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揮発性有機物分解菌用担持体及び汚染土壌の浄化方法
説明

揮発性有機物分解菌用担持体及び汚染土壌の浄化方法

【課題】特定の高分子吸収材の持つ高い揮発性有機物吸収能力を活用し、原位置処理で、揮発性有機物を効率的に分解することが可能とする揮発性有機物分解菌用担持体、及び、該揮発性有機物分解菌用担持体を利用した汚染土壌の浄化方法を提供することである。
【解決手段】揮発性有機物に汚染された土壌または地下水を原位置で浄化するために用いる揮発性有機物分解菌用担持体であって、前記揮発性有機物を土壌または地下水から吸収し保持する高分子吸収材と、揮発性有機化合物分解菌の活性促進物質と、を有する揮発性有機物分解菌用担持体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機物分解菌用担持体、及びそれを用いた汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装、印刷、洗浄等の様々な分野の工場・施設において大量に使用されている有機溶剤の多くは、有害性を有する揮発性有機物(VOC)を多量に含んでいる。VOCは、それ自身の有害性もさることながら、光化学オキシダントや浮遊粒子状物質の主な原因でもあることから、上記のような工場・施設などでは十分な安全対策が講じられている。しかしながら、極微量のVOCの流出・飛散は防ぐことができていないのが実情であり、土壌汚染の原因にもなっている。このため、工場等の固定発生源からのVOC排出及び飛散に関して、排出規制、自主的取組の促進等が取り組まれている。
【0003】
ここで、前記土壌汚染に関しては、VOCのなかでも、例えば、テトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)、ジクロロエチレン(DCE)等の塩素系揮発性有機物(塩素系VOC)は、難分解性であることから、次第に蓄積してゆき、国内外の工業地域の土壌中には、前記の難分解性の塩素系VOCによる汚染がかなりの範囲で拡がっていると考えられている。そして、これらの塩素系VOCは、土壌中に残留したものが雨水等により地下水中に溶解して周辺地域一帯に拡がるとされ、大きな環境問題となっている。このように、VOCを除去、分解して、汚染土壌や地下水等の水性媒体、土壌及びそれに伴う周辺気相の浄化を図ることは、環境保全の観点から重要な課題である。
【0004】
上記問題を解決するにあたり、土壌におけるVOC除去方法としては、例えば、掘削浄化方法として、低温加熱法や酸化還元法、ホットソイル工法等が知られており、原位置浄化方法として、揚水曝気(地下水揚水法)、真空吸引(真空抽出法)、エアスパージング法等が知られている。また、活性炭による吸着処理、光や熱による分解処理も知られている。特に、前記原位置浄化方法では、最近は、バイオレメデーション法といわれている汚染土壌中にある(原位置の)微生物を担持体に担持させてVOCを分解/処理する方法も知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
これらに開示されているような微生物による分解/処理方法では、次のような利点がある。すなわち、
(1)用いる微生物を選択することで無害な物質までにVOCを分解/処理できること;
(2)基本的には特別な薬品が不要であること;及び、
(3)メンテナンスにかかる労力やコストを軽減できること;である。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1〜3に記載されている方法では、使用する担持体が、炭または多孔質セルロースのみからなるものであり、原位置のVOC分解菌を、担持体に効率よく誘引して担持させることはできないという問題があった。さらには、これらに記載の担持体では、効率よくVOC分解菌を活性化、さらにはVOC分解菌自身の増殖を促進させることもできないという問題もあった。
【特許文献1】特開2007−283211号公報
【特許文献2】特開2004−024996号公報
【特許文献3】特開2001−149990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、特定の高分子吸収材の持つ高い揮発性有機物吸収能力を活用し、原位置処理で、揮発性有機物を効率的に分解することが可能とする揮発性有機物分解菌用担持体、及び、該揮発性有機物分解菌用担持体を利用した汚染土壌の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明は、
<1> 揮発性有機物に汚染された土壌または地下水を原位置で浄化するために用いる揮発性有機物分解菌用担持体であって、
前記揮発性有機物を土壌または地下水から吸収し保持する高分子吸収材と、揮発性有機化合物分解菌の活性促進物質と、を有する揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0009】
<2> 粒状体、筒状体、板状体及びハニカム構造体から選択される1つ以上である<1>に記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0010】
<3> 前記高分子吸収材が三次元網目構造を有し、かつ、少なくとも前記揮発性有機物を吸収して膨潤する膨潤体である<1>または<2>に記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0011】
<4> 前記三次元網目構造が、化学結合、イオン結合、水素結合及び配位結合から選択される1つによって形成される架橋構造に基づく<3>に記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0012】
<5> 前記高分子吸収材が、疎水性有機分子及び親水性有機分子により構成されている<1>乃至<4>のいずれかに記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0013】
<6> 前記高分子吸収材における主骨格構造の少なくとも一部が、ポリスチレン、ポリオクタデシルアクリレート、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、ビニル樹脂、アルキッド樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ワックスから選択される1つ以上の構造を含む<1>乃至<5>のいずれかに記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0014】
<7> 前記高分子吸収材が極性基を有し、該極性基を介して高分子吸収材に前記揮発性有機化合物分解菌の活性促進物質が固定化されている<1>乃至<6>のいずれかに記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0015】
<8> 前記極性基が、リン酸基、硫酸基及びカルボキシル基から選択される1つ以上である<7>に記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0016】
<9> 前記活性促進物質が、有機化合物、多糖類、リン化合物及び窒素化合物から選択される1つ以上から構成されている<1>乃至<8>のいずれかに記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0017】
<10> 前記活性促進物質がさらに金属元素を含み、該金属元素が、Mg、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Se、Mo、Al、W、Ca及びBから選択される1つ以上である<9>に記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0018】
<11> 前記活性促進物質が、無機化合物及び生体由来有機分子の複合体、または、無機化合物及び生体親和性有機分子の複合体である<1>乃至<8>のいずれかに記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0019】
<12> ミクロ孔、メソ孔及びマクロ孔から選択される1つ以上を有する多孔質体をさらに有する<1>乃至<11>のいずれかに記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0020】
<13> 前記揮発性有機物分解菌が、Dehalococcoides属、Desulfitobactrium属、Desulfomonile属、Dehalobacter属、Dehalospirillum属、Desulfomicrobium属、Clostridium属、Acetobacterium属、Rhodococcus属、Xanthobacter属、Mycobacterium属、Clostridium属、Desulfitobactrium属及びClostridium属から選択される1つ以上に属するものである<1>乃至<12>のいずれかに記載の揮発性有機物分解菌用担持体である。
【0021】
<14> <1>乃至<13>のいずれかに記載の揮発性有機物分解菌用担持体を、揮発性有機物による汚染土壌中に投入する工程を有する汚染土壌の浄化方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、
(1)汚染土壌中のVOCを、高効率で吸収・集約して揮発性有機物分解菌用担持体自身に取り込むため、原位置のVOC分解菌を誘引することができ、これを効率よく担持させることができる。
(2)また、活性炭などの多孔質体や、無機栄養塩類などのような微生物の栄養素をも含有させることができるため、揮発性有機物分解菌用担持体の担持能力の向上に加えて、分解菌の活性化を促進させることができる。
(3)さらに、土壌中のVOCを揮発性有機物分解菌用担持体に集約することができると同時に、分解菌も担持体に集まるため、効率よくVOCを分解処理することができ、その結果、汚染された土壌を浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
<揮発性有機物分解菌用担持体>
本発明の揮発性有機物分解菌用担持体(以下、単に「担持体」という場合がある)は、揮発性有機物に汚染された土壌または地下水を原位置で浄化するために用いる揮発性有機物分解菌用担持体であって、前記揮発性有機物を土壌または地下水から吸収し保持する高分子吸収材と、揮発性有機化合物分解菌の活性促進物質と、を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の揮発性有機物分解菌用担持体は、揮発性有機物を吸収し保持するする高分子吸収材に微生物栄養源を含んだ分解菌の栄養剤(活性促進物質)を分散させたものである。ここで、上記「分散」とは、高分子吸収材中に前記無機栄養剤が分子スケールからマイクロメータースケールの大きさで点在するように含まれていることを意味する。
【0025】
微生物分解を利用した有機化合物による汚染環境の修復処理においては、分解の対象である有機化合物を汚染環境から効率的に吸収して微生物に有効に作用させることが必要であると同時に、長期間の浄化を必要とする場合が多く、この長期間の浄化に適用する際には、微生物の分解活性を長期間にわたり維持する必要性が生じる。しかしながら、現状の技術においては、長期間の浄化に要する月日を考えると、微生物の分解活性がきわめて短期間で失活してしまう場合がある。
【0026】
その他、微生物分解による有機化合物汚染環境の修復処理においては、利用する微生物の培養に時間やコストがかかることもあり、培養した微生物の能力を最大限に有効活用することが強く望まれる。従って、微生物を担持させる担持体には、有機化合物の吸収・保持能力だけでなく、微生物の分解活性の失活を防止する手段も待望される。
【0027】
本発明における前記高分子吸収材は、後述するように、土壌や地下水中の揮発性有機物を効率的に吸収し、膨潤してゲル化することによりこれを保持することが可能である。よって、汚染領域を増加させることなくVOCを分解処理する好適な環境をつくり出すことができる。一方、前記無機栄養剤は、土壌等の中に存在する揮発性有機物の分解菌を吸着するとともに、その中に含まれる栄養源により、分解菌を活性化させる役割を持つ。
このように、本発明の揮発性有機物分解菌用担持体は、高分子吸収材と無機栄養剤とを複合化させた無機有機複合体を形成することにより、揮発性有機物の吸収と分解とを原位置で効率的に行うことができる機能性微生物担持体である。
【0028】
以下に、本発明の揮発性有機物分解菌用担持体をその構成ごとに具体的に説明する。
(高分子吸収材)
本発明における高分子吸収材は、吸収対象である有機物の特性や誘引する微生物(分解菌)との親和性に応じて、疎水性、親水性、極性などの様々な特性を持ったモノマー等から構成される。
例えば、前記吸収対象である有機物の観点からは、疎水性の高いベンゼンやトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどを吸収する場合は、スチレンやオクタデシルアクリレートなどの疎水性モノマー(疎水性有機分子)が適切である。また、前記誘引する微生物の観点からは、ポリビニルアルコールやポリ乳酸などの親水性ポリマー(親水性有機分子)を用いることにより微生物との親和性を高くすることができる。
【0029】
ここで、前記疎水性有機分子とは、分子内に疎水基を有し、分子全体として疎水性を示す有機分子をいい、疎水性を示す範囲で同一分子内に親水基を有していてもよく、親水性有機分子とは、分子内に親水基を有し、分子全体として親水性を示す有機分子をいい、親水性を示す範囲で同一分子内に疎水基を有していてもよい。また、親水性とは、例えば高分子化して膜とした場合に、膜表面の水に対する接触角が30度以下程度であることを意味し、疎水性とは、同様の場合に接触角が70度を超える程度であることを意味する。
が必要である。
【0030】
本発明における高分子吸収材は、土壌中等のVOCを効率的に吸収する必要がある。したがって、基本的には疎水性有機分子から構成される成分を含むことが好適である。
例えば、スチレン、パラクロロスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のビニル基を有するエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン類;などの単量体の重合体、これらを2種以上組み合せて得られる共重合体又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0031】
さらにはエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂等の非ビニル縮合系樹脂;その他、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム等のゴム類;シクロデキストリン、ワックス、あるいはこれらと前記ビニル系樹脂との混合物やこれらの共存下でビニル系単量体を重合する際に得られるグラフト重合体等も使用できる。
【0032】
一方、本発明における高分子吸収材は、前記吸収したVOCを分解する分解菌(微生物)との親和性がある程度必要とされる。このため、親水性ポリマーなどの親水性有機分子成分を含むことが望ましい。
上記親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミドポリビニルブチラール、ポリメチルビニルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース系重合体、またはこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、各種の糖類、ゼラチン、プルラン、ポリ乳酸等などが挙げられる。これらの中では、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ゼラチン、ポリ乳酸が特に好適である。
【0033】
以上述べた疎水性有機分子及び親水性有機分子の中では、前記VOCに対する親和性、VOCの吸収性が良好であるという観点、さらには前記微生物との親和性をより高めるとい観点から、前記高分子吸収材における主骨格構造の少なくとも一部が、ポリスチレン、ポリオクタデシルアクリレート、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、ビニル樹脂、アルキッド樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ワックスから選択される1つ以上の構造を含むことが望ましく、ポリスチレン、ポリオクタデシルアクリレートを含むことが特に好適である。
ここで、前記主骨格構造とは、後述する架橋部分を除く主鎖を構成し置換基を除く繰り返し構造部分をいう。
【0034】
また前述のように、本発明における高分子吸収材は土壌等から吸収したVOCをその場で分解処理するものである。したがって、VOCを効率的に吸収、保持する機能が必要とされると同時に、微生物に対する親和性も高いことが望ましい。このため、本発明における高分子吸収材は、前記疎水性有機分子及び親水性有機分子により構成されていることが望ましい。
【0035】
この場合、高分子吸収材中に含まれる前記疎水性有機分子及び親水性有機分子の量比は、各々のモル比(疎水性/親水性)で(ポリマー成分として含まれる場合は繰り返し構造単位を1モルとする)、30/70〜90/10の範囲とすることが望ましく、50/50〜70/30の範囲とすることがより好適である。
なお、高分子吸収材に疎水性有機分子及び親水性有機分子が含まれる場合、その態様は、各々の有機分子を構成するモノマーを組み合せて得られる共重合体としてもよいし、前記モノマーを各々高分子化したオリゴマー、ポリマーの混合物としてもよい。
【0036】
また、高分子吸収材が上記疎水性有機分子及び親水性有機分子を含む場合、各々の有機分子成分の組合せとしては、前記例示した本発明に好適な主骨格構造の組合せ(疎水性/親水性)として、ポリオクタデシルアクリレート/ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリスチレン/ポリビニルアルコール、ポリオクタデシルアクリレート/ポリアクリル酸ナトリウムなどを好適に挙げることができる。
【0037】
さらに、本発明における高分子吸収材の構造は、より多くの揮発性有機物を吸収、保持できる高分子ゲルであることが好ましく、この高分子ゲルとするためには前記高分子吸収材を構成する直鎖高分子が架橋され、これに基づき三次元網目構造を形成していることが望ましい。
【0038】
上記架橋構造の形成は、特に制限されないが、化学結合、イオン結合、水素結合及び配位結合から選択される1つによって形成されることが望ましい。これらの中では、特にVOCを吸収したときの保持安定性に優れる点で、化学結合によって形成される架橋構造が好適である。
【0039】
例えば、VOCを吸収する主骨格構造として好適なオクタデシルアクリレート(ODA)に対し、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)を所定の割合で混合して重合することにより、下記構造式(I)に示すような架橋構造(上側の連鎖及び下側の連鎖を結合する酸素と酸素とを結ぶ結合)を有する高分子ゲルが得られる。
【0040】
【化1】

【0041】
上記構造式(I)において、p〜uは各々独立な1以上の整数を表す。
この構造式(I)に示す高分子ゲルは、本発明における高分子吸収材を構成する構造として好ましいが、この場合、高分子ゲルを構成するモノマーODAとEGDMAとのモル比(ODA/EGDMA)は、10/1〜500/1の範囲とすることが望ましく、50/1〜100/1の範囲とすることがより好適である。ODAとEGDMAとの配合比を上記範囲とすることにより、吸収するVOC量を適切な範囲とすることができる。
【0042】
上記架橋構造の導入法としては、架橋剤との反応による化学結合の形成、高分子吸収材を構成するポリマー鎖への結合基の導入によるイオン結合あるいは水素結合の形成、その他、電子線照射、放射線照射、光照射、プラズマ処理などの方法が好適に用いられる。
【0043】
また、本発明における高分子吸収材は、微生物により分解される生分解性高分子化合物であることが望ましい。
その化学構造としては、(1)主鎖が脂肪族で、これにエーテル結合またはエステル結合を有するもの、(2)主鎖(または側鎖)に水酸基、カルボキシル基を有するもの、あるいは、(3)プラスチックスの光分解および微生物分解を誘因、促進する添加剤を含有することにより生物分解性が良好なプラスチックスであり、具体的には澱粉系、酢酸セルロース系、ポリ乳酸系、脂肪族ポリエステル系、ポリビニルアルコール系等の生物分解性プラスチックスが挙げられる。これらの主原料を、前記本発明における高分子吸収材の特性を満たす限り用いることができる。
【0044】
また、前記高分子吸収材は、揮発性有機物(VOC)を一定量以上保持する必要があることから、少なくともVOCを吸収して膨潤する膨潤体であることが望ましい。具体的には、例えば、トリクロロエチレンに対する吸収量((吸収した液量質量)/(吸収前の吸収材の質量))で10〜1000の範囲であることが望ましく、20〜100の範囲であることがより好適である。
なお、上記膨潤度は、25℃において試料をトリクロロエチレン中に48時間浸漬後、浸漬前後の試料の質量より求める。
【0045】
(活性促進物質)
本発明の揮発性有機物分解菌用担持体では、前記高分子吸収材中に分解菌の栄養剤(活性促進物質)が分散される。該栄養剤は、土壌中に存在する揮発性有機物の分解菌を吸着し、かつ活性化させる機能を有する。そのため、この物質には、高い生体親和性、微生物吸着特性、リン、カルシウム及び窒素などの微生物活性物質の保持特性といった複数の特性の担持が望まれる。
【0046】
前記栄養剤の成分としては、被活性促進成分との組み合わせにより適宜選定されるが、例えば、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム及びリン酸亜鉛等のリン化合物;酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム及び硫酸亜鉛等の二価金属化合物;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛及び塩化マグネシウム等の塩化物;ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンリン酸エステル等のノニオン性界面活性剤、並びにカルボキシベタイン型両性界面活性剤等の有機化合物;アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸カリウム等のアスコルビン酸類;チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、コバラミン、ナイアシン、葉酸及びパントテン酸等のビタミンB群;システイン及びグルタチオン等のアミノ酸、オリゴペプチド類;コラーゲンやキチン、キトサン、アルギン酸、セルロース等の多糖類;アンモニア、尿素、アンモニウム塩、アミノ酸等の窒素化合物;などが挙げられる。
【0047】
上記に列挙した成分の中で、本発明における栄養剤は、VOC分解菌などの嫌気性微生物の活性化の点で、有機化合物、多糖類、リン化合物及び窒素化合物から選択される1つ以上から構成されることが望ましい。特にリン化合物および窒素化合物は、嫌気性微生物の活性化の点で最も好適である。
【0048】
また、前記栄養剤(活性促進物質)は、誘引する微生物の選択性を高めたり、誘引された微生物をより長期にわたって担持させる等の観点から、さらに金属元素(金属イオン)を含むことが望ましい。上記金属元素としては、Mg、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Se、Mo、Al、W、Ca及びBから選択される1つ以上であることが望ましく、Mg、Fe、Caから選択されるものであることがより好適である。
【0049】
これらの金属元素は、栄養剤中に微量に含まれればよく、その含有量は高分子吸収材全体の0.1〜10質量%の範囲とすることが望ましく、0.5〜1質量%の範囲とすることがより好適である。含有金属元素量を上記範囲とすることにより、VOC分解菌の増殖効率をさらに向上させることができる。
なお、前記含有金属元素量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により求めることができる。
【0050】
本発明における栄養剤の例としては、例えば、リン酸カルシウム(骨炭)や炭酸カルシウム(貝殻)などは、生体材料にも使用されることから、高い生体親和性を有していると考えられ、また生体高分子の高い吸着特性を有し、リン酸、カルシウムやその他の金属微量イオンを保持することが可能であるため、無機の栄養剤として好適なものである。
本発明における栄養剤(活性促進物質)としては、さらに、前記リン酸カルシウムなどの無機化合物に、コラーゲン、セルロース誘導体、多糖類などの生体高分子(生体由来有機分子や生体親和性有機分子)を複合化させることにより、微生物に必要な窒素源を付加させることができるため好適である。また、前記リン酸カルシウムには、前記金属イオンを担持させることも可能である。その他、骨炭を作製し、活性炭を表面に有したリン酸カルシウム複合体として利用してもよい。この場合、骨炭はリン酸カルシウムが微生物の栄養源に、活性炭が微生物の吸着に利用されることとなる。
【0051】
以上説明した栄養剤を、前述の高分子吸収材である高分子ゲルに混ぜ込んだ場合、栄養剤が高分子吸収材と結合していないとVOC等を吸収して膨潤するとともに外部に放出される可能性が高い。そしてその場合には、揮発性有機物を吸収したとしても、その後の微生物分解を迅速に促すことができないことがあった。この問題に対し、本発明者等が検討した結果、高分子吸収材を構成する高分子成分に前記栄養剤を化学結合等により固定化することにより、この問題点が解決されることがわかった。
【0052】
例えば無機の栄養剤であるリン酸カルシウムや炭酸カルシウムは、カルシウムイオンがリン酸基(PO2−)、カルボキシル基(COOH)、硫酸基(SO2−)と強い相互作用を持つため、これらの極性基を有する有機分子を高分子吸収材の構成成分とし、前記極性基を介して前記リン酸カルシウム等とを結合させて無機有機複合体を形成する。この複合体では、高分子吸収材中に分子スケールで栄養剤を分散させることができるとともに、高分子吸収材がVOC等を吸収しても栄養剤が固定化されているため外部に放出されることがない。
また、前記複合体の構造では、前記極性基と栄養剤との結合部分がクラスター等を形成し、これにより直鎖高分子を架橋することができるため、前記高分子吸収材に必要な三次元網目構造をも同時に形成させることもできる。
【0053】
前記極性基としては、特に制限されないが、カルボキシル基、水酸基、リン酸基 、硫酸基、ジスルフィド基などが挙げられる。これらの中では、前述のように特定の無機の栄養剤と結合を形成しやすい点で、カルボキシル基、リン酸基 、硫酸基より選択される1つ以上であることが望ましい。
【0054】
高分子吸収材を構成する有機分子に上記極性基を導入する方法としては、特に制限はなく、例えば、側鎖としてカルボキシル基、リン酸基 、硫酸基等の極性基を有する重合体成分(単量体)を、前述の重合時の重合成分として混入させて共重合等させる方法、また、化学変換によって前記極性基に変換可能な官能基、例えばエステル基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、エーテル基、アルデヒド基、水酸基、ニトリル基、ハロゲン基等を側鎖に有する重合体を、化学変性により前記極性基を有するものにする方法等を挙げることができる。
【0055】
前者の方法に用いられる、前記極性基を有する単量体としては、例えばビニルスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、(メタ)アクリル酸スルホプロピル、(メタ)アクリル酸スルホエチル、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドメタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩型の単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸等のカルボキシル基含有単量体及びその塩型の単量体;
【0056】
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、ビス・(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニールアシッドフォスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジフェニールアシッドフォスフェート、(メタ)アクリロイルオキシポリアルキルアシッドフォスフェート等のリン酸基含有単量体およびその塩型の単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、クロロヒドロキシ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体;などを挙げることができる。
【0057】
これらの中でも、前記無機の栄養剤に含まれる金属との反応性に優れるリン酸基を含有した単量体を用いることが望ましく、前記構造式(I)に示した高分子ゲルを得るための重合時に、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェートを加えて重合することにより、下記構造式(II)に示すリン酸基を導入した高分子ゲルを得ることができる。
【0058】
【化2】

【0059】
上記構造式(II)において、p〜tは各々独立な1以上の整数を表す。
また、前記化学変性により極性基を有するものにする方法に用いる化学変換可能な極性基を有する重合体は、化学変換可能な極性基を有する、既述の単量体およびその誘導体を重合することにより得ることができる。
【0060】
高分子吸収材における前記極性基の含有量は、使用される栄養剤の種類や望まれる機能に応じて適宜設定することができ、特に制限はないが、側鎖として1種以上含有される全ての極性基の総量として0.1〜100meq/g重合体の範囲とすることが望ましく、1〜10meq/g重合体の範囲とすることがより好適である。
極性基含有量が0.1meq/g重合体未満であると、本発明に必要とされる微生物に対して十分な栄養剤を固定化することができない場合がある。一方、極性基含有量が100meq/g重合体を超えると、VOC吸収量が少なくなる場合がある。
【0061】
なお、前記極性基含有量の単位である「meq/g重合体」の「重合体」は、側鎖極性基含有単量体の共重合体はもとより、極性基含有共重合体以外の重合体が混合されている場合も、全ての重合体成分当りを意味する。
【0062】
続いて、得られた極性基を有する高分子吸収材に対し、前記栄養剤を化学的に結合させこれを固定化する。栄養剤と高分子吸収材とを化学的に結合する方法は、栄養剤となる化合物と高分子ゲルとの間の結合強度が十分に得られるものであればいかなる化学的結合でも良いが、例えば高分子ゲルが極性基として前記カルボキシル基、リン酸基 、硫酸基より選択される1つ以上を有する場合には、栄養剤として無機栄養剤を用い、該無機栄養剤に含まれる金属イオンにより前記極性基が中和され(中和反応)、塩構造を形成することが望ましい。そして、上記無機栄養剤に含まれる金属としてはカルシウムが好ましい。
【0063】
なお、前記「中和」されるとは、前記のカルボン酸基やリン酸基等の極性基の酸のグラム当量と、カルシウムのグラム当量とが、実質上等しくされている状態にあることを意味する。ここでグラム当量とはモル数を酸(または塩基)の価数で乗じた値を言う。即ち、酸(または塩基)が中和に放出し得るH+(またはOH-)のモル数である。なお、カルボン酸基あるいはリン酸基のような弱酸を強塩基性であるカルシウムで中和すると、厳密に完全中和しても、pH値は7にならず、ややアルカリ側に傾く傾向がある。
【0064】
前記中和反応は、極性基を有する高分子ゲルと無機栄養剤であるカルシウム化合物とが反応し得る反応形態であればよく、通常は水などの水性媒体の存在下に反応させ、反応後に反応溶媒を、例えば、蒸留、濾過、膜分離などにより適宜除去することより行うことができる。さらに、生成したカルシウム塩を水あるいはエタノールなどの水性溶媒で洗浄することが好ましく、このような洗浄して使用する場合には、前記洗浄に用いて残留している溶媒を積極的に除去して使用することが好ましい。
【0065】
このようにして精製された担持体に含有される活性促進物質の含有量は、担持体全体の1〜60質量%の範囲であることが望ましく、10〜30質量%の範囲であることがより好適である。含有量が1質量%より少なすぎるとその効果が発揮されない場合があり、60質量%より多すぎると活性促進物質の担持ができなくなり、活性発現の制御性を悪くするなどの不都合を生じる場合がある。
なお、pH値を適切に管理してカルシウム塩を調製すれば、カルシウムが喪失することは極めて少ないので、仕込み量を生成物組成(酸塩基グラム当量比)とみなすことが可能である。必要に応じて、除去した溶媒あるいは洗浄液のpH値、あるいは、生成物のpH値を測定確認してもよい。
【0066】
本発明の揮発性有機物分解菌用担持体の具体的な例として、前記構造式(II)で示されるリン酸基を導入した高分子ゲルに、無機栄養剤としてリン酸カルシウムを結合させた有機無機複合体の構造を下記構造式(III)に示す。
【0067】
【化3】

【0068】
上記構造式(III)において、p〜yは各々独立な1以上の整数を表す。また、構造式において下側に結合する高分子吸収材部分は省略している。
さらに、本発明の揮発性有機物分解菌用担持体は、ミクロ孔、メソ孔及びマクロ孔から選択される1つ以上を有する多孔質体をさらに有することが望ましい。このような多孔質体を有することにより、VOC吸収速度の促進、微生物の早期導入や栄養物の早期放出を促すことができる。
【0069】
ここで、前記ミクロ孔とは、平均孔径が2nm以下の細孔をいう。また、前記メソ孔とは、平均孔径が2〜50nmの範囲の細孔をいう。さらにマクロ孔とは、平均孔径が50nmを超える細孔をいう。具体的に、これらの細孔を有する多孔質体としては、例えば、ピートモス、ポリウレタン樹脂の如き有機多孔質体、活性炭、ゼオライト、メソポーラスシリカ、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。また、これらの多孔質体は前記高分子吸収材等と結合していてもよいし、結合していなくてもよい。
【0070】
以上の工程を経て得られた本発明の揮発性有機物分解菌用担持体の形状は、特に制限されないが、粒状体、筒状体、板状体及びハニカム構造体から選択される1つ以上であることが、取り扱いの容易さ、VOCの吸収・保持性の観点から望ましい。
【0071】
また前記筒状体に関しては、図1に一例を概略構成図として示すが、図に示す担持体10では、筒状の高分子吸収材14の内部に活性促進物質12を埋め込んだ構成となっており、この構成では吸収性・保持性に優れた筒状の高分子吸収材14が土壌等から効率的に吸収したVOCを、中央の微生物を誘引した活性促進物質12で集中的に分解処理することができる。
【0072】
また前記板状体に関しては、図2に一例を概略構成図として示すが、図に示す担持体20では、2枚の板状の高分子吸収材24の間に板状の活性促進物質22を挟んだ構成となっており、この構成では吸収性・保持性に優れた板状の高分子吸収材24が土壌等から効率的に吸収した両側からVOCを、真ん中の微生物を誘引した板状の活性促進物質22で集中的に分解処理することができる。
【0073】
さらに、前記ハニカム構造体とは、例えば図1、図2で示される担持体における高分子吸収材、活性促進物質が各々有するさらに微細な構造を指し、所謂蜂の巣(ハニカム)形状のもののみならず、セル(小室)が連続して構成される構造体を全て包含する。なお、本発明の揮発性有機物分解菌用担持体の形状については、上記例に限定されることはなく、例えば、図3に示した球状体でもよい。図3は球状体の揮発性有機物分解菌用担持体30の構成を示す概略図(一部断面)であるが、この球状体の例においては、活性促進物質32上に高分子吸収材34が被覆されているとともに、前記高分子吸収材34の表面には、微生物の担持及び活性促進物質32の徐放のため、断面部分に示すように担持体内部の活性促進物質32まで達する孔36が複数設けられている。また、その他の形状としては、図には示していないが、例えば、四面体、六面体等の多面体などとしてもよい。
【0074】
最後に、本発明の揮発性有機物分解菌用担持体に誘引される揮発性有機物分解菌(微生物)について説明する。
前記揮発性有機物分解菌としては、Dehalococcoides属、Desulfitobactrium属、Desulfomonile属、Dehalobacter属、Dehalospirillum属、Desulfomicrobium属、Clostridium属、Acetobacterium属、Rhodococcus属、Xanthobacter属、Mycobacterium属、Clostridium属、Desulfitobactrium属及びClostridium属から選択される1つ以上に属するものであることが望ましい。
【0075】
前記のうちで、特にDehalococcoides属は、PCEをエチレンにまで完全に分解できるものであるため好ましい。また、例えばDesulfitobactrium属等は、PCEをシス−DCEまでしか分解できない分解菌であるが、Rhodococcus属、Xanthobacter属等がシス−DCEをエチレンにまで分解することができる分解菌であるため、これらを組み合わせて複合化することによりPCEを完全に分解処理することが可能となる。
【0076】
揮発性有機物分解菌として、前記Dehalococcoides属を担持体に誘引あるいは長期担持させるためには、前記栄養剤をリン酸カルシウム、窒素化合物とすることが望ましい。また、分解菌として前記Desulfitobactrium属等と前記Rhodococcus属、Xanthobacter属等とを組み合わせて担持体に誘引あるいは長期担持させるためには、前記栄養剤をリン酸カルシウム、窒素化合物とすることが望ましい。
【0077】
これらの分解菌は、担持体に誘引されてからVOCを分解処理するまでに比較的長期間担持体中に留まることが望ましい。この観点からは、VOCを効率的に吸引・保持する高分子ゲルの近くに栄養剤が結合された本発明の揮発性有機物分解菌用担持体は、分解菌の長期担持性という点でも優れている。
また、前記栄養剤が高分子ゲルに結合されているため、一旦誘引された分解菌が栄養剤と共に担持体の外部に流出してしまうこともない。
【0078】
<汚染土壌の浄化方法>
次に、本発明の汚染土壌の浄化方法について説明する。
本発明の汚染土壌の浄化方法は、前記本発明の揮発性有機物分解菌用担持体を、揮発性有機物による汚染土壌中に投入する工程を有するものである。
前述のバイオレメディエーション法は、工場排水または掘削あるいは揚水した土壌・地層・地下水に対してリアクター内もしくは地上で分解処理を行う場合と、原位置で分解処理を行う場合とがあるが、本発明の汚染土壌の浄化方法は、特に原位置で行う場合に適する方法である。
【0079】
また、前記原位置で分解処理を行う方法は、微生物の活用法により2つに分類される。一つは、バイオスティミュレーションと呼ばれ、汚染した土壌・地下水に窒素、リン等の無機栄養塩類、メタン、堆肥等の微生物の増殖に必要な炭素源エネルギー源としての有機物、さらに空気、酸素や過酸化水素等を注入し、現場に生息している微生物を増殖させて浄化活性を高める方法であり、もう一つはバイオオーグメンテーションと呼ばれ、汚染現場に浄化微生物が生息していない場合に、培養した汚染物質分解能の高い微生物を導入して浄化する方法である。
本発明の汚染土壌の浄化方法は、上記バイオスティミュレーションにもバイオオーグメンテーションにも適用可能である。
【0080】
汚染された土壌を処理する浄化方法としては、汚染された土壌中に本発明の揮発性有機物分解菌用担持体が投入され、該担持体と土壌とが充分に接触できる方法であればどのような方法であってもよいが、一例を挙げれば、まず土壌を掘削し所望の深さ(例えば帯水層)まで到達する投入管を設置し、次いでこの投入管の地上側から担持体を投入することにより行うことができる。そして、汚染土壌においてVOCを含む汚染物質を吸収、膨潤させると同時に、担持体において汚染物質を分解可能な微生物の生育を促進させて、汚染物質の分解をすることにより、汚染土壌を浄化することが可能になる。
【0081】
この場合、担持体に微生物に担持させず土壌中から誘引する方法としてもよいし、あらかじめ所望の微生物を栄養剤部分に担持させておき、これを投入管から投入してもよい。
なお、上記栄養剤部分への微生物の担持は、常法にしたがって行うことができる。例えば、所望の微生物を含む溶液中に前記担持体を浸漬することにより行うことができる。
【0082】
汚染土壌(汚水を含む)及び担持体の接触時間は、土壌中のVOCが十分に分解されるまで行われれば特に制限はないが、温度10〜25℃において、12〜48時間程度とすることが望ましい。処理を行っている土壌中のVOC濃度を測定し、環境基準値以下になったら分解処理を終了する。
【0083】
また、前述のように、例えばPCEをエチレンにまで完全分解する分解菌はごく少数であること、完全分解にはかなりの時間がかかること等から、分解が途中の段階(例えばPCEがシス−DCEまで分解した段階)で、VOC等を含んだ担持体を地上に引き上げ、他のリアクター等によりその後の処理を行ってもよい。
【0084】
以上説明した、分解菌(微生物)を利用する環境浄化の対象である汚染物質としては、難分解性の有機化合物である、トリクロロエチレン(TCE)やジクロロエチレン(DCE)等の塩素化エチレン化合物を好適に挙げることができる。また、本発明の浄化方法は、上記の汚染物質で汚染された環境が土壌である場合に有効であるが、液体あるいは液体及び土壌の混合物であっても、その浄化に等しく用いることができる。すなわち、利用する微生物に汚染物質を接触させることができる限り、汚染物質の存在形態には依存するものではない。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0086】
<高分子吸収材の合成>
(高分子吸収材A)
オクタデシルアクリレート(ODA)40.56g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.64g、及びエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)0.0396g(ODA/EGDMAモル比:100/1)を、ベンゼン50mlに投入し溶解させる。この混合溶液を耐圧ガラス容器に入れ、液体窒素でベンゼンを凍結させる。容器を真空ラインに繋ぎ、脱ガス後、容器を密閉する。常温で放置し、ベンゼンを液体に戻した後、60℃のオーブンに入れ24時間熱重合させる。得られた重合物を、ベンゼン中に10時間浸漬して洗浄し、次いで、空気中でベンゼンを揮発させ、高分子吸収材A(前記構造式(I)に示すもの)を得た。
【0087】
(高分子吸収材B〜D)
高分子吸収材Aの合成において、架橋度を変化させるためにEGDMAの添加量を0.0396gから、0.396g(B、ODA/EGDMAモル比:100/10)、1.98g(C、ODA/EGDMAモル比:100/50)、3.96g(D、ODA/EGDMAモル比:100/100)と各々変化させた以外は、高分子吸収材Aと同様にして高分子吸収材B〜Dを合成した。
【0088】
<高分子吸収材のトリクロロエチレン吸液特性>
前記高分子吸収材A〜D:4種の高分子吸収材のVOC吸収特性を調べるため、各々のトリクロロエチレン(TCE)吸収量を測定した。具体的には、高分子吸収材A〜Dの粉末各々0.25gを、50mlのガラス瓶中でトリクロロエチレン5ml中に25℃で48時間浸漬させ、その後上澄みを除去して質量を測定し、下記式(1)により自重に対するTCEの吸収量を求めた。
(自重に対するTCE吸収量)=(浸漬後の試料質量)/(浸漬前の試料質量):式(1)
【0089】
図4に、架橋度の指標としての「ODA100モルに対するEGDMAの混合モル数」に対する「自重に対するTCE吸収量」の関係を示す。図4に示すように、架橋度の増加に伴ってTCE吸収量が急激に減少していることがわかる。また実際、吸収後の各試料を観察すると、架橋度が高いものほど硬いままであり、架橋度が低いものほど軟らかくなることが確認された。これらの結果から、ODAをベースとした高分子ゲルの架橋度を変化させることにより、自重の3倍から30倍まで吸収量を変化させることができることがわかった。
なお、上記は高分子吸収材についての結果であるが、これらを用いて揮発性有機物分解菌用担持体としても、同様のTCE吸収特性が得られると考えられる。
【0090】
<実施例1>
(揮発性有機物分解菌用担持体の作製)
−高分子吸収材Aへのリン酸基の導入−
オクタデシルアクリレート(ODA)40.56g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.64g、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)0.0396g、及び2−メタクリロキシエチルフォスフェート(MEP)0.0388g(ODA/EGDMAモル比:100/1、ODA/MEPモル比:100/1)を、ベンゼン50mlに投入し溶解させる。この混合溶液を耐圧ガラス容器に入れ、液体窒素でベンゼンを凍結させる。容器を真空ラインに繋ぎ、脱ガス後、容器を密閉する。常温で放置し、ベンゼンを液体に戻した後、60℃のオーブンに入れ24時間熱重合させる。得られた重合物を、ベンゼン中で10時間浸漬して洗浄し、次いで、空気中でベンゼンを揮発させ、リン酸基を有する高分子吸収材A(前記構造式(II)に示すもの)を得た。
【0091】
上記リン酸基を有する高分子吸収材Aを、リン酸水素カリウム水溶液(蒸留水100mlに対しKHPO・3HOを5.48g溶解したもの)に分散させ、これに塩化カルシウム水溶液(蒸留水100mlに対しCaClを4.44g溶解したもの)を前記分散液を攪拌しながらゆっくりと滴下する。この際、予めリン酸水素カリウム水溶液のpHを12に調整しておく。これにより、前記構造式(III)に示すような構造を有した揮発性有機物分解菌用担持体(1)が得られた。
【0092】
上記揮発性有機物分解菌用担持体(1)は粒子状であり、粒径は10〜500μm程度であった。
【0093】
(揮発性有機物分解菌用担持体の評価)
−TCE吸収特性−
前記高分子吸収材のTCE吸収特性評価と同様にして、揮発性有機物分解菌用担持体(1)についてTCE吸収量を調べたところ、自重に対して約10倍であった。またこのとき、担持体は約10倍程度に膨潤した。
【0094】
−汚染土壌の浄化特性−
まず、佐原通し砂(含水量:10質量%、未滅菌)をバイアル容器に50g入れ、土壌中の濃度が30ppmとなるようにTCE飽和水溶液を加え、密栓して15℃で3日間静置して擬似TCE汚染土壌試料を調製した。
【0095】
次に、円筒状のメッシュ部材(底付、口径:40mm)を、密栓可能な容器の中央に立てて配置し、その周囲に前記汚染土壌を投入して、前記メッシュ部材が埋まるように敷き詰めた。次いで、前記円筒状のメッシュ部材の内部に、前記揮発性有機物分解菌用担持体(1)を投入した。
また、メッシュ部材に揮発性有機物分解菌用担持体を投入しない以外は上記と同様にして、参照用の測定試料をもう一つ作製した。
【0096】
この状体で2つの容器を密栓し、20℃で24時間静置後、測定用の容器の気相部分のTCE濃度(初期濃度)をガスクロマトグラフィにて測定し、測定後、初期と同程度の濃度となるように気相部分にTCEガスを加え再度密栓した。この状態で、20℃でさらに24時間静置し、その後、前記と同様に測定用の容器の気相部分の未分解TCE濃度(経時濃度)を測定するとともに、参照用試料の気相部分についても未分解TCE濃度を測定した。
【0097】
この結果、測定用試料における初期の未分解TCE濃度は、参照用試料における未分解TCE濃度よりも少なかった。
この結果から、揮発性有機物分解菌用担持体(1)は、土壌中から効率的にTCEを吸収、保持しており、土壌中の原位置でのTCE浄化に有効な担持体であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の揮発性有機物分解菌用担持体の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の揮発性有機物分解菌用担持体の他の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の揮発性有機物分解菌用担持体の他の一例を示す概略図(一部断面)である。
【図4】高分子吸収材のトリクロロエチレン吸収特性を示す図である。
【符号の説明】
【0099】
10、20、30 揮発性有機物分解菌用担持体
12、22、32 活性促進物質
14、24、34 高分子吸収材
36 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機物に汚染された土壌または地下水を原位置で浄化するために用いる揮発性有機物分解菌用担持体であって、
前記揮発性有機物を土壌または地下水から吸収し保持する高分子吸収材と、揮発性有機化合物分解菌の活性促進物質と、を有することを特徴とする揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項2】
粒状体、筒状体、板状体及びハニカム構造体から選択される1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項3】
前記高分子吸収材が三次元網目構造を有し、かつ、少なくとも前記揮発性有機物を吸収して膨潤する膨潤体であることを特徴とする請求項1または2に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項4】
前記三次元網目構造が、化学結合、イオン結合、水素結合及び配位結合から選択される1つによって形成される架橋構造に基づくことを特徴とする請求項3に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項5】
前記高分子吸収材が、疎水性有機分子及び親水性有機分子により構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項6】
前記高分子吸収材における主骨格構造の少なくとも一部が、ポリスチレン、ポリオクタデシルアクリレート、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、ビニル樹脂、アルキッド樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ワックスから選択される1つ以上の構造を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項7】
前記高分子吸収材が極性基を有し、該極性基を介して高分子吸収材に前記揮発性有機化合物分解菌の活性促進物質が固定化されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項8】
前記極性基が、リン酸基、硫酸基及びカルボキシル基から選択される1つ以上であることを特徴とする請求項7に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項9】
前記活性促進物質が、有機化合物、多糖類、リン化合物及び窒素化合物から選択される1つ以上から構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項10】
前記活性促進物質がさらに金属元素を含み、該金属元素が、Mg、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Se、Mo、Al、W、Ca及びBから選択される1つ以上であることを特徴とする請求項9に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項11】
前記活性促進物質が、無機化合物及び生体由来有機分子の複合体、または、無機化合物及び生体親和性有機分子の複合体であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項12】
ミクロ孔、メソ孔及びマクロ孔から選択される1つ以上を有する多孔質体をさらに有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項13】
前記揮発性有機物分解菌が、Dehalococcoides属、Desulfitobactrium属、Desulfomonile属、Dehalobacter属、Dehalospirillum属、Desulfomicrobium属、Clostridium属、Acetobacterium属、Rhodococcus属、Xanthobacter属、Mycobacterium属、Clostridium属、Desulfitobactrium属及びClostridium属から選択される1つ以上に属するものであることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の揮発性有機物分解菌用担持体。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の揮発性有機物分解菌用担持体を、揮発性有機物による汚染土壌中に投入する工程を有することを特徴とする汚染土壌の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−233553(P2009−233553A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81958(P2008−81958)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】