説明

揮発性有機化合物の吸着・分解装置及び揮発性有機化合物の処理方法

【課題】吸着液を再利用することで運転費用の削減と連続運転を容易なものとし、また、ガス状のVOCを効率的に吸着可能な吸着・分解装置及び処理方法を提供する。
【解決手段】ガス状の揮発性有機化合物を塔内に通気させる通気路11及び通気路11を遮断して配置された充填材12を塔内に有した充填塔1と、充填塔1の塔内に高分子系の吸着液Pを散布供給する吸着液供給機構2と、前記塔内に供給された後の吸着液Pを回収して超音波処理を行う超音波処理装置3と、前記超音波処理を行う際の吸着液Pの温度をコントロールする温度制御手段4とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷工場、塗装工場などからの排出ガスに含まれる、低濃度乃至中濃度域での揮発性有機化合物(VOCガス)を吸着・分解処理するための吸着・分解装置、及び、前記揮発性有機化合物を吸着・分解して処理する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷、塗装、接着、メッキ業等の事業所や土壌処理を現場で行う施設では、トルエンに代表される水不溶性の揮発性有機化合物(VOCガス)を含む排出ガスが排出されることが多く、これらは小規模なVOC発生施設ともいえる。特に工場跡地などの汚染浄化処理は大きな社会問題となっており、前記揮発性有機化合物(VOCガス)を処理する高い技術が望まれている。
従来、このような揮発性有機化合物の処理装置として、活性炭ハニカム構造等を使用した吸着回収装置や、燃焼処理あるいは光触媒、プラズマ、オゾン等を利用した分解処理装置が存在した(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−342573号公報
【特許文献2】特開2005−169839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の吸着回収装置は、VOCを吸着するだけであり、吸着したVOCの分解等といったその後の処理を行うものではないため、吸着液を再利用することができずに運転費用がかさんだり、連続処理が困難となったりする。
また上記従来の分解処理装置は、すでに水に溶け込んでいるVOCが処理対象となり、排ガスに含まれているガス状のVOCを吸着することはできなかった。
【0005】
そこで本発明は、吸着液を再利用することで運転費用の削減と連続運転を容易なものとし、また、ガス状のVOCを効率的に吸着可能な揮発性有機化合物の吸着・分解装置及び揮発性有機化合物の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明では下記(1)〜(5)の手段を講じている。
【0007】
(1)本発明の揮発性有機化合物の吸着・分解装置は、
ガス状の揮発性有機化合物G(VOCガス)を塔内に通気させる通気路11、及び、通気路11を遮断して配置された充填材12を塔内に有した充填塔1と、
充填塔1の塔内に高分子系の吸着液Pを散布供給する吸着液供給機構2と、
前記塔内に供給された後の吸着液Pを回収して超音波処理を行う超音波処理装置3と、
前記超音波処理を行う際の吸着液Pの温度をコントロールする温度制御手段4とを具備することを特徴とする。
【0008】
(2)前記吸着液供給機構2は、充填塔1の塔内の充填材12の上方の供給部13から吸着液を通気路内に散布する散布装置21と、散布装置から塔内を落下した吸着液が貯留される貯留部22と、貯留部22に貯留された吸着液を再び前記散布装置21まで送出する送出ポンプ23とを有してなり、
前記散布装置21は、通気路内を遮って横断する孔空き板21P上に吸着液を連続供給することで、吸着液を分散させながら滴下させるものであることが好ましい。
【0009】
(3)前記超音波処理装置3は、前記貯留部22から外部に往復連通された循環路31に介設されたものであり、揮発性有機化合物を吸着した吸着液(P)は、貯留部(22)からこの循環路(31)内に循環送出され、超音波処理装置(3)によって繰り返し超音波処理される。循環路によって連続的に又は断続的に繰り返して超音波処理を行うため、例えば貯留部22の貯留量に対して6%流量/分以下の循環量で循環送出しても十分なVOCの分解の効果が得られる。
【0010】
(4)前記温度制御手段は、循環路31内であって超音波処理装置3の近傍に設けられることが好ましい。具体的には、前記温度制御手段(4)は、前記循環路(31)のうち、超音波処理装置(3)の近傍の覆設箇所に接続され、覆設箇所の循環路の構成材を熱交換体として循環路内を通る吸着液(P)を冷却するものであることが好ましい。
【0011】
(5)本発明の揮発性有機化合物の処理方法は、ガス状の揮発性有機化合物Gを、吸着液Pで湿潤させた充填材12に通気させることで吸着液Pに吸着させる吸着工程と、
吸着工程によって揮発性有機化合物Gを吸着した後の吸着液を貯留する貯留工程と、
前記貯留工程によって貯留した吸着液を循環送出して連続的にあるいは断続的に充填材12を湿潤させる湿潤工程と、
前記貯留工程によって貯留した吸着液を循環送出して連続的にあるいは断続的に超音波分解する分解工程とを具備する処理方法であって、
前記湿潤工程又は前記分解工程における循環送出中に吸着液を50度以下に保つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記手段を講じることで、揮発性有機化合物の吸着・分解処理に関し、吸着液を再利用することで運転費用の削減と連続運転を容易なものとし、またガス状のVOCを効率的に吸着可能な吸着・分解装置、あるいは処理方法を提供するものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の揮発性有機化合物の吸着・分解装置の正面構成図。
【図2】実施例1の揮発性有機化合物の吸着・分解装置の側面構成図。
【図3】実施例1の揮発性有機化合物の吸着・分解装置の平面構成図。
【図4】実施例1の揮発性有機化合物の処理方法の系統説明図。
【図5】吸着液温度とトルエン吸着率の関係を示すグラフ。
【図6】超音波照射時間並びに吸着液温度とトルエン分解後濃度の関係を示すグラフ。
【図7】超音波照射時間とトルエン分解後濃度の関係を示すグラフ
【図8】超音波処理によるトルエンの分解フローの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態例につき実施例として示す各図と共に説明する。いずれの実施例においても本発明の揮発性有機化合物の吸着・分解装置は、ガス状の揮発性有機化合物(VOC)を塔内に通気させる通気路、及び、通気路を遮断して配置された充填材を塔内に有した充填塔1と、
塔内に高分子系の吸着液を散布供給する吸着液供給機構2と、
前記塔内に供給された後の吸着液を回収して超音波処理を行う超音波処理装置3と、
前記超音波処理を行う際の吸着液の温度をコントロールする温度制御手段4とを具備する。
【0015】
超音波照射装置2によって吸着液を超音波処理することで、吸着液を再利用可能とし、触媒を用いることなく分解処理と吸着処理の両方を同時または連続的に行い、効率的かつ連続的な吸着分解処理を行うものとしている。
【0016】
(充填塔)
充填塔は、ダクト内に取り込まれたVOC(以下、本発明において揮発性有機化合物をいう。)を含む排気ガスを、塔内に縦長配置した充填材を用いて、塔内に散布した吸着液に吸着させるものである。
【0017】
(吸着液)
吸着液として、分子量200以上500未満の高分子剤を使用する。分子量が500ないし1000以上の大きいものであると、液が結晶化してしまい、吸着効率あるいは送循環の効率が落ちてしまう。特に取り扱い性、超音波による分解性から、例えば分子量200のポリアルキレングリコールが好ましい。実施例では分子量200のポリエチレングリコールを使用している。
【0018】
(超音波処理装置)
超音波処理装置は、効率的かつ均等な超音波照射のため、5方向の照射部32によるペンタゴン方式とすることが好ましい。
【0019】
(作用等)
本発明の吸着分解装置によれば、VOCガスの通気路内に遮設した充填材と、この充填材に散布供給する分解液とによって、VOCガスを塔内で吸着液に吸着捕集することができる。
【0020】
VOCガスを吸着した分解液は塔内下部の貯留部に貯留されるが、この貯留部内の分解液は、塔外部に往復路接続された循環路と連通され、循環路内に介設された超音波装置によって超音波照射される。循環路にはまたポンプが介設されており、貯留部ないし超音波装置へ、循環路を通って分解液を循環させることで、連続的に分解処理を行うものとしている。
【0021】
また塔内下部の吸着液貯留部から分解液を充填材上方まで連続的に送出し、塔内上部の供給部から充填材を通って貯留部に貯留された分解液を、再び塔内上部の供給部まで送りこむ循環送出機構を採用することで、連続的に吸着することが可能となる。
上記循環分解機構と循環送出機構との併設によって、吸着直後の分解液は、吸着が不十分なまま貯留部内に貯留された未吸着の分解液と混ざり、混ざりあった分解液が循環機構によって連続的に分解処理され、循環送出機構による吸着を連続的に、かつ効率的に行うことができる。
【0022】
一装置において吸着・分解処理をそれぞれ連続的に行うことができるため、コンパクトに構成され、処理時間が短く、また常温での分解処理が可能となる。また循環機構によって自動的に分解・吸着が可能であり、廃液の処理も不要であるから、操作性に優れ、環境負荷が少ないという優位性がある。
【0023】
そして、超音波処理直前の循環経路に介設した温度制御手段によって、吸着液の温度が高くても60度未満、好ましくは50度以下となるように保つこととしており、これによって、吸着効率の低下を抑制するものとしている。
以下、各実施例の構成につき詳述する。
【実施例1】
【0024】
図1〜図5に示す実施例1の揮発性有機化合物の吸着・分解装置は、VOCの回収から処理までを連続的に行うコンパクトな一体型装置からなる。具体的には、VOCを含む排ガスを下部の吸入口から塔内の通気路に通気させ、上部の排気口から排出する充填塔ユニットと、充填塔ユニット内を通気するVOCガスを、吸着液が随時供給される充填材に接触させて吸着する吸着ユニットと、充填塔ユニットの下部にてVOCを吸着した後の吸着液を貯留し、循環分解機構によって吸着後の吸着液を分解して吸着前の状態に戻す分解ユニットとの3ユニットが組み合わされてなる。
【0025】
(処理方法)
本発明の揮発性有機化合物の処理方法は、ガス状の揮発性有機化合物Gを吸着・分解処理する方法であって、
ガス状の揮発性有機化合物Gを、吸着液Pで湿潤させた充填材12に通気させることで吸着液Pに吸着させる吸着工程と、
吸着工程によって揮発性有機化合物Gを吸着した後の吸着液を貯留する貯留工程と、
前記貯留工程によって貯留した吸着液を循環送出して連続的にあるいは断続的に充填材12を湿潤させる湿潤工程と、
前記貯留工程によって貯留した吸着液を循環送出して連続的にあるいは断続的に超音波分解する分解工程とを具備する。
【0026】
特に、上記吸着・分解装置を使用して上記方法を行うことが好ましい。但し、前記湿潤工程又は前記分解工程における循環送出中に吸着液を50度以下、好ましくは40度以下に保つものとしている。
【0027】
(試験)
図5に吸着液温度とトルエン吸着率の関係を示すグラフを、図6に吸着液温度とトルエン分解後濃度の関係を示すグラフを、図7に超音波照射時間とトルエン分解後濃度の関係を示すグラフを、それぞれ示す。また図8に、超音波処理によるトルエンの分解フローの説明図を示す。特に図6では、0分における流量が毎分8.26Lであり、85分ごろから急激に粘性が低下し、120分における流量は毎分13Lとなっている。このことから分解能力を維持するために液温を50度以下、好ましくは40度以下に保つべきである。
【0028】
本実施例では、超音波処理装置を一つの架台上に設けて充填材による吸着処理直後の吸着液を一装置内で超音波処理するものとしている。これにより、従来の多くの分解処理装置で必要な、アパタイト等の触媒が不要となる。ただし本発明は触媒を使用する装置を完全に除くものではない。例えば活性炭等の添加剤を吸着液に含有させて、吸着性能を向上させることも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 充填塔
11 通気路
12 充填材
13 供給部
2 吸着液供給機構
21 散布装置
21P 孔空き板
22 貯留部
23 送出ポンプ
3 超音波処理装置
31 循環路
4 温度制御手段
P 吸着液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状の揮発性有機化合物を塔内に通気させる通気路(11)、及び、通気路(11)を遮断して配置された吸着材(12)を塔内に有した充填塔(1)と、
充填塔(1)の塔内に高分子系の吸着液(P)を散布供給する吸着液供給機構(2)と、
前記塔内に供給された後の吸着液(P)を回収して超音波処理を行う超音波処理装置(3)と、
前記超音波処理を行う際の吸着液(P)の温度をコントロールする温度制御手段(4)とを具備することを特徴とする揮発性有機化合物の吸着・分解装置。
【請求項2】
前記吸着液供給機構(2)は、充填塔(1)の塔内の吸着材(12)の上方の供給部13から吸着液(P)を通気路(11)内に散布する散布装置(21)と、散布装置(21)から塔内を落下した吸着液(P)が貯留される貯留部(22)と、貯留部(22)に貯留された吸着液(P)を再び前記散布装置(21)まで送出する送出ポンプ(23)とを有してなり、
前記散布装置(21)は、通気路(11)内を遮って横断する孔空き板(21P)上に吸着液(P)を連続供給することで、吸着液(P)を通気路(11)の断面内へ分散させながら滴下させる請求項1記載の揮発性有機化合物の吸着・分解装置。
【請求項3】
前記超音波処理装置(3)は、前記貯留部(22)から外部に往復連通された循環路(31)に介設されたものであり、揮発性有機化合物を吸着した吸着液(P)は、貯留部(22)からこの循環路(31)内に循環送出され、超音波処理装置(3)によって繰り返し超音波処理される請求項2記載の揮発性有機化合物の吸着・分解装置。
【請求項4】
前記温度制御手段(4)は、前記循環路(31)のうち、超音波処理装置(3)の近傍の覆設箇所に接続され、覆設箇所の循環路の構成材を熱交換体として循環路内を通る吸着液(P)を冷却するものである請求項3記載の揮発性有機化合物の吸着・分解装置。
【請求項5】
ガス状の揮発性有機化合物を、吸着液(P)で湿潤させた吸着材(12)に通気させることで吸着液(P)に吸着させる吸着工程と、
吸着工程によって揮発性有機化合物を吸着した後の吸着液(P)を貯留する貯留工程と、
前記貯留工程によって貯留した吸着液(P)を循環送出して連続的にあるいは断続的に吸着材(12)を湿潤させる湿潤工程と、
前記貯留工程によって貯留した吸着液(P)を循環送出して連続的にあるいは断続的に超音波分解する分解工程とを具備する処理方法であって、
前記湿潤工程又は前記分解工程における循環送出中に吸着液(P)を50度以下に保つことを特徴とする揮発性有機化合物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−245376(P2011−245376A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118861(P2010−118861)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(500120451)株式会社 ユイ工業 (3)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【Fターム(参考)】