揮発性有機化合物測定装置

【課題】FIDを用いた揮発性有機化合物測定装置において、水素炎点火後の結露発生を防ぎ、以て安定化時間を短縮する。
【解決手段】水素ガスの流量設定値、助燃ガスの流量設定値、及びFIDの温度設定値のうち1または2以上の設定値を水素炎を点火する前後の暫定期間だけ通常測定時の設定値よりも大きい設定値に制御するように構成し、点火後に出力信号レベルに基づき、または予め設定したタイムプログラムにより上記暫定設定値を通常測定時の設定値に戻すように構成する。このように構成することで、点火後のFID内部の相対湿度が低下するので、点火直後の結露発生が防止され、装置の安定化時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素炎イオン化検出器を利用して試料ガス中の有機化合物の濃度を測定する揮発性有機化合物測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば塗装ブースからの排気中に含まれる有機溶剤蒸気等の濃度を測定する装置として、水素炎イオン化検出器(以下、FIDと記す)を利用した揮発性有機化合物測定装置が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
FIDは、水素ガスが助燃ガスの存在下で燃焼する炎の中に試料ガスを通し、試料ガス中の有機物質を構成する炭素原子(有機性炭素)が水素炎中でイオン化することによって生じるイオン電流を測定するもので、ガスクロマトグラフ用の検出器としてよく知られている。FIDは有機性炭素の原子数にほぼ比例する出力が得られるので、有機化合物を個々の成分に分離せずに試料ガスをそのままFIDに通すことにより全有機化合物濃度を有機性炭素の濃度として測定することができる。これがFIDを用いる有機化合物濃度測定の原理であるが、この場合試料が気体であるから、その中に含まれる有機化合物は揮発性に限られるので揮発性全有機化合物(Total Volatile Organic Compounds)測定装置とも呼ばれる(以下、TVOC測定装置と記す)。
【0003】
図3に従来のTVOC測定装置の構成の一例を示す。
同図において1はFIDであって、内部にノズル11、コレクタ電極12が設けられ、下部に試料ガス流路14、水素ガス流路15、助燃ガス流路16がそれぞれ接続され、頂部には大気に連通する排気口13が開設されている。2は、このFID1を収容し所定温度に保つ恒温槽であり、また3はコレクタ電極12に流れるイオン電流を増幅して出力信号とする増幅器である。4は試料ガスを取り込むためのポンプ、5、6はそれぞれ水素ガス、助燃ガスの流量を制御する流量制御装置、7は恒温槽2の温度を制御する温度制御装置である。
【0004】
次に、図3に示す従来のTVOC測定装置の動作について説明する。
水素ガスは流量制御装置5でその流量が制御されて水素ガス流路15を経てノズル11から噴出し燃焼して水素炎17を形成する。助燃ガス(有機物や水分を除去した空気)は同様に流量制御装置6で制御されて助燃ガス流路16を経てFID1の内部に送り込まれ、水素炎17に燃焼に必要な酸素を供給する。試料ガスはポンプ4により試料ガス流路14を通って水素炎17中に送給され、ここで試料中の有機化合物を構成する炭素原子がイオン化される。水素炎17の周辺には図示しない電圧印加手段により電場が形成されており、発生したイオンはこの電場に導かれコレクタ電極12に到達することで電流として検出される。これを増幅器3で増幅してFID1の出力信号とする。
水素ガスに点火するときは、図示しないフィラメント、または放電点火器により電気的に点火する。
【0005】
【非特許文献1】カタログC180−0155「FID形VOC分析計VMS−1000F」(株)島津製作所、2005年12月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように構成されたTVOC測定装置においては、恒温槽の温度、即ちFIDの温度は、測定対象が空気等の気体に限られることから特に高温に保つ必要がないので、比較的低温(40〜60℃)に設定される。従って、水素炎を点火したとき水素の燃焼によって発生する水蒸気によりFID内部のコレクタ電極やこれを支持する絶縁碍子等の表面に結露が発生することがある。特に、装置の電源投入直後でまだ恒温槽温度が十分に上がっていない状態で点火した場合には、結露が生じやすい。結露が生じると、FIDの出力信号は通常の測定レンジを越えて大きく振れ、所謂「振り切れた」状態となる。結露は恒温槽の熱と水素炎から発する熱により徐々に蒸発して消失するから、出力信号も徐々に正常なレベルに戻るが、測定可能な状態となるまでの時間(安定化時間)は1時間程度を要することがある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、FIDを用いたTVOC測定装置において、水素炎点火後の結露発生を防ぎ、以て安定化時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、水素ガスの流量設定値、助燃ガスの流量設定値、及びFIDの温度設定値のうちいずれか1または複数の設定値を水素炎を点火する前後の暫定期間だけ通常測定時の設定値よりも大きい設定値に制御するように構成し、点火後に出力信号レベルに基づき、または予め設定したタイムプログラムにより上記設定値を通常測定時の設定値に戻すように構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記のように構成されているので、点火直後の結露発生が防止され、装置の安定化時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が提供するTVOC測定装置は次のような特徴を有する。即ち、第1の特徴は水素ガスの流量設定値、助燃ガスの流量設定値、及びFIDの温度設定値のうち1または2以上の設定値を水素炎を点火する前後の暫定期間だけ通常測定時の設定値よりも大きい設定値に制御するように構成した点にあり、第2の特徴は点火後に、例えば出力信号レベルに基づき上記設定値を通常測定時の設定値に戻すように構成した点である。
従って、最良の形態の基本的な構成は、上記2件の特徴を具備するTVOC測定装置である。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の一実施例の構成を示す。同図において、図3に示す従来例と同符号を付すものは図3と同一物であるから再度の説明を省く。本実施例が従来例と相違する点は、設定値切換手段8を設けたことである。
前述したように、水素ガス、助燃ガス、及びFID1の温度はそれぞれ流量制御装置5、6及び温度制御装置7で制御されるが、これらの通常測定時の設定値(通常設定値)は、一例として水素ガスは40〜50ml/min、助燃ガスは100ml/min、FID1の温度は40〜60°C程度である。設定値切換手段8はこれらのうちいずれか1つまたは複数の設定値を水素炎17を点火する前後の期間(暫定期間)だけ暫定的に上記の通常設定値よりも大きい値に切り換えるものである。各制御装置5、6、7はいずれも電子式で構成されているから電気的入力信号により設定可能であり、設定値切換手段8はこのような設定用の信号a、b、cを発信する電子的機能ブロックであって、このTVOC測定装置全体をコントロールするコンピュータの一部として構成されている。
【0011】
本実施例においては、設定値切換手段8は、点火の前後の期間だけ信号aにより水素ガスの流量設定値を変更する。即ち、水素炎17点火の直前、または点火とほぼ同時に水素ガス流量設定を通常設定値の1.5倍程度に、即ち60〜70ml/minに変更する。これにより水素炎17は通常よりも大きくなり、発熱量も増加するから水素炎17周辺のノズル11やコレクタ電極12の温度が上昇し、結露が起こり難くなる。点火後は、FID1の出力信号のレベルは一時的に大きく振れるが、次第に通常のレベルに戻って来る。設定値切換手段8は出力信号レベルを基準値と比較する比較器を備え、出力信号レベルが基準値まで下がったとき水素ガス流量の設定値を通常設定値に戻す。これにより測定開始までの安定化時間を短縮することができる。
図2は、上記の水素流量設定の変化をグラフで示した(同図中の実線)もので、この例では点火から15分後に通常設定値に戻り、さらに若干の安定化時間を要して点火から約30分後には測定可能な状態となっている。
【実施例2】
【0012】
他の実施例として、図1の構成において水素炎17の点火後の暫定期間中、助燃ガスの流量設定値を増加するようにしてもよい。助燃ガスの流量設定値を、例えば通常設定値100ml/minのところを200〜300ml/min程度に増加させるように設定値切換手段8により切り換える。これにより、水素の燃焼により発生する水蒸気が希釈され、FID1の内部の相対湿度が低下するので結露が起こり難くなる。
その後、FID1の出力信号レベルを設定値切換手段8で判定して、通常設定値に戻すことは実施例1の場合と同様である。
【実施例3】
【0013】
さらに他の実施例として、図1の構成において点火に先立って設定値切換手段8からの信号cにより温度制御装置7の設定値を切り換えて、暫定期間中の恒温槽2の温度を通常設定値よりも高く設定しておくことも可能である。即ち、恒温槽2の温度の通常設定値は前述のように、例えば40〜60°Cのところを100〜150°Cとする。FID1の内部は排気口13を通して大気に連通しているので内部の気圧は1気圧であり、温度100°C以上であれば理論上結露は起こり得ない。この状態で水素炎17を点火し、その後、FID1の出力信号レベルを設定値切換手段8で判定して、恒温槽2の温度を通常設定値に戻すことは実施例1または2の場合と同様である。
この場合の温度設定値の変化を図2に点線で示す。
なお、恒温槽2の温度を常時100°C以上に設定しておくことも結露防止のためには効果的であるが、一方、電力消費の増大、或いは恒温槽2の近傍に配置される電子装置の熱防護対策等の問題が生じるので好ましくない。
【0014】
以上の実施例は、いずれも複数の条件設定値のうちいずれか1つだけを点火の前後の期間に変更するようにした例であるが、2つ以上の設定値を組み合わせて変更することでさらに効果を高めることも可能である。また、通常設定に戻すタイミングを決める方法として、上記は出力信号レベルで判定する例を挙げたが、予め設定したタイムプログラムによって切り換えるようにしてもよい。
なお、上記は試料ガス中の揮発性有機化合物をトータルに測定するTVOC測定装置について説明したが、前段に例えばクロマトグラフィ的な分離手段を設けて有機化合物を各成分に分離して測定するように構成した揮発性有機化合物測定装置に対しても本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、例えば塗装ブースからの排気中に含まれる有機溶剤蒸気等の濃度を測定する揮発性有機化合物測定装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の動作を説明する図である。
【図3】従来の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1 FID
2 恒温槽
3 増幅器
4 ポンプ
5 流量制御装置
6 流量制御装置
7 温度制御装置
8 設定値切換手段
11 ノズル
12 コレクタ電極
13 排気口
14 試料ガス流路
15 水素ガス流路
16 助燃ガス流路
17 水素炎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスが助燃ガスの存在下で燃焼する水素炎中で試料ガス中の有機性炭素がイオン化することによって生じるイオン電流を測定する水素炎イオン化検出器と、前記水素ガス及び前記助燃ガスの流量を制御する流量制御装置と、前記水素炎イオン化検出器の温度を制御する温度制御装置とを備えて構成される揮発性有機化合物測定装置において、前記水素ガスの流量設定値、前記助燃ガスの流量設定値、及び前記水素炎イオン化検出器の温度設定値のうちいずれか1または複数の設定値を前記水素炎を点火する前後の暫定期間だけ通常測定時の設定値よりも大きい設定値に切り換える設定値切換手段を備えることを特徴とする揮発性有機化合物測定装置。
【請求項2】
水素炎点火前後の暫定期間の終了が前記水素炎イオン化検出器の出力信号に基づいて定められることを特徴とする請求項1に記載する揮発性有機化合物測定装置。
【請求項3】
水素炎点火前後の暫定期間がタイムプログラムにより定められることを特徴とする請求項1に記載する揮発性有機化合物測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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