説明

揮発性有機化合物のガス定量発生装置

【課題】微量なVOCを定量的に発生させることが可能であり、また輸送時などのVOCによる拡散フィルタの漏れおよび濡れを容易に防止することが可能であり、さらに測定場所での設置が容易である、簡便かつ高性能のVOCガス定量発生装置を提供すること。
【解決手段】揮発性有機化合物を収容する容器と、容器の開口部を覆いかつ揮発性有機化合物から発生するガスを容器の外部に拡散させる拡散口を有するキャップと、キャップの拡散口を覆いかつガスの拡散を制御する拡散フィルタとを備えるガス定量発生装置において、拡散フィルタとしてポリマー粒子を焼結して得られる焼結フィルタを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物(VOC)からガスを発生させるための加熱装置およびポンプなどの動力源なしに、VOCガスを定量的に発生させる装置に関する。より詳細には、容器に収容したVOCを特定のフィルタを通して分子拡散させることによって、VOCガスを定量的に発生させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCガスを定量的に発生させる装置の代表例として、インピンジャーと、エアーポンプと、シリカゲル管と、流量計とを備えた装置が挙げられる(非特許文献1を参照)。このような装置では、インピンジャー内にVOC溶液を注入し、その液面上に空気を一定の流量で流すことによって、VOCガスを外部に拡散させている。しかし、このような装置は、(1)VOCからガスを発生させるためにエアーポンプ等の動力源が必要である、(2)配管が長く露結しやすい、(3)発生するガスの濃度がばらつきやすい、(4)発生するガスを低濃度に制御することが困難であるなどの点で改善が望まれている。
【0003】
VOCガスを定量的に発生させる装置の別の例として、パーミエーションチューブまたはディフュージョンチューブにVOCを導入し、VOCを分子拡散させることによって、動力源なしにガスを発生させる装置が挙げられる(非特許文献2)。パーミエーションチューブを用いた装置の具体例として、フッ素樹脂管にVOC(液化ガス)を封入し、管壁を通って一定量の液化ガスが浸透拡散するように管を恒温に保持することによって、微量濃度の標準ガスを連続的に発生させる装置が挙げられる。しかし、このようなパーミエーションチューブは、装置の大部分を構成することになるため、(1)ガスの発生量が多くなりすぎ、一定濃度のガスを発生させるためには空気や窒素などの希釈ガスを定量的に供給する必要がある、(2)測定時にチューブが汚染されやすく、測定誤差が生じ易いなどの点で改善が望まれている。一方、ディフュージョンチューブを用いた装置の具体例として、ガラス製液体溜め容器の上部に円柱状の拡散塔を設け、容器内に導入したVOCを拡散塔の上部から蒸発拡散させる装置が挙げられる。しかし、このような装置は、拡散塔の上部が開口しているため、風などの外部環境の影響を受けやすく、ガスの発生量がバラツキ易い点で改善が望まれている。
【0004】
VOCガスを定量的に発生させる装置のさらに別の例として、スクリュー管などのVOCを収容する容器にシリコーン膜を被せ、さらに穴開きキャップで封止した構造を有する装置が挙げられる(非特許文献3)。しかし、このような装置は、(1)容器の密閉性が悪くキャップの隙間からVOCの液体やガスが漏れやすく、発生速度にバラツキが生じやすい、(2)シリコーン膜では透過量が多くなるため、ガスの発生量が多くなりやすい、(3)スクリュー管およびシリコーン膜の固体差が大きいため、発生装置間の性能にバラツキが生じやすい、(4)装置の輸送時などにVOCでシリコーン膜が濡れやすく、またシリコーン膜が濡れるとガスの発生速度にバラツキが生じやすくなる、などの点で改善が望まれている。(4)に関しては、輸送時の拡散フィルタの濡れを防止するために、設置場所でVOCをスクリュー管に導入する場合もあるが、設置場所でVOCを撒き散らす可能性があること、そのことによって作業者がVOCに触れ、また測定時に誤差を生じるなどの点でさらなる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「環境化学」Vol.12、P847−854(2002)
【非特許文献2】ガステックホームページ、「校正用ガス発生装置」(平成17年11月○日検索)、インターネット<URL:http://www.gastec.co.jp/fp top japan.htm>
【非特許文献3】平成14年度厚生科学研究補助金、総括報告書H13−生活−017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、VOCガスを定量的に発生させる装置に関するいくつかの報告があるが、いずれについてもさらなる改善が望まれているのが現状である。したがって、本発明は、微量なVOCガスを定量的に発生させることが可能であり、また輸送時などのVOCによる拡散フィルタの漏れおよび濡れを容易に防止することが可能であり、さらに測定場所での装置設置が容易である、簡便かつ高性能のVOCガス定量発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、分子拡散によってVOCガスを定量的に発生させる装置について鋭意検討を行い、容器に収容したVOCを特定の拡散フィルタを介し分子拡散させることによってVOCガスの微量な拡散を精度良く制御することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下に関する。
【0008】
本発明による揮発性有機化合物のガス定量発生装置の第1の態様は、揮発性有機化合物を収容する容器と、上記容器の開口部を覆い、かつ上記揮発性有機化合物から発生するガスを上記容器の外部に拡散させる拡散口を有するキャップと、上記キャップの拡散口を覆い、かつ上記ガスの拡散を制御する拡散フィルタとを備え、上記拡散フィルタがポリマー粒子を焼結して得られる焼結フィルタであることを特徴とする。ここで、焼結フィルタの孔径は、5〜300μmの範囲であることが好ましい。
【0009】
本発明による揮発性有機化合物のガス定量発生装置の第2の態様は、揮発性有機化合物を収容する第1の容器と、上記第1の容器の開口部を覆うキャップと、上記キャップを貫通し、上記揮発性有機化合物から発生するガスを上記第1の容器の外部に誘導する誘導管と、上記誘導管によって誘導された上記ガスの拡散を制御する拡散フィルタを有する拡散塔とを備え、上記拡散フィルタがポリマー粒子を焼結して得られる焼結フィルタであることを特徴とする。ここで、上記焼結フィルタの孔径は、5〜300μmの範囲であることが好ましい。
また、本発明によるガス定量発生装置では、上記第1の容器全体を収容する第2の容器をさらに有し、上記誘導管が上記第2の容器の開口部を覆う第2のキャップを貫通し、上記ガスを第2の容器の外部に誘導することが好ましい。上記ガスの拡散速度は、20℃において0.01〜0.50mg/時であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるガス定量発生装置は、ポンプなどの駆動部を備える装置と比較して極めて簡便であり、測定場所での設置が容易であるとともに、VOCガスの微量な拡散を精度良く制御することが可能である。さらに、本発明によるVOCガス定量発生装置によれば、装置運搬時のVOCの漏れ、VOCによる拡散フィルタの濡れといった問題を確実に防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるVOCガス定量発生装置の構造を例示する斜視図である。
【図2】本発明によるVOCガス定量発生装置の別の構造を例示する斜視図である。
【図3】本発明によるVOCガス定量発生装置の別の構造を例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明によるガス定量発生装置について図面を用いて詳細に説明する。但し、図に示すガス定量発生装置は本発明の一実施形態を例示するものにすぎず、それらによって本発明を限定することを意図したものではない。
図1は、本発明によるVOCガス定量発生装置の構造を例示する模式図である。図1に示すように、ガス定量発生装置10は、揮発性有機化合物(VOC)20を収容する容器30と、容器30の開口部を覆い、かつVOCから発生するガスを容器30の外部に拡散させる拡散口(不図示)を有するキャップ40と、キャップ40の拡散口を覆い、かつガスの拡散を制御する拡散フィルタ50とを備え、拡散フィルタ50がポリマー粒子を焼結して得られる焼結フィルタであることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明によるガス定量発生装置に適用可能な揮発性有機化合物(VOC)は、常温での蒸気圧が高く、常圧での沸点が低い、一般な有機溶剤であってよく、特に限定されるものではない。具体的には、ヘキサン、2,4−ジメチルペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、およびウンデカン等の脂肪族径化合物が挙げられる。また、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、およびトリメチルベンゼン等の芳香族系化合物が挙げられる。また、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素、ジクロロプロパン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロジブロモメタン、およびパラジクロロベンゼン等の有機塩素系化合物が挙げられる。さらに、その他の化合物として、パーフルオロジメチルシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン、パーフルオロオアリルベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ブタノール、ピネン、およびリモネン等が挙げられる。
【0014】
本発明による装置に適用可能な容器30の形状は、少なくとも1つの開口を有し、VOCを収容することが可能であれば如何なる形状を有してもよく、特に限定されるものではない。しかし、取り扱い性の観点から、バイアル瓶などの瓶の形状を有するものが好ましい。また、容器30は、VOCに耐性を有するとともに容器自体からVOCを発生しない材料から形成されることが好ましい。そのような材料の例として、ガラス、テフロン(登録商標)、およびステンレスが挙げられる。
【0015】
容器の開口部を覆うキャップ40の形状は、VOCガスを容器の外部に拡散させる少なくとも1つの拡散口を有し、かつ開口部の形状に対応する外形を有していればよく、特に限定されるものではない。キャップ40は、例えば、図1に示したように容器の開口部に嵌め込み可能な形状としても、開口部上面に覆い被せる形状としてもよい。但し、キャップは、VOCおよびVOCガスが漏れないように密閉性に優れた材料から形成されることが好ましく、そのような材料として、テフロン(登録商標)、テフロン(登録商標)/シリコーン、ネオプレンゴム、およびブチルゴムが挙げられる。また、容器の開口部とキャップとの密閉性を高めるために、必要に応じてアルミテープなどのシール材を適用してもよい。
【0016】
キャップに設けられる拡散口は、特に限定されるものではないが、直径で0.3mm〜50mm程度とすることが好ましく、2mm〜20mm程度とすることがより好ましい。拡散口の大きさが0.3mm以下となると、拡散フィルタの取り付けが困難となる傾向がある。一方、拡散口の大きさが50mmを超えると、拡散フィルタによってVOCガスの発生量を制御することが困難となる傾向がある。
【0017】
拡散フィルタ50の形状は、キャップ40に設けられた拡散口の形状に対応する外形を有していればよく、特に限定されるものではない。拡散フィルタは、例えば図1に示したようにキャップの拡散口に嵌め込み可能な形状としても、拡散口上面に覆い被せる形状としてもよい。但し、本発明で使用する拡散フィルタは、ポリマー粒子を燒結して得られるフィルタ(以下、「ポリマー粒子焼結フィルタ」と称す)でなければならない。例えば、シリコーン又はテフロン(登録商標)を延伸成型した薄膜を拡散フィルタとして適用した場合、それらフィルタにおける孔径のバラツキが大きいため、微量のVOCガスを定量的に発生することが困難である。
【0018】
本発明で使用するポリマー粒子燒結フィルタは、当技術分野で周知の方法に従い、ポリマー粒子を金型に均一に充填した後に加熱しながら成型し、次いで冷却することによって容易に製造することが可能である。ポリマー粒子焼結フィルタの製造方法については、例えば特開2001−171205号公報、および特開2001−004609号公報を参照することが可能である。ポリマー粒子燒結フィルタの具体例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、フッ素樹脂等の樹脂からなる1〜500μm粒子を焼結して成型したものが挙げられる。なかでも、フィルタの成型が容易であるという点で、ポリエチレンまたはポリプロピレンの粒子を用いて製造したフィルタが好ましい。このようなポリマー粒子燒結フィルタは孔径が均一となるため、それらを拡散フィルタとして使用することによって、VOCから発生するガスの拡散を精度よく制御することが可能である。
【0019】
ポリマー粒子燒結フィルタは、キャップの拡散口の大きさ、およびVOCの拡散性を考慮して成型することが好ましい。より具体的には、直径で0.3mm〜50mm程度とすることが好ましく、2mm〜20mm程度とすることがより好ましい。フィルタの大きさが0.3mm以下となると、拡散口への取り付けが困難となる傾向がある。一方、フィルタの大きさが50mmを超えると、VOCガスの発生量を制御することが困難となる傾向がある。
【0020】
ポリマー粒子焼結フィルタの厚さは、0.5mm〜10mm程度とすることが好ましい。フィルタの厚さが0.5mmよりも薄くなると、測定時に風などの外部環境の影響を受け易くなる傾向がある。一方、フィルタの厚さが300mmを超えると、フィルタにおける孔径のバラツキが大きくなる傾向があり、これは測定時の誤差が発生する原因となる。
ポリマー粒子焼結フィルタにおける孔径は、5μm〜300μm程度が好ましく、10μm〜200μm程度とすることがより好ましく、20μm〜100μm程度とすることがさらに好ましい。フィルタの孔径を5μmよりも小さくすると、そのようなフィルタを製造することは困難である。一方、フィルタの孔径を300μmよりも大きくすると、測定時に風および湿度等の外部環境の影響を受け易くなる傾向がある。
【0021】
図2は、本発明によるVOCガス定量発生装置の別の構造を例示する模式図である。図2に示すように、ガス定量発生装置10は、VOC20を収容する第1の容器30aと、第1の容器30aの開口部を覆う第1のキャップ40aと、キャップ40aを貫通し、VOCから発生するガスを第1の容器30aの外部に誘導する誘導管60と、誘導管60によって誘導されたVOCガスの拡散を制御する拡散フィルタ50を有する拡散塔70とを備え、拡散フィルタ50が先に説明したポリマー粒子焼結フィルタであることを特徴とする。このような構造を有するガス定量発生装置は、VOCから発生するガスの拡散量を微量に制御することが望まれる場合、特に20mg/時間(h)以下の拡散速度が望まれる場合に効果的である。本発明によれば、例えば、20℃におけるヘキサフロロベンゼンの拡散速度を0.01〜0.50mg/hの範囲に制御することが可能である。なお、上述の拡散速度は、ガス発生による重量減少を時間ごとに測定した結果として得られた値である。
【0022】
図2は、本発明によるVOCガス定量発生装置に適用可能な容器は特に限定されるものではなく、図1を参照しながら先に説明した通りである。また、キャップは、拡散口を持たずに容器の開口部を完全に密閉することが可能であることを除き、その形状および材料については図1に沿って先に説明した通りである。
【0023】
図2を参照すると、誘導管60は、キャップ40aを貫通し、VOCから発生するガスを第1の容器30aの外部に誘導することが可能であれば、その形状は特に限定されるものではない。取り扱いに優れ、寸法精度に優れているため市販の注射針を誘導管として適用することが好ましく、特に内径が0.15mm〜4.00mm程度の注射針が好ましい。内径が0.15mmよりも小さくなると、ガスの発生量が少なくなりすぎ、定量的なガスの発生を達成することが困難となる傾向がある。一方、内径が4.00mmよりも太くなると、キャップに針を貫通させることが困難となる傾向がある。その結果、キャップが傷付きガス漏れ、針先へのキャップ材料片の詰まりが生じる可能性があり、ガスを定量的に発生させることが困難となる場合がある。針の長さは、容器の大きさ、および容器に収容されるVOCの量に合わせて、VOCの液面に針の先端が浸からないように調整する。VOCの液面に針の先端が浸ると、VOCガスを定量的に発生させることが出来なくなる。
【0024】
図2を参照すると、誘導管60によって誘導されたVOCガスは、拡散フィルタ50を備えた拡散塔70を通って外部に拡散される。拡散フィルタ50はポリマー粒子焼結フィルタであり、拡散塔70の形状に対応した形状とすることを除き、先に説明した通りである。拡散塔70は一定の内径を有する円筒形状とすることが好ましいが、その内径および長さはガスの拡散速度を考慮して適宜調整することが望ましい。誘導管60への取り付けが簡便であるため、先端に突起部を有するシリンジを拡散塔として使用することが好ましい。シリンジの突起部に注射針を差し込むことによって、シリンジを注射針に容易に固定することが可能であり、また優れた密閉性を得ることも可能である。拡散塔への拡散フィルタの取りつけは、誘導管と拡散塔とを固定した後に実施するか、あるいは誘導管との固定に先立ち予め実施してもよい。
【0025】
図3は、本発明によるVOCガス定量発生装置の別の構造を例示する模式図である。図3に示すように、ガス定量発生装置10は、先に図2に沿って説明したガス定量発生装置を概略収容する第2の容器30bを有する。すなわち、第1の容器30aを覆う第1のキャップ40aを貫通する誘導管60が連続して第2の容器30bの開口部を覆う第2のキャップ40bを貫通し、第1の容器30aに収容されたVOCから発生したガスを第2の容器30bの外部まで誘導することを特徴とする。誘導管60によって第2の容器30bの外部まで誘導されたVOCガスは、拡散フィルタ50を備えた拡散塔70を通って装置の外部に拡散する。このような構造を有するガス定量発生装置では、図2に示した装置と同様にガスの発生量をより少なく制御することが可能となるだけでなく、容器を多重に設置することによって、容器とキャップとの間、および誘導管とキャップとの間といった隙間から漏れたガスが装置の外部に拡散することを効果的に防止することが可能である。また、そのようなガスの漏れを防止することによって、拡散塔などの装置における所定の位置のみからガスを定量的に発生させることが可能となる。
【0026】
なお、設置する容器の数が増える(装置がより多重構造になる)につれて、VOCガスの漏れは減少するが、装置が嵩張り、重くなり、それらの移動は面倒になる。そのため、追加する容器は、2〜3個(2〜3重構造)とすることが好ましく、実用面を考慮すると2重構造とすることが望ましい。装置を多重構造にする場合、最も内側となる容器のみにVOCを収容し、各々の容器の開口部にそれぞれキャップを設け、それら複数のキャップに注射針などの誘導管を貫通させる。なお、針の先端は最も内側となる容器に収容されたVOCの液面に浸からないようにしなければならない。
【0027】
図2および図3に示したように、容器の開口部を覆うキャップに貫通させた誘導管を有する装置では、測定直前に注射針などの誘導管をキャップに突き刺して貫通させればよい。そのため、作業者がVOCに直接触れる必要がなく、また測定場所でVOCを溢すなどの操作ミスの心配なしに装置を容易に設置することが可能である。さらに、装置の運搬は、誘導管なしで行うことが可能であり、VOCは容器内に密閉された状態となる。そのため、運搬時の揺れまたは転倒によってVOCが拡散フィルタを濡らすことがなく、いつでも定量的に精度良くガスを発生させることが可能である。
【0028】
以上説明したように、本発明によるガス定量発生装置によれば、ポンプなどの駆動部を有する複雑な装置を使用せずに、ポリマー粒子焼結フィルタを拡散フィルタとして使用することで微量のVOCガスを定量的に発生させることが可能である。また、VOCガスの発生を拡散フィルタに加えて誘導管および拡散塔を通して実施することによって、拡散速度をより厳密に制御することが可能である。例えば20℃におけるヘキサフロロベンゼンの拡散速度を0.01〜0.50mg/hの範囲に制御することが可能である。さらに、装置内の容器を多重構造にすることによって、望ましくないガス漏れおよび濡れといった問題を改善することが可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更することが可能である。
【0030】
(実施例1)
(1)VOC定量発生装置の作製
本実施例は、図3に示した多重構造を有するVOCガス定量発生装置に関する。最初に、内容器(スペルコ製の2ml褐色クリンプトップバイアル)に、1mlのヘキサフルオロベンゼン(和光純薬(株)製)を注入し、容器の開口部をブチルゴム製のキャップ(スペルコ製のストッパー(商品名))で覆った。この内容器を外容器(スペルコ製の5ml褐色クリンプトップバイアル)に挿入し、外容器の開口部をブチルゴム製のキャップ(スペルコ製のストッパー(商品名))で覆い密閉した。
次に、内径5mm、長さ4cmのポリエチレン製シリンジの内部にポリプロピレン粒子を燒結して得られた直径5mmおよび厚さ2mmの焼結フィルタ(孔径50μm)を挿入することによって拡散塔を作製した。次に、誘導管としてテルモ(株)製の注射針20G「NN−2038R」(商品名)を長さ3cmに切断し、それを先に調製した拡散塔のシリンジ突起部に固定した。最後に、拡散塔を固定した注射針を外容器および内容器の各キャップを貫通させることによって装置を完成した。
【0031】
(2)VOCガスの拡散速度の測定
VOCガスの拡散(発生)速度の測定は、温度20℃に設定した実験室において、先に作製したVOCガス定量発生装置を静置し、VOCガスの発生に伴うヘキサフルオロベンゼンの重量減少について100時間にわたり4時間ごとに測定してプロットし、その傾きから求めた。そのような測定の結果、拡散速度は0.176mg/hであり、時間と重量減少量との相関係数は0.999とバラツキが殆どなく、微量なVOCガスが定量的に発生していることが確認できた。
【0032】
(実施例2)
誘導管としてテルモ(株)製の注射針18G「NN−1838R」(商品名)を用いたことを除き、全て実施例1と同様にしてVOCガス定量発生装置を作製した。作製した装置を用いて、ヘキサフルオロベンゼンについて実施例1と同様にして測定を行ったところ、ガスの拡散速度は0.32mg/hであり、相関係数は0.998であり、微量なVOCガスが定量的に発生していることが確認できた。
【0033】
(実施例3)
誘導管としてテルモ(株)製の注射針22G「NN−2232R」(商品名)を用いたことを除き、全て実施例1と同様にしてVOCガス定量発生装置を作製した。作製した装置を用いて、ヘキサフルオロベンゼンについて実施例1と同様にして測定を行ったところ、ガスの拡散速度は0.09mg/hであり、相関係数は0.999であり、微量なVOCガスが定量的に発生していることが確認できた。
【0034】
(比較例1)
本実施例は、分子拡散による従来のVOCガス発生装置に関する。最初に、容器として2mlスクリュー管を用い、容器内にヘキサフルオロベンゼン1ml(和光純薬(株)製)を注入した。次に、容器の開口部に拡散フィルタとして直径6mm、厚さ2mmの東京硝子機器製シリコーン膜で覆った後に、中央に5.5mmの開口部を有するポリプロピレン製スクリューキャップを設けて容器を密閉することによってVOCガス発生装置を作製した。作製した装置を用いて、実施例1と同様にして測定を行ったところ、ガスの拡散速度は1.6mg/hであり、相関係数は0.906であった。比較例1の装置は、本発明による装置と比較してガスの発生量が大きく、また測定時のバラツキも大きいことが明らかであった。
【符号の説明】
【0035】
10:VOCガス定量発生装置
20:VOC
30、30a、30b:容器
40、40a、40b:キャップ
50:拡散フィルタ(ポリマー粒子焼結フィルタ)
60:誘導管
70:拡散塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物を収容する第1の容器と、
前記第1の容器の開口部を覆うキャップと、
前記キャップを貫通し、前記揮発性有機化合物から発生するガスを前記第1の容器の外部に誘導する誘導管と、
前記誘導管によって誘導された前記ガスの拡散を制御する拡散フィルタを有する拡散塔と
を備え、前記拡散フィルタがポリマー粒子を焼結して得られる焼結フィルタであることを特徴とする、揮発性有機化合物のガス定量発生装置。
【請求項2】
前記焼結フィルタの孔径が、5〜300μmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のガス定量発生装置。
【請求項3】
前記第1の容器全体を収容する第2の容器をさらに有し、前記誘導管が前記第2の容器の開口部を覆う第2のキャップを貫通し、前記ガスを第2の容器の外部に誘導することを特徴とする、請求項1または2に記載のガス定量発生装置。
【請求項4】
前記ガスの拡散速度が、20℃において0.01〜0.50mg/時であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のガス定量発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−16701(P2012−16701A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177102(P2011−177102)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【分割の表示】特願2005−334352(P2005−334352)の分割
【原出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(502181665)シグマアルドリッチジャパン株式会社 (6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】