内空と砕石層とが連通するように設けられた管と、
を具備することを特徴とする地下構造物の揚水管。
【請求項2】
前記断熱材が、粉体状の断熱材とセメントミルクとを混合したものであることを特徴とする請求項1記載の地下構造物の揚水管。
【請求項3】
連続地中壁内に外管を建て込む工程(a)と、
前記外管を排水設備として使用しつつ、前記連続地中壁内に地下構造物を構築する工程(b)と、
前記外管内に内管を挿入する工程(c)と、
前記外管と前記内管との間に、粉体状または流体状の断熱材を充填する工程(d)と、
を具備することを特徴とする地下構造物の揚水管の構築方法。
【請求項4】
前記工程(c)で、前記内管と前記外管との間の空間の下端が閉鎖するように下蓋を設置し、
前記工程(d)の後、前記内管と前記外管との間の空間の上端が閉鎖するように上蓋を設置することを特徴とする請求項3記載の地下構造物の揚水管の構築方法。
【請求項5】
前記工程(c)で、前記内管の外周面に設けられたスペーサによって前記外管と前記内管との間に空間を確保しつつ、前記外管内に前記内管を挿入することを特徴とする請求項3または請求項4記載の地下構造物の揚水管の構築方法。
【請求項6】
前記断熱材が、粉体状の断熱材とセメントミルクとを混合したものであることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載された地下構造物の揚水管の構築方法。
【請求項7】
請求項3から請求項6のいずれかに記載された揚水管の構築方法を用いて構築されたことを特徴とする地下構造物の揚水管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−106596(P2010−106596A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280843(P2008−280843)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】