説明

揮散性物質揮散調節材、揮散性物質揮散調節濾材、揮散性物質揮散制御方法および揮散性物質揮散制御装置

【課題】揮散性物質の放出の度合を制御して所定の時間帯にのみ揮散性物質を放出させることのできる揮散性物質揮散調節材、揮散性物質揮散調節濾材、揮散性物質揮散制御方法および揮散性物質揮散制御装置を提供しようとする。
【解決手段】揮散性物質を包接させたシクロデキストリンが水に混合された混合液を乾燥してなる揮散性物質揮散調節材であり、前記揮散性物質揮散調節材が濾材に担持された揮散性物質揮散調節濾材である。さらに、前記揮散性物質揮散調節材を、水を吸収した吸水状態と、乾燥により該水分が除去された乾燥状態とに、交互におく揮散性物質の揮散制御方法である。また、前記揮散性物質揮散調節材または前記揮散性物質揮散調節濾材と、前記揮散性物質揮散調節材に水を供給して前記揮散性物質揮散調節材を吸水させる給水手段と、吸水した前記揮散性物質揮散調節材を乾燥する乾燥手段とを備える揮散性物質の揮散制御装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリンに包接された香料等の揮散性のゲスト化合物を、所望の時間帯のみに放出させるように制御する方法およびこの制御に好適に用いられる揮散性物質揮散調節材に関する。
【背景技術】
【0002】
揮散性物質を長期にわたって揮散させる目的でシリカゲルに担持させることは従来から知られている。(例えば、特許文献1参照)また、シクロデキストリンに包接することも知られている。(例えば、特許文献2参照)さらには、中空状多孔質粒子に包接化合物を内包する方法も開示されている。(特許文献3参照)
【0003】
揮散性物質の放出の度合を制御して所定の時間帯にのみ揮散性物質を放出すれば、さらに長期にわたって揮散性物質をながもちさせ揮散させることができる。また、所定の時間帯にのみ揮散性物質を放出することにより他の時間帯に不要な放出を避けることもできる。
【0004】
しかし、上記文献に開示された技術は、このような放出の制御を目的とするものではなく、制御を実施できるものでもない。
【0005】
一方、リン酸カルシウムに芳香剤またはシクロでキストリンに包接させた芳香剤を担持させた、加熱放出型あるいは吸湿放出型の芳香剤が開示されている。(例えば、特許文献4参照)しかし、揮散性物質の種類によっては加熱により分解したり、加熱により放出速度が異常に上がって放出度合の制御が困難になることがあり、さらに、揮散性物質の種類によっては吸湿しただけでは放出されないものもある。また、室内全体を指定の時間帯に高湿に保つことには設備上あるいは室内環境上問題がある場合もある。あるいは通常の室内の湿度で吸湿する程度で揮散性物質を放出するのであれば、揮散性物質の放出の度合を制御して所定の時間帯にのみ揮散性物質を放出させる目的に使用することは難しい。
【特許文献1】特開2005−194308号公報
【特許文献2】特開2001−240892号公報
【特許文献3】特公平4−58344号公報
【特許文献4】特開平8−310933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、揮散性物質の放出の度合を制御して所定の時間帯にのみ揮散性物質を放出させることのできる揮散性物質揮散調節材、揮散性物質揮散調節濾材、揮散性物質揮散制御方法および揮散性物質揮散制御装置を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨とするところは、揮散性物質を包接させたシクロデキストリンが水に混合された混合液を乾燥してなる揮散性物質揮散調節材であることにある。
【0008】
前記揮散性物質揮散調節材は、コロイダルシリカ、ゼオライト、シリカゲルから選択される吸着剤を含有し得る。
【0009】
また、本発明の要旨とするところは、前記揮散性物質揮散調節材が濾材に担持された揮散性物質揮散調節濾材であることにある。
【0010】
さらに、本発明の要旨とするところは、マスクであって、該マスクの覆い部の少なくとも一部に前記揮散性物質揮散調節材が担持されたマスクであることにある。
【0011】
またさらに、本発明の要旨とするところは、前記揮散性物質揮散調節材を、水を吸収した吸水状態と、乾燥により該水分が除去された乾燥状態とに、交互におくことを特徴とする揮散性物質の揮散制御方法であることにある。
【0012】
また、本発明の要旨とするところは、前記揮散性物質揮散調節材または前記揮散性物質揮散調節濾材と、
指定された時間に前記揮散性物質揮散調節材に水を供給して前記揮散性物質揮散調節材を吸水させる給水手段と、
吸水した前記揮散性物質揮散調節材を指定された他の時間に乾燥する乾燥手段と
を備える揮散性物質の揮散制御装置であることにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、揮散性物質の放出の度合を制御して所定の時間帯にのみ揮散性物質を放出させることのできる揮散性物質揮散調節材、揮散性物質揮散調節濾材、揮散性物質揮散制御方法および揮散性物質揮散制御装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の揮散性物質揮散調節材は、揮散性物質を包接させたシクロデキストリンが水に混合された混合液を乾燥してなるものである。この揮散性物質揮散調節材は膜状、板状あるいは塊状に成形されてなる。
【0015】
例えば、シクロデキストリンに揮散性物質を包接させたのち、このシクロデキストリンを水に混合し、混合液となして、この混合液を底の平坦な容器に入れて静置した状態で乾燥し、水分を蒸発させて膜状の本発明の揮散性物質揮散調節材を得ることができる。
【0016】
あるいは、シクロデキストリンと揮散性物質とを水に投入して撹拌して混合液となして、この混合液を底の平坦な容器に入れて静置した状態で乾燥し、水分を蒸発させて膜状の本発明の揮散性物質揮散調節材を得ることができる。
【0017】
このような態様で得られた本発明の揮散性物質揮散調節材膜状物は構造が緻密で、5000倍の走査型電顕で観察しても表面が平滑である。
【0018】
このようにして得られた本発明の揮散性物質揮散調節材は、そのまま室内に置かれた状態では、たとえその室内が90%RH程度の高湿度状態であっても、その緻密な構造の故か揮散性物質を殆ど放出しない。少なくとも、人が嗅ぎ分けできる程度の量は放出されない。
【0019】
本発明の揮散性物質揮散調節材は水と接触させて吸水させることにより、吸水した状態の間は、少なくとも人が嗅ぎ分けできる程度の量の揮散性物質を継続的に放出する。
【0020】
吸水した揮散性物質揮散調節材は、風乾などにより乾燥させて吸水した水分を除去すると、再び揮散性物質を殆ど放出しない状態となる。
【0021】
本発明の揮散性物質揮散調節材は、揮散性物質揮散調節材中のシクロデキストリンに対して20重量%以上の水分を吸収しているときに揮散性物質が有効に揮散され、揮散性物質揮散調節材中のシクロデキストリンに対して20重量%未満の水分しか吸収していないときに、揮散性物質が、嗅いで判別できる程度には、揮散されない。なお、水分が揮散性物質揮散調節材中の特定の一部分だけに吸収されている場合でも、その部分のシクロデキストリンの重量に対して20重量%以上の水分が吸収されていれば揮散性物質が有効に揮散される。
【0022】
この揮散性物質を殆ど放出しない状態と、揮散性物質を継続的に放出する状態は可逆的に繰り返して実現することができる。即ち、本発明の揮散性物質揮散調節材を乾燥状態におくことにより揮散性物質を殆ど放出しない状態となし、この揮散性物質揮散調節材を水と接触させて吸水させて吸水した状態とすることにより、揮散性物質を継続的に徐放する状態とすることができる。このようにして、乾燥状態と吸水状態を交互に繰り返させることにより、揮散性物質を殆ど放出しない状態と、揮散性物質を継続的に放出する状態を実現させるという放出サイクルの持続性を得ることができる。
【0023】
本発明の揮散性物質揮散調節材は、この態様により、使用期間中の定められた時間帯に限って揮散性物質を揮散させるので、揮散性物質揮散調節材の使用期間を長くすることができる。
【0024】
揮散性物質として、人に精神的な快感や安息感を与える芳香剤を用いれば、望みの時間帯にのみその芳香の効果を発揮させることができる。
【0025】
揮散性物質として、虫や動物の忌避剤あるいはフェロモンを用いれば、望みの時間帯にのみ忌避効果あるいはフェロモン効果を発揮させることができる。
【0026】
本発明の揮散性物質揮散調節材に用いられて揮散を制御される揮散性物質のさらに具体的な例としては、嗅ぐことによりアロマテラピー効果、リラックス効果、安眠効果、リフレッシュ効果、昂揚感効果、沈静効果、集中力増大効果、抗菌効果、森林浴効果あるいは悪臭抑制効果がもたらされる芳香剤や香料が挙げられる。この香料としては、上述のcis−3−ヘキセノールやtrans−2−ヘキセナールが挙げられる。あるいはハーブ、バラ等各種の動植物から抽出される天然香料や精油が挙げられる。
【0027】
精油としては、イランイラン精油、ゼラニウム精油、ラベンダー精油、ジャスミン精油、カモミール精油、ラベンティン精油、ヒソップ精油、ローズ精油、ネロリ精油、シダーウッド精油、ユーカリ精油、サイプレス精油、ヒノキ精油、サンダルウッド精油、ジュニパー精油、ティートリー精油、パイン精油、パチュリ精油、オレンジ精油、グレープフルーツ精油、ライム精油、レモングラス精油、レモン精油、シトロネラ精油、ベルガモット精油、ペパーミント精油、ローズマリー精油、クラリセージ精油、クローブ精油、タイム精油、フェンネル精油、マジョラム精油、メリッサ精油、ローズウッド精油、バジル精油、バテ精油、シナモン精油などが挙げられる。
【0028】
また、香料としては、そのほかにも、例えば、プチグレイン、スペアミント、マンダリン、安息香、乳香、白檀、ラバンディン、スィートオレンジ、ジャーマンカモマイル、ローマンカモマイル、リンデン、カルダモン、ブラックペッパー、コリアンダー、アンジエリカルート、スターアニス、タラゴン、サッサフラス、ビターオレンジ、ダマクローズ、チャイナローズ、ブチバー、チュベローズ、バイオレットリーフ、アーモンドビター、バニラ、バルサム、ローレル、カンファー、ニアウリ、シダーリーフ、シナモンリーフ、カラマスルート、オリスルート、グリーンハーブ、フローラルなどが挙げられる。
【0029】
抗菌性を有する香料としては、ヒノキチオール、ヒバオイル、月桃オイル、ペニーロイヤル、レモングラス、レモン、スパイスクラベンダー、ナツメグ、オレガノ、セージ、ジンジャー、セーボリー、タイム、オールスパイス、シナモンバーク、クローブバッズ、カユブテ、パイン、ティートゥリー、ワサビ成分、シソ成分、タケ成分、茶成分、などが挙げられる。
【0030】
本発明の揮散性物質揮散調節材は、濾材等の担体に担持させて用いることができる。担体としては、紙、不織布、編織物、多孔質セラミック、発泡樹脂などの比表面積の大きいものが好ましい。
【0031】
本発明の揮散性物質揮散調節材に用いられる揮散性物質としては、アルコール系、アルデヒド系、エステル系、エーテル系、フローラル香料等が例示されるが、常温で揮散する物質で、シクロデキストリンに包接可能な物質であれば特に限定されない。
【0032】
本発明の揮散性物質揮散調節材に用いられ、この揮散性物質揮散調節材の主成分であるシクロデキストリンとしては、α、β、γあるいは分岐シクロデキストリンいずれのタイプのシクロデキストリンであってもよいが、包接させる揮散性物質によっては特定のタイプが好ましい場合がある。
【0033】
本発明の揮散性物質揮散調節材は、揮散性物質を包接させたシクロデキストリンにさらに吸着剤を添加して、これらが水に混合された混合液を乾燥してなるものであってもよい。吸着剤の添加は、揮散性物質揮散調節材の放出サイクルの持続性を向上させる。
【0034】
吸着剤が活性炭や疎水性ゼオライトのようにガス吸着性に優れている場合は、揮散性物質が吸着剤に吸着されて揮散性物質の揮散が阻害される。
コロイダルシリカは、若干ガス吸着性があるので、配合比を多くしないほうがよい。コロイダルシリカを吸着剤として用いる場合、この吸着剤の混合比率(揮散性物質を包接したシクロデキストリンと吸着剤との乾燥重量比)は1:0.05〜1:2であることが放出サイクルの持続性にとって好ましい。1:0.1〜1:0.5であることがさらに好ましい。親水性シリカゲルは吸着剤としてガス吸着性が少なく放出サイクルの持続性にとって好ましい。この場合、吸着剤の混合比率は1:0.3〜1:20であることが放出サイクルの持続性にとって好ましい。また、担体への添着性のうえで、コロイダルシリカとの併用が好ましい。この場合、揮散性物質を包接したシクロデキストリン、親水性シリカゲル、コロイダルシリカの配合比率(乾燥重量比)は1:0.3〜20:0.05〜2が好ましく、1:0.5〜2:0.2〜1がさらに好ましい。1:0.8〜1.2:0.4〜0.6がもっとも好ましい。
【0035】
本発明の揮散性物質揮散調節材は、そのまま揮散性物質揮散材として用いてもよいが、エアフィルタ用等の濾材に担持させて用いることができる。
【0036】
揮散性物質揮散調節材は、一時的に水に接触させることにより、吸水した状態とすることができる。揮散性物質揮散調節材を一時的に水に接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、噴霧器等の手段を用いて揮散性物質揮散調節材に水を噴霧することが挙げられる。あるいは、水の入った容器の蓋に相当する部分に揮散性物質揮散調節材を担持させた濾材を配置して、容器をときどきひっくり返す図2に示す態様の手段が挙げられる。図2(a)において、有底筒状の容器20に容量の半分ほどの水21を入れ、開口部22を塞ぐように濾材23を容器20の上縁部24に嵌め込んで固定する。次いで、図2(b)に示すように、容器20を底26が上になるように逆さまにし、水21を濾材23に接触させる。所定時間後に容器20の姿勢を底26が下になるように元に戻す。この態様により、揮散性物質揮散調節材を担持させた濾材を、従って、揮散性物質揮散調節材を一時的に水に接触させることができる。このような簡単な構造の揮散性物質の揮散制御装置により、揮散性物質の揮散を制御できる。
【0037】
さらには、揮散性物質揮散調節材を一時的に水に接触させる方法として、図3(a)に示すように、防水透湿性の微多孔フィルムを素材とするチューブからなる筒体50の両端を封止し、筒体50を軸方向を立直させたときの上半分ほどの周面に揮散性物質揮散調節材の層30を形成し、筒体50の内部に内容量の半分ほどの水52が封入させている器具40を用いる態様の手段が挙げられる。
【0038】
図3(b)に示すように、層30が下がわになるように筒体50をひっくりかえし、その姿勢を1〜数分維持して元の図3(a)に示す姿勢にもどす。筒体50がひっくりかえされている間に水52の水分が筒体50の周壁を構成するフィルムの微孔を通って層30に達し、層30を構成する揮散性物質揮散調節材が吸水する。これにより揮散性物質揮散調節材から揮散性物質が揮散する。揮散性物質の揮散は揮散性物質揮散調節材が自然乾燥により乾燥するまで継続される。揮散性物質揮散調節材が乾燥されたのち、所望の時期に筒体50をひっくりかえすことにより揮散性物質の揮散を再開できる。このような簡単な構造の揮散性物質の揮散制御装置により、揮散性物質の揮散を制御できる。
【0039】
防水透湿性の微多孔フィルムは、フッ素系樹脂や、ポリオレフィン系樹脂あるいはウレタン系樹脂等の素材を材料とする公知の微多孔フィルムである。
【0040】
筒体50の周壁に揮散性物質揮散調節材の層30を形成する方法としては、例えば、筒体50の周壁に実施例で用いられた混合液を塗布し乾燥する方法がある。
【0041】
揮散性物質の揮散を制御するためには、揮散性物質揮散調節材または、揮散性物質揮散調節材を担持した揮散性物質揮散調節濾材と、
指定された時間に前記揮散性物質揮散調節材に水を供給して吸水させる給水手段と、
吸水した前記揮散性物質揮散調節材を指定された他の時間に乾燥する乾燥手段と
を備える揮散性物質の揮散制御装置を使用することができる。
【0042】
給水手段としては、揮散性物質揮散調節材に水を供給できる手段であればとくに限定されないが、上述の噴霧に用いる噴霧器や、水滴を揮散性物質揮散調節材や揮散性物質揮散調節濾材に指定された時間に流下あるいは滴下させる手段、又は揮散性物質揮散調節材や揮散性物質揮散調節濾材を指定された時間に水に接触させて吸水させる手段などが例示される。あるいは、図2、図3に示すような態様で水を揮散性物質揮散調節材や揮散性物質揮散調節濾材に接触させて吸水させる給水手段が挙げられる。
【0043】
乾燥手段としては揮散性物質揮散調節材を乾燥できる手段であればとくに限定されず、一般の物体を乾燥する従来の乾燥手段を用いることができる。送風機を用いた風乾、自然放置による自然乾燥、加熱手段を用いた加熱乾燥が例示される。
【0044】
さらに、揮散性物質揮散調節材をプライベートに使用する場合は、吸水させる給水手段としては、人の呼気を利用してもよい。即ち、人が装着するマスクの覆い部を構成するガーゼのような覆い部材に揮散性物質揮散調節材を担持させて、マスクを装着し、呼気により覆い部材が濡れて揮散性物質揮散調節材がその濡れにより吸水する態様であってもよい。このような態様においては、揮散性物質として精神を安定させる香料や風邪の症状に起因するイライラを鎮める芳香剤が用いられてもよい。
【0045】
図4にこの態様に用いられるマスク120の構成を示す。図4において、マスク120は口や鼻を覆う覆い部121と掛け紐122から構成される。覆い部は上側で開口する袋状の基体124と、基体124の袋に収められるガーゼ126からなる。ガーゼ126に本発明の揮散性物質揮散調節材を実施例などに記載の方法で担持させ、基体124に収めた状態でマスクをかけて使用することにより、呼気により覆い部材が濡れて揮散性物質揮散調節材がその濡れにより吸水し、揮散性物質が揮散する。この揮散した揮散性物質を嗅ぐことにより、芳香剤の効果が発揮される。揮散性物質が吸い込まれることにより鎮咳等の薬効を発揮する物質であれば、このマスクを着用することによりその薬効を発揮させることができる。薬効を発揮する物質としては、花粉症の症状をやわらげ抗アレルギー効果が高いとされるアロマオイルであるカモミール成分や、メントールや、ラベンダー成分などが例示される。
【0046】
マスクに本発明の揮散性物質揮散調節材を担持させた態様については、実施例などに記載の方法に準拠して担持させてもよい。例えば、布からなる覆い部全体を揮散性物質揮散調節材を含む混合液に噴霧やロール塗布や浸漬し、搾り、次いで乾燥するなどして、覆い部全体にわたって揮散性物質揮散調節材を担持させてもよい。揮散性物質揮散調節材を担持させるマスクは市販のマスクであってもよい。
【0047】
本発明の揮散性物質揮散調節材はエアコンの室内ユニットに組み込んで揮散性物質の揮散制御装置として使用することができる。この態様の一例を図5に示す。図5において、エアコンの室内ユニット2は、不図示の室外ユニットからユニット間配管4を通って送られて来た冷媒で、冷房運転時には、室内空気からの吸熱を、暖房運転時には、室内空気への放熱を行う室内熱交換器6と、不図示の電動式膨張弁をケーシング5内に内蔵している構成となっている。なお、室外ユニットは、商用電源の電力を用いて冷媒を圧縮する圧縮機と、冷房運転時の冷媒から大気への放熱または、暖房運転時の大気から冷媒への吸熱を行う室外熱交換器と、冷房運転と暖房運転で、本空気調和装置の冷媒の循環方向を反転させる四方弁と、室外電動式膨張弁とを備えて構成されるものである。
【0048】
また、室内ユニット2は、室内熱交換器6への送風を行う送風機10やドレンパン12や不図示の温度センサーなどを内蔵している。
【0049】
ドレンパン12は冷房運転時の室内熱交換器に結露するドレン水や、暖房運転時の加湿器によるドレン水を受ける容器であり、ドレン水はドレンパン12に接続されている排出管14から機外に排出される。
【0050】
一方ドレンパン12の下方に、揮散性物質揮散調節材16を設置する設置部17が設けられ、ドレンパン12に受けられたドレン水が、ドレンパン12の底に接続されたドレン水供給管70を通って揮散性物質揮散調節材16に滴下し給水される。このような、ドレン水供給管70からなる給水手段75によって、揮散性物質揮散調節材16が吸水状態となり、揮散性物質が揮散される。
【0051】
送風機10により、室内空気がケーシング5に設けられた空気取り入れ孔90から室内熱交換器6を経て再び室内に排出される。このとき、空気取り入れ孔90からケーシング5内に吸引された空気の一部92が室内熱交換器6を迂回して設置部17を経由し室内熱交換器6の空気の出がわで、室内熱交換器6を通過した空気と合流して室内に排出される。
【0052】
この迂回した空気は設置部17で揮散性物質揮散調節材16に当たるかあるいは揮散性物質揮散調節材16の近傍を通過するが、このとき吸水状態の揮散性物質揮散調節材16から揮散する揮散性物質がこの迂回した空気で運ばれて室内に排出される。
【0053】
ドレン水はエアコンの運転時のみに発生する。従って、揮散性物質揮散調節材16はエアコンの運転時のみに吸水して揮散性物質を揮散し、エアコンの停止時には乾燥して揮散性物質をほとんど揮散しないので、揮散性物質揮散調節材の耐用期間を長くすることができる。
【0054】
エアコンに設けられた揮散性物質揮散調節材は、エアコンのフィルタの濾材に担持させてもよい。この場合は、その濾材にドレン水を定められた時間に給水する給水手段がエアコンに設けられる。給水は、噴霧、滴下あるいは流下で行なうことができる。
【0055】
エアコンに設けられた揮散性物質揮散調節材に給水される水は、別途設けた給水用タンクに貯留した水であってもよい。エアコン以外の空気清浄機や加湿器等の家庭用電気製品にも同様に組み込んで使用することができる。
【0056】
本発明の揮散性物質揮散調節材は乾燥状態で貯蔵あるいは保管し、使用時に例えば水に浸しておくなどして継続的に吸水状態にすることもできる。この場合は、貯蔵あるいは保管時に揮散性物質の揮散が殆ど生じないので、生産してから使用される間の経時による揮散性物質の揮散を抑制でき、貯蔵あるいは保管による失効が防止できる。
【0057】
このようなワンウエイの使用法には、例えば、図6に示すように、揮散性物質揮散調節材100が封入された袋体Aと水102が封入された袋体Bと、袋体Aの内部と袋体Bの内部とを導通させる導通路部104と、導通路部104の中間部に設けられ導通路部104を遮断する、破壊可能な遮断膜108とを備える揮散性物質揮散用具110が用いられてもよい。使用時に遮断膜108を破壊して袋体Aの内部と袋体Bの内部とを導通させて袋体A中の揮散性物質揮散調節材100を水102と接触させてその揮散性物質揮散調節材を吸水状態にする。袋体Aを揮散性物質透過性の微多孔膜(フィルム)で作ることにより、揮散性物質を外部に揮散させることができる。
【0058】
以下に本発明の態様と効果を示す実施例、実験例を述べる。
【0059】
実施例1(シクロデキストリンの種類および揮散性物質の種類)
試料:
シクロデキストリンとして、(1)横浜国際バイオ研究所社製:イソエリートP、(2)横浜国際バイオ研究所社製:デキシパールK−100、(3)シクロケム社製:αシクロデキストリン、(4)シクロケム社製:βシクロデキストリン(5)シクロケム社製:γシクロデキストリンを用い、揮散性物質として、(1)cis−3−ヘキセノール、(2)trans−2−ヘキセナール、(3)エチルブチレート、(4)フローラル香料を用いた。
揮散性物質揮散調節材作製操作:
各揮散性物質とシクロデキストリンと水とを1:4:25の重量比率で混合し、それぞれホモジナイザ(6000r.p.m)で30分間撹拌し混合液とした。この混合液を熱風乾燥機で150℃1時間乾燥して揮散性物質揮散調節材を得た。ただし、(1)、(2)は、スプレードライヤーで噴霧乾燥(入口温度160℃、排風温度80℃)して揮散性物質揮散調節材を得た。
官能検査:
得られた揮散性物質揮散調節材をそれぞれシャーレに0.1g入れて、A.揮散性物質揮散調節材に水を0.5cc加えた状態、このとき、水への溶解度の高いイソエリートPは透明、溶解度の低いβシクロデキストリンは、白濁状態であった。B.Aの状態の揮散性物質揮散調節材を100℃で約10分乾燥した状態の2つの状態を5回分繰り返して、それぞれの状態における揮散性物質の揮散状態を匂いを嗅ぐ官能検査で調べた。官能検査は点数法で行い、5:顕著に匂う、4:かなり匂う、3:匂う、2:かすかに匂う、1:かなり注意深く嗅いでようやく匂う、0:匂わない、で判定した結果である。官能検査の結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表中、項目1〜6回目の欄における、「n回目」の欄は、上記A.B.の2つの状態の繰り返しがn−1回繰り返された時点での、新たな上記A.B.の2つの状態の繰り返し時の官能検査の評点である。また、「水投入時」は上記水を0.5cc加えた時点での官能検査の評点であり、乾燥後は、その時点から上記乾燥を行なった後の官能検査の評点である。
【0062】
表1より、アルコール系の揮散性物質であるcis−3−ヘキセノールと、アルデヒド系のtrans−2−ヘキセナールについては、α、β、γいずれのタイプのシクロデキストリンとの組み合わせにおいても、吸水状態で揮散性物質を揮散させ、乾燥状態で揮散しないという現象を少なくとも6回繰り返し、この繰り返しの性能にすぐれるという結果が得られた。
【0063】
エステル系のエチルブチレートについては、γシクロデキストリンとの組み合わせにおいて、この繰り返しの性能にすぐれるという結果が得られた。αシクロデキストリンやβシクロデキストリンとの組み合わせにおいては、吸水状態で揮散性物質を揮散させ、乾燥状態で揮散しないという性能が、第3回の繰り返しでほぼなくなってしまうという結果であった。
【0064】
フローラルについては、α、β、γいずれのタイプのシクロデキストリンとの組み合わせにおいても、この繰り返しの性能にすぐれるという結果が得られた。
【0065】
実験例1(吸着剤)
試料:
シクロデキストリンとして、(1)横浜国際バイオ研究所社製:イソエリートP、(2)横浜国際バイオ研究所社製:デキシパールK−100を用いた。揮散性物質として、cis−3−ヘキセノールを用いた。さらに、吸着剤として(1)コロイダルシリカ(ST−O):日産化学工業社製、(2)コロイダルシリカ(ST−C):日産化学工業社製、(3)親水性ゼオライト:水澤化学工業社製、(4)塩化カルシウム(5)塩化リチウム、(6)親水性シリカゲル:富士シリシア化学社製を用いた。
揮散性物質揮散調節材作製操作:
揮散性物質とシクロデキストリンと水とを1:4:25の重量比率で混合し、ホモジナイザ(6000r.p.m)で30分間撹拌し混合液とした。スプレードライヤーで噴霧乾燥(入口温度160℃、排風温度80℃)させた。これと各吸着剤をそれぞれ水と混合し、この混合液を100℃10分間乾燥して揮散性物質揮散調節材を得た。吸着剤の混合比率は、揮散性物質を包接したシクロデキストリンと吸着剤との乾燥重量比で1:1であった。吸着剤を混合した後の混合液の分散性は、いずれの吸着剤を用いた場合も、吸着剤を混合しない混合液と同様に、良好であった。
官能検査:
得られた各揮散性物質揮散調節材をそれぞれシャーレに0.1g入れて、A.揮散性物質揮散調節材に水を0.5cc加えた状態、B.Aの状態の揮散性物質揮散調節材を100℃で約10分乾燥した状態の2つの状態を5回分繰り返して、それぞれの状態における揮散性物質の揮散状態を匂いを嗅ぐ官能検査で調べた。官能検査は点数法で行い、5:顕著に匂う、4:かなり匂う、3:匂う、2:かすかに匂う、1:かなり注意深く嗅いでようやく匂う、0:匂わない、で判定した結果である。官能検査の結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表中、項目1〜5回目の欄における、「n回目」の欄の意味は表1におけるものと同様である。表2より、吸着剤がコロイダルシリカ(ST−O)、ゼオライトあるいはシリカゲルである場合、吸着剤を用いない揮散性物質揮散調節材に比べて、吸水状態で揮散性物質を揮散させ乾燥状態で嗅いで判別できる程度には揮散しない繰り返しの性能にすぐれるという結果が得られた。吸着湿剤がコロイダルシリカ(ST−C)である場合は、この繰り返しの性能が吸着剤を用いない揮散性物質揮散調節材に比べて劣るという結果が得られた。吸着剤が塩化カルシウムあるいは塩化リチウムである場合は、この繰り返しの性能が吸着剤を用いない揮散性物質揮散調節材に比べてさらに劣るという結果であった。
【0068】
この理由としては、塩化カルシウムあるいは塩化リチウムにより揮散性物質揮散調節材のpH値が高くなりシクロデキストリンにダメージを与えることが考えられる。コロイダルシリカ(ST−O)が酸性であるのに対してコロイダルシリカ(ST−C)はアルカリ性であり、コロイダルシリカ(ST−C)についても同様に揮散性物質揮散調節材のpH値が高くなることがこの繰り返しの性能が劣る理由として考えられる。
【0069】
実施例2(吸着剤)
試料:
シクロデキストリンとして、横浜国際バイオ研究所社製:デキシパールK−100を用いた。揮散性物質として、cis−3−ヘキセノールを用いた。さらに、吸着剤として(1)活性炭:クラレケミカル社製、(2)抗菌性ゼオライト:シナネンゼオミック社製、(3)疎水性ゼオライト:ユニオン昭和社製、(4)コロイダルシリカ(ST−O)、(5)親水性シリカゲル:富士シリシア化学社製、を用いた。
揮散性物質揮散調節材作製操作:
揮散性物質とシクロデキストリンと水とを1:4:25の重量比率で混合し、ホモジナイザ(6000r.p.m)で30分間撹拌し混合液とした。スプレードライヤーで噴霧乾燥(入口温度160℃、排風温度80℃)させた。これと各吸着剤をそれぞれ水と混合し、この混合液を100℃10分間乾燥して揮散性物質揮散調節材を得た。
官能検査:
実施例2−1と同様にして行なった。官能検査の結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表中、項目1〜5回目の欄における、「n回目」の欄の意味は表1におけるものと同様である。「固形分比」は、重量比である。表3より、吸着剤が活性炭や疎水性ゼオライトのようにガス吸着性に優れている場合は、揮散性物質が吸着剤に吸着されて揮散性物質の揮散が阻害される。コロイダルシリカは、若干ガス吸着性があるので、配合比を多くしないほうがよいことがわかった。
【0072】
実施例3(水分付与量)
試料:
シクロデキストリンとして、(1)横浜国際バイオ研究所社製:イソエリートP、(2)横浜国際バイオ研究所社製:デキシパールK−100を用いた。揮散性物質として、cis−3−ヘキセノールを用いた。吸着剤としてコロイダルシリカST−Oを用いた。
また、濾材として、(1)吸水紙使いハニカム:30×30×10(mm)[縦×横×厚さ]、(2)不織布(東洋紡績社製:超吸水性アクリル不織布、商品名:ランシール):50×30×5(mm)[縦×横×厚さ]、(3)スパンレース不織布使い片面ダンボール構造物:φ35×3(mm)[直径×厚み]、(4)フッ素系樹脂使い透湿膜中空管:φ6×200(mm)[直径×長さ]を用いた。
実施例3−1
揮散性物質揮散調節材作製操作:
揮散性物質とデキシパールK−100と水とを1:4:25の重量比率で混合し、ホモジナイザ(6000r.p.m)で30分間撹拌し混合液とした。スプレードライヤーで噴霧乾燥(入口温度160℃、排風温度80℃)させた。これと各吸着剤をそれぞれ水と混合し、この混合液を100℃10分間乾燥させた。これと水の混合液を濾材(1)に含浸した後熱風乾燥機にて100℃で約20分乾燥して揮散性物質揮散調節材が濾材に担持されたものを得た。濾材(1)の重量は1.31g、濾材(1)に添加された、揮散性物質を包接したシクロデキストリンの総重量(揮散性物質+シクロデキストリン)[イ]は0.26gである。「揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(1)」の乾燥重量は1.57gであった。
官能検査:
最初に、揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(1)に水を噴霧した。次いで図1に示すように濾材(1)の片面4に向けてファンにより空気を面風速0.5m/Sで送風し、濾材(1)を貫通させる。なお、矢印Yは濾材(1)の厚さ方向であり、片面4はその厚さ方向と直交している。ハニカム構造の導通管路6は厚さ方向に形成されている。
【0073】
送風は継続して行い、送風開始後から所定時間後ごとに揮散性物質揮散調節材に吸収されている水分量を計測するとともに、その時点で濾材(1)を貫通した空気の匂いと、濾材(1)を取り外して顔に近づけて嗅いだときの匂いを官能検査で調べた。官能検査は点数法で行い、点数の基準は実施例1におけると同様である。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
「水分量」は、「揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(1)」に含まれている水分の総重量[ロ]であり、計測時の「揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(1)の総重量」から、乾燥された「揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(1)」の総重量を引いて求められる。「CDに対する水分比」は、[イ]に対する、[ロ]の重量比率である。時間は送風開始時からの時間である。
【0076】
実施例3−2
揮散性物質揮散調節材作製操作:
実施例3−1で作製した揮散性物質を包接したシクロデキストリンにコロイダルシリカST−Oを加えて混合液とした。揮散性物質を包接したシクロデキストリンとコロイダルシリカST−Oとの混合比率は乾燥重量比で1:0.5であった。濾材(1)にこの混合液を含浸した後、熱風乾燥機にて100℃で約20分乾燥して揮散性物質揮散調節材が濾材に担持されたものを得た。濾材(1)の重量は1.49g、濾材(2)に添加された揮散性物質を包接したシクロデキストリンの総重量(揮散性物質+シクロデキストリン)[イ]は0.34gである。「揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(1)」の乾燥重量は1.83gであった。
官能検査:
最初に、揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(1)に水を噴霧した。次いで実施例3−1に準じて官能検査を行なった。結果を表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
実施例3−3
揮散性物質揮散調節材作製操作:
揮散性物質とイソエリートPと水とを1:4:25の重量比率で混合し、ホモジナイザ(6000r.p.m)で30分間撹拌し混合液とした。スプレードライヤーで噴霧乾燥(入口温度160℃、排風温度80℃)させた。これと各吸着剤をそれぞれ水と混合し、この混合液を100℃10分間乾燥させた。これと水の混合液を濾材(2)にこの混合液を含浸した後熱風乾燥機にて100℃で約20分乾燥して揮散性物質揮散調節材が濾材に担持されたものを得た。濾材(2)の重量は0.14g、濾材(2)に添加された揮散性物質を包接したシクロデキストリンの総重量(揮散性物質+シクロデキストリン)[イ]は0.21gである。「揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(2)」の乾燥重量は0.35gであった。
官能検査:
最初に、揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(2)に水を噴霧した。次いで実施例3−1に準じて官能検査を行なった。ただし、送風の面風速は1.0m/Sであった。結果を表6に示す。
【0079】
【表6】

【0080】
実施例3−4
揮散性物質揮散調節材作製操作:
濾材(2)に実施例3−3に用いたものと同様の「揮散性物質揮散調節材を担持させた濾材(2)」を用いた。
官能検査:
最初に、揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(2)に水を噴霧した。次いで実施例3−3に準じて官能検査を行なった。結果を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
実施例3−5
揮散性物質揮散調節材作製操作:
実施例3−3で作製した揮散性物質を包接したシクロデキストリンを水に混合し、濾材(3)に含浸した後、熱風乾燥機にて100℃で約20分乾燥して揮散性物質揮散調節材が濾材に担持されたものを得た。濾材(3)はこの担持処理後略35mmφの円形に切り出した。この円形の濾材(3)の重量は0.26g、円形の濾材(3)に添加された揮散性物質を包接したシクロデキストリンの総重量(揮散性物質+シクロデキストリン)[イ]は0.10gである。「揮散性物質揮散調節材を担持した円形の濾材(3)」の乾燥重量は0.36gであった。
官能検査:
図2(a)に示す容器20を用い、内径35mmφ、高さ50mmの有底円筒状の容器20に容量の半分ほどの水21を入れ、開口部22を塞ぐようにこの円形の濾材(3)を容器20の上縁部24に嵌め込んで固定した。次いで、図2(b)に示すように、容器20を底26が上になるように逆さまにし、水21を濾材(3)に接触させた。数秒後に容器20の姿勢を底26が下になるように元に戻した。
【0083】
その後、所定時間後ごとに揮散性物質揮散調節材に吸収されている水分量を計測するとともに、その時点で濾材(3)を顔に近づけて嗅いだときの匂いを官能検査で調べた。官能検査は点数法で行い、点数の基準は実施例1におけると同様である。結果を表8に示す。
時間は最初の水分量計測時からの時間である。
【0084】
【表8】

【0085】
実施例3により、本発明の揮散性物質揮散調節材は、濾材に担持させて用いたときに、濾材の種類にもよるが、揮散性物質揮散調節材中のシクロデキストリンに対して略20〜30重量%以上の水分を吸収しているときに揮散性物質が揮散され、揮散性物質揮散調節材中のシクロデキストリンに対して略20〜30重量%未満の水分しか吸収していないときに、揮散性物質が、嗅いで判別できる程度には、揮散されないことがわかった。
【0086】
揮散性物質揮散調節材中のシクロデキストリンが充分に吸水した状態から、この略20〜30重量%未満の水分しか吸収していない状態になるためには、風乾あるいは自然乾燥によれば、乾燥条件にもよるが10〜240分程度を要するので、この時間中に揮散性物質を揮散させ、乾燥後はほとんど揮散させないという、揮散状態の制御が可能である。乾燥後ふたたび揮散性物質を揮散させるには、揮散性物質揮散調節材を水に接触させて揮散性物質揮散調節材に吸水させればよい。
【0087】
実施例4(担体に添着した揮散性物質揮散調節材の放出サイクルの持続性)
試料:
シクロデキストリンとして、横浜国際バイオ研究所社製:デキシパールK−100を用いた。揮散性物質として、cis−3−ヘキセノールを用いた。吸湿剤としてコロイダルシリカ(ST−O)および親水性シリカゲルを用いた。また、濾材として、吸水紙使いハニカム:30×30×10(mm)[縦×横×厚さ]を用いた。
揮散性物質揮散調節材作製操作:
CASE−1:揮散性物質とデキシパールK−100と水とを1:4:25の重量比率で混合し、ホモジナイザ(6000r.p.m)で30分間撹拌し混合液とした。スプレードライヤーで噴霧乾燥(入口温度160℃、排風温度80℃)させた。これと各吸着剤をそれぞれ水と混合し、この混合液を100℃10分間乾燥させた。これと水の混合液を濾材に含浸した後、熱風乾燥機にて100℃で約20分乾燥して揮散性物質揮散調節材が濾材に担持されたものを得た。濾材の重量は3.5g、濾材に添加されたシクロデキストリンの総重量は0.84gである。
CASE−2:揮散性物質とデキシパールK−100と水とを1:4:25の重量比率で混合し、ホモジナイザ(6000r.p.m)で30分間撹拌し混合液とした。スプレードライヤーで噴霧乾燥(入口温度160℃、排風温度80℃)させた。これと各吸着剤をそれぞれ水と混合し、この混合液を100℃10分間乾燥させた。これと親水性シリカゲルとコロイダルシリカおよび水を混合した。液中のデキシパールK−100、親水性シリカゲル、コロイダルシリカの固形分の重量比は1:1:0.5であった。濾材にこの混合液を含浸した後、熱風乾燥機にて100℃で約20分乾燥して揮散性物質揮散調節材が濾材に担持されたものを得た。濾材の重量は3.5g、濾材に添加された、揮散性物質を包接したシクロデキストリンの総重量(揮散性物質+シクロデキストリン)は0.94gである。
官能検査:
最初に、揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(CASE−1、2)にそれぞれ水を噴霧した。このときの「水分量」(「揮散性物質揮散調節材を担持した濾材(CASE−1、2)に含まれている水分の重量」は、両者とも2.4gであった。この水分量は、濾材(CASE−1)に添加されたシクロデキストリンの総重量の約290%、濾材(CASE−2)に添加されたシクロデキストリンの総重量の約260%に相当する。
【0088】
水を噴霧されたこの各濾材を容量50リットルの容器に入れて、密閉状態の容器中でファンで風速0.5m/Sの風を30分間連続して当てた。この風を当てている期間中の所定時間ごとに容器中の空気をサンプリングし、ガスクロマトグラフによりcis−3−ヘキセノール濃度を測定した。30分間経過後、容器中の空気を新鮮なものに入れ替えて再び濾材に水を噴霧し、容器を密閉し、送風と測定を同じく30分間行なった。この一連の操作を5回繰り返した。
【0089】
結果を表9に示す。なお、表9における時間はこの一連の操作の開始時点からの経過時間であり、濃度測定値の単位はppmである。
【0090】
【表9】

【0091】
CASE2がCASE1よりも揮散性物質の揮散量が多い。また、CASE1は、4、5サイクル目において5分以降容器中の揮散性物質濃度上昇が鈍化しており、揮散性物質の揮散がほとんどなくなるのに対して、CASE2では、送風開始から20分間は揮散性物質の揮散が認められた。
【0092】
実施例5−1
実施例3−1で作製した揮散性物質を包接したシクロデキストリンと水との混合液を図4に示す構成のマスク120のガーゼ126に含浸し、搾ったのち熱風乾燥機で100℃20分で乾燥した。ガーゼ126に担持されたシクロデキストリンの量は0.15gであった。このガーゼを基体124に収めてマスク120を装着した。装着後呼気によりガーゼを基体124が濡れた状態になると、充分揮散性物質の匂いを感じ取ることができた。マスクを外して放置し自然乾燥後は匂いを感じ取ることができなかった。
【0093】
実施例5−2
実施例3−1で作製した揮散性物質を包接したシクロデキストリンと水との混合液を図7に示す構成の不織布製マスク130の覆い部132の外側にロール塗布し、熱風乾燥機で100℃20分で乾燥した。覆い部132に担持されたシクロデキストリンの量は0.3gであった。このマスクを装着した。装着後呼気によりガーゼを基体124が濡れた状態になると、充分揮散性物質の匂いを感じ取ることができた。マスクを外して放置し自然乾燥後は匂いを感じ取ることができなかった。
【0094】
その他、本発明は、主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の揮散性物質揮散調節濾材に送風する操作の態様を説明する側面模式図である。
【図2】本発明の揮散性物質揮散調節濾材に一時的に水に接触させて揮散性物質揮散調節材を吸水させる操作の態様の一例を説明する模式図である。
【図3】本発明の揮散性物質揮散調節材に一時的に水に接触させてを吸水させる操作の態様の一例を説明する模式図である。
【図4】本発明の揮散性物質揮散調節材を担持させたマスクの構成の一例を示す斜視模式図である。
【図5】本発明の揮散性物質揮散調節材を組み込んだエアコンの室内ユニットの構造の一例を示す構造模式図である。
【図6】本発明の揮散性物質揮散調節材を封入して保管する袋体の構成の一例を示す断面模式図である。
【図7】本発明の揮散性物質揮散調節材を担持させたマスクの構成の他の一例を示す斜視模式図である。
【符号の説明】
【0096】
2:室内ユニット
4:ユニット間配管
6:室内熱交換器
5:ケーシング
10:送風機
12:ドレンパン
14:排出管
16:揮散性物質揮散調節材
17:設置部
70:ドレン水供給管
75:給水手段
90:空気取り入れ孔
100:揮散性物質揮散調節材
20:容器
21、、52、102:水
22:開口部
23:濾材
26:底
30:層
40:器具
50:筒体
104:導通路部
108:遮断膜
110:揮散性物質揮散用具
120、130:マスク
121、132:覆い部
124:基体
126:ガーゼ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮散性物質を包接させたシクロデキストリンが水に混合された混合液を乾燥してなる揮散性物質揮散調節材。
【請求項2】
コロイダルシリカ、ゼオライト、シリカゲルから選択される吸着剤を含有する請求項1に記載の揮散性物質揮散調節材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の揮散性物質揮散調節材が濾材に担持された揮散性物質揮散調節濾材。
【請求項4】
マスクであって、該マスクの覆い部の少なくとも一部に請求項1又は2に記載の揮散性物質揮散調節材が担持されたマスク。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の揮散性物質揮散調節材を、水を吸収した吸水状態と、乾燥により該水分が除去された乾燥状態とに、交互におくことを特徴とする揮散性物質の揮散制御方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の揮散性物質揮散調節材または請求項3に記載の揮散性物質揮散調節濾材と、
指定された時間に前記揮散性物質揮散調節材に水を供給して前記揮散性物質揮散調節材を吸水させる給水手段と、
吸水した前記揮散性物質揮散調節材を指定された他の時間に乾燥する乾燥手段と
を備える揮散性物質の揮散制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−252777(P2007−252777A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83588(P2006−83588)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(504232446)
【出願人】(506100990)日本トーカンパッケージ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】