説明

揮発性有機化合物吸着塔の運用方法

【課題】吸着塔からの有機化合物の脱着にあたり、その脱着開始直後に生じる有機化合物の含有量のピークを減少させ、平準化させる。
【解決手段】脱着用水蒸気の供給を行う供給口を複数段設け、1つ前の供給口を開放した後、それを閉鎖する前に次の供給口を開放し、一定時間に亘って2つ以上の供給口による供給を継続させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、揮発性有機化合物を含むガスを排出する前に、ガスから揮発性有機化合物を処理するにあたり、装置にかかる負荷を軽減させる運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場から発生する排ガスには、そのまま大気中に排出すると問題を起こす揮発性有機化合物が含まれる場合がある。この場合、排ガスを大気中に排出する前に、含有している揮発性有機化合物を処理しなければならない。その方法として、活性炭等の吸着剤を内蔵した吸着塔で、排ガス中に含まれる揮発性有機化合物を吸着剤に吸着させ、ガス中の濃度を低減させて大気へ排出し、その後、吸着剤から揮発性有機化合物を脱着させて吸着塔を再利用可能にするとともに、揮発性有機化合物を処理するという吸脱着方式が一般的である。
【0003】
上記の脱着には、揮発性有機化合物を含まないガスを吸着剤に接触させることが必要である。一基の吸着塔で脱着と同時に吸着することはできないので、脱着は速やかに実行することが好ましい。脱着を速める方法としては、脱着用のガスを大量に導入する方法、真空ポンプで吸引して圧力を低下させる方法、吸熱反応である脱着を促進するために高温の脱着用水蒸気を導入する方法などがある。
【0004】
高温の脱着用水蒸気を導入するには、その加熱のために燃料を大量に消費してしまうので、燃料を節約する方法が検討されている。特許文献1には、この回収した揮発性有機化合物を含む脱着用水蒸気を燃焼炉に誘導し、揮発性有機化合物を燃料として燃焼させ(請求項1)、その燃焼熱を利用して、脱着用水蒸気の加熱を行うこと(請求項2)が記載されている。
【0005】
一方、特許文献2には、真空ポンプで吸引する吸着塔で、吸着剤を設けた吸着剤層を複数段に分けて設けることで、高性能の真空ポンプを使わなくても、脱着速度を速める方法が提案されている。この文献に記載の吸着塔は、揮発性有機化合物であるアルコール類を含有するガスを下方から導入して、アルコール類が低減された排ガスを上方から抜き出すものである(特許文献2図1)。脱着用ガスの導入孔(パージエア導入管)を最上部の吸着剤層より上の箇所と各吸着剤層間に設け、脱着したガスの排気孔(排気導管)を各吸着剤層間と最下部の吸着剤層より下の箇所とに設けてある(特許文献2[0039])。その上で、脱着用ガスの導入孔と、それと吸着剤層を一つ挟んだ下にある排気導管との自動弁をセットで上から順次開き、脱着が終わり次第順次閉じる(特許文献2[0042]〜[0045])。
【0006】
ただし、この方法は吸引によって各層で段階的に脱着するものであり、加熱した脱着用水蒸気による方法では、個々の層間からガスを吸引する特許文献2の方法を採用してもこのような効果はない。
【0007】
また、特許文献3には、複数の吸着装置を用いて揮発性有機化合物の吸着と、その揮発性有機化合物の蒸気による脱着とを行う場合に、蒸気の総需要量が一定レベルを超えないように、一つの脱着装置の脱着工程の開始タイミングを早める方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−222736号公報
【特許文献2】特開2002−293754号公報
【特許文献3】特開2010−005579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のように揮発性有機化合物を脱着させた水蒸気が燃焼炉へ一時に大量に供給されると、燃焼炉の発熱量が大きくなり装置への熱負荷も大きくなるので、燃焼炉を大型にしないと長期的な利用が難しくなってしまう。一方で、脱着される水蒸気の量はその開始直後にピークを示した後、急激に減少していくため、燃焼炉を大きくしてしまうと、ピーク後は燃料が不足して、発熱量が小さくなりすぎてしまう。このため、燃焼炉へ供給される、水蒸気により脱着された揮発性有機化合物の量は、脱着工程全体に亘って平準化されていることが求められる。
【0010】
また、脱着開始のタイミングに合わせて水蒸気の量を減らし、脱着の進行とともに水蒸気の量を増やしていけば、燃焼炉が急激に高温になることを防ぐことができるが、燃焼炉における水蒸気の発生量を調整しようとすることはかえって燃焼炉にかかる負荷を増やしてしまうため行うべきではない。
【0011】
特許文献2に記載のように、吸着塔の高さ方向に複数の供給口を設け、供出口に近い側の供給口から順に、交代で供給口を開けていくと、一回の開放ごとに脱着する吸着層の領域が限られるために発熱量のピーク高さを抑えることはできる。しかし、個々の供給口を開けるたびに、何度もほぼ同程度の発熱量のピークが生じてしまう。このため、熱量の最大値を抑えることができても、結果として装置にかかる熱負荷の軽減としては不十分だった。
【0012】
特許文献3には、脱着のタイミングを調整する方法が記載されているが、これは並列して運用する複数の吸着塔に対して、平行して脱着を行う場合に、装置全体で必要とする水蒸気のピーク量を一定以下にするために、個々の吸着塔の脱着開始タイミングをずらすというものであり、各々の吸着塔が別個独立である環境にしか適用できなかった。また、一つの吸着塔ごとのピークの大きさは変わらないため、燃焼炉への熱負荷の低減は不十分であった。
【0013】
そこでこの発明は、特許文献2にかかる方法よりもさらに高いレベルで燃焼炉にかかる熱負荷を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、一つの吸着塔に、一つ又は一群の燃焼炉から分岐した脱着用水蒸気の供給口を、吸着層の脱着した後の水蒸気を燃焼炉に送り出す供出口側の端部より離れた箇所に複数設け、うち少なくとも1つの供給口は吸着層へ直接に脱着用水蒸気を供給する箇所に設け、
それぞれの供給口を開放するにあたっては、
次に開放する供給口は、少なくとも直前に開放した供給口を閉じる前に開放し、
それぞれの供給口を閉じるにあたっては、少なくとも直前に開放した供給口を開放してから一定時間経過後に行うことで、上記の課題を解決したのである。なお、ここで直前とは、一瞬前を意味するのではなく、手順の順番上、その一つ前に行ったものであることを意味する。
【0015】
ここで、脱着用水蒸気を供給する燃焼炉は、一つ又は一群で固定である。そして、吸着塔の吸着層の脱着時の出口である供出口側の端部より離れた箇所とは、吸着層に直接供給される箇所と、供出口側とは反対側の端部の、吸着層が充填されていない箇所との両方を含む。少なくとも一つの供給口が、吸着層へ直接に脱着用水蒸気を供給するとは、その供給口が、吸着層の全域ではなく、基本的にはその供給口よりも供出口側に吸着された水蒸気のみを脱着するものであることを意味する。吸着層の、供出口とは反対側の端部よりも供出口から離れている箇所に設けられた供給口は、その供給口から導入された脱着用水蒸気は、吸着層全域に亘って脱着を行うものとなる。
【0016】
その上で、それぞれの供給口の開放と閉鎖を上記の条件の下で行うと、2つめ以降の供給口が開放される際に、そこに新たに流れ込む脱着用水蒸気は、最大でも脱着用水蒸気の全量の半分以下となり、特許文献2のように、新たに開放する供給口に全量が流れ込む場合に比べて、脱着される水蒸気の量のピークが大幅に低下することになる。
【0017】
その後、長期間に亘って開放し続けていると、脱着させるべき水蒸気がその供給口の周囲に無くなっているにも関わらず、脱着用水蒸気の一部を占有し続けることになるため、適度なタイミングで一定時間経過後に供給口を閉じることになる。ピークが過ぎた後は脱着されて燃焼炉に供給される揮発性有機化合物の量は緩やかに減少していくので、そのピークが過ぎる分程度以上の一定時間経過後に供給口を閉じることで、その供給口が閉鎖されることに伴い、それより後に開放された供給口により多くの水蒸気が流れ込んでも、わずかに脱着量が上向く程度で、急激な増加ピークは現れないで済む。
【0018】
具体的には、2つめの供給口の開放は、吸着塔の吸着層よりも供出口側の端部において、又はそこから燃焼炉までの配管中において、1つめの供給口の開放による気中の有機物の量が増加し始めた後であって、その増加が極大値に到達する前に行うとよく、特に、吸着塔の供出口付近における有機物量で判断するとより好ましい。2つめの供給口を開放すると、1つめの供給口に供給される脱着用水蒸気は半減するので、それにより脱着する量も減少させることができ、ピークを低くすることができるからである。もっとも、このタイミングを燃焼炉で測定していたのでは、検知した時点で既に有機物が燃焼炉に到達しているので、2つめの供給口の開放によるピーク平準化効果が間に合わない。このため、燃焼炉より手前、すなわち吸着塔側で測定するとよく、配管中で変化を観測するよりは、供出口付近で変化を観測する方が、燃焼炉に有機物の第一波が到達するまでの時間が少しでも長く稼げるため好ましい。
【0019】
なお、脱着開始後は、供給された脱着用水蒸気Fは、脱着初期は吸着層で冷やされて大部分が凝縮し、大量の水(ドレン)として排出されるが、脱着用水蒸気Fの供給とともに吸着層の温度が上昇すると、部分的に凝縮して水(ミスト)と蒸気の混合体となる。従って、脱着工程が進むと蒸気の割合が高くなり温度が上昇する。このため、本発明を実施する前に、予め、1つめの供給口を開放することによる、吸着塔の端部にある供出口付近で気中からガスサンプルを採取して含まれる有機物の量を測定するとともに、その箇所における温度を測定しておくと、発明を実施する際には、温度を測定することにより脱着工程の進行度合いをほぼリアルタイムに把握することができる。ただし、この脱着工程の進行と、温度との関係は、常温から水の沸点まで加熱されていくほとんどの吸着塔で、ほぼ類似の関係となるため、気中の有機物の量をリアルタイムに測定するより容易に脱着工程の進行を把握できる。
【0020】
そして、それぞれの供給口を閉じるタイミングは、少なくとも次の供給口が開いてからでなければならず、1つめの供給口が開放された後は、必ず1つの供給口は開放されている。特に、供給口が塔の高さ方向に直列に複数設けられている場合は、2つめの供給口を開放した後は常に2つの供給口が開放されているようにする、すなわち、3つめ以降の供給口は、それよりも2つ前に開放した供給口の閉鎖と同時に開放すると、個々の供給口に供給される蒸気量が減りすぎることなく、また、集中しすぎることなく適度に運用することができるので好ましい。
【0021】
この、3つめ以降の供給口の開放は、1つ前に供給口を開けた時点から2分以上後であって、1つ前に開けた供給口から供給された蒸気が燃焼炉に到達する前に行うとよい。2分未満であると、それぞれの供給口から供給される蒸気の量が少なすぎて脱着が十分に進まない。一方で、供給された蒸気が燃焼炉に到達するまでの時間より長く間を取っても、脱着時間が長くなりすぎてしまい、作業効率が悪くなる。
【0022】
供給口を開ける順番は、供出口に近い側の供給口から、順に開放していくことになる。従って、最後に開ける供給口は、基本的には供出口から最も遠い位置にある供給口になる。ただし、吸着層内が並列に仕切られているときは必ずしもこの限りではない。吸着層内が並列に仕切られていて、それぞれの仕切られた領域にのみ脱着用水蒸気を供給する供給口が存在する場合、一の供給口を開けた後、次に開ける供給口は、別の領域により供出口に近い未開放の供給口があっても、先に開放した供給口と同じ仕切られた領域に供給する供給口であって、先に開放した供給口よりも供出口から遠い箇所に位置する供給口を先に開けても、ピークが上昇する問題は生じない。それぞれの領域は互いに干渉しないためである。特に、吸着塔の能力、体積及び水平断面積が大きく、一度に脱着することが難しい場合には、このような並列の仕切りを設けることで、ここの仕切られた領域ごとに、独立して脱着を行うことで、脱着漏れを抑えることができる。このような大規模な吸着塔の場合、並列に仕切られた個々の領域において、直列に複数段となる複数個の供給口が設けられていると、脱着の徹底がしやすい。
【0023】
なお、吸着層内に並列の仕切があったとしても、吸着層よりも供出口から遠い箇所には仕切を設けず、そこに最後に開放する供給口を設けておくと、その最後に開放する供給口は、並列である全ての領域に脱着用水蒸気を導入して、脱着を徹底させることができる。また、並列の仕切がある場合には、全ての供給口を開けた後で、一旦閉めた供給口も全て開放すると、全ての仕切られた領域について、脱着を徹底させることができる。
【0024】
一方、仕切が無く、直列に多段階となる複数の供給口が設けてある場合は、より供出口から遠い供給口から導入された脱着用水蒸気はそれよりも供出口に近い部分の吸着層を全て脱着できるので、このような一斉開放を行う意義は薄く、吸着層よりも供出口から遠い箇所に、最後に開放する供出口を設けておけば、それによって脱着の徹底が可能である。
【発明の効果】
【0025】
この発明により、揮発性有機化合物を吸着処理する吸着塔を運用するにあたり、燃焼炉に供給される揮発性有機化合物の量が平準化されるため、小型の燃焼炉で安定した運用を行うことができる。燃焼炉自体にかかる熱負荷も軽減されるため、燃焼炉の装置寿命を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第一の実施形態を実施する吸着塔及び燃焼炉等の構成図
【図2】第一の実施形態におけるフロー図
【図3】一の供給口を開放した際の温度及び揮発性有機化合物の量変化と、それを基準とした2つめの供給口の開放タイミングの概念図
【図4】第二の実施形態を実施する吸着塔の構成図
【図5】第三の実施形態を実施する吸着塔の構成図
【図6】実施例におけるグラフ
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態について説明する。この発明は、揮発性有機化合物含有ガスAを、その濃度を低減させた処理後ガスBとして大気中へ排出可能とし、その分の揮発性有機化合物を回収し燃料として使用する揮発性有機化合物処理装置の運用方法にかかるものである。
【0028】
この発明で処理する揮発性有機化合物とは、常圧で加熱することで気体になり得る有機化合物であり、特に常温で液体であるものが吸着処理しやすい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数が1〜8程度のアルコール、トルエン、ベンゼンなどの芳香族有機化合物などの、炭化水素系の溶剤が挙げられる。
【0029】
図1はこの発明を実施する揮発性有機化合物処理装置の全体像の第一の実施形態を示す。この揮発性有機化合物処理装置は、吸着塔11と、燃焼炉13と、熱交換器14とからなる。
【0030】
吸着塔11(11a、11b)は、略円筒形であり、下方側の端部近傍に一枚の多孔板20を設けてある。多孔板20は吸着塔11の横断面全てを覆う大きさであり、この多孔板20上に、揮発性有機化合物を吸着し、加熱により脱着できる吸着剤を充填させた吸着層12を設けている。この吸着剤としては、例えば活性炭などが挙げられる。吸着層12は吸着塔11の上下端までは到達せず、上下どちらにも空洞部分を有する。
【0031】
吸着塔11の吸着層12より上端側には、揮発性有機化合物含有ガスAの導入口17が設けてあり、吸着層12より下端側には、処理後ガスBの排出口18が設けてある。排出口18は大気中へ放出するものである。また、下端側の底部には図示しないが、主に蒸気が凝集して生じた水を排出する排水口が設けてある。揮発性有機化合物含有ガスAは、別の装置等で発生したもので、揮発性有機化合物を除去して処理後ガスBにする処理対象である。例えば、種々の排ガスなどが挙げられる。揮発性有機化合物含有ガスAは、導入口17から導入されて排出口18までの間にある吸着層12を通過する際に、揮発性有機化合物を吸着剤に吸着されて、揮発性有機化合物の濃度が低下した処理後ガスBとなる。
【0032】
また、吸着塔11の吸着層12内部に、複数段からなる脱着用水蒸気Fの供給口15A〜15Cが上から順にほぼ等間隔で設けてある。これらの供給口は、吸着塔11の外壁を貫通して、吸着層12の内部まで到達し、吸着層12内に拡散しやすくなるように開口している。
【0033】
さらに、吸着層12よりも下端側にも、脱着用水蒸気Fの供給口15Dが設けてある。これらの供給口15A〜15Dは、後述する一の燃焼炉13から生じた脱着用水蒸気Fを分岐させた配管の先に設けてある。すなわち、供給される脱着用水蒸気Fの量は、各供給口15A〜15Dのうち、開放されている供給口がほぼ等しく分け合うことになる。供給された脱着用水蒸気Fは、脱着初期は吸着層12で冷やされて大部分が凝縮し、大量の水(ドレン)として排水口から排出されるが、脱着用水蒸気Fの供給とともに吸着層12の温度が上昇すると、部分的に凝縮して水(ミスト)と蒸気の混合体となり、吸着層12に吸着された揮発性有機化合物を脱着させ、気体又は液滴(ミスト)状態で揮発性有機化合物を同伴させつつ上昇し、吸着塔11の上端に設けた供出口16から出て行く。従って、それぞれの供給口15A〜15Dは、供出口16までの経路が一部共通することとなる。以下、供出口16から出て行く有機化合物含有水蒸気Kは、純粋な蒸気状態だけではなく、水及び脱着した有機化合物の蒸気と液滴(ミスト)の混合体も指す。
【0034】
各供給口15A〜15Dに通じる配管にはそれぞれ弁が取り付けてあり、それぞれ開閉を独立して自在に制御できる。運用時には、供出口16に最も近い、すなわち、この実施形態では最も上にある供給口15Aから順番に開放する。
【0035】
上記の供出口16付近に、含有水蒸気温度センサ25が設けてあり、そこまで到達し、燃焼炉13へ向かう有機化合物含有水蒸気Kの温度を計測できる。前述のように有機化合物含有水蒸気Kは水(ミスト)と蒸気の混合体であるが、吸着層12の温度上昇につれて蒸気の比率が高くなるため、含有水蒸気温度センサ25の検知温度は上昇する。即ち、この検知温度により脱着工程のおよその進行度合いを把握することができる。脱着用水蒸気の供給量、温度は基本的に変わらないため、時間経過によっても脱着工程の進行度合いを把握することはできるが、温度や湿度等の外的条件の影響を受けるため、温度による把握が望ましい。
【0036】
上記の供出口16から出た有機化合物含有水蒸気Kは、含有水蒸気配管21を通って燃焼炉13へ送られる。燃焼炉13は上記の脱着用水蒸気Fを生成させるための熱を発生させるためのものであり、そのための燃料Dを供給する燃料供給口22を有しており、それとは別に、上記の吸着塔11の供出口16から送られてきた有機化合物含有水蒸気Kを供給する含有水蒸気供給口23も有している。また燃焼炉13は当然にバーナや煙突も有している(いずれも図示せず。)。さらに、内部温度を測定する燃焼炉内温度センサ24を有している。この燃焼炉13で発生した熱が、熱交換器14へ供給される。
【0037】
熱交換器14は、水蒸気の元となる水Eを供給する循環口31を備え、水Eを加熱して脱着用水蒸気Fを発生させる。生じた脱着用水蒸気Fは、脱着用水蒸気供給路32を通じて、上記の吸着塔11の供給口15A〜15Dへ供給されるが、その途中には分岐33が設けてあり、分岐の一方は熱交換器14へ循環する循環経路34を形成している。この循環経路中には、水Eを噴霧する機能を有しており、循環口31を通じて熱交換器14に繋がる。生成する脱着用水蒸気Fが十分な高温になるまでは、発生する水蒸気はこの循環経路を巡り、吸着塔11や外部へは排出しないようにして、熱効率を高めている。また、熱交換器14は発生する水蒸気の温度を調整するために、内部温度を測定する水蒸気温度センサ36を有している。
【0038】
上記の分岐33の他方は、上記の吸着塔11の供給口15A〜15Dとの間にさらにもう一つの分岐35が設けてある。この分岐35の一方は、大気への開放口39に繋がっており、脱着用水蒸気供給路32内の内圧が過剰になったり、脱着用水蒸気Fが余ったときに、大気中に逃がすことができるよう、必要に応じて開閉可能な弁が設けられている。
【0039】
上記の脱着用水蒸気供給路32の、分岐35の他方には、さらにもう一つの分岐40が設けてあり、それぞれが、二本並列で設けてある吸着塔11(11a,11b)のそれぞれの供給口15A〜15Dに繋がっている。すなわち、一方の吸着塔11aで揮発性有機化合物含有ガスAの吸着を行っている間に、他方の吸着塔11bでは、供給口15A〜15Dからの脱着用水蒸気Fの供給により脱着を行うことで、常に揮発性有機化合物含有ガスAの処理を持続させることができる。ただし、一方の吸着塔における脱着は、後述するように他方の吸着塔の吸着能が減衰して限界に到達するまでの時間に終わらせなければならない。
【0040】
上記の構成からなる揮発性有機化合物処理装置の運用方法の実施手順について説明する。この発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、まず、揮発性有機化合物含有ガスAに含まれる揮発性有機化合物を、一方の吸着塔11(11a又は11b)に導入し、吸着層12の吸着剤に吸着させる。吸着層12を通過した処理後ガスBは排出口18から出て大気中へ放出される。この吸着作業を一定時間が経過するまで、又は、吸着能が一定以下になるまで行う。なお、吸着能の低下を検知して吸着を止めるには、排出口18に揮発性有機化合物の検出装置(図示せず)を設け、そこで処理後ガスBに含まれる揮発性有機化合物の濃度を測定し、予め定めた値以上になったら、吸着層12の吸着能が限界に達していると解釈して導入口17の弁へ閉める命令を出す制御回路を設ける。
【0041】
一方、吸着を終える前から脱着の準備を進めておく。脱着用水蒸気Fは即座に供給開始できるものではないので、吸着終了後から加熱を始めると、脱着が始まるまでの間にタイムラグが生じてしまい、本来必要な吸着工程が止まってしまうためである。
【0042】
この脱着工程の準備段階を図2のフローを用いて説明する。まず、燃焼炉13で燃料Dの燃焼を開始し、脱着用水蒸気Fの循環経路34(32→33→34→31)内の空気を、経路中に設けたファン(図示せず)で循環させる(S11)。この時の空気温度を水蒸気温度センサ36で検知し、水蒸気が生成できる設定温度T1以上になったことを水制御回路(図示せず)が確認したら(S12)、分岐33から熱交換器14へ戻る循環経路34中への水Eの水供給口38の弁を開放し、水Eを噴霧して熱交換器14内で水蒸気を生成させる(S13)。熱交換器14では、水蒸気温度センサ36で生成する水蒸気の温度を検知しておき、脱着用水蒸気Fが脱着に好適な温度T2になるまで(S14)、又は吸着が終了するまで、開放口39への弁を開放して、大気中へ放出する(S15)。脱着は吸熱反応であるため、十分に高温の水蒸気でなければ脱着が速やかに進行しないからである。なお、ここで脱着用水蒸気Fとは、過熱水蒸気又は飽和水蒸気である。
【0043】
吸着塔11での吸着が終了し、脱着用水蒸気Fが所定の温度T2以上になったら(S14)、開放口制御回路(図示せず)は、開放口39への弁を閉じ、最も供出口16に近い供給口15Aへの脱着用水蒸気Fの弁を開放する(S16)。供給口15Aに供給された脱着用水蒸気Fは、吸着層12の上層部分に吸着した揮発性有機化合物を脱着させて、有機化合物含有水蒸気Kとなって供出口16から供出させる(S17)。
【0044】
供出口16付近に設けた含有水蒸気温度センサ25に、有機化合物含有水蒸気Kが到達すると、このセンサは温度上昇を検出する(S18)。この温度上昇は吸着塔11の設備にもよるが、上記のように脱着工程の進行度合いに応じて上昇する。具体的には、温度の値が常温から上昇を始め、40℃程度まで上がったら有機化合物含有水蒸気Kが到達したと考えて運用するとよい。供給口15Aの開放から、有機化合物含有水蒸気Kの到達が検出されるまでには、吸着層12が暖められて脱着用水蒸気Fがミストと蒸気の混合体として吸着層12を通過するまでの時間と、吸着層12を抜けてから供出口16付近に設けた含有水蒸気温度センサ25に到達するまでの時間とを合わせたタイムラグTragが存在する。
【0045】
供給口15Aを開放してから上記のタイムラグTragが経過した後に検出される有機化合物含有水蒸気Kは、脱着開始直後に最も多く脱着が進行するため、含有する揮発性有機化合物の量が急激に上昇して極大値を示し、その後、緩やかに減少するという挙動を示す。また、含有水蒸気温度センサ25が示す温度は、脱着工程の進行度合いに応じて上昇する。この揮発性有機化合物の量と温度の変化の例を図3に示す。ここで、図3で記載の供出口16付近における温度変化、つまり有機化合物含有水蒸気Kによる温度変化は、供給口15Aのみを単独で開放した場合の変化であり、それを基準に供給口15Bを開放するタイミングを決定することになる。
【0046】
なお、供給口15Aを開放したときに脱着される揮発性有機化合物は、吸着層12の全域ではなく、供給口15Aよりも上方の部分だけであり、全域を一括して脱着させる場合と比べて、揮発性有機化合物の量の極大値の値は十分に小さくなっている。この実施形態では、供給口15Aより上の部分とは吸着層12の全体の四分の一程度であり、脱着される揮発性有機化合物の極大値も、全域を一括して脱着させた場合と比べて約四分の一程度にまで抑えられている。そして、揮発性有機化合物の量が極大値を、温度が極小値を示すまでの間に、次の供給口15Bを開放することで、その極大値及び極小値をさらに低下させて全体を平準化する。
【0047】
ところが、供給口15Aの開放直後に供給口15Bを開放すると、揮発性有機化合物の量の極大値を示すピークが近接しすぎて重なり、平準化の効果が不十分になってしまうおそれがある。このため、供給口15Bの開放は、供給口15Aから供給された脱着用水蒸気Fがある程度進行した後にすべきである。
【0048】
具体的には、供給口15Bの開放(S19)は、供給口15Aの開放により吸着塔11に供給される水蒸気が到達することで、供出口16付近の大気が暖まり始めて、40℃に到達した時点から、吸着層12が十分に暖まって、供出口16付近の大気が90℃に到達する時点までの時間Topen0の間にすることが好ましい。供出口16付近が90℃を超えると、最も先に進行した有機化合物含有水蒸気Kは燃焼炉13まで到達していることがほとんどであり、供給口15Bの開放による燃焼炉13の温度上昇ピークの平準化効果の応答性が低下するためである。なお、供出口16から燃焼炉13までの含有水蒸気配管21の長さにもよるが、80℃に到達する時点より前に開放すると、燃焼炉13への到達により先んじやすくより好ましい。図3では、供出口16の温度が90℃に到達するのとほぼ同時に、燃焼炉13の温度が急上昇しており、この時点で有機化合物含有水蒸気Kが到達するケースを示している。燃焼炉13までの含有水蒸気配管21の移送距離を長くすることで、燃焼炉13への到達を遅らせることができ、逆に短くすることで燃焼炉13への到達を早めることができるので、装置設計により多少の誤差があり、一方で、装置設計により微調整することもできる。
【0049】
従って、供給口15Aを開けてから、供給口15Bを開けるまでの時間Topen1は、Trag<Topen1<Trag+Topen0となる。この関係を図3の下部に示す。原点は供給口15Aを開放した時点である。図中斜線の入った帯部分が、それぞれの供給口を開放している時間を示す。
【0050】
供給口15Bを開けるとき(S19)、1つ前の供給口15Aは開放したままである。供給口15Bが開放されると、供給源が同一である脱着用水蒸気Fが、供給口15Aと供給口15Bとに分散するため、供給口15Aに供給される脱着用水蒸気Fは事実上半減する。これにより、含有水蒸気配管21内の有機化合物含有水蒸気Kを押し出す圧力も一時的に低下するので、供給口15Aから供給された脱着用水蒸気Fにより脱着された揮発性有機化合物の極大値は、供給口15Bを開けない場合よりもさらに減少することになり、燃焼炉13の温度上昇ピークも平準化される。
【0051】
供給口15Bを開放することで、吸着層12のうち、供給口15Aと供給口15Bとの領域で特に脱着が起きる。これにより、供給口15Aを開放した際の上記Tragよりも長い時間であるTrag2が経過した後に、含有水蒸気温度センサ25に供給口15Bへ供給された脱着用水蒸気Fによる有機化合物含有水蒸気が到達する。これは吸着層12を抜けるのに要する時間が、供給口15Aよりも供給口15Bの方が長くなるためである。ただし、供給口15Bの開放により到達した有機化合物含有水蒸気が示す有機化合物の含有量の極大値と、それにより生じる燃焼炉13の温度上昇のピークは、供給口15Aの開放により生じた極大値よりも十分に小さいものとなる。供給口15Bに流れ込む脱着用水蒸気Fの量は、供給口15Aに供給された脱着用水蒸気Fの全量の半分であり、また、供給口15Aに供給される脱着用水蒸気Fも同時に半減するために、供給口15A由来の有機化合物含有水蒸気の量もほぼ半減するので、供給口15B由来の極大値はいずれも大きく平準化される。
【0052】
一方、供給口15Bを開放してから一定時間経過した後であって、Trag2が経過して供給口15Bから供給された水蒸気が燃焼炉13に到達する前に、次の供給口15Cを開放する(S20)。これに合わせて供給口15Aを閉鎖する。供給口15Aを開放したままであると、それぞれの供給口15A〜15Cに流れ込む脱着用水蒸気Fが3等分されて、供給口15Cからの脱着効率が低くなりすぎてしまうためである。既に供給口15Aより上方の吸着層12では、ほとんどの揮発性有機化合物が脱着し終えており、その分の水蒸気を供給口15Cに回すこととなる。なお、このとき供給口15Bは開放したままである。
【0053】
この、供給口15Bを開放してから、供給口15Cを開放するまでの時間は、供給口15Aに由来する有機化合物含有水蒸気Kの到達による燃焼炉13の温度上昇が示されてから、供給口15Bに由来する有機化合物含有水蒸気Kの到達による燃焼炉13の温度上昇が示されるまでの間に設定することが好ましい。具体的には、吸着塔の規模によるが、ほとんどの場合、供給口15Bを開放してから2分以上15分以下が好適な時間となる。
【0054】
ただし、供給口15Aの閉鎖と供給口15Cの開放は、完全に同時である必要はなく、若干のタイムラグを設けてから供給口15Aを閉鎖するようにすると、供給口15Cに流れ込む脱着用水蒸気Fは、最初のピーク時には全体の三分の一であり、ピーク後に脱着用水蒸気Fが増えて二分の一になるという多段階的な上昇を示し、有機化合物含有水蒸気が含有する揮発性有機化合物の量をさらに平準化することができる。
【0055】
次の供給口も、同様に、1つ前に供給口を開けた時点から2分以上後であって、1つ前に開けた供給口に由来する有機化合物含有水蒸気Kが燃焼炉に到達するまでの間に開放し、併せて、2つ前に開けた供給口を閉鎖することで、脱着用水蒸気Fの量を確保しつつ、揮発性有機化合物の量の極大値を抑えて、平準化することができる(S21)。図では四つの供給口15A〜15Dを記載しているが、さらに供給口が多段階に設けた場合も、同様の方法により、揮発性有機化合物の量の極大値を抑えて平準化することができる。
【0056】
この実施形態における最後の供給口15Dは、吸着層12の中ではなく、吸着層12よりも下方の、吸着塔11の底部に設けてあり、導入された脱着用水蒸気Fは、吸着層12の全体に行き渡って脱着させることができる。吸着層12より下方であれば概ね吸着層12の全体に行き渡るが、満遍なく拡散させるためには、底部に設けてあることが最も好ましい。
【0057】
最後の2つの供給口を閉鎖するタイミングは、それと同時に開放する供給口が存在していないだけで、上記と同様のタイミングで閉鎖すればよい(S22,S23)。また、最後の1つの供給口15Dだけは、それよりもさらに長く時間を取って開放し、最後の供給口15Dを開放してから十分な脱着が進行したと実験上判断できる一定時間経過後であってもよい。ただし、もう一方の吸着塔11bにおける吸着の限界が来る前に終わらせる必要がある。最後の供給口15Dの閉鎖により、この吸着塔11aの脱着を終了する。
【0058】
閉鎖後、余剰になった脱着用水蒸気Fは開放口39から大気外へ放出し(S24)、燃焼炉13の温度は下げずに、熱交換器14における脱着用水蒸気Fの生成も停止させないことが好ましい。一旦停止すると、再度加熱する際に装置にかかる熱負荷が大きく、また、準備に時間がかかりすぎて、次の吸着塔11bの脱着開始までに生じる時間ロスも大きくなってしまうためである。脱着用水蒸気Fを生成し続けていれば、次に吸着塔11bで行う脱着の際には、S11〜S15までの工程を省略して、S16から速やかに開始することができる。
【0059】
その後、脱着が終わった吸着塔11aは、他方の吸着塔11bの吸着能が低下して吸着を終了するとともに、再び揮発性有機化合物含有ガスAからの吸着を受け持つことになる。
【0060】
上記のように供給口15A〜15Dを開放及び閉鎖することで、揮発性有機化合物の量を平準化することで、燃焼炉13にかかる負荷は小さくなり、過剰な能力を持つ燃焼炉13でなくても、必要最低限の大きさの燃焼炉13で脱着工程を行うことができる。ただし、このように平準化しても、最初の供給口15Aの開放による有機化合物含有水蒸気Kが到達した際などは、燃焼炉13に導入される燃料と揮発性有機化合物の総量は一時的に急上昇するし、供給口の閉鎖により急低下することもある。その変化は、燃焼炉13の炉内温度として明確に現れるので、燃焼炉内温度センサ24で燃焼炉13内の温度を計測し続け、温度上昇を検知したら燃料Dの供給量を搾り、温度低下を検知したら供給量を上げるように微調整することで、燃焼炉13にかかる熱負荷をさらに低下させることができる。
【0061】
この実施形態は、いくつかの点で変更してもこの発明の効果を得ることができる。
上記の実施形態では供出口16付近に設けている含有水蒸気温度センサ25は、供出口16からわずかに含有水蒸気配管21内に入った箇所に設けてもよい。ただし、含有水蒸気配管21中に設ける場合に比べて、吸着塔の大きさ、吸着剤の量に応じて設定温度の調整幅が大きくなる。より燃焼炉13に近い配管内に設ける上記の形態であると、吸着塔11の大きさによる調整幅を小さくすることができる。
【0062】
また、含有水蒸気温度センサ25を用いず、燃焼炉13内に設けた燃焼炉内温度センサ24の測定によっても、燃焼温度の上昇という結果で有機化合物含有水蒸気の到達を検知することはできる。しかしその場合、既に燃焼炉13が温度上昇を起こしているため、それから供給口15A〜15Dの開放調整を行っても、調整の結果が燃焼炉13に届くまでに時間が掛かりすぎてしまう。このため、燃焼炉13内の燃焼炉内温度センサ24が、予め規定した温度域から外れた場合の調整は、燃焼炉13に直結する燃料供給口22からの燃料Dの調整により行うことが好ましい。
【0063】
さらに、一方の吸着塔11aでの脱着が終わってから、他方の吸着塔11bでの脱着を始めるまでの間、分岐33を利用して、脱着用水蒸気Fを熱交換器14に戻して待機状態にしてもよい。
【0064】
また、供給口15Aを開放する際に、開放口39を開放しておき、最初の脱着のピークが経過した後で開放口39を閉じることで、最初の極大値又は極小値をさらに平準化させることができる。さらに、開放口39を開放する代わりに、熱交換器14で発生させる脱着用水蒸気Fの量を一時的に低下させてもよいが、これは熱交換器14にかかる負荷が増えるため好ましくない。
【0065】
次に、吸着塔11の構成を変更した第二の実施形態について、図4を用いて説明する。この実施形態での吸着及び脱着を行う吸着塔51は、円柱状である吸着層53が、三枚の仕切52により120度ずつ三分割されており、それぞれの仕切られた領域54が独立したものである。それぞれの領域54A〜Cには、上下二段にそれぞれ供給口55A,55B,供給口55C,55D、供給口55E、55Fが設けてある。また、吸着層53より下方の、吸着塔11の底部には、供給口55Gが設けてある。吸着層53の上方と下方にはいずれも仕切52は到達していない。なお、図中省略しているが、供給口のそれぞれには開閉制御のための弁が設けてある。
【0066】
有機化合物含有ガスAを導入する導入口17と、処理後ガスBを排出する排出口18と、供出口16は吸着塔11と同様に備えている。また、図には記載しないが、燃焼炉13及び熱交換器14の構成も同じであり、配管の構成も同一である。また、同じ構成の吸着塔51を二本備えており、一方で脱着を行っている間に他方で吸着を行うという同一の運用方法が可能である。
【0067】
この実施形態にかかる吸着塔51で有機化合物含有ガスAの吸着を行う場合には、導入口17から導入された有機化合物含有ガスAが、並列になっている領域54A〜54Cのそれぞれに分かれて通過して吸着され、処理後ガスBとなって排出される。
【0068】
脱着工程の準備段階で、燃焼炉13及び熱交換器14において十分に高い温度の脱着用水蒸気Fを得る工程は第一の実施形態と同一である。脱着を開始するにあたっては、3つの領域54A〜54Cのうち、いずれかの領域の、供出口16に近い側の供給口55A,55C,55Eのいずれかを選んで開放する。仮に供給口55Aを開放した場合、次に開放する供給口は、同じ領域54Aで下方にある供給口55Bでもよいし、別の領域54B、54Cのいずれかの、供出口16に近い側の供給口55C,55Eのいずれかでもよい。二つめに供給口を開放する際には、一つめに開放した供給口55Aは開放したままであり、これにより、上記第一の実施形態と同様に、脱着する有機化合物含有水蒸気中に含まれる揮発性有機化合物の量の極大値を平準化させることができる。
【0069】
そして、3つめの供給口を開放するタイミングに合わせて、1つめに開放した供給口55Aを閉じることで、脱着用水蒸気Fを効率よく配分することができる。そのタイミングも上記第一の実施形態と同様に設定できる。
【0070】
また、別の実施形態として、2つめに開放する供給口と3つめに供給する供給口とが、それぞれ、1つめに開放する供給口と違う領域54A〜54Cにあるようにし、4つめの供給口を開放するまではそれらは閉じないものとする。そして、1つめに開放した供給口を閉じるとともに、1つめに開放した供給口と同じ領域にある供給口を4つめの供給口として開け、以下、2つめに開放した供給口を閉じるとともに、同じ領域にある供給口を5つめとして開ける、というように繰り返していくことで、各領域54A〜54Cで満遍なく脱着を行うことができる。
【0071】
以下、それぞれの供給口55A〜55Fは、下段にある供給口が、同じ領域の上段にある供給口より後に開放する、という条件の範囲であれば、自由な順番で開放してよい。例えば、55A,55B,55C,55D,55E,55Fといった、それぞれの領域を順に脱着する順番でもよいし、55A,55C,55E,55B,55D、55Fといった、先に上段の供給口を開放してから、下段の供給口を開放する順番でもよいし、それらを複合した変則的な順番でも実施可能である。
【0072】
上記の供給口55A〜55Fを全て開放した後、最後に、吸着塔51の底部に設けた供給口55Gを開放する。ここに供給された脱着用水蒸気Fは、全ての領域54A〜54Cを通って、仕上げの脱着を行う。
【0073】
さらに、供給口55Gを開放してから一定時間経過した後、全ての供給口を開放して、脱着を徹底させてもよい。このような全開放は、最後の供給口15Gを開放してから15分以上経過した後に行うと、最後の供給口55Gによる脱着を十分に果たした上で仕上げを行うことができる。一方で、30分を超えてから行うと、脱着工程全体の時間がかかりすぎてしまうため好ましくない。
【0074】
この実施形態は、さらに細部を変更しても実施可能である。仕切52は吸着層53内だけでなく、吸着層53より下方の底部までを仕切るものであってもよい。脱着効率の点ではその方が望ましい。だたし、吸着塔51全体の部材が増加し、制御が複雑になるというデメリットを有する。
【0075】
また、構造を単純化するため、それぞれの領域54A〜54Cに設ける供給口を多段にせず、一段だけとし、それぞれの領域の供給口を順に開放し、最後に底部の供給口を開放するものでもよい。吸着塔51の吸着剤が比較的少ない場合にはこのような構成でも十分に実施可能である。ただし、各領域の脱着を徹底させるため、底部に設ける最後に開放する供給口は省略しない方がよい。
【0076】
さらに、吸着層53は、3分割ではなく、2分割や4分割でも実施可能である。ただし、分割数が増えすぎると脱着効率は低下する。
【0077】
次に、吸着塔11の構成を変更した第三の実施形態について、図5を用いて説明する。この実施形態での吸着及び脱着を行う吸着塔57は、上記の第二の実施形態と同様に、吸着層53が三枚の仕切52によって三分割され、それぞれの仕切られた領域54A〜54Cが独立している。第二の実施形態との違いは、それぞれの領域54A〜54Cに設けられた供給口(58A〜58C)が一つずつである点である。また、それらとは別に、吸着層53より下方の、吸着塔11の底部には、供給口58Dが設けてあり、その他の構成は吸着塔51と同じである。第二の実施形態を実行する吸着塔51に比べて、吸着塔57のような構成は、比較的規模が小さい場合に適用される。
【0078】
その脱着の実施にあたっては、上記第一及び第二の実施形態と同様に、まず1つめの供給口58Aを開放し、それを開放したまま、1つめの供給口58Aに由来する有機化合物含有水蒸気Kが燃焼炉に到達する前に、2つめの供給口58Bを開放する。3つめの供給口58Cは、2つめの供給口58Bを開放してから一定時間経過後、供給口58Bに由来する有機化合物含有水蒸気が燃焼炉に到達する前に開放し、それにタイミングを合わせて、1つめの供給口58Aを閉鎖する。すなわち、各領域の供給口58A〜58Cをまず順に開放していき、吸着塔57の底部に設けられた4つめの供給口58Dは最後に開放する。この4つめの供給口58Dを開放するタイミングは、3つめの供給口58Cを開放してから一定時間経過後、供給口58Cに由来する有機化合物含有水蒸気Kが燃焼炉に到達する前であって、2つめの供給口58Bを閉鎖するタイミングと合わせて行えばよい。さらに、同様のタイミングで3つめの供給口58Cを閉鎖し、4つめの供給口58Dから水蒸気の全量が供給されるようにして、全ての領域54A〜54Cの脱着を徹底させる。
【0079】
これらの第一から第三の実施形態のうち、吸着層断面積が大きな場合は、第二及び第三の実施形態のように並列に仕切って脱着することで効率がよくなる。一方で、脱着の徹底という点では、次の供給口から供給された水蒸気が、前の供給口により脱着された吸着層の領域でもさらに脱着を行う第一の実施形態の方が優れている。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によりこの発明をさらに具体的に示す。まず、実験装置について説明する。実験には、吸着塔寸法:φ68(内径)×700H、充填部:φ68×600H(体積:2.18L)、活性炭重量:1000g(白鷺S2x 4/6)である吸着塔を使用し、水蒸気の供給口、供出口の位置を変えて、二種類の実験を行った。なお、吸着塔以外の構成は図1に準じたものである。
【0081】
<実験方法>
予め吸着塔に、揮発性有機化合物としてトルエンを含むガスを流し、吸着剤である活性炭に十分にトルエンを吸着させた。吸着終了後、供給口から脱着用水蒸気を導入し、トルエンを含んだ有機化合物含有水蒸気を塔頂部の供出口から排出した。この水蒸気を、供出口から燃焼炉の間に設けた配管中で一部を採取し、冷却管に通して、凝縮、回収した。回収は1分ごとに行い、回収した凝集液のトルエン層を静置分離させ、その体積を計測して、脱着されたトルエンの量の時間変化を測定した。
【0082】
(実施例1)
水蒸気の供給口を、吸着塔上面から160mm、350mmの側面と、底面の中心に設け、供出口を吸着塔上面の中心に設けた。すなわち、図1の形態で、供給口が一段少ない形態である。層中上段の供給口をA、層中下段の供給口をB、底面の供給口をCとし、次の手順を行った。
(1)Aを開放し、1.68kg/hの脱着用水蒸気を流す。B,Cは閉じる。
(2)5.5分後、Bを開放し、A、Bに0.84kg/hの脱着用水蒸気を流す。
(3)12分後、Aを閉じてCを開放し、BとCそれぞれに0.84kg/hの脱着用水蒸気を流す。
(4)30分後、Bを閉じてCに1.68kg/hの脱着用水蒸気を流す。
その結果を図6に示す。
【0083】
(実施例2)
実施例1と同様の構成で、Bの開放を6分後に変更し、Cの開放とAの閉鎖を15分後に変更した。その結果を図6に示す。
【0084】
(比較例)
供給口を多段にせず、吸着塔の底部に設けたもののみとし、脱着開始から終了まで1.68kg/hの脱着用水蒸気を供給して測定を行った。その結果を図6に示す。
【0085】
(結果)
比較例では、脱着開始後12分で排出量が最大で27g/minを示し、その後急激に低下したが、実施例1で脱着工程全体を通じて排出量が最大で約4g/minを示し、また、脱着工程を通じてほぼ同じ値で安定していることがわかる。また、実施例2でも最大は約7g/minであり、最初のタイミング以外は実施例1とほぼ同様で平準化された。
【0086】
実施例のそれぞれのタイミングでは、次のような現象が起こっていると考えられる。
(1)A開放
A開放により、脱着量は急上昇する。なお、供出口に近いAから開放することにより、従来と比べて脱着量の上昇が早期に開始される。
(2)A開放+B開放
続けてBを開放することによりAからの水蒸気が半減し、脱着量のピークが従来と比べて大きく低下する。また、B開放により脱着された分の溶剤が出口(燃焼炉前)に到達するタイムラグがあるため、後半、全体としては下降傾向となる。
(3)B開放+C開放
B開放により脱着された溶剤が到達するため、排出量が増加するが、ピークを超えた後は(2)と同様に下降傾向となる。
(4)C開放
(3)と同様。
【0087】
なお、実施例1と実施例2の最初の極大値の違いは、実施例1では極大値が生じる直前に供給口Aへの脱着用水蒸気の量が半減したために、ピークが抑えられたものと考えられる。
【符号の説明】
【0088】
11,11a,11b 吸着塔
12 吸着層
13 燃焼炉
14 熱交換器
15A,15B,15C,15D 供給口
16 供出口
17 導入口
18 排出口
20 多孔板
21 含有水蒸気配管
22 燃料供給口
23 含有水蒸気供給口
24 燃焼炉内温度センサ
25 含有水蒸気温度センサ
31 循環口
32 脱着用水蒸気供給路
33 分岐(循環経路行き)
34 循環経路
35 分岐(大気排出行き)
36 水蒸気温度センサ
38 水供給口
39 開放口
40 分岐(吸着塔二分)
51 吸着塔
52 仕切
53 吸着層
54A〜54C 領域
55A〜55G 供給口
57 吸着塔
58A〜58D 供給口
A 揮発性有機化合物含有ガス
B 処理後ガス
D 燃料
E 水
F 脱着用水蒸気
K 有機化合物含有水蒸気
rag 供給開始から最初の検出までのタイムラグ
open0 2つめの供給口を開放すべき時間帯
open1 1つめの供給口開放から2つめの供給口開放までの時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物を吸着する吸着剤を充填した吸着層を内部に有する吸着塔に、揮発性有機化合物を含有するガスを導入し、揮発性有機化合物を上記吸着剤に吸着させて含有量を低減させた処理後ガスを排出した後、燃焼炉で生じる熱により加熱して生成した脱着用水蒸気を上記吸着塔に導入して吸着剤から揮発性有機化合物を脱着させ、脱着した有機化合物含有水蒸気を、全ての吸着層よりも一方の端部側に設けた供出口から排出して前記燃焼炉に導入して燃焼させる、吸着塔の運用方法であって、
上記吸着塔には、一つ又は一群の燃焼炉で生じる熱により加熱して生成した上記脱着用水蒸気の供給口を、少なくとも上記吸着層の上記供出口側の端部より離れた箇所に複数設けてあり、
そのうちの少なくとも1つの供給口は上記吸着層内に直接に上記脱着用水蒸気を導入するものであり、
それぞれの供給口を開放するにあたっては、
上記供出口までの上記吸着層内の経路の一部を共有する複数の供給口があれば、上記供出口に近い供給口を先に開放し、
次に開放する供給口は、少なくとも直前に開放した供給口を閉じる前に開放し、
それぞれの供給口を閉じるにあたっては、少なくとも直前に開放した供給口を開放してから一定時間経過後に行うことを特徴とする、
揮発性有機化合物吸着塔の運用方法。
【請求項2】
同時に開放状態にある2つの供給口のうち、先に開放された方の供給口を、次に開放する供給口を開放するタイミングに合わせて閉じることを特徴とする、請求項1に記載の揮発性有機化合物吸着塔の運用方法。
【請求項3】
最後に開ける供給口を開放した後、一旦閉じた供給口を全て開放することを特徴とする請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物吸着塔の運用方法。
【請求項4】
2つめの供給口の開放は、上記吸着塔の上記供出口側の端部における所定の温度条件、上記供出口における所定の温度条件、上記供出口から上記燃焼炉までの含有水蒸気配管中における所定の温度条件、又は、上記燃焼炉における所定の温度条件を満たした際にするものとし、
それら温度条件は、予備実験において1つめの供給口の開放により脱着される揮発性有機化合物の量が極大値を示した際の温度よりも低い、請求項1乃至3のいずれかに記載の揮発性有機化合物吸着塔の運用方法。
【請求項5】
3つめ以降の供給口を開放するタイミングは、それよりも1つ前の供給口を開放した時点から2分以上後であって、1つ前の供給口に由来する有機化合物含有水蒸気が燃焼炉に到達する前であり、
それぞれの供給口を閉鎖するタイミングは、2つ後に開放する供給口の開放に合わせたことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の揮散性有機化合物吸着塔の運用方法。
【請求項6】
上記供出口までの上記吸着層内の経路が複数存在し、少なくともその経路の数に対応するそれぞれの経路上に上記脱着用水蒸気を導入する供給口が存在し、
上記吸着層内が並列に仕切られており、それぞれの仕切られた領域にのみ上記脱着用水蒸気を導入する供給口が存在し、
一の供給口を開放した後は、その供給口と同じ上記領域への専用の供給口が存在する場合には、その供給口を、他の供給口よりも優先して開放し、当該経路への専用の供給口が全て開放し終わってから、他の経路への専用の供給口を開放する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の揮発性有機化合物吸着塔の運用方法。
【請求項7】
上記吸着塔の、全ての吸着層よりも他方の端部側の位置に供給口を設け、全供給口の最後に開放することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の揮発性有機化合物吸着塔の運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−161708(P2012−161708A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21711(P2011−21711)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】