説明

揮発性有機化合物吸着材とその製造方法

【課題】木質系バイオマスを原料とするバイオエタノールの生産に由来するリグニンを含む木質残渣又はその成型体を有効利用した、揮発性有機化合物を効果的に吸着する揮発性有機化合物吸着材とその製造方法を提供する。
【解決手段】リグニンを含む木質残渣又はその成型体を炭化及び賦活処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物吸着材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染防止法が改正され、塗装工場や印刷工場などから排出されるホルムアルデヒドやトルエンなどの揮発性有機化合物(以下、「VOC」という)の排出規制が導入され、VOCを排出する各工場施設には、VOC処理装置の整備がより重要性を増している。また、近年の住宅の高断熱化、高気密化、さらには、ビニールクロスや接着剤などの化学物質の住宅建材への適用により、いわゆるシックハウス症候群が大きな問題となっており、VOC吸着材の開発が望まれている。
【0003】
これまでに報告されているVOC吸着材としては、特に植物由来のものとして、茶葉由来のポリフェノールであるカテキン類を用いて建築用建材、家具用材料などへ適用する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、天然物質を原料としてVOC吸着材を製造する場合には、製造コストの低減が、極めて重要な課題となっている。従来の製造方法では、天然物質から抽出された物質、例えば、カテキン、タキシホリンなどのフラボノイド類を原料天然物から単離し、これを塩基物質で重合させる手法をとっている。このような製造方法によれば、フラボノイド類の抽出、単離、精製およびフラボノイド類の重合工程、さらにはその間の秤量、乾燥工程など非常に多くの製造工程を経る必要がある。このため、製造プロセスは極めて複雑となる上、製造コストが高騰してしまい、化学合成品などと比較して性能的には同等であったとしても価格面で競合することが困難となっていた。
【0005】
そこで、木質系バイオマスから抽出されたリグニン水溶液を凍結・乾燥させてVOC吸着材として利用する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2において提案されている方法は、木質系バイオマスから直接、水溶性リグニンを抽出するものであるため、抽出液の調製が容易でなく、また、リグニンの抽出量、コスト面で、依然として問題を有していた。
【0006】
ところで、近年、石油に代替するエネルギーとして、バイオエタノールが注目を集めている。バイオエタノールの原料としては、食料不足や安定供給性の問題から、サトウキビやトウモロコシ等の資源植物に代わって、廃木材などの非食用由来の木質系バイオマスを粉砕して利用する動きが高まっている。
【0007】
現在、木質系バイオマスを原料とするバイオエタノールの生産においては、例えば、粉砕した木質系バイオマスを濃硫酸または希硫酸によって分解して、セルロースおよびヘミセルロースを含有する分解液と、リグニンを含む未分解の木質残渣に分離し、セルロースおよびヘミセルロースを含む分解液を糖化、発酵させ、エタノールを精製する方法が採用されている。 リグニンは、酵素によってアルコールに発酵することができないため、上記のように木質残渣として分離する必要がある。
【0008】
このように、木質系バイオマスを原料とするバイオエタノールの生産においては、リグニンを含む木質残渣が発生するため、資源の有効活用の観点から、この木質残渣を利用した製品等の開発が望まれているが、現状では、例えば、木質残渣をペレット状に成形し、熱生産のための燃料としての利用する程度に留まっており、有用な用途が確立されているとは言い難い。
【0009】
また、従来から、ガスなどの吸着材としての活性炭の有用性が知られているが、リグニンの活用方法として、リグニンに加熱処理等を施して、活性炭を製造する方法も提案されている(特許文献3)。
しかしながら、特許文献3の方法においては、木質化した植物組織の二次成分である樹脂、タンニン、灰分などが除かれた純度の高いリグニンを用いる必要があるため、例えば、クラフト法パルプ廃液であるKP黒液を硫酸で中和して析出したリグニンなどを原料とする必要がある。したがって、原料として採用できるリグニンに大きな制限があり、資源の有効活用の観点からは大きな課題があった。
【0010】
以上のように、現状では、VOC吸着性に優れた吸着材を安価に製造する方法は提案されておらず、さらに木質系バイオマスを原料とするバイオエタノールの生産において発生するリグニンを有効活用する方法も提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−226100号公報
【特許文献2】特開2006−26544号公報
【特許文献3】特開平6−13715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のとおりの背景から、バイオエタノールの生産工程において発生する木質残渣を有効活用し、VOCを効果的に吸着するVOC吸着材およびその製造方法を提供することことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の揮発性有機化合物吸着材は、以下の<1>から<3>のことを特徴とし、本発明の揮発性有機化合物吸着材の製造方法は、以下の<4>から<7>のことを特徴としている。
<1>木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの製造工程に由来するリグニンを含む木質残渣またはその成形体を炭化および賦活処理した炭化物であること。
<2>比表面積が950m/g以上で、マイクロ孔容積が0.40cm/g以上であること。
<3>メソ孔容積が、0.19cm/g以上であること。
<4>少なくとも、下記の工程(1)木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの製造工程に由来するリグニンを含む木質残渣又はその成型体を600℃から800℃の範囲で加熱して炭化処理する工程、(2)前記(1)の炭化処理をした木質残渣又はその成型体を、二酸化炭素雰囲気下または、二酸化炭素と空気の混合ガス雰囲気下で、800℃から1200℃の範囲で加熱して賦活処理する工程、を含むこと。
<5>少なくとも、下記の工程、(1)木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの製造工程に由来するリグニンを含む木質残渣又はその成型体を600℃から800℃の範囲で加熱して炭化処理する工程、(2)前記(1)の炭化処理をした木質残渣又はその成型体を、二酸化炭素雰囲気下で800℃から1200℃の範囲で加熱して賦活処理した後、空気雰囲気下で800℃から1200℃の範囲で加熱して賦活処理する工程、を含むこと。
<6>前記(2)の工程の後、さらに酸で洗浄する工程を含むこと。
<7>炭化処理は、窒素ガス雰囲気下で行うこと。
【発明の効果】
【0014】
上記発明によれば、従来では有効利用が困難であったリグニンを含む木質残渣またはこの成型体を活用するため、極めて安価にVOC吸着材を製造することができる。さらに、賦活処理によって細孔容積の大きい炭化物を得ることができるため、VOCを効率よく吸着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のVOC吸着材は、木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの生産工程に由来するリグニンを含む木質残渣またはその成型体を炭化・賦活処理した炭化物からなるものである。
【0016】
木質系バイオマスの種類は問わないが、資源の有効活用の観点から、間伐材、廃木材、農業廃棄物などを用いることができる。
【0017】
そして、本発明では、例えば、上記の木質系バイオマスを粉砕し、濃硫酸または希硫酸を加えて分解することで得られるリグニンを含む木質残渣および、この木質残渣から圧縮、成形したペレット等を使用することができるが、リグニンを含む木質残渣は、木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの生産工程に由来するものであればよく、取得条件、手段は特に限定されない。そして、木質残渣をペレットに成形する場合には、例えば、直径5〜10mm、長さ10〜25mmの円筒形などとすることができる。このようなリグニンを原料としたペレットは一般的にリグニンペレットなどと呼ばれており、バイオマス燃料として市販されている。
【0018】
なお、リグニンを含む木質残渣が分離された分解液には、セルロースおよびヘミセルロースが含まれ、この分解液を糖化、発酵させ、濃縮することで、エタノールを精製するができる。
【0019】
本発明者等は、木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの生産工程において発生するリグニンを含む木質残渣およびこの木質残渣から成形されるリグニンペレット等の成型体が、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、酢酸エチル等のVOCを効果的に吸着し得る吸着材として有効に活用できることを見出した。本発明はこのような発明者等の新規な知見に基づいてなされている。
【0020】
なお、以下の実施形態では、VOC吸着材の原料としてリグニンペレットを用いた例を説明するが、本発明におけるVOC吸着材の原料はこれに限定されるものではなく、バイオエタノールの生産工程において発生するリグニンを含む木質残渣そのものであってもよいし、この木質残渣から製造される各種の成型体とすることもできる。
【0021】
本実施形態において、リグニンペレットを原料としたVOC吸着材は、下記の<1>炭化処理工程、<2>賦活処理工程、を経て製造される。
<1>炭化処理工程
炭化処理工程では、上記リグニンペレットを炉内に設置し、これを600℃〜800℃の範囲の所定温度で加熱して炭化させる。これにより多孔質の炭化物を得ることができる。600℃未満では炭化が十分に進行せず、逆に800℃を超えると炭化が進行しすぎて、VOC吸着のための十分な比表面積を確保することができない。特に、700℃程度で加熱処理した場合には、大きな比表面積を確保することができるため好ましい。このような所定温度での保持時間は、炭化処理温度によって異なるが、例えば、1時間〜3時間の範囲とし、リグニンペレットの炭化の進行に応じて適宜に設定する。本炭化処理工程では、例えば、窒素ガスを炉内に200ml/minで導入して炉内の酸素を置換した後、リグニンペレットの炭化処理を行うようにしてもよい。
<2>賦活処理工程
上記<1>の炭化処理工程を経たリグニンペレットを賦活処理する。賦活処理は、以下の(A)〜(C)のいずれかの方法で行うことができる。
(A)二酸化炭素雰囲気下で、加熱して賦活する方法
(B)二酸化炭素および空気の混合ガス雰囲気下で加熱して賦活する方法
(C)二酸化炭素雰囲気下で加熱して賦活した後、空気を導入して、空気雰囲気下で加熱して賦活する方法
上記(A)〜(C)の賦活方法においては、いずれも、加熱温度は800℃〜1200℃範囲とすることができる。800℃未満では炭化材料における孔の形成が不十分であり、1200℃を超えると炭化が進行しすぎて、VOC吸着のための十分な比表面積を確保することができない。中でも、加熱温度を950℃程度とした場合には、最も大きな比表面積を確保することができるため好ましい。また、加熱時間は、加熱温度によって異なるが、例えば30分〜2時間の範囲とすることができ、炭化材料の孔の形成度合いや比表面積等に応じて適宜に設定するできる。
【0022】
さらに、上記(A)〜(C)の賦活方法においては、二酸化炭素流量は、例えば、200〜400ml/minとすることができる。また、上記(B)および(C)の賦活方法においては、空気流量は、例えば150〜200ml/minとすることができる。
【0023】
そして、上記(A)の方法によれば、BET法による比表面積が、およそ730〜925m/gであり、メソ孔容積が、およそ0.15〜0.22cm/gであり、マイクロ孔容積が、およそ0.29〜0.38cm/gである炭化物が得られる。
【0024】
また、上記(B)の方法によれば、BET法による比表面積が、およそ800〜850m/gで、メソ孔容積が、およそ0.15〜0.20cm/gであり、マイクロ孔容積が、およそ0.30〜0.35cm/gである炭化物が得られる。
さらに、上記(C)の方法によれば、、BET法による比表面積が、およそ950〜1000m/gで、メソ孔容積が、およそ0.18〜0.30cm/gであり、マイクロ孔容積が、およそ0.40〜0.45cm/gである炭化物が得られる。
【0025】
比表面積は、VOC吸着性能と比例し、さらに、マイクロ孔容積大きいほど、VOC吸着性能に優れていることから、より高いVOC吸着性能を有する炭化物を得るためには、上記(C)の方法を採用することが最も好ましい。
【0026】
なお、「メソ孔」とは、細孔直径が2〜50nmの孔をいい、「マイクロ孔」は、細孔直径が0.5〜2nmの孔をいう。
【0027】
さらに、本実施形態では、揮発性有機化合物であるトルエンやキシレン等の疎水性物質の吸着性能を向上させるために、炭化及び賦活処理して製造したVOC吸着材を酸で洗浄する(以下、酸処理ともいう)ことが望ましい(酸洗浄工程)。酸処理を施すと、VOC吸着材表面の酸素量が減少するとともに、炭化材料表面に親水性金属酸化物(灰分)として存在するCa(カルシウム)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)、P(リン)等の酸化物が除去される。炭化材料表面に存在する酸素は、一般的にはOH基、カルボニル基、カルボキシル基等の含酸素官能基として存在しており、これが水素結合等により水と容易に結合して親水性を示すと考えられる。このため、本実施形態のように酸処理を施すとVOC吸着材表面の含酸素官能基が減少し、また親水性金属酸化物(灰分)が除去されることによる効果をも併せると、VOC吸着材表面がより疎水化してトルエンやキシレン等の疎水性物質の吸着性能が向上する。
【0028】
VOC吸着材の酸による洗浄は、例えば、0.2〜2.0mol/Lの濃度に調製された塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の酸水溶液と炭化材料をビーカー等の容器に供給して、酸水溶液中に炭化材料を1時間〜24時間浸漬する、もしくはマグネチックスターラー等の攪拌手段を用いて1時間〜24時間程度攪拌することにより行う。酸で洗浄した後は、水洗又は湯洗し、次いで乾燥機で105〜115℃程度の温度で十分に乾燥させる。このような酸による洗浄は、複数種の酸を用いて行ってもよい。例えば、塩酸で洗浄後にフッ酸を用いて再度洗浄するようにしていもよい。また酸による洗浄工程を複数回繰り返して行ってもよい。
【0029】
このような工程を経て製造される本発明のVOC吸着材は、灰分として、親水性金属酸化物(CaO、SiO2 、Fe23 、K2O等)を含有している。これらの灰分は、本実施形態における炭化材料の吸着能を妨げる要因の一つになっているため、VOC吸着能向上の観点から、本実施形態では、VOC吸着材中の灰分の比率が、全体に対して重量比で例えば12%以下に調製されることが考慮される。VOC吸着材中の灰分の比率が低いほど、VOC吸着能が向上するため、好ましくは8%以下、さらには3%以下とすることが考慮される。VOC吸着材中の灰分の比率の下限値は好ましくは、0である。
このようなVOC吸着材中の灰分の含有量の調製は、例えば、上記酸洗浄工程における酸の洗浄によってなされる。特に、Ca成分やSi成分を溶解除去するために、酸としてフッ酸を用いることが好適である。酸洗浄を行うと、酸洗浄前に比べて比表面積が増加する傾向にあり、具体的には10〜50%程度増加する傾向にあり、VOCの吸着に効果的である。
【0030】
このように本実施形態の酸洗浄工程では、炭化材料表面の酸素量の減少と親水性金属酸化物(灰分)の除去によって疎水化し、さらに比表面積が増加するため、VOCの吸着能の向上がより簡易な方法で実現できる。
【0031】
このようにして製造されたVOC吸着材は、VOCの吸着に有効な揮発性有機化合物吸着材として、例えば粉末状で使用されてもよいし、使用形態に応じて板状体や筒状体等、任意の形状に成型して使用される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<1> VOC吸着材の製造
(1)炭化処理工程
木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの生産工程に由来するリグニンペレット50gを、活性炭製造炉((有)マツキ科学製)内に投入した。次いで、窒素を炉内に200ml/minで流し、炉内の酸素を置換した。その後、温度制御プログラムを用いて、昇温速度7℃/minで室温から700℃まで加熱し、700℃を2時間保持して炭化を行った。
【0033】
この炭化物の比表面積と細孔径分布を、解析ソフトBELSORP WINDOWS(登録商標)(日本ベル(株)製)を用いて算出したところ、BET比表面積が、340m/gであり、メソ孔容積が、0.07cm/gであり、マイクロ孔容積が、0.14cm/gであった。
(2)賦活処理工程
さらに、上記(1)の炭化処理を施したリグニンペレットに対し、以下の賦活処理を行った(実施例1〜6)。
【0034】
実施例1:二酸化炭素400ml/minを炉内に導入して賦活処理を行った。
【0035】
実施例2:二酸化炭素300ml/minを炉内に導入して賦活処理を行った。
【0036】
実施例3:二酸化炭素200ml/minを炉内に導入して賦活処理を行った。
【0037】
実施例4:二酸化炭素300ml/min、空気200ml/minを混合して炉内に導入して賦活処理を行った。
【0038】
実施例5:二酸化炭素300ml/minを炉内に導入して賦活処理を行い、さらに、空気200ml/minを炉内に導入した賦活処理を行った。
【0039】
実施例6:二酸化炭素300ml/minを炉内に導入して賦活処理を行い、さらに、空気150ml/minを炉内に導入した賦活処理を行った。
【0040】
そして、実施例1〜6における二酸化炭素による賦活温度は950℃とし、賦活時間は1時間とした。さらに、実施例5、6における空気による賦活温度は950℃とし、賦活時間は1時間とした。
【0041】
賦活後は放置して炉内の温度が室温まで低下してから、炭化物を取り出し、蒸留水で水洗した後、105℃の乾燥機に入れて十分乾燥させて、VOC吸着材とした。

<2>VOC吸着材の細孔分布及び比表面積測定
(1)測定方法
上記<1>で得られたVOC吸着材を粉砕して前処理(減圧乾燥)で十分に表面を清浄にした。その後、BELSORP18 Plus−T(日本ベル(株)製)を用いて、液体窒素温度(77K)での窒素吸脱着量を容量法(吸着平衡圧力測定)にて測定した後、比表面積と細孔径分布を、解析ソフトBELSORP WINDOWS(登録商標)(日本ベル(株)製)を用いて算出した。なお、細孔構造などを比較するために、市販活性炭(和光純薬製粉末活性炭)も同様に測定した。
(2)結果
測定結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜6のいずれにおいても、マイクロ孔容積が、メソ孔容積に比べて大きいことが分かった。さらに、二酸化炭素および空気による2段階の賦活処理を行った実施例5と実施例6の吸着材は、特にBET比表面積が大きく、マイクロ孔の発達が顕著であった。

<3>VOC吸着材のトルエンの吸着量
(1)測定方法
実施例2、実施例4、実施例5、実施例6で得られたVOC吸着材を粉砕して前処理(減圧乾燥)で十分に表面を清浄にした。その後、BELSORP18 Plus−T(日本ベル(株)製)を用いて、25℃(297K)、相対圧(P/P)=0.3(低濃度領域での吸着)における本発明のVOC吸着材のトルエン吸着量を容量法(吸着平衡圧力測定)により測定した。比較例として、市販活性炭(和光純薬製粉末活性炭)も同様に測定した。
(2)結果
トルエンの吸着量は、市販活性炭が、360mg/gであったのに対し、実施例2のVOC吸着材は、319mg/g、実施例4のVOC吸着材は、279mg/g、実施例5のVOC吸着材は、365mg/g、実施例6のVOC吸着材は、339mg/gであった。
【0044】
本発明のVOC吸着材は、いずれも十分なVOC吸着性能を有しており、バイオエタノールの生産工程において発生するリグニンをVOC吸着材として有効に活用できることが確認された。また、特に、実施例5と実施例6のVOC吸着材は、市販活性炭と同程度またはそれ以上の優れたVOC吸着性能を有していることが確認された。

<4>VOC吸着材の無機成分分析
(1)分析方法
本発明におけるVOC吸着材の原料として用いたリグニンペレットをるつぼに量り取り、電気炉内で室温から700℃に昇温し、1〜3時間保持して灰化した。灰化した試料を円盤状にプレス成形し、蛍光X線分析装置(理学電機工業(株)製RIX−3000)を用い、ファンダメンタル・パラメーター法によるオーダー分析を行った。
(2)結果
結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
リグニンペレットの炭化物には、表2に示すような灰分が含まれていた。灰分は活性炭の吸着能を妨げる要因の一つであることを考慮すると、塩酸等の酸洗浄で効率よく灰分を除去することで、VOC吸着性能を向上させることができ、高品質のVOC吸着材を得ることができることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの製造工程に由来するリグニンを含む木質残渣またはその成形体を炭化および賦活処理した炭化物である特徴とする揮発性有機化合物吸着材。
【請求項2】
比表面積が950m/g以上で、マイクロ孔容積が0.40cm/g以上であることを特徴とする請求項1の揮発性有機化合物吸着材。
【請求項3】
メソ孔容積が、0.19cm/g以上であることを特徴とする請求項1または2の揮発性有機化合物吸着材。
【請求項4】
少なくとも、下記の工程を含むことを特徴とする揮発性有機化合物吸着材の製造方法。
(1)木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの製造工程に由来するリグニンを含む木質残渣又はその成型体を600℃から800℃の範囲で加熱して炭化処理する工程
(2)前記(1)の炭化処理をした木質残渣又はその成型体を、二酸化炭素雰囲気下または、二酸化炭素と空気の混合ガス雰囲気下で、800℃から1200℃の範囲で加熱して賦活処理する工程
【請求項5】
少なくとも、下記の工程を含むことを特徴とする揮発性有機化合物吸着材の製造方法。
(1)木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの製造工程に由来するリグニンを含む木質残渣又はその成型体を600℃から800℃の範囲で加熱して炭化処理する工程
(2)前記(1)の炭化処理をした木質残渣又はその成型体を、二酸化炭素雰囲気下で800℃から1200℃の範囲で加熱して賦活処理した後、空気雰囲気下で800℃から1200℃の範囲で加熱して賦活処理する工程
【請求項6】
(2)の工程の後、さらに酸で洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項4または請求項5の揮発性有機化合物質吸着材の製造方法。
【請求項7】
炭化処理は、窒素ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項4から6のいずれかの揮発性有機化合物吸着材の製造方法。

【公開番号】特開2010−207693(P2010−207693A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55710(P2009−55710)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】