説明

揮発性香味成分を含有するゲル組成物、およびそれを用いた食品の賦香賦味方法

【課題】わさびなどの香気成分を、加熱調理後も十分に残存させる形態で食品に付与することを可能とするゲル組成物を提供する。
【解決手段】わさび、からしなどの揮発性香味成分を含有する油を1〜30重量%含む水中油型乳化物が、炭素数18を中心とする飽和脂肪酸側鎖を疎水基として有する有機酸モノグリセライド0.5〜5.0重量%、および、ゲル化能を有する高分子を0.1〜5.0重量%を含有し、さらにこれをゲル化させて得られるゲル組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性香味成分を食品へ付与するための製剤、およびこれを用いた食品の賦香賦味方法に関する。詳しくは、わさび、からしなどの揮発性の香味成分を、加熱調理後も十分に残存させることができる形態で食品に対して添加することを可能とするため、これら香気成分を含有する粒状のゲル化剤に包含させ、かつ、ゲルを構成する水溶液部分に有機酸モノグリセライドを添加することを特徴とした香味の付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
わさびなどの揮発性の香味成分を、加工食品において効率的に保持させる試みは色々行われている。たとえば、硬化油に香気成分を入れて、その油脂を砕いて粉状にして食品に添加する方法や、イソチオシアン酸アリルをシクロデキストリンで包括させる方法(特許文献1)や、マイクロカプセル内に香気成分を入れて、それを食品に添加する方法(特許文献2)などが挙げられる。
【0003】
しかしながら、硬化油に香気成分を入れる方法や、特許文献1の方法では、油ちょうのような高温加熱が加えられる食品においては、はなはだ、不十分であり、わさびの場合であれば、その香気はほぼなくなってしまう。特許文献2の方法であっても、十分な効果とは言い難かった。
【0004】
【特許文献1】特開平5−176733
【特許文献2】特開2000−14332
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、わさびなどの香気成分を、加熱調理後も十分に残存させる形態で食品に付与することを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、これら香気成分を含有する粒状の高分子ゲルにおいて、そのゲル溶液の中に有機酸モノグリセライドを添加しておくことでで、本目的を達成しうることを見出した。本発明の方法においては、200℃近い油ちょうの加熱においても十分な香気成分の保持が可能である。
【0007】
すなわち、本発明は、次の内容を有する。
1)揮発性香味成分を含有する油を1〜30重量%含む水中油型乳化物が、炭素数18を中心とする飽和脂肪酸側鎖を疎水基として有する有機酸モノグリセライド0.5〜5.0重量%、および、ゲル化能を有する高分子を0.1〜5.0重量%を含有し、さらにこれをゲル化させて得られるゲル組成物。(請求項1)
2)揮発性香味成分がわさび、からしの抽出物である請求項1記載のゲル組成物。(請求項2)
3)ゲル化能を有する高分子がアルギン酸、ペクチン、ジェランガム、カラギーナンから選ばれる1種または2種以上である、請求項1または2記載のゲル組成物。(請求項3)
4)有機酸モノグリセライドがコハク酸モノグリセライドである請求項1〜3記載のゲル組成物(請求項4)
5)請求項1〜4のゲル化組成物を用いて食品を賦香賦味する方法(請求項5)
【発明の効果】
【0008】
本発明では、わさび、からしなどの揮発性の香味成分を、有機酸モノグリセライドを含有するゲル化可能高分子のゲル水溶液中に封じ込めることにより、食品に添加して加熱調理した後も、十分に風味、味を残存させることができることができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、揮発性香気成分とは、わさびオイル、わさび抽出物、からし抽出物、チーズ、カレー、しょうが、にんにく、マツタケ、柑橘類などの揮発性のある香味成分を指す。これらの成分はほとんどが水には溶けにくいものであり、精油または、油脂で希釈した油性の製剤、またはアルコールなどへの分散液として入手が可能である。
【0010】
本発明に用いるゲル化能を有する高分子とは、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、ジェランガム、カラギーナン等の食用ゲル化剤を指す。これらのゲル化剤を含む水溶液に対しては、例えばカルシウムイオンを接触させることなどにより、硬化させて粒状の製剤とすることができる。ゲル化剤の濃度としては0.1〜5.0%であり、特に0.5〜3.0%が好適であり、カルシウムイオン液としては1〜15%程度の塩化カルシウム水溶液が通常用いられる。アルギン酸ナトリウム、ペクチン、ジェランガム、カラギーナンは、1種または2種以上を混合して用いても良い。ゲル粒の粒径には特に制限はないが、0.1〜3mmくらいが好適であり、0.1mmより小さいと製剤としての回収が困難になり、また、3mmを超えると食品に対して均一に混合するのが難しくなる。上記のゲル化剤のほか、目的に応じてキサンタンガム、メチルセルロース、グルコマンナン、キシログルカン類、寒天、ガラクトマンナン類、ゼラチンなど、食品一般に用いられる増粘多糖類、安定剤を併用しても構わない。
【0011】
本発明のゲルは、上記の揮発性香味成分を1〜30%含有する水中油型乳化物である。乳化を促進するため乳化剤を併用することも可能であり、この場合、加熱による香気成分のロスを少なくするため、脂肪酸部分の融点の低い、炭素数14以下の脂肪酸エステル類が好適である。このような脂肪酸エステルの例としてはショ糖ミリスチン酸エステル、ポリグリセリンミリスチン酸エステル、ソルビタンミリスチン酸エステルなどが挙げられる。
【0012】
また、硬化前の水溶液には炭素数18を中心とする飽和脂肪酸側鎖を疎水基として有する有機酸モノグリセライドを含有させる。ここでいう有機酸モノグリセライドとしては、コハク酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、乳酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライドなどが挙げられるが、特にコハク酸モノグリセライドが好適である。炭素数18を中心とする飽和脂肪酸側鎖とは、ステアリン酸、パルミチン酸を指す。水溶液中の濃度は0.5〜5.0%が好適である。これらの有機酸モノグリセライドは水溶液中でラメラ構造、すなわち、乳化剤分子が層状に集合した構造をつくり、その構造の中に香気成分を取り込むことで揮発を少なく抑えることに効果を発揮すると思われる。ラメラ構造自体は、同水溶液を偏光顕微鏡にて観察することで、その生成が確認できる。この水溶液にはラメラ構造を安定化させるため他の乳化剤、糖類などを添加することも可能である。ここで、水溶液に加えられる乳化剤としてはショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられ、また、糖類としてはグルコースなどの単糖類から、ショ糖、マルトース、マルトトリオース、マルトテラオースなどの二、三、四糖類など、またはこれらの混合物が挙げられる。
【実施例】
【0013】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお実施例において部は重量部である。
【実施例1】
【0014】
デカグリセリンモノミリステート1部を水20部に入れ、50℃まで加熱溶解させたのち、40℃まで冷却した。その液にわさびオイル(高砂香料工業(株)製、ワサビオイルK−0251)3部を入れ、攪拌翼にて乳化せしめA液とした。また、別途、アルギン酸ナトリウム1部を水33部に溶解しB液とした。また、コハク酸グリセリンモノステアリン酸エステル1部、ショ糖モノミリスチン酸エステル1部、麦芽糖水飴20部を水20部に加熱溶解しC液とした。B液34部とC液42部を合わせ、さらにA液24部を加えた。この混合液を10%の塩化カルシウム水溶液に滴下して、ゲルを粒状に硬化させた。得られたゲルを、ザルにより捕集し、ザル上で水洗したのち、1%クエン酸水溶液中で保管した。
【実施例2】
【0015】
実施例1のわさびオイルをチーズオイル((株)サンアロマ チェダーチーズオイルKKS−1214)に変えた以外は実施例1と同様の組成で粒状ゲルを得た。
【比較例1】
【0016】
実施例1のC液を麦芽糖水飴20部と水22部とした以外は、実施例1と同様の組成で粒状ゲルを得た。
【比較例2】
【0017】
ナタネ部分硬化油97部を50℃まで加熱し、実施例1と同様のわさびオイル3部を添加して撹拌混合後、冷却固化させ、1日15℃で保管後、粉砕し、20メッシュの篩を通し、油性粉体を得た。
【比較例3】
【0018】
比較例3のわさびオイルを実施例2で使用したチーズオイルに変えた以外は比較例3と同様の方法で油性粉体を得た。
【0019】
実施例と比較例においてえられた製剤を、1片が約15gの鶏肉100部に対して4部添加し、タンブリングを常温で40分間行った。この鶏肉を形を整えて、−25℃にて20分冷却処理した。該鶏肉を水溶きバッター(旭東化学産業(株)製、ユニバッターKF−40に等量加水したもの)にくぐらせ、プリフライ(175℃、45秒)した。さらに、−25℃で2時間凍結し、再度、油ちょう(175℃、5分)した。6人のパネラーで試食した結果を、結果を表1および表2に示した。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性香味成分を含有する油を1〜30重量%含む水中油型乳化物が、炭素数18を中心とする飽和脂肪酸側鎖を疎水基として有する有機酸モノグリセライド0.5〜5.0重量%、および、ゲル化能を有する高分子を0.1〜5.0重量%を含有し、さらにこれをゲル化させて得られるゲル組成物。
【請求項2】
揮発性香味成分がわさび、からしの抽出物である請求項1記載のゲル組成物
【請求項3】
ゲル化能を有する高分子がアルギン酸、ペクチン、ジェランガム、カラギーナンから選ばれる1種または2種以上である、請求項1または2記載のゲル組成物
【請求項4】
有機酸モノグリセライドがコハク酸モノグリセライドである請求項1〜3記載のゲル組成物
【請求項5】
請求項1〜4のゲル組成物を用いて食品を賦香賦味する方法

【公開番号】特開2013−51948(P2013−51948A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203746(P2011−203746)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(591025462)旭東化学産業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】