説明

揺動回転試験装置

【課題】機械部品等の耐久試験と性能試験との両方を行うことが可能な揺動回転試験装置を提供する。
【解決手段】試験体2を揺動させるとともに回転させる揺動回転試験装置1であって、試験体2が連結される治具50と、この治具50を揺動させるとともに回転させる駆動部(スイングアーム10、スピンドル30)と、この駆動部(スピンドル30)と治具50との間に設けられ試験体2の抵抗力を計測する抵抗力計測手段(センサ51、52)と、抵抗力計測手段(センサ51、52)に許容値以上の曲げモーメントが作用しない範囲で治具50と駆動部(スピンドル30)の相対変位を許容する相対変位許容間隙20を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験体を揺動させるとともに回転させる揺動回転試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械部品の耐久性を試験するため、機械部品の試験体を繰り返し運動させる試験装置が用いられる。
【0003】
特許文献1に開示された転がり滑り試験装置は、試験体の揺動運動を繰り返し行い、その耐久性や潤滑性能の評価を行うものである。
【特許文献1】特開2003−247915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1台の試験装置によって機械部品等の耐久試験と性能試験との両方を行う場合、試験体を運動させる駆動部に試験体の抵抗力を計測するセンサを設けると、耐久試験時にこのセンサに過大な負荷がかかり、センサを損傷する可能性がある。このため、駆動部にセンサを取り付けたまま耐久試験を行った後に、このセンサを用いて試験体のフリクション等を測定する性能試験を行うことができなかった。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、機械部品等の耐久試験と性能試験との両方を行うことが可能な揺動回転試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試験体を揺動させるとともに回転させる揺動回転試験装置であって、試験体が連結される治具と、この治具を揺動させるとともに回転させる駆動部と、この駆動部と治具との間に設けられ試験体の抵抗力を計測する抵抗力計測手段と、抵抗力計測手段に許容値以上の曲げモーメントが作用しない範囲で治具と駆動部の相対変位を許容する相対変位許容間隙を備えることを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、揺動回転試験装置は、例えば試験体のフリクション性能等を評価する性能試験時に、駆動部が動かされることにより許容値以下の横力が負荷された場合に、治具と駆動部の規制部とが互いに当接せず、この横力に応じた曲げモーメントが抵抗力計測手段に負荷され、抵抗力計測手段の出力信号に基づいて試験体のフリクション性能等を評価することができる。
【0008】
試験体の耐久性等を評価する耐久試験時に、駆動部の規制部と治具とが互いに当接し、それ以上の曲げモーメントが抵抗力計測手段に負荷されることを回避し、抵抗力計測手段が保護される。これにより、駆動部と治具との相対変位を規制するロック機構等を設ける必要がなく、構造の簡素化がはかれる。
【0009】
こうして、1台の揺動回転試験装置によって耐久試験と性能試験とを行うことが可能であり、温度条件等を一定に維持したままこれらの試験を続けて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
まず、図1に本発明が適用可能な揺動回転試験装置の一例を示す。図1に示す揺動回転試験装置1は、試験体2の揺動と回転を繰り返して作動させる耐久試験を行うとともに、この耐久試験の前後で試験体2のフリクション等を測定する性能試験を行うものである。
【0012】
図1は揺動回転試験装置1のセンサ取り付け部を示す断面図である。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が略水平横方向、Y軸が略水平前後方向、Z軸が略垂直方向に延びるものとし、以下、図1において揺動回転試験装置1の構成について説明する。
【0013】
揺動回転試験装置1は、図示しない架台に対してY軸方向に延びる揺動中心軸(Y軸)まわりに揺動するスイングアーム10と、このスイングアーム10に対してベアリング29を介して回転するスピンドル30と、このスピンドル30に対して試験体2を連結する治具50と、架台に対して試験体2を連結する固定治具49とを備え、試験体2をスイングアーム10の揺動中心軸(図示せず)まわりに揺動させるとともに、試験体2をスピンドル30の回転中心軸Oまわりに回転させるようになっている。
【0014】
例えばボールジョイントである試験体2は、互いに回動可能に嵌合するボール4とケージ5とを備え、二つの部材を回動可能に連結する自在継ぎ手として機能するものである。
【0015】
試験体2は、そのボール4が治具50に締結され、そのケージ5が固定治具49に締結される。
【0016】
なお、試験体2はボールジョイントに限らず、二つの部材を回動可能に嵌合する構成を有する他の機械部品でもよい。
【0017】
揺動回転試験装置1は、性能試験時に、試験体2に負荷をかけた状態でセンサ51、52の計測値に基づいて試験体2のフリクションを測定するようになっている。
【0018】
試験体2の抵抗力を計測する抵抗力計測手段として、スピンドル30と治具50との間に、分力センサ51とトルクセンサ52とが設けられる。
【0019】
分力センサ51は、スイングアーム10を揺動させたときに試験体2のフリクションにより発生するX、Yの2軸方向の分力を計測するものである。
【0020】
トルクセンサ52は、スピンドル30により試験体2を回転させたときに試験体2のフリクションにより発生するZ軸まわりの抵抗をトルクとして計測するものである。
【0021】
スピンドル30に治具50を連結するプリロードボルト(センサ固定ボルト)54が設けられる。このプリロードボルト54は、その端部がスピンドル30に螺合して締結され、スピンドル30の回転中心軸O上に取り付けられる。
【0022】
プリロードボルト54を貫通させる円筒状の芯だしスリーブ48が設けられる。円環状のセンサ51、52は、芯だしスリーブ48の外周面に嵌合して支持される。
【0023】
プリロードボルト54の端部にプリロード用ナット79が螺合し、スピンドル30とプリロード用ナット79との間にセンサ51、52、センサアタッチメント60が並んで締結される。センサ51、52は、プリロードボルト54によって所定の締め付け荷重が付与される。
【0024】
治具50を構成するセンサアタッチメント60は、有底円筒状に形成され、円盤状のセンサアタッチメント底部61と、円筒状のセンサアタッチメント円筒部62を有する。
【0025】
センサアタッチメント円筒部62の環状端部には、円環状のスペーサ57が複数のボルト69を介して締結され、このスペーサ57に治具50が締結される。
【0026】
センサアタッチメント底部61は、プリロード用ナット79とトルクセンサ52との間に介装される。これにより、センサアタッチメント60は、治具50が試験体2から受ける負荷をトルクセンサ52と分力センサ51に伝達する。
【0027】
揺動回転試験装置1は、耐久試験時に、図示しないサーボアクチュエータによって試験体2にZ軸方向とX軸方向の荷重が付与された状態で、試験体2をスイングアーム10の揺動中心軸まわりに揺動させるとともに、試験体2をスピンドル30の回転中心軸Oまわりに回転させる作動が繰り返し行われる。
【0028】
耐久試験時に、センサ51、52を保護するため、駆動部(スピンドル30)と治具50の間に相対変位許容間隙20が画成される。この相対変位許容間隙20によって、センサ51、52に所定の許容値以上の過大な曲げモーメントが作用しない範囲で治具50と駆動部(スピンドル30)の相対変位が許容される。
【0029】
スピンドル30は、円筒状の治具包囲壁31を有し、この治具包囲壁31によってセンサ51、52とセンサアタッチメント60とが包囲される。センサアタッチメント60は治具50の一部として治具包囲壁31によって包囲される。
【0030】
図2にも示すように、相対変位許容間隙20は、センサアタッチメント円筒部62の外周面63と、治具包囲壁31の内周面33に設けられる環状の規制部22との間に、スピンドル30の回転中心軸Oについて半径方向の隙間として画成される。
【0031】
治具50と駆動部(スピンドル30)に負荷が働かない自由状態にて、センサアタッチメント円筒部62の外周面63とスピンドル30の内周面33とは、スピンドル30の回転中心軸Oについて同心円上に延び、相対変位許容間隙20は周方向について均等な幅を持つ環状の空間として画成される。これにより、センサ51、52に所定の許容値以上の過大な曲げモーメントが作用しない範囲で治具50と駆動部(スピンドル30)の相対変位が許容される。
【0032】
治具50と駆動部(スピンドル30)に負荷が働いてセンサ51、52に曲げモーメントが働くと、センサアタッチメント60がスピンドル30の回転中心軸Oに対して偏心し、センサアタッチメント円筒部62がスピンドル30の内周面33に当接すると、センサアタッチメント60の変位が規制され、それ以上の曲げモーメントがセンサ51、52に負荷されることを回避できる。
【0033】
これについて詳述すると、水平加振力によりプリロードボルト54が、図3において、プリロードボルト54とセンサ51、52とセンサアタッチメント60の中心線Pは、無負荷時に実線で示すように直線状に延び、水平加振力Fが加わると、2点鎖線で示すように変形する。実際には中心線Pは曲率を持った変形になるが、微少変位の曲率のため、ここでは曲率を無視している。
【0034】
治具包囲壁31は、図2においてハッチング部分であり、水平加振力Fに対して十分な剛性を持つものし、センサアタッチメント60が治具包囲壁31の規制部22に当接した後は、水平加振力Fが増加しても、F′は規制部22に当接するまでの曲げ変形をプリロードボルト54に与える力以上に増加しないものとする。
【0035】
センサ51、52に働く曲げモーメントMは、M=F′×iであり、Mをセンサ半径Rで除した値W(=M/R)がセンサ51、52に曲げをかける力として働く。
【0036】
治具包囲壁31の内周面33の内径D1とセンサアタッチメント円筒部62の外径D2との間に画成される相対変位許容間隙20の隙間bは、以下の手順で求められる。
【0037】
・まず、センサ51、52の許容曲げモーメントMからプリロードボルト54に働く曲げ力F′を次式で求める。
F′=M/i …(1)
【0038】
・曲げ力F′によるプリロードボルト54のたわみ量δを、片持ち梁のたわみとして次式で求める。ただし、ただし、Eはプリロードボルト54の縦弾性係数であり、Iはプリロードボルト54の断面二次モーメントとする。
δ=F′×i3/3×E×I=(M/i)×i3/3×E×I=M×i2/3×E×I
…(2)
【0039】
・プリロードボルト54の撓み量δと相対変位許容間隙20の隙間bの関係は、
i:δ=h:bとして表され、撓み量δを次式で求める。
δ=(i/h)×b …(3)
【0040】
・相対変位許容間隙20の隙間bを、センサ51、52の許容曲げモーメントMから次式で求める。
(3)式のδを(2)式に代入すると、
(i/h)×b=M×i2/3×E×I
従って、
b=M×h×i/3×E×I …(4)
故に、b≦M×h×i/3×E×Iの関係を満たすように、相対変位許容間隙20の隙間bを設定すれば、センサ51、52にかかる曲げモーメントを許容値以内に収めることができる。
【0041】
例えば、許容曲げモーメントMが200N・m、hが8cm、iが6cm、F′が340kgf、Eが2100000kgf/cm2、Iが025cm4、とすると、相対変位許容間隙20の隙間bは、0.6mm程度になる。
【0042】
これにより、耐久試験時に、プリロードボルト54に大きな曲げモーメントが負荷されると、駆動部(スピンドル30)の規制部22と治具50とが互いに当接し、それ以上の曲げモーメントがセンサ51、52に負荷されることを回避できる。こうして、センサ51、52が保護される。
【0043】
一方、試験体2のフリクション性能等を評価する性能試験時に、許容値以下の横力が加わるとにより、駆動部(スピンドル30)が相対変位許容間隙20の隙間bの範囲内で動かされて駆動部(スピンドル30)の規制部22と治具50とが互いに当接せず、この横力に応じた曲げモーメントが分力センサ51に負荷され、分力センサ51の出力信号に基づいて試験体2のフリクション性能等を評価することができる。
【0044】
本実施の形態では、試験体2を揺動させるとともに回転させる揺動回転試験装置1であって、試験体2が連結される治具50と、この治具50を揺動させるとともに回転させる駆動部(スイングアーム10、スピンドル30)と、この駆動部(スピンドル30)と治具50との間に設けられ試験体2の抵抗力を計測する抵抗力計測手段(センサ51、52)と、抵抗力計測手段(センサ51、52)に許容値以上の曲げモーメントが作用しない範囲で治具50と駆動部(スピンドル30)の相対変位を許容する相対変位許容間隙20を備える構成とした。
【0045】
上記構成に基づき、揺動回転試験装置1は、試験体2の耐久性等を評価する耐久試験時に、駆動部(スピンドル30)の規制部22と治具50とが互いに当接し、それ以上の曲げモーメントがセンサ51、52に負荷されることを回避し、センサ51、52が保護される。
【0046】
これにより、駆動部(スピンドル30)と治具50との相対変位を規制するロック機構等を設ける必要がなく、構造の簡素化がはかれる。
【0047】
こうして、1台の揺動回転試験装置によって耐久試験と性能試験とを行うことが可能であり、温度条件等を一定に維持したままこれらの試験を続けて行うことができる。
【0048】
本実施の形態では、駆動部として、揺動中心軸まわりに揺動するスイングアーム10と、このスイングアーム10に対して回転する駆動部(スピンドル30)とを備える。
【0049】
これにより、揺動回転試験装置1は、試験体2を揺動させる動作と試験体2を回転させる動作を同時に行うことができる。
【0050】
本実施の形態では、駆動部(スピンドル30)に治具50を包囲する治具包囲壁31を設け、相対変位許容間隙20は駆動部(スピンドル30)の回転中心軸Oについて半径方向の隙間として画成される構成とした。
【0051】
上記構成に基づき、治具包囲壁31に十分な剛性を持たせられ、センサ51、52に過大な曲げモーメントが負荷されることを回避できる。
【0052】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態を示す揺動回転試験装置の断面図。
【図2】同じく治具等の断面図。
【図3】同じくプリロードボルトに曲げモーメントが働く様子を示す図。
【符号の説明】
【0054】
1 揺動回転試験装置
2 試験体
10 スイングアーム(駆動部)
20 相対変位許容間隙
22 規制部
30 スピンドル(駆動部)
31 治具包囲壁
33 内周面
49 固定治具
50 治具
51 分力センサ(抵抗力計測手段)
52 トルクセンサ(抵抗力計測手段)
54 プリロードボルト
60 センサアタッチメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体を揺動させるとともに回転させる揺動回転試験装置であって、
前記試験体が連結される治具と、
この治具を揺動させるとともに回転させる駆動部と、
この駆動部と前記治具との間に設けられ試験体の抵抗力を計測する抵抗力計測手段と、
前記抵抗力計測手段に許容値以上の曲げモーメントが作用しない範囲で前記治具と前記駆動部の相対変位を許容する相対変位許容間隙を備えたことを特徴とする揺動回転試験装置。
【請求項2】
前記駆動部に前記治具を包囲する治具包囲壁を設け、
前記相対変位許容間隙を前記駆動部の回転中心軸について半径方向の隙間として画成したことを特徴とする請求項1に記載の揺動回転試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−122153(P2010−122153A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297991(P2008−297991)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(304039065)カヤバ システム マシナリー株式会社 (185)
【Fターム(参考)】