説明

揮発性有機物吸収材

【課題】揮発性有機物の吸収能に優れる、揮発性有機物吸収材を提供する。
【解決手段】少なくとも、以下の構成要素(1)〜(3);
(1)三次元網目構造を形成する疎水性有機物質
(2)揮発性有機物を溶解可能な溶媒
(3)粘土鉱物
を含むことを特徴とする、揮発性有機物吸収材。前記疎水性有機物質は、前記溶媒により膨潤され、且つ、前記粘土鉱物と複合化されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機物吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
浮遊粒子状物質や光化学オキシダントによる大気汚染は、いまだに深刻である。現在でも、浮遊粒子状物質による人体への影響が懸念され、また、化学オキシダントによる健康被害が数多く報告されている。
【0003】
トルエン、ベンゼン、キシレン、エタノール、テトラジクロロエチレン等の揮発性有機物(VOC)は、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの主な原因とされている。そのため、現在では、工場等の固定発生源からのVOCの排出及び飛散に関し、排出規制の強化や自主的取組の促進がなされている。
【0004】
従来、固定発生源から発生するVOCの排出量を減少するために、多孔質吸着剤(例えば、活性炭やメソポーラスシリカ等)を用いてVOCを吸収する方法が採られていた。しかしながら、従来の多孔質吸着剤は、吸着能(吸着量及び吸着速度)が不十分であり、交換や再生等を頻繁に行わなければならず、ランニングコストの面で問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、ゲルの1種である高分子ゲルを用いたVOCの吸収が提案されている。高分子ゲルは、高分子が架橋して三次元網目構造を有するものであり、VOCを吸収或いは液化する等して最大膨潤容積まで膨潤する物質である。この種の高分子ゲルは、これまでVOC処理に用いられてきた多孔質吸着材と比較して、より多くのVOCを貯蔵することが可能であると期待されている。
【0006】
高分子ゲルは、一般的に、架橋点の構造によって化学ゲルと物理ゲルの2つに分類される。
化学ゲルは、共有結合により分子が架橋されたものであり、1つの巨大分子である。化学ゲルの問題点としては、架橋点が不均一に点在し、且つ、共有結合により強固に固定化されているため、柔軟性が低く、吸収できるVOC量が少ないことが挙げられる。この問題は、架橋点の数を減らすことにより解決されるが、その一方で、VOCを保持する能力が低下するという問題を引き起こす。
物理ゲルは、高分子が持つ官能基間の物理的相互作用(例えば、水素結合等)により架橋点が形成されるものを意味する。物理ゲルの問題点としては、一般的に物理的相互作用は弱いものが多いため、温度、溶媒の種類、イオン強度、pH変化によりゲルが崩壊し易いということが挙げられる。
【0007】
これらの問題を解決する第3のゲルとして、環動ゲルが注目されている。図1(A)に例示するように、環動ゲルは、直鎖状分子1(軸分子)とこの直鎖状分子1を包接する環状分子2(リング成分)とを有し、環状分子2を架橋点に用いた構造を有する。そして、図1(B)に例示するように、この環動ゲルは、伸張した直鎖状分子1に沿って架橋点が移動可能なため、化学ゲルの柔軟性の低さを改善することができる。
【0008】
環動ゲルの例としては、例えば、環状分子がシクロデキストリンであり、この環状分子に包接される直鎖状分子がポリエチレングリコールである、ポリロタキサンの環状分子同士を架橋したポリロタキサンゲルが報告されている(特許文献1及び2参照)。このポリロタキサンゲルは、8000倍もの水を含んで膨潤し、25倍も伸びる。その理由は、直鎖状分子が、滑車のように振舞う8の字状の架橋点を自由に通り抜けることによって、伸張させても高分子鎖間に均等な力の分散が起こるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−320392号公報
【特許文献2】特開2007−63412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来のポリロタキサンゲルは、吸収速度が未だ不十分で、また、吸収対象が液体(溶液)のみに限定されており、特に、揮発性有機物を迅速に吸収する能力が低いという問題があった。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、揮発性有機物の吸収能に優れる、揮発性有機物吸収材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究した結果、疎水性架橋ポリロタキサンゲルに代表される三次元網目構造を形成する疎水性有機物質と、揮発性有機物を溶解可能な溶媒及び粘土鉱物との混合物が、揮発性有機物の吸収能に優れることを見出し、さらに予期せぬことに、引張強度や破断伸び等の機械強度及び吸収した揮発性有機物の保持能力にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下(I)〜(VI)を提供する。
(I)揮発性有機物吸収材であって、少なくとも、以下の構成要素(1)〜(3);
(1)三次元網目構造を形成する疎水性有機物質
(2)揮発性有機物を溶解可能な溶媒
(3)粘土鉱物
を含むことを特徴とする、揮発性有機物吸収材。
【0014】
(II)前記疎水性有機物質は、前記溶媒により膨潤され、且つ、前記粘土鉱物と複合化されている、上記(I)に記載の揮発性有機物吸収材。
【0015】
(III)前記疎水性有機物質が、疎水性架橋ポリロタキサン、ポリスチレン、オクタデシルアクリレート、トリアコンタアクリレート、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(I)又は(II)に記載の揮発性有機物吸収材。
【0016】
(IV)前記溶媒が、芳香族炭化水素、脂肪族二塩基酸エステル、フタル酸エステル、シリコーンオイル及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(I)〜(III)のいずれか一項に記載の揮発性有機物吸収材。
【0017】
(V)前記脂肪族二塩基酸エステルが、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジメチルセバケート及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(IV)に記載の揮発性有機物吸収材。
【0018】
(VI)前記疎水性有機物質が形成する三次元網目構造の内部に前記粘土鉱物が包含されている、上記(I)〜(V)のいずれか一項に記載の揮発性有機物吸収材。
【発明の効果】
【0019】
本発明の揮発性有機物吸収材は、揮発性有機物の吸収能(吸収量及び吸収速度)が高く、また、熱処理により脱着が簡単にできるため、吸収した揮発性有機物の処理が容易である。そのため、取扱いが簡便であり、しかも、交換や再生を頻繁に行う必要がないので、ランニングコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】環動ゲルの滑車原理を示す模式図。(A)は弛緩状態の直鎖状分子における架橋点の状態を示し、(B)は伸張状態の直鎖状分子における架橋点の状態を示す。
【図2】環状分子がシクロデキストリンであるポリロタキサンの分子構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。
【0022】
本発明の揮発性有機物吸収材は、揮発性有機物吸収材であって、少なくとも、以下の構成要素(1)〜(3);
(1)三次元網目構造を形成する疎水性有機物質
(2)揮発性有機物を溶解可能な溶媒
(3)粘土鉱物
を含むことを特徴とする。
換言すれば、本発明は、少なくとも、上記の構成要素(1)〜(3)を含む疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体或いはそのゲル状体であるとも表現できる。
【0023】
(1)三次元網目構造を形成する疎水性有機物質
三次元網目構造を形成する疎水性有機物質の具体例としては、例えば、疎水性架橋ポリロタキサン、ポリスチレン、オクタデシルアクリレート、トリアコンタアクリレート、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0024】
(2)揮発性有機物を溶解可能な溶媒
揮発性有機物を溶解可能な溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジメチルセバケート等の脂肪族二塩基酸エステル;ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等のフタル酸エステル;ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0025】
(3)粘土鉱物
粘土鉱物の具体例としては、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ノントロナイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、スメクタイト、層状チタン酸等が挙げられるが、これらに特に限定されない。粘土鉱物は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基等の反応性基を有するものが好ましく、所謂有機化処理によってこれらの反応性基が導入されたものがより好ましい。
【0026】
疎水性有機物質は、前記溶媒により膨潤され、且つ、前記粘土鉱物と化学結合して複合化されていることが好ましい。このように構成すると、膨潤体としたことによるVOCの吸収促進作用と、揮発性有機物を溶解可能な溶媒自身及び粘土鉱物自身によるVOCの吸収とが相まって、VOCの吸収能が高められ、特に、気体の有機物質の吸収能が格別に高められる。さらには、引張強度や破断伸び等の機械強度及びガスバリア性をも高められる。なお、本発明におけるガスバリア性とは、吸収したVOCを、本発明の吸収材外に放出せず、吸収材内に保持することできる特徴を意味する。
【0027】
また、粘土鉱物は、疎水性有機物質が形成する三次元網目構造の内部に包含されていることが好ましい。このように構成することで、引張強度や破断伸び等の機械強度及びガスバリア性がより一層高められる。
【0028】
上記(1)〜(3)の配合割合は、所望する性能に応じて適宜調整すればよい。
【0029】
以下、具体例を挙げて詳述する。
<疎水性ポリロタキサン及び疎水性架橋ポリロタキサン>
疎水性ポリロタキサンは、シクロデキストリン、クラウンエーテル等の環状分子(リング成分)と、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトン等の直鎖状分子(軸分子)とを有する包接化合物である。例えば、環状分子の1つであるシクロデキストリンは、バケツの底を抜いたような構造をしており、環状構造の内部は他の比較的小さな分子を包接できる程度の大きさの空孔となっている。シクロデキストリンのヒドロキシ基はこの空孔の外側にあるため、空孔内部は疎水性となっており、疎水性の分子を包接しやすい。この性質を利用して、直鎖状分子をシクロデキストリン等の環状分子に包接させることで疎水性ポリロタキサンを作製することができる。なお、包接した直鎖状分子を環状分子から外れないようにするために、直鎖状分子の両端をシクロデキストリン等の環状分子の空孔よりも嵩高い基でキャップすることが好ましい。
疎水性ポリロタキサンのシクロデキストリン同士を塩化シアヌルやm−フェニレンジイソシアナート等の架橋剤で架橋し、架橋点を形成することで、三次元網目構造を形成する疎水性有機物質である疎水性架橋ポリロタキサンが得られる。疎水性架橋ポリロタキサンは、架橋点が動く滑車効果により、従来のゲルと比較して、はるかにVOCを吸収して膨張する。
【0030】
<疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1及びそのゲル状体>
この疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1は、環状分子としてシクロデキストリンを有する疎水性架橋ポリロタキサン中に、アミノ基を有する粘土鉱物が分散されたものである。粘土鉱物のアミノ基と疎水性ポリロタキサン中の活性化シクロデキストリンとが強固な化学結合を形成することで、両者は複合化される。
粘土鉱物へのアミノ基の導入は、所謂、有機化処理によって行うことができる。例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基末端シランカップリング剤による有機化処理を行うことで、粘土鉱物表面の水酸基と脱水縮合する等して、粘土鉱物表面にアミノ基を導入することができる。
複合化は、疎水性ポリロタキサン中のシクロデキストリンのヒドロキシル基をN,N−カルボニルジイミダゾール(CDI)により活性化し、これを粘土鉱物表面のアミノ基と反応させることで行うことができる。この反応により、疎水性ポリロタキサンと粘土鉱物とが強固に結合され、これと同時に、シクロデキストリン同士が結合して、架橋構造が構築される。
疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1は、上述した疎水性架橋ポリロタキサンと同様に、滑車効果により、従来のゲルと比較して、はるかにVOCを吸収して膨張する。さらに、粘土鉱物の導入により、機械強度(引張強度、破断伸び)が高められ、また、ガスバリア性が向上する。
疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1のゲル状体は、疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1に、揮発性有機物の溶解性に優れる溶媒を配合して膨潤させることにより作製することができる。不活性有機溶媒と疎水性架橋ポリロタキサンの配合割合は、1:9〜9:1の範囲が好ましく、より好ましくは7:3〜3:7である。
【0031】
<疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体2及びそのゲル状体>
この疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体2は、環状分子としてカルボキシル化シクロデキストリンを有する疎水性架橋ポリロタキサン中に、アミノ基を有する粘土鉱物が分散されたものである。粘土鉱物のアミノ基と疎水性ポリロタキサン中のカルボキシル化シクロデキストリンとがアミド結合を形成することで、両者は複合化される。
シクロデキストリンのカルボキシル化は、シクロデキストリン中のヒドロキシル基を無水ピリジン中でコハク酸と反応させることにより行うことができる。
粘土鉱物へのアミノ基の導入は、所謂、有機化処理によって行うことができる。例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基末端シランカップリング剤による有機化処理を行うことで、粘土鉱物表面の水酸基と脱水縮合する等して、粘土鉱物表面にアミノ基を導入することができる。
複合化は、疎水性ポリロタキサン中のカルボキシル化ポリロタキサンのカルボキシル基と粘土鉱物のアミノ基と反応させてアミド化することで行うことができる。この反応により、疎水性ポリロタキサンと粘土鉱物とが強固に結合され、これと同時に、シクロデキストリン同士を結合して、架橋構造を構築される。
疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体2は、上述した疎水性架橋ポリロタキサンと同様に、滑車効果により、従来のゲルと比較して、はるかにVOCを吸収して膨張する。さらに、粘土鉱物の導入により、機械強度(引張強度、破断伸び)が高められ、また、ガスバリア性が向上する。
疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体2のゲル状体は、疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体2に、揮発性有機物の溶解性に優れる溶媒を配合して膨潤させることにより作製することができる。不活性有機溶媒と疎水性架橋ポリロタキサンの配合割合は、1:9〜9:1の範囲が好ましく、より好ましくは7:3〜3:7である。
【0032】
<疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体3及びそのゲル状体>
この疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体3は、環状分子としてシクロデキストリンを有する疎水性架橋ポリロタキサン中に、水酸基を有する粘土鉱物が分散されたものである。粘土鉱物の水酸基とポリロタキサン中のシクロデキストリンとがジイソシアネートによりウレタン結合を形成することで、両者は複合化される。
粘土鉱物への水酸基の導入は、所謂、有機化処理によって行うことができる。例えば、4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール塩酸塩による有機化処理を行うことで、粘土鉱物表面に水酸基を導入することができる。
複合化は、疎水性ポリロタキサン中のシクロデキストリン及び粘土鉱物の水酸基をイソシアネート化合物等と反応させてウレタン結合を形成することで行うことができる。この反応により、疎水性ポリロタキサンと粘土鉱物とが強固に結合され、これと同時に、シクロデキストリン同士が結合して、架橋構造が構築される。なお、粘土鉱物中の未反応水酸基は、n−ブタノール等の化合物と反応させることにより、疎水化させることが可能である。
疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体3のゲル状体は、疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体3に、揮発性有機物の溶解性に優れる溶媒を配合して膨潤させることにより作製することができる。不活性有機溶媒と疎水性架橋ポリロタキサンの配合割合は、1:9〜9:1の範囲が好ましく、より好ましくは7:3〜3:7である。
【0033】
以下、具体的な製造例を示す。
−疎水性ポリロタキサンの製造例−
(1)PCLのTEMPO酸化によるPCL−カルボン酸の調製
まず、分子量10,000のPCL(ポリカプロラクトン)10g、TMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)100mg、臭化ナトリウム1gをアセトン100mlに溶解する。次に、市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)6mlを添加し、室温で10分間攪拌する。次いで、残余の次亜塩素酸ナトリウムを分解させるためにエタノールを最大6mlまでの範囲で添加して反応を終了する。
その後、溶液をエバポレーターで留去し、250mlの温エタノールに溶解させてから冷凍庫(約−4℃)中に一晩静置し、PCL−カルボン酸のみを析出させ、回収し乾燥させる。
(2)PCL−カルボン酸とα−CDを用いた包接錯体の調製
上述の如く調製したPCL−カルボン酸0.2gをアセトン50mlに溶解してPCL溶液を調製する。その一方で、7.25gのα−CD(シクロデキストリン)を50mlの水に溶解してCD水溶液を調製する。両者を70℃に加熱した後、PCL溶液をCD水溶液に少量ずつ加え、70℃で17分間超音波処理する。次いで、10時間静置して得られた沈殿を回収し、乾燥する。
(3)減量及びアダマンタンアミンとBOP試薬反応系を用いた包接錯体の封鎖
室温で、DMF(ジメチルホルムアミド)10mlにBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)試薬1.68g、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)0.56g、アダマンタンアミン0.56g、ジイソプロピルエチルアミン0.664mlをこの順番に溶解させる。得られる溶液を、(2)で得られる包接錯体14gに分散させたDMF20mlに加え、速やかに十分振り混ぜる。スラリー状になった試料を冷蔵庫中で一晩静置し、次いで、DMF/メタノール=1:1の混合溶液50mlを加えて十分に混合し、遠心分離して上澄みを捨てる。このDMF/メタノール混合溶液による洗浄を2回繰り返した後、更にメタノール100mlを用いた洗浄を同様の遠心分離により2回繰り返す。得られる沈殿を真空乾燥した後、50mlのDMSOに溶解し、この透明溶液を500mlの水中に滴下してポリロタキサンを析出させる。析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し、真空乾燥又は凍結乾燥させる。このDMSOに溶解−水中で析出−回収−乾燥のサイクルを2回繰り返して精製することで、最終的に、疎水性ポリロタキサンを得る(図3参照)。
【0034】
−疎水性架橋ポリロタキサン及びそのゲル状体の製造例−
上記で得られた疎水性ポリロタキサン0.5gをトルエン4mL中に溶解させた。この溶液にアルゴン雰囲気下で、m−フェニレンジイソシアナート1gをトルエン10mLに加えることにより得た溶液にゆっくり滴下した。その後、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ18.9mgを加え、室温で1日撹拌し、蒸留により精製し、白色固体の疎水性架橋ポリロタキサンを得た。
疎水性架橋ポリロタキサンをフタル酸ジメチル溶液中にて膨潤させることで、疎水性架橋ポリロタキサンのゲル状体を得た。
【0035】
−疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1及びそのゲル状体の製造−
スメクトン(クニミネ工業株式会社)10gを蒸留水500mlに投入しよく撹拌する。アミノプロピルトリエトキシシラン10gを蒸留水500mlで希釈し、よく撹拌した後、これをスメクトン分散液に投入する。この溶液を75℃で5時間撹拌して濃縮した後、200℃の加熱炉で2時間加熱処理を行い、粉砕処理を経て、アミノ化スメクトンを得る。
上記の操作で得られる疎水性ポリロタキサン0.35gを20mLの乾燥DMSOに溶解させ、0.1gのCDIを溶液に加え、室温にて、窒素ガス下で3時間攪拌する。反応混合液は、過剰のエーテルにゆっくり注ぎ、沈殿ろ過させ、室温で真空乾燥させCDI−活性化ポリロタキサンを得る。
このCDI−活性化ポリロタキサン0.2gを2mLの乾燥DMSOに溶解させ、その溶液に、アミノ化スメクトン0.2g及び0.24mMのHOBtを窒素ガス下で溶解させる。この混合溶液を室温にて24時間攪拌し、ゲル化させ、得られるゲルをDMSOで洗浄、乾燥することで、疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1を得る。
この疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1をフタル酸ジメチル溶液中にて膨潤させることで、疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体1のゲル状体を得る。
【0036】
−疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体2及びそのゲル状体の製造−
上記の操作で得られる疎水性ポリロタキサン0.3gと乾燥コハク酸20mgとを無水ピリジンに溶かし室温で攪拌する。反応混合物を過剰量のエーテルに注ぎ、3回、エーテルで洗浄する。沈殿物を遠心して集め、これを真空乾燥し、カルボキシエチルエステル−ポリロタキサンを得る。
このカルボキシエチルエステル−ポリロタキサン0.1gを2mLの乾燥DMSOに溶解させ、その溶液に、アミノ化スメクトン0.1g及び0.24mMのHOBtを窒素ガス下で溶解させる。この混合溶液を室温にて24時間攪拌し、ゲル化させ、得られるゲルをDMSOで洗浄、乾燥することで、疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体2を得る。
この疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体2をフタル酸ジメチル溶液中にて膨潤させることで、疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体のゲル状体を得る。
【0037】
−疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体3及びそのゲル状体の製造−
スメクトン(クニミネ工業株式会社)10gを80℃の蒸留水490mLに混合分散させた溶液と、4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール塩酸塩3.5gを80℃の蒸留水650mLに均一溶解させた溶液とを撹拌しながら混合して、有機化粘土鉱物の沈澱物を得る。
上記の操作で得られる疎水性ポリロタキサン0.5g及び有機化粘土鉱物0.5gをトルエン4mL中に溶解させる。この溶液に、m−フェニレンジイソシアナート1gをトルエン10mLに加えることにより得た溶液をアルゴン雰囲気下でゆっくり滴下する。その後、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ18.9mgを加え、室温で1日撹拌し、蒸留により精製し、白色固体の疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体3を得る。
この疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体3をフタル酸ジメチル溶液中にて膨潤させることで、疎水性架橋ポリロタキサン粘土複合体3のゲル状体を得る。
【0038】
なお、上述したとおり、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明した通り、本発明の揮発性有機物吸収材は、揮発性有機物(VOC)の吸収能が高いので、VOC吸収材を使用する各種機器、設備、システム等に広く且つ有効に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機物吸収材であって、少なくとも、以下の構成要素(1)〜(3);
(1)三次元網目構造を形成する疎水性有機物質
(2)揮発性有機物を溶解可能な溶媒
(3)粘土鉱物
を含むことを特徴とする、揮発性有機物吸収材。
【請求項2】
前記疎水性有機物質は、前記溶媒により膨潤され、且つ、前記粘土鉱物と複合化されている、
請求項1に記載の揮発性有機物吸収材。
【請求項3】
前記疎水性有機物質が、疎水性架橋ポリロタキサン、ポリスチレン、オクタデシルアクリレート、トリアコンタアクリレート、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1又は2に記載の揮発性有機物吸収材。
【請求項4】
前記溶媒が、芳香族炭化水素、脂肪族二塩基酸エステル、フタル酸エステル、シリコーンオイル及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の揮発性有機物吸収材。
【請求項5】
前記脂肪族二塩基酸エステルが、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジメチルセバケート及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項4に記載の揮発性有機物吸収材。
【請求項6】
前記疎水性有機物質が形成する三次元網目構造の内部に前記粘土鉱物が包含されている、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の揮発性有機物吸収材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−227736(P2010−227736A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75049(P2009−75049)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】