説明

揚重用吊り天秤

【課題】 複数のチェーンブロックを掛け替えながら吊荷の姿勢を制御しつつ揚重する際にチェーンブロック同士の干渉が無く、高さ方向の寸法が小さく、搬出入の経路の干渉物の撤去範囲が小さい吊り天秤、および、それを用いた揚重方法を提供する。
【解決手段】揚重機器のフックに係合する主吊り部4と、それに対し回転可能に取り付けられた吊り天秤本体1と、それに固定され、かつ、吊荷からのスリングに係合する係止点3を各々が複数個有する吊りプレート2とを有し、吊りプレート2に複数個設けられた係止点3が、吊り天秤本体の回転軸中心を中心とする円弧上に、かつ、係止点相互に間隔を開けて配置されていることを特徴とする揚重用吊り天秤装置、および、それを用いる揚重方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種揚重機器と組み合わせて使用される吊り天秤装置であって、吊荷を吊った状態でその姿勢を制御しながら揚重する吊り天秤装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重量物の揚重に当たって、吊荷の搬出入の経路の制約を躱すために、あるいは、移送元における吊り上げ時の吊荷の姿勢と移送先において降ろした際に望まれる吊荷の姿勢が異なるために、吊荷を吊った状態でその姿勢を制御する必要がある場合がある。
【0003】
たとえば、図4に示すような断面に比べて長さが長く、かつ、曲がっているエルボを、そのエルボの断面ギリギリの大きさの搬出入の経路を経由して吊り上げる場合を考えてみる。
【0004】
吊荷であるエルボに設けた左右4点の吊り部に、それぞれチェーンブロックを掛けて大型のエルボを吊り上げる。すなわち、図で示された吊り点aにAチェーンブロックを、吊り点bにBチェーンブロックを掛けて、図の裏側の同じ位置の吊り点に掛けられた他の2台のチェーンブロックをともに、すなわち、計4台のチェーンブロックを操作して、移送元におかれた状態からエルボを吊り上げる。
【0005】
吊り上げた状態で図5に示すように、Aチェーンブロックを延伸させることにより、Bチェーンブロックにエルボの加重を預けて時計回りにエルボを回転させ、Aチェーンブロックをはずし、別の吊り点cに掛け替える。次に、図6に示すように、Bチェーンブロックを延伸させるのに合わせてAチェーンブロックを縮小させることにより、さらにエルボを時計回りに回転させながら吊り上げ作業を進める。
【0006】
このように1台の吊り天秤に片側2台、計4台のチェーンブロックを取り付けて安定した作業ができれば、その断面ギリギリの大きさの搬出入の経路といった制約を躱して、曲がったエルボを吊り上げることができる。また、移送先における望ましい吊荷の姿勢を取らせることも容易にできる。
【0007】
この様な場合、従来ならばチェーンブロック同士の干渉を避けるために、図7に示すように、通常の吊り天秤の両端に環状のバウシャックルを取り付けて、それぞれのバウシャックルにチェーンブロックを2台ずつ取り付けて作業を行っていた。
【0008】
しかし、チェーンブロック同士の干渉を完全には排除できず、また、バウシャックル分だけ、高さ方向の寸法が大きくなるので、揚重に必要な高さ方向の寸法が大きくなり、使い勝手が悪いという欠点があった。
【0009】
バウシャックルを使わずに4台のチェーンブロックを取り付ける別の方法としては、図8に示すようなH型の平面構造を有する吊り天秤を使用してその4個の端部にそれぞれチェーンブロックを取り付ける方法が考えられる。チェーンブロック同士の干渉を避けるには有効な方法であるが、上記の事例の場合のように各チェーンブロックの加重が作業の途中で大きく変化する場合には、吊り天秤自体が大きく傾いたり、前後左右に動いたりして、揚重作業が困難になり、また、安全を考慮して経路の干渉物の撤去範囲を広げざるを得ないという欠点がある。
【0010】
制約のある経路を通して吊荷を移送し、あるいは、移送先において吊荷の姿勢を制御する発明として、特許文献1及び特許文献2があるが、いずれも比較的単純な経路を通り、かつ、特許文献1では横置きされた長尺資材を揚重に当たっては縦位置にする、また、特許文献2では水平状態で移送された荷箱を移送先で所定の角度だけ傾けると言った定型的な姿勢の制御を考えたものであり、上記事例のように、極めて厳しい制約のある経路の中で、吊荷の微妙な姿勢制御を行いたいというニーズには対応し得ない。
【特許文献1】特開平10−45373号公報
【特許文献2】特回2001−253682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
複数のチェーンブロックを掛け替えながら吊荷の姿勢を制御しつつ揚重するにあたり、チェーンブロック同士の干渉が無く、各チェーンブロックの加重が作業の途中で大きく変化しても吊り天秤自体が大きく傾いたり前後左右に動くことなく、安定した揚重作業ができ、かつ、高さ方向の寸法が小さくて使い勝手が良く、搬出入の経路の干渉物の撤去範囲が小さい吊り天秤、および、それを用いた揚重方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、揚重機器のフックに係合する主吊り部と、当該主吊り部に対し回転可能に取り付けられた吊り天秤本体と、当該吊り天秤本体の両端に固定され、かつ、吊り上げ対象物(以下「吊荷」という。)の吊り部からのスリングに係合する係止点を各々が複数個有する吊りプレートとを有する揚重用吊り天秤である。
【0013】
吊り天秤本体の両端に設けられた吊りプレートに、吊荷の吊り部からのスリングに係合する係止点を複数設けることにより、一つの係止点に一つのチェーンブロックを係合させてチェーンブロック同士の干渉をほぼ無くすことができる。
【0014】
また、その吊りプレートを吊り天秤本体に固定し、すなわち、2枚の吊りプレートと吊り天秤本体が一体となり、かつ、その吊り天秤本体を主吊り部に対し回転可能に取り付けることにより、各チェーンブロックの加重が作業の途中で大きく変化しても、加重の変化に応じて吊り天秤本体が回転しバランスの取れた位置で静止する。したがって、H型の平面構造を有する吊り天秤と違い、チェーンブロックの加重のかけ方により吊り天秤自体が大きく傾いたり前後左右に動くことがなく、揚重作業が容易になるだけでなく、安全を考慮して搬出入の経路の干渉物の撤去範囲を不必要に広げる必要がない。
【0015】
さらに、バウシャックルを必要としないので、高さ方向の寸法が小さくなり、上記の吊り天秤本体が大きく傾いたり前後左右に動くことがないという特徴と合わせて、搬出入の経路の干渉物の撤去範囲が小さくて済む。
【0016】
また、本発明は、前記吊り天秤本体が円筒形、あるいは、円柱形であり、前記主吊り部が当該吊り天秤本体を貫通させる穴を有する板状材を主体にすることを特徴とする請求項1記載の揚重用吊り天秤装置である。
【0017】
吊り天秤本体が円筒形、あるいは、円柱形であること、例えば、鋼管であることにより、H形鋼を使う場合に比べ、断面の縦横寸法が同じであれば強度的に有利である。さらに、その円筒形、あるいは、円柱形の吊り天秤本体を板状の主吊り部に設けた穴に通して支持することにより、主吊り部と吊り天秤本体の間に両者を回転可能に接続する構造を別途設けるよりも簡単で、バウシャックルを用いる場合に比べて高さ方向の寸法を小さくできる。
【0018】
吊り天秤本体を主吊りに対して回転可能に取り付けるといっても、チェーンブロックの加重のかけ方に従って、吊り天秤本体がある程度摺動するに過ぎないから、その取り付け部の構造は、板状の主吊り部に設けられた穴に吊り天秤本体を通した後、吊り天秤本体に主吊り部を両側から挟むように止め輪を設ける等、簡単なもので十分である。
【0019】
さらに、本発明は、前記吊りプレートに複数個設けられた係止点が、前記吊り天秤本体の回転軸中心を中心とする円弧上に、かつ、当該係止点相互に間隔を開けて配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の揚重用吊り天秤である。
【0020】
吊りプレートに設ける係止点の位置を、吊り天秤本体の回転軸を中心とする円弧上であって、かつ、係止点相互に間隔を開けた位置とすることにより、複数のチェーンブロックを同時に取り付けたさいに、その相互間の距離が大きく取れるのでチェーンブロック同士の干渉の可能性をさらに下げることができる。
【0021】
また、本発明は、前記吊りプレートに設けられた係止点の数が3個であり、前記回転軸中心を中心としてほぼ120度の間隔を開けて配置されていることを特徴とする請求項3の吊り天秤である。
【0022】
揚重作業中に2回以上にわたってチェーンブロックの掛け替えを行わなければならないような事態が生ずることがある。この様な場合に係止点が2個の場合には、2度目以降の掛け替えに利用できる係止点が、吊荷の吊り点に対し必ずしも適切な位置に残っていない場合もある。係止点を3個とすることにより、この様なケースでの対処が容易になる。
【0023】
また、それらの係止点を吊り天秤本体の回転軸中心を中心としてほぼ120度の間隔を開けて配置することにより、吊り天秤が回転していかなる角度にある場合にも係止点が垂直線上に並ぶことが無くなる。係止点同士が垂直線上に並んだ場合には、それら係止点に係合したチェーンブロック同士が干渉することが起こりうるが、ほぼ120度の間隔を開けた配置により避けることができる。
【0024】
さらに、本発明は、請求項1乃至請求項4記載の揚重用吊り天秤を用いて吊荷を揚重する方法である。
【0025】
この揚重方法を用いることにより、制約のある経路を通して吊荷を移送し、あるいは、移送元における吊り上げ時の吊荷の姿勢と移送先において降ろした際の吊荷の姿勢が異なる場合であっても、チェーンブロック同士の干渉を起こすことなく、また、各チェーンブロックの加重が作業の途中で大きく変化しても、吊り天秤自体が大きく傾いたり前後左右に動いたりすることなく安定した揚重作業ができる。さらに、吊り天秤自体の高さ方向の寸法が小さいので使い勝手が良く、搬出入の経路の干渉物の撤去範囲を少なくできる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明の揚重用吊り天秤装置及びそれを用いた揚重方法は、複数のチェーンブロックを掛け替えながら吊荷の姿勢を制御しつつ揚重するにあたり、チェーンブロック同士の干渉が無く、各チェーンブロックの加重が作業の途中で大きく変化しても吊り天秤自体が大きく傾いたり前後左右に動くことなく、安定した揚重作業ができ、かつ、吊り天秤自体の高さ方向の寸法が小さくて使い勝手が良く、搬出入の経路の干渉物の撤去範囲が小さいと言う効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の一形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明はかかる実施の形態には限定されず、本発明の範囲内でその具体的構造に種々の変更を加えて良いことは言うまでも無い。
【0028】
図1は、本発明に係る揚重用吊り天秤装置の実施例の正面図と側面図、図2はその組立説明図、図3はその斜視図である。
【0029】
吊り天秤本体1の両端に固定された吊りプレート2には、吊荷の吊り点からのスリングに契合する係止点3が複数も受けられている。本実施例は一つの吊りプレート2に係止点が3a、3b、3cの3個設けられているが、必要に応じ2個の場合や、4個、あるいは、それ以上の場合も考えられる。
【0030】
それぞれの吊りプレート2に複数の係止点3を設けることにより、複数のチェーンブロックをそれぞれ異なる係止点に係合させることができ、揚重作業中のチェーンブロックの干渉を避けることができる。
【0031】
吊りプレート2の形状は、円形、三角形、あるいは、多角形、等が考えられるが、チェーンブロックを係止点に係合させた際に、互いに干渉することがないように、係止点をなるべく離して配置できる形状であればよい。吊りプレートは溶接等によって吊り天秤本体1に固定され、2枚の吊りプレート2と吊り天秤本体1が一体となっている。
【0032】
吊り天秤本体1には、本実施例では鋼管を使用している。吊荷の荷重を支えられる部材であればI形鋼、H形鋼、あるいは、四角柱型等でも良いが、鋼管のような円筒形、あるいは円柱形にする方が強度的に有利である。
【0033】
吊り天秤本体1は、主吊り部4に対し回転可能に取り付けられている。この実施例では、図2に示すように、板状材でできた主吊り部4に揚重機器からのシャックルに契合する係止点4aと、吊り天秤本体1の鋼管の外径に合わせた穴4bを設け、その穴に鋼管を貫通させた後、主吊り部4を挟むように2個の止め輪5を嵌めて、止め輪5を吊り天秤本体1に溶接してある。
【0034】
主吊り部4に対し吊り天秤本体1を回転可能に取り付けるには、ベアリングを介するといった方法も考えられるが、本発明では、チェーンブロックの加重のかけ方に従って、吊り天秤本体1が主吊り部4に対してある程度摺動するに過ぎないから、この様な簡単な構造で十分である。構造が簡単なだけ高さ方向の寸法も小さくなって使い勝手が良くなる。また、本発明では、バウシャックルを必要としないので、その点からも高さ方向の寸法が小さくなる。
【0035】
吊りプレート2を吊り天秤本体1に固定し、吊り天秤本体1を主吊り部4に回転可能に取り付けることにより、各チェーンブロックの加重が作業の途中で大きく変化しても、加重の変化に応じて吊り天秤本体1が回転し、バランスの取れた位置で停止する。したがって吊り天秤自体が大きく傾いたり、前後左右に動くことなく、揚重作業が容易になり、搬出入の経路の干渉物の撤去範囲を不必要に拡大する必要がない。
【0036】
本実施例では、吊りプレート2に設けられた3個の係止点3a、3b、3cが、吊り天秤本体1の回転軸中心6を中心とする円弧上に、かつ、ほぼ120度の間隔を開けて配置されている。
【0037】
3個の係止点を設けることにより、1個の係止点、たとえば、図3の係止点3aに係合したチェーンブロック8a、8cに吊荷の荷重をかければ、吊り天秤本体1が回転して係止点3aが一番下に来て、係止点3b,3cは係止点3aを通る垂直線の左右に位置する形となり、左右いずれの方向に次のチェーンブロック8b,8dを用いようとしても、必ず空いている係止点が存在する。かつ、吊荷の荷重のかかっている係止点3aとは垂直線上に位置しないから、新しくかけたチェーンブロック8b、8dは係止点3aに係合するチェーンブロックと干渉することはない。
【0038】
係止点を3個とし、それを回転軸中心6を中心とする円弧上にほぼ120度の間隔を開けて配置することにより、この様なメリットがあるが、円弧状でなくても、また、等間隔でなくても、チェーンブロック同士が干渉しない間隔を開けて係止点3を設ければ、それなりの効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
吊荷を吊った状態でその姿勢を制御しながら揚重をする現場で広く活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る揚重用吊り天秤装置の実施例の正面図と側面図である。
【図2】その組立説明図である。
【図3】その斜視図である。
【図4】、
【図5】、
【図6】揚重の事例を示す説明図である。
【図7】バウシャックルを使う従来の揚重用吊り天秤の説明図である。
【図8】H型の平面形状を有する従来の揚重用吊り天秤装置の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 吊り天秤本体
2 吊りプレート
3、3a、3b、3c 係止点
4 主吊り部
4a 揚重機器に係合する係止点
4b 吊り天秤本体を通す穴
5 止め輪
6 吊り天秤本体の回転中心
7 シャックル
8a、8b、8c、8d チェーンブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚重機器のフックに係合する主吊り部と、当該主吊り部に対し回転可能に取り付けられた吊り天秤本体と、当該吊り天秤本体の両端に固定され、かつ、吊り上げ対象物(以下「吊荷」という。)の吊り部からのスリングに係合する係止点を各々が複数個有する吊りプレートとを有する揚重用吊り天秤。
【請求項2】
前記吊り天秤本体が円筒形、あるいは、円柱形であり、前記主吊り部が当該吊り天秤本体を貫通させる穴を有する板状材を主体にすることを特徴とする請求項1記載の揚重用吊り天秤装置。
【請求項3】
前記吊りプレートに複数個設けられた係止点が、前記吊り天秤本体の回転軸中心を中心とする円弧上に、かつ、当該係止点相互に間隔を開けて配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の揚重用吊り天秤装置。
【請求項4】
前記吊りプレートに設けられた係止点の数が3個であり、前記回転軸中心を中心としてほぼ120度の間隔を開けて配置されていることを特徴とする請求項3の吊り天秤。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4記載の揚重用吊り天秤を用いて吊荷を揚重する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−70370(P2010−70370A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242455(P2008−242455)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(593162361)日本建設工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】