揮発性有機化合物の検出方法
【課題】基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法を提供する。
【解決手段】基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法であって、
(1)該化合物と揮発性の修飾試薬とを反応させ、該化合物を不揮発化する工程、及び
(2)飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により基材表面を測定し、該化合物を検出する工程、
を有する、検出方法。
【解決手段】基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法であって、
(1)該化合物と揮発性の修飾試薬とを反応させ、該化合物を不揮発化する工程、及び
(2)飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により基材表面を測定し、該化合物を検出する工程、
を有する、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)は、元素や無機物だけでなく有機化合物も検出できるため、現在幅広い応用展開を計っている表面分析装置である。TOF-SIMSによれば表面に存在する有機化合物の高感度検出が可能であるが、目的の物質自身のイオン化効率が低い場合、又は周りのバックグラウンドの物質の状態等によって、検出が低感度となる場合がある。さらにTOF-SIMSは高真空下で測定を行なう方法であり、沸点の低い有機化合物は測定の途中で徐々に揮発してしまうため、検出が困難となる。従って、TOF-SIMSの更なる有効活用のためにはこれらの問題を解決し、その利用範囲を広げる手法が必要となる。
【0003】
現在までに知られているTOF-SIMSの感度上昇方法としては、例えば、有機マトリックスを添加する方法(非特許文献1)、Au等の金属を表面へ蒸着させる方法(非特許文献2)、ESCA等で用いられているハロゲンを持つ化合物を化学修飾する方法(非特許文献3、特許文献1)等が挙げられる。しかしながら、これらの方法は主に高分子化合物の検出を高感度化するものであり、沸点の低い低分子化合物の揮発性有機化合物を高精度に検出する手法については知られていない。
【非特許文献1】K.J. Wu and R. W. Odom, Anal. Chem., 68, 5, 873-882 (1996)
【非特許文献2】A. Delcorte, N. Medard and P. Bertrand, Anal. Chem.,74, 19, 4955-4968 (2002)
【非特許文献3】N. Man, A. Karen, K. Takahashi, Y. Nakayama and A. Ishitani, SIMS XI, 517-520 (1998)
【特許文献1】特開平10-132802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、基材表面に存在する揮発性有機化合物のTOF-SIMSによる高精度な検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、
基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法であって、
(1)該化合物と揮発性の修飾試薬とを反応させ、該化合物を不揮発化する工程、及び
(2)飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により基材表面を測定し、該化合物を検出する工程、
を有する、検出方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来その検出が困難であった、基材表面に存在する揮発性有機化合物を当初の存在状態を反映させて高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の検出方法は、TOF-SIMSによる基材表面の測定前に、基材表面に存在する揮発性有機化合物を揮発性の修飾試薬で修飾し、該化合物を不揮発化する点に1つの大きな特徴を有する。従って、従来、TOF-SIMSによる測定では検出が困難であった揮発性有機化合物を高精度に検出することができる。有機化合物の不揮発化は、有機化合物と修飾試薬とが結合し、その結果、有機化合物が高分子量化することによると推定される。
【0008】
基材としては、TOF-SIMSによる測定に供し得る固体材料からなるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、PP(ポリプロピレン)板等のポリマープレート、繊維、紙、洗剤粒子、トナー粒子、金属板、半導体等が挙げられ、その他、植物の根、皮膚、歯、毛髪、爪等であってもよい。
【0009】
検出対象である揮発性有機化合物とはTOF-SIMSの測定条件である真空中で揮発性を有する有機化合物であり、常温(20±15℃)・常圧(101.3kPa)では必ずしも揮発性である必要はない。かかる有機化合物は基材表面に存在するものであるが、基材表面に存在するとは、その存在様式、例えば、基材表面への付着等の物理的結合、基材表面との共有結合等の化学的結合、基材表面への埋め込み等とは無関係に、基材表面においてその一部又は全部が露出した状態にあることを言う。
【0010】
なお、検出対象である有機化合物の揮発性とは、具体的には、高真空(1.33×10−6〜1.33×10−7Pa)下で気化し得る性質を言う。例えば、ステアリルアルコールは常温・常圧では1.12×10−3Pa程度の蒸気圧しか有していないが、本発明においては揮発性有機化合物と言え、検出対象となり得る。
【0011】
揮発性有機化合物は、通常、概ね数十〜400までの分子量を有するものであり、特に限定されるものではないが、修飾試薬との反応性に富み、より高精度な検出が可能であることから、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エーテル、エステル、アミド、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ニトロ基、シアノ基、アルキン(アルキニル基)、アルケン(アルケニル基)、リン酸基、カルボニル基、チオール基及びジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基又は構造体 を有する化合物であるのが好ましい。そのような有機化合物としては、例えば、ステアリルアルコール、ラウ厘酸、オレイン酸、ベンジルオキシエタノール等の脂肪族水酸基を有する化合物、ノニルフェノール、p−オキシ安息香酸エステル等の芳香族、フェノール系水酸基を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、一般に界面活性剤、香料、生体機能物質として機能するものや、アミノ酸、糖、核酸等である。よって、本発明の検出方法は、基材表面におけるそれらの界面活性剤等の検出に非常に有用である。
【0012】
修飾試薬は、検出対象である有機化合物との反応を行なう条件下に気化する程度の揮発性を有するものであって、基材表面上に存在する有機化合物と共有結合的に結合し得、有機化合物を不揮発化し得るものが、通常、特に限定なく用いられる。修飾試薬としては、通常、概ね数十〜300までの分子量を有するものが好適に用いられる。TOF-SIMSでより高感度な検出を可能にする観点から、修飾試薬としては、好ましくは高極性な官能基を有する化合物、より好ましくはTOF-SIMSでの測定の際にアニオン化する官能基(例えばカルボキシル基)を有する化合物、さらに好ましくはカチオン化する官能基(例えばアミノ基、イミノ基、ピリジル基、ピロリル基)を有する化合物である。それらの化合物はプロトンの脱着を伴ってイオン化しやすく質量分析装置で高感度な検出が可能であることが知られている。従って、前記した検出対象として好ましい有機化合物の官能基との高い反応性をも考慮すると、修飾試薬としては、イソシアネート基、シアニド基、酸アジド基、エチレンオキシド、水酸基、メトキシ基、アミノ基、チオール基、アルケン(アルケニル基)、ハロゲン系官能基、トリメチルシリル基、ジアゾ基、カルボキシル基、スルホニルクロライド基、イソチオシアネート基、N-ヒドロキシスクシンイミド、カルボニル基、トシル基、メシル基、マレイミド、ジスルフィド、ヒドラジン、ヒドラジド、アジリジンからなる群より選ばれる少なくとも一種の基または構造体 を有する化合物が好ましい。ここでのハロゲン系官能基とは、揮発性有機化合物と反応する際に修飾試薬から脱離する部位にハロゲンが含まれているものと定義する。例えばフルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、カルボニルクロライド基、ブロモアセチル基、ヨードアセトアミド基等である。またカルボキシル基には無水カルボン酸類を、カルボニル基にはアルデヒドやグリオキサール類を含むものとする。
【0013】
有機化合物が水酸基を有するものである場合、修飾試薬としては4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネート、2−ジメチルアミノエチルイソシアネート、また有機化合物がカルボキシル基を有するものである場合、修飾試薬としては4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネート、1−(2−ブロモエチル)ピロールが好適に用いられる。
【0014】
工程(1)においては、有機化合物と修飾試薬とを反応させ、該化合物を不揮発化する。
【0015】
有機化合物と修飾試薬との反応は気相で行なう。例えば、密閉容器内に、基材と、それとは非接触状態で修飾試薬とを置き、一定時間静置して両者を反応させる。反応温度としては修飾試薬が揮発する温度以上であればよいが、好ましくは10〜60℃、さらに基材への影響を考えると常温に近い20〜40℃とするのがより好ましい。反応時間には特に限定はなく、有機化合物と修飾試薬との反応性等に依存するが、通常、1〜30時間程度である。また、有機化合物と修飾試薬との量比も特に限定はなく、有機化合物に存在する官能基の量や修飾試薬との反応性等に依存するが、通常、有機化合物1モルに対し修飾試薬を1モル以上用いれば良い。なお、基材が水分を含む場合は、基材を修飾試薬との反応に供する前に当該水分を十分に除去しておくのが好ましい。
【0016】
有機化合物と修飾試薬との反応を基材表面における有機化合物の存在状態に影響を与えることがない穏やかな条件で行ない、かつ該反応を促進する観点から、該反応は触媒の存在下に行なうのが好ましい。触媒は、修飾試薬と検出対象である有機化合物との反応を行なう条件下に気化する程度の揮発性を有するものが、通常、特に限定なく用いられる。触媒は、検出対象の有機化合物の官能基と使用する修飾試薬との組み合わせに応じて適宜公知のものから選択すればよい。例えば有機化合物が水酸基を有するものであり、修飾試薬として4−(ジメチルアミノ)―フェニルイソシアネートもしくは2−ジメチルアミノエチルイソシアネートを用いる場合、触媒としては、塩基度が高く、かつアミノ基の電子対に対する立体反発性が低いアミノ化合物が好ましく用いられる。例えば好ましくはピリジン、メチル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(Me−Dabco)、トリエチレンジアミン(TEDA)または1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)が、より好ましくはTEDA又はDBUが、さらに好ましくはDBUが用いられる。また有機化合物がカルボキシル基を有するものであり、修飾試薬として4−(ジメチルアミノ)―フェニルイソシアネートを用いる場合、触媒としては4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、修飾試薬として1−(2−ブロモエチル)ピロールを用いる場合、触媒としてはDBUが用いられる。有機化合物と修飾試薬との反応の際、触媒は、それらと非接触で密閉容器内に静置しておけばよい。触媒の使用量は触媒の種類や形態にもよるが、概ね修飾試薬3モルに対し、0.25〜数十モル程度、好ましくは1〜数十モル程度で良い。例えば、TEDA、Me−DacoまたはDBUの場合には、修飾試薬3モルに対し0.75〜3.5モル程度、好ましくは1〜3.5モル程度であり、ピリジン等の場合には4〜40モル程度、DMAPの場合には0.5〜1.0モル程度である。
【0017】
なお、反応条件の設定においては、例えば、K. L. Agarwal and H. G. Khorana, JACS, 17, 3578 (1972)、Anne C. Schuemacher, R.W. Hoffmann, Synthesis, 2, 243-246 (2001)、C. Gundu Rao, Organic Preparations and Procedures Int., 12(3-4), 225-228 (1980)等を参照しても良い。
【0018】
以上の反応の結果、有機化合物と修飾試薬とが結合し、該化合物は不揮発化する、すなわち、有機化合物が揮発性を失うか、又は揮発性が低減する。厳密な分析を行なう場合には、検出しようとする全ての有機化合物が不揮発化されているべきであるが、基材表面における有機化合物の存在やその大まかな分布を調べようとする場合には必ずしも全ての有機化合物が不揮発化されている必要はない。有機化合物が不揮発化されたかどうかは種々の方法により確認可能である。例えば、有機化合物と修飾試薬との反応前後でTOF-SIMSによる基材表面の測定を行ない、反応前のマススペクトルにない反応後のマススペクトルで新たに検出されるピークに相当する分子量と、有機化合物と修飾試薬との結合物の予想分子量とを対比し、それらが実質的に同一性を有することを確認することで容易に行うことができる。また、基材を修飾試薬との反応に供した場合と供しない場合とでその表面を観察し、反応に供しなかった基材表面の有機化合物が消失した時点で、反応に供した基材表面に未だ有機化合物が存在することを該表面を光学顕微鏡等により観察し確認することで容易に行うことができる。
【0019】
工程(2)では、工程(1)により不揮発化された有機化合物が存在する基材表面をTOF-SIMSにより測定し、該化合物を検出する。
【0020】
TOF-SIMSによる測定は、市販の装置を用い、公知の方法に従って行なえばよい。本発明によれば、基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出を行えるだけでなく、その基材表面における分布を高精度に検出することができる。なお、本発明の検出方法は、有機化合物の存在が予想される基材に対しても用いられることは言うまでもない。
【0021】
本発明の検出方法によれば、従来、検出が困難であった基材表面の揮発性有機化合物を検出可能であることから、例えば、PP板中に練り込んだ帯電防止剤の表面染み出し状態の分析、植物の根部に付着した植物活力剤の検出、インクジェットインクに含まれるアルコール成分や揮発性の高い香料の検出等を行うことができる。
【実施例】
【0022】
以下の実施例においては、TOF-SIMSとして以下の装置を以下の条件の下で使用し、有機化合物の検出を行なった。
【0023】
(1)装置: ION-TOF社製 「TOF−SIMS IV」
(2)測定条件:
i)高質量分解能モード
一次イオン 197Au1+ :25kV (Pulsed current: 1.5pA)、Cycle Time 100μs
検出: Positive、Negative
測定範囲: 300×300μm2、128×128 pixel、 50s積算
【0024】
ii)高空間分解能モード
一次イオン 197Au1+ :25kV (Pulsed current: 0.5pA)、Cycle Time 100μs
検出: Positive、Negative
測定範囲: 100×100μm2、256×256 pixel、 100回スキャン(655s積算に相当)
【0025】
なお、絶縁体の試料測定時には、Flood gunを用いたチャージ補正を行った。
【0026】
以下、蒸気圧という場合、常温・常圧での値を示す。
【0027】
実施例1
水酸基を持つ揮発性有機化合物としてステアリルアルコールを用いた。ステアリルアルコールの3(w/v)%クロロホルム溶液を、銅板上に20μlキャストしてスピンコートし、乾燥させた(ステアリルアルコール 3.33μmol)。かかる銅板と、修飾試薬4−(ジメチルアミノ)―フェニルイソシアネート(蒸気圧2.57×100Pa)36mg(0.222mmol)とピリジン(蒸気圧3.04×103Pa)720μl(9.11mmol)とを、密閉容器内で静置して、50℃で4時間、気相反応を行なった。反応終了後、TOF-SIMS(高質量分解能モード)により銅板表面の測定を行なった。
【0028】
ステアリルアルコールの修飾反応物の構造は以下のようなものとなる。
【0029】
【化1】
【0030】
ステアリルアルコールと修飾試薬との反応前後のTOF−SIMS測定結果を図1に示す。ステアリルアルコールの修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー432付近のピークに注目したところ、433にピークが確認された。これは反応前の銅板では確認されないピークであるので、修飾試薬との反応によって新たに発生した修飾反応物の分子イオンピーク([M+H]+の構造)であると考えられた。従って、以上の操作により、従来、TOF-SIMSでは測定困難であった揮発性のステアリルアルコールを検出可能であることが分かる。
【0031】
実施例2
実施例1と同様にしてステアリルアルコールを銅板上に塗布した。かかる銅板と、修飾試薬4−(ジメチルアミノ)―フェニルイソシアネート 72mg(0.444mmol)と、TEDA(蒸気圧1.64×102Pa)75mg(0.658mmol)とを、密閉容器内で静置して、25℃で一晩、気相反応を行なった。反応終了後、TOF-SIMS(高質量分解能モード)により銅板表面の測定を行なった。
【0032】
ステアリルアルコールと修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図2に示す。実施例1と同様に433にピークが確認された。従って、触媒としてTEDAを使用した場合には室温(25℃)で修飾試薬との反応を行なうことができ、しかも充分にステアリルアルコールを検出可能であることが分かる。修飾試薬との反応が室温で行なわれるため銅板表面のステアリルアルコールの存在状態に対する影響が実質的にないと考えられ、ピリジンを使用した場合と比べてより高精度なステアリルアルコールの検出ができるものと考えられる。
【0033】
なお、本実施例においては、ステアリルアルコールと修飾試薬との反応を行なわなかった場合と行なった場合とで、銅板表面におけるステアリルアルコールの存在状態を経時的にTOF-SIMS付属のCCDカメラにより25℃で、別途、観察した。その画像を図3に示す。修飾試薬との反応を行なわなかった場合には45分間程度で揮発してステアリルアルコールは銅板上から消失してしまっているが、これに対し、反応を行なった場合には、1時間後にもはっきりと存在している様子が捉えられた。よって、この結果からも、ステアリルアルコールと修飾試薬との反応により、ステアリルアルコールが不揮発化されていることが分かる。
【0034】
実施例3
TOF-SIMSによる測定対象としてポリプロピレン(PP)板を用いた。PP板中には帯電防止剤としてN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)オクダデシルアミン(DEA)と、DEAのブリードアウトを促進するためのステアリルアルコールが練り込まれている。これまでDEAの分布はTOF-SIMSの直接測定で確認することができていたが、ステアリルアルコールは検出できていない。
【0035】
実施例2において銅板をPP板に替え、同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図4に示す。実施例1と同様に433にピークが確認された。従って、以上の操作により、従来、TOF-SIMSでは測定できなかったPP板表面のステアリルアルコールを検出可能であることが分かる。このことより、PP板中の帯電防止剤の表面染み出し状態が分かる。
【0036】
実施例4
実施例3において触媒をTEDAからDBU(蒸気圧7.14×10−1Pa)に替え、同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
【0037】
修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図5に示す。実施例1と同様に433にピークが確認された。また、かかるピーク強度はTEDAを用いた場合と比べて15倍以上強いものであった。従って、触媒としてDBUを使用することによりTEDAを使用した場合と比べて、より高精度かつ高感度にステアリルアルコールを検出可能であることが分かる。
【0038】
また、TOF-SIMSによりイメージ測定を行なったところ、PP板表面において、従来のTOF-SIMS測定では検出できなかったステアリルアルコールの分布状態を検出することができた。その結果を図5に併せて示す。
【0039】
実施例5
TOF-SIMSによる測定対象として植物の根部を用い、根部表面に付着していると思われた植物活力剤(ステアリルアルコール)の検出を行なった。
実施例2において銅板を植物の根部に替え、同様に修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)により根部表面の測定を行なった。なお、反応温度は23℃、反応時間は1日間とした。
【0040】
修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図6に示す。実施例1と同様に433にピークが確認された。また、TOF-SIMSによるイメージ測定の結果を併せて図6に示す。植物の根部表面においてステアリルアルコールの分布状態を検出することができた。従って、以上の操作により、従来、TOF-SIMSでは測定できなかった植物の根部表面のステアリルアルコール及びその分布状態を充分に検出可能であることが分かる。
【0041】
実施例6
水酸基を持つ揮発性有機化合物の修飾反応前、反応後におけるTOF-SIMS測定感度を比較するため、PP板中にステアリルアルコールを0.25(w/w)%練り込んだモデル試料をTOF-SIMSによる測定対象とした。
【0042】
実施例4と同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
【0043】
PP板中のステアリルアルコールと修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図7に示す。ステアリルアルコールの修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー433にピークが確認された。ステアリルアルコール混練PP板中のステアリルアルコールおよびステアリルアルコールと修飾試薬との反応後のピーク強度比較結果を図8に示す。反応前のステアリルアルコール(マスナンバー269、[M−H]−の構造)のピークの強度と比較すると三桁以上強度が上昇することが確認された。
【0044】
実施例7
カルボキシル基を持つ揮発性有機化合物としてステアリン酸を用いた。ステアリン酸(蒸気圧1.14×10−3Pa)の3(w/v)%クロロホルム溶液を、銅板上に20μlキャストしてスピンコートし乾燥させた。この銅板と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネート(蒸気圧2.57×100Pa)30mg(0.185mmol)と4−ジメチルアミノピリジン(蒸気圧5.74×101Pa)5mg(0.041mmol)、密閉容器中で静置して、37℃で24時間、気相反応させた。反応後、TOF-SIMS(高質量分解能モード)により銅板表面の測定を行なった。
【0045】
ステアリン酸の修飾反応物の構造は以下のようなものとなる。
【0046】
【化2】
【0047】
ステアリン酸と修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図9に示す。ステアリン酸の修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー402付近のピークに注目したところ、403にピークが確認された。これは反応前の銅板では確認されないピークであるので、修飾試薬との反応によって新たに発生した修飾反応物の分子イオンピーク([M+H]+の構造)であると考えられた。従って、以上の操作により、従来、TOF-SIMSでは測定困難であった揮発性のステアリン酸を検出可能であることが分かる。
【0048】
実施例8
カルボキシル基を持つ揮発性有機化合物の修飾反応前、反応後におけるTOF-SIMS測定感度を比較するため、PP板中にラウリン酸(蒸気圧8.81×10−2Pa)を0.25(w/w)%練り込んだモデル試料をTOF-SIMSによる測定対象とした。
実施例7において銅板をPP板に替え、同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
ラウリン酸の修飾反応物の構造は以下のようなものとなる。
【0049】
【化3】
【0050】
ラウリン酸混練PP板中のラウリン酸およびラウリン酸と修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図10に示す。ラウリン酸の修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー319([M+H]+の構造)にピークが確認された。ラウリン酸混練PP板中のラウリン酸およびラウリン酸と修飾試薬との反応後のピーク強度比較結果を図11に示す。反応前のラウリン酸(マスナンバー199、[M−H]−の構造)のピークの強度と比較すると二桁以上強度が上昇することが確認された。
【0051】
実施例9
カルボキシル基を対象とした修飾反応の温度変化を観察するため、PP板中にラウリン酸もしくはオレイン酸(蒸気圧4.93×10−4Pa)を0.25(w/w)%練り込んだモデル試料をTOF-SIMSによる測定対象として用いた。実施例7において銅板をPP板に替え、同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
オレイン酸の修飾反応物の構造は以下のようなものとなる。
【0052】
【化4】
【0053】
ラウリン酸は実施例8と同様に319にピークが、またオレイン酸も修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー401([M+H]+の構造)にピークが確認された(図12) 。温度変化とTOF-SIMS測定結果との関係のグラフを図13に示す。オレイン酸は35℃、ラウリン酸は23℃で反応ピークが最大であり、常温に近い20〜40度の範囲内で最も良い反応収率が得られると確認された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、実施例1における、銅板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後におけるTOF-SIMS測定結果である。上段が反応前の結果、下段が反応後の結果である。
【図2】図2は、実施例2において、銅板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果である。
【図3】図3は、実施例2において、銅板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応を行なわなかった場合と行なった場合におけるステアリルアルコールの揮発性の変化の様子を説明する図である。
【図4】図4は、実施例3における、PP板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果である。
【図5】図5は、実施例4における、PP板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果(左図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(右図)である。
【図6】図6は、実施例5における、植物の根部表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果(右図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(左図)である。左図中、「Total」とはTOF-SIMSで測定された全イオンを合わせた分布画像であることを、「433/Total」とは以下の「433」の分布画像を「Total」の分布画像で割り算した画像であることを、「433」とはステアリルアルコールの修飾反応物の分布画像であることを、それぞれ示す。
【図7】図7は、実施例6における、PP板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後におけるTOF-SIMS測定結果(右図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(左図)である。また右図の上段が反応前の結果、下段が反応後の結果である。左図中「269」および「433」とは、ステアリルアルコールの分布画像およびステアリルアルコール修飾反応物の分布画像であることを示す。
【図8】図8は、図7における、PP板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後のTOF-SIMSピーク強度を比較した結果である。
【図9】図9は、実施例7における、銅板表面のステアリン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後におけるTOF-SIMS測定結果である。上段が反応前の結果、下段が反応後の結果である。
【図10】図10は、実施例8における、PP板表面のラウリン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後におけるTOF-SIMS測定結果(右図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(左図)である。また上段が反応前の結果、下段が反応後の結果である。左図中「199」および「319」とは、ラウリン酸の分布画像およびラウリン酸修飾反応物の分布画像であることを示す。
【図11】図11は、図10における、PP板表面のラウリン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後のTOF-SIMSピーク強度を比較した結果である。
【図12】図12は、実施例9における、PP板表面のオレイン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果(右図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(左図)である。左図中「401」とは、ラウリン酸修飾反応物の分布画像であることを示す。
【図13】図13は、実施例9における、PP板表面のラウリン酸もしくはオレイン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応の温度とピーク強度の関係をグラフ化したものである。上段がラウリン酸の結果、下段がオレイン酸の結果である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)は、元素や無機物だけでなく有機化合物も検出できるため、現在幅広い応用展開を計っている表面分析装置である。TOF-SIMSによれば表面に存在する有機化合物の高感度検出が可能であるが、目的の物質自身のイオン化効率が低い場合、又は周りのバックグラウンドの物質の状態等によって、検出が低感度となる場合がある。さらにTOF-SIMSは高真空下で測定を行なう方法であり、沸点の低い有機化合物は測定の途中で徐々に揮発してしまうため、検出が困難となる。従って、TOF-SIMSの更なる有効活用のためにはこれらの問題を解決し、その利用範囲を広げる手法が必要となる。
【0003】
現在までに知られているTOF-SIMSの感度上昇方法としては、例えば、有機マトリックスを添加する方法(非特許文献1)、Au等の金属を表面へ蒸着させる方法(非特許文献2)、ESCA等で用いられているハロゲンを持つ化合物を化学修飾する方法(非特許文献3、特許文献1)等が挙げられる。しかしながら、これらの方法は主に高分子化合物の検出を高感度化するものであり、沸点の低い低分子化合物の揮発性有機化合物を高精度に検出する手法については知られていない。
【非特許文献1】K.J. Wu and R. W. Odom, Anal. Chem., 68, 5, 873-882 (1996)
【非特許文献2】A. Delcorte, N. Medard and P. Bertrand, Anal. Chem.,74, 19, 4955-4968 (2002)
【非特許文献3】N. Man, A. Karen, K. Takahashi, Y. Nakayama and A. Ishitani, SIMS XI, 517-520 (1998)
【特許文献1】特開平10-132802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、基材表面に存在する揮発性有機化合物のTOF-SIMSによる高精度な検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、
基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法であって、
(1)該化合物と揮発性の修飾試薬とを反応させ、該化合物を不揮発化する工程、及び
(2)飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により基材表面を測定し、該化合物を検出する工程、
を有する、検出方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来その検出が困難であった、基材表面に存在する揮発性有機化合物を当初の存在状態を反映させて高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の検出方法は、TOF-SIMSによる基材表面の測定前に、基材表面に存在する揮発性有機化合物を揮発性の修飾試薬で修飾し、該化合物を不揮発化する点に1つの大きな特徴を有する。従って、従来、TOF-SIMSによる測定では検出が困難であった揮発性有機化合物を高精度に検出することができる。有機化合物の不揮発化は、有機化合物と修飾試薬とが結合し、その結果、有機化合物が高分子量化することによると推定される。
【0008】
基材としては、TOF-SIMSによる測定に供し得る固体材料からなるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、PP(ポリプロピレン)板等のポリマープレート、繊維、紙、洗剤粒子、トナー粒子、金属板、半導体等が挙げられ、その他、植物の根、皮膚、歯、毛髪、爪等であってもよい。
【0009】
検出対象である揮発性有機化合物とはTOF-SIMSの測定条件である真空中で揮発性を有する有機化合物であり、常温(20±15℃)・常圧(101.3kPa)では必ずしも揮発性である必要はない。かかる有機化合物は基材表面に存在するものであるが、基材表面に存在するとは、その存在様式、例えば、基材表面への付着等の物理的結合、基材表面との共有結合等の化学的結合、基材表面への埋め込み等とは無関係に、基材表面においてその一部又は全部が露出した状態にあることを言う。
【0010】
なお、検出対象である有機化合物の揮発性とは、具体的には、高真空(1.33×10−6〜1.33×10−7Pa)下で気化し得る性質を言う。例えば、ステアリルアルコールは常温・常圧では1.12×10−3Pa程度の蒸気圧しか有していないが、本発明においては揮発性有機化合物と言え、検出対象となり得る。
【0011】
揮発性有機化合物は、通常、概ね数十〜400までの分子量を有するものであり、特に限定されるものではないが、修飾試薬との反応性に富み、より高精度な検出が可能であることから、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エーテル、エステル、アミド、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ニトロ基、シアノ基、アルキン(アルキニル基)、アルケン(アルケニル基)、リン酸基、カルボニル基、チオール基及びジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基又は構造体 を有する化合物であるのが好ましい。そのような有機化合物としては、例えば、ステアリルアルコール、ラウ厘酸、オレイン酸、ベンジルオキシエタノール等の脂肪族水酸基を有する化合物、ノニルフェノール、p−オキシ安息香酸エステル等の芳香族、フェノール系水酸基を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、一般に界面活性剤、香料、生体機能物質として機能するものや、アミノ酸、糖、核酸等である。よって、本発明の検出方法は、基材表面におけるそれらの界面活性剤等の検出に非常に有用である。
【0012】
修飾試薬は、検出対象である有機化合物との反応を行なう条件下に気化する程度の揮発性を有するものであって、基材表面上に存在する有機化合物と共有結合的に結合し得、有機化合物を不揮発化し得るものが、通常、特に限定なく用いられる。修飾試薬としては、通常、概ね数十〜300までの分子量を有するものが好適に用いられる。TOF-SIMSでより高感度な検出を可能にする観点から、修飾試薬としては、好ましくは高極性な官能基を有する化合物、より好ましくはTOF-SIMSでの測定の際にアニオン化する官能基(例えばカルボキシル基)を有する化合物、さらに好ましくはカチオン化する官能基(例えばアミノ基、イミノ基、ピリジル基、ピロリル基)を有する化合物である。それらの化合物はプロトンの脱着を伴ってイオン化しやすく質量分析装置で高感度な検出が可能であることが知られている。従って、前記した検出対象として好ましい有機化合物の官能基との高い反応性をも考慮すると、修飾試薬としては、イソシアネート基、シアニド基、酸アジド基、エチレンオキシド、水酸基、メトキシ基、アミノ基、チオール基、アルケン(アルケニル基)、ハロゲン系官能基、トリメチルシリル基、ジアゾ基、カルボキシル基、スルホニルクロライド基、イソチオシアネート基、N-ヒドロキシスクシンイミド、カルボニル基、トシル基、メシル基、マレイミド、ジスルフィド、ヒドラジン、ヒドラジド、アジリジンからなる群より選ばれる少なくとも一種の基または構造体 を有する化合物が好ましい。ここでのハロゲン系官能基とは、揮発性有機化合物と反応する際に修飾試薬から脱離する部位にハロゲンが含まれているものと定義する。例えばフルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、カルボニルクロライド基、ブロモアセチル基、ヨードアセトアミド基等である。またカルボキシル基には無水カルボン酸類を、カルボニル基にはアルデヒドやグリオキサール類を含むものとする。
【0013】
有機化合物が水酸基を有するものである場合、修飾試薬としては4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネート、2−ジメチルアミノエチルイソシアネート、また有機化合物がカルボキシル基を有するものである場合、修飾試薬としては4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネート、1−(2−ブロモエチル)ピロールが好適に用いられる。
【0014】
工程(1)においては、有機化合物と修飾試薬とを反応させ、該化合物を不揮発化する。
【0015】
有機化合物と修飾試薬との反応は気相で行なう。例えば、密閉容器内に、基材と、それとは非接触状態で修飾試薬とを置き、一定時間静置して両者を反応させる。反応温度としては修飾試薬が揮発する温度以上であればよいが、好ましくは10〜60℃、さらに基材への影響を考えると常温に近い20〜40℃とするのがより好ましい。反応時間には特に限定はなく、有機化合物と修飾試薬との反応性等に依存するが、通常、1〜30時間程度である。また、有機化合物と修飾試薬との量比も特に限定はなく、有機化合物に存在する官能基の量や修飾試薬との反応性等に依存するが、通常、有機化合物1モルに対し修飾試薬を1モル以上用いれば良い。なお、基材が水分を含む場合は、基材を修飾試薬との反応に供する前に当該水分を十分に除去しておくのが好ましい。
【0016】
有機化合物と修飾試薬との反応を基材表面における有機化合物の存在状態に影響を与えることがない穏やかな条件で行ない、かつ該反応を促進する観点から、該反応は触媒の存在下に行なうのが好ましい。触媒は、修飾試薬と検出対象である有機化合物との反応を行なう条件下に気化する程度の揮発性を有するものが、通常、特に限定なく用いられる。触媒は、検出対象の有機化合物の官能基と使用する修飾試薬との組み合わせに応じて適宜公知のものから選択すればよい。例えば有機化合物が水酸基を有するものであり、修飾試薬として4−(ジメチルアミノ)―フェニルイソシアネートもしくは2−ジメチルアミノエチルイソシアネートを用いる場合、触媒としては、塩基度が高く、かつアミノ基の電子対に対する立体反発性が低いアミノ化合物が好ましく用いられる。例えば好ましくはピリジン、メチル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(Me−Dabco)、トリエチレンジアミン(TEDA)または1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)が、より好ましくはTEDA又はDBUが、さらに好ましくはDBUが用いられる。また有機化合物がカルボキシル基を有するものであり、修飾試薬として4−(ジメチルアミノ)―フェニルイソシアネートを用いる場合、触媒としては4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、修飾試薬として1−(2−ブロモエチル)ピロールを用いる場合、触媒としてはDBUが用いられる。有機化合物と修飾試薬との反応の際、触媒は、それらと非接触で密閉容器内に静置しておけばよい。触媒の使用量は触媒の種類や形態にもよるが、概ね修飾試薬3モルに対し、0.25〜数十モル程度、好ましくは1〜数十モル程度で良い。例えば、TEDA、Me−DacoまたはDBUの場合には、修飾試薬3モルに対し0.75〜3.5モル程度、好ましくは1〜3.5モル程度であり、ピリジン等の場合には4〜40モル程度、DMAPの場合には0.5〜1.0モル程度である。
【0017】
なお、反応条件の設定においては、例えば、K. L. Agarwal and H. G. Khorana, JACS, 17, 3578 (1972)、Anne C. Schuemacher, R.W. Hoffmann, Synthesis, 2, 243-246 (2001)、C. Gundu Rao, Organic Preparations and Procedures Int., 12(3-4), 225-228 (1980)等を参照しても良い。
【0018】
以上の反応の結果、有機化合物と修飾試薬とが結合し、該化合物は不揮発化する、すなわち、有機化合物が揮発性を失うか、又は揮発性が低減する。厳密な分析を行なう場合には、検出しようとする全ての有機化合物が不揮発化されているべきであるが、基材表面における有機化合物の存在やその大まかな分布を調べようとする場合には必ずしも全ての有機化合物が不揮発化されている必要はない。有機化合物が不揮発化されたかどうかは種々の方法により確認可能である。例えば、有機化合物と修飾試薬との反応前後でTOF-SIMSによる基材表面の測定を行ない、反応前のマススペクトルにない反応後のマススペクトルで新たに検出されるピークに相当する分子量と、有機化合物と修飾試薬との結合物の予想分子量とを対比し、それらが実質的に同一性を有することを確認することで容易に行うことができる。また、基材を修飾試薬との反応に供した場合と供しない場合とでその表面を観察し、反応に供しなかった基材表面の有機化合物が消失した時点で、反応に供した基材表面に未だ有機化合物が存在することを該表面を光学顕微鏡等により観察し確認することで容易に行うことができる。
【0019】
工程(2)では、工程(1)により不揮発化された有機化合物が存在する基材表面をTOF-SIMSにより測定し、該化合物を検出する。
【0020】
TOF-SIMSによる測定は、市販の装置を用い、公知の方法に従って行なえばよい。本発明によれば、基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出を行えるだけでなく、その基材表面における分布を高精度に検出することができる。なお、本発明の検出方法は、有機化合物の存在が予想される基材に対しても用いられることは言うまでもない。
【0021】
本発明の検出方法によれば、従来、検出が困難であった基材表面の揮発性有機化合物を検出可能であることから、例えば、PP板中に練り込んだ帯電防止剤の表面染み出し状態の分析、植物の根部に付着した植物活力剤の検出、インクジェットインクに含まれるアルコール成分や揮発性の高い香料の検出等を行うことができる。
【実施例】
【0022】
以下の実施例においては、TOF-SIMSとして以下の装置を以下の条件の下で使用し、有機化合物の検出を行なった。
【0023】
(1)装置: ION-TOF社製 「TOF−SIMS IV」
(2)測定条件:
i)高質量分解能モード
一次イオン 197Au1+ :25kV (Pulsed current: 1.5pA)、Cycle Time 100μs
検出: Positive、Negative
測定範囲: 300×300μm2、128×128 pixel、 50s積算
【0024】
ii)高空間分解能モード
一次イオン 197Au1+ :25kV (Pulsed current: 0.5pA)、Cycle Time 100μs
検出: Positive、Negative
測定範囲: 100×100μm2、256×256 pixel、 100回スキャン(655s積算に相当)
【0025】
なお、絶縁体の試料測定時には、Flood gunを用いたチャージ補正を行った。
【0026】
以下、蒸気圧という場合、常温・常圧での値を示す。
【0027】
実施例1
水酸基を持つ揮発性有機化合物としてステアリルアルコールを用いた。ステアリルアルコールの3(w/v)%クロロホルム溶液を、銅板上に20μlキャストしてスピンコートし、乾燥させた(ステアリルアルコール 3.33μmol)。かかる銅板と、修飾試薬4−(ジメチルアミノ)―フェニルイソシアネート(蒸気圧2.57×100Pa)36mg(0.222mmol)とピリジン(蒸気圧3.04×103Pa)720μl(9.11mmol)とを、密閉容器内で静置して、50℃で4時間、気相反応を行なった。反応終了後、TOF-SIMS(高質量分解能モード)により銅板表面の測定を行なった。
【0028】
ステアリルアルコールの修飾反応物の構造は以下のようなものとなる。
【0029】
【化1】
【0030】
ステアリルアルコールと修飾試薬との反応前後のTOF−SIMS測定結果を図1に示す。ステアリルアルコールの修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー432付近のピークに注目したところ、433にピークが確認された。これは反応前の銅板では確認されないピークであるので、修飾試薬との反応によって新たに発生した修飾反応物の分子イオンピーク([M+H]+の構造)であると考えられた。従って、以上の操作により、従来、TOF-SIMSでは測定困難であった揮発性のステアリルアルコールを検出可能であることが分かる。
【0031】
実施例2
実施例1と同様にしてステアリルアルコールを銅板上に塗布した。かかる銅板と、修飾試薬4−(ジメチルアミノ)―フェニルイソシアネート 72mg(0.444mmol)と、TEDA(蒸気圧1.64×102Pa)75mg(0.658mmol)とを、密閉容器内で静置して、25℃で一晩、気相反応を行なった。反応終了後、TOF-SIMS(高質量分解能モード)により銅板表面の測定を行なった。
【0032】
ステアリルアルコールと修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図2に示す。実施例1と同様に433にピークが確認された。従って、触媒としてTEDAを使用した場合には室温(25℃)で修飾試薬との反応を行なうことができ、しかも充分にステアリルアルコールを検出可能であることが分かる。修飾試薬との反応が室温で行なわれるため銅板表面のステアリルアルコールの存在状態に対する影響が実質的にないと考えられ、ピリジンを使用した場合と比べてより高精度なステアリルアルコールの検出ができるものと考えられる。
【0033】
なお、本実施例においては、ステアリルアルコールと修飾試薬との反応を行なわなかった場合と行なった場合とで、銅板表面におけるステアリルアルコールの存在状態を経時的にTOF-SIMS付属のCCDカメラにより25℃で、別途、観察した。その画像を図3に示す。修飾試薬との反応を行なわなかった場合には45分間程度で揮発してステアリルアルコールは銅板上から消失してしまっているが、これに対し、反応を行なった場合には、1時間後にもはっきりと存在している様子が捉えられた。よって、この結果からも、ステアリルアルコールと修飾試薬との反応により、ステアリルアルコールが不揮発化されていることが分かる。
【0034】
実施例3
TOF-SIMSによる測定対象としてポリプロピレン(PP)板を用いた。PP板中には帯電防止剤としてN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)オクダデシルアミン(DEA)と、DEAのブリードアウトを促進するためのステアリルアルコールが練り込まれている。これまでDEAの分布はTOF-SIMSの直接測定で確認することができていたが、ステアリルアルコールは検出できていない。
【0035】
実施例2において銅板をPP板に替え、同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図4に示す。実施例1と同様に433にピークが確認された。従って、以上の操作により、従来、TOF-SIMSでは測定できなかったPP板表面のステアリルアルコールを検出可能であることが分かる。このことより、PP板中の帯電防止剤の表面染み出し状態が分かる。
【0036】
実施例4
実施例3において触媒をTEDAからDBU(蒸気圧7.14×10−1Pa)に替え、同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
【0037】
修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図5に示す。実施例1と同様に433にピークが確認された。また、かかるピーク強度はTEDAを用いた場合と比べて15倍以上強いものであった。従って、触媒としてDBUを使用することによりTEDAを使用した場合と比べて、より高精度かつ高感度にステアリルアルコールを検出可能であることが分かる。
【0038】
また、TOF-SIMSによりイメージ測定を行なったところ、PP板表面において、従来のTOF-SIMS測定では検出できなかったステアリルアルコールの分布状態を検出することができた。その結果を図5に併せて示す。
【0039】
実施例5
TOF-SIMSによる測定対象として植物の根部を用い、根部表面に付着していると思われた植物活力剤(ステアリルアルコール)の検出を行なった。
実施例2において銅板を植物の根部に替え、同様に修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)により根部表面の測定を行なった。なお、反応温度は23℃、反応時間は1日間とした。
【0040】
修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図6に示す。実施例1と同様に433にピークが確認された。また、TOF-SIMSによるイメージ測定の結果を併せて図6に示す。植物の根部表面においてステアリルアルコールの分布状態を検出することができた。従って、以上の操作により、従来、TOF-SIMSでは測定できなかった植物の根部表面のステアリルアルコール及びその分布状態を充分に検出可能であることが分かる。
【0041】
実施例6
水酸基を持つ揮発性有機化合物の修飾反応前、反応後におけるTOF-SIMS測定感度を比較するため、PP板中にステアリルアルコールを0.25(w/w)%練り込んだモデル試料をTOF-SIMSによる測定対象とした。
【0042】
実施例4と同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
【0043】
PP板中のステアリルアルコールと修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図7に示す。ステアリルアルコールの修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー433にピークが確認された。ステアリルアルコール混練PP板中のステアリルアルコールおよびステアリルアルコールと修飾試薬との反応後のピーク強度比較結果を図8に示す。反応前のステアリルアルコール(マスナンバー269、[M−H]−の構造)のピークの強度と比較すると三桁以上強度が上昇することが確認された。
【0044】
実施例7
カルボキシル基を持つ揮発性有機化合物としてステアリン酸を用いた。ステアリン酸(蒸気圧1.14×10−3Pa)の3(w/v)%クロロホルム溶液を、銅板上に20μlキャストしてスピンコートし乾燥させた。この銅板と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネート(蒸気圧2.57×100Pa)30mg(0.185mmol)と4−ジメチルアミノピリジン(蒸気圧5.74×101Pa)5mg(0.041mmol)、密閉容器中で静置して、37℃で24時間、気相反応させた。反応後、TOF-SIMS(高質量分解能モード)により銅板表面の測定を行なった。
【0045】
ステアリン酸の修飾反応物の構造は以下のようなものとなる。
【0046】
【化2】
【0047】
ステアリン酸と修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図9に示す。ステアリン酸の修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー402付近のピークに注目したところ、403にピークが確認された。これは反応前の銅板では確認されないピークであるので、修飾試薬との反応によって新たに発生した修飾反応物の分子イオンピーク([M+H]+の構造)であると考えられた。従って、以上の操作により、従来、TOF-SIMSでは測定困難であった揮発性のステアリン酸を検出可能であることが分かる。
【0048】
実施例8
カルボキシル基を持つ揮発性有機化合物の修飾反応前、反応後におけるTOF-SIMS測定感度を比較するため、PP板中にラウリン酸(蒸気圧8.81×10−2Pa)を0.25(w/w)%練り込んだモデル試料をTOF-SIMSによる測定対象とした。
実施例7において銅板をPP板に替え、同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
ラウリン酸の修飾反応物の構造は以下のようなものとなる。
【0049】
【化3】
【0050】
ラウリン酸混練PP板中のラウリン酸およびラウリン酸と修飾試薬との反応後のTOF-SIMS測定結果を図10に示す。ラウリン酸の修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー319([M+H]+の構造)にピークが確認された。ラウリン酸混練PP板中のラウリン酸およびラウリン酸と修飾試薬との反応後のピーク強度比較結果を図11に示す。反応前のラウリン酸(マスナンバー199、[M−H]−の構造)のピークの強度と比較すると二桁以上強度が上昇することが確認された。
【0051】
実施例9
カルボキシル基を対象とした修飾反応の温度変化を観察するため、PP板中にラウリン酸もしくはオレイン酸(蒸気圧4.93×10−4Pa)を0.25(w/w)%練り込んだモデル試料をTOF-SIMSによる測定対象として用いた。実施例7において銅板をPP板に替え、同様にして修飾試薬との反応に供し、反応終了後、TOF-SIMS(高空間分解能モード)によりPP板表面の測定を行なった。
オレイン酸の修飾反応物の構造は以下のようなものとなる。
【0052】
【化4】
【0053】
ラウリン酸は実施例8と同様に319にピークが、またオレイン酸も修飾反応物の分子量に相当するマススペクトルのマスナンバー401([M+H]+の構造)にピークが確認された(図12) 。温度変化とTOF-SIMS測定結果との関係のグラフを図13に示す。オレイン酸は35℃、ラウリン酸は23℃で反応ピークが最大であり、常温に近い20〜40度の範囲内で最も良い反応収率が得られると確認された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、実施例1における、銅板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後におけるTOF-SIMS測定結果である。上段が反応前の結果、下段が反応後の結果である。
【図2】図2は、実施例2において、銅板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果である。
【図3】図3は、実施例2において、銅板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応を行なわなかった場合と行なった場合におけるステアリルアルコールの揮発性の変化の様子を説明する図である。
【図4】図4は、実施例3における、PP板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果である。
【図5】図5は、実施例4における、PP板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果(左図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(右図)である。
【図6】図6は、実施例5における、植物の根部表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果(右図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(左図)である。左図中、「Total」とはTOF-SIMSで測定された全イオンを合わせた分布画像であることを、「433/Total」とは以下の「433」の分布画像を「Total」の分布画像で割り算した画像であることを、「433」とはステアリルアルコールの修飾反応物の分布画像であることを、それぞれ示す。
【図7】図7は、実施例6における、PP板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後におけるTOF-SIMS測定結果(右図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(左図)である。また右図の上段が反応前の結果、下段が反応後の結果である。左図中「269」および「433」とは、ステアリルアルコールの分布画像およびステアリルアルコール修飾反応物の分布画像であることを示す。
【図8】図8は、図7における、PP板表面のステアリルアルコールと修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後のTOF-SIMSピーク強度を比較した結果である。
【図9】図9は、実施例7における、銅板表面のステアリン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後におけるTOF-SIMS測定結果である。上段が反応前の結果、下段が反応後の結果である。
【図10】図10は、実施例8における、PP板表面のラウリン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後におけるTOF-SIMS測定結果(右図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(左図)である。また上段が反応前の結果、下段が反応後の結果である。左図中「199」および「319」とは、ラウリン酸の分布画像およびラウリン酸修飾反応物の分布画像であることを示す。
【図11】図11は、図10における、PP板表面のラウリン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応前後のTOF-SIMSピーク強度を比較した結果である。
【図12】図12は、実施例9における、PP板表面のオレイン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応後におけるTOF-SIMS測定結果(右図)、並びにTOF-SIMSによるイメージ測定の結果(左図)である。左図中「401」とは、ラウリン酸修飾反応物の分布画像であることを示す。
【図13】図13は、実施例9における、PP板表面のラウリン酸もしくはオレイン酸と修飾試薬4−(ジメチルアミノ)−フェニルイソシアネートとの反応の温度とピーク強度の関係をグラフ化したものである。上段がラウリン酸の結果、下段がオレイン酸の結果である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法であって、
(1)該化合物と揮発性の修飾試薬とを反応させ、該化合物を不揮発化する工程、及び
(2)飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により基材表面を測定し、該化合物を検出する工程、
を有する、検出方法。
【請求項2】
有機化合物が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エーテル、エステル、アミド基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、アルキン、アルケン、リン酸基、カルボニル基、チオール基及びジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基又は構造体を有するものである、請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
修飾試薬が、イソシアネート基、シアニド基、酸アジド基、エチレンオキシド、水酸基、メトキシ基、アミノ基、イミノ基、ピリジル基、ピロリル基 、チオール基、アルケン、ハロゲン系官能基、トリメチルシリル基、ジアゾ基、カルボキシル基、スルホニルクロライド基、イソチオシアネート基、N-ヒドロキシスクシンイミド、カルボニル基、トシル基、メシル基、マレイミド、ジスルフィド、ヒドラジン、ヒドラジド及びアジリジンからなる群より選ばれる少なくとも一種の基又は構造体 を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を持つ請求項1又は2記載の検出方法。
【請求項4】
修飾試薬が、アミノ基、イミノ基、ピリジル基及びピロリル基より選ばれる少なくとも一種を持つ請求項3 記載の検出方法。
【請求項5】
有機化合物と修飾試薬との反応を触媒の存在下に行なう請求項1〜4いずれか記載の検出方法。
【請求項6】
触媒がピリジン、トリエチレンジアミン(TEDA)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)、2−メチル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(Me−Dabco)又は4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)である請求項5記載の検出方法。
【請求項7】
有機化合物を基材表面におけるその分布として検出する請求項1〜6いずれか記載の検出方法。
【請求項1】
基材表面に存在する揮発性有機化合物の検出方法であって、
(1)該化合物と揮発性の修飾試薬とを反応させ、該化合物を不揮発化する工程、及び
(2)飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により基材表面を測定し、該化合物を検出する工程、
を有する、検出方法。
【請求項2】
有機化合物が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エーテル、エステル、アミド基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、アルキン、アルケン、リン酸基、カルボニル基、チオール基及びジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基又は構造体を有するものである、請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
修飾試薬が、イソシアネート基、シアニド基、酸アジド基、エチレンオキシド、水酸基、メトキシ基、アミノ基、イミノ基、ピリジル基、ピロリル基 、チオール基、アルケン、ハロゲン系官能基、トリメチルシリル基、ジアゾ基、カルボキシル基、スルホニルクロライド基、イソチオシアネート基、N-ヒドロキシスクシンイミド、カルボニル基、トシル基、メシル基、マレイミド、ジスルフィド、ヒドラジン、ヒドラジド及びアジリジンからなる群より選ばれる少なくとも一種の基又は構造体 を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を持つ請求項1又は2記載の検出方法。
【請求項4】
修飾試薬が、アミノ基、イミノ基、ピリジル基及びピロリル基より選ばれる少なくとも一種を持つ請求項3 記載の検出方法。
【請求項5】
有機化合物と修飾試薬との反応を触媒の存在下に行なう請求項1〜4いずれか記載の検出方法。
【請求項6】
触媒がピリジン、トリエチレンジアミン(TEDA)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)、2−メチル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(Me−Dabco)又は4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)である請求項5記載の検出方法。
【請求項7】
有機化合物を基材表面におけるその分布として検出する請求項1〜6いずれか記載の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−17705(P2006−17705A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164793(P2005−164793)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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