説明

揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法とその用途

揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法とその用途を確立することを課題とし、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を対象物に含有せしめて、脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成自体及び/又は脂肪酸類の分解自体を抑制し、また、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を有対成分とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制方法と該抑制剤、並びにその用途を確立して、高品質で安定な飲食物、化粧品、医薬品、又はこれらの原料乃至中間加工物など各種組成物を得ることにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法に関し、詳細には、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を含有せしめることを特徴とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法と該方法により揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制した脂肪酸類含有組成物並びにα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を有効成分とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤とその用途に関する。
【背景技術】
脂肪酸類は、純度の高いものはほとんど無臭であるものの、これを紫外線照射したり、空気中に長期間放置したり、加熱処理を施したりすれば、脂肪酸類に特徴的で不快な変敗臭を生成することが知られている。これを矯臭する方法としては、例えば、魚介類や畜肉など脂肪酸類含有物の場合、古くから、唐辛子、胡椒、わさび、山椒、にんにく、しょうがなどの香辛料などを用いて調理する方法が採用されてきた。しかし、この方法は、変敗臭成分の生成自体を減少させる方法ではなく、単に強い刺激味や香りを付けてその不快臭をマスクしようとするものであって、しばしば、これら脂肪酸類含有物が本来持っている好ましい香りや味、色までも変えてしまう欠点を有しており、更に改善が求められている。また、別の脂肪酸類含有物である、例えば、白米の場合、斯る脂肪酸類が変質し易く、精米直後から急激に鮮度低下を起こし、変敗臭の一種である米糠臭が発生しやすいことが知られている。この米糠臭の強弱が白米の新鮮さの基準あるいは品質保持の目安とまで言われており、この米糠臭を抑制する方法の確立が強く望まれている。
近年、シクロデキストリン類の包接作用を利用した、変敗臭成分の揮散を抑制する矯臭方法も行われるようになってきた。しかし、この方法もせっかく包接した変敗臭成分が、包接作用を受け易い他の物質と容易に置換して、再び不快臭を放つ欠点のあることが知られており、その矯臭効果も充分ではない。
本発明者らは、これら従来技術の持つ種々の欠点に鑑み、一旦生成した後の変敗臭を矯臭するのではなく、変敗臭成分、とりわけ、揮発性アルデヒド類の生成自体及び/又は脂肪酸類の分解自体を抑制するという従来にない全く新しい技術思想に基づき、糖質の単糖類及び二糖類について脂肪酸類からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解に対する影響を鋭意研究した結果、特開2001−123194号公報で開示した如く、α,α−トレハロース及び/又はマルチトールが脂肪酸類からの揮発性アルデヒド類の生成を顕著に抑制し、しかも、脂肪酸類の分解自体をも顕著に抑制することを見出し、変敗臭の発生抑制方法と、該方法を採用して揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制した組成物を提供するとともに、新規な揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤並びにその用途を確立した。
しかしながら、二糖のα,α−トレハロース及びマルチトールは、スクロースと比べると低甘味ではあるものの、二糖類であるため比較的に強い甘味を有しており、脂肪酸類の含量が高い組成物の場合、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を十分に抑制するにはα,α−トレハロース及び/又はマルチトールが大量に必要なため、これら二糖類を大量含む組成物が過度に甘くなり、本来の食味などを損なう恐れが危惧されている。また、α,α−トレハロース及びマルチトールは、非常に結晶性が強い糖質であり、高濃度で用いた場合、結晶が析出する場合がある。α,α−トレハロース及びマルチトールが析出すると、上記揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する作用が望めないという欠点があることも判明した。
これらの理由により、脂肪酸類からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する比較的高分子で甘味度が低く、非晶質のオリゴ糖の実現が望まれている。一方、本出願人は特開平7−143876号公報において、各種のα,α−トレハロースの糖誘導体が還元性澱粉部分分解物から製造でき、これらが各種の飲食物、化粧品、及び医薬品に利用できることを開示した。しかしながら、特開2001−123194号公報及び特開平7−143876号公報においてはα,α−トレハロースの糖誘導体が、α,α−トレハロース及び/又はマルチトールと同様に揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制するか否かについての具体的記載はなんらなされていない。
【発明の開示】
本発明は、比較的高分子のオリゴ糖を用いることによる脂肪酸類からの変敗臭の発生抑制方法と、該方法を採用して揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制した組成物を提供するとともに、新規な揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤並びにその用途を確立することを課題とするものである。
本発明者等は、上記の課題を解決するためにα,α−トレハロースの糖誘導体を含む比較的高分子のオリゴ糖に着目して鋭意研究を続けてきた。すなわち、各種脂肪酸類と四糖類以上のオリゴ糖とを共存させ、各種脂肪酸類からの揮発性アルデヒド類の生成抑制効果及び各種脂肪酸類の分解抑制効果に与えるα,α−トレハロースの糖誘導体を含む四糖類以上のオリゴ糖の影響を調べた。その結果、マルトオリゴ糖とα,α−トレハロースとがα−1,4結合したグルコース重合度が4以上のα,α−トレハロースの糖誘導体であるα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、同じグルコース重合度のマルトオリゴ糖類に比較して著効を示し、揮発性アルデヒド類の生成自体を著しく抑制することを見出したのみならず、脂肪酸類の分解自体をも著しく抑制することを見出し、本発明を完成した。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の第一の目的は、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を含有せしめることを特徴とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法を提供することであり、第二の目的は、脂肪酸類含有物に、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の共存下で、保存及び/又は加工処理して揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制した脂肪酸類含有組成物を提供することであり、第三の目的は、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を有効成分とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤とその用途を提供することである。
本発明でいうα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類としては、グルコース重合度が2以上のオリゴ糖とグルコース重合度が2のα,α−トレハロースとが結合したグルコース重合度が4以上の非還元性糖質のであればよく、望ましくは、マルトオリゴ糖がα,α−トレハロースにα−1,4結合した糖質、例えば、グルコース重合度が4のものがα−マルトシルα,α−トレハロース、グルコース重合度が5のものがα−マルトトリオシルα,α−トレハロース、グルコース重合度が6のものがα−マルトテトラオシルα,α−トレハロース、及びグルコース重合度が7のものがα−マルトペンタオシルα,α−トレハロースから選ばれる1種又は2種以上の糖質が好適である。これらα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制できるものであればよく、その由来、性状は問わない。例えば、特開平7−143876号公報、特開2000−228980号公報等に開示される非還元性糖質生成酵素を利用する方法で製造されるシラップ、結晶粉末等が適宜採用できる。α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の2種以上の混合物としては、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類のそれぞれの種類を任意の割合で混合しても良いし、また、例えば、グルコース重合度が4以上のマルトオリゴ糖を2種以上含む混合物に非還元性糖質生成酵素を作用させ、生成した2種以上のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を精製して製造したものを利用することも有利に実施できる。また、使用するα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類は必ずしも高純度の製品に限る必要はなく、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果に支障がない限り、必要に応じて、他の糖質、例えば、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオースなどの還元性糖質、α,α−トレハロース、α−グルコシルα,α−トレハロース、ソルビトール、マルチトール、マルトトリイトール、マルトテトライトール、サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}の構造を有する環状四糖などの非還元性糖質、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又はそれらの糖誘導体などのシクロデキストリン類、アラビアガム、プルラン、エルシナンなどの水溶性多糖類等の1種又は2種以上と併用することも随意である。
また、前記α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類のうち、α−マルトトリオシルα,α−トレハロースについては特開2000−228980号公報(又は特開平9−56342号公報)に開示されているように結晶状態のものも知られている。しかしながら、本発明の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する効果を発揮させるためには、例えば液状、シラップ状、ガラス状などの非晶質で利用するのが望ましい。
本発明でいう揮発性アルデヒド類とは、室温条件下で揮発性を示すアルデヒド基を有する化合物を意味する。揮発性アルデヒド類としては、望ましくは、炭素数が10以下のアルデヒドであって、具体的には、メタナール(ホルムアルデヒド)、エタナール(アセトアルデヒド)、プロパナール、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、オクタナール、ノナナール、デカナールなどの飽和炭化水素系アルデヒドや、プロペナール、ブテナール、ペンテナール、ヘキセナール、ヘプテナール、オクテナール、ノネナール、ヘプタジエナール、デカジエナールなどの不飽和炭素水素系アルデヒドなどをいう。
本発明でいう脂肪酸類とは、室温条件下で実質的に揮発性を示さない脂肪酸、脂肪酸塩又は脂肪酸エステルを意味する。脂肪酸としては、望ましくは、炭素数が14以上の高級脂肪酸であって、具体例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸などの飽和脂肪酸や、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸などをいう。
脂肪酸塩とは、前記脂肪酸と、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムなど許容しうる金属類との塩をいう。
脂肪酸エステルとは、前記脂肪酸のカルボキシル基と、アルコール、グリセリン、糖などの水酸基とが結合したエステル化合物であって、その代表例としては、トリグリセリドなどの油脂、レシチンなどのリン脂質や、モノグリセリド、ポリグリセリド、シュガーエステルなどの乳化剤(界面活性剤)などがある。
油脂としては、例えば、植物由来の大豆油、コーン油、小麦胚芽油、米糠油、なたね油、芥子油、ごま油、ピーナッツ油、サフラン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、カカオバターなど、動物由来の牛脂、乳脂、豚脂、鶏脂、卵黄油、魚油、鯨油、肝油、骨油など、更にはこれらを水素添加した硬化油などがある。また、ビタミンA、D、E、Kなど脂溶性ビタミン、ワックス、テルペノイド、ステロイド、カロチノイドなどの脂溶性物質と共存する油脂などがある。リン脂質としては、レシチン、ケファリン、リゾレシチン、リン脂酸などがある。生体膜やリポソームなどを構成する脂質膜に含まれる脂質も、本発明でいう脂質に含まれることは言うまでもない。
本発明でいう脂肪酸類含有物としては、前記脂肪酸、その塩又はそのエステル誘導体を含有している物であればよく、望ましくは、脂肪酸類として約0.1質量%(以下、本明細書では、特に断らない限り、質量%を単に%で示す。)以上、更に望ましくは約0.5%以上含有しているものが望ましく、その形状は問わず、液状、ペースト状、固状のいずれであってもよい。
脂肪酸類含有物の望ましい例としては、飲食物、化粧品、医薬品、又はこれらの原料乃至中間加工物や乳化剤などの添加物などが挙げられる。
飲食物、又はその原料乃至中間加工物としては、前記脂肪酸類を含有し、ヒト又は飼養動物のために、そのままで又はさらに加工して、エネルギー補給、健康維持、成長促進、病気の予防、治療促進などのために経口摂取又は経管投与されるものであればよく、例えば、生果、ジュース、ドライフルーツ、野菜エキス、野菜粉末、漬物など果物・野菜加工品、胡麻ペースト、ナッツペースト、コーンペーストなど種実ペースト、生餡、粉末こし餡など餡、サツマイモ粉、ヤマイモ粉などいも粉、生のままの胡麻、玄米、小麦、大麦、ライ麦、大豆、コーン、ピーナッツ、アーモンド、コーヒー豆、ココア豆など種実又はこれらの粉砕物、例えば、精白米(白米)、胚芽米、無洗米、精白大麦、精白ハト麦、精白キビなど精白穀類、米粉、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、ハト麦粉、大豆粉、大豆胚芽粉、ソバ粉、コーンフラワーなど粉末穀類、焙煎した胡麻、玄米、小麦、大麦、ライ麦、大豆、コーン、ピーナッツ、アーモンド、コーヒー豆、ココア豆など種実又はこれらの粉砕物、例えば、すり胡麻、焙煎小麦胚芽、はったい粉、きな粉、荒挽きコーヒーなど種実加工物、などの農産品、イワシペースト、カキ肉エキス、ウニペースト、アジの開き、魚肉、魚粉などの水産品、畜肉、牛乳、乳クリーム、鶏肉、鶏卵などの畜産品、醤油、味噌、ソース、マヨネーズ、ドレッシングなどペースト状乃至液状調味料、粉末油脂、香辛料、ふりかけなど粉末調味料などの調味料、求肥、おかき、はじき豆、揚豆、かりんとう、揚せんべい、カステラなどの和菓子、チョコレート、チューインガム、パン、ケーキ、ムース、乳菓、クリーム菓子、スナック菓子などの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓、緑茶、ほうじ茶、紅茶、ウーロン茶、玄米茶、麦茶、ハト麦茶などの茶類、米飯、蒸米、餅、おにぎり、おかゆ、α化米、チャーハン、ピラフなどの米加工品、製菓、製パン、パスタ、麺、ピザ、ナン、パン粉、プレミックスなどの小麦加工品、豆乳、豆腐、厚揚、おから、おからハンバーグ、豆乳プリンなどの大豆加工品、麹、甘酒、清酒、みりん、ビール、蒸留酒、酢、味噌、醤油、糠漬、麹漬、粕漬、味噌漬、たまり漬などの発酵飲食物、ハム、ソーセージなどの畜肉加工品、かまぼこ、ちくわ、はんぺんなどの魚肉練製品、ウニ、イカなどを用いた塩辛、肉、魚の干物、小魚、エビ、イカ、貝、畜肉などを用いた珍味、佃煮、煮豆、サラダ、炒め物、揚げ物、煮物、卵焼、焼肉、焼き鳥、ハンバーグ、ぎょうざ、天ぷら、天かすなどの惣菜食品、練乳、粉乳、ヨーグルト、バター、チーズ、コーヒーフレッシュなどの乳加工品、ババロア、ムース、マシュマロ、プリン、シュークリーム、錦糸卵、だし巻卵、茶碗蒸し、マヨネーズなど卵加工品、畜肉、魚肉、鶏卵などを用いた瓶・缶詰、各種茶類から製造される茶飲料、野菜飲料、果汁飲料、ミネラル飲料、甘酒、コーヒー飲料、乳飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料、清酒、ワイン、リキュールなどのアルコール飲料、即席うどん、即席ラーメン、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席スープ、レトルト食品、粉末食品、スナック食品などの即席食品、冷凍食品、離乳食、治療食、健康食品、ペプチド食品などがあり、更には、例えば、穀類ペレット、穀類粉末、植物油粕、発酵粕、米糠、小麦麸、大麦糠、脱脂糠、脱脂大豆、フィシュミール、フィシュソリュブル、肉粉、血粉、羽毛粉、脱脂粉乳、乾燥ホエー、さなぎ粕、アルファミールなどの飼料原料又はこれらを含有する配合飼料などがある。また、乳化剤として、例えば、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどの添加物がある。
化粧品としては、前記脂肪酸類を含有する、例えば、液状、ペースト状、固状の形態で、練り歯磨き、口紅、リップクリーム、口中香剤、うがい剤、入浴剤、制汗剤、石けん、シャンプー、リンス、ボディーソープ、ボディーローション、デオドラントスプレー、ヘアクリーム、色白剤、美肌剤、美毛剤、育毛剤などがある。
医薬品としては、前記脂肪酸類を含有する、例えば、液状、ペースト状、固状の形態で、ドリンク剤、経口栄養剤、経管栄養剤、注射用脂肪乳剤、トローチ、肝油ドロップ、軟膏、錠剤、カプセル剤などがある。
本発明でいう含有せしめるとは、接触共存させることをいい、例えば、脂肪酸類含有物にα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめる場合には、それによって、脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果が発揮できればよく、含有せしめる方法を問うものではない。望ましくは、脂肪酸類含有物に対してα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上をできるだけ均一に接触させて共存せしめるのがよい。例えば、脂肪酸類含有物が、液状乃至ペースト状物のような多汁状態である場合には、これにα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を粉末、結晶等の固状状態で、できるだけ均一に混合して含有せしめるか、又はシラップ状態でできるだけ均一に混合して含有せしめればよい。
また、脂肪酸類含有物が固状である場合には、例えば、これを水で液状乃至ペースト状物のような多汁状態にした後、前述のように、処理して含有せしめるか、又はα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上をシラップ状態とし、これに固状の脂肪酸類を、分散、溶解乃至懸濁し、できるだけ均一に接触するようにして共存せしめればよい。又、脂肪酸類含有物が水分含有固状物のようなものの場合には、それをそのまま、又はそれを細断などの前処理を施した後、これにα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上の粉末又は結晶をふりかけ混合して、必要に応じて溶解又は融解させて、脂肪酸含有物に付着、被覆及び/又は浸透含有させるか又は脂肪酸類含有物をα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含むシラップ状物に浸漬するなどして、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上をできるだけ均一に含有せしめればよい。また、脂肪酸類含有物にα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含む糖水溶液を噴霧するなどして、その表面をできるだけ均一に被覆することも有利に実施できる。必要に応じて、真空乾燥、通風乾燥、噴霧乾燥などの乾燥処理、無水糖質を利用した脱水処理などを施すことも、更に必要ならば、この乾燥処理、脱水処理などにより、含有させたα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を晶析させることも有利に実施できる。また、必要に応じて、上記方法で得られる乾燥物を粉砕機にかけるなどして粉末化し、これをそのまま利用することも、更に、必要に応じて、顆粒及び/又は錠剤にして利用することも有利に実施できる。
脂肪酸類含有物が、例えば、トリグリセリドなど油脂、レシチンなどリン脂質、シュガーエステルなど乳化剤(界面活性剤)などの脂肪酸エステルの場合には、これに、例えば、撹拌、混合、加熱、加圧、乳化、粉末化、乾燥などの加工処理を施すに際し、例えば、粉末、結晶又はシラップ状態のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめることにより、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制することが有利に実施できる。
また、脂肪酸類含有物が、例えば、アジ、イワシ、ニシン、サバ、ブリ、マグロ、カレイ、ヒラメなど魚類、イクラ、タラコ、カズノコなど魚卵、ウニ、ナマコなど棘皮動物の卵や内臓、イカ、タコなど軟体動物、エビ、シャコなど甲殻類、アサリ、シジミ、アワビ、ツブなど貝類、ワカメ、コンブ、ヒジキ、アサクサノリなど海藻などの水産品の場合には、これに、例えば、干す、漬ける、焼く、煮る、蒸す(蒸煮)、揚げる、煎る(焙煎)などの加工処理を施すに際し、例えば、粉末又はシラップ状態のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめることにより、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制することが有利に実施できる。具体例としてコンブの場合について述べれば、生のコンブにα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめ、これを常法に従って乾燥し、揮発性アルデヒドの生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制し、変敗臭の生成を抑制した乾燥コンブを得ることも、これを更に粉末化して揮発性アルデヒドの生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制した粉末コンブ製品とし、粉末調味料として利用することも有利に実施できる。
また、脂肪酸類含有物が、例えば、大豆、菜種、芥子、胡麻、ピーナッツなど油糧用種実、米、小麦、大麦、ライ麦、ハト麦、キビ、ソバなど穀類、大豆、ピーナッツ、空豆、エンドウなど豆類、アーモンド、カシューナッツ、マカデミアナッツ、コーヒー豆、カカオ豆など嗜好品用種実などの種実又はこれから製造される中間加工物の場合には、これに、例えば、精白、製粉、製油、蒸煮及び焙煎などの加工処理を施すに際し、例えば、粉末、結晶又はシラップ状態のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめることにより、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制することが有利に実施できる。具体例として、米の場合について述べれば、玄米にα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめ、常法通り、保存、貯蔵し、これを精米機で精米して、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制し、変敗臭の生成を抑制した高品質の白米を製造することも、また、常法に従って精米した白米にα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめ、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制し、変敗臭の生成を抑制した高品質の白米にすることも有利に実施できる。このようにして得られた白米は、米糠臭の発生を抑制し、鮮度低下が抑制されていることから、無洗米やα化米に利用することも、また、風味良好な、飯米、蒸米、餅、おにぎり、おかゆ、チャーハン、ピラフなどに利用することも有利に実施できる。小麦胚芽の場合について述べれば、小麦胚芽にα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめ、これを常法に従って、例えば、直接焙煎するか、又は、エクストルーダーで押出し造粒した後、焙煎して、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制し、変敗臭の生成を抑制した焙煎小麦胚芽製品を得ることも有利に実施できる。本品は、このままおやつや健康食品として利用できるのみならず、各種飲食物を製造するための中間製品としても有利に利用できる。
脂肪酸類含有物が、例えば、レモン、ユズ、スダチ、ザボン、キンカン、バナナ、パイナップル、マンゴ、キィウィフルーツ、イチゴ、サンザシ、ブルーベリー、ブドウ、モモ、スモモ、リンゴ、ナシ、カキ等の果物類や、ニンジン、レンコン、タマネギ、ゴボウ、ダイコン、サトイモ、ヤマイモ、サツマイモ、ジャガイモ等の根菜、レタス、チコリ、ハクサイ、キャベツ、ケール、モロヘイヤ、アシタバ、ホウレンソウ、コマツナ、ノザワナ、シュンギク、チンゲンサイ、タラの芽、茶の若葉、シソの葉等の葉菜、オクラ、カリフラワー、ブロッコリー、ナス、トマト、キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、ピーマン、サヤエンドウ、サヤインゲン、エダマメ等の果菜、シイタケ、エノキ、シメジ等の茸を含む野菜類などからなる果物・野菜類の場合には、これに、例えば、干す、漬ける、焼く、煮る、蒸す(蒸煮)、揚げるなどの加工処理を施すに際し、該処理前、該処理中又は該処理後に、例えば、粉末、結晶又はシラップ状態のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめることにより、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制することが有利に実施できる。具体例として、バナナ、リンゴ、カボチャ、ニンジン、ジャガイモ、サヤインゲンなどを種食品として用いる揚げ物の場合について述べれば、これら種食品を必要により皮を剥き、適当な大きさに細断し、これにα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめ、必要により、ブランチング及び/又は衣をつけ、次いで、これを凍結するか又はしないで、食用油脂を使用して常圧もしくは減圧下で揚げて、高品質の各種フライ食品、例えば、スナック食品、フライ麺、惣菜、製菓・製パン材料、即席食品の具材などを製造することも有利に実施できる。
脂肪酸類含有物を加工する際のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめる時期については問わず、該加工処理前、該加工処理中、該加工処理中のいずれか1時期もしくはこれらの時期から選ばれる2以上の時期であっても良く、本発明の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制が達成できる時期であればよい。加工処理工程で脂肪酸類含有物の品温の上昇を伴う場合には、望ましくは、該加工処理前に含有させておくか、該加工処理中に含有させるか、あるいは、該加工処理直後でその品温が充分に低下していない間に含有させるのが好都合である。
又、脂肪酸類含有物が、焙煎された直後の比較的高温の種実、例えば、煎りゴマ、煎り米、煎り麦、焙煎小麦胚芽、煎り豆、はじけたコーン、焙煎ココア豆、焙煎コーヒー豆や、フライされた直後の比較的高温の即席麺やスナック食品などの場合には、これにα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有する水溶液を適量噴霧し、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有させるとともに該水溶液を直ちに蒸発させ蒸気を発生し、脂肪酸類含有物から空気を排除又は遮断し、併せて、気化熱を奪い、該高温の脂肪酸類含有物の品温を速やかに低下させる加工処理方法を採用することにより、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果を更に高めることも有利に実施できる。
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有させる量は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果が発揮できる量であればよく、特に制限はない。望ましくは脂肪酸類に対して、無水物換算で、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を合計で約12.5%以上、更に望ましくは、25%以上含有せしめるのが好適である。また、脂肪酸類含有物に対して、無水物換算で、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を合計で約0.1%以上、望ましくは、約0.5%以上約98%未満、更に望ましくは、約1.0%以上約90%未満をできるだけ均一に含有せしめるのが好適である。
また、本発明によれば、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を有効成分として含む揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤(以下、単に抑制剤と略称することがある。)を、脂肪酸類含有物に含有せしめて揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制することも有利に実施できる。抑制剤中の有効成分としてのα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上の含量は、脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果が発揮できればよく、望ましくは、抑制剤に対して、無水物換算で、合計、約10%以上、更に望ましくは、約20%以上、更に望ましくは、約50%以上が好適である。本発明の抑制剤は、有効成分であるα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上だけから構成されてもよいし、必要に応じて、前述の還元性糖質、非還元性糖質、シクロデキストリン類、水溶性多糖類、香辛料、酸味料、旨味料、酒類、水溶性多糖類、無機塩、乳化剤、酸化防止剤、活性酸素消去作用を有する物質、紫外線吸収作用を有する物質及びキレート作用を有する物質から選ばれる他の物質から選ばれる1種又は2種以上を併用することも、また併用することにより揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果を増強することも、更にこの効果に加えて矯味、矯臭効果を発揮させることも随意である。更に必要ならば、公知の着香料、着色料、保存料、安定剤等を適量併用することも随意である。このようにして得られる抑制剤は、その形状を問わず、例えばシラップ、粉末、顆粒、錠剤等いずれの形状であってもよい。このようにして得られた抑制剤は、これを使用して脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果が発揮できればよく、その使用方法は問わない。例えば、前述のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめる脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法に準じて使用すればよい。望ましくは、脂肪酸類含有物に抑制剤を含有せしめた後、例えば、常温又は冷蔵条件で保存、及び/又は、例えば、干す、漬ける、焼く、煮る、蒸す(蒸煮)、揚げる、煎る(焙煎)等の調理、更には、撹拌、混合、分離、加熱、加圧、乳化、粉末化、更には、精白、製粉、製油、蒸煮、焙煎等の加工時に、前述のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の1種又は2種以上を含有せしめる方法と同様に使用すれば、脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果を有利に発揮し、脂肪酸類含有物の保存安定性を向上させることができる。また、本発明の抑制剤を、例えば、醤油、味噌、ソース、焼肉のたれ、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、マーガリン、バター、チーズ、サラダ油、天ぷら油、ゴマ油、ラー油、カキ油、ねりワサビ、ねりがらし、おろししょうが、食酢、みりん、新みりん、清酒、ワイン、リキュール、アミノ酸系及び/又は核酸系調味料、食塩など各種調味料とともに利用して、脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果を発揮させ、風味豊かな惣菜や鍋物等を調製することも有利に実施できる。また、マヨネーズ、ドレッシングなどの脂肪酸類含有調味料を製造するに際し、本発明の抑制剤を含有せしめることにより、色調が良好で、風味の豊かな、保存安定性に優れた調味料を製造することも有利に実施できる。
更に、本発明の抑制剤を、例えば、脂肪酸類を含有する化粧品や医薬品の原料や中間加工物とともに利用して、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解の抑制効果を発揮させ、高品質で安定な化粧品や医薬品を製造することも有利に実施できる。とりわけ、化粧品の場合には、それ自体が高品質を安定に保つのみならず、これを使用した皮膚、毛などに付着する汗、アカ、フケ、皮脂などからの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制することから、体臭の発生を予防し、皮膚の刺激やかゆみを予防し、更には、シミ、ソバカス、日焼けなどの色素沈着症の治療・予防などに有利に利用できる。
以下、実験で、本発明を詳細に説明する。すなわち、実験1で、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の調製を説明し、実験2乃至5で、脂肪酸類又は脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は変敗臭に及ぼすα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類共存の影響を説明し、実験6乃至9で、脂肪酸類の分解に及ぼすα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類共存の影響を説明し、実験10乃至13で、脂肪酸類含有物の変敗に及ぼすα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類共存の影響を説明する。
実験1−1
<α−マルトシルα,α−トレハロースの調製>
マルトテトラオース(純度97.9%、林原生物化学研究所製造)を水に溶解させ、固形分濃度40%の水溶液(2,500g)を調製し、濃度1Mの水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、温度40℃に保温した。この糖液に、特開平7−143876公報に記載の方法に準じて調製したアルスロバクター・エスピーQ36株由来の非還元性糖質生成酵素を固形分グラム当たり4単位加え、pH7.0、温度40℃で38時間保持し酵素反応した後、約98℃にまで加熱し15分間保持して酵素反応を停止させた。この反応物の糖組成を高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略する。)で分析したところ、α−マルトシルα,α−トレハロース純度は約74.3%であった。この反応物に粒状水酸化ナトリウムを加え溶解させpH約12.5、温度約98℃に調整し、さらに、粒状水酸化ナトリウムを少量ずつ加えpHを約12.5に維持して温度約98℃で約90分間に保持して、反応物に残存する還元糖をアルカリ分解した。水冷後、常法にしたがって、イオン交換樹脂で脱塩し活性炭で脱色濾過し、さらに、孔径0.45μmのメンブランで精密濾過した後、エバポレーターで濃縮し、真空乾燥して、重量約779gの粉末を得た。この粉末のα−マルトシルα,α−トレハロース純度は約98.7%で、水分は7.18%であった。
尚、HPLCは以下の条件で行った。HPLC分析カラムとしてMCI GEL CK04SS(内径10mm×長さ200mm;三菱化学株式会社製)を直列に2本つなぎ、カラム温度80℃で、溶離液として水を流速0.4ml/分で流し、示差屈折計(RI−8020;東ソー株式会社製)で検出した。
実験1−2
<α−マルトトリオシルα,α−トレハロースの調製>
マルトペンタオース(純度98.3%、林原生物化学研究所製造)を水に溶解させ、固形分濃度50%の水溶液(2,000g)を調製し、濃度1Mの水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、温度40℃に保温した。この糖液に、特開平7−143876公報に記載の方法に準じて調製したアルスロバクター・エスピーQ36株由来の非還元性糖質生成酵素を固形分グラム当たり1.5単位作用させ、pH7.0、温度40℃で24時間保持した後、温度約8℃にまで冷却しその温度で24時間保持して、生成したα−マルトトリオシルα,α−トレハロースを結晶化した。さらに、結晶を含む反応物をそのまま温度40℃に調整し、24時間酵素反応を継続した後、約98℃にまで加熱し15分間保持して酵素反応を停止させた。この反応物を室温にまで冷却し一夜放置してα−マルトトリオシルα,α−トレハロースの結晶化を行い、得られた結晶をガラスフィルター上で回収した。この結晶を水に溶解させ、固形分濃度13%の糖液(6,580g)に調整した。この糖液の糖組成をHPLCで分析したところ、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース純度は約92%であった。この糖液を実験1−1の方法と同様にアルカリ処理し、脱塩し、脱色し、濾過した。エバポレーターで液重量約1,800gにまで濃縮し、室温で一夜放置し、α−マルトトリオシルα,α−トレハロースの結晶化を行った後、バケット式遠心分離機で結晶を回収した。得られた結晶を真空乾燥して、重量約700gの結晶粉末を得た。この結晶粉末のα−マルトトリオシルα,α−トレハロース純度は約99.4%で、水分は4.94%であった。
実験1−3
<α−マルトテトラオシルα,α−トレハロースの調製>
マルトヘキサオース(純度98.0%、林原生物化学研究所製造)を水に溶解させ、固形分濃度40%の水溶液(1,000g)を調製し、濃度1Mの水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、温度40℃に保温した。この糖液に、実験1−2の方法と同様に非還元性糖質生成酵素を固形分グラム当たり1.5単位作用させ、pH7.0、温度40℃で24時間保持した後、実験1−1の方法と同様に、反応停止、アルカリ処理、脱塩、脱色、濾過、濃縮、真空乾燥して、重量約320gの粉末を得た。この粉末のα−マルトテトラオシルα,α−トレハロース純度は約97.5%で、水分は5.25%であった。
実験1−4
<α−マルトペンタオシルα,α−トレハロースの調製>
マルトヘプタオース(純度96.6%、林原生物化学研究所製造)を水に溶解させ、固形分濃度40%の水溶液(1,000g)を調製し、濃度1Mの水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、温度40℃に保温した。この糖液に、実験1−2の方法と同様に非還元性糖質生成酵素を固形分グラム当たり1.5単位作用させ、pH7.0、温度40℃で24時間保持した後、実験1−1の方法と同様に、反応停止、アルカリ処理、脱塩、脱色、濾過、濃縮、真空乾燥して、重量約305gの粉末を得た。この粉末のα−マルトペンタオシルα,α−トレハロース純度は約96.2%で、水分は5.87%であった。
実験2−1
<加熱によるα−リノレン酸からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は変敗臭に及ぼすα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類及びマルトオリゴ糖類共存の影響>
α−リノレン酸100mg、セルロースパウダー0.5g、及び0.6Mリン酸緩衝液(pH6.0)0.25mlを20ml容バイアル瓶に採取し、これに糖質として、実験1−1乃至1−4の方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース又はα−マルトペンタオシルα,α−トレハロース、又はこれらα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の原料に使用したマルトテトラオース(林原生物化学研究所製造)、マルトペンタオース(林原生物化学研究所製造)、マルトヘキサオース(林原生物化学研究所製造)及びマルトヘプタオース(林原生物化学研究所製造)の、それぞれ無水物換算で、5w/v%水溶液1ml(糖質50mg)を加えて、それぞれ糖質のみが異なる8種の被験バイアル瓶を用意すると共に、糖質を加えない点でのみ異なる対照バイアル瓶を用意した。これらバイアル瓶をブチルゴム栓で密栓し、100℃で1時間加熱処理した。その後、室温に放冷し、次いでバイアル瓶を80℃に予熱したアルミブロック中で5分間加温し、そのヘッドスペースガス(以下、HSGと略称する。)2mlをガスシリンジにて採取し、ガスクロマトグラフィー(以下、GLCと略称する。)により揮発性アルデヒド類の分析を行った。GLCの装置はGC−14B(株式会社島津製作所製)、分析カラムはキャピラリーカラムTC−FFAP(内径0.53mm×長さ30m、膜厚1.0μm;ジーエルサイエンス株式会社製)、キャリアーガスは流速10ml/minのヘリウムガス、インジェクション温度は200℃、カラムオーブン温度は40℃に5分間保持後、5℃/minの速度で230℃まで昇温、検出は水素炎イオン検出器で行った。また、試料の変敗臭についての官能検査を熟練したパネラー6人により直接臭いを嗅ぐ方法で行った。この検査は、糖質を共存させた場合の試料の変敗臭が、糖質無しの場合の試料と比較して、同程度、それより強い、又はそれより弱いと判断した人数で評価した。
HSG分析結果及び官能評価の結果を表1にまとめた。

表1中、官能評価は、糖質無しの場合の試料と比較して、糖質を共存させた場合の試料の変敗臭が、同程度及びそれより強いと答えたパネラーが6人中4人以上のものを+++とし、それより弱いと答えたパネラーが6人中4人以上のものを+とした。表1の結果から明らかなように、α−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース、α−マルトペンタオシルα,α−トレハロースなどのα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を共存させた系が、糖質無しの系に比べ、α−リノレン酸の加熱分解により生じるプロパナール、ブタナール、ヘキサナールのHSG中の濃度が著しく低く、官能的にも変敗臭が有意に弱く、優れていることが判った。また、グルコース重合度が同じマルトオリゴ糖類、即ち、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース。マルトヘプタオースを共存させた系は、HSG中の揮発性アルデヒド類の濃度は糖質無しの系よりやや低い場合があるものの、官能評価においては、糖質無しの系との差異は全く認められなかった。
実験2−2
<加熱によるリノール酸からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は変敗臭に及ぼすα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類及びマルトオリゴ糖類共存の影響>
脂肪酸として、リノール酸100mgを用いた以外は、実験2−1と同様の方法で加熱処理し、HSG中の揮発性アルデヒド類を分析した。また、実験2−1と同様に変敗臭について官能検査した。
HSG分析結果及び官能評価の結果を表2にまとめた。


表2の結果から明らかなように、α−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース、α−マルトペンタオシルα,α−トレハロースなどのα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を共存させた系が、糖質無しの系に比べ、リノール酸の加熱分解により生じるプロパナール、ブタナール、ヘキサナール、2,4−デカジエナールのHSG中の濃度が著しく低く、官能的にも変敗臭が有意に弱く、優れていることが判った。これに対して、グルコース重合度が同じマルトオリゴ糖、即ち、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース。マルトヘプタオースを共存させた系は、HSG中の揮発性アルデヒド類の濃度は糖質無しの系とほぼ同じ量で、官能評価においては、糖質無しの系との差異は全く認められなかった。
実験2−3
<加熱によるリノール酸からの揮発性アルデヒド類の生成に及ぼすα−マルトシルα,α−トレハロースの影響>
脂肪酸としてリノール酸100mgを用い、糖質として、α−マルトシルα,α−トレハロースの0乃至5w/v%水溶液1ml(α−マルトシルα,α−トレハロースを0、12.5、25、50又は100mg含有)を用いた以外は、実験2−1と同様の方法で被験バイアル瓶を用意して加熱処理し、HSG中の揮発性アルデヒド類を分析した。
HSG分析結果を表3にまとめた。


表3の結果から明らかなようにα−マルトシルα,α−トレハロースを共存させた系が、糖質無しの系に比べ、リノール酸の加熱分解により生じるプロパナール、ブタナール、ヘキサナール、2,4−デカジエナールのHSG中の濃度が低く、それらの濃度は糖質添加量に応じて低くなり、糖質添加量が25mg、即ち、脂肪酸類(リノール酸)当たり、無水物換算で25%のα−マルトシルα,α−トレハロース添加によって、揮発性アルデヒドの合計は約58%に低減し、同様に脂肪酸類当たり、無水物換算で50%又は100%の以上のα−マルトシルα,α−トレハロース添加によって揮発性アルデヒドの濃度合計は、それぞれ約31%、約9%に低減することが判明した。
実験3
<標準揮発性アルデヒド類の揮散に及ぼす糖質共存の影響>
実験2−1乃至2−3のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を共存させた系において、HSG中の揮発性アルデヒド類の濃度が低いのは、α−リノレン酸やリノール酸からの揮発性アルデヒド類の生成反応を抑制したためか、あるいは生成した揮発性アルデヒド類の揮散を抑制したためかを確認するため、以下の実験を行った。揮発性アルデヒド類として、標準品のプロパナール、ブタナール、ヘキサナールおよび2,4−デカジエナールを用いて、これらの揮散に及ぼすα−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、マルトテトラオース又はマルトペンタオース共存の影響を調べた。プロパナール、ブタナール、ヘキサナール又は2,4−デカジエナール10mg、セルロースパウダー0.5g、0.6Mリン酸緩衝液(pH6.0)0.25ml、及び糖質5w/v%水溶液1ml(糖質50mg)を20ml容バイアル瓶に採取し、ブチルゴム栓で密栓後、これを80℃に予熱したアルミブロック中で5分間加温し、そのHSG2mlをガスシリンジにて採取し、GLCにより揮発性アルデヒド類の分析を行った。また、糖質を加えない点でのみ異なる系を設け同様に処理して対照とした。
それぞれの標準アルデヒドのHSG中への揮散濃度(μg/ml)を求め、及びその濃度について糖質無しの系を100とした場合の糖質を共存させた系の相対濃度を求め、結果を表4にまとめた。


表4の結果から明らかなように、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類のα−マルトシルα,α−トレハロース又はα−マルトトリオシルα,α−トレハロースを共存させた系において、標準品のプロパナール、ブタナール、ヘキサナール及び2,4−デカジエナールのHSG中の相対濃度は、糖質無し又はマルトオリゴ糖のマルトテトラオース、マルトペンタオースを共存させた系と同程度であった。このことから、α−リノレン酸やリノール酸の加熱により生じるプロパナール、ブタナール、ヘキサナール、2,4−デカジエナールのHSGへの揮散は、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が共存していても抑えられず、それらの生成量をよく反映することが判明した。従って、表1乃至3の結果のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の共存による変敗臭抑制作用は、これら糖質による揮散防止ではなく、α−リノレン酸やリノール酸を加熱した際のこれら不飽和脂肪酸からの揮発性アルデヒド類の生成自体を抑制したことによると言える。
実験4−1
<植物性脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類生成に及ぼすα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類及びマルトオリゴ糖類共存の影響>
植物性脂肪酸類含有物として2002年岡山県産の白米を用いた。精米直後の白米(品温約40℃)200gを、厚さ0.115mmの500ml容ポリエチレン袋に入れ、直ちに、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類として実験1−1の方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロースの微粉末、又は、マルトオリゴ糖類としてマルトテトラオース(林原生物化学研究所製造)の微粉末のいずれかをそれぞれ4g加え、できるだけ均一になるように混合し、密封し、25℃の恒温器内に放置して自然冷却し、その温度に保存した。保存2週間後に、それぞれのポリエチレン袋から白米5gを別々の20ml容バイアル瓶に採取し、ブチルゴム栓で密栓後、これを60℃に予熱したアルミブロック中で5分間加温し、そのHSG1mlをガスシリンジにて採取し、実験2−1と同様に、GLCによりHSG中の揮発性アルデヒド類を分析し、保存2週間後の白米1g当たりから生じた揮発性アルデヒド類の量を求めた。なお、糖質を加えない点でのみ異なる系を設け、同様に処理して対照とした。
結果を表5にまとめた。

表5の結果から明らかなように、保存2週間後において、α−マルトシルα,α−トレハロースを共存させた系は、糖質無しの系に比べ、HSG中の揮発性アルデヒド類の生成量が著しく低かった。α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類のα−マルトシルα,α−トレハロースの共存は、白米保存時において揮発性アルデヒド類の生成を著しく抑制することが判明した。とりわけ、米糠臭又は古米臭の主成分の1種であるヘキサナールの生成が全くみられなかった。これに対して、マルトオリゴ糖類のマルトテトラオースによるその抑制作用の程度は、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類のα−マルトシルα,α−トレハロースに比べるとかなり低いものであった。したがって、以上に示した実験4−1の結果は、白米におけるα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の共存が白米の鮮度低下を抑制し、その新鮮さを良く維持することを示している。
実験4−2
<植物性脂肪酸類含有物からの変敗臭成分の生成に及ぼすα−マルトシルα,α−トレハロースの影響>
植物性脂肪酸類含有物として玄米を用いた。2002年岡山県産の玄米500gを、厚さ0.115mmの500ml容ポリエチレン袋に入れ、次いで、実験1−1の方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロースの微粉末10gを添加し、α−マルトシルα,α−トレハロースが玄米表面に均一に付着するように混合した。この混合物20gずつを3本の50ml容バイアル瓶にそれぞれ採取し、ブチルゴム栓で密栓後、50℃の恒温室に保存した。保存期間0日(保存開始時)、7日及び14日の時点で、それぞれ新たなバイアル瓶のHSG1mlをガスシリンジにて採取し、実験2−1と同様にGLCによりHSG中の変敗臭成分(主な揮発性成分)の分析を行った。また、α−マルトシルα,α−トレハロースを加えない点でのみ異なる系を設け、同様に処理して対照とした。保存期間0日、7日及び14日の各時点での、玄米1gから生じた主な揮発性成分の量を求め、結果を表6にまとめた。


表6の結果から明らかなように、玄米の保存中にα−マルトシルα,α−トレハロースを共存させた系は、共存させなかった系と比較して揮発性アルデヒド類を含む変敗臭成分の生成量が低く、α−マルトシルα,α−トレハロースの共存により変敗臭成分の生成自体がよく抑制されることが判明した。
実験5
<動物性脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成に及ぼす糖質共存の影響>
動物性脂肪酸類含有物として鯖肉を用いた。鯖肉をミンチ機でミンチにし、その10gを50ml容バイアル瓶に採取し、これに種々の濃度のα−マルトシルα,α−トレハロース水溶液5ml(α−マルトシルα,α−トレハロースを0.5g、1g又は2g含有。このα−マルトシルα,α−トレハロース量は鯖肉重量に対してそれぞれ5%、10%又は20%に相当する。)を添加して、ブチルゴム栓で密栓後、沸騰水浴中で15分間加熱した。バイアル瓶を室温に放冷の後、80℃に予熱したアルミブロック中で5分間加温し、そのHSG1mlをガスシリンジにて採取し、揮発性アルデヒド類、トリメチルアミン及びエチルメルカプタンを分析した。メタナール以外の揮発性アルデヒド類及びトリメチルアミンはGLCにより分析した。メタナール及びエチルメルカプタンの分析には、それぞれの成分分析用のガス検知管(商品名ガステックNo.91L及びNo.72L:ジーエルサイエンス株式会社販売)を用いて、同様に処理したバイアル瓶のHSG5mlをガスシリンジにて採取し、ガス検知管に全量を通気して、メタナール及びエチルメルカプタンの濃度を測定した。対照として糖質無しの系、及び比較糖質としてソルビトールを鯖肉重量に対して10%又は20%になるように添加した系も同様に試験した。
鯖肉1g当たりから生じる揮発性アルデヒド類の量を求め、結果を表7に、同様に、トリメチルアミン及びエチルメルカプタンの量を求め、結果を表8にまとめた。


表7の結果から明らかなように、α−マルトシルα,α−トレハロースを共存させた系は、糖質無しの系に比べ、HSG中のいずれの揮発性アルデヒド類も生成量が著しく少なく、ソーセージや魚すり身などの水産加工品によく使われるソルビトール共存の系に比べても、いずれの揮発性アルデヒド類の生成量も著しく低いことが判明した。α−マルトシルα,α−トレハロースの共存は、魚肉の加熱において、揮発性アルデヒド類の生成を著しく抑制し、この効果はα−マルトシルα,α−トレハロースの添加量に応じて高くなることが判明した。また、表8の結果から明らかなように、α−マルトシルα,α−トレハロースの共存は、水産品の特異臭であるトリメチルアミンやエチルメルカプタンの生成をも著しく抑制し、この効果もα−マルトシルα,α−トレハロースの添加量に応じて高くなることが判明した。
実験6
<光照射によるリノール酸の分解に及ぼす糖質共存の影響>
リノール酸100mg、セルロースパウダー0.5g、0.6Mリン酸緩衝液(pH6.0)0.25ml、及び糖質として、実験1−1の方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロース、マルトテトラオース(林原生物化学研究所製造)又はスクロースの5w/v%水溶液1ml(糖質50mg)をそれぞれ4本ずつ20ml容バイアル瓶に採取し、ブチルゴム栓で密栓し、25℃の恒温器内で蛍光灯を用いて、照度3200ルクスで照射した。経時的にバイアル瓶毎にサンプリングし、これに含まれるリノール酸を下記の方法でメチルエステル化後、GLCにより定量した。すなわち、それぞれのバイアル瓶にクロロホルム・メタノール混液(容積比2:1)20mlを加えてリノール酸を抽出し、得られた抽出液1mlを10ml容ナスフラスコに採取し、減圧下、濃縮、乾固した。これに内部標準物質として、濃度30mg/mlの1−エイコサノール・メタノール溶液1mlを加えて混合、溶解し、再度乾固し、これに三フッ化ホウ素メタノール溶液1mlを加え、密栓して沸騰水浴中で5分間反応させた。冷却後、これに脱イオン水1mlを加え、未反応の三フッ化ホウ素を分解した後、n−ヘキサン1mlを加えて、リノール酸メチルエステルを抽出した。このヘキサン層2μlをGLC分析に供した。光照射前のリノール酸量と光照射後のリノール酸量とから光照射によるリノール酸の分解率(%)を求めた。すなわち、分解率(%)は、次式により求めた。また、糖質を加えない点でのみ異なる系を設け、同様に処理して対照とした。

GLCの装置はGC−14B(株式会社島津製作所製)、分析カラムはキャピラリーカラムTC−FFAP(内径0.53mm×長さ30m、膜厚1.0μm;ジーエルサイエンス株式会社製)、キャリアーガスは流速10ml/minのヘリウムガス、インジェクション温度は230℃、カラムオーブン温度は120℃に2分間保持後、5℃/minの速度で230℃まで昇温、検出は水素炎イオン検出器で行った。
結果を表9にまとめた。

表9の結果から明らかなように、光照射によるリノール酸の分解に及ぼす影響は、α−マルトシルα,α−トレハロースを共存させた系が、糖質無しの系に比べ、リノール酸の分解量が少なく、その分解を著しく抑制し、優れていることが判明した。マルトテトラオースおよびスクロースにはその効果はほとんど認められなかった。
実験7
<加熱によるリノール酸の分解に及ぼす糖質共存の影響>
リノール酸100mg、セルロースパウダー0.5g、0.6Mリン酸緩衝液(pH6.0)0.25ml及び糖質として、実験1−1方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロース又はマルトテトラオース(林原生物化学研究所製造)の0乃至10w/v%水溶液1ml(糖質を0、12.5、25.0、50.0又は100.0mg含有)をそれぞれ20ml容バイアル瓶に採取し、ブチルゴム栓で密栓し、100℃で1時間加熱した後、室温まで放冷した。実験6と同様に、加熱処理前後のリノール酸を、GLCにより定量した。加熱処理前のリノール酸量と加熱処理後のリノール酸量とから、実験6の方法に準じて、加熱によるリノール酸の分解率(%)を求めた。
結果は表10にまとめた。


表10の結果から明らかなように、加熱によるリノール酸の分解に及ぼす影響は、α−マルトシルα,α−トレハロースを共存させた系が、糖質無しの系と比較して、リノール酸の分解量が少なく、その分解を著しく抑制し、優れていることが判明した。抑制の程度は、糖質添加量に応じて強くなり、糖質添加量が50mg以上の場合、リノール酸分解の程度は1/2未満に抑制されることが判明した。マルトテトラオースを共存させた系では、その抑制作用がほとんど見られなかった。
実験8
<加熱による高度不飽和脂肪酸の分解に及ぼす糖質共存の影響>
高度不飽和脂肪酸としてエイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸100mgを含むメタノール溶液0.5ml、及び糖質として実験1−1方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロース又はマルトテトラオース(林原生物化学研究所製造)の5w/v%水溶液1ml(糖質50mg)を用いた以外は実験7と同様の方法で加熱処理した。加熱処理前後の高度不飽和脂肪酸を実験6の方法に準じてGLCにより定量し、加熱処理前の高度不飽和脂肪酸量と加熱処理後の高度不飽和脂肪酸量とから、加熱による高度不飽和脂肪酸の分解率(%)を求めた。
結果は表11にまとめた。

表11の結果から明らかなように、加熱による高度不飽和脂肪酸の分解に与える影響は、α−マルトシルα,α−トレハロースを共存させた系が、糖質無しの系に比べ、いずれの高度不飽和脂肪酸も分解量が少なく、その分解を抑制し、優れていることが判明した。これに対して、マルトテトラオースを共存させた系では、その抑制作用は認められなかった。
実験9
<加熱による各種脂肪酸類の分解に及ぼす各種糖質共存の影響>
脂肪酸としてα−リノレン酸、リノール酸、オレイン酸又はステアリン酸の100mg、及び糖質として、実験1−1乃至1−4の方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース又はα−マルトペンタオシルα,α−トレハロース、又はこれらα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の原料に使用したマルトテトラオース(林原生物化学研究所製造)、マルトペンタオース(林原生物化学研究所製造)、マルトヘキサオース(林原生物化学研究所製造)及びマルトヘプタオース(林原生物化学研究所製造)、又はα,α−トレハロース(林原生物化学研究所製造)のそれぞれ、無水物換算で、5w/v%水溶液1ml(糖質50mg)を用いた以外は実験6と同様の方法で加熱処理し、加熱処理前後の脂肪酸を実験7の方法に準じてGLCにより定量した。加熱処理前の脂肪酸量と加熱処理後の脂肪酸量とから、実験6の方法に準じて、加熱による脂肪酸の分解率(%)を求めた。
結果は表12にまとめた。


表12の結果から明らかなように、加熱による各種脂肪酸類の分解に与える影響は、α−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース、α−マルトペンタオシルα−トレハロースなどのα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を共存させた系が、糖質無しの系に比べ、いずれの脂肪酸も分解量が少なく、その分解を著しく抑制し、優れていることが判明し、これらα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の脂肪酸類の分解抑制作用は、α,α−トレハロースの抑制作用と比べ、同程度の顕著な抑制作用であることがわかった。これに対して、グルコース重合度が同じマルトオリゴ糖類、即ち、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースを共存させた系では、その抑制作用は認められなかった。
実験10
<脂肪酸類含有物の変敗に及ぼす糖質共存の影響>
脂肪酸類含有物としてマヨネーズを用いて、脂肪酸類含有物の光照射保存時の変化に及ぼす糖質共存の影響を調べた。すなわち、市販のマヨネーズ20質量部に糖質を1質量部加えてかき混ぜ、糖質をマヨネーズに溶解させた。糖質としては、実験1−1の方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロース又はマルトテトラオース(林原生物化学研究所製造)を使用した。このようにして処理したマヨネーズの20gを、それぞれ透明なポリエチレン袋(120mm×85mm、膜厚0.04mm)中に密封し、25℃の恒温器内で蛍光灯を用いて照度9300ルクスの光を照射した。経時的にポリエチレン袋ごとにサンプリングした試料の揮発性アルデヒド類の量、過酸化物価及びカルボニル価を測定した。揮発性アルデヒド類の量は、試料の3gを20ml容バイアル瓶に採取し、ブチルゴム栓で密栓し、80℃に予熱したアルミブロック中で5分間加温した後に採取した2mlのHSGを、以下の条件でGLCに供して測定した。すなわち、GLCの装置はGC−14B(株式会社島津製作所製)、分析カラムはキャピラリーカラムSperuco−WAX(内径0.25mm×長さ60m、膜厚0.25μm;スペルコ株式会社製)、キャリアーガスは流速1.0ml/minのヘリウムガス、インジェクション温度は250℃、カラムオーブン温度は80℃に5分間保持後、5℃/minの速度で240℃まで昇温、検出は水素炎イオン検出器で行った。過酸化物価とカルボニル価は、日本薬学会編、『衛生試験法・注解1990』、金原出版発行(1990年)に記載の方法に準じて抽出処理した試料を、日本油化学協会編、『日本油化学協会制定 基準油脂分析試験法』(1983年)、2.4.12−71項に記載の過酸化物価の測定法及び2.4.22−73項に記載のカルボニル価の測定法にしたがって測定した。なお、糖質を加えない点のみ異なる系を設け、同様に処置して対照とした。揮発性アルデヒド類の量の測定結果を表13に、過酸化物価の測定結果を表14に、カルボニル価の測定結果を表15に、それぞれまとめた。




表13、14及び15の結果から明らかなように、α−マルトシルα,α−トレハロースを共存させた系は、マルトテオラオースを共存させた系や糖質無添加の系と比較して、揮発性アルデヒド類の量、過酸化物価、カルボニル価いずれも低い値を示し、マヨネーズに含まれる油脂の変敗の程度がα−マルトシルα,α−トレハロースの共存により抑制された。この結果、マヨネーズ等の脂肪酸類含有物の光照射保存での変敗が、α−マルトシルα,α−トレハロースの共存によりよく抑制されることが判明した。
実験11
<脂肪酸類含有物の変敗に及ぼす糖質共存の影響>
脂肪酸類含有物として、α−マルトシルα,α−トレハロース又はマルトテトラオースを含有するフライニンジンを温度40℃で14日間保存し、脂肪酸類含有物の変敗に及ぼす糖質共存の影響を調べた。すなわち、ニンジンの皮を剥き、スライサーにかけて、厚さ約5mmのニンジン細断物とし、これを、糖質濃度18%のα−マルトシルα,α−トレハロース又はマルトテトラオースを含む熱水(95℃)で3分間ブランチングした。また、糖質無添加で同様にブランチング処理したものを対照とした。更に、これらを、常法に従って、食用油を使用して減圧フライし、α−マルトシルα,α−トレハロース又はマルトテトラオースを含有するフライニンジンと、対照として、糖質を共存させないフライニンジンとを製造した。これらフライニンジンをそれぞれ重量5gずつ20ml容のバイアル瓶に採取し、ブチルゴム栓で密栓し、温度40℃の恒温室で遮光下で14日間保存した。揮発性アルデヒド類の量の測定は、保存開始時及び保存14日間後に、実験11と同様に処理して行った。結果を表16にまとめた。


表16の結果から明らかなように、フライニンジンからの揮発性アルデヒド類の生成量はフライ時及びフライ後の保存時に共存する糖質の有無及び種類により変り、α−マルトシルα,α−トレハロース共存の場合が、糖質の共存しない場合及びマルテトラオース共存の場合のいずれも場合よりも少なく、α−マルトシルα,α−トレハロースが揮発性アルデヒド類の生成をよく抑制することが判明した。
実験12
<脂肪酸類含有物の変敗に及ぼす糖質共存の影響>
脂肪酸類含有物として、α−マルトシルα,α−トレハロース及び/又はスクロースを含有するドーナツを温度30℃で、7日間及び14日間保持し、脂肪酸類含有物の変敗に及ぼす糖質共存の影響を調べた。すなわち、表17に示す配合でα−マルトシルα,α−トレハロース及び/又はスクロースを含むドーナツ生地を調製し、常法に従ってフライしてドーナツを製造し、この製造直後のドーナツ1個(約6g)当り、濃度50%のα−マルトシルα,α−トレハロース又はスクロース水溶液を約1g噴霧したものをそれぞれ4個ずつアルミラミネート製袋(17×10cm)に入れ、更に、袋内の空気量が約200mlになるよう空気を注入して密封し、温度30℃の恒温室に遮光下で、7日間及び14日間保存した。


揮発性アルデヒド類の量の測定は、保存開始時、保存開始7日後及び14日後に、試料の入った袋を、予め温度80℃に加熱保持しておいた電気オーブンの中に入れ、温度80℃で5分間保持した後、それら袋内のHSGを2mlずつサンプリングし、実験11と同様にGLCに供して行った。結果を表18にまとめた。


表18の結果から明らかなように、ドーナツからの揮発性アルデヒド類の生成量は共存する糖質の種類によって変り、α−マルトシルα,α−トレハロース共存の場合がスクロース(上白糖)共存の場合よりも少なく、α−マルトシルα,α−トレハロースが揮発性アルデヒド類の生成をよく抑制することが判明した。
詳細には、α−マルトシルα,α−レハロースによる揮発性アルデヒド類の生成抑制は、ドーナツ生地にα−マルトシルα,α−トレハロースを配合しても、また、ドーナツ生地にα−マルトシルα,α−トレハロースを配合することなく製造直後のドーナツ表面にα−マルトシルα,α−トレハロース水溶液を噴霧しても、共に効果を発揮することが判明した。さらに、ドーナツ生地にα−マルトシルα,α−トレハロースを配合し、製造直後にもドーナツ表面にα−マルトシルα,α−トレハロース水溶液を噴霧したドーナツは揮発性アルデヒド類の生成量が最も少なく、保存性に優れていた。
実験13
<魚臭の発生に及ぼすα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類含有糖質の影響>
魚臭は、魚肉の酸敗や変性に伴って発生する揮発性アルデヒド類が原因の一つとされている。そこで、揮発性アルデヒド類の発生に及ぼすα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の影響を調べる実験を以下のようにして行った。
<実験13−1:試験試料の調製>
市販のサバの頭部、内臓及び骨の部分を除いたものをミンチ機にかけて、サバ肉のミンチを作成した。これをさらに、均一に練り直した後、その5gを20ml容バイアル瓶に入れ、これに、後述の実施例A−1の方法で調製したα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類含有シラップ或いはスクロース(市販のグラニュー糖)を、無水物換算で5%含有する水溶液5mlを加え、ブチルゴム栓で蜜栓して試験試料を調製した。また、前記サバ肉のミンチを均一に練り直したもの5gに、脱イオン水5mlを加え、ブチルゴム栓で蜜栓して対照試料を調製した。これらの試料を沸騰水中で15分間加熱した後、流水中で冷却した。その後、これらの試料を80℃で5分間再加熱し、各々の試料のヘッドスペースガスに含まれている揮発性アルデヒド量を測定した。
<実験13−2:揮発性アルデヒド量の測定方法>
揮発性アルデヒド量の測定は、試料はヘッドスペースガス2mlを使用して、TC−FFAPキャピラリーカラム(0.52mmID×30m、df=1μm、スプリット比1/30、GLサイエンス社製)を使用し、島津GC−14Bガスクロマトグラフィー装置(水素炎イオン化検出器、株式会社島津製作所販売)を用い、キャリアーガスとしてヘリウムガス(1ml/分)を使用して、カラム温度40〜250℃(昇温5℃/分)の条件で行った。なお、揮発性アルデヒド類として、表19に示す9種類のアルデヒドを測定し、それらを総じて総アルデヒドとした。
対照試料の揮発性アルデヒド類の発生量を、各々100とし、これに対して、各試験試料の揮発性アルデヒド類の発生量の相対値を求めた。その結果を表19に示す。


表19から明らかなように、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類含有シラップを添加した場合には、対照試料に比して、サバのミンチ肉の、加熱よる揮発性アルデヒド類の発生が効果的に抑制された。これに対してスクロースを添加した場合には、総アルデヒド発生は、対照に比して多少低下したものの、アルデヒド類の種類により増強されるものも認められた。以上のことから、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類は他の糖質を含むα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類含有糖質の形態を有する場合でも、魚肉などの組成物からの揮発性アルデヒド類の発生を効果的に抑制することが明らかとなり、魚臭のように魚肉などの組成物から発生する揮発性アルデヒド類に起因する異味や異臭の低減に利用できることが判明した。
以下に、実施例Aで本発明の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤の例を、実施例Bで本発明の脂肪酸含有組成物の例をあげ、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例A−1
濃度20%のとうもろこし澱粉乳に最終濃度0.1%となるように炭酸カルシウムを加えた後、pH6.5に調整し、これにα−アミラーゼ(ノボ社製造、商品名「ターマミール60L」)を澱粉グラム当たり0.2%になるよう加え、95℃で15分間反応させた。その反応液を、120℃で10分間オートクレーブした後、50℃に冷却し、pHを5.8に調整後、澱粉グラム当たり特開昭63−240784号公報に開示されたマルトテトラオース生成アミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製造)を5単位と、イソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製造)を500単位となるように加え、48時間反応させ、これにα−アミラーゼ(上田化学株式会社製造、商品名「α−アミラーゼ2A」)を澱粉グラム当たり30単位加え、更に、65℃で4時間反応させた。その反応液を、120℃で10分間オートクレーブし、次いで45℃に冷却し、特開7−143876号公報に開示されているアルスロバクター・スピーシーズ Q36(FERM BP−4316)由来の非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり2単位の割合になるよう加え、48時間反応させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度70%のシラップを、無水物換算で、収率約90%で得た。本品は、DE 13.7で、無水物換算で、α−マルトシルα,α−トレハロース52.5%、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース1.1%、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース0.4%を含有していた。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。また、本品は、粉末化基剤、製剤用添加剤、澱粉含有食品の結着防止剤、つや出し剤、照り付与剤、保形剤、水分移動抑制剤、変性抑制剤、色素の変色防止剤、鮮度保持剤、風味保持剤、植物の生長促進剤として使用することも随意である。
実施例A−2
実施例1の方法で調製したシラップを常法により噴霧乾燥して非晶質粉末品を調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できるだけでなく、吸湿性が低く、且つ、水溶性も良好であることから、ジュースや油脂などの粉末化基剤としても好適である。また、本品は、製剤用添加剤、澱粉含有食品の結着防止剤、つや出し剤、照り付与剤、保形剤、水分移動抑制剤、変性抑制剤、色素の変色防止剤、鮮度保持剤、風味保持剤、植物の生長促進剤として使用することも随意である。
実施例A−3
実施例A−1の方法で調製したシラップを、塩型強酸性カチオン交換樹脂(ダウケミカル社販売、商品名「ダウエックス50W−X4」、Mg++型)を用いたカラム分画を行った。樹脂を内径5.4cmのジャケット付ステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長20mとした。カラム内温度を55℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに55℃の温水をSV0.13で流して分画し、グルコース及びマルトース高含有画分を除去し、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース高含有画分を集め、更に精製、濃縮後、噴霧乾燥して非晶質状態のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース高含有粉末を調製した。本品は、無水物換算で、α−マルトシルα,α−トレハロース70.2%、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース 2.1%、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース1.1%を含有していた。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。
実施例A−4
馬鈴薯澱粉1質量部に水6質量部を加え、更に、澱粉当たり0.01%の割合になるようにα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製造、商品名「ネオスピターゼ」)を加えて撹拌混合し、pH6.0に調整後、この懸濁液を85乃至90℃に保ち、糊化と液化を同時に起こさせ、直ちに120℃に5分間加熱して、DE1.0未満にとどめ、これを55℃に急冷し、pH7.0に調整し、これに株式会社林原生物化学研究所製造、商品名「プルラナーゼ」(EC 3.2.1.41)及び特開昭63−240784号公報に開示されたマルトテトラオース生成アミラーゼを、それぞれ澱粉グラム当たり150単位及び8単位の割合で加え、pH7.0、50℃で36時間反応させた。この反応液を、120℃で10分間オートクレーブし、次いで、53℃まで冷却し、特開2000−228980号公報に開示されているアルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)由来の非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり2単位の割合になるよう加え、64時間反応させた。この反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型、OH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して、噴霧乾燥して非晶質状態の、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末を、無水物換算で、収率約90%で得た。本品は、DE 11.4で、無水物換算で、α−マルトシルα,α−トレハロース 62.5%、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース 0.8%、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース0.5%を含有していた。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。
実施例A−5
試薬級のマルトテトラオース(株式会社林原生物化学研究所販売、純度97.0%以上)の20%溶液をpH7.0に調整後、特開7−143876号公報に開示されている非還元性糖質生成酵素を、無水物換算で、糖質グラム当たり2単位となるように加えて、46℃で、48時間、糖化して、無水物換算で、79.8%のα−マルトシルα,α−トレハロースを含有する溶液を得た。この溶液を、pH6.0に調整後、無水物換算で、糖質グラム当たり10単位となるようにβ−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)を加えて、50℃で48時間反応させて、マルトテトラオースを分解した。この反応液を、120℃で10分間オートクレーブし、冷却した後、ろ過して得られる溶液を、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂(東京有機化学工業株式会社製造、「XT−1016」、Na+型、架橋度4%)を用いて分画し、α−マルトシルα−トレハロース高含有画分を集め、精製、濃縮後、噴霧乾燥して非晶質状態のα−マルトシルα,α−トレハロース高含有粉末を調製した。本品は、α−マルトシルα,α−トレハロースを98.1%含有しており、ソモジ ネルソン法による測定での還元力測定では、還元力は検出限界以下であった。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。また、本品は還元性がないため、アミノ酸やアミノ基を有する化合物のようなメーラード反応により失活することが問題となる有効成分を含有する健康食品、化粧品、医薬部外品、医薬品、飼料、餌料、化学工業品等の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として好適である。
この標品を、再度水に溶解し、活性炭処理して、パイロジェンを除去し、噴霧乾燥して、非晶質状のα−マルトシルα,α−トレハロース高含有粉末を調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。また、パイロジェンを除去しているので、特に医薬品用の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として好適である。
実施例A−6
実施例A−1の方法で調製したα−オリゴグルコシルα,α−トレハロースを含有するシラップに水を加えて、濃度約60%に調製して、オートクレーブに入れ、触媒としてラネーニッケルを約8.5%添加し、攪拌しながら温度を128℃に上げ、水素圧を80kg/cm2に上げて水素添加して、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロースと共存するグルコース、マルトースなどの還元性糖質を、それらの糖アルコールに変換した後、ラネーニッケルを除去し、次いで、脱色、脱塩して精製し、濃縮してシラップを調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。また、本品は還元性がないため、メーラード反応により失活することが問題となる有効成分を含有する化粧品、医薬部外品、医薬品、健康食品等の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として好適である。また、本品は、粉末化基剤、製剤用添加剤、澱粉含有食品の結着防止剤、つや出し剤、照り付与剤、保形剤、水分移動抑制剤、変性抑制剤、色素の変色防止剤、鮮度保持剤、風味保持剤、植物の生長促進剤として使用することも随意である。
実施例A−7
実施例A−3の方法で調製した非晶質状態のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロースを含有する粉末を水に溶解し、濃度約60%水溶液にし、オートクレーブに入れ、触媒としてラネーニッケルを約9%添加し、攪拌しながら温度を130℃に上げ、水素圧を75kg/cm2に上げて水素添加して、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロースと共存するグルコース、マルトースなどの還元性糖質を、それらの糖アルコールに変換した後、ラネーニッケルを除去し、次いで、脱色、脱塩して精製し、濃縮してシラップを調製した。更にこのシラップを、常法により噴霧乾燥して、非晶質状態の粉末を調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。また、本品は還元性がないため、メーラード反応により失活することが問題となる有効成分を含有する化粧品、医薬部外品、医薬品、健康食品等の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として好適である。また、本品は、粉末化基剤、製剤用添加剤、澱粉含有食品の結着防止剤、つや出し剤、照り付与剤、保形剤、水分移動抑制剤、変性抑制剤、色素の変色防止剤、鮮度保持剤、風味保持剤、植物の生長促進剤として使用することも随意である。
実施例A−8
濃度6%の馬鈴薯澱粉乳を加熱糊化後、pH4.5 温度50℃に調整し、これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり2500単位加えて20時間反応させた。その反応液をpH6.0に調整後、120℃で10分間オートクレーブした後、45℃に冷却し、これにα−アミラーゼ(ノボ社製、商品名「ターマミール60L」)を澱粉グラム当たり150単位になるよう加え、24時間反応させた。その反応液を、120℃で20分間オートクレーブし、45℃に冷却後、特開7−143876号公報に開示されているアルスロバクター・スピーシーズ Q36(FERM BP−4316)由来の非還元性糖質生成酵素を、澱粉グラム当たり2単位の割合で加え、64時間反応させた。この反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型、OH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に、濃縮して、濃度65%の、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップを、無水物換算で、収率約89%で得た。本品は、無水物換算で、α−マルトシルα,α−トレハロース6.5%、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース28.5%、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース4.1%及びα−マルトペンタオシルα,α−トレハロース1.5%含有していた。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。また、本品は、粉末化基剤、製剤用添加剤、澱粉含有食品の結着防止剤、つや出し剤、照り付与剤、保形剤、水分移動抑制剤、変性抑制剤、色素の変色防止剤、鮮度保持剤、風味保持剤、植物の生長促進剤として使用することも随意である。
本品を、実施例A−7の方法に準じて、水素添加し、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロースと共存するグルコース、マルトースなどの還元性糖質を、その糖アルコールに変換した後、常法により精製して、シラップを調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として、有利に利用できる。また、本品は還元性がないため、メーラード反応により失活することが問題となる有効成分を含有する化粧品、医薬部外品、医薬品、健康食品等の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として好適である。また、本品は、粉末化基剤、製剤用添加剤、澱粉含有食品の結着防止剤、つや出し剤、照り付与剤、保形剤、水分移動抑制剤、変性抑制剤、色素の変色防止剤、鮮度保持剤、風味保持剤、植物の生長促進剤として使用することも随意である。
実施例A−9
濃度33%のとうもろこし澱粉乳に最終濃度0.1%となるように炭酸カルシウムを加えた後、pH6.0に調整し、これにα−アミラーゼ(ノボ社製、商品名「ターマミール60L」)を澱粉グラム当たり0.2%になるよう加え、95℃で15分間反応させた。その反応液を、120℃で30分間オートクレーブした後、50℃に冷却し、これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり500単位及び特開平7−236478号に記載のマルトヘキサオース・マルトヘプタオース生成アミラーゼを澱粉グラム当たり1.8単位の割合になるように加え、40時間反応させた。本反応液を、120℃で10分間オートクレーブし、53℃まで冷却後、pH5.7に調整して、特開2000−228980号公報に開示されているアルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)由来の非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり2単位の割合になるよう加え、64時間反応させた。この反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型、OH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して、噴霧乾燥して非晶質状態のα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末を、無水物換算で、収率約87%で得た。本品は、無水物換算で、α−マルトシルα,α−トレハロース 6.5%、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース5.6%、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース21.9%、及びα−マルトペンタオシルα,α−トレハロース9.3%含有していた。本品は、そのままで使用しても、或いは、常法により精製してα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含量を増やした場合でも、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として有利に利用できる。また、粉末化基剤、製剤用添加剤、澱粉含有食品の結着防止剤、つや出し剤、照り付与剤、保形剤、水分移動抑制剤、変性抑制剤、色素の変色防止剤、鮮度保持剤、風味保持剤、植物の生長促進剤として使用することも随意である。
本品を、実施例A−7の方法に準じて、水素添加しα−オリゴグルコシルα,α−トレハロースと共存するグルコース、マルトースなどの還元性糖質を、その糖アルコールに変換した後、常法により精製後、噴霧乾燥して、非晶質状態の粉末を調製した。本品は、そのままで使用しても、或いは、常法により精製してα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含量を増やした場合でも、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として、有利に利用できる。また、本品は還元性がないため、メーラード反応により失活することが問題となる有効成分を含有する化粧品、医薬部外品、医薬品、健康食品等の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として好適である。また、本品は、粉末化基剤、製剤用添加剤、澱粉含有食品の結着防止剤、つや出し剤、照り付与剤、保形剤、水分移動抑制剤、変性抑制剤、色素の変色防止剤、鮮度保持剤、風味保持剤、植物の生長促進剤として使用することも随意である。
実施例A−10
水90質量部に、実施例A−6の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップ40質量部、塩化カルシウム0.1質量部及びクエン酸0.2質量部を溶解混合し、容器に充填、加熱殺菌し、更に冷却して、シラップ状製品を得た。本品は、シラップ状の、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として、脂肪酸類含有物の保存及び/又は加工処理材料、とりわけ、各種水産品・畜産品可食部の保存及び/又は加工処理材料に有利に利用できる。
実施例A−11
実施例A−2の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末25質量部、無水結晶トレハロース(株式会社林原商事販売)25質量部及び食塩50質量部を均一に混合して粉末製品を得た。本品は、粉末状の、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として、脂肪酸類含有物の保存及び/又は加工処理材料に、とりわけ、マヨネーズ、ドレッシングなどの油性調味料や焙煎種実などの調味材料、更には、各種水産品・畜産品可食部の低塩度塩漬用材料などとして有利に利用できる。
実施例A−12
実施例A−3の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末20質量部、β−シクロデキストリン含有粉末(登録商標「デキシパール」、株式会社林原商事販売)2質量部、及びプルラン1質量部を均一に混合した後、常法に従って、造粒機で造粒して顆粒製品を得た。本品は、顆粒状の、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として、脂肪酸類含有物の保存及び/又は加工処理材料に有利に利用できる。
実施例A−13
実施例A−7の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末25質量部、無水結晶マルチトール(登録商標「マビット」、株式会社林原商事販売)25質量部、プルラン1質量部、酒石酸0.1質量部及びリンゴ酸0.1質量部を均一に混合し、常法に従って、打錠機で打錠して、直径8mm、厚さ4.5mmの錠剤を得た。本品は、錠剤状の、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤として、脂肪酸含有物の保存及び/又は加工処理材料、とりわけ、各種水産品・畜産品可食部を調理して、惣菜、鍋物等を調製する際に有利に利用できる。
実施例B−1
<魚卵加工品>
実施例A−10の方法で得たシラップ状抑制剤を容器にとり、水で5倍希釈液とし、これに新鮮カズノコをざるに入れて浸漬し、1時間経過後ざるを上げて液切りして製品を得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、冷蔵保存で変化が少なく、冷凍保存して解凍時のドリップが少なく、いずれの場合も、その鮮度をよく保持した。また、本品を、常法に従って、調理加工しても、揮発性アルデヒド類のみならずトリメチルアミンの臭気も低く、風味良好で、食感も良かった。
実施例B−2
<干物>
生フグのフィレー100質量部に実施例A−11の方法で得た食塩含有粉末状抑制剤3質量部を均一にまぶして薄塩をし、次いでロール掛けして厚さ約8mmに延ばし、更に実施例A−10の方法で得たシラップ状抑制剤200質量部に30分間浸漬し、液切りし、一夜乾燥して製品を得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その鮮度をよく保った干物であった。また、本品を、常法に従って、あぶっても揮発性アルデヒド類のみならずトリメチルアミンやエチルメルカプタンなどの臭気も低く、風味良好で食感もよかった。
実施例B−3
<煮干し>
大釜に水100質量部を沸かし、これに実施例A−12の方法で得た顆粒状抑制剤2質量部を溶解し沸騰させ、次いで、これに生カタクチイワシ10質量部をざるに入れて浸漬して茹で上げ、ざるから取り出し、常法に従って乾燥させて製品を得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、だしもよく取れ、その色調が良好な上、風味も豊かである。
実施例B−4
<アサリのむき身>
大釜に水100質量部を沸かし、これに、実施例A−1の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップ3質量部を混合して沸騰させ、次いで、これに生アサリ10質量部をざるに入れて浸漬して茹で上げ、ざるから取り出し、常法に従って、アサリの水煮むき身を得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、色、艶も良く、風味良好であった。本品を、更に佃煮にすることも、シーフードカレー、五目御飯などの調理材料に利用することも有利に実施できる。
実施例B−5
<茹でダコ>
生タコ10質量部を実施例A−11の方法で得た食塩含有粉末状抑制剤を用いて、常法に従って塩もみし、これを、実施例A−13の方法で得た錠剤状抑制剤3質量部を水100質量部に溶解し沸かした大釜に入れ茹で上げ、茹でダコを得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、色、艶も良く、風味良好であった。本品を、適当な大きさの切り身にし、寿司ネタに使うことも、酢の物、おでん等の惣菜に用いることも有利に実施できる。
実施例B−6
<ニシンの酢漬>
生ニシンのフィレーを、実施例A−11の方法で得た食塩含有粉末状抑制剤を用いて、常法に従って薄塩し、室温で1時間経過後、これを食酢100質量部に実施例A−8の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップ(水素添加処理)5質量部及びコンブ出し1質量部を溶解した調味液につけ、室温で5時間保ってニシンの酢漬を得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、色、艶も良く、風味良好であった。本品を、適当な大きさの切り身にし、寿司のネタに使うことも、酢の物等の惣菜に用いることも有利に実施できる。
実施例B−7
<ブリの煮付け>
生ブリの切り身100質量部を鍋に取り、これに実施例A−1の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップ10質量部、醤油10質量部及びみりん5質量部及び水10質量部を加え、常法に従って煮付けてブリの煮付けを得た。本品は揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、色、艶も良く、風味良好であった。
実施例B−8
<魚肉練製品>
解凍したスケソウすり身4,000質量部に対し、実施例A−12の方法で得た顆粒状抑制剤80質量部、グルタミン酸ナトリウム80質量部、馬鈴薯澱粉200質量部、氷水300質量部、トリポリリン酸ナトリウム12質量部、食塩120質量部およびマルチトール10質量部とを溶解しておいた水溶液100質量部を擂潰し、約120gずつを定形して板付した。これらを、内部の品温が約80℃になるように30分間蒸し上げた。続いて、室温で放冷した後、4℃で24時間放置して魚肉練製品を得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、風味良好で、肌面が細やかで、艷やかな光沢を有しており、食感も良好であった。
実施例B−9
<ピーナッツクリーム>
実施例A−6の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップ55質量部を加熱しつつ、これに、ピーナッツバター12質量部、ショートニング6質量部、無糖練乳5質量部、乳化剤0.4質量部、食塩0.2質量部、増粘剤0.5質量部、香料適量及び水18質量部を均一に混合溶解し、以後常法に従って煮詰め、瓶詰めしてピーナッツクリームを得た。
本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、色、艶とも良く、風味も良好であった。
実施例B−10
<小麦粉>
精選した小麦100質量部に、実施例A−3の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末を水に糖濃度約40%になるように希釈した水溶液2質量部を噴霧混合し、常法に従って製粉して、小麦粉を得た。本品は、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース約0.3%を含有し、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、保存安定性に優れた高品質の小麦粉である。本品は、製菓、製パン、パスタ、麺、冷凍ピザ、各種プレミックスなどに有利に利用できる。また、本製粉工程で副産物として得られた小麦麩は、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロースを含有しており、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その保存安定性も良好で、小麦胚芽油の原料や配合飼料の原料などとして有利に利用できる。
実施例B−11
<米粉山食パン>
グルテンを含有する米粉((株)斉藤製粉製、商品名『こめの粉(パン用)』)100質量部、高純度含水結晶トレハロース((株)林原商事販売、商品名『トレハ』(α,α−トレハロース含量98%以上))を無水物換算で3.5質量部、実施例A−4で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末を無水物換算で5質量部、セルロース誘導体(第一工業製薬(株)製、商品名『セロゲン』(カルボキシメチルセルロースナトリウム)2質量部、砂糖3質量部、食塩2質量部、海洋酵母(三共フーヅ(株)製)2.5質量部、生クリーム10質量部、無糖練乳5質量部、ショートニング4質量部、水80質量部をミキサーを用い、23℃で、低速6分、中速3分で混捏し、一時停止した後、更に中速で4分間混捏し、生地を作成した。次いで、これをフロアータイムとして50分間発酵させた。生地は分割比容積3.5(234g×4個)に分割して丸めを行い、20分間のベンチタイムを取った後、型下3.5cmの容器に入れて山食パンに成形を行い、40℃、湿度80%のホイロにて50分間の発酵を行った。発酵終了後、上火230℃、下火200℃のオーブンにて45分間焼成し、米粉山食パンを調製した。
本実施例で調製した山食パンは、容積の増加量が大きく、ふっくら膨らみ、色調も良好であって、断面の綺目も程良く、食味も良かった。また、α,α−トレハロース及びα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を含有していることから、揮発性アルデヒド類の生成及び又は脂肪酸類の分解をよく抑制していた。更に、1週間冷蔵庫内(5℃)で放置した後のパンの食感も殆ど変化がなく、硬化によるパサツキも見られず保存性もよかった。
実施例B−12
<サラダ油>
精選した大豆100質量部を圧扁した後、これに実施例A−4の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末を水に糖濃度約25%になるように希釈した水溶液4質量部をできるだけ均一に噴霧混合し、次いで、常法に従って、加熱処理し、溶剤(n−ヘキサン)で脂質を抽出し、減圧蒸留して溶剤を除去し、更に、脱ガム、脱塩、脱色、脱臭、ウィンタリングを含む精製工程を経て、大豆サラダ油を製造した。本製油工程中、加熱処理時における揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解がよく抑制され、高品質のサラダ油が容易に製造できる。本品は、高品質で保存安定性に優れ、例えば、天ぷら、フライ用の油脂として、また、マヨネーズ、ドレッシング用油脂として有利に利用できる。また、本製油工程で副産物として得られた脱脂大豆はα−オリゴグルコシルα,α−トレハロースを含有しており、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その保存安定性も良好で、豆腐、油揚、きな粉、味噌、醤油などの原料として、また、配合飼料の原料などとして有利に利用できる。
実施例B−13
<ドレッシング>
食酢35質量部、実施例A−4の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末15質量部、塩2.5質量部を混合し、胡椒を少々加えてよく攪拌した。次いで、これにサラダ油50質量部を少しずつ加えながらさらに攪拌を続けてドレッシングを調製した。本品は揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その保存安定性も良好で、サラダなどの調味用ドレッジングなどとして有利に利用できる。
実施例B−14
<マヨネーズ>
ミキサーに卵黄17質量部、食酢13質量部、実施例A−2の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末3質量部、砂糖1質量部、香辛料1質量部及びサラダ油65質量部を撹拌混合し、次いで、常法に従って、ホモゲナイザーにかけ、濾過後、容器に充填してマヨネーズを製造した。本品は、色調が良好で、風味も豊かな上、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、保存安定性に優れた商品価値の高いマヨネーズである。
実施例B−15
<焙煎アーモンド>
精選したアーモンド100質量部を常法に従って焙煎し、この高温の焙煎アーモンドを撹拌しつつ、実施例A−7の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末を水に糖濃度約20%になるように溶解した水溶液2質量部をできるだけ均一に噴霧混合し、次いで、粉末状の食塩をまぶして焙煎アーモンドを得た。本品は、風味の優れた焙煎アーモンドで、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その保存安定性が良好で、そのままおやつとして、また、各種製菓、製パン材料などとして有利に利用できる。
実施例B−16
<焙煎スライスアーモンド>
市販のスライスアーモンド(厚さ約1mm)を、実施例A−6の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップに70℃で10分間浸漬し、水切りし、次いで、電子オーブンを用いて180℃で焙煎し、色調、テクスチャー、風味のいずれの点においても良好な焙煎スライスアーモンドを得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その保存安定性も良好で、そのままおやつとして、また、各種製菓・製パン材料などとして有利に利用できる。また、本品は、焙煎したスライスアーモンドの表面を無色透明で光沢のあるα−オリゴグルコシルα,α−トレハロースのキャンディーで薄く覆われており、見栄えのする高品質の製品である。
実施例B−17
<減圧フライリンゴ>
リンゴを洗浄し、スライサーにかけて得た、厚さ約5mmのリンゴ細断物を、実施例A−9の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末を水で希釈するとともに食塩を添加して調製した、糖濃度約30%及び食塩約0.1%の60℃の水溶液に15分間浸漬し、水切りし、次いで、−20℃で凍結保存した。これを常法にしたがって食用油脂を使用して減圧フライし、形状、テクスチャー、風味のいずれの点においても良好な減圧フライリンゴを得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その保存安定性も良好であり、そのままおやつとして、また、各種製菓・製パン材料などとして有利に利用できる。
実施例B−18
<減圧フライニンジン>
ニンジンの皮を剥き、スライサーにかけて、厚さ約5mmのニンジン細断物とし、これを食塩約0.1%及び実施例A−3の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末約40%を含む60℃の水溶液に20分間浸漬し、水切りし、次いで、ブランチングを2分間行い、更に常法にしたがって、食用油脂を使用して減圧フライし、形状、テクスチャー、風味のいずれの点においても良好な減圧フライニンジンを得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その保存安定性も良好であり、そのままおやつとして、また、各種製菓・製パン材料、即席食品の具材などとして有利に利用できる。
実施例B−19
<チューインガム>
ガムベース3重量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに無水結晶マルチトール((株)林原商事販売、登録商標『マビット』)2重量部、キシリトール2重量部、及び実施例A−1の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末3重量部を加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。本品は、ガムベースに配合されている硬化油からの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解がよく抑制され、テクスチャー、呈味、風味良好で、チューインガムとして好適である。
実施例B−20
<キャラメル>
砂糖115質量部、練乳140質量部、実施例A−7の方法で得た粉末状抑制剤170質量部を35℃に加温して撹拌混合し、更に、硬化油42質量部、バター30質量部、乳化剤3質量部を加えて、撹拌、乳化させた後、122℃になるまで加温して煮詰めた。加熱を止めて、食塩1質量部と少量の香料を添加し、混合後、冷却盤に流して冷却し、8mm厚に均一にのばし、カッターで切断してキャラメルを調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解がよく抑制され、保存性の良い高品質なキャラメルである。
実施例B−21
<即席麺>
小麦粉(強力粉)98.5質量部、実施例A−4の方法で得た粉末状の抑制剤1.5質量部と0.5%のかん水30質量部を添加し、常法により、練り、厚さ0.9mmの麺線を調製し、1分15秒間蒸し器で蒸した後、145℃のサラダオイルで1分20秒間フライして即席麺を調製した。
この即席麺を密封容器に入れて1年間室温で保存後、容器から取り出し、熱湯を加えて3分間放置した後、試食したところ、調製直後の粘りと弾力がよく維持されており、また、保存中における揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解がよく抑制された美味しい麺であった。
実施例B−22
<ベーコン>
食塩22質量部、実施例A−4の方法で得た粉末状の抑制剤2.5質量部、砂糖2質量部、乳酸ナトリウム2質量部、ポリリン酸ナトリウム2.0質量部、アスコルビン酸0.5質量部、亜硝酸ナトリウム0.2質量部、水68.8質量部を混合して溶解し、ピックル液を調製した。豚の肋肉9質量部に対してピックル液1質量部を、肉全体にまんべんなく浸透するように時間をかけて注入後、常法によりスモークして、ベーコンを調製した。スモーク後、一夜室温に放置し、スライスしたベーコンを真空包装して、10℃で保存した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解がよく抑制されており、保存1週間後においても、製造直後の風味をよく保持していた。また、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類に加えて乳酸ナトリウムを添加していることから、雑菌の繁殖も抑制される。また、冷凍保存後、解凍しても、蛋白の変性が抑制され、離水もなく、風味良好であった。
実施例B−23
<アイスクリーム>
生クリーム(油脂含量約46%)18質量部、脱脂粉乳7質量部、全乳51質量部、砂糖8質量部、実施例A−2の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末6質量部、ラクトスクロース含有粉末(登録商標『乳果オリゴ』)4質量部、黒練り胡麻3質量部、プルラン1質量部、及びアラビアガム2質量部の混合物を溶解し、70℃で30分間保って殺菌した後、ホモゲナイザーで乳化分散させ、次いで、3乃至4℃にまで急冷して一夜熟成した後、フリーザーで凍結させてアイスクリームを得た。本品は、胡麻風味のアイスクリームで、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、保存安定性も良好で、口当たりもよく、オーバーランも適当であった。また、本品は、ラクトスクロースを含有していることから、ビフィズス増殖活性を有する健康食品としても有利に利用できる。
実施例B−24
<麦茶>
精選した大麦100質量部を常法に従って焙煎し、この高温の焙煎大麦に、実施例A−1の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップを水で糖濃度10%に希釈した水溶液2質量部を均一に噴霧混合し、通風乾燥し、小袋に充填、包装して麦茶を得た。本品は、風味の優れた麦茶で、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、その保存安定性に優れている。
実施例B−25
<緑茶飲料>
緑茶(煎茶)3質量部を熱水180質量部で浸出し、この浸出液に、L−アスコルビン酸、α−グルコシルルチン(商品名『αGルチン』、株式会社林原商事販売)及び実施例A−2の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末を、それぞれ、濃度0.05%(w/v)、0.01%(w/v)及び0.7%(w/v)になるように添加して溶解し、次いで、500ml容プラスチック製透明ボトルに充填し、殺菌して、ボトル入り緑茶飲料を製造した。本品は、揮発性アルデヒド類の精製及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、褐変が防止され、緑茶本来の色調、風味に優れた高品質の緑茶飲料で、その保存安定性も良好である。
実施例B−26
<ローヤルゼリー粉末>
ローヤルゼリー(水分含量65%)1質量部に対して実施例A−4で調製した粉末状の抑制剤3質量部、含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)2質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原生物化学研究所販売)0.5質量部を添加し撹拌溶解後、常法により、減圧乾燥してローヤルゼリー粉末を得た。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解が抑制された高品質のローヤルゼリー粉末である。また、水溶解性も高いことから、そのままで、或いは、造粒、打錠するなどして健康食品やその他の飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品などの原料として使用することも随意である。
実施例B−27
<小麦胚芽加工品>
冷凍した生小麦胚芽78質量部を解凍後、実施例A−2の方法で調製した粉末状の抑制剤20質量部に、予め調製しておいたプルラン(株式会社林原商事販売、商品名『プルランPF−20』)の5%水溶液2質量部を加えて混合し、これを密閉式エクストルーダーに入れて加熱、混練して、押し出して造粒、乾燥した。これをさらに、常法により焙煎して、小麦胚芽加工品を調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解が抑制されるた小麦胚芽食品であり、芳ばしくて、風味が豊かであり、食べやすい上に保存安定性にも優れている。また、本品は、セレン、亜鉛をはじめとするミネラル類、ビタミン類や食物繊維を豊富に含有しているので、このまま、健康補助食品として、あるいは、その他の飲食物の原料として好適である。
実施例B−28
<ブロッコリー粉末>
市販のブロッコリーを水洗後、厚さ約3mm程度に細切りした。これをステンレス製の籠に入れて、蒸気で蒸してブランチングした後、その90質量部に対して、実施例A−3の方法で調製した粉末状の抑制剤10質量部を加えて混合、溶解して、ブロッコリーにオリゴグルコシルα,α−トレハロース類を含浸させた後、55℃で14時間通風乾燥した。このブロッコリーを粉砕機で粉砕し、ブロッコリー粉末を調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解が抑制されたブロッコリー粉末であり、ブロッコリーの色調、風味及び栄養素が長時間安定に保持されることから、健康食品又はその原料として好適である。
実施例B−29
<昆布粉末>
乾燥昆布100質量部に対して、実施例A−4の方法で調製した粉末状の抑制剤を3%含有する水溶液600質量部を加えて、その全量を昆布に吸収させた。これを、ステンレス製のメッシュ上に拡げ、通風乾燥機を用いて60℃、16時間乾燥して乾燥昆布を調製した。この乾燥昆布を、粉砕機を用いて粉砕し、平均粒径が約11μmの昆布粉末を調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解が抑制された昆布粉末であり、吸湿もなく、長期間保存してもその風味がよく保持されることから、粉末調味料や健康補助食品の原料として好適である。
実施例B−30
<椎茸粉末>
市販の乾燥椎茸100質量部を粗砕して3乃至4mm径のチップ状とした。次いで、800質量部の水に対して実施例A−7の方法で調製した粉末状の抑制剤450質量部とプルラン(株式会社林原商事販売、商品名『プルランPF−20』)の24質量部を溶解し、この全量を前記のチップ状の乾燥椎茸に加え、その全量を吸収させた。これを、トレイに拡げて通風乾燥機を用いて、60℃、18時間乾燥して乾燥した。この方法で得た乾燥椎茸を、粉砕機で粉砕して水分含量約6%の椎茸粉末を調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解が抑制された椎茸粉末であり、吸湿もなく、長期間保存してもその風味がよく保持されることから、粉末調味料や健康補助食品の原料として好適である。
実施例B−31
<鰹節粉末>
実施例A−9の方法で調製した水素添加後の粉末状の抑制剤を、無水物換算で濃度35%になるように溶解した水溶液に、3枚におろした新鮮な本鰹の身を入れ、煮熟して常法により鰹節を製造した。この鰹節を、粉砕機で粉砕し、水分含量約5%の鰹節粉末を調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解が抑制された鰹節粉末であり、吸湿もなく、長期間保存してもその風味がよく保持されることから、粉末調味料や健康補助食品の原料として好適である。
実施例B−32
<プロセスチーズ>
粉砕した市販のゴーダチーズ150質量部、水7.5質量部、実施例A−4で調製した粉末状の抑制剤3質量部、乳化剤としてクエン酸ナトリウム4.5質量部を乳化釜に投入し、攪拌しながらスチームジャケットにて間接的に加熱し80℃で約10分間保って溶融した。次いで、加熱を止めてさらに攪拌、減圧脱気し、チーズが50℃以上の高温の内に容器に充填、包装してプロセスチーズを調製した。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解が抑制された良質のプロセスチーズである。
実施例B−33
<揚げ物用衣材料>
薄力粉90質量部、コーンスターチ5質量部、ベーキングパウダー1.5質量部、に実施例A−9で調製し、水素添加したα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有粉末3.53質量部を混合し、揚げ物用衣材料(天麩羅粉)を調製した。常法により、本品は、非還元性の糖質を含み天麩羅を揚げたときの褐変が抑制された揚げ物用衣材料であった。本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解が抑制された揚げ物をつくる上で好適である。
実施例B−34
<リキュール>
市販のリキュール95質量に、実施例A−1の方法で調製したα−マルトシルα,α−トレハロース含有シラップ5質量部を添加、混合した。本品は、脂肪酸の分解が抑制されたリキュールである。また、本品を、魚など魚介類や魚卵などの調理や加工に使用する調味液に使用すると、これらに含まれる脂肪酸の分解を抑制し、加熱などによる揮発性アルデヒド類の生成を抑制することから、風味の良い、調理品或いは加工品を製造することができる。
実施例B−35
<チョコレートムース>
チョコレート70質量部をきざみ、湯せんにかけて溶かし、これにバター13質量部を加えて練り、湯せんにかけたままで卵黄30質量部を少しずつ加えてよくかきまぜた後、とろみがついた時点で火からおろした。これに、粉末ゼラチン6質量部を少量の水でふやかし湯せんで溶かしたものとラム酒を少々加えチョコレート入りペーストを調製した。次いで、卵白60質量部に砂糖12質量部及び実施例A−2で調製した粉末状のα−グリコシルα,α−トレハロース含有糖質6質量部を加えて堅く泡立て、チョコレート入りペーストに加え、器に入れて冷やし固めてチョコレートムースを調製した。
本品は、α−グリコシルα,α−トレハロースを含有していることから、チョコレート、バター、卵などに含まれる脂肪酸の分解を抑制して揮発性アルデヒド類の生成を抑制することから、良い風味を長く保つ、高品質のチョコレートムースである。
実施例B−36
<入浴剤>
実施例A−4で調製した粉末状の抑制剤5質量部、硫酸ナトリウム40質量部、炭酸水素ナトリウム31質量部、炭酸ナトリウム20質量部、香料4質量部を混合し、ピンミルで粉砕し入浴剤を製造した。本品は、汗、アカ、フケ、皮脂などからの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、体臭発生の予防、皮膚刺激やかゆみの予防などに有利に利用できる。
実施例B−37
<化粧用乳液>
ポリオキシエチレンベヘニルエーテル0.5質量部、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール1.0質量部、親油型モノステアリン酸グリセリン1.0質量部、ベヘニルアルコール0.5質量部、アボガド油1.0質量部、リノール酸0.1質量部およびビタミンE、防腐剤の適量を、常法に従って加熱溶解し、これに、1,3−ブチレングリコール5.0質量部、L−乳酸ナトリウム3.5質量部、実施例A−6の方法で得たα−オリゴグルコシルα,α−トレハロース含有シラップ3.0質量部、カルボキシビニルポリマー0.1質量部および精製水80.3質量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて撹拌混合し乳液を製造した。
本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、高品質を安定に保つ色白剤である。また、汗、アカ、フケ、皮脂などからの揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、体臭発生の予防、皮膚刺激やかゆみの予防、さらには、シミ、ソバカス、日焼けなど色素沈着症剤の治療用、予防用などに有利に利用できる。本品は非還元性糖質を配合しているため、保存中の褐変も抑制された高品質の化粧用乳液である。
実施例B−38
<注射用脂肪乳剤>
大豆サラダ油10質量部、大豆レシチン1.0質量部、水90質量部および実施例A−5の方法で得たパイロジェンを除去したα−マルトテトラオシルα,α−トレハロース高含有粉末10質量部をミキサーにて10分間撹拌混合して粗乳化液を得、これを加圧噴射型乳化機(マントン・ゴーリン社製)で窒素気流中、600kg/cm2にて均質化して平均粒径0.2μ以下の水中油型微粒子乳剤とし、以下常法に従って膜濾過して無菌化し、注射用バイアル瓶に分注して施栓し、これを加熱滅菌して静脈注射用脂肪乳剤を製造した。
本品は、揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解をよく抑制し、高品質を安定に保つ静脈注射用脂肪乳剤である。また、本品はエネルギー補給用の経口摂取用又は経管投与用流動食としても好適である。
【産業上の利用可能性】
上記したように、本発明は、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を含有せしめることにより、脂肪酸類又は脂肪酸類含有物からの揮発性アルデヒド類の生成自体及び/又は脂肪酸類の分解自体を抑制する方法と、この方法で得られた組成物を提供するものであり、併せて、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を有効成分とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤とその用途を提供するものである。また、本発明は、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、非還元性の糖質で安定であることから、脂肪酸類又は脂肪酸類含有物、例えば、飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの原料又は中間加工物を保存及び/又は加工処理するに際して、それに含まれるビタミン、アミノ酸、ペプチド等の栄養成分、旨味成分を破壊することが少なく、得られる組成物は高品質を安定に保つ特徴を有している。従って、本発明の確立は、脂肪酸類及び/又は脂肪酸類含有物の新たな保存及び/又は加工処理手段を提供するのみならず、利用面においても高品質で安定な飲食物、化粧品、医薬品、又はこれらの原料乃至中間加工物など各種組成物を提供することとなり、これが与える影響は広く、とりわけ、農水畜産品、飲食品、健康食品、更には、化粧品、医薬品等の業界に与える産業的意義は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を対象物に含有せしめることを特徴とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項2】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、α−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース、及びα−マルトペンタオシルα,α−トレハロースから選ばれる1種又は2種以上の糖質であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項3】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、非晶質状態であることを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項4】
脂肪酸類含有物を、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の共存下で、保存及び/又は加工処理して揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制することを特徴とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項5】
脂肪酸類が、脂肪酸、脂肪酸塩及び脂肪酸エステルから選ばれる請求の範囲第4項記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項6】
脂肪酸類が高級脂肪酸類である請求の範囲第4項又は第5項記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項7】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、α−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース、及びα−マルトペンタオシルα,α−トレハロースから選ばれる1種又は2種以上の糖質であることを特徴とする請求の範囲第4項乃至第6項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項8】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、非晶質状態であることを特徴とする請求の範囲第4項乃至第7項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項9】
脂肪酸類に対して、無水物換算で、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を約12.5質量%以上含有せしめることを特徴とする請求の範囲第4項乃至第8項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項10】
脂肪酸類含有物に対して、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を無水物換算で約0.1質量%以上、溶解、融解、分散、混合、懸濁、浸漬、付着、晶出、被覆、散布又は噴霧を含む工程により共存させて、保存及び/又は加工処理することを特徴とする請求の範囲第4項乃至第9項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項11】
揮発性アルデヒド類が、炭素数が10以下のアルデヒドから選ばれる1種又は2種以上のアルデヒドである請求の範囲第4項乃至第10項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項12】
脂肪酸類含有物における、トリメチルアミンの生成及び/又はエチルメルカプタンの生成をも抑制する請求の範囲第4項乃至第11項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項13】
脂肪酸類含有物を、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類の共存下、保存及び/又は加工処理して揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制した脂肪酸類含有組成物。
【請求項14】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、α−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース、及びα−マルトペンタオシルα,α−トレハロースから選ばれる1種又は2種以上の糖質であることを特徴とする請求の範囲第13項記載の脂肪酸類含有組成物。
【請求項15】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、非晶質状態であることを特徴とする請求の範囲第13項又は第14項記載の脂肪酸類含有組成物。
【請求項16】
組成物が、飲食物、化粧品、医薬品、又はこれらの原料乃至そ中間加工物である請求の範囲第13項乃至第15項のいずれかに記載の脂肪酸類含有組成物。
【請求項17】
飲食物、又はこの原料乃至中間加工物が、油脂、乳化剤、果物・野菜加工品、種実ペースト、餡、いも粉、生種実、精白穀類、粉末穀類、焙煎種実、農産品、水産品、畜産品、調味料、和菓子、洋菓子、茶類、米加工品、小麦加工品、大豆加工品、発酵飲食物、畜肉加工品、魚肉練製品、珍味、惣菜食品、乳加工品、卵加工品、瓶・缶詰、茶飲料、清涼飲料、アルコール飲料、即席食品、冷凍食品、離乳食、治療食、健康食品、ペプチド食品及び飼料原料又はこれを含有する配合飼料から選ばれるものである請求の範囲第16項に記載の脂肪酸類含有組成物。
【請求項18】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を有効成分とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤。
【請求項19】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類が、α−マルトシルα,α−トレハロース、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース、及びα−マルトペンタオシルα,α−トレハロースから選ばれる1種又は2種以上の糖質であることを特徴とする請求の範囲第18項記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤。
【請求項20】
α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類とともに還元性糖質、非還元性糖質、シクロデキストリン類、水溶性多糖類、香辛料、酸味料、旨昧料、酒類、水溶性多糖類、無機塩、乳化剤、酸化防止剤、活性酸素消去作用を有する物質、紫外線吸収作用を有する物質及びキレート作用を有する物質から選ばれる他の物質の1種又は2種以上を含有せしめた請求の範囲第18項又は第19項記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤。
【請求項21】
無水物換算で、α−オリゴグルコシルα,α−トレハロース類を約10質量%以上含有している請求の範囲第18項乃至第20項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤。
【請求項22】
請求の範囲第18項乃至第21項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤を含有せしめることを特徴とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項23】
脂肪酸類含有物に、請求の範囲第18項乃至第21項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤を溶解、融解、分散、混合、懸濁、浸漬、浸透、付着、晶出、被覆、散布又は噴霧を含む工程により含有せしめ、保存及び/又は加工処理することを特徴とする揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制する方法。
【請求項24】
脂肪酸類含有物に、請求の範囲第18項乃至第21項のいずれかに記載の揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解抑制剤を含有せしめ、保存及び/又は加工処理して揮発性アルデヒド類の生成及び/又は脂肪酸類の分解を抑制した脂肪酸類含有組成物。
【請求項25】
組成物が、飲食物、化粧品、医薬品、又はこれらの原料乃至中間加工物である請求の範囲第24項記載の脂肪酸類含有組成物。

【国際公開番号】WO2004/072216
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504971(P2005−504971)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001409
【国際出願日】平成16年2月10日(2004.2.10)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】