説明

揮発性有機物処理装置及び揮発性有機物処理方法

【課題】揮発性有機物の触媒分解処理を静的環境で行うことができ、触媒活性の低下が抑制される揮発性有機物処理装置及び揮発性有機物処理方法を提供する。
【解決手段】揮発性有機物処理装置100は吸着部10と分解部30を備える。吸着部10は、筒状体31、開口部13からの通気を制御する開閉手段27、筒状体の内側に軸方向に沿って環状に充填された吸着材21、及び、吸着材を加熱して揮発性有機物を脱着させる加熱手段23を備える。分解部30は、吸着部に通じるとともに吸着材から脱着した揮発性有機物を含むガスを導入する導入口33及び減圧手段40に通じる排気口34を有する分解槽32、及び、分解槽の内部に配置され、該分解槽内に導入された揮発性有機物を分解する触媒36を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機物処理装置及び揮発性有機物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装、印刷、洗浄等の様々な分野において大量に用いられている有機溶剤の多くは、揮発性有機物(VOC)を多量に含んでいる。このような有機溶剤の使用に伴い、VOCガスが大量に発生し、大気中に放出されて拡散している。VOCは、光化学オキシダントと浮遊粒子状物質の主な原因であるため、工場等の固定発生源からのVOCの排出及び飛散に関し、排出規制や自主的取組の促進が取り組まれている。
【0003】
例えば、大規模工場等で発生する比較的高濃度のVOCに関しては、主に触媒、助燃剤などを用いた燃焼法により処理する方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。しかし、VOCを燃焼により処理する方法は、中小工場で発生した低濃度・大風量のVOC処理には適していない。そのため、特に中小工場が中心である塗装、印刷、洗浄業界が望むような、低コストでのVOC処理を可能にする技術は不十分であり、さらなる開発が望まれている。
【0004】
中小工場が導入可能な省スペース、かつ、低コストであるVOC処理装置としては、吸着除去方式が有効である。従来から、固定発生源から発生するVOCの排出量を減少させるためにVOCを吸着する吸着材(例えば、活性炭やメソポーラスシリカ等)を使った吸着法が採られていた。しかし、吸着量及び吸着速度が高くないため、処理するVOC量に比べて大量の吸着材が必要である。また、飽和吸着量に達した吸着材は、特別な再生処理が必要なため、処理現場で再生することが難しい。そのため、吸着限界に達するごとに交換等を頻繁に行う必要がある。
【0005】
これらの課題を解決するためには、処理現場で吸着材を再生するとともにVOCをその場で分解処理することが望ましい。分解処理方法としては、ガス、灯油、重油等によりVOCを高温で酸化分解する方法、触媒を用いてVOCを高速酸化分解する方法、蓄熱性固定床(蓄熱床)を媒体としてVOCを接触酸化分解する方法等の燃焼酸化分解法等が採用されているが、これら装置の備え付け面積が大きくなってしまうこと、導入費用やランニングコストが高くなること等の面で問題があった。
【0006】
一方、最近注目されている光触媒によるVOC分解は、太陽光や蛍光灯などの光が当たると、その表面で強力な酸化力が生まれ、接触したVOCが分解され無害な二酸化炭素と水に変化するものである。太陽光などのクリーンエネルギーを用いてVOCを分解処理することができ、VOC処理装置のコストを削減することができると期待されている。
【0007】
しかし、塗料などの溶剤として用いられるトルエンやキシレンは、芳香族炭化水素であり、難分解性物質であることが知られている。芳香族炭化水素を光触媒で分解するには、時間がかかり、さらに反応中間体が触媒表面に吸着することにより触媒活性が低下するといった問題が生じる。このような問題点の解決のためには、触媒機能の向上や触媒に反応物が接触する時間を長くするなどの対策が有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3768733号公報
【特許文献2】特開2004−125329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、揮発性有機物の触媒分解処理を静的環境で行うことができ、触媒活性の低下が抑制される揮発性有機物処理装置及び揮発性有機物処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 揮発性有機物を含むガスを通過させることにより前記揮発性有機物を吸着して捕集する吸着部と、該吸着部に接続し、該吸着部から脱着した前記揮発性有機物を分解する分解部とを有し、前記吸着部は、両端に開口部を有するとともに、側面に複数の通気孔を有する筒状体と、前記開口部の少なくとも一方に設けられ、該開口部からの通気を制御する開閉手段と、前記筒状体の内側に軸方向に沿って環状に充填され、前記開口部又は前記通気孔から前記筒状体の内側に導入された揮発性有機物を吸着する吸着材と、前記吸着材を加熱し、該吸着材に吸着されている前記揮発性有機物を脱着させる加熱手段と、を備え、前記分解部は、前記吸着部に通じるとともに前記吸着材から脱着した前記揮発性有機物を含むガスを導入する導入口及び減圧手段に通じる排気口を有する分解槽と、前記分解槽の内部に配置され、該分解槽内に導入された前記揮発性有機物を分解する触媒と、を備えている揮発性有機物処理装置。
<2> 前記吸着部における前記開閉手段が、逆止弁を含む<1>に記載の揮発性有機物処理装置。
<3> 前記吸着部における前記筒状体の外周に、前記通気孔からの通気を制御する開閉手段をさらに備えている<1>又は<2>に記載の揮発性有機物処理装置。
<4> 前記吸着部が、着脱式のカートリッジとして搭載されている<1>〜<3>のいずれかに記載の揮発性有機物処理装置。
<5> 前記吸着材が、活性炭、ゼオライト、シリカライト、粘土鉱物、疎水性シリカゲル、メソポーラスシリカ、カーボンナノチューブ、多孔質高分子、及び多孔質金属錯体からなる群から1つ以上選択される<1>〜<4>のいずれかに記載の揮発性有機物処理装置。
<6> 前記活性炭が、長繊維状の活性炭素繊維であるとともに、前記筒状体の内壁に沿って多層に巻き付けられて配置されている<5>の揮発性有機物処理装置。
<7> 前記触媒が、酸化チタン、白金、金、コバルト、タングステン、銅、及びこれらの複合体からなる群から選択される1種以上を含む<1>〜<6>のいずれかに記載の揮発性有機物処理装置。
<8> 吸着材を備えた吸着部に、揮発性有機物を含むガスを通過させることにより前記揮発性有機物を吸着して捕集する工程と、前記吸着部に接続し、前記揮発性有機物を分解する触媒を備えた分解部を、前記吸着部と遮断して減圧状態にする工程と、前記吸着部から前記揮発性有機物を脱着させるとともに、該吸着部と前記減圧状態の分解部との間を開放することにより、前記揮発性有機物を前記分解部に移動させて前記触媒により分解させる工程と、を含む揮発性有機物の処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、揮発性有機物の触媒分解処理を静的環境で行うことができ、触媒活性の低下が抑制される揮発性有機物処理装置及び揮発性有機物処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態の揮発性有機物処理装置の構成の一例を示す概略図である。
【図2】吸着カートリッジにおけるVOCの吸着時及び脱着時の流れの一例を示す概略図である。
【図3】吸着カートリッジにおけるVOCの吸着時及び脱着時の流れの他の例を示す概略図である。
【図4】吸着カートリッジの側面における開閉手段を開放した状態(吸着時)を示す概略図である。
【図5】吸着カートリッジの側面における開閉手段を閉鎖した状態(脱着時)を示す概略図である。
【図6】第2の実施形態の揮発性有機物処理装置のVOC吸着時におけるガスの流れを示す概略図である。
【図7】第2の実施形態の揮発性有機物処理装置のVOC脱着時におけるガスの流れを示す概略図である。
【図8】第2の実施形態の揮発性有機物処理装置のVOC吸着及び分解槽減圧時におけるガスの流れを示す概略図である。
【図9】試験例1の試験結果を示す図である。
【図10】試験例2及び3で使用した脱着試験装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら本発明についてより具体的に説明する。
【0014】
−第1実施形態−
図1は、本発明に係る揮発性有機物処理装置の一例(第1実施形態)を概略的に示している。本実施形態に係る揮発性有機物処理装置100は、主に、揮発性有機物(VOC)を含む雰囲気ガス(VOCガス)からVOCを選択的に吸着して捕集する吸着装置10と、吸着装置10に接続し、吸着装置10から脱着したVOCを分解する分解装置30から構成されている。
【0015】
<吸着装置>
吸着装置10は、ガス導入口12、拡散槽14、プレフィルター16、VOC吸着カートリッジ20、接続パイプ18、排風機22、ガス排出口24などから構成されている。
固定発生源から発生したVOCを含む雰囲気(VOCガス)は、排出ポンプ(不図示)により、導入口12を通じて拡散槽14に導入される。VOCガスは拡散槽14にて均一に拡散され、プレフィルター16により固形物が除去される。続いて、吸着材21が充填されているVOC吸着カートリッジ20でVOCを吸着して捕集した後、排出口24から清浄空気として大気中に放出される。
【0016】
図2は、VOCの吸着部となる吸着カートリッジ20の構成の一例を概略的に示している。吸着カートリッジ20は、筒状体31と、筒状体31の開口部13からの通気を制御する開閉手段27と、筒状体31の内側に軸方向に沿って環状に充填された吸着材21と、吸着材21を加熱する加熱手段23と、を備えている。本実施形態ではこのような吸着カートリッジ20が吸着装置10に着脱式として搭載されている。
【0017】
筒状体31は両端に開口部11,13を有し、側面には多数の通気孔を有している。筒状体31は、内部が空洞であれば特に限定されないが、圧損を小さくする観点から、円筒体31の内側に吸着材21が充填され、中心部は空洞となっている、言わば竹輪型が望ましい。
【0018】
分解槽32に通じる開口部13には、開閉手段27が設けられている。VOCの吸着時及び脱着時は、開閉手段27の開閉によって開口部13からの通気を制御することができる。開閉手段27としては、吸着材21から脱着して吸引されたVOCの逆流を防止する弁(逆止弁)を設けることが好ましい。
【0019】
また、筒状体31の外周には、側面の通気孔からの通気を制御する開閉手段25が設けられている。VOCの吸着時及び脱着時は、この開閉手段25の開閉によってVOCガスの流れや筒状体内部の圧力を調整することができる。
【0020】
吸着材21は、筒状体31の内側に軸方向に沿って環状に充填されており、開口部11又は側面の通気孔から筒状体31の内側に導入されたVOCを吸着する。
吸着材21としては、通過するVOCと化学反応せずにVOCを吸着し、かつ、加熱、吸引などによって脱着させることができるものであれば特に限定されず、回収するVOCの種類に応じて選択すればよい。例えば、ミクロ孔、メソ孔、又は、マクロ孔を有する多孔質状であることが好ましい。具体的には、活性炭、ゼオライト、シリカライト、粘土鉱物、疎水性シリカゲル、メソポーラスシリカ、カーボンナノチューブ、多孔質高分子、及び多孔質金属錯体が挙げられ、これらの中から選択した1種を用いることができ、2種類以上を併用してもよい。例えば、活性炭が、長繊維状の活性炭素繊維であるとともに、筒状体31の内壁に沿って多層に巻き付けられて配置されている形態とすることができる。
【0021】
吸着材21の充填部には加熱手段23が設けられ、加熱により吸着材21に吸着されているVOCを脱着(脱離)させることができる。加熱手段23としては、VOCを吸着する間はVOCの通過を遮らないように、金網など、孔が開いた板状のもの、あるいは、棒状のものなどを吸着材21の充填部に配置しておくことが好ましい。なお、吸着材21を充填部の外側から加熱してVOCを脱着させてもよい。例えば、筒状体31の周囲からマイクロ波を照射して吸着材21を加熱することができる。
【0022】
VOCガスを吸着カートリッジ20に導入して通過させる流路としては、例えば、図2に点線で示すように、カートリッジ20の開口部11から入り、空洞部分29を通って側面から排出されてもよいし、図3に示すように、側面から入って空洞部分29に抜け、開口部11から排出されてもよい。いずれの場合も、吸着材21を支持する筒状体31としては金網などの多数の通気孔を有する通気性が高いものを使用し、吸着材21を通過することによって発生する圧力損出をできるだけ小さくし、かつVOC吸着量が最大となるようなガス流通方式を採用することが望ましい。
【0023】
例えば、吸着材21のVOC吸着飽和量に達してVOCを脱着させる場合は、吸着処理を停止した後、加熱手段23により吸着材21を加熱し、VOCを脱着させる。VOCの脱着時には、図4に示すようにカートリッジ20の外周に設けた開閉手段(シャッターなど)25を開放状態にしてもよいし、図5に示すように密閉状態にしてもよい。なお、開放状態の場合は、大気開放する時に流入する空気や不活性ガスの流速を利用した脱着の効果を付与することができ、密閉状態の場合は、減圧による脱着の効果を付与することができる。
【0024】
<分解装置>
分解装置30は、VOCの分解部となる分解槽32及び触媒36のほか、分解槽32に通じる減圧手段(真空ポンプ)を備えている。
分解槽32は、吸着装置10の吸着カートリッジ20に通じるとともに吸着材21から脱着したVOCを含むガスを導入する導入口33と、減圧手段(真空ポンプ)40に通じる排気口34を有する。
【0025】
分解槽32の内部には、VOCを分解する触媒36が配置されている。触媒36は、分解すべき揮発性有機物に応じて選択すればよいが、例えば、酸化チタン、白金、金、コバルト、タングステン、銅、及びこれらの複合体からなる群から選択される1種又は2種以上を併用することができる。
太陽光、蛍光灯などのクリーンエネルギーを用いてVOCを分解処理することができる点で光触媒が好ましく、酸化チタン(TiO)が好ましい。光触媒を用いる場合は、例えば、分解槽32をガラス等の透明な材料で形成し、太陽光が当たる場所に設置するか、蛍光灯などの光照射手段を設ければよい。
VOCを分解する触媒36としては、光触媒に限らず、例えば熱触媒を用いてもよい。熱触媒を用いる場合は、触媒を加熱する加熱手段を設ければよい。
【0026】
分解槽32の内部における触媒36の配置は特に限定されるものではないが、例えば、図1に示されるように、導入口33と排出口34との間に網棚などの通気性を有する棚段35を設けて各段に触媒36を配置すればよい。
【0027】
このような吸着装置10と分解装置30を備えたVOC処理装置100では、吸着装置10の吸着カートリッジ20でVOCを吸着して捕集した後、VOCを脱着させて分解装置30の分解槽32に移動させて分解を行う。
吸着カートリッジ20に吸着させたVOCを分解槽32へ移動させる手段としては、内部が減圧状態にされた分解槽32が開放された時に流入する空気の移動をドライビングフォースとして用いることが好ましい。例えば、吸着カートリッジ20でVOCの吸着処理を停止した後、加熱手段23により吸着材21を加熱してVOCを脱着させるとともに、予め真空下にした触媒分解槽32と吸着カートリッジ20を接続しているバルブ(不図示)を開放する。これにより、脱着したVOCを接続パイプ18を通じて触媒分解槽32に移動させることができる。高濃度高温VOCは、触媒36と接触することにより熱分解、酸化分解を起こし、二酸化炭素と水に分解される。分解物は、分解槽32を減圧する際に、大気中に放出される。
【0028】
このようにしてVOCの吸着と分解を繰り返せば、VOCの触媒分解処理を静的環境で行うことができ、VOCをほぼ確実に分解することができる。また、触媒と反応物が接触する時間を長くすることにより触媒活性の低下を抑制することができる。さらに、本実施形態によれば、吸着材(吸着カートリッジ)の交換が容易であり、処理能力の低下を抑制することが可能である。
【0029】
−第2実施形態−
図6は、本発明に係るVOC処理装置の他の例(第2実施形態)を示している。本実施形態に係るVOC処理装置200は、VOC吸着部50とVOC分解部70とが一体的に連結されたカートリッジとなっている。
【0030】
VOC吸着部50は、筒状体31、吸着材21、加熱手段23等は第1実施形態における吸着カートリッジ20の構成とほぼ同様であるが、筒状体31の両端に開閉手段51,52が設けられている。VOCの吸着時又は脱着時において、これらの開閉手段51,52の開閉を制御することによりガスの移動(流れ)を制御することができる。なお、筒状体31の外周には、第1実施形態における吸着カートリッジ20と同様に側面の通気を制御する開閉手段を設けてもよい。
【0031】
分解部70は吸着部50の上部(下流側)に一体的に設けられており、分解槽32と、分解槽32の内側に配置された触媒36を備えている。
分解槽32の下部(上流側)では、VOC吸着部50の逆止弁52がVOCの導入口を兼ねており、上部(下流側)には、減圧手段(真空ポンプ)に通じる開閉手段53が設けられている。
【0032】
このような吸着部50と分解部70とが一体化されたVOC処理装置200であれば、VOCの分解処理をカートリッジ200内で行うことができ、吸着材21の量を少なくするとともに設置面積を小さくすることが可能である。
【0033】
なお、吸着材21が吸着平衡に達した場合は、VOCの移動の際には、カートリッジ200を密閉状態にしてもよいし、開放状態にしてもよい。密閉状態の場合は、減圧による脱着の効果を付与できるし、開放状態の場合は、大気開放する時に流入する空気及び不活性ガスの流速を利用した脱着の効果を付与できる。いずれの場合もそれぞれ特徴を持つが、空気の量など、分解に最適な環境を構築することが望ましい。
例えば、以下の手順でVOCの吸着、脱着、分解を行うことができる。
【0034】
1.VOCの吸着
分解槽32の内部は真空ポンプ(不図示)によって予め減圧しておく。そして、VOCの吸着時には、図6に示すように、各開閉手段51,52,53によって、第1の開口部41は開放し、第2の開口部42及び第3の開口部43は閉鎖する。吸着部50(筒状体31)の側面から入ったVOCガスは、吸着材21の充填部を通って中央の空洞部分に抜けることでVOCが吸着され、第1の開口部41から清浄空気として大気中に放出される。
【0035】
2.VOCの脱着
吸着処理を停止し、図7に示すように、加熱手段23により吸着材21を加熱してVOCを脱着させるともに、第1の開口部41及び第3の開口部43は閉鎖し、第2の開口部42は開放する。触媒分解槽32内は予め減圧されているため、吸着材21から脱着したVOCを含んだガスは、第2の開口部42の開放により圧力の高い吸着部側から分解部側に移動する。
分解槽32に移動したVOCは、分解槽32において触媒36によって静的環境下で分解される。一方、吸着部50では、VOCが脱着したことにより吸着材21が再生し、再度VOCを吸着できる状態となる。
【0036】
3.VOCの吸着及び触媒槽の減圧
分解部70でVOCが分解された後、図8に示すように、第2の開口部42を閉鎖し、第1の開口部41及び第3の開口部43を閉鎖する。
分解部70では、VOCが分解された清浄空気が真空ポンプを介して大気中に放出されるとともに、減圧される。一方、吸着部50では、側面の通気孔から再度VOCガスが取り込まれる。VOCは再生された吸着材21に吸着され、第1の開口部41からは清浄な空気が放出される。
【0037】
−第3実施形態−
第1実施形態の吸着装置10において、吸着カートリッジ20に代えて、第2実施形態のカートリッジ200を設けても良い。この場合、吸着材21から脱着したVOCは、吸着部と一体的に連結されている第1の分解部70と、分解装置(第2の分解部)30によって2段階で分解されるため、より確実に分解することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例(試験例)について説明する。
【0039】
<試験例1>
−温度の違いによる活性炭トルエン吸着等温線の変化−
顆粒状活性炭0.5g を30mL バイアルに入れTFライナー付きブチルゴム栓とアルミキャップで密栓し、トルエンを液体の状態で2μL〜400μL添加し、よく撹拌してから35、50、75、100、150℃の各吸着温度に設定されたヘッドスペースサンプラー中に24時間静置した。吸着平衡に達したらガスクロマトグラフィーで気相濃度を測定し、添加したトルエン量と気相存在量のマスバランスから吸着量を算出した。
【0040】
図9に吸着等温線を示す。この結果、温度の上昇とともにトルエンの吸着量が減少した。150℃に加熱した時の活性炭におけるトルエン吸着量は、35℃の場合と比較すると約60%程度であった。この結果は、活性炭の加熱によりトルエンが脱着できることを示している。
【0041】
<試験例2>
−活性炭飽和吸着トルエンの脱着試験(開放環境)−
加熱乾燥した顆粒状活性炭1gを飽和トルエン蒸気中に24時間静置し、活性炭にトルエンを飽和吸着させた。活性炭の重量は、トルエンを吸着することにより、1.42gに増えており、0.42gのトルエンを吸着していることを示している。
【0042】
図10に脱着試験装置の概要を示す。トルエン飽和活性炭1をガス洗浄瓶2の中に充填しオイルバス5中に入れた。洗浄瓶2のガス流入口には、逆止弁3を設置し、大気取り込み口とした。ガス排出口には逆止弁4、コック7Cの順に接続し、濃縮用セパラブルフラスコ6と接続した。セパラブルフラスコ6は、容量2Lで、コック7C,7Dを調節して予め真空ポンプで0.1Paに減圧した。
ガス洗浄瓶2を150℃、30分間加熱し、活性炭1中のトルエンを脱着させた。コック7A,7Bの開放に伴い、ガス洗浄瓶2の流入口から空気が流入し、トルエンガスを濃縮槽6に移動させた。
【0043】
試験終了後、活性炭の重量を測定すると1.22gであった。これは、0.2gのトルエンが脱着したことを示している。脱着率は、約48%であった。
【0044】
<試験例3>
−活性炭飽和吸着トルエンの脱着試験(密閉環境)−
加熱乾燥した顆粒状活性炭1gを飽和トルエン蒸気中に24時間静置し、活性炭にトルエンを飽和吸着させた。活性炭の重量は、トルエンを吸着することにより、1.4gに増えており、0.4gのトルエンを吸着していることを示している。
【0045】
トルエン飽和活性炭1をガス洗浄瓶2の中に充填しオイルバス5中に入れた。洗浄瓶2のガス流入口には、コック7Aを設置し、大気と遮断した。ガス排出口には逆止弁4、コック7Cの順に接続し、濃縮用セパラブルフラスコ6と接続した。セパラブルフラスコ6は、容量2Lで、コック7C,7Dを調節して予め真空ポンプで0.1Paに減圧した。
ガス洗浄瓶2を150℃、30分間加熱し、活性炭1中のトルエンを脱着させた。コック7Bの開放に伴い、ガス洗浄瓶2とセパラブルフラスコ6の気圧が一定になるまで、洗浄瓶2側からセパラブルフラスコ6にトルエンガスを含む空気が移動した。
【0046】
試験終了後、活性炭の重量を測定すると1.24gであった。これは、0.16gのトルエンが脱着したことを示している。脱着率は、約40%であった。
【0047】
以上本発明について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例(試験例)に限定されるものではない。例えば、吸着カートリッジは図2〜図8に示した形態に限定されず、適宜設計すればよい。
【符号の説明】
【0048】
1 活性炭
2 ガス洗浄瓶
3 逆止弁
4 逆止弁
5 オイルバス
6 セパラブルフラスコ(濃縮槽)
7A,7B,7C,7D コック
10 吸着装置(吸着手段)
11 開口部
12 ガス導入口
13 開口部
14 拡散槽
16 プレフィルター
18 接続口
20 吸着カートリッジ
21 吸着材
22 排風機
23 加熱手段
24 ガス排出口
25 開閉手段(シャッター)
27 開閉手段(逆止弁)
29 空洞
31 筒状体
32 分解槽
33 導入口
34 排気口
35 棚段
36 触媒
40 減圧手段(真空ポンプ)
41,42,43 開口部
50 吸着部
51,52,53 開閉手段
70 分解部
100 VOC処理装置
200 VOC処理装置(カートリッジ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機物を含むガスを通過させることにより前記揮発性有機物を吸着して捕集する吸着部と、該吸着部に接続し、該吸着部から脱着した前記揮発性有機物を分解する分解部とを有し、
前記吸着部は、
両端に開口部を有するとともに、側面に複数の通気孔を有する筒状体と、
前記開口部の少なくとも一方に設けられ、該開口部からの通気を制御する開閉手段と、
前記筒状体の内側に軸方向に沿って環状に充填され、前記開口部又は前記通気孔から前記筒状体の内側に導入された揮発性有機物を吸着する吸着材と、
前記吸着材を加熱し、該吸着材に吸着されている前記揮発性有機物を脱着させる加熱手段と、を備え、
前記分解部は、
前記吸着部に通じるとともに前記吸着材から脱着した前記揮発性有機物を含むガスを導入する導入口及び減圧手段に通じる排気口を有する分解槽と、
前記分解槽の内部に配置され、該分解槽内に導入された前記揮発性有機物を分解する触媒と、を備えている揮発性有機物処理装置。
【請求項2】
前記吸着部における前記開閉手段が、逆止弁を含む請求項1に記載の揮発性有機物処理装置。
【請求項3】
前記吸着部における前記筒状体の外周に、前記通気孔からの通気を制御する開閉手段をさらに備えている請求項1又は請求項2に記載の揮発性有機物処理装置。
【請求項4】
前記吸着部が、着脱式のカートリッジとして搭載されている請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の揮発性有機物処理装置。
【請求項5】
前記吸着材が、活性炭、ゼオライト、シリカライト、粘土鉱物、疎水性シリカゲル、メソポーラスシリカ、カーボンナノチューブ、多孔質高分子、及び多孔質金属錯体からなる群から1つ以上選択される請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の揮発性有機物処理装置。
【請求項6】
前記活性炭が、長繊維状の活性炭素繊維であるとともに、前記筒状体の内壁に沿って多層に巻き付けられて配置されている請求項5の揮発性有機物処理装置。
【請求項7】
前記触媒が、酸化チタン、白金、金、コバルト、タングステン、銅、及びこれらの複合体からなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の揮発性有機物処理装置。
【請求項8】
吸着材を備えた吸着部に、揮発性有機物を含むガスを通過させることにより前記揮発性有機物を吸着して捕集する工程と、
前記吸着部に接続し、前記揮発性有機物を分解する触媒を備えた分解部を、前記吸着部と遮断して減圧状態にする工程と、
前記吸着部から前記揮発性有機物を脱着させるとともに、該吸着部と前記減圧状態の分解部との間を開放することにより、前記揮発性有機物を前記分解部に移動させて前記触媒により分解させる工程と、
を含む揮発性有機物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−253385(P2010−253385A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106510(P2009−106510)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】