説明

損耗の評価装置及び評価方法

【課題】ボイラ内で発生する損耗を評価することができる評価装置及び評価方法を提供すること。
【解決手段】試験炉5の内部に試験片Sを収容して、試験炉5の内部を実機と同様の温度に加熱し、当該試験炉5の内部に、実機において炉内で流動するのと同じ流動材を流動材供給手段3によって予熱して供給すると共に、溶融塩供給手段4によって蒸気状の溶融塩を生成して供給し、当該蒸気状の溶融塩を、試験片冷却手段56によって冷却した試験片Sにより冷却して当該試験片Sに付着させる。従って、流動材が試験片Sに衝突して試験片Sに磨耗が発生すると共に、溶融塩が試験片Sに付着して試験片Sに腐食が発生し、その結果、ボイラ内で発生する磨耗及び腐食による損耗を評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ内で発生する損耗を実験室的に模擬し、これによりボイラ内で発生する損耗を評価可能とする損耗の評価装置及び評価方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、流動床炉等のボイラ内において、流動床を形成するためのけい砂等の固体粒子が、水又は蒸気を通すための伝熱管に衝突することで発生する伝熱管の磨耗を評価する評価方法として、以下の非特許文献1に記載の評価方法が知られている。この評価方法では、550℃のN−10%O−1000ppmHClガス中に、1%質量の塩類を含むけい砂を投入し、このけい砂中で炭素鋼及びSUS347Hから成る試験片を回転させることで、当該試験片に上記のような磨耗を発生させ、この磨耗の評価を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「環境・エネルギー機器における高温腐食事例」、エバラ時報、No.219、P.39−P.44、2008年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バイオマスや廃棄物等を焼却するボイラでは、上記のような磨耗に加え、廃棄物中のビニールに含まれるCl、食品系バイオマスに含まれるKやNa等のアルカリ系金属等が燃焼されることにより、ボイラ内にKClやNaCl等の溶融塩が生じ、この溶融塩が、水や蒸気が流れる伝熱管によって冷却され当該伝熱管に付着して腐食させるという問題がある。しかしながら、このような腐食は上記のような評価方法では発生させることができず、このような腐食及び上記のような磨耗から複合的に発生する損耗を評価することができる評価装置及び評価方法の確立が望まれている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、ボイラ内で発生する損耗を評価することができる評価装置及び評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の損耗の評価装置は、試験片を内部に収容し、当該内部を実機と同様の温度に加熱可能とする試験炉と、実機において炉内で流動するのと同じ流動材を予熱し、当該流動材を試験炉の内部に供給する流動材供給手段と、蒸気状の溶融塩を生成し、当該蒸気状の溶融塩を試験炉の内部に供給する溶融塩供給手段と、蒸気状の溶融塩が試験片に付着する温度に試験片を冷却する試験片冷却手段とを備える。
【0007】
また、本発明の損耗の評価方法は、試験片を試験炉の内部に収容して、当該試験炉の内部を実機と同様の温度に加熱し、実機において炉内で流動するのと同じ流動材を予熱して、当該流動材を試験炉の内部に供給し、蒸気状の溶融塩を生成して、当該蒸気状の溶融塩を試験炉の内部に供給し、蒸気状の溶融塩が試験片に付着する温度に試験片を冷却する。
【0008】
このような損耗の評価装置及び評価方法では、試験片が収容され、実機と同様の温度に加熱された試験炉の内部に、予熱された流動材が供給されると共に、蒸気状の溶融塩が供給され、当該蒸気状の溶融塩が、冷却された試験片により冷却されて試験片に付着する。従って、流動材が試験片に衝突して試験片に磨耗が発生すると共に、溶融塩が試験片に付着して試験片に腐食が発生し、その結果、ボイラ内で発生する磨耗及び腐食による損耗を評価することができる。
【0009】
ここで、試験片を保持し、流動材が供給される方向に対する試験片の角度を調節する試験片保持手段を備えることが好ましい。こうすると、多くの損耗のパターンを再現し評価することができる。
【0010】
また、流動材を供給する速度を変更する供給速度変更手段を備えることが好ましい。こうすると、更に多くの損耗のパターンを再現し評価することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボイラ内で発生する損耗を評価することができる評価装置及び評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る損耗の評価方法を実施するための評価装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の損耗の評価装置及び評価方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る損耗の評価方法を実施するための評価装置を示す概略構成図である。
【0015】
評価装置1は、ボイラ内で発生する損耗を実験室的に模擬するためのものであり、実機における炉内の環境を実験室的に模擬するための試験炉5を備えると共に、この試験炉5に対して、ガス供給手段(供給速度変更手段)2、流動材供給手段3及び溶融塩供給手段4を備えている。
【0016】
ガス供給手段2は、流動材供給手段3及び溶融塩供給手段4にガスを供給するためのものであり、ガスの供給圧力が変更可能となっている。
【0017】
流動材供給手段3は、流動材を予熱して試験炉5の内部に供給するためのものであり、ホッパ31、流動材予熱炉32、第1温度制御部33及び噴射ノズル34を有している。ここで、流動材としては、けい砂等の実機において炉内で流動するのと同じものが用いられている。
【0018】
ホッパ31は、上記流動材を貯留するためのものである。
【0019】
流動材予熱炉32は、ホッパ31から供給された流動材を予熱するための筒状の炉であり、その内部が予熱室35となっている。この予熱室35では、ホッパ31及びガス供給手段2からそれぞれ流動材及びガスが供給され、予熱した流動材を排出する。
【0020】
第1温度制御部33は、流動材予熱炉32に設けられた図示しないヒータ等の加熱手段を制御することで、予熱室35内を加熱し、ホッパ31から供給された流動材を所望の温度に予熱することが可能となっている。流動材の予熱温度は、ここでは、800〜900℃程度とされ、実機における炉内と同様の温度とされている。
【0021】
噴射ノズル34は、ガス供給手段2により供給された高圧のガスによって、流動材予熱炉32で予熱した流動材を試験炉5の内部に噴射して供給するためのものであり、試験炉5の上部に貫通して取り付けられている。流動材を供給する際、ガス供給手段2から供給するガスの供給圧力を変更することで、流動材を試験炉5の内部に供給する速度を変更することが可能となっている。
【0022】
溶融塩供給手段4は、蒸気状の溶融塩を生成して試験炉5の内部に供給するためのものであり、溶融塩生成炉41、坩堝42、ヒータ43、第2温度制御部44及び弁45を有している。
【0023】
溶融塩生成炉41は、蒸気状の溶融塩を生成するための炉であり、その内部が生成室46となっている。この溶融塩生成炉41では、ガス供給手段2からガスが供給され、生成した蒸気状の溶融塩を排出する。
【0024】
坩堝42は、固体状の塩を装入するための深皿状の容器であり、生成室46内に設けられている。この坩堝42に装入する塩は、NaClやKCl等である。
【0025】
ヒータ43は、生成室46内を所望の温度に加熱するためのものであり、溶融塩生成炉41の上部に貫通して設けられている。また、このヒータ43には、第2温度制御部44が接続されており、この第2温度制御部44によってヒータ43を制御することで、生成室46内を所望の温度に加熱し、坩堝42に装入された塩を溶融させることが可能となっている。加熱温度は、坩堝42に装入される塩の融点以上である必要があり、ここでは、800〜900℃程度とされ、実機における炉内と同様の温度とされている。
【0026】
弁45は、生成室出口48と試験炉5との間に設けられており、この弁45を開栓することで、溶融塩生成炉41と試験炉5とを連通することが可能となっている。そして、ガス供給手段2により供給された高圧のガスによって、生成室46内で生成された蒸気状の溶融塩を試験炉5の内部に供給することが可能となっている。
【0027】
試験炉5は、その内部が試験室51とされ、ヒータ52、第3温度制御部53、試験片保持手段54、流動材回収ドレン55、試験片冷却手段56を有している。
【0028】
ヒータ52は、試験室51内を所望の温度に加熱するためのものであり、試験炉5の上部に貫通して設けられている。また、このヒータ52には、第3温度制御部53が接続されており、この第3温度制御手段53によってヒータ52を制御することで、試験室51内を所望の温度に加熱可能となっている。加熱温度は、実機における炉内の温度と同様であり、800〜900℃程度とされている。
【0029】
試験片保持手段54は、試験室51内において試験片Sを保持するためのものであり、噴射ノズル34と対向する位置に設けられている。この試験片保持手段54は、流動材が噴射ノズル34から噴射される方向に対して試験片Sの角度を調節することが可能となっている。
【0030】
流動材回収ドレン55は、噴射ノズル34から試験室51内に噴射された流動材を回収するためのものであり、試験室51の下部に設けられた排出口60の下方に連設されている。
【0031】
試験片冷却手段56は、溶融塩供給手段4から供給された蒸気状の溶融塩が試験片Sに付着する温度に試験片Sを冷却するためのものであり、冷却管57、冷却制御部58及び温度計59を有している。
【0032】
冷却管57は、試験片保持手段54に冷却空気を送り、試験片Sを冷却するためのものであり、試験炉5の下部を貫通して試験片保持手段54の内部に配管されている。この冷却管57に冷却空気を送る図示しないポンプには、冷却制御部58が接続されており、この冷却制御部58によって冷却管57に送る冷却空気の量が調整可能となっている。また、試験片保持手段54には、試験片Sの温度を計測可能な温度計59が設けられており、この温度計59に冷却制御部58が接続されている。そして、温度計59で計測された試験片Sの温度に基づいて、冷却制御部58によって、冷却管57を流れる冷却空気の量を調整し、試験片Sを所望の温度に冷却することが可能となっている。試験片の冷却温度は、ここでは、300〜400℃程度とされている。
【0033】
このような評価装置1では、試験片Sが収容され、実機と同様の温度に加熱された試験炉5の内部である試験室51内に、予熱された流動材が流動材供給手段3により供給されると共に、蒸気状の溶融塩が溶融塩供給手段4から供給され、当該蒸気状の溶融塩が、試験片冷却手段56によって冷却された試験片Sによって冷却されて試験片Sに付着する。従って、流動材が噴射ノズル34から噴射され試験片Sに衝突して試験片Sに磨耗が発生すると共に、溶融塩が試験片Sに付着して試験片に腐食が発生し、その結果、実機であるボイラ内で発生する磨耗及び腐食による損耗を評価することができる。
【0034】
また、試験片Sを保持し、流動材が噴射ノズル34から供給される方向に対する試験片Sの角度を調節する試験片保持手段54を備えているため、当該角度を変更することで、多くの損耗のパターンを再現し評価することができる。
【0035】
また、流動材を供給する速度を変更するガス供給手段2を備えているため、当該速度を変更することで、更に多くの損耗のパターンを再現し評価することができる。
【0036】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、流動材としてけい砂を用いているが、これに代えて、焼却灰を用いても良い。また、上記実施形態では、冷却管56は冷却媒体として冷却空気を用いているが、これに代えて、水等の冷却流体を用いても良い。
【符号の説明】
【0037】
1…評価装置、2…ガス供給手段(供給速度変更手段)、3…流動材供給手段、4…溶融塩供給手段、5…試験炉、54…試験片保持手段、56…試験片冷却手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片を内部に収容し、当該内部を実機と同様の温度に加熱可能とする試験炉と、
実機において炉内で流動するのと同じ流動材を予熱し、当該流動材を前記試験炉の内部に供給する流動材供給手段と、
蒸気状の溶融塩を生成し、当該蒸気状の溶融塩を前記試験炉の内部に供給する溶融塩供給手段と、
前記蒸気状の溶融塩が前記試験片に付着する温度に前記試験片を冷却する試験片冷却手段と、
を備える損耗の評価装置。
【請求項2】
前記試験片を保持し、前記流動材が供給される方向に対する前記試験片の角度を調節する試験片保持手段を備える請求項1に記載の損耗の評価装置。
【請求項3】
前記流動材を供給する速度を変更する供給速度変更手段を備える請求項1又は2に記載の損耗の評価装置。
【請求項4】
試験片を試験炉の内部に収容して、当該試験炉の内部を実機と同様の温度に加熱し、
実機において炉内で流動するのと同じ流動材を予熱して、当該流動材を前記試験炉の内部に供給し、
蒸気状の溶融塩を生成して、当該蒸気状の溶融塩を前記試験炉の内部に供給し、
前記蒸気状の溶融塩が前記試験片に付着する温度に前記試験片を冷却する、
損耗の評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−112700(P2012−112700A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260040(P2010−260040)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】