説明

揮発性有機化合物用の担体触媒及びその製造方法

【課題】揮発性有機化合物用の触媒層を担体に担持するにあたって、触媒担持量を増やしても比表面積を大きくでき、且つ触媒層が担体から剥離しにくいので、触媒性能のアップを図ることができると共に触媒燃焼法の装置設計がし易くなる。
【解決手段】担体表面に触媒層が担持された担体触媒であって、前記触媒層は、コバルト酸化物の粒子同士が複合珪酸塩化合物の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体の空隙に、セリウム酸化物の粒子及び銅酸化物の粒子の少なくとも1種が保持されて成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揮発性有機化合物用の担体触媒及びその製造方法に係り、特に揮発性有機化合物を含む気相に接触させて加熱することにより、揮発性有機化合物を酸化分解するための担体触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds )を以下「VOC」と表記するが、これはヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、ナフタレン等の多環芳香族炭化水素などを含む化合物の総称である。
【0003】
これらの揮発性有機化合物は、有機合成化学や塗料、ゴム工業などで原料や溶剤として広く使われているが、その多くは、人体や自然環境にとって有害であり、大気汚染を引き起こすものとして厳しい規制が設けられている。
【0004】
排気ガス中に含まれるVOCの処理方法としては直接燃焼法、触媒燃焼法、物理化学的吸着法、生物処理法、プラズマ法など各種のものが提案されているが、これらの中で、触媒燃焼法は装置及び維持管理が簡単であることから広く採用されている。しかし、触媒成分や被処理ガスの組成や使用方法によってその性能は大幅に変動している。
【0005】
従来、VOC用の処理触媒としては白金、パラジウムなどの貴金属担持触媒が多く採用されていたが、処理気体中に水分が多く含まれている場合、VOCの分解効率が大幅に低下することが見出されている。
【0006】
このため、貴金属に代わり、酸化セリウム(CeO)を主成分とするセリウム触媒が、水蒸気が存在している場合でもVOCの分解に有効であることが報告されている(特許文献1)。セリウム触媒によるトルエンの除去性能は、SV(空間速度)や水蒸気量などの反応条件によって変わることも報告されている。そして、この報告例において、セリウム触媒を用いる際の形状としては、粉末をプレス成形した後に9〜16メッシュに整粒して作製した粒状触媒を詰めた充填層が採用されている。
【0007】
また、出願人は、セリウム触媒によるVOCの分解能力の向上を目的として、セリウム酸化物及びコバルト酸化物を触媒活性成分としたVOC分解用の触媒、あるいは更に銅酸化物を含む触媒を提案している(特許文献2)。これにより、低コストで且つより低い温度でVOCの酸化分解を行うことができるとされている。例えば、セリウム塩とコバルト塩と銅塩とを含む水溶液から金属を炭酸塩分解した複合酸化物を、焼成して製造したCe‐Co‐Cu‐Ox系の触媒は、100%トルエン転化到達に必要な最低温度を150℃まで下げられるとしている。
【0008】
ところで、セリウムなどの触媒成分である酸化物は一般に粉末状で存在することから、
上記のように粒状触媒を詰めた充填層が採用されている。したがって、LV(線速度)を大きくしたときには圧力損失も大きくなるという問題がある。
【0009】
一方、VOC分解用以外の触媒の実用状況を見ると、環境浄化用または自動車用等の触媒も含め、現在産業界で実用化されている触媒は圧力損失が低いことと粉砕化による詰まりを防止できることから、例えばハニカム型の担体に触媒を担持させたものが使用されている。このことからVOC分解用の触媒としても、担体に触媒を担持させた担体触媒を開発することは実用上において重要な課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−15338号公報
【特許文献2】特開2010−94671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景から、出願人は特許文献2の技術の更なる改良として、特許文献2の触媒を浸漬法によって市販のハニカム型のセラミックス担体に担持させた結果、市販の白金触媒の性能を確保するには未だ比表面積が不足しているとの問題があることが分かった。
【0012】
触媒性能は一般に比表面積の増加に伴って増加する傾向があり、特許文献2の技術の実用化のためには、比表面積を大きくする必要があるとの課題が生じた。即ち、担体に担持させる触媒担持量を増加させたときに、それに比例して比表面積を増加させることができるように、触媒層を担体上に担持させる必要がある。
【0013】
また、上記の特許文献2の技術の更なる改良として行った試験において、担体に担持した触媒層が剥離し易く、実用化のためには剥離しにくくすることが必要であるとの問題もあることが分かった。揮発性有機化合物用の触媒の場合、形状等を加工し易い一方、触媒が担持されにくいSUS等の金属担体に剥離しにくく担持できれば、触媒燃焼法の装置設計がし易くなる。特に、触媒層を担持した後の担体を例えば所望形状に曲げ加工等を行っても触媒層が担体から剥離しにくいようにできれば、装置設計において極めて有用である。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、揮発性有機化合物用の触媒層を担体に担持するにあたって、触媒担持量を増やしても比表面積を大きくでき、且つ触媒層が担体から剥離しにくいので、触媒性能のアップを図ることができると共に触媒燃焼法の装置設計がし易くなる揮発性有機化合物用の担体触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者は、数十nmの1次粒子が集まって球体の2次粒子を形成するコバルト酸化物の粒子に着目し、このコバルト酸化物の球体粒子同士を粗状態で担体表面に配置した多孔質構造体を先ず担体表面に形成しておき、その後で多孔質構造体の空隙にセリウム酸化物の粒子及び銅酸化物の粒子の少なくとも1種が保持されるようにすることで、触媒担持量を増やしても比表面積を大きくでき、且つ触媒層が担体から剥離しにくい触媒層を担体表面に形成するとの知見を得た。合わせて、複合珪酸塩化合物の粒子が存在することで、コバルト酸化物の粒子同士の間に複合珪酸塩化合物の粒子が介在し、コバルト酸化物の粒子同士を分散させることができるので、多孔質構造体を安定して形成することができると共に、担体に対する付着性も強固になるとの知見を得た。更には、多孔質構造体を形成する際に、コバルトイオン等の金属イオンを存在させることで、担体に対する付着性を一層強固なものにできるとの知見を得た。
【0016】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0017】
本発明の揮発性有機化合物用の担体触媒は上記目的を達成するために、担体表面に触媒層が担持された担体触媒であって、前記触媒層は、コバルト酸化物の粒子同士が複合珪酸塩化合物の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体の空隙に、セリウム酸化物の粒子及び銅酸化物の粒子の少なくとも1種が保持されて成ることを特徴とする。
【0018】
本発明の担体触媒によれば、担体に担持される触媒層が、コバルト酸化物の粒子同士が複合珪酸塩化合物の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体の空隙に、セリウム酸化物の粒子及び銅酸化物の粒子の少なくとも1種が保持された構造であるので、触媒担持量を増やしても比表面積を大きくでき、且つ触媒層が担体から剥離しにくくできる。これにより、触媒性能のアップを図ることができると共に担体を所望形状に加工し易いので触媒燃焼法の装置設計がし易くなる。
【0019】
かかる触媒層の構造は、本発明の担体触媒の製造方法によって得ることができる。
【0020】
本発明の担体触媒において、前記多孔質構造体は、前記コバルト酸化物の粒子表面に前記複合珪酸塩化合物の粒子が付着されて前記コバルト酸化物の粒子同士が分散されることにより前記粗状態が形成されることを特徴とする。
【0021】
これにより、多孔質構造体を安定して形成することができるので、コバルト酸化物の粒子同士が凝集して大型化することを抑制できる。
【0022】
本発明の担体触媒において、前記コバルト酸化物は四酸化三コバルト(Co)であり、セリウム酸化物は二酸化一セリウム(CeO)であり、銅酸化物は酸化第二銅(CuO)であることを特徴とする。これは、触媒層を構成する触媒活性成分の好ましい具体例を示したものである。
【0023】
本発明の担体触媒において、前記担体は、ステンレス鋼、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金及びセラミックス材の何れか1つを所望形状に成形したものであることを特徴とする。ここで、セラミックスとは、熱によって硬化された無機物質、例えば金属酸化物からなる製品を意味する。
【0024】
一般に金属表面は、高い撥水性があって触媒層が担持されにくく、特にステンレス鋼はその傾向が強いが、本発明によれば、これらの担体でも触媒層を強固に担持することが可能となる。したがって、耐熱性、加工性、ハンドリング性に優れた上記の金属製の担体やセラミックス材の担体を使用することができるので、触媒燃焼法の装置設計がし易くなる。
【0025】
本発明の担体触媒においては、複合珪酸塩化合物はカオリン、活性白土、ベントナイト白土、珪藻土から選ばれた1つであることを特徴とする。
【0026】
複合珪酸塩化合物は工業的に低廉であり、自然環境においてもまったく問題のない物質であり、水溶液中ではコバルト酸化物の粒子との親和性が高く、容易にコロイド液を形成することができる。したがって、浸漬法、塗布法、スプレー法等の通常の方法によって、金属製の担体は勿論のこと、セラミックス製の担体表面にも容易に層状の膜を形成することができる。塗布法を用いれば、数μから数百μの薄い膜を精度良く形成できる。
【0027】
本発明の揮発性有機化合物用の担体触媒の製造方法は上記目的を達成するために、担体表面に触媒層が担持された担体触媒の製造方法であって、コバルト酸化物の粉末と複合珪酸塩化合物の粉末とが含有される第1液を前記担体表面に層状に付与する第1液付与工程と、前記第1液が付与された担体を乾燥する第1の乾燥工程と、前記第1の乾燥後の担体を焼成する第1の焼成工程と、前記第1の焼成後の担体表面に、セリウム酸化物の粉末及び銅酸化物の粉末の何れか1つを含有する第2液を付与する第2液付与工程と、前記第2液が付与された担体を乾燥する第2の乾燥工程と、前記第2の乾燥後の担体を焼成する第2の焼成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0028】
本発明の製造方法によれば、担体に担持される触媒層を形成するにあたって、従来のようにコバルト酸化物やセリウム酸化物を一緒の混合液にして担体に付与し、乾燥及び焼成を行うのではなく、コバルト酸化物の粒子と複合珪酸塩化合物の粒子とにより担体表面に多孔質構造体を先ず形成しておき、この多孔質構造体の空隙にセリウム酸化物の粒子及び銅酸化物の粒子の何れか1種が保持されるようにした。
【0029】
即ち、第1液付与工程から第1の焼成工程によって、担体表面にコバルト酸化物の粒子同士が複合珪酸塩化合物の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体が形成される。そして、第2液付与工程から第2の焼成工程によって、多孔質構造体の空隙にセリウム酸化物の粒子及び銅酸化物の粒子の何れか1種が保持される。
【0030】
これにより、揮発性有機化合物用の触媒層を担体に担持するにあたって、触媒担持量を増やしても比表面積を大きくでき、且つ触媒層が担体から剥離しにくいので、触媒性能のアップを図ることができると共に触媒燃焼法の装置設計がし易くなる。
【0031】
本発明の製造方法において、前記第1液には、金属イオン物質が含有させていることを特徴とする。
【0032】
金属イオン物質が含有させていることによって、多孔質構造体を担体表面に一層強固に付着させることができる。この場合、金属イオン物質として、コバルトイオン等の触媒性能を有する金属イオンを含有させれば触媒性能の向上にも寄与する。
【0033】
本発明の製造方法において、前記第2液付与工程〜前記第2の焼成工程を複数回繰り返すことを特徴とする。
【0034】
これは、第1液付与工程〜前記第1の焼成工程を行って担体表面に多孔質構造体を形成することによって、触媒担持量を増加させても比表面積を増加させることができる。したがって、第2液付与工程〜前記第2の焼成工程を複数回繰り返すことによって多孔質構造体の空隙にセリウム酸化物の粒子や銅酸化物の粒子を多く保持できるので触媒性能を向上できる。特に、セリウム酸化物は角張った結晶であるため、第2液付与工程〜前記第2の焼成工程を複数回繰り返すことで結晶が成長してもメソポアな空隙を完全に埋めることはなく、VOCガスが通過するための空隙を確保できる。
【0035】
本発明の製造方法において、前記第1液付与工程は、前記第1液に前記担体を浸漬する浸漬法、前記担体に前記第1液を塗布する塗布法、前記担体に前記第1液をスプレーするスプレー法の何れか1であることを特徴とする。
【0036】
これは、第1液を担体に付与する好ましい方法を列挙したものであり、この中でも特に浸漬法が好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明の揮発性有機化合物用の担体触媒及びその製造方法によれば、揮発性有機化合物用の触媒層を担体に担持するにあたって、触媒担持量を増やしても比表面積を大きくでき、且つ触媒層が担体から剥離しにくくできる。これにより、触媒性能のアップを図ることができると共に触媒燃焼法の装置設計がし易くなる。
【0038】
また、本発明の担体触媒は、従来使用されている白金触媒に比べて安価であり、且つ水蒸気下でも活性劣化が少なく高い触媒性能を有することから、貴金属触媒の代替品として、市場性は十分にある。
【0039】
また、VOCガス中のヤニ成分の処理が低温で達成可能などの白金触媒にはないメリットを十分に生かすことで、VOC処理装置の低価格化かつランニングコストの低減を図ることが可能になると共に、環境改善に貢献できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の揮発性有機化合物用の担体触媒の製造工程の説明図
【図2】Co粉末を走査型電子顕微鏡で撮像した写真
【図3】多孔質構造体の模式図及び走査型電子顕微鏡で撮像した写真
【図4】多孔質構造体を有する担体を第2液に浸漬させて触媒層を得る模式図
【図5】本実施の形態で製造された担体触媒の触媒層の模式図及び走査型電子顕微鏡写真
【図6】試験Aにおいて第1液の組成の違いによる耐剥離性を評価した試験結果の説明図
【図7】試験Bにおいて触媒担持量の変化に対する比表面積の変化を説明する説明図
【図8】試験Bの比較例で使用した担体触媒の触媒層の模式図及び走査型電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付図面に基づいて本発明の揮発性有機化合物用の担体触媒及びその製造方法の好ましい詳細を説明する。
【0042】
図1は、本発明の揮発性有機化合物用の担体触媒(以後、単に担体触媒という)の製造方法の各工程を示す図である。
【0043】
なお、本実施の形態では、コバルト酸化物としてCo(四酸化三コバルト)を使用し、セリウム酸化物としてCeO(二酸化一セリウム)を使用し、複合珪酸塩化合物として活性白土(複合珪酸酸塩化合物の1種)を使用し、担体としてハニカム構造のセラミックス担体(50×50×25mm:200セル/平方インチ)を使用したコバルト・セリウム型(Co−CeOの担体触媒を製造する一例で説明する。
【0044】
図1に示すように先ず、Coの粉末と活性白土の粉末とを蒸留水に懸濁させた第1液の貯留容器中に、セラミックス担体を浸漬して第1液を担体表面に層状(膜状)に付与する第1液付与工程を行う。浸漬時間は特に限定されないが、10秒以上浸漬することが好ましい。また、Coの粉末と活性白土の粉末との質量比は特に限定されないが、Coの粉末が1に対して活性白土は0.05〜0.5の範囲が好ましい。
【0045】
容器中の第1液は、Coの粉末と活性白土の粉末とが沈降したり、偏って存在したりしないように攪拌することが好ましい。
【0046】
次に、第1液が付与されたセラミックス担体を乾燥する第1の乾燥工程を行う。これにより、セラミックス担体に層状に付与された第1液の層を乾燥する。乾燥は第1液の層を十分に乾燥できる方法であれば乾燥方法、乾燥温度、乾燥時間に限定はなく、どのような方法でもよい。例えば、熱風乾燥装置を使用して乾燥温度100℃で30分以上の乾燥を採用することができる。
【0047】
次に、乾燥後のセラミックス担体を空気中で焼成する第1の焼成工程を行う。焼成温度としては200〜600℃の範囲が好ましく、例えば約550℃で1時間程度の焼成を採用することができる。
【0048】
この第1液付与工程〜第1の焼成工程によって、セラミックス担体の表面には、Coの粒子同士が活性白土の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体が形成される。多孔質構造体の厚みは特に限定されないが、5〜10μmの範囲が好ましい。
【0049】
図2はCoの粉末を走査型電子顕微鏡で撮像した写真である。また、図3(A)は多孔質構造体を模式的に示したものであり、図3(B)は、多孔質構造体を走査型電子顕微鏡で撮像した写真であり、図3(C)は球体状の表面に活性白土の粒子が付着したCoの粒子の拡大写真である。
【0050】
これらの図に示すように、Coの粉末は、数十nmの1次粒子が集まって球体の2次粒子を形成し(図2参照)、この球体の2次粒子の表面に活性白土の粒子が付着している(図3参照)。これにより、Coの粒子同士が分散されると共に、担体に対するCo粒子の付着性も良くなる。即ち、活性白土は、Co等のコバルト酸化物の粒子が高温領域において粒子が成長して大型化する、いわゆるグレングロースするのを抑制する効果があると共に、担体に対する付着性も強固にする効果がある。したがって、550℃程度の高温での第1の焼成工程において、Coの粒子同士が凝集することがない。これにより、セラミックス担体の表面には、Coの粒子同士が活性白土の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体が担体表面に強固に付着された状態で形成される。
【0051】
なお、活性白土の効果は、第1の焼成工程のみならず、後記する第2の焼成工程や製造された担体触媒を触媒燃焼装置で使用する場合においても、Coの粒子同士の凝集を抑制する効果があるものと推測される。
【0052】
次に、図4(A)に示すように、多孔質構造体が形成されたセラミックス担体を、CeOの粉末を蒸留水中に懸濁させた第2液の貯留容器中に浸漬させる第2液付与工程を行う。容器中の第2液は、CeOの粉末が沈降したり、偏って存在したりしないように攪拌することが好ましい。浸漬時間は特に限定されないが、10秒以上浸漬することが好ましい。
【0053】
次に、第2液が付与されたセラミックス担体を乾燥する第2の乾燥工程を行う。乾燥条件はステップ2の場合と同様である。
【0054】
次に、第2の乾燥後のセラミックス担体を焼成する第2の焼成工程を行う。焼成条件は第1の焼成工程の場合と同様である。
【0055】
上記ステップ4〜6によって、図4(B)に示すように、Coの粒子同士が活性白土の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体の空隙に、CeOの粒子が保持された触媒層が形成される。即ち、本発明における触媒層は、第2液付与工程の液付与によって第1液付与工程で形成された層の上に重層されるのではなく、第1液の層の空隙に第2液付与工程での触媒成分が保持されることが大きな特徴となっている。
【0056】
この場合、CeOの粒子は角張った硬い結晶なので、結晶が成長してもメソポアな空隙を完全に埋めることはなく、ガスが通過するための空隙を確保できる。このように、CeOの粒子が多孔質構造体の空隙に保持されるので、触媒層の厚みは多孔質構造体の厚みと略同等である。触媒層におけるCoとCeOとのモル比は、Coが1に対してCeOが0.5〜1の範囲が好ましい。
【0057】
上記したステップ1〜6によって、本発明の担体触媒が製造される。
【0058】
図5(A)は触媒層を模式的に示したものであり、図5(B)は、触媒層を走査型電子顕微鏡で撮像した写真であり、図5(C)は触媒層の部分拡大写真である。
【0059】
図5(A)の大きな球体がCoの粒子であり、小さな球体が活性白土の粒子である。また、多孔質構造体の間隙に保持されている紐状の物質がCeOの粒子である。
【0060】
また、図5(B)の黒い部分がセラミックス担体であり、白い部分が触媒層である。
【0061】
これらの図から分かるように、本実施の形態の担持触媒は、Coの粒子同士が活性白土の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体を形成し、この多孔質構造体の空隙に、CeOの粒子が保持された触媒層を有している。
【0062】
本実施の形態では、多孔質構造体の空隙にCeOの粒子を保持するようにしたが、銅酸化物、例えばCuOの粒子を保持するようにしてもよく、CeOの粒子とCuOの粒子の両方を保持するようにしてもよい。したがって、本発明の担体触媒としては、Co−Ce−Ox系の担体触媒、Co−Ce−Cu−Ox系の担体触媒、Co−Cu−Ox系の担体触媒の3態様をとることができる。
【0063】
このように製造された担体触媒は、触媒担持量を増やしても比表面積を大きくでき、且つ触媒層が担体から剥離しにくくできる。これにより、触媒性能のアップを図ることができると共に触媒燃焼法の装置設計がし易くなる。
【0064】
なお、上記した本発明の実施の形態では、コバルト酸化物として四酸化三コバルト(Co)を使用し、セリウム酸化物として二酸化一セリウム(CeO)を使用したが、これに限定されない。
【0065】
また、上記した本発明の実施の形態では、複合珪酸塩化合物として活性白土を使用したが、これに限定されるものではなく、カオリン、ベントナイト白土、珪藻土から選ばれた少なくとも1つを好ましく使用できる。複合珪酸塩化合物は工業的に低廉であり、自然環境においてもまったく問題のない物質であり、水溶液中ではコバルト酸化物の粒子との親和性が高く、容易にコロイド液を形成することができる。したがって、浸漬法、塗布法、スプレー法等の通常の方法によって、金属製の担体は勿論のこと、セラミクス製の担体表面にも容易に層状の膜を形成することができる。塗布法を用いれば、数μから数百μの薄い膜を形成できる。
【0066】
また、上記した本発明の実施の形態では、担体としてセラミックス担体を使用したが、これに限定されるものではなく、ステンレス鋼、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金の金属製担体を使用することもできる。一般に金属表面は、高い撥水性があって触媒層が担持されにくく、特にステンレス鋼はその傾向が強いが、本発明によれば、これらの担体でも触媒層を強固に担持することが可能となる。したがって、耐熱性、加工性、ハンドリング性に優れた上記の金属製の担体やセラミックス材の担体を使用することができるので、触媒燃焼法の装置設計がし易くなる。
【0067】
なお、金属製の担体を使用する場合には、ショットブラスト等の機械的な表面処理、酸洗浄、リン酸塩被膜や酸化被膜等の化学的な表面処理、電解処理等の電気化学的な正面処理を担体表面に行って表面を粗面化することによって触媒層の担体表面への付着性を更に向上することができる。また、セラミックス担体を所望の形状に加工して使用する場合には、加工による粉塵をエアガン等によって除去してから使用することが好ましい。
【0068】
[実施例]
次に、本発明の担体触媒の具体的な実施例を説明する。
【0069】
[試験A]
試験Aは、第1液の組成の違いによって、担体表面に形成された多孔質構造体の剥離のしにくさ(以下、耐剥離性という)を、3種類の担体について試験した。試験に供したコバルト酸化物は、市販のコバルト炭酸塩を空気中で300℃―5時間焼成して作成したCo粉末を使用した。また、複合珪酸塩化合物として市販の粉末状の活性白土を使用した。
【0070】
(第1液の組成)
・実施例1…Co粉末10gに対して蒸留水を20ml、活性白土粉末1g、硝酸コバルト10gを加え、良く攪拌混合して第1液とした。
【0071】
・実施例2…Co粉末10gに対して蒸留水を20ml、活性白土粉末1gを加え、良く攪拌混合して第1液とした。
【0072】
・比較例…Co粉末10gに対して蒸留水20mlを加え、良く攪拌混合して第1液とした。
【0073】
(多孔質構造体の形成)
上記実施例1、2及び比較例の組成を有する第1液の貯留容器中に、SUS304ステンレス鋼、SS400一般構造用圧延鋼板、ハニカム構造のセラミックスの3種類の担体をそれぞれ浸漬した後、担体を容器から取り出して100℃で1時間乾燥した。その後、担体を550℃で1時間焼成して担体上に第1液の焼成層を形成した。なお、実施例1及び実施例2は、第1液の焼成層が多孔質構造体になる。
【0074】
(耐剥離性の評価方法)
焼成層に、かみそりの刃で直角の格子パターンを切り込んで、セロハンテープを張り、剥がしたときに担体から剥離される焼成層の剥離面積を調べ、次の4段階で耐剥離性を評価した。
【0075】
◎…剥離面積が担体表面全体の5%以下
○…剥離面積が担体表面全体の6〜20%
△…剥離面積が担体表面全体の21〜40%
×…剥離面積が担体表面全体の41%以上
(耐剥離性の試験結果)
試験結果を図6の表に示す。
【0076】
図6の表に示すように、Co粉末と蒸留水のみからなる比較例は、SUS304ステンレス鋼、SS400一般構造用圧延鋼板、セラミックスの3種類の担体の何れに対しても×の評価であり、耐剥離性が悪かった。
【0077】
これに対してCo粉末と蒸留水に更に活性白土を加えた実施例2は、SUS304ステンレス鋼及びSS400一般構造用圧延鋼板の場合には△の評価であるが、セラミックスの場合には○の評価となった。
【0078】
また、Co粉末と蒸留水と活性白土に更に硝酸コバルト(コバルトイオン)を加えた実施例1は、SUS304ステンレス鋼で○の評価、SS400一般構造用圧延鋼板及びセラミックスで◎となり、耐剥離性が一番良い結果となった。
【0079】
この結果から、活性白土は多孔質構造体(焼成層)を担体表面から剥離しにくくする耐剥離性があり、更にコバルトイオンを加えることで耐剥離性が顕著に向上することが分かった。
【0080】
[試験B]
試験Bでは、多孔質構造体が触媒層の比表面積の増大に寄与することの確認試験を行った。
【0081】
即ち、試験Aにおける実施例1の多孔質構造体を有するセラミックス担体を、第2液である硝酸セリウム溶液(硝酸セリウム水和物20g+蒸留水20ml)の貯留容器中に1分間浸漬した後、セラミックス担体を取り出して100℃で1時間乾燥した。その後、セラミックス担体を空気中において550℃−1時間焼成し、本発明の担体触媒を製造した。得られた担体触媒Aの触媒担持量は12wt%であった。そして、得られた担体触媒の触媒担持量に対する比表面積を測定した結果、11m/gであった。
【0082】
更に、得られた担体触媒Aを、上記した硝酸セリウム溶液中に1分間浸漬させた後、同様に乾燥及び焼成を行った。即ち、多孔質構造体を有するセラミックス担体を硝酸セリウム溶液中に2回浸漬させて2回の担持を行って触媒担持量を30wt%に増加させた。そして、2回担持によって得られた担体触媒Bの触媒担持量に対する比表面積を測定した結果、19m/gであった。
【0083】
比較例として、Co粉末とCeO粉末と蒸留水とを一緒に攪拌混合した混合液を調製し、この混合液にセラミックス担体を1分間浸漬した。その後、セラミックス担体を取り出して上記と同様に乾燥及び焼成を行った。また、得られた担体触媒に対して更に浸漬、乾燥、焼成を複数回繰り返すことで触媒担体量を増加させて、触媒担持量がゼロの場合、7wt%の場合、15wt%の場合、20wt%の場合、26wt%の場合、30wt%の場合の6種類の担体触媒を製造した。そして、得られた6種類の担体触媒の比表面積を測定し、図7にプロットした。同様に上記製造した担体触媒A及び担体触媒Bについても図7にプロットした。
【0084】
試験結果を図7に示す。図7から分かるように、比較例の場合には、触媒性能のアップを目指して、担持回数を増やして触媒層の厚みを増加させても比表面積は触媒担体量が20wt%程度で頭打ちになり、それ以上は増加しなかった。これは担持回数を増やしても層と層との間が緊密になることで隙間が埋められ、担持した触媒が表面積の増加に寄与しないためであると考察される。
【0085】
このことは、図8に示した触媒担体量が20wt%における担体触媒の走査型電子顕微鏡写真からも分かる。
【0086】
図8(A)は、走査型電子顕微鏡写真であり、図8(B)は担体触媒の模式図である。
【0087】
図8から分かるように、200〜400nm程度の細かい触媒(CoとCeO)の1次粒子がセラミックス担体の表面に隙間なくべったり固まっている様子が観察された。CoとCeOがナノレベルで混合はしているが、1層の膜が薄く平たいために触媒担持量を増やしても層の上に層が重なってその隙間が埋められ、結局は比表面積が頭打ちになると思われる。
【0088】
これに対して、図7に示すように、多孔質構造体を有する本発明の担体触媒A(触媒担持量12wt%)及び担体触媒B(触媒担持量30wt%)から分かるように、触媒担持量が30wt%まで増加しても比表面積が頭打ちにならず増加している。
【0089】
また、担体触媒A及びBの比表面積と、同じ触媒担持量での比較例との対比から分かるように、担体触媒A及びBの方が大きな比表面積を得ることができる。
【0090】
これにより本発明の担体触媒は、触媒性能のアップを図ることができる。
【0091】
[試験C]
試験Cでは、本発明の担体触媒が実用的に十分な触媒性能を有しているかを確認するための触媒性能試験を行った。触媒性能試験は、試験Bで触媒の2回担持を行った担体触媒Bを用いてトルエンを触媒燃焼法により酸化分解した。
【0092】
触媒性能試験は、100ppmのトルエン含有ガスを、担体触媒Bに通過させたときの通過前及び通過過におけるトルエン濃度をPID(光イオン化検出)式のVOC濃度計で測定し、トルエン分解率を調べることにより行った。
【0093】
触媒燃焼法の試験装置の条件は次の通りである。
【0094】
・SV(空間速度)…48000h-1
・LV(線速度)…0.33m/s
・ガス流量…湿潤空気50L/min
・触媒面積…2500mm
・装置入口の温度…285℃
・装置入口のトルエン濃度…100ppm
その結果、試験装置を連続24時間運転し、その間のトルエン分解率は平均で90%以上であり、十分に実用性があることが確認された。
【0095】
ちなみに、市販の白金を担持したアルミナ触媒についても同様に触媒性能試験を行った結果、運転開始時のトルエン分解率は95%あったが、運転時間の経過と共に次第に低下することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の揮発性有機化合物用の担体触媒は、触媒層を担体に担持するにあたって、触媒担持量を増やしても比表面積を大きくでき、且つ触媒層が担体から剥離しにくい。したがって、担体として加工性の良い金属担体を使用することもできる。
【0097】
したがって、触媒性能のアップを図ることができると共に触媒燃焼法の装置設計がし易くなるので、産業上有効に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体表面に触媒層が担持された担体触媒であって、
前記触媒層は、
コバルト酸化物の粒子同士が複合珪酸塩化合物の粒子を介して粗状態に配置された多孔質構造体の空隙に、セリウム酸化物の粒子及び銅酸化物の粒子の少なくとも1種が保持されて成ることを特徴とする揮発性有機化合物用の担体触媒。
【請求項2】
前記多孔質構造体は、前記コバルト酸化物の粒子表面に前記複合珪酸塩化合物の粒子が付着されて前記コバルト酸化物の粒子同士が分散されることにより前記粗状態が形成されることを特徴とする請求項1に記載の揮発性有機化合物用の担体触媒。
【請求項3】
前記コバルト酸化物は四酸化三コバルト(Co)であり、セリウム酸化物は二酸化一セリウム(CeO)であり、銅酸化物は酸化第二銅(CuO)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物用の担体触媒。
【請求項4】
前記担体は、ステンレス鋼、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金及びセラミックス材の何れか1つを所望形状に成形したものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の揮発性有機化合物用の担体触媒。
【請求項5】
前記複合珪酸塩化合物は、カオリン、活性白土、ベントナイト白土、珪藻土の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の揮発性有機化合物用の担体触媒。
【請求項6】
担体表面に触媒層が担持された担体触媒の製造方法であって、
コバルト酸化物の粉末と複合珪酸塩化合物の粉末とが含有される第1液を前記担体表面に層状に付与する第1液付与工程と、
前記第1液が付与された担体を乾燥する第1の乾燥工程と、
前記第1の乾燥後の担体を焼成する第1の焼成工程と、
前記第1の焼成後の担体表面に、セリウム酸化物の粉末及び銅酸化物の粉末の何れか1つを含有する第2液を付与する第2液付与工程と、
前記第2液が付与された担体を乾燥する第2の乾燥工程と、
前記第2の乾燥後の担体を焼成する第2の焼成工程と、を備えたことを特徴とする揮発性有機化合物用の担体触媒の製造方法。
【請求項7】
前記第1液には、金属イオン物質が含有されていることを特徴とする請求項6に記載の揮発性有機化合物用の担体触媒の製造方法。
【請求項8】
前記第2液付与工程〜前記第2の焼成工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項6又は7に記載の揮発性有機化合物用の担体触媒の製造方法。
【請求項9】
前記第1液付与工程は、前記第1液に前記担体を浸漬する浸漬法、前記担体に前記第1液を塗布する塗布法、前記担体に前記第1液をスプレーするスプレー法の何れか1であることを特徴とする請求項6〜8の何れか1に記載の揮発性有機化合物用の担体触媒の製造方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−200628(P2012−200628A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65307(P2011−65307)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】