説明

揮発性有機化合物の分離膜及び揮発性有機化合物の分離除去方法

【課題】 透過性及び選択除去性の両方に優れた揮発性有機化合物の分離膜を提供することを課題とする。また、該揮発性有機化合物の分離膜を用いた揮発性有機化合物の分離除去方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 容積比1倍以上のトリクロロメタン又は容積比1.64倍以上のベンゼンを溶解するイオン性液体が基材に担持されてなることを特徴とする揮発性有機化合物の分離膜などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物の分離膜、及び揮発性有機化合物の分離除去方法に関するものであり、具体的には例えば、水中に含まれたベンゼン、トルエン、トリクロロメタンなどの揮発性有機化合物を分離除去することができる揮発性有機化合物の分離膜、及び該分離膜を用いた揮発性有機化合物の分離除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中に排出されたときに気体となり得るベンゼン、トルエン、トリクロロメタンなどの揮発性有機化合物、いわゆるVOCなどと称されている揮発性有機化合物は、環境中に放出されることにより公害などを引き起こし得ることから、環境中に放出される前に分離除去されることが要望されているものである。
【0003】
従来、例えば、揮発性有機化合物と水とを含む揮発性有機化合物含有液から該揮発性有機化合物を分離除去するための分離膜としては、該揮発性有機化合物含有液を揮発性有機化合物が濃縮された濃縮液と水を主成分とする透過液とに分離すべく多孔性無機膜で形成された分離膜などが知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、斯かる揮発性有機化合物の分離膜は、必ずしも分離性能に優れるものではなく、例えば、分離膜を透過する水の透過性を上げるように分離膜を設計すると、揮発性有機化合物も分離膜を透過しやすくなり、揮発性有機化合物が選択的に濃縮除去される性能、即ち選択除去性が下がるという問題がある。即ち、優れた透過性及び選択除去性を両立することが比較的困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−066530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、透過性及び選択除去性の両方に優れた揮発性有機化合物の分離膜が要望されている。
【0007】
本発明は、上記の問題点、要望点等に鑑み、透過性及び選択除去性の両方に優れた揮発性有機化合物の分離膜を提供することを課題とする。また、該分離膜を用いた揮発性有機化合物の分離除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、容積比1倍以上のトリクロロメタン又は容積比1.64倍以上のベンゼンを溶解するイオン性液体が基材に担持されてなる分離膜が、透過性及び選択除去性の両方に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。詳しくは、揮発性有機化合物が比較的少ない揮発性有機化合物含有液等の分離除去操作において比較的多量の水が分離膜を透過することを要する上記従来の分離膜ではなく、揮発性有機化合物を透過させることにより揮発性有機化合物含有液から揮発性有機化合物を分離除去する分離膜であって、透過性及び選択除去性の両方に優れる分離膜を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の揮発性有機化合物の分離膜は、容積比1倍以上のトリクロロメタン又は容積比1.64倍以上のベンゼンを溶解するイオン性液体が基材に担持されてなることを特徴とする。
前記揮発性有機化合物の分離膜においては、該分離膜に含まれている前記イオン性液体が揮発性有機化合物と親和性を有することから、該分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性の両方が優れたものとなり得る。
【0010】
本発明の揮発性有機化合物の分離膜は、前記イオン性液体がパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含んでいることが好ましい。
【0011】
本発明の揮発性有機化合物の分離膜は、前記基材が、分子中にポリジメチルシロキサン構造を有する高分子化合物で形成されていることが好ましい。前記基材が分子中にポリジメチルシロキサン構造を有する高分子化合物で形成されていることにより、分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性がより優れたものになり得るという利点がある。
【0012】
本発明の揮発性有機化合物の分離膜は、前記イオン性液体を5〜30重量%含有していることが好ましい。前記分離膜が前記イオン性液体を5重量%以上含有していることにより、分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性がより優れたものになり得るという利点がある。また、それ以上用いても、分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性がイオン性液体の量の増加に伴って高まりにくくなるという点で、前記分離膜が前記イオン性液体を30重量%以下含有していることが好ましい。
【0013】
本発明の揮発性有機化合物の分離除去方法は、前記揮発性有機化合物の分離膜の一方側に揮発性有機化合物と水とを含む揮発性有機化合物含有液が配されるように該分離膜を配置し、前記分離膜の揮発性有機化合物含有液の側の圧力よりも該分離膜の他方側の圧力を低くし、揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物が前記分離膜を透過することにより揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の揮発性有機化合物の分離膜は、透過性及び選択除去性の両方に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】FT−IRのスペクトル図。
【図2】揮発性有機化合物の分離除去方法の例を示す図。
【図3】分離膜におけるベンゼンの透過性及び選択除去性を表すグラフ。
【図4】分離膜表面における水の静的接触角及び分離膜に吸着したベンゼンの量を表すグラフ。
【図5】分離膜のメチルメタクリレート相、ポリジメチルシロキサンメタクリレート相におけるガラス転移点、及び、分離膜の膨潤度を表すグラフ。
【図6】分離膜におけるベンゼンの透過性及び選択除去性を表すグラフ。
【図7】分離膜の走査型電子顕微鏡写真。
【図8】分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性を表すグラフ。
【図9】分離膜におけるベンゼンの透過性及び選択除去性を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る揮発性有機化合物の分離膜の実施形態について詳しく説明する。
【0017】
本発明の実施形態である揮発性有機化合物の分離膜は、容積比1倍以上のトリクロロメタン又は容積比1.64倍以上のベンゼンを溶解するイオン性液体と基材とを含み、該イオン性液体が前記基材に担持されてなるものである。
【0018】
前記分離膜は、前記基材に担持されているイオン性液体が容積比1.64倍以上のベンゼン又は容積比1倍以上のトリクロロメタンを溶解するものであることから、ベンゼン又はトリクロロメタンなどの揮発性有機化合物との親和性が高い。即ち、前記分離膜は、前記イオン性液体を含むため、例えば親水性の多孔性無機膜のみで形成された膜と比較して揮発性有機化合物との親和性が高く、揮発性有機化合物と比較的高い親和性を有する。
従って、前記分離膜においては、揮発性有機化合物と該分離膜との高い親和性により、揮発性有機化合物が該分離膜と優先的に吸着し得る。そして、揮発性有機化合物が分離膜を優先的に透過できる。従って、該分離膜は、揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性の両方に優れる。
【0019】
前記イオン性液体は、容積比1倍以上のトリクロロメタン又は容積比1.64倍以上のベンゼンを溶解するものである。即ち、20℃においてイオン性液体1mLに対して1mL以上のトリクロロメタンを溶解するもの、又は、20℃においてイオン性液体1mLに対して1.64mL以上のベンゼンを溶解するものである。また、アニオンとカチオンとを含むものであり、通常、室温(20℃)で液体状をなす有機化合物塩である。
【0020】
前記イオン性液体としては、従来公知のものを用いることができ、該イオン性液体は、分離膜の基材の材質、又は分離除去する揮発性有機化合物の種類等によって適宜選択できる。
【0021】
前記イオン性液体のアニオンとしては、例えば、BF4-、NO3-、PF6-、SbF6-、CH3CH2OSO3-、CH3CO2-、又はフルオロアルキル基含有アニオン等が挙げられる。
前記フルオロアルキル基含有アニオンとしては、CF3CO2-、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオン等が挙げられる。
【0022】
前記パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンとしては、CF3SO3-、(CF3SO22-、(CF3SO23-等が挙げられる。
【0023】
前記イオン性液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、又はホスホニウム等が挙げられる。
【0024】
前記イミダゾリウムとしては、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム、1,3−ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
前記ピリジニウムとしては、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、1−エチル−3−メチルピリジニウム等が挙げられる。
前記ピロリジニウムとしては、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム等が挙げられる。
前記ピペリジニウムとしては、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
前記テトラアルキルアンモニウムとしては、N,N,N,−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
前記ピラゾリウムとしては、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0025】
前記イオン性液体としては、これら各種アニオンと各種カチオンとを組み合わせたものを採用することができる。なかでも、フルオロアルキル基含有アニオンを含むイオン性液体が好ましく、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含むイオン性液体がより好ましい。
イオン性液体がフルオロアルキル基含有アニオンを含むことにより、分離膜と揮発性有機化合物との親和性が高まり、揮発性有機化合物をより効率的に分離除去できる。また、イオン性液体がパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含むことにより、即ち、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含むイオン性液体が基材に担持されてなる分離膜であることにより、分離膜と揮発性有機化合物との親和性が高まり、揮発性有機化合物をさらに効率的に分離除去できるという利点がある。
【0026】
具体的には、前記イオン性液体としては、例えばアニオンとしてのパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンと、カチオンとしてのイミダゾリウムとを組み合わせた塩を用いることが好ましく、より具体的には、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いることが好ましい。
また、前記イオン性液体としては、例えばアニオンとしてのパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンと、カチオンとしてのピラゾリウムとを組み合わせた塩を用いることが好ましく、より具体的には、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いることが好ましい。
【0027】
前記イオン性液体が分離膜に含まれる量としては、特に限定されるものではないが、揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性の両方をより向上させ得るという点で、分離膜に対して5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上がさらに好ましい。また、必要以上の量を用いなくとも揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性の両方に優れるという点で、分離膜に対して30重量%以下が好ましい。
【0028】
前記基材は、通常、前記分離膜の形状を維持する役割を担う。該基材には、前記イオン性液体が該基材に包含されたり、該基材に吸着したりすることによって担持されている。
【0029】
前記基材の材質としては、無機物、有機物などが挙げられる。
前記無機物としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)などのセラミックス、ガラス等が挙げられる。
前記有機物としては、α,β−エチレン性不飽和モノマー重合体、ポリエステル、ポリアミドなどの高分子化合物が挙げられる。また、ポリジメチルシロキサン誘導体やポリホスファゼン誘導体などが挙げられる。
【0030】
前記基材は、材質が無機物である場合、平均細孔径が5〜5000nmであり平均細孔率が20〜60%である多孔質のものが好ましい。また、α-アルミナ、シリカ、ジルコニア等の複合物で形成されたものなどが採用され得る。該基材は、比表面積が比較的大きいという点で、中空糸状の構造であることが好ましい。
【0031】
前記基材は、材質が有機物である場合、後述する揮発性有機化合物の分離除去方法において前記分離膜が該分離膜両側の圧力差に耐えられるという点で、通常、比較的強度を有する高分子化合物で形成されている。
【0032】
前記基材は、分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性がより優れたものになり得るという点で、前記基材が分子中にポリジメチルシロキサン構造を有する高分子化合物で形成されていることが好ましい。
即ち、前記基材は、下記式(1)で表される構造を分子中に有する高分子化合物で形成されていることが好ましい。即ち、ジメチルシロキサン構造単位を分子中に有する高分子化合物で形成されていることが好ましい。
【0033】
【化1】

【0034】
上記式(1)におけるn、即ち、ジメチルシロキサン構造の平均繰り返し数は、特に限定されるものではないが、分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性がより優れたものになり得るという点で、n=50〜80であることが好ましく、n=60〜70であることがより好ましい。
【0035】
前記分子中にポリジメチルシロキサン構造を有する高分子化合物としては、ポリジメチルシロキサン構造を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーの重合体、ポリジメチルシロキサン構造を有する重合開始剤により重合されてなる重合体などが挙げられる。
【0036】
該ポリジメチルシロキサン構造を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーは、後述する他のα,β−エチレン性不飽和モノマー等と重合することによりグラフト重合体を形成し得るものである。
【0037】
該ポリジメチルシロキサン構造を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル基含有ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。
【0038】
前記ポリジメチルシロキサン構造を有する重合開始剤としては、熱などによって分裂してラジカルを発生し得るものが挙げられる。
詳しくは、該重合開始剤としては、分子中にアゾ基やペルオキシド構造などのラジカル発生部分とポリジメチルシロキサン構造とを有する重合開始剤が挙げられ、より詳しくは、分子中にアゾ基とポリジメチルシロキサン構造とを有する重合開始剤が挙げられる。
【0039】
該ポリジメチルシロキサン構造を有する重合開始剤は、後述する他のα,β−エチレン性不飽和モノマー等との重合反応によりブロック重合体を形成し得るものである。
【0040】
分子中にポリジメチルシロキサン構造を有さない他の重合性のモノマーとしては、例えば、他のα,β−エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
該他のα,β−エチレン性不飽和モノマーは、ポリジメチルシロキサン構造を有するα,β−エチレン性不飽和モノマー、又は、ポリジメチルシロキサン構造を有する重合開始剤と重合反応して、分子中にポリジメチルシロキサン構造を有する高分子化合物になり得る。
【0041】
該他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン及びその誘導体類などが挙げられる。また、その他にも、例えば、(メタ)アクリロニトリル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、ステアリン酸ビニル、マレイン酸ジアルキルエステル、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、又は、含フッ素α,β−エチレン性不飽和モノマーなどが挙げられる。
これらモノマーは、1種が単独で又は2種以上が組み合わされて採用され得る。
【0042】
分子中にポリジメチルシロキサン構造を有する高分子化合物としては、好ましくは、(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル基含有ポリジメチルシロキサンとが共重合された高分子化合物、スチレンと(メタ)アクリル基含有ポリジメチルシロキサンとが共重合された高分子化合物、又は、分子中にアゾ基とポリジメチルシロキサン構造とを有する重合開始剤でスチレンが重合された高分子化合物が挙げられる。
なかでも、分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性がより優れたものになり得るという点で、スチレンと(メタ)アクリル基含有ポリジメチルシロキサンとが共重合された高分子化合物、又は、分子中にアゾ基とポリジメチルシロキサン構造とを有する重合開始剤でスチレンが重合された高分子化合物が好ましく、分子中にアゾ基とポリジメチルシロキサン構造とを有する重合開始剤でスチレンが重合された高分子化合物がより好ましい。
【0043】
分子中にポリジメチルシロキサン構造を有する高分子化合物における、ジメチルシロキサン構造単位の含有量は、特に限定されるものではないが、分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性がより優れたものになり得るという点で、(メタ)アクリル酸エステル又はスチレン10モルに対するジメチルシロキサン構造単位が4モル以上であることが好ましく、6モル以上であることがより好ましい。また、前記分離膜の強度を比較的大きく保てるという点で、(メタ)アクリル酸エステル又はスチレン10モルに対するジメチルシロキサン構造単位が23モル以下であることが好ましく、15モル以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、前記膜の厚さは、特に限定されるものではなく、通常、80μm〜300μm程度である。
【0045】
次に、前記揮発性有機化合物の分離膜の製造方法について説明する。
【0046】
本実施形態の揮発性有機化合物の分離膜の製造方法では、容積比1.64倍以上のベンゼン又は容積比1倍以上のトリクロロメタンを溶解するイオン性液体を基材に担持させる。
【0047】
前記揮発性有機化合物の分離膜は、前記基材の材質が無機物である場合、例えば、イオン性液体を溶解させた有機溶媒に前記基材を浸漬し、その後、有機溶媒を揮発除去することによりイオン性液体を基材に担持させて製造することができる。
【0048】
また、前記揮発性有機化合物の分離膜は、前記基材の材質が有機物としての高分子化合物である場合、例えば、イオン性液体及び該高分子化合物の両方を溶解する有機溶媒に、イオン性液体及び該高分子化合物を溶解させた高分子溶液を調製し、その後、所定の形状の型枠に所定量の該高分子溶液から、有機溶媒を蒸発除去することにより、イオン性液体を基材に担持させて製造することができる。該分離膜の形状としては、特に限定されるものではなく、平板状、管状(中空糸状を含む)等が挙げられる。
【0049】
続いて、本実施形態の揮発性有機化合物の分離除去方法について説明する。
【0050】
本実施形態の揮発性有機化合物の分離除去方法は、前記分離膜の一方側に揮発性有機化合物と水とを含む揮発性有機化合物含有液が配されるように該分離膜を配置し、前記分離膜の揮発性有機化合物含有液の側の圧力よりも該分離膜の他方側の圧力を低くし、揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物が前記分離膜を透過することにより揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物を減少させるものである。
斯かる構成により、揮発性有機化合物及び水の両方が該分離膜に吸着され、そして、分離膜に含まれるイオン性液体と揮発性有機化合物との親和性に起因して、揮発性有機化合物が優先的に該膜を透過する。従って、揮発性有機化合物と水とを含む揮発性有機化合物含有液から揮発性有機化合物が選択的に減少し得る。
【0051】
前記分離除去方法では、具体的には、例えば、揮発性有機化合物と水とを含む揮発性有機化合物含有液を、前記分離膜を介して大気圧未満の状態とし、揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物が前記分離膜を透過することにより、前記揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物を減少させる。
即ち、前記分離除去方法では、例えば、前記分離膜を介して揮発性有機化合物含有液を陰圧状態とすることにより、該分離膜を通過した揮発性有機化合物を除去し、揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物を減少させる。
【0052】
前記分離除去方法においては、前記分離膜は、前記揮発性有機化合物含有液に接していてもよく、前記揮発性有機化合物含有液と離反していてもよい。
【0053】
具体的には、前記分離除去方法においては、分離膜が揮発性有機化合物含有液に接している場合、分離膜を揮発性有機化合物含有液の下方側に配し、分離膜を介して揮発性有機化合物含有液を下方側から真空ポンプ等によって減圧することにより、揮発性有機化合物含有液から揮発性有機化合物を分離して除去できる。斯かる方法は、いわゆるパーベーパレーション法(PV法)とも称されるものである。
【0054】
また、前記分離除去方法においては、分離膜が揮発性有機化合物含有液と離反している場合、分離膜を揮発性有機化合物含有液の上方側に配し、分離膜を介して揮発性有機化合物含有液を上方側から真空ポンプ等によって減圧することにより、揮発性有機化合物含有液から揮発性有機化合物を分離して除去できる。斯かる方法は、いわゆるエバポミエーション法(EV法)とも称されるものである。
【0055】
即ち、前記分離除去方法においては、パーベーパレーション法又はエバポミエーション法のいずれを採用してもよい。
【0056】
前記揮発性有機化合物含有液は、揮発性有機化合物と水とを含むものであれば特に限定されないが、通常、0.01〜0.5重量%程度の揮発性有機化合物を含む。
【0057】
前記分離除去方法は、前記分離膜の揮発性有機化合物含有液の側の圧力よりも該分離膜の他方側の圧力を低くするようにおこなえば、特にその圧力が限定されるものではないが、揮発性有機化合物含有液を、前記分離膜を介して大気圧未満の状態にする場合、揮発性有機化合物の分離除去がより効率的におこなえるという点で、分離膜の他方側の圧力(絶対圧力)が10〜10000Paであることが好ましい。
【0058】
なお、分離膜における揮発性有機化合物の透過性及び選択除去性は、後述する実施例に記載された方法によって評価できる。
【0059】
本実施形態の揮発性有機化合物の分離膜及び揮発性有機化合物の分離除去方法は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の揮発性有機化合物の分離膜、及び揮発性有機化合物の分離除去方法に限定されるものではない。また、本発明では、一般の揮発性有機化合物の分離膜、及び揮発性有機化合物の分離除去方法において採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(合成例1)
以下に示すメチルメタクリレートとメタクリル基含有ポリジメチルシロキサンとを用いて共重合し高分子化合物(高分子重合体)を合成した。
・メチルメタクリレート(MMA) 仕込み40モル比(*)
・メタクリル基含有ポリジメチルシロキサン(MaDMS) 仕込み60モル比(*)
(数平均分子量5,000 商品名「サイラプレーンFM−0721」チッソ社製)
下記式(2)に示す化合物
ただし、上記モル比(*)は、MMAと式(1)に示すジメチルシロキサン構造単位とのモル比を表す。
【0062】
【化2】

【0063】
共重合は、重合溶媒としてベンゼンを用い、ベンゼン中で40重量%となるように上記2種のモノマーをベンゼンと混合し、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用い、重合温度70℃、反応時間12時間の条件でおこなった。
重合後、過剰のエタノール/n−ヘキサン(2/1vol)混合液に重合溶液を投入し、粗高分子化合物を沈殿させ、この粗高分子化合物をテトラヒドロフランに溶解させ、上記と同様の混合液に再沈殿させる操作を3回おこなうことにより、高分子化合物を調製した。
得られた高分子化合物を1H−NMR測定することにより、MMAとMaDMSにおけるジメチルシロキサン構造単位とのモル比を算出したところ、MMA:ジメチルシロキサン構造単位=42:58(モル比)であった。なお、1H−NMRピークチャートにおいて、MMAのメチルエステルのメチル基のプロトンピーク面積とジメチルシロキサンのメチル基のプロトンピーク面積とから上記のモル比を算出した。
【0064】
(合成例2)
高分子化合物合成用のモノマー(MMA,MaDMS)の仕込み比をMMA:ジメチルシロキサン構造単位=80:20(モル比)となるようにした点以外は、実施例1と同様にして高分子化合物を合成した。得られた高分子化合物中におけるMMAとジメチルシロキサン構造単位とのモル比は、83:17であった。
【0065】
(合成例3)
高分子化合物合成用のモノマー(MMA,MaDMS)の仕込み比をMMA:ジメチルシロキサン構造単位=60:40(モル比)となるようにした点以外は、実施例1と同様にして高分子化合物を合成した。得られた高分子化合物中におけるMMAとジメチルシロキサン構造単位とのモル比は、61:39であった。
【0066】
(合成例4)
高分子化合物合成用のモノマー(MMA,MaDMS)の仕込み比をMMA:ジメチルシロキサン構造単位=50:50(モル比)となるようにした点以外は、実施例1と同様にして高分子化合物を合成した。得られた高分子化合物中におけるMMAとジメチルシロキサン構造単位とのモル比は、52:48であった。
【0067】
続いて、上記合成例1の高分子化合物を用いて、以下のようにして分離膜を作製した。
【0068】
(実施例1)
イオン性液体として下記式(3)に示すものを用い、分離膜を作製した。
・1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)
イミド (以下、[ABIM]TFSIともいう)
(1mLに対してベンゼンを1.65mL溶解可能
1mLに対してトリクロロメタンを上限なく溶解可能)
【0069】
【化3】

【0070】
即ち、有機溶媒としてのテトラヒドロフランに合成例1の高分子化合物と上記イオン性液体とを溶解させて高分子溶液を調製した。なお、イオン性液体の量は、分離膜中に10重量%となる量とした。
この高分子溶液(10重量%濃度)の10gを直径7cmの円筒状型枠に入れ、その後、温度25℃で24時間静置することによりテトラヒドロフランを揮発させ、円盤状の揮発性有機化合物の分離膜を製造した。なお、厚さは150μmであった。
【0071】
(実施例2)
イオン性液体の量が分離膜中に15重量%となるようにした点以外は、実施例1と同様にして揮発性有機化合物の分離膜を製造した。
【0072】
(実施例3)
イオン性液体の量が分離膜中に20重量%となるようにした点以外は、実施例1と同様にして揮発性有機化合物の分離膜を製造した。
【0073】
(比較例1)
イオン性液体を用いなかった点以外は、実施例1と同様にして膜を製造した。
【0074】
<揮発性有機化合物の分離膜のFT−IR分析>
実施例1〜3の分離膜、及び比較例1の膜については、溶液流延乾式法によって測定に適した厚さの測定用試料を作製し、FT−IR測定をおこなった。また、イオン性液体自体についてもFT−IR測定をおこなった。結果を図1に示す。
図1に示すように、イオン性液体を含む分離膜には、イオン性液体に起因する吸収ピークが確認された。
【0075】
<透過性及び選択除去性>
作製した各膜について、下記に示す透過性、選択除去性を40℃で評価した。詳しくは、図2に示すように、0.05重量%のベンゼンを含む揮発性有機化合物含有液(水溶液)を各膜の上側に配置し、膜の下方側から1.33Pa(0.01Torr)の減圧度で減圧し、いわゆるパーベーパレーション法(PV法)によってベンゼンを揮発性有機化合物含有液から分離除去する操作をおこなった。
【0076】
・透過性
透過性については、比透過速度によって評価した。詳しくは、透過性は、ベンゼン、トリクロロエタン、又はトルエンの透過重量を測定することにより、次式に従って比透過速度を算出した。
比透過速度=透過物の重量(kg)×膜厚さ(m)÷
[膜面積(m3)×透過処理時間(h)]
なお、ベンゼン、トリクロロエタン、又はトルエンの測定は、ガスクロマトグラフィーでおこなった。
【0077】
・選択除去性
選択除去性については、分離膜を透過した透過物における揮発性有機化合物の濃度をガスクロマトグラフィーで測定することによって評価した。
【0078】
イオン性液体が担持されていない膜(合成例1の高分子化合物を用いた比較例1の膜、及び合成例2〜4の高分子化合物を用いて作製した膜)の透過性及び選択除去性の結果を図3(a)に示す。図3(a)に示すように、高分子化合物中におけるポリジメチルシロキサンメタクリレート(MaDMS)の比率が上がることに伴い、揮発性有機化合物の透過性が高まり且つ選択除去性が高まった。
【0079】
実施例1〜3、比較例1の分離膜について、上記の方法で透過性、選択除去性を評価した結果を図3(b)に示す。
図3(b)に示すように、分離膜中のイオン性液体の量が増加することに伴い、揮発性有機化合物の透過性が高まり且つ選択除去性が高まった。
【0080】
<分離膜表面における水の静的接触角>
実施例1〜3、比較例1の分離膜について、分離膜表面における水の静的接触角を測定した結果を図4(a)に示す。
図4(a)に示すように、分離膜中のイオン性液体の量が増加しても、水の接触角に大きな変化は認められなかった。
【0081】
<分離膜と揮発性有機化合物との親和性>
実施例1〜3、比較例1の分離膜について、0.05重量%のベンゼンを含む水溶液に平衡吸着になるまで浸漬し、膜に吸着したベンゼンを加熱、減圧下で採取し、その量を測定した結果を図4(b)に示す。
図4(b)に示すように、分離膜中のイオン性液体の量が増加することに伴い、分離膜に吸着したベンゼンが増えることが認められた。
【0082】
<分離膜のガラス転移点>
実施例1〜3、比較例1の分離膜について、0.05重量%のベンゼンを含む水溶液に平衡吸着になるまで浸漬し、その前後のガラス転移点(Tg)を示差走査熱量測定(DSC)によって決定した。なお、測定におけるガラス転移点は、メチルメタクリレート相及びポリジメチルシロキサンメタクリレート相のそれぞれについて測定した。
メチルメタクリレート相におけるガラス転移点の測定結果を図5(a)に、ポリジメチルシロキサンメタクリレート相におけるガラス転移点の測定結果を図5(b)に示す。
図5(a)に示すように、分離膜中のイオン性液体の量が増加することに伴い、メチルメタクリレート相におけるガラス転移点は低下した。一方で、図5(b)に示すように、分離膜中のイオン性液体の量が増加しても、ポリジメチルシロキサンメタクリレート相におけるガラス転移点は、ほとんど変化しなかった。
斯かる結果から、イオン性液体は、分離膜のメチルメタクリレート相に担持されているものと考えられる。
【0083】
<分離膜の膨潤度>
実施例1〜3、比較例1の分離膜について、0.05重量%のベンゼンを含む水溶液に平衡吸着になるまで浸漬した後の分離膜の膨潤度を測定した。結果を図5(c)に示す。なお、膨潤度は、次式によって求めた。
膨潤度(%)=[(浸漬後膜重量−浸漬前膜重量)/浸漬前膜重量]
図5(c)に示すように、分離膜中のイオン性液体の量が増加しても、分離膜の膨潤度は、ほとんど変化しなかった。
【0084】
(合成例5)
スチレンと以下に示すポリジメチルシロキサンメタクリレートとを用い、共重合により高分子化合物を合成した。
・スチレン(St) 仕込み40モル比
・メタクリル基含有ポリジメチルシロキサン(MaDMS)
ジメチルシロキサン構造単位が仕込み時60モル比 上記式(2)に示す化合物
(数平均分子量5,000 商品名「サイラプレーンFM−0721」チッソ社製)
共重合の方法は、合成例1と同様とした。
得られた高分子化合物を1H−NMR測定することにより、StとMaDMSにおけるジメチルシロキサン構造単位とのモル比を算出したところ、St:ジメチルシロキサン構造単位=45:55(モル比)であった。なお、1H−NMRピークチャートにおいて、スチレンのベンゼン環のプロトンピーク面積とジメチルシロキサンのメチル基のプロトンピーク面積とから上記のモル比を算出した。
【0085】
(合成例6〜9)
高分子化合物合成用のモノマー仕込み比をSt:ジメチルシロキサン構造単位=80:20、60:40、50:50、30:70(モル比)とした点以外は、それぞれ合成例1と同様にしてMaDMSを用いて高分子化合物を合成した。得られた高分子化合物中におけるStとジメチルシロキサン構造単位とのモル比は、それぞれ84:16、64:36、53:47、37:63であった。
【0086】
(合成例10)
MaDMSを用いなかった点以外は、合成例5と同様にして高分子化合物を合成した。
【0087】
(合成例11)
MaDMSを用いず、また、重合開始剤としてのAIBNの代わりにポリジメチルシロキサン構造を有する重合開始剤AzDMS(分子中にアゾ基とポリジメチルシロキサン構造を有する重合開始剤)を用いて、スチレンモノマーの存在下で重合により高分子化合物を合成した。その他、重合条件、重合後の操作等は合成例1と同様とした。
・アゾ基含有ポリジメチルシロキサン重合開始剤(AzDMS)
商品名「VSP−1001」和光純薬工業社製 数平均分子量70,600
スチレン仕込み40モル比に対しジメチルシロキサン構造単位が仕込み60モル比
下記式(4)の構造を有する化合物
得られた高分子化合物を1H−NMR測定することにより、StとAzDMSにおけるジメチルシロキサン構造単位とのモル比を算出したところ、St:ジメチルシロキサン構造単位=46:54(モル比)であった。なお、1H−NMRピークチャートにおいて、スチレンのベンゼン環のプロトンピーク面積とジメチルシロキサンのメチル基のプロトンピーク面積とから上記のモル比を算出した。
【0088】
【化4】

【0089】
(合成例12〜15)
高分子化合物合成用の原料仕込み比をSt:ジメチルシロキサン構造単位=80:20、60:40、50:50、30:70(モル比)とした点以外は、それぞれ合成例11と同様にしてAzDMSを用いて高分子化合物を合成した。得られた高分子化合物におけるStとジメチルシロキサン構造単位とのモル比は、それぞれ85:15、66:34、55:45、36:64であった。
【0090】
(合成例16)
AIBNを重合開始剤としてスチレン(St)のみを用いて高分子化合物を合成した。重合条件、重合後の操作等は合成例1と同様とした。
【0091】
<スチレンを含む高分子化合物の透過性及び選択除去性>
合成例5〜10及び合成例11〜16の高分子化合物を用いて、イオン性液体を用いず作製した膜について、透過性及び選択除去性を上記と同様にして調べた結果をそれぞれ図6(a)及び図6(b)に示す。
図6(a)及び図6(b)に示すように、スチレンの比率が下がることに伴い、揮発性有機化合物の透過性が高まり且つ選択除去性が高まった。
【0092】
(実施例4〜6)
合成例11の高分子化合物を用いた点、イオン性液体の量を分離膜中に10、20、30重量%とした点以外は、それぞれ実施例1と同様にして揮発性有機化合物の分離膜を製造した。
【0093】
(比較例2)
合成例11の高分子化合物を用いた点、イオン性液体を用いなかった点以外は、実施例1と同様にして揮発性有機化合物の分離膜を製造した。
【0094】
<分離膜の走査型電子顕微鏡観察>
比較例2、実施例4〜6の分離膜について、走査型電子顕微鏡装置(日本電子社製 加速電圧keV)を用い、エミッション電流10μAの条件で電子顕微鏡観察をおこなった。結果を図7(a)〜(d)に示す。
図7(a)〜(d)に示すように、イオン性液体は、液滴状となって分散して分離膜中に担持されていることが認識できる。
【0095】
<スチレンとアゾ基含有ポリジメチルシロキサン重合開始剤とで合成された
高分子化合物を含む分離膜の透過性及び選択除去性>
スチレンとアゾ基含有ポリジメチルシロキサン重合開始剤とで形成された高分子化合物と、それぞれ10重量%、20重量%、30重量%のイオン性液体とを含む分離膜(実施例4〜6)について、揮発性有機化合物としてのベンゼン、トルエン、及びトリクロロメタンの透過性及び選択除去性を上記と同様の方法によって調べた。結果を図8(a)及び図8(b)に示す。
また、イオン性液体を30重量%含む分離膜(実施例6)、及び、イオン性液体を含まない膜(比較例2)における結果の詳細を表1に示す。
図8(a)、図8(b)及び表1に示すように、分離膜中のイオン性液体の量が増加することに伴い、いずれの揮発性有機化合物においても透過性が高まり且つ選択除去性が高まった。
【0096】
【表1】

【0097】
続いて、イオン性液体として1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([PTMP]TFSI 下記式(5)に示す)を用いて揮発性有機化合物の分離膜を製造した。
【0098】
【化5】

【0099】
(実施例7〜11)
合成例1の高分子化合物を用いた点、イオン性液体として1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いた点、イオン性液体の量を分離膜中に5、10、15、20、30重量%とした点以外は、それぞれ実施例1と同様にして揮発性有機化合物の分離膜を製造した。
【0100】
(比較例3)
合成例1の高分子化合物を用いた点、イオン性液体を用いなかった点以外は、実施例1と同様にして揮発性有機化合物の分離膜を製造した。
【0101】
<MMAとMaDMSとで合成された高分子化合物を含む分離膜の
透過性及び選択除去性>
実施例7〜11及び比較例3の分離膜について、透過性及び選択除去性を上記と同様の方法によって調べた。結果を図9に示す。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の揮発性有機化合物の分離膜は、水中に微量に含まれるベンゼンやトリクロロメタンなどの揮発性有機化合物を効率よく分離除去できることから、例えば、各種排水の浄化処理などにおいて、好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積比1倍以上のトリクロロメタン又は容積比1.64倍以上のベンゼンを溶解するイオン性液体が基材に担持されてなることを特徴とする揮発性有機化合物の分離膜。
【請求項2】
前記イオン性液体がパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含んでいる請求項1記載の揮発性有機化合物の分離膜。
【請求項3】
前記基材が分子中にポリジメチルシロキサン構造を有する高分子化合物で形成されている請求項1又は2記載の揮発性有機化合物の分離膜。
【請求項4】
前記イオン性液体を5〜30重量%含有している請求項1〜3のいずれかに記載の揮発性有機化合物の分離膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の揮発性有機化合物の分離膜の一方側に揮発性有機化合物と水とを含む揮発性有機化合物含有液が配されるように該分離膜を配置し、前記分離膜の揮発性有機化合物含有液の側の圧力よりも該分離膜の他方側の圧力を低くし、揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物が前記分離膜を透過することにより揮発性有機化合物含有液に含まれる揮発性有機化合物を減少させることを特徴とする揮発性有機化合物の分離除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−83720(P2011−83720A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239258(P2009−239258)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 第58回高分子学会年次大会(2009年) 〔主催者〕 社団法人 高分子学会 〔刊行物名〕 高分子学会予稿集58巻1号(2009) 〔発行年月日〕 平成21年5月12日
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】