説明

搬送キャリアの製造方法

【課題】本発明は、高温下環境でも柔軟性および粘着性が損なわれない基板の搬送キャリアについて課題とする。
【解決手段】シリケート化合物と、末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応することによって得られた組成物を主成分とする材料を熱硬化してシートを成形した後、前記シートを260℃以上300℃以下の温度で、2時間以上8時間以下の時間、加熱し、ベースに固定する基板の搬送用キャリアの製造方法を提供する。かかる構成により、高温下環境でも柔軟性および粘着性が損なわれない基板の搬送キャリアを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびプリント配線基板等の被搬送体を搬送するために用いられる搬送キャリアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子部品が実装されたプリント配線基板は、あらゆる電子機器に使用されている。近年、電子機器の小型化、軽量化に対応すべく、さまざまなプリント配線基板が提供されている。このプリント配線基板の中には、フィルム状の絶縁基板の表面に導体パターンを備え、基板自体の曲げを可能にしたフレキシブルプリント配線基板(以下、「FPC」と略す。)が存在する。
【0003】
このFPCは、薄いフィルム状の基板であるため、単体では、ねじれや反りが生じ易い。そこで、このFPCに電子部品の実装、薬品洗浄、プラズマ処理等する場合、一般に搬送用キャリアという治具を用いる(特許文献1、2参照)。
【0004】
この搬送用キャリアの一般的な構成は、図2に示すように、硬い剛体でできた平板状のベース20と、このベース20の表面に固定された滑らかな表面を有した樹脂層40とからなる。この樹脂層40は、弱粘着性を有しているので、FPC30を密着して位置を保持することができ、FPC30の反りやねじれを防止することができる。また、容易に、FPC30をはがすこともできる。
【0005】
樹脂層40に用いられる一般的な材料として、シリコン系を主成分としたシリコーンゴムが主に用いられる。このシリコーンゴムは、耐熱性を有し、低価格で安全性も高く、弾性材料として一般的によく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−144430号公報
【特許文献2】特開2007−266558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および2に記載された従来の搬送用キャリアは、リフロー炉等の高温の環境で繰り返し使用すると、樹脂層の粘着力が低下する傾向がある。このため、繰り返し使用し、樹脂層の粘着力が低下すると、樹脂層に貼付けたFPCが、リフロー炉等の高温の環境で浮き、ねじれ、反り等の不具合が発生するという問題があった。
【0008】
かかる問題は、従来の基板の搬送用キャリアの耐熱性が低く、高温環境下で粘着性および柔軟性が除々に損なわれることに起因しているため、従来の搬送用キャリアは、寿命を延ばすために、あらかじめ粘着力を非常に強くすることが一般的に行われていた。
【0009】
しかし、樹脂層の粘着力が強い時期(使用開始初期)にFPCを取り外す際、応力、曲げ、ひねり等によってFPCが破損するという問題があった。さらに、予め粘着力を高くしておいても繰り返し使用すると柔軟性および粘着性が損なわれるという性質には変わりがないため、若干寿命が延びても、交換等のメンテナンス作業を頻繁に行わなければならなかった。
【0010】
本発明は、前記した問題に鑑みてなされたものであり、高温環境下でも粘着性等が損なわれない搬送キャリアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔第1発明〕
第1発明は、シリケート化合物と、末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応することによって得られた組成物を主成分とする材料を熱硬化してシートを成形した後、シートを260℃以上300℃以下の温度で、2時間以上8時間以下の時間、加熱し、ベースに固定する搬送キャリアに関するものである。
【0012】
(シート)
シートは、シリケート化合物と、末端をシリケート変性されたポリジメチルシロキサンとを、加水分解反応および縮合反応することによって得られる組成物を主成分とする材料から成る。以下、ポリジメチルシロキサンを「PDMS」と略し、末端をシリケート変性されたポリジメチルシロキサンを「変性PDMS」と略す。
【0013】
(シリケート化合物)
シリケート化合物とは、シリコン(Si)でできた金属アルコキシドのオリゴマーであり、主鎖にシロキサン(−Si−O−Si−)骨格を持ち、外鎖にアルコキシ基(RO)を導入した化合物のことである。ここで、アルコキシ基(RO)のアルキル部分である(R)は、メチル基、エチル基、プロピル基等が例示される。このシリケート化合物は、水と容易に反応する特性を持っている。
【0014】
シリケート化合物は、金属アルコキシドのオリゴマーであるので、金属アルコキシドよりも分子量が大きいので、揮発しにくい。このため、シリケート化合物が加水分解した時に、変性PDMSに含まれる揮発性の高い低分子のシロキサンの揮発を、より一層、抑制することができる。また、シリケート化合物は、高い化学反応性を有しており、縮合反応を円滑に進めることができる。
【0015】
シリケート化合物の種類として、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)、メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート等が挙げられる。品質の安定性および安全性の点からエチルシリケートが好ましい。反応性を上げることを目的にメチルシリケートの使用の場合、揮発されるメタノールの処理を確実に実施する必要がある。
【0016】
(変性PDMS)
変性PDMSとは、シリケート化合物にてPDMSの末端を変性処理したものであり、両末端にシラノール基を有するPDMSと、主鎖の片側または両側に加水分解可能な官能基であるアルコキシ基を有するアルコキシシラン部分縮合物とを反応させて得られるものをいう。
【0017】
この変性PDMSは、通常のPDMSと比べると、格段に高い官能基濃度を有している。また、変性PDMSは、シリケート化合物との縮合反応性が高いため、変性PDMSに含まれるアルコキシシラン部分縮合物は、円滑に縮合反応が行われ、硬化してポリマー化することができる。変性PDMSは、質量平均分子量が5000以上で100000以下の範囲にあるものが使用される。
【0018】
(組成物)
組成物は、前記したシリケート化合物と、前記した変性PDMSとを有する混合物を加水分解および縮合反応させることにより得られる。シリケート化合物は、水の存在下にて容易に加水分解するため、シリケート化合物の分子内のアルコキシ基が、反応性の高いシラノール基(−OH基)となる。一方、変性PDMSも同様に、加水分解をすることにより、水の存在によってシラノール基(「シラノール変性」とも呼ぶ。)となる。
【0019】
これら双方のシラノール基は、高い反応性を有していると同時に、似通った反応性を有しているため、シリケート化合物と変性PDMSとを有する混成物を加水分解することによって、シラノールの凝集が加速されることなく、変性PDMSとの縮合反応が順調に進行する。これにより、変性PDMSに含まれる低分子のシロキサンも、反応生成物(組成物)中に取り込まれる。
【0020】
つまり、加水分解反応および縮合反応により、低分子のシロキサンは、組成物を構成する物質の一部となり、単体として存在しなくなる、または単体として存在する量が極めて微量(シロキサンの価数が15まで)となる。このため、組成物から低分子のシロキサンが揮発することがないか、揮発量が極めて微量となる。
【0021】
(シートの成形)
組成物は液状(ゾル)であるので、組成物からシートを成形するには、組成物を金型等のトレイに塗布し、乾燥焼成処理によって、硬化(固体または半固体(ゲル)させて成形する。シートの形状は、FPC等の被搬送体を表面に置いて搬送できるものであれば任意でよいが、一般的にはシート状、平板状にする。
【0022】
そして、加熱処理(乾燥焼成処理)を終えた成形後のシートを一旦常温まで冷却し、その後、260℃以上300℃以下の温度で、2時間以上8時間以下の時間、加熱する。次いで、硬い剛体でできた平板状のベースの表面に、密着または接着させて固定(保持)する。シート(樹脂層)を前記の時間、前記の温度で加熱することにより、シートの表面に残存する未反応の組成物が反応するため、柔軟性および粘着性が繰り返して使用しても変化することがほとんどなく、安定する。
【0023】
また、従来の搬送用キャリアの樹脂層として用いられるシリコーンゴムには、低分子のシロキサンが微量ではあるが残留しており、リフロー炉等により高温に加熱されるとシロキサンが揮発し、シリコーンゴムの柔軟性および粘着性が損なわれていた。しかし、本第1発明のシートは、低分子のシロキサンが含まれていない、またはシロキサン単体として存在する量が極めて微量(シロキサンの価数が15まで)であるので、被搬送体等に低分子シロキサンが付着し、被搬送体等が腐食されないことが特徴である。
【0024】
また、従来の基板の搬送用キャリアは、樹脂層の主成分がフッ素系の樹脂の場合は、樹脂層が茶褐色および黒褐色であったので、樹脂層に付着した異物等の発見が困難であった。しかし、本第1発明に係る搬送キャリアのシート(樹脂層)は、無色透明であるので、異物の発見が容易にできる。
【0025】
以上により、本第1発明は、高温環境下で繰り返し使用しても粘着性の変化が非常に少なく安定した搬送キャリアを提供することができる。つまり、本第1発明の搬送キャリアに貼り付けたFPCが高温環境下でシートから浮いたり剥がれたりすることがない。また、FPCをシートから剥がす際、常に一定の力で剥がすことができる。さらに、寿命が長いので、頻繁にシートの交換等のメンテナンス作業をする必要がない。
【0026】
〔第2発明〕
また、第2発明は、シリケート化合物と、末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応することによって得られた組成物を主成分とする材料を熱硬化してシートを成形した後、前記シートをベースに固定し、260℃以上300℃以下の温度で、2時間以上8時間以下の時間、加熱する搬送キャリアに関する。かかる構成においても、前記した第1発明と同一の効果を奏する。
【0027】
〔第3発明〕
また、前記シリケート化合物は、〔化学式1〕SinO(n−1)(RO)2(n+1) (R=アルキル基、n=4〜16)で表されるものであり、また、変性PDMSは、〔化学式2〕SinO(n−1)(RO)2(n+1) (OSi(CH3)2)m(RO)2(n+1)SinO(n−1)(R=アルキル基、n=4〜16、m>50)で表されるものであっても良い。
【0028】
〔第4発明〕
また、前記シリケート化合物(A)と、前記変性PDMS(B)の配合の割合が、A/Bのモル比にて、0.1以上10以下の範囲であることが好ましい。最適な配合の割合は、A/Bのモル比にて1前後である。本第4発明に係る基板の搬送用キャリアの樹脂層の主成分である組成物は、この最適な配合の割合を基準にし、柔軟性(低硬度)が要求される場合は変性PDMS(B)を増加し、高硬度が要求される場合はシリケート化合物(A)を増加させるのがよい。
【0029】
ただし、シリケート化合物(A)を増加させる場合、モル比10を越えると、低分子のシロキサンの揮発成分が増加する。つまり、低分子のシロキサンが単体として存在する量が増加するため、硬化時の収縮や薄膜化、場合によってはクラックの発生する。モル比0.1より小さい場合は、シリケート化合物(A)と変性PDMS(B)との加水分解反応および縮合反応が円滑に行われず、結果として未硬化の状態となり、低分子のシロキサンが残留する。
【0030】
また、前記シリケート化合物は、3量体〜12量体(3量体以上12量体以下)であることが望ましい。これは、3量体未満ではシリケートが持つ特性の効果が少なく、また12量体よりも大きいとシリケート化合物の粘度が高くなることから合成時に扱いにくいからである。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、高温環境下で繰り返し使用しても粘着性がほぼ一定である搬送キャリアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る組成物を主成分とした樹脂層を備えた搬送用キャリアの斜視図である。(実施例1)
【図2】従来の樹脂層を備えた搬送用キャリアの斜視図である。
【図3】90度剥離試験の評価1のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施例を用いて、本発明を更に具体的に説明する。尚、実施例における「部」、「%」は特記のない限りいずれも質量基準(質量部、質量%)である。
【実施例1】
【0034】
〔搬送キャリア〕
図1に示すように、本発明に係る搬送キャリア1は、FPC等の被搬送体3の下面を密着させるシート(樹脂層)4と、このシート4を固定したベース2とからなる。シート4は、滑らかな表面を有し、弱粘着性を有しているので、被搬送体3を密着して位置を保持することができ、搬送中の被搬送体3の反りやねじれを防止することができる。また、基板3を容易に剥がすこともできる。また、ベース2は、リフロー炉等の高温環境下においても変形等しない(耐熱性の高い)金属板等の剛板であれば良い。
【0035】
本実施例1の搬送キャリア1は、アルミ製金属平板(L:150×W:150×H:1.5mm)のベース2の表面に、後述する組成物を主成分として成形したシート4(L:145×W:145×H:20μm)を固定した。
【0036】
(組成物)
本発明に係る搬送キャリア1のシート4は、シリケート化合物と、末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応することによって得られた組成物を主成分とする。この組成物の製造について以下に具体的に説明する。
【0037】
攪拌装置、温度計、滴下ラインを取り付けた反応容器に、エチルシリケート(多摩化学工業株式会社製、シリケート40〔化学式1〕のn=4〜6 またはシリケート45〔化学式1〕のn=6〜8 1.0gと、エチルシリケートを両末端にアルコキシ変性したポリジメチルシロキサン〔化学式2〕(質量平均分子量;32,000相当)(荒川化学株式会社製HBSIL039)32.0gとを入れ、大気中(室温)にて約30分間、攪拌混合し、混成物である原料液Aを得た。ここで、エチルシリケートと、エチルシリケートを両末端にアルコキシ変性したポリジメチルシロキサンで用いられたシリケートは、同じ種類および同じ特性を持つシリケートを使用した。
【0038】
そして、原料液Aを加水分解工程および縮合工程にて、必要量の水0.93gを約1時間かけて滴下して加え、攪拌混合した。その後、攪拌しながら約30分かけて室温(25℃)まで自然冷却し、組成物を得た。
【0039】
(シートの成形)
前記した組成物は液状(ゾル)なので、組成物を用いてシート(樹脂層)4を成形するには、組成物を金型等のトレイに塗布し、加熱して硬化〔固体または半固体(ゲル)〕する必要がある。そこで、前記した組成物を、仕上がりで20μmの厚みになるように均一に金型等のトレイに塗布した後、高温炉(アドバンテック東洋株式会社製のDRC433FA)に200℃で1時間、加熱(乾燥焼成処理)を行い、組成物を加熱硬化させ、シート4を得た。そして、このシート4が常温(25℃)になった後、さらに、高温炉(アドバンテック東洋株式会社製のDRC433FA)を用いて280℃で4時間、加熱(乾燥焼成処理)を行った。
【0040】
その後、アルミ製金属平板(L:150×W:150×H:1.5mm)のベース2の表面に、前記したシート4を密着させて搬送キャリア1を製造した。尚、本実施例1においては、ベース2へのシート4の固定は、シート4の粘着性を利用した(単に密着させただけである)が、耐熱性接着剤等を用いてシート4をベース2に固定しても良い。
【0041】
〔評価1〕
次に、前記したシート4の90度剥離試験の評価について説明する。
尚、比較例で用いた試料(市販品)と同一の条件にするため、シート4の大きさは(縦50mm×横50mm、厚さ20μm)、ベースはガラスエポキシ製の平板(縦50mm×横50mm×1.8mm)とした。
【0042】
(評価用搬送キャリア)
前記した組成物をシャーレ(縦50mm×横50mm)に仕上がりで20μmの厚みになるように入れ、高温炉(アドバンテック東洋株式会社製のDRC433FA)を用いて200℃で1時間、加熱(乾燥焼成処理)した。その後、シャーレ中の成形物(シート)が常温に低下した後、成形物をシャーレから脱型し、シート(縦50mm×横50mm、厚さ20μm)を得た。その後、シートを前記した高温炉に入れ、さらに280℃で4時間、加熱処理(乾燥焼成処理)を行った。そして、ガラスエポキシ製の平板(縦50mm×横50mm×1.8mm)の上面にシート密着させて搬送キャリアを製造した。
【0043】
(比較例)
比較対象の試料として、市販されている以下の2つの搬送キャリアを用いた。いずれも、サイズは、シート(縦50mm×横50mm×厚さ2mm)、ガラスエポキシ製の平板のベース(縦50mm×横50mm×1.8mm)である。
(1)試料1
株式会社大昌電子社製のマジックレジン(登録商標)(Type−K)
(2)試料2
信越ポリマー株式会社製のアシストキャリア(型式 FB−A)
【0044】
(評価方法)
搬送キャリアを繰り返して使用した場合の剥離強度の変化を評価するために、以下の評価方法を用いた。すなわち、搬送キャリアの上に、FPC(縦50mm、横50mm、厚さ75μm )を置いて、手で軽く加圧して貼り付けし、リフロー炉搬入前に、後述する方法を用いて剥離強度を測定した。また、前記したFPCが貼り付いた搬送キャリアをリフロー炉(250℃〜270℃)で6分間加熱した後、リフロー炉から取り出して常温(25℃)まで冷却した後、後述する方法を用いて剥離強度を測定した。さらに、FPCが貼り付いた搬送キャリアを再度リフロー炉(250℃〜270℃)で6分間加熱した後、リフロー炉から取り出し、常温(25℃)まで冷却後に剥離強度の測定を行うことを200回(200サイクル)繰り返した。
【0045】
剥離強度の測定は、搬送キャリアのシートの表面に貼り付けたFPCの中央部を、剥離試験機のピックによって真上につまみ上げ(90度方向)、FPCが完全に剥離した時の強度(最大値:Peak Hold)を測定した。剥離試験機は、島津製作所社製 小型卓上型材料強度試験機 EZ
Test(型式 EZ−S)を用いた。尚、剥離強度の測定は、JIS K 6256(2004年JISハンドブック ゴムI 配合剤・原材料の試験・測定方法 加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの接着試験方法 451頁)に準じて実施した。
【0046】
(評価結果)
評価結果を図3に示す。図3は、それぞれの搬送キャリアの剥離強度を測定したものをグラフ化したものである。図3より、試料1は、剥離試験開始から120サイクルまで除々に剥離強度(粘着力)が低下し、その後は剥離強度が略ゼロになることが分かる。また、試料2は、130サイクルまで除々に剥離強度(粘着力)が低下し、その後は剥離強度が略ゼロになることが分かる。これに対し、本発明に係る搬送キャリア(前記評価用搬送キャリア)は、評価開始から200サイクル終了まで剥離強度がほぼ一定であることが分かる。
【0047】
本発明に係る搬送キャリア(前記評価用搬送キャリア)の剥離強度は、250〜300(mN/50mm)であり、薄いフィルム状のFPCに負担がかからず、取り外す剥離強度としては、好ましい強度である。つまり、本発明の搬送キャリア(評価用搬送キャリア)は、試料1および試料2と比較して粘着性および耐久性(寿命)が優れていることがわかる。ちなみに、測定試験片シートの剥離強度〔250〜300(mN/50mm)〕は、剥離試験1000回実施しても、強度を維持できることが確認できている。
【0048】
尚、図3において縦軸は剥離強度を表し、剥離強度の単位は、「mN/50mm」とした。かかる単位を用いた理由は、剥離強度を測定するフレキシブル基板の大きさが50mmであるからであり、50mm当たりに加わる力(mN)を表現したものである。また、「mN」は、ミリニュートン「0.001×N」の意味である。
【0049】
〔評価2 搬送キャリアの90度剥離試験〕
(測定試験片シート)
前記した組成物をシャーレ(縦50mm×横50mm)に仕上がりで20μmの厚みになるように注入し、200℃で1時間、加熱(乾燥焼成処理)し、常温(25℃)まで冷却した後、シャーレから脱型し、測定試験片シート(縦50mm×横50mm、厚さ20μm)を30枚作成した。
【0050】
そして、後述するように、加熱条件(加熱温度および加熱時間)をそれぞれ変更して前記した高温炉(アドバンテック東洋株式会社製のDRC433FA)を用いて加熱(乾燥焼成処理)し、測定試験片シート1〜30を得た。その後、ガラスエポキシ製の平板(縦50mm×横50mm×1.8mm)の上面に測定試験片シート1〜30をそれぞれ密着させて試験用搬送キャリア1〜30を製造した。
【0051】
(評価方法)
評価方法は、試験用搬送キャリア1〜30の上に、それぞれFPC(縦50mm×横50mm×厚さ75μm)を置いて、手で軽く加圧して貼り付けし、リフロー炉搬入前に、それぞれの剥離強度を前記した方法で測定した。また、前記したFPCが貼り付いた試験用搬送キャリア1〜30をリフロー炉(250℃〜270℃)で6分間加熱した後、リフロー炉から取り出して常温(25℃)まで冷却した後、前記した方法を用いて剥離強度を測定した。さらに、FPCが貼り付いた試験用搬送キャリア1〜30を再度リフロー炉(250℃〜270℃)で6分間加熱した後、リフロー炉から取り出し、常温(25℃)まで冷却後に剥離強度の測定を行うことを50回(50サイクル)繰り返した。
【0052】
(評価結果)
表1は、試験用搬送キャリア1〜30の剥離強度を測定したものであり、剥離試験は、それぞれ50回実施し、剥離強度の最大値から最小値のP−P値(peak to peak value)を算出して表にまとめたものである。
【0053】
(判定基準)
−剥離強度のばらつき−
○:P−P値が0以上40(mN/50mm)以下の範囲内
×:P−P値が40(mN/50mm)より大きい
尚、剥離強度のばらつきは小さいほど良いが、前記したスペック(P−P値が0以上40(mN/50mm)以下の範囲内)は、FPCの生産に支障が出ないばらつきの範囲で設定した。
【0054】
表1により、試験片シートを成形後の加熱の条件を、加熱温度260℃以上300℃以下、加熱時間2時間以上8時間以下であれば、判定基準の範囲内の測定試験片シートを作成することができる。
つまり、前記加熱処理の条件で作成したシートを用いることにより、粘着力が安定した搬送キャリアを提供できる。
【0055】
【表1】

【0056】
尚、表1において剥離強度の単位は、「mN/50mm」とした。かかる単位を用いた理由は、剥離強度を測定するFPCの大きさが50mmであるからであり、50mm当たりに加わる力(mN)を表現したものである。また、「mN」は、ミリニュートン「0.001×N」の意味である。
【0057】
前記した実施例は、説明のために例示したものであって、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書および図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
【0058】
例えば、前記した実施例において、搬送キャリアに備えたシートは、前記組成物をシャーレに入れ、高温炉を用いて200℃で1時間、加熱し、その後、シャーレ中の成形物(シート)が常温に低下した後、成形物をシャーレから脱型し、そして再度、シートを高温炉に入れ、さらに280℃で4時間、加熱処理を行って成形をしたが、前記常温に低下した後に、ガラスエポキシ製等の平板に密着させ、その後、加熱処理を行って成形したものを使用しても良い。
【0059】
また、前記した実施例において、前記シリケート化合物として、
〔化学式1〕 SinO(n−1)(RO)2(n+1) (R=アルキル基、n=4〜16)で、
前記末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとして、
〔化学式2〕 SinO(n−1)(RO)2(n+1) (OSi(CH3)2)m(RO)2(n+1)SinO(n−1)(R=アルキル基、n=4〜16、m>50)
で表される材料を用いても良く、また、前記シリケート化合物(A)と、前記末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサン(B)の配合の割合が、A/Bのモル比にて、0.1以上10以下の範囲である材料を用いても良い。
【0060】
また、前記した実施例において、エチルシリケートと、エチルシリケートを両末端にアルコキシ変性したポリジメチルシロキサンで用いられたシリケートは、同じ種類および同じ特性を持つシリケートを使用した。この場合、似通った反応性を有しているため、反応速度が同じぐらいとなり、好ましい。
【0061】
しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、異なった種類・特性同士(例えば、エチルシリケートとメチルシリケートを用いる場合、純度が異なるエチルシリケートを用いる場合)のシリケートを使用しても良い。この場合は、互いの反応速度に差が発生するため、反応速度を同じにするための合成時間の調整や、製造の条件を変更する必要がある。
【0062】
本発明の搬送用キャリアに用いられるベースとしては、金属平板、ガラエポ平板、プラスチック平板、セラミック平板、ガラス平板等を用いてもよい。金属平板として例えば、SUS(ステンレススチールの略)、アルミニウム、鉄、銅などの公知の金属製平板を用いることができ、プラスチック平板としては例えばポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド等の耐熱性の優れたものが使用でき、セラミック平板としては例えばアルミナ、サイアロン、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン等が使用できる。
【0063】
また、前記樹脂層を成形するには、原料となる組成物を公知のスクリーン印刷法、ディップ法、ドクターブレード法、ナイフコート法、バーコート法、スピンコート法などで、ガラス板表面に塗布し、硬化させてもよい。
【0064】
また、前記ベース上に密着する樹脂層は、実施例1に記載するように、あらかじめ樹脂層を前もって成形してからベース上に、前記組成物を塗布した後、オーブンで乾燥焼成処理を行う成形方法を用いてもよい。
【0065】
また、前記組成物をベースに塗布する時、ベース部周辺にマスキングテープやポリイミドテープ(カプトンテープとも呼ぶ。)等で、周囲に貼り付けをしてもよい。
【0066】
また、本発明は、請求項1に係る発明を第1発明、請求項2に係る発明を第2発明、請求項3に係る発明を第3発明、請求項4に係る発明を第4発明、とすると、以下のように把握できる。
【0067】
〔第5発明〕
第5発明に係る搬送キャリアの製造方法は、前記樹脂層は、260℃以下でガスクロマトグラフ(GC−MS)により測定した場合に、価数が15以下のシロキサンを含まないことを特徴とする第1発明乃至4のいずれか1発明に記載のものである。かかる構成により、前記した第1発明と同じの効果を得ることができる。
【0068】
前記ガスクロマトグラフとは、前記樹脂層に含まれる材料に、低分子のシロキサンの揮発成分である環状シロキサンの残量を測定するための評価機器である。評価機器として、例えば、加熱脱着器〔Twister Desorption Unit(以下、「TDU」と略す。)〕(Gerstel社)のCooled Injection System(以下、「CIS」と略す。)付ガスクロマトグラフ質量分析計〔Gas Chromatography Mass Spectrometry(以下、「GC−MS」と略す。)アジレントテクノロジー社製5975Bシステム等〕を使用できる。
【0069】
評価方法としては、試料中の揮発性成分を気化させるため、TDUによってサンプルホルダーの試料にヘリウムガスを流しながら加熱した。そして、ヘリウム中に気化したアウトガスをCISユニット中の吸着管に吸着させた後、吸着管に捕集されたアウトガスをGC−MS装置に流して、揮発性成分の種類と量とを測定した。GC−MS装置のカラムは、キャピラリーカラム(液層:フェニルメチルシロキサン)である。
【0070】
測定条件の詳細として、加熱部は、TDUにて、160℃/minで40℃〜200℃(ホールド時間5分)まで昇温加熱し、不活性キャピラリ管(温度:350℃)を通して、質量分析を実施する。
【0071】
GC−MS装置は、注入口温度:−150℃〜12℃/秒〜325℃、カラム:Agilent 19091S−433(カラム長さ60m カラム内径0.25mm カラム膜厚0.25μm)、オーブン:40℃〜25℃/min〜300℃(ホールド時間10分)、ヘリウム流量:1.2mL/min、MSイオン源温度230℃:、MS四重極温度:150℃、MSイオン化電圧:69.9eV)、スキャン範囲:m/z 100〜1000
である。ここで、MSは、Mass Spectrometryの略である。
【0072】
例えば、材料の揮発成分のうち150℃以上260℃以下での高温下で揮発が懸念されるD3〜D15のシロキサンの価数の領域に分類し、それぞれの揮発成分量をまとめることができる。今回の場合、材料の揮発成分の価数が3〜15にて環状シロキサンの揮発が全く見られないことがわかった。つまり、本発明に係る樹脂層には、低分子のシロキサンが残留していない(価数が15までのシロキサンを含まない)ことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る基板の搬送用キャリアは、フレキシブル基板等のシート状の薄い基板を貼り付けて、リフローに搬送できる基板の搬送用キャリアである。
【符号の説明】
【0074】
1,10…搬送キャリア
2,20…ベース
3,30…基板
4,40…樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリケート化合物と、末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応することによって得られた組成物を主成分とする材料を加熱してシートを成形した後、
該シートを260℃以上300℃以下の温度で、2時間以上8時間以下の時間、加熱し、ベースに固定する搬送キャリアの製造方法。
【請求項2】
シリケート化合物と、末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応することによって得られた組成物を主成分とする材料を加熱してシートを成形した後、
該シートをベースに固定し、260℃以上300℃以下の温度で、2時間以上8時間以下の時間、加熱する搬送キャリアの製造方法。
【請求項3】
前記シリケート化合物は、
〔化学式1〕 SinO(n−1)(RO)2(n+1) (R=アルキル基、n=4〜16)
であり、
前記末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンは、
〔化学式2〕 SinO(n−1)(RO)2(n+1) (OSi(CH3)2)m(RO)2(n+1)SinO(n−1)(R=アルキル基、n=4〜16、m>50)
で表される請求項1または請求項2に記載の搬送キャリアの製造方法。
【請求項4】
前記シリケート化合物(A)と、
前記末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサン(B)の配合の割合が、A/Bのモル比にて、0.1以上10以下の範囲である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の搬送キャリアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−77241(P2011−77241A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226243(P2009−226243)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【特許番号】特許第4438896号(P4438896)
【特許公報発行日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000251288)鈴鹿富士ゼロックス株式会社 (156)
【Fターム(参考)】