説明

換気手段を備えたエアドーム

【課題】外気温の高い夏季などにおいて太陽光によって暖められた空気を通気孔から外部に効率的に逃がすとともに、換気用の通気孔から雨水や害虫、細かな塵や埃などの侵入を防止できるようにする。
【解決手段】送風ファン4から送り込まれる空気の内部圧力を受けた樹脂フィルム10をドーム型に保持する。この内部圧力を利用してエアドーム20の頂部に形成した複数の通気孔18からエアドーム20内にこもる熱を外部に逃がし、エアドーム20内を温度管理する。エアドーム2内は、送風ファン4により、大気圧より高い陽圧を保ち、かつ、通気孔18から抜ける空気圧によってエアドーム20内への雨水、害虫、細かな塵や埃などを遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風手段により送り込まれる空気により樹脂フィルムをドーム型に保持するエアドーム、特に、温室のような環境として種々の農作物を栽培する農業用施設に適した換気手段を備えたエアドームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から農作物を栽培する温室などの簡易施設としてビニールハウスが知られている。このようなビニールハウスは、例えば、特許文献1(特開2004−357583号)で示すように、骨組部材を蒲鉾型に組んだハウス枠をビニールで覆った構造が一般的である。また、特許文献2(特開特開2004−105132号)には、植物栽培工場のための建物構造として、建物の略南側面を構成するガラス窓側面と天井部及び略北側面を構成するドーム形壁面とを有し、ガラス窓側面は複数の柱と梁で支持される二重ガラス窓により構成され、ドーム形壁面はリブ付外鈑と断熱層と内側面を鏡面とした内張鈑からなる壁体で構成したものが提案されている。
【0003】
このような、農業用施設は、何れも屋根を支える骨組みに太陽光を通す素材(ビニール、ガラス)で覆う構造であるため、骨組みを組むなど、施工に手間がかかり、工期が延びるなどの問題があるとともに、施設が大型化すると屋根を支える支柱が必要となり、連続した広い作業空間を確保できず、機械化の妨げとなるばかりでなく、育成する農作物が部分的に支柱の影となるなど、農作物の育成にも悪影響を与える。そこで、例えば特許文献3(特開平5−184347号)や特許文献4(特開2004−357583号)で示すように、太陽光を通す素材から成る樹脂フィルムを送風手段により送り込まれる空気によりドーム型に保持するように構成したエアドームを農業用施設に転用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−357583号公報
【特許文献2】特開特開2004−105132号公報
【特許文献3】特開平5−184347号公報
【特許文献4】特開2004−357583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3や特許文献4で提案されるエアドームにおいて、農業用施設に転用する場合、栽培する農作物に適した温度となるように温度管理することが望ましい。特に、エアドームが太陽光を通す素材から成る樹脂フィルムから構成され、外気温が高い夏季などにおいて室温が上昇することから、内部にこもる熱をいかに効率的に外部に発散させるかが極めて重要となる。このような温度管理に関し、従来、室温を保つためには空調設備などや換気扇などを設けることが一般的に行われていたが、エアドームを構成する樹脂フィルに換気扇を装着することが困難であるとともに、換気部分から雨水や害虫あるは埃などが侵入するため、これらの対策も必要となる。また、空調設備などを設けた場合、ランニングコストが嵩んでしまうとともに、近年、地球温暖化の防止する目的で省エネ化による二酸化炭素の削減が求められており、空調設備などの大型設備は省エネ化の観点からも、不適である。
【0006】
本発明は上述した問題点に鑑みて成されたものであり、室温を保つための特別な空調設備を設けることなく、省エネ化を図り、かつ、内部にこもる熱を効率的に逃がすことが可能であるとともに、防水性、防虫性並びに防水性にも優れた換気手段を備えたエアドームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の換気手段を備えたエアドームは、送風手段により送り込まれる空気により可撓性を有する樹脂フィルムをドーム型に保持するエアドームにおいて、前記エアドームの頂部に多数の通気孔を有する換気用フィルムを配置するとともに、前記送風手段によりエアドーム内に供給される空気によってエアドーム内を陽圧に保つことによって通気孔から抜ける空気圧によって通気孔からの雨水や虫、塵挨などの侵入を防止するように構成したことを特徴とする。
【0008】
請求項2の換気手段を備えたエアドームは、前記樹脂フィルムが太陽光を透過する透光性素材によって構成され、該樹脂フィルムで農業用施設を覆うエアドームとして用いることを特徴とする。
【0009】
請求項3の換気手段を備えたエアドームは、前記樹脂フィルムを外装膜と内装膜からなる2重構造とし、かつ、その外装膜と内装膜との間に複数の空気層を形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項4の換気手段を備えたエアドームは、前記通気孔を有する換気用フィルムの内側に可撓性を有する開閉用フィルムを配置し、換気時には開閉用フィルムを開状態で保持するとともに、非換気時には前記開閉用フィルムをエアドームの内圧によって吸着させ、前記開閉用フィルムによって前記通気孔を塞いだ状態で保持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記構成により、送風手段から送り込まれる空気によって樹脂フィルムを膨らませて農業用施設を覆うエアドームとすることによって、施工性に優れるとともに、屋根を支える支柱も不要であり、支柱などによる影も発生しないため、効率よく農作物を栽培することができる。
【0012】
また、樹脂フィルムを構成する外装膜と内装膜との間に複数の空気層が形成され、この空気層による断熱効果によって、エアドーム内の温度管理が容易であるとともに、エアドームは、送風手段から送り込まれる空気の内部圧力を受けてドーム型に保持され、その内部圧力を利用してエアドームの頂部に配置した通気孔からエアドームの頂部にこもる熱、特に、外気温の高い夏季において太陽光によって暖められた空気を通気孔から外部へと効率的に逃がすことができる。
【0013】
しかも、エアドームの換気時において、通気孔から抜ける空気圧によって通気孔から内部に侵入する雨水や害虫、細かな塵や埃が遮断され、エアドームの防水性、防虫性、防塵性を高めることができるとともに、開閉用フィルムによって換気用フィルムを必要に応じて開閉制御することができ、例えば、夜間あるいは外気温が低い冬季において通気孔を閉じることによって、エアドームの降温を防ぐことができ、結果として効率よく農業用施設全体の温度を容易に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示すエアドームの一部を切り欠いた斜視図である。
【図2】同上、一部を拡大したエアドームの平面図である。
【図3】同上、樹脂フィルムの概略を示す外装膜の一部を切り欠いた斜視図である。
【図4】同上、エアドームの換気状態を示す概略説明図であり、図4(A)は、換気状態、図4(B)は非換気状態を示している。
【図5】同上、換気状態を示す換気フィルムの拡大断面図である。
【図6】同上、通気孔の開閉状態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を用いて本発明の一実施例について説明する。
【0016】
図1は、この発明に係るエアドームの一部を切り欠いた斜視図であり、同図において、1は農作物を栽培する農業用施設、2は農業用施設1の周囲に設けた作業用通路であり、その作業用通路2を取り囲むようにドームフレーム3が設けられている。このドームフレーム3の内側にドームの外殻を構成する樹脂フィルム10の周縁部分を配置し、ドームフレーム3の外側に設けた送風手段として複数の送風ファン4から送り込まれる空気により樹脂フィルム10を膨らませる。これにより、前記ドームフレーム3によって樹脂フィルム10の周縁が位置決めされ、かつ、樹脂フィルム10に設けた複数の放射状のロープ5によって樹脂フィルム10をドーム型に保持する。なお、ロープ5の末端は基礎あるいは設置面にアンカーなどによって固定され、農業用施設1を覆うエアドーム20を構成している。また、本実施例では、エアドーム20を水耕栽培による農業用施設1として用いており、養液を貯める円形状の水耕栽培水槽7の中央部に播種ユニット(図示せず)の供給エリア7Aを設けるとともに、水耕栽培水槽7の外周部に収穫エリア7Bを設け、作業用ブリッジ8を通って供給エリア7Aに播種ユニット7Aに播種ユニットを供給し、水耕栽培水槽7に浸した播種ユニットを円周方向にゆっくりと回転移送しながら漸次外周方向に移動させて、育成した植物を前記収穫エリア7Bへと送って最終的に収穫エリア7Bから農作物を収穫する。なお、図1において符号9はエアドーム20の出入り口である。
【0017】
前記樹脂フィルム10は、太陽光を透過する素材によって構成されるとともに、図3及び図4に示すように、外装膜11と内装膜12からなる2重構造とし、その外装膜11と内装膜12を例えば溶着などの適宜手段で部分的に貼り合わせて外装膜11と内装膜12との間に複数の空気層13を形成している。なお、前記外装膜11と内装膜12との貼り合せ部14は、断続的に形成されており、このように外装膜11と内装膜12を断続的に貼り合わせることによって各貼り合せ部14の間に位置して隣接する空気層13の間に連通部15が形成され、一部の空気層13に空気を供給することによって各連通部15を通って各空気層13に空気を供給され、樹脂フィルム10全体に渡って空気層13が形成される。
【0018】
17は多数の通気孔18を有する換気用フィルムであり、エアドーム20の頂部に設けられている。本実施例では例えば図2に示すように、換気用フィルム17に、4箇所の通気孔18群を分散させて形成しているが、エアドーム20の容積などに応じて通気孔18の開口面積や開口率などは適宜設定すればよい。このエアドーム20の頂部に設けた前記各通気孔18からエアドーム20内の空気を排気させることによって、特に、外気温の高い夏季において、エアドーム20内にこもる熱を効率的に排気させてエアドーム20内の温度上昇を抑える。さらに、図5に示すように、通気孔18から抜ける空気圧Fによって通気孔18から内部に侵入する雨水Mあるいは害虫、細かな塵や埃などを遮断してエアドーム20の防水性、防虫性、防塵性を高めている。すなわち、エアドーム20内は、送風ファン4から送り込まれる空気により前記通気孔18から抜ける空気量を想定して陽圧に保たれており、通気孔18から抜ける空気圧Fによってエアドーム20内への雨水M、害虫、細かな塵や埃などを遮断するようにしている。
【0019】
また、各換気用フィルム17の内面側には、可撓性を有する開閉用フィルム19が配置されている。この開閉用フィルム19の一端部が換気用フィルム17に溶着などして片持ち状に貼り合わせており、その自由端側には紐体19aが連結されている。この紐体19aを引っ張る(手動)ことによって、図6にて実線で示すように開閉用フィルム19を換気用フィルム17から強制的に引き離す。これにより、通気孔18が開口してエアドーム20の換気が成される。一方、紐体19aを緩めることによって、開閉用フィルム19は、通気孔18から抜ける空気圧Fによって、図6にて一点鎖線で示すように換気用フィルム17に吸着され、通気孔18が塞がれる。このように、紐体17aを操作することによって、通気孔18を必要に応じて開閉制御することができ、例えば、夜間あるいは外気温は低いと冬季において通気孔18を閉じることによって、エアドーム20の温度管理が容易となる。さらに、通気孔18を閉じた際、エアドーム20内の気密を保てるため、送風ファン4から送り込まれる空気量を減らして省エネ運転に移行する。この場合、送風ファン4の制御は、例えば、エアドーム20の内圧をセンサで検知して自動運転することも可能である。
【0020】
以上のように、本実施例においては、送風ファン4から送り込まれる空気によって樹脂フィルム10を膨らませて水耕栽培水槽7を覆うエアドーム20とすることによって、施工性に優れ、工期を大幅に短縮化することができるとともに、屋根を支える支柱も不要であるため、エアドーム20内に広い連続した空間を確保することができ、作業性にも優れるとともに、屋根全体が透光性を備えた樹脂フィルム10であるから、支柱による影も発生しないため、効率よく農作物を栽培することができる。
【0021】
また、樹脂フィルム10を構成する外装膜11と内装膜12との間に複数の空気層13が形成され、この空気層13による断熱効果によって、エアドーム20内の温度管理も容易である。さらに、エアドーム20は送風ファン4から送り込まれる空気の内部圧力を受けてドーム型に保持され、かつ、その内部圧力を利用してエアドーム20の頂部に配置した通気孔18からエアドーム20の頂部(上部)にこもる熱、特に、外気温の高い夏季において太陽光によって暖められて空気を通気孔18から外部に逃がして効率的に排気させることができる。このように、エアドーム20の形状を保つために必要な送風ファン4を利用してエアドーム20の換気を行うことができ、換気扇や空調設備といった特別なシステムも不要であり、極めて合理的な換気システムであるとともに、省エネ化にも付与できる。
【0022】
しかも、エアドーム20の換気時において、通気孔18から抜ける空気圧Fによって通気孔18から内部に侵入する雨水や害虫、細かな塵や埃が遮断され、エアドーム20の防水性、防虫性、防塵性を高めることができ、かつ、各換気用フィルム17の内面側に設けた開閉用フィルム19によって必要に応じて簡単に開閉制御することができる。これにより、例えば、夜間あるいは外気温が低い冬季において通気孔18を閉じることによって、エアドーム20の降温を防ぐことができ、結果として効率よく農業用施設1全体の温度を容易に管理することができる。また、その開閉用フィルム19の開閉は、送風ファン4から送り込まれる空気の内部圧力を利用するものであるから、省エネ化も達成できる。
【0023】
以上、本発明の一実施例について詳述したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、エアドーム20の形状や通気孔18の開口面積や開口率などは適宜選定すればよい。また、前記実施例では、農業用施設を覆うエアドームとして適用させた場合を示したが、農業用施設に限らず、園芸用施設、イベント用あるいは倉庫などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 農業用施設
4 送風ファン(送風手段)
7 水耕栽培水槽
10 樹脂フィルム
11 外装膜
12 内装膜
13 空気層
17 換気用フィルム
18 通気孔
19 開閉用フィルム
20 エアドーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風手段により送り込まれる空気により可撓性を有する樹脂フィルムをドーム型に保持するエアドームにおいて、前記エアドームの頂部に多数の通気孔を有する換気用フィルムを配置するとともに、前記送風手段によりエアドーム内に供給される空気によってエアドーム内を陽圧に保つことによって通気孔から抜ける空気圧によって通気孔からの雨水や虫、塵挨などの侵入を防止するように構成したことを特徴とする換気手段を備えたエアドーム。
【請求項2】
前記樹脂フィルムが太陽光を透過する透光性素材によって構成され、該樹脂フィルムで農業用施設を覆うエアドームとして用いることを特徴とする請求項1記載の換気手段を備えたエアドーム。
【請求項3】
前記樹脂フィルムを外装膜と内装膜からなる2重構造とし、かつ、その外装膜と内装膜との間に複数の空気層を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の換気手段を備えたエアドーム。
【請求項4】
前記通気孔を有する換気用フィルムの内側に可撓性を有する開閉用フィルムを配置し、換気時には開閉用フィルムを開状態で保持するとともに、非換気時には前記開閉用フィルムをエアドームの内圧によって吸着させ、前記開閉用フィルムによって前記通気孔を塞いだ状態で保持したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のエアドームの換気装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102550(P2012−102550A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252191(P2010−252191)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(510174174)
【出願人】(510298285)
【出願人】(399122147)AGCグリーンテック株式会社 (3)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】