説明

揮散性物質放出器

【課題】揮散面積を大きくするとともに、容器内に充填する揮散性物質保持含水ゲルの充填量を多くすることができ、しかも装飾性および揮散性物質放出性に優れた揮散性物質放出器を提供することである。
【解決手段】揮散性物質放出器1は、開口部2を有する透明な容器3の底部4に、上面が平面になるように充填した透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層5が形成され、この一体充填ゲル層5の上に透明な揮散性物質保持含水ゲルからなる塊状ゲル6、6・・・を堆積して塊状ゲル堆積層7が形成され、この状態で容器3の開口部2がシール部材8で密封されており、シール部材8を剥がして使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮散性物質を徐々に放出するための揮散性物質放出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香剤、消臭剤、抗菌剤等の揮散性物質を保持する含水ゲルを容器内に収容し、容器を部分的に開口させて、液体または流動性ゲル状物に含まれる揮散性物質を徐々に放出するようにした揮散性物質放出器がトイレット用等に使用されている。
【0003】
特許文献1(特開2006−239000)には、開口部を有する透明な容器内に、揮散性物質を保持する形状保持性の透明ゼラチン水性ゲル成形体からなる一体充填ゲル層を形成し、開口部を通して揮散性物質を放出させる揮散性物質放出器が提案されている。この揮散性物質放出器では、揮散面積を大きくし、かつ装飾性を大きくするために、一体充填ゲル層の表面側から容器に達しない凹部を形成したものが示されている。このような揮散性物質放出器は、容器の側面または底部から見る場合に装飾性が優れるため、開口部を下にした状態での使用が予定されている。しかしこの揮散性物質放出器では、揮散面積を大きくするために一体充填ゲル層の表面積を大きくすると、複雑な形状になるとともに、ゲルの容積が減少し、揮散性物質の保持量が少なくなり、揮散性物質放出の持続時間が短くなるという問題点がある。
【0004】
特許文献2(特開2003−253246)には、開口部を有する透明な容器内に、形状保持性ゲルからなる塊状ゲルを堆積させたもの、または形状保持性ゲルからなる一体充填ゲル層中に塊状ゲルを分散させたものが示されている。しかし透明な容器内に塊状ゲルをランダムに堆積させたものは、装飾性に劣るとともに、表面積が大きいため貯蔵中にゲルから水分が蒸発して容器内面に結露し、ゲルが非吸湿性の場合、結露水が容器の底部に溜まり、装飾性をさらに害するという問題点がある。一体充填ゲル層中に塊状ゲルを分散させたものは、揮散性物質の揮散面は一体充填ゲル層表面になるから、揮散面は小さくなるという問題点がある。
【特許文献1】特開2006−239000
【特許文献2】特開2003−253246
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、揮散面積を大きくするとともに、容器内に充填する揮散性物質保持含水ゲルの充填量を多くすることができ、しかも装飾性および揮散性物質放出性に優れた揮散性物質放出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は次の揮散性物質放出器である。
(1) 開口部を有する透明な容器と、
容器の底部に形成された透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層と、
一体充填ゲル層の上に堆積した透明な揮散性物質保持含水ゲルの塊状ゲル堆積層と、
容器の開口部を密封するシール部材と
を備えていることを特徴とする揮散性物質放出器。
(2) 一体充填ゲル層および/または塊状ゲルが着色透明ゲルからなる上記(1)記載の揮散性物質放出器。
(3) 一体充填ゲル層および/または塊状ゲルが形状保持性ゲルからなる上記(1)または(2)記載の揮散性物質放出器。
(4) 一体充填ゲル層および/または塊状ゲルがゼラチンゲル、カラギーナンゲル、ポリアクリル酸ゲルから選ばれるものである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の揮散性物質放出器。
【0007】
本発明において、揮散性物質を保持する含水ゲルを充填する容器は、開口部を有する透明な容器であり、硬質透明プラスチック、ガラス等の形状保持性を有する透明材料から、開口部を有する容器状に形成される。透明材料は、外部から透視できる程度の透明性を有し、無色または着色透明のいずれでもよい。容器は開口部側の反対側を底部として自立できる構造のものが好ましい。容器の形状は、球状、筒状、瓶状など、内容積が大きく、装飾性の高いものが使用できるが、底部は球状に近い曲面状のものが好ましい。
【0008】
本発明において、含水ゲルに保持される揮散性物質は、含水ゲルから揮散により大気中に放出される物質であり、揮散性の芳香剤、香料、消臭剤、防虫成分、薬剤成分などが挙げられる。これらの揮発成分は、水溶性でも油溶性でもよいが、保持媒体である含水ゲル中に均一に溶解ないし分散して透明なゲル成形体を形成し、容易にゲルの表面に浸透して揮散するものが好ましい。
【0009】
このような揮散性物質を保持する含水ゲルは、ゼラチンゲル、カラギーナンゲル、ポリアクリル酸ゲル等のゲル形成有機物質中に水を含むゲルであり、容器の底部に形成された透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層と、一体充填ゲル層の上に堆積する透明な揮散性物質保持含水ゲルの塊状ゲル堆積層とがある。このような含水ゲルとしては、着色透明ゲルが好ましく、色は装飾性に応じて任意に選択できる。一体充填ゲル層と塊状ゲルとは同色でも異色でもよく、一体充填ゲル層および塊状ゲルもそれぞれ部分的に異色でもよい。
【0010】
上記の含水ゲルとしては、形状保持性ゲルからなるものが好ましい。ここで形状保持性ゲルとは、静止状態で含水ゲルの成形体が流動化せず、一定の形状を保持するものをいう。このような形状保持性ゲルとしては、ゼラチンゲル、カラギーナンゲル、ポリアクリル酸ゲルなどからなるものがあり、材質は限定されないが、ゼラチンゲルが好ましい。また含水ゲルとしては、吸湿性のもの、非吸湿性のもののいずれでもよいが、少なくとも一方、特に一体充填ゲル層は吸湿性のものが好ましい。
【0011】
一体充填ゲル層は、容器の底部に形成された含水ゲルの一体充填層であり、例えば容器の底部にゼラチン等のゲル形成材料を導入し、上面が平面になるように堆積させた状態でゲル化して一体充填層を形成したものなどがあげられる。一体充填ゲル層は、容器の底部に密着するように形成されたものであればよく、上面は平面でなくてもよいが、上面が平面になるように形成されていれば、光の屈折、反射による装飾性が高く、また分離水が溜まる場合でも、違和感がないので好ましい。
【0012】
一体充填ゲル層の上に堆積する塊状ゲルは、上記の含水ゲルを塊状に成形したものであり、このような塊状ゲルを多数一体充填ゲル層の上に堆積させて、塊状ゲル堆積層を形成する。塊状ゲルの形状、大きさは限定されないが、装飾性、揮発性、製造の容易性などを考慮して、必要な表面形状、表面積となるように決められる。形状としては、クリスタルカットのような多表面形状が好ましい。大きさは長径が、一般的には5〜100mm、好ましくは10〜50mm程度とすることができる。
【0013】
本発明の揮散性物質放出器は、開口部を有する透明な容器の底部に、透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層を形成し、この一体充填ゲル層の上に透明な揮散性物質保持含水ゲルからなる塊状ゲルを堆積して塊状ゲル堆積層を形成し、この状態で容器の開口部をシール部材で密封して製造される。シール部材は容器の開口部を密封に保てるものであればよく、蓋と一体化または兼用するものでもよい。
【0014】
このように製造された揮散性物質放出器は、底部を下にした状態で直立するが、この状態で製品として貯蔵、運搬、陳列、販売などが行われ、シール部材を除去した状態で使用される。使用時には開口部を通して揮散性物質が放出されるが、シール部材とは別の通気孔を有する蓋を付けた状態で使用するように構成することもできる。この場合、通気孔を開閉できる蓋を使用し、必要に応じて通気孔を開閉するようにしてもよい。
【0015】
上記の揮散性物質放出器は、貯蔵、運搬、陳列、販売および使用等の状態では、透明容器を通して入った光は、塊状ゲル堆積層を構成する個々の塊状ゲルおよび一体充填ゲル層の表面で反射し、また透過光は直進または屈折して反対側もしくは他の面で反射し、優れた装飾性を示す。特に透明容器底部の内面も反射面となるので、多くの反射光が得られ、ゲル全体を照明するため全体として明るい色彩の外観を呈する。
【0016】
また揮散性物質放出器は、貯蔵、運搬、陳列、販売等の容器の開口部をシール部材で密封している状態では、含水ゲルの表面から水分が蒸発するが、ゲル自体が非吸水性の場合は、蒸気が容器の内面で結露することがあり、結露した水滴が流下することがある。容器の底部に一体充填ゲル層が形成されていない場合には、容器の底部に水が溜まり、装飾性あるいは商品価値を低下させるが、容器の底部に一体充填ゲル層が形成されている場合には、ゲル自体が非吸水性の場合でも、流下した水は一体充填ゲル層表面に広がり、装飾性あるいは商品価値を低下させることがない。
【0017】
シール部材を開いて揮散性物質放出器を使用する状態では、一体充填ゲル層および塊状ゲル堆積層から芳香剤、消臭剤、抗菌剤等の揮散性物質が放出され、芳香、消臭、抗菌等の処理が行われる。本発明の揮散性物質放出器では、一体充填ゲル層および塊状ゲル堆積層が形成されているため表面積が大きく、このため揮散面積が大きくなり、揮散性物質放出性に優れる。このとき一体充填ゲル層は表面積が小さく、塊状ゲル堆積層の下に存在するため、持続性に優れる揮散性物質放出器を得ることができる。
【0018】
揮散性物質放出とともに容器内およびゲル中の水分も蒸発し、ゲルの容積が減少するが、一体充填ゲル層は表面積が小さいため、容積の減少速度は低く、また容器内面はゲルに密着していて蒸発が抑制されるので、一体充填ゲル層は容器に密着して剥離しにくい。塊状ゲルは形状をほぼ維持したまま容積が減少するので、装飾性が長時間にわたって維持される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の揮散性物質放出器によれば、容器の底部に形成された透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層と、一体充填ゲル層の上に堆積した透明な揮散性物質保持含水ゲルの塊状ゲル堆積層と、容器の開口部を密封するシール部材とを備えているので、揮散面積を大きくするとともに、容器内に充填する揮散性物質保持含水ゲルの充填量を多くすることができ、しかも装飾性および揮散性物質放出性に優れた揮散性物質放出器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1は実施形態による揮散性物質放出器の右半分を垂直断面で示す正面透視図である。
【0021】
図1において、揮散性物質放出器1は、開口部2を有する透明な容器3の底部4に、上面が平面になるように充填した透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層5が形成され、この一体充填ゲル層5の上に透明な揮散性物質保持含水ゲルからなる塊状ゲル6、6・・・を堆積して塊状ゲル堆積層7が形成され、この状態で容器3の開口部2をシール部材8で密封し、蓋9が取り付けられている。
【0022】
上記揮散性物質放出器1は、開口部2を有する透明な容器3の底部4にゲル形成材料を導入し、上面が平面になるように堆積させた状態でゲル化して、透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層5を形成し、この一体充填ゲル層5の上に、別途ゲル形成材料から塊状に成形した透明な揮散性物質保持含水ゲルからなる塊状ゲル6、6・・・を堆積して塊状ゲル堆積層7を形成し、この状態で容器3の開口部2をシール部材8で密封し、蓋9を取り付けて製造される。
【0023】
このように製造された揮散性物質放出器1は、底部3を下にした状態で直立するので、この状態で製品として貯蔵、運搬、陳列、販売などが行われ、シール部材8および蓋9を除去した状態で使用される。使用時には開口部2を通して揮散性物質が放出される。シール部材8と蓋9は別となっているが、蓋9に通気孔を設け、通気孔を通して揮散性物質が放出されるように構成することもできる。
【0024】
上記の揮散性物質放出器1は、貯蔵、運搬、陳列、販売および使用等の状態では、透明な容器3を通して入った光は、塊状ゲル堆積層7を構成する個々の塊状ゲル6および一体充填ゲル層5の表面で反射し、また透過光は直進または屈折して反対側もしくは他の面で反射し、優れた装飾性を示す。特に透明容器3の底部2の内面も反射面となるので、多くの反射光が得られ、ゲル全体を照明するため全体として明るい色彩の外観を呈する。
【0025】
また揮散性物質放出器1は、貯蔵、運搬、陳列、販売等の容器3の開口部2をシール部材8で密封している状態では、含水ゲルの表面から水分が蒸発するが、ゲル自体が非吸水性の場合は、蒸気が容器3の内面で結露することがあり、結露した水滴が流下することがある。容器3の底部4に一体充填ゲル層5が形成されていない場合には、容器3の底部4に水が溜まり、装飾性あるいは商品価値を低下させるが、容器3の底部4に一体充填ゲル層5が形成されている場合には、ゲル自体が非吸水性の場合でも、流下した水は一体充填ゲル層5の表面に広がり、装飾性あるいは商品価値を低下させることがない。
【0026】
シール部材8を開いて揮散性物質放出器1を使用する状態では、一体充填ゲル層5および塊状ゲル堆積層7から芳香剤、消臭剤、抗菌剤等の揮散性物質が放出され、芳香、消臭、抗菌等の処理が行われる。上記の揮散性物質放出器1では、一体充填ゲル層5および塊状ゲル堆積層7が形成されているため表面積が大きく、このため揮散面積が大きくなり、揮散性物質放出性に優れる。このとき一体充填ゲル層5は表面積が小さく、塊状ゲル堆積層7の下に存在するため、持続性に優れる。
【0027】
揮散性物質放出とともに容器3内およびゲル中の水分も蒸発し、ゲルの容積が減少するが、一体充填ゲル層5は表面積が小さいため、容積の減少速度は低く、また容器3の内面はゲルに密着していて蒸発が抑制されるので、一体充填ゲル層5は容器3に密着して剥離しにくい。塊状ゲル6は形状をほぼ維持したまま容積が減少するので、装飾性が長時間にわたって維持される。
【0028】
このように上記の揮散性物質放出器1は、容器3の底部4に形成された透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層5と、一体充填ゲル層5の上に堆積した透明な揮散性物質保持含水ゲルの塊状ゲル6からなる塊状ゲル堆積層7と、容器3の開口部2を密封するシール部材8とを備えているので、揮散面積を大きくするとともに、容器3内に充填する揮散性物質保持含水ゲルの充填量を多くすることができ、しかも装飾性および揮散性物質放出性に優れた揮散性物質放出器が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
トイレット用等に設置して、芳香剤、消臭剤、抗菌剤等の揮散性物質を徐々に放出するための揮散性物質放出器として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態による揮散性物質放出器の右半分を垂直断面で示す正面透視図である。
【符号の説明】
【0031】
1 揮散性物質放出器
2 開口部
3 容器
4 底部
5 一体充填ゲル層
6 塊状ゲル
7 塊状ゲル堆積層
8 シール部材
9 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する透明な容器と、
容器の底部に形成された透明な揮散性物質保持含水ゲルの一体充填ゲル層と、
一体充填ゲル層の上に堆積した透明な揮散性物質保持含水ゲルの塊状ゲル堆積層と、
容器の開口部を密封するシール部材と
を備えていることを特徴とする揮散性物質放出器。
【請求項2】
一体充填ゲル層および/または塊状ゲルが着色透明ゲルからなる請求項1記載の揮散性物質放出器。
【請求項3】
一体充填ゲル層および/または塊状ゲルが形状保持性ゲルからなる請求項1または2記載の揮散性物質放出器。
【請求項4】
一体充填ゲル層および/または塊状ゲルがゼラチンゲル、カラギーナンゲル、ポリアクリル酸ゲルから選ばれるものである請求項1ないし3のいずれかに記載の揮散性物質放出器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−119145(P2009−119145A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298378(P2007−298378)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(592260882)
【Fターム(参考)】