説明

搬送システム、搬送方法及びこの搬送システムを備えた積層接合体製造装置

【課題】省スペースで、積層体固定治具を簡易な排気手段を用いて連続的に排気しながら搬送することができる積層体固定治具の搬送システム、積層体固定治具を搬送する搬送方法及びこの搬送システムを備えた積層接合体製造装置を提供する。
【解決手段】搬送手段2は、積層体固定治具100を搬送するクランクスライダ搬送装置10と、クランクスライダ搬送装置10から積層体固定治具100を受け取り載置するための中間ステージ20と、を備えている。クランクスライダ搬送装置10において積層体固定治具100を載置するシャトル13の載置面13aには排気手段3により収容空間Sを排気するための第1排気コネクタ13bが、中間ステージ20の載置面20aには第2排気コネクタ20bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用の膜−電極接合体など、膜材料を積層した後に加圧接合してなる積層接合体を製造するために用いる積層体固定治具の搬送システム、積層体固定治具を搬送する搬送方法及びこの搬送システムを備えた積層接合体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層接合体を製造するために、加圧手段の間に膜材料を積層した積層体を搬送して加圧接合する方法が用いられている。この技術は、近年、固体高分子膜、燃料極膜及び空気極膜を積層、接合してなる固体高分子型燃料電池用の膜−電極接合体(Membrane−Electrode Assembly:以下、MEAという)の製造にも用いられている。
【0003】
上述の方法で積層接合体を製造するために、積層体を金属製のシート固定枠に取り付けた可撓性シートの上面に載置し、金属製シート固定枠の上部に、可撓性シートと環状パッキンを取り付けたシート固定枠を重合させ、これらにより画成された密閉室から空気を排出して前記密閉室を減圧し、積層体を固定保持する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
また、治具内を吸引し減圧状態で積層体を固定する治具を搬送して連続的に加圧を行う方法が提案されている(例えば、特許文献3−5)。また、加圧手段としてロール式プレスを採用する方法も提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−19275号公報
【特許文献2】特開2008−146833号公報
【特許文献3】特開2000−182014号公報
【特許文献4】特開2009−290012号公報
【特許文献5】特開2010−62468号公報
【特許文献6】特開2002−11780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2に記載の技術では、シート固定枠が積層体の全周を囲んで積層体より厚く形成されているため、直進方向に被加工対象を搬送しながら加圧する方式のロール式プレスやダブルベルト式プレスといった大量生産に向いている連続式プレスによる加圧接合法を適用することができず、効率的な製造ができないという問題があった。
また、特許文献3−5に記載の技術では、積層体を固定する治具の搬送に回転式のターンテーブルを用いて、ターンテーブル円周部にプレス機構などの加工部がターンテーブル旋回軸に対し同心円上に配置されているため、プレス工程が増えるなど多工程化するとターンテーブル円周長を長くするためにターンテーブルが巨大になる。このとき加工部を配置することができないターンテーブル円周部の内側には大きなデッドスペースが生じるという問題があった。
特許文献6に記載の技術では、直進方向に搬送しながら加圧するロール式プレスを採用しているが、装置全体が真空チャンバーとして構成されているので、高価な排気手段が必要であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、省スペースで、積層体固定治具を簡易な排気手段を用いて連続的に排気しながら搬送することができる積層体固定治具の搬送システム、積層体固定治具を搬送する搬送方法及びこの搬送システムを備えた積層接合体製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上記目的を実現するために、請求項1に記載の発明では、膜材料が積層された積層体を加圧手段により加圧し積層接合体を製造する積層接合体製造装置において前記積層体を固定する積層体固定治具を搬送する搬送システムであって、前記積層体固定治具に接続可能な排気手段と、前記積層体固定治具を載置するシャトルと、前記シャトルを搬送方向に沿って往復運動させるスライダと、前記スライダを駆動する駆動手段と、を備えた積層体固定治具を搬送する搬送手段と、前記搬送手段により搬送された前記積層体固定治具を前記シャトルから受け取り載置するための中間ステージと、を備え、前記積層体固定治具は、前記積層体を収容可能な収容空間を備え、前記収容空間と連通する排気路が形成され、前記収容空間と排気手段とを接続する排気路を切り替え可能な第1排気ポート及び第2排気ポートを備えており、前記収容空間に積層体を配置し排気手段により前記収容空間を排気することにより、前記積層体を前記収容空間内に密着固定させる治具を用い、前記シャトルは、前記積層体固定治具を載置したときに前記第1排気ポートと連通し、前記排気手段により前記収容空間を排気するための第1排気コネクタを備え、前記中間ステージは、前記積層体固定治具を載置したときに前記第2排気ポートと連通し、前記排気手段により前記収容空間を排気するための第2排気コネクタを備え、前記搬送手段は、前記シャトルに前記積層体固定治具を載置して前記第1排気コネクタを介して前記収容空間を排気した状態で前記加圧手段に向かって前記積層体固定治具を搬送し、搬送方向の下流に位置する中間ステージに前記積層体固定治具を受け渡し、前記中間ステージにおいて前記第2排気コネクタが前記第2排気ポートと連通した後に、排気路を切り替えて前記排気手段により前記収容空間を排気することにより、前記積層体固定治具の収容空間内を排気状態に維持したまま搬送する、という技術的手段を用いる。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、積層体固定治具を積層体が収容される収容空間を排気手段により連続的に排気し排気状態を維持したまま、搬送手段により積層体固定治具を搬送し、中間ステージに受け渡すことができる。
これにより、省スペースで、積層体固定治具を連続的に排気しながら搬送することができる積層体固定治具の搬送システムを提供することができる。例えば、積層体固定治具を直進方向に搬送する搬送手段を採用すると、各工程を直進方向に配置することができるので、回転式のターンテーブルのように大きなデッドスペースが生じることを避けることができる。
また、簡易な排気手段を採用することができるので、搬送システムに大容量で高価な排気手段を用いる必要がない。
【0010】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の搬送システムにおいて、前記加圧手段は複数の加圧部を備えており、前記複数の加圧部に対応して前記シャトル及び中間ステージがそれぞれ設けられており、前記搬送手段の複数のシャトルは、連動して作動するように構成されており、前記搬送手段は、中間ステージに載置された積層体固定治具を前記シャトルに受け取って前記第1排気コネクタを介して前記収容空間を排気した状態で搬送し、隣接する下流側の中間ステージに受け渡す、という技術的手段を用いる。
【0011】
複数の加圧部を備えた加圧手段を用いて、請求項2に記載の発明のような構成を採用することにより、積層体固定治具を上流側の中間ステージからシャトルに受け渡し、シャトルによって搬送し、シャトルから下流側の中間ステージに受け渡すという動作を繰り返すことにより、積層体固定治具を連続して搬送し、連続して加圧することができる。これにより、積層接合体を効率的に製造することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の搬送システムにおいて、前記加圧手段は、被加圧対象を直進方向に搬送して加圧する加圧手段であって、前記積層体固定治具としては、直進方向に搬送しながら加圧可能に構成された積層体固定治具を用い、前記積層体固定治具の加圧は、前記搬送手段により前記積層体固定治具を搬送しながら行われる、という技術的手段を用いる。
【0013】
請求項3に記載の発明のように、積層体固定治具として直進方向に搬送しながら加圧可能に構成された積層体固定治具を用いて、加圧手段としてロール式プレスまたはダブルベルト式プレスなど、被加圧対象を直進方向に搬送して加圧する加圧手段を採用することができる。これにより、積層体固定治具の加圧を、搬送手段により積層体固定治具を搬送しながら行うことができるので、積層接合体を効率的に製造することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の搬送システムにおいて、前記搬送手段は、前記積層体固定治具が前記加圧手段により加圧されている間は、前記積層体固定治具を前記加圧手段の送り速度に合わせた搬送速度で搬送する、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、積層体固定治具が加圧手段により加圧されている間は、加圧手段の送り速度に合わせた搬送速度で搬送するため、積層体固定治具と加圧手段との間に生じる摩擦力を軽減することができ、積層体固定治具や加圧手段の寿命を向上させることができるとともに、積層体に過大な負荷がかかるおそれがなく、高い品質の積層接合体を製造することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の搬送システムにおいて、前記搬送手段及び中間ステージの少なくとも一方が昇降手段を備え、前記加圧手段により前記積層体固定治具が加圧される加圧面を基準にして、一方が他方に対し相対的に昇降することにより前記積層体固定治具の受け渡しを行う、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項5に記載の発明のように、加圧手段により積層体固定治具が加圧される加圧面を基準にして、一方が他方に対し相対的に昇降することにより積層体固定治具の受け渡しを行うことにより、加圧面から積層体固定治具が上下することなく、積層体固定治具の受け渡しを確実に行うことができる。
【0018】
請求項6に記載の発明では、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の搬送システムにおいて、第1排気ポート及び第2排気ポートは、前記収容空間に外気が逆流することを防止する逆止弁を備えている、という技術的手段を用いる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、第1排気ポート及び第2排気ポートは逆止弁を備えているので、収容空間に外気が逆流し、積層体固定治具を排気状態に維持できなくなることを防止することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の搬送システムにおいて、前記スライダは、一端が回転駆動を行う駆動手段に接続され回動するクランクアームと、クランクアームの他端とお互いに回動可能に一端が接続されたリンクと、リンクの他端と接続されリンクによって往復運動するシャトルを搬送方向に案内するガイドレールと、を備えている、という技術的手段を用いる。
【0021】
搬送手段のスライダを請求項7に記載の発明のような構成とすることにより、簡単な機構で省スペースの搬送手段とすることができる。
【0022】
請求項8に記載の発明では、請求項7に記載の搬送システムにおいて、前記クランクアームの回転角の角速度を算出し、算出された角速度に基づいて前記搬送手段による前記積層体固定治具の搬送速度を制御する、という技術的手段を用いる。
【0023】
請求項7に記載の発明の構成を採用した場合には、請求項8に記載の発明のように、クランクアームの回転角の角速度を算出し、算出された角速度に基づいて搬送手段による前記積層体固定治具の搬送速度を制御することにより、搬送速度を高い精度で制御することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明では、積層接合体製造装置が請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の搬送システムを備えた、という技術的手段を用いる。
【0025】
請求項9に記載の発明のように、積層接合体製造装置に、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の搬送システムを用いることにより、積層体固定治具を連続的に排気しながら搬送することができる積層接合体製造装置とすることができる。例えば、積層体固定治具を直進方向に搬送する積層接合体製造装置では、各工程を直進方向に配置することができるので、搬送手段として回転式のターンテーブルを用いた場合のように大きなデッドスペースが生じることを避けることができ、積層接合体製造装置を小型化することができる。
また、簡易な排気手段を採用することができるので、大容量で高価な排気手段を用いる必要がない。
【0026】
請求項10に記載の発明では、膜材料が積層された積層体を加圧手段により加圧し積層接合体を製造する積層接合体製造装置において前記積層体を固定する積層体固定治具を搬送する搬送方法であって、前記積層体固定治具に接続可能な排気手段と、前記積層体固定治具を載置するシャトルと、前記シャトルを搬送方向に沿って往復運動させるスライダと、前記スライダを駆動する駆動手段と、を備えた積層体固定治具を搬送する搬送手段と、前記搬送手段により搬送された前記積層体固定治具を前記シャトルから受け取り載置するための中間ステージと、を用意し、前記積層体固定治具は、前記積層体を収容可能な収容空間を備え、前記収容空間と連通する排気路が形成され、前記収容空間と排気手段とを接続する排気路を切り替え可能な第1排気ポート及び第2排気ポートを備えており、前記収容空間に積層体を配置し排気手段により前記収容空間を排気することにより、前記積層体を前記収容空間内に密着固定させる治具を用い、前記第1排気ポートから前記収容空間を排気した状態で前記加圧手段の上流から前記加圧手段に向かって前記積層体固定治具を搬送する工程と、前記搬送された積層体固定治具を搬送方向の下流に位置する中間ステージに受け渡し、前記中間ステージにおいて排気路を切り替えて前記第2排気ポートから前記収容空間を排気する工程と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0027】
請求項10に記載の発明によれば、積層体固定治具を積層体が収容される収容空間を排気手段により連続的に排気し排気状態を維持したまま、搬送手段により積層体固定治具を搬送し、中間ステージに受け渡すことができる。
これにより、積層体固定治具を連続的に排気しながら、例えば、直進方向に搬送することができる。積層体固定治具を直進方向に搬送する搬送方法では、各工程を直進方向に配置することができるので、搬送手段として回転式のターンテーブルを用いた場合のように大きなデッドスペースが生じることを避けることができる。
また、簡易な排気手段を採用することができるので、大容量で高価な排気手段を用いる必要がない。
【0028】
請求項11に記載の発明では、請求項10に記載の搬送方法において、前記加圧手段が、被加圧対象を直進方向に搬送して加圧する加圧手段である場合に、前記積層体固定治具が前記加圧手段により加圧されている間に、前記積層体固定治具を前記加圧手段の送り速度に合わせた搬送速度で搬送する工程を更に備えた、という技術的手段を用いる。
【0029】
請求項11に記載の発明によれば、積層体固定治具が加圧手段により加圧されている間は、加圧手段の送り速度に合わせた搬送速度で搬送するため、積層体固定治具と加圧手段との間に生じる摩擦力を軽減することができ、積層体固定治具や加圧手段の寿命を向上させることができるとともに、積層体に過大な負荷がかかるおそれがなく、高い品質の積層接合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の搬送システムを用いる積層接合体製造装置の構成を示すブロック図である。
【図2】積層体固定治具の構造を示す説明図である。図2(A)は第1固定部材及びシール部材の平面説明図、図2(B)は第2固定部材の平面説明図である。
【図3】積層体固定治具に積層体を配置した状態を示す平面説明図である。
【図4】積層体固定治具に積層体を配置した状態を示す断面説明図である。図4(A)は図3のA−A矢視断面図、図4(B)は図3のB−B矢視断面図である。
【図5】積層体固定治具に積層体を配置した状態を示す断面説明図である。図5(A)は図3のC−C矢視断面図、図5(B)は図3のD−D矢視断面図である。
【図6】本発明の搬送システムを備えた積層接合体製造装置の構成を示す説明図である。図6(A)は斜視説明図、図6(B)は平面説明図である。
【図7】本発明の搬送システムを備えた積層接合体製造装置の構成を示す説明図である。図7(A)はクランクスライダ搬送装置近傍を拡大した斜視説明図、図7(B)はクランクスライダ搬送装置のシャトル及び中間ステージ近傍を拡大した斜視説明図である。
【図8】本発明の搬送システムによる積層体固定治具の搬送工程を示す説明図である。図8(A)は斜視説明図、図8(B)は平面説明図である。
【図9】積層体固定治具の加圧工程を示す説明図である。図9(A)は斜視説明図、図9(B)は平面説明図である。
【図10】本発明の搬送システムによる積層体固定治具の搬送工程を示す説明図である。図10(A)は側面説明図、図10(B)は図10(A)のA−A矢視断面説明図である。
【図11】本発明の搬送システムによる積層体固定治具の搬送工程を示す説明図である。図11(A)は斜視説明図、図11(B)は平面説明図である。
【図12】積層体固定治具の搬送に伴うシャトル及び中間ステージの動き、第1排気コネクタ及び第2排気コネクタの動きを説明するための断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明について図面を参照して説明する。図1に示すように、膜材料が積層された積層体を固定する積層体固定治具を用い、積層体を加圧手段により加圧接合し積層接合体を製造する積層接合体製造装置1は、被加圧対象を一方向に搬送しながら連続的に加圧する直進方式の加圧手段5と、積層体固定治具を加圧手段5に搬送し、加圧手段5から搬出する搬送手段2と、搬送手段2を介して後述する積層体固定治具の収容空間を排気する排気手段3と、加圧手段5、搬送手段2及び排気手段3を制御する制御手段4と、を備えている。本実施形態では、搬送システムTは、搬送手段2及び排気手段3により構成される積層体固定治具を直進方向に搬送する搬送システムである。ここで、積層接合体の例としては、固体高分子膜、燃料極膜及び空気極膜を積層、接合してなる固体高分子型燃料電池用の膜−電極接合体(Membrane−Electrode Assembly)が挙げられる。
【0032】
加圧手段5は、被加圧対象を一方向に搬送しながら連続的に加圧する直進方式の加圧手段であって、本実施形態では、ロール式プレスを採用する。その他、ダブルベルト式プレスなどの直進方式の加圧手段を用いることもできる。
【0033】
排気手段3は、真空ポンプ3aと、積層体固定治具の収容空間の真空度や積層体固定治具の載置状態などを検出するための圧力スイッチ3bを備えている。
【0034】
制御手段4は、加圧力、加圧温度、送り速度などの加圧条件、収容空間の圧力、後述する近接センサ13c(図7(B))などの信号に基づいて、加圧手段5、搬送手段2及び排気手段3の制御を行う。
【0035】
積層体固定治具の一実施例について、図2ないし5を参照して説明する。積層体固定治具100は、後述するシャトル13及び中間ステージ20を介して排気手段3と接続される第1固定部材110、第1固定部材110に組み合わせて用いられる第2固定部材120及びシール部材130を備えている。
【0036】
第1固定部材110は、加圧手段5への搬送方向に略平行に配置される角柱状に形成された第1柱状部材111、111の間に、可撓性を有する帯状の部材からなる第1シート部材112が張り渡されて形成されている。第1シート部材112は例えば金属材料であるステンレス鋼からなる。
【0037】
第1シート部材112はシール部材130とともに、それぞれの端部が、板状の第1押さえ部材113により、第1柱状部材111の長手方向に延びる面の1つ(図4(A))にそれぞれ固定されている。
【0038】
第1シート部材112の第1柱状部材111と当接する領域には、排気路114が開口する位置に対応して排気孔112aが貫通形成されている。排気孔112aは各第1柱状部材111にそれぞれ形成されており、真空パッド115を介して排気路114にそれぞれ連通している。
【0039】
排気路114は、真空ポンプ3aに接続され、後述する収容空間Sと連通するように、第1柱状部材111に形成されている。排気路114は途中で第1排気路114aと第2排気路114bとに分岐し、第1排気路114aが外方に配置された第1排気ポート116の連通部116d(図12)に、第2排気路114bが第2排気ポート117の連通部117dにそれぞれ連通して接続されている。
【0040】
第2排気ポート117は、図4(A)に示すように、連通部117dの内部に、収容空間Sに外気が逆流することを防止する逆止弁117aと、逆止弁117aの下面に設けられ、第2排気路114bが連通部117dに接続される開口部の開閉を行うシール部材117bと、逆止弁117aをシール部材117bが前記開口部を閉じる方向(図中下方)に付勢するスプリング117cを備えている。
【0041】
第2排気ポート117は、通常、逆止弁117aにより連通部117dと第2排気路114bとが連通しない状態である。ここで、逆止弁117aが後述する第2排気コネクタ20bにより上方に押し上げられると、シール部材117bにより閉じられていた第2排気路114bの開口部が開いて、連通部117dと第2排気路114bとが連通する。これにより、収容空間Sが第2排気ポート117と連通し、収容空間Sの内部を排気することができる。
【0042】
第1排気ポート116も第2排気ポート117と同様の構成を備えており、これらにより収容空間Sと連通する排気路114のいずれかから排気するかを切り替えることができる。第1排気ポート116及び第2排気ポート117はそれぞれ逆止弁116a、117aを備えているので、収容空間Sに外気が逆流し、積層体固定治具100を排気状態に維持できなくなることを防止することができる。
【0043】
第1柱状部材111には、対向して配置される第2柱状部材121の位置決めを行う位置決めピン118が設けられている。
【0044】
第2固定部材120は、第1柱状部材111と対向して配置される第2柱状部材121、121の間に、可撓性を有する帯状の部材からなる第2シート部材122が張り渡されて形成されている。第2柱状部材121、121間の第2シート部材122の外形は、第1柱状部材111、111間の第1シート部材112の外形と略同一になるように形成されている。
【0045】
第2シート部材122は、可撓シート部材122aである可撓性を有する樹脂材料であるガラス繊維で補強され帯電防止処理されたテフロン(登録商標)に、可撓シート部材122aより硬質で可撓性を有する材料からなり、矩形の板状に形成された剛性付与部材122bが貼り合わされて一体的に形成されている。
剛性付与部材122bは、第1固定部材110と第2固定部材120を組み合わせたときに、積層体W側に面し、積層体Wを加圧可能な位置に配置され、積層体Wの寸法以上かつ収容空間形成部材131の外形を超えない大きさに形成される。剛性付与部材122bを前記寸法に形成することにより、積層体Wを確実に固定し、均一に加圧することができるとともに、第2シート部材122はシール部材130に密着するため収容空間Sを確実に気密状態に保つことができる。本実施形態では、収容空間形成部材131の外形と略同一になるように形成されている。
【0046】
第2シート部材122は、第2柱状部材121に沿って折り曲げられ、側面方向で第2押さえ部材123により固定されている。第2押さえ部材123には、第2シート部材122を固定するための固定ねじ124と、第2押さえ部材123の位置を調節するための調節ビス125と、が設けられている。
【0047】
第2押さえ部材123には、第1固定部材110の位置決めピン118を挿通して第2固定部材120の位置決めを行うための位置決め穴126が貫通形成されている。
【0048】
シール部材130は、第1柱状部材111、111と第2柱状部材121、121とにより対向するように位置決めされた第1シート部材112と第2シート部材122との間に配置される。シール部材130には、第1シート部材112と第2シート部材122とが対向して形成される空間を積層体Wが収容可能に区画する収容部130aと、収容部130aと連通して形成され、第1シート部材112、第2シート部材122及び収容空間形成部材131により区画された密閉空間である収容空間Sの内部を排気するために形成された排気部130bと、が形成されている。シール部材130は、第1シート部材112と第2シート部材122との間に挟みこまれることにより側壁の役割を果たす。
【0049】
排気部130bは、収容部130aと連通して第1柱状部材111側に向かって突出して、第1シート部材112の排気孔112aが面するように形成されている。また、収容部130aに収容された積層体Wが移動しないように収容部130aより小さく形成されている。
【0050】
第1シート部材112の収容部130aの内部には、矩形の枠状に形成された収容空間形成部材131が設けられている。本実施形態では、収容空間形成部材131は金属材料であるステンレス鋼により積層体Wよりも薄く形成され、耐熱接着剤により第1シート部材112に貼り付けられている。
【0051】
収容空間形成部材131は、第1シート部材112と第2シート部材122との間に挟みこまれた状態で、収容部130aを、収容空間形成部材131の内部で積層体Wが位置決めされて配置される収容空間Sと、収容空間形成部材131の外周で排気部130bと連通し収容空間S内部を排気するための流路空間Hと、に区画する。
これにより、積層体Wを収容空間S内部に正確に位置決めすることができるとともに、排気のための流路空間Hを確保し、積層体Wの位置ずれなどにより排気流路が閉塞することがなく、収容空間S内部を確実に排気することができる。
【0052】
収容空間形成部材131の上面には、収容空間形成部材131の一部の厚さを増大させるための厚さ調整部材132が備えられている。
厚さ調整部材132は、少なくとも搬送方向の下流側の1辺に設けられ、本実施形態では、矩形の枠状に形成された収容空間形成部材131の4辺のうち、搬送方向に略垂直となる2辺に設けられている。厚さ調整部材132は、収容空間形成部材131の厚さとの合計が、積層体Wの厚さ以上となるように形成されている。これにより、徐々に積層体Wを加圧することができるので、積層体Wの端部に過大な荷重が負荷されて損傷することを避けることができる。
【0053】
収容空間形成部材131及び厚さ調整部材132を形成する材料として、金属材料、特に、ステンレス鋼を好適に用いることができる。ステンレス鋼は耐熱性ゴム材料などと比較して材料が安価であり、加工も容易であるので、積層体固定治具の製造コストを安価に抑えることができる。また、金属材料は耐久性や耐熱性が高いので、長期にわたって繰り返し使用できるとともに積層体を高温に加熱しながら加圧接合する場合に好適に用いることができる。また、本実施形態では、同様の理由により、シール部材130としてステンレス鋼を採用した。
【0054】
流路カバー170は、排気部130bの少なくとも一部を覆い、収容部130aが露出するように形成された矩形状の開口部を備え、外形が矩形状に形成された板状の部材である。これにより、収容空間Sの排気時に第2シート部材122が排気部130bに引き込まれることを防ぐことができるので、排気孔112aが第2シート部材122により閉塞して収容空間Sの十分な排気ができなくなることを防ぐことができる。
【0055】
積層体固定治具100は、上述の構成により、収容空間Sに積層体Wを配置し、排気手段3により収容空間Sを排気することにより、第1シート部材112及び第2シート部材122を収容空間Sに配置された積層体Wに密着させて積層体Wを固定することができる。
【0056】
そして、固定された積層体Wをロール式プレスなどの加圧手段により加圧して接合し、積層接合体を製造することができる。
【0057】
なお、積層体固定治具は、積層体を収容可能な収容空間を備え、排気手段に接続され、収容空間と連通する排気路が形成され、収容空間と排気手段とを接続する排気路を切り替え可能な第1排気ポート及び第2排気ポートを備えており、収容空間に積層体を配置し排気手段により前記収容空間を排気することにより、積層体を収容空間内に密着固定させ、一方向に搬送しながら加圧可能に構成されていればよく、本実施例で示した構造の積層体固定治具以外にも、例えば、出願人が特願2011−226776で開示した積層体固定治具のような、積層体を配置した空間を減圧して積層体を固定する方式の積層体固定治具であって、収容空間と排気手段とを接続する排気路を切り替え可能な第1排気ポート及び第2排気ポートを備えているものを採用することができる。
【0058】
次に、積層接合体製造装置1の構成について図6及び図7を参照して説明する。図6(A)において、積層体固定治具100は左手前側から右奥側に搬送され、左手前側が搬送方向の上流となる。図6(B)においては、積層体固定治具100は左側から右側に搬送され、左側が搬送方向の上流となる。なお、図6及び図7(A)では、積層体固定治具100を搬送する途中の各部材の配置を、図7(B)では、積層体固定治具100を搬送後の各部材の配置を示している。
【0059】
図6に示すように、本実施形態において、加圧手段5は、4組の加圧ロール50を備え連続して加圧可能なロール式プレスである。加圧ロール50としては、電気ヒーターなどの加熱手段を内蔵し、積層体Wを加熱して加圧するホットプレスを行うためのホットプレスロールを用いることができる。また、ホットプレスロールの下流側に、冷媒配管などの冷却手段を内蔵し、積層体Wを冷却しながら加圧するコールドプレスを行うためのコールドプレスロールを設けることもできる。
【0060】
図6及び図7に示すように、搬送手段2は、積層体固定治具100を加圧手段5に搬送及び加圧手段5から搬出するクランクスライダ搬送装置10と、加圧手段5による加圧工程を経た積層体固定治具100を加圧手段5の下流でクランクスライダ搬送装置10から受け取り載置するための中間ステージ20と、を備えている。ここで、ガイドレール15は、加圧ロール50の加圧部の外側に設けられており、加圧ロール50が第1シート部材112及び第2シート部材122のみを加圧することができるように構成されている。
【0061】
クランクスライダ搬送装置10は、積層体固定治具100を載置するシャトル13と、クランクアーム11、リンク12及びガイドレール15から構成されシャトル13を搬送方向に沿って往復運動させるスライダと、スライダを駆動する駆動手段であるモータ14と、を備えている。スライダをこのような構成にすることにより、簡単な機構で省スペースの搬送手段とすることができる。また、クランクスライダ搬送装置10は、鉛直方向に昇降可能な昇降手段である昇降シリンダ16に接続されており、全体が鉛直方向に昇降可能に構成されている。
【0062】
ガイドレール15は、加圧ロール50の加圧部の外方に、搬送方向に平行に設けられており、クランクアーム11、リンク12及びシャトル13は各ガイドレール15に対応して搬送方向に向かって垂直方向に対向して設けられている。本実施形態では、シャトル13は、加圧ロール50に対応して6か所に設けられており、連動して作動するように接続されて形成されている。
【0063】
クランクアーム11の一端はモータ14に回動可能に接続され、他端は回動支点11aにおいてリンク12の一端にお互いに回動可能に接続されている。リンク12の他端は一番上流のシャトル13に接続されている。ガイドレール15は、リンク12によって往復運動するシャトル13を加圧ロール50に向かう搬送方向に案内する。
【0064】
シャトル13は、積層体固定治具100を第1柱状部材111で載置して固定する。第1柱状部材111を載置する載置面13aには、積層体固定治具100を載置したときに第1排気ポート116と連通し、排気手段3により収容空間Sを排気するための第1排気コネクタ13bと、載置面13aに積層体固定治具100が載置されたか否かを判定するための近接センサ13cと、積層体固定治具100の位置決めを行う位置決めピン13dが設けられている。
【0065】
第1排気コネクタ13bは、第1排気ポート116に挿入可能に上方に突出して設けられており、図示しない真空配管により排気手段に接続されている。ここで、対向する1組のシャトル13のうち少なくとも1方のシャトル13に設けられた第1排気コネクタ13bが圧力スイッチ3bに接続されている。
【0066】
中間ステージ20は、シャトル13よりも内側に設けられ、シャトル13から、積層体固定治具100を受け取り、載置面20aに第1柱状部材111を載置する。載置面20aには、第2排気ポート117と連通し、排気手段3により収容空間Sを排気するための第2排気コネクタ20bが設けられている。第2排気コネクタ20bは、第2排気ポート117に挿入可能に上方に突出して設けられており、図示しない真空配管により排気手段3に接続されている。ここで、対向する1組の中間ステージ20のうち少なくとも1方の中間ステージ20に設けられた第2排気コネクタ20bが圧力スイッチ3bに接続されている。
【0067】
中間ステージ20は、鉛直方向に昇降可能な昇降手段である昇降シリンダ21に接続されており、各中間ステージ20が連動して鉛直方向に昇降可能に構成されている。本実施形態では、中間ステージ20は、加圧ロール50に対応して上流と下流のそれぞれに、計5か所設けられている。
【0068】
クランクスライダ搬送装置10は、シャトル13が最も上流側(図8)及び最も下流側(図11)に位置するときに、中間ステージ20と隣接する位置となるように構成されている。
【0069】
搬送システムTを用いた積層体固定治具100の搬送方法及び積層接合体の製造方法を図8ないし12を参照して説明する。ここで、図12は、第1排気ポート116と第2排気ポート117とが並んで見えるように、図3のX方向から見た搬送方向に向かって右側の構成を示す断面説明図であり、積層体固定治具100の搬送に伴うシャトル13及び中間ステージ20の動き、第1排気コネクタ13b及び第2排気コネクタ20bの動きを模式的に説明するため、構造を模式的に示すとともに、一部の構成を省略、簡素化したものである。
【0070】
まず、図8に示すように、回動支点11aが最も上流側にある位置、つまり、シャトル13が最も上流側にある状態で、シャトル13の載置面13aに第1柱状部材111を載置することにより積層体固定治具100を載置する。このとき、中間ステージ20は、昇降シリンダ21によりシャトル13よりも下方に下げられている。なお、図8には積層体固定治具100は2個載置されているが、これに限定されるものではない。
【0071】
ここで、図12(A)に示すように、第1柱状部材111には、第1排気ポート116に第1排気コネクタ13bのみが挿入されて接続されている。第1排気コネクタ13bが第1排気ポート116に挿入されると、スプリング116cにより図中下方に付勢されていた逆止弁116aが押し上げられる。これにより、シール部材116bにより閉じられていた第1排気路114aの開口部が開いて、連通部116dと第1排気路114aとが連通する。これにより、収容空間Sが第1排気路114aを介して第1排気ポート116と連通し、収容空間Sの内部を排気することができる。
【0072】
次に、図9に示すように、モータ14を作動させクランクアーム11を回動させると、リンク12を介してシャトル13がガイドレール15に沿って移動し、積層体固定治具100が収容空間Sの排気を継続しながら加圧ロール50に向かって搬送される。ここで、積層体固定治具100は、第1シート部材112及び第2シート部材122が加圧ロール50による加圧面上となるように搬送される。
【0073】
そして、積層体固定治具100が加圧ロール50に達すると、図10に示すように、加圧ロール50により、下流に搬送されながら第1シート部材112及び第2シート部材122を介して積層体Wに加圧力が負荷される。これにより、積層体Wが接合され、積層接合体が製造される。
【0074】
ここで、制御手段4は、少なくとも加圧ロール50において加圧されている間は、積層体固定治具100が、あらかじめ設定された加圧ロール50の送り速度に合わせた搬送速度で搬送するように制御する。クランクアーム11の回転角θ(図10(A))をモータ14のエンコーダにより検出し、クランク角速度ωを算出し、加圧ロール50の送り速度vを基準に速度制御の指令値に逐次設定し、次式に基づいて制御する。ここで、クランクアームの長さをr、リンクの長さをL、リンク比λ=r/Lとする。
【0075】
【数1】

【0076】
これにより、積層体固定治具100と加圧ロール50との間に生じる摩擦力を軽減することができ、積層体固定治具100や加圧ロール50の寿命を向上させることができるとともに、積層体に過大な負荷がかかるおそれがなく、高い品質の積層接合体を製造することができる。更に、シャトル13の搬送変位を検出する搬送用エンコーダと、加圧手段の送り変位を検出する加圧手段送り用エンコーダと、により搬送速度と加圧手段の速度のズレを検出し、速度のズレを補正するようにモータ14の送り速度を式1に基づいて補正制御することもできる。これによれば、加圧手段の送り速度と積層体固定治具の搬送速度とを更に高精度に同期させることができるようになる。
【0077】
続いて、図11に示すように、回動支点11aが最も下流側の位置に到達すると、シャトル13が最も下流側にある状態となり、加圧ロール50から積層体固定治具100が搬出された状態となる。このとき、シャトル13と隣接した下方に中間ステージ20が位置している。中間ステージ20は下方に位置しているため、第2排気コネクタ20bは図12(B)に示すように、第2排気ポート117の下方に位置している。
【0078】
続いて、中間ステージ20が昇降シリンダ21により上昇し、載置面20aとシャトル13の載置面13aとが同じ高さになるように上昇する。これにより、積層体固定治具100は、シャトル13と中間ステージ20との双方に載置され、図12(C)に示すように第2排気コネクタ20bが第2排気ポート117に挿入されて収容空間Sと連通する。つまり、第1排気ポート116及び第2排気ポート117がともに収容空間Sと連通しており、収容空間Sが排気される。
【0079】
続いて、クランクスライダ搬送装置10が昇降シリンダ16により下降する。これにより、積層体固定治具100を載置するのは、中間ステージ20のみとなり、積層体固定治具100がシャトル13から中間ステージ20に受け渡される。このとき、図12(D)に示すように、シャトル13が下降することにより第1排気コネクタ13bが下降して排気路が第2排気路14bに切り替わり、第2排気コネクタ20bにより収容空間Sの排気を継続する。
【0080】
クランクスライダ搬送装置10は下降した状態のまま、モータ14によりクランクアーム11を駆動してシャトル13を最も上流の位置に戻す。
【0081】
そして、クランクスライダ搬送装置10は昇降シリンダ16により上昇すると図12(C)と同様の状態となる。更に、中間ステージ20が昇降シリンダ21により下降すると図12(A)と同様の状態となる。その後、上述の工程の工程を繰り返すことにより、積層体固定治具100は、次々に上流側の中間ステージ20からシャトル13に受け渡され、シャトル13によって搬送されながら加圧ロール50により加圧され、シャトル13から下流側の中間ステージ20に受け渡され、収容空間Sの排気状態を維持したまま、上流側から下流側へ搬送される。
【0082】
また、上述のように加圧ロール50による加圧面を基準にして、シャトル13と中間ステージ20との一方が他方に対し相対的に昇降することにより積層体固定治具100の受け渡しを行うことにより、加圧面から積層体固定治具100が上下することなく、積層体固定治具100の受け渡しを確実に行うことができる。
【0083】
近接センサ13cは、中間ステージ20にも設けることができる。制御手段4は、近接センサ13cからの信号により積層体固定治具100がシャトル13、中間ステージ20に正しく載置されているか否かを判定し、正しく載置いないと判定した場合に、警報を出すとともに搬送システムTの全ての駆動箇所(搬送手段2、加圧ロール50など)を停止する。
【0084】
また、制御手段4は、圧力スイッチ3bからの信号により、収容空間Sの圧力が許容範囲内になっているか否かを判定し、許容範囲内でないと判定した場合には、積層体固定治具100内の積層体Wは不良として履歴を残し、不良品として処理する。また、圧力スイッチ3bを用いて収容空間Sの内部を所定の圧力に制御することができるので、第1シート部材112及び第2シート部材122が積層体Wに密着し固定する力を制御することができる。
【0085】
(変更例)
加圧手段5の加圧ロール50の数は製造する積層接合体や工程にあわせて任意に設定することができる。また、本実施形態では、搬送手段としてクランクスライダ搬送装置10を採用したが、被加圧対象を一方向に搬送する搬送手段としてその他の方式を採用することができる。例えば、ボールねじを用いた搬送手段を用いることもできる。
本実施形態では、クランクスライダ搬送装置10及び中間ステージ20がそれぞれ昇降手段を備える構成であるが、いずれか一方でもよく、積層体固定治具100の受け渡しが可能であれば昇降手段を備えなくてもよい。
【0086】
積層接合体製造装置1は、加圧ロール50から見て積層体固定治具100の搬送方向の上流側に設けられ積層体固定治具100と積層体Wとを予備加熱する予備加熱部や搬送方向の下流側に設けられ積層体固定治具100と積層体Wとを冷却する余熱除去部を設けることもできる。これにより、確実な加熱及び冷却が短時間で可能となり、生産性を向上させることができる。予備加熱部、余熱除去部における積層体固定治具100の搬送、受け渡しも搬送システムTを採用することができる。
【0087】
本実施形態では、加圧手段5としてロール式プレスを採用したが、これに限定されるものではない。先に例示したダブルベルト式プレスなどの直進方式の加圧手段以外にも、平板プレスなどのバッチ式の加圧手段を用いることもできる。平板プレスを採用する場合には、積層体固定治具100が中間ステージ20に載置された状態で加圧を行うことができる。あるいは、中間ステージ20と中間ステージ20の間に積層体固定治具100を停止させた状態で加圧を行うこともできる。
【0088】
[実施形態の効果]
本発明の積層体固定治具100の搬送システムT、積層体固定治具100の搬送方法及びこの搬送システムTを備えた積層接合体製造装置1は、積層体固定治具100を直進方向に搬送する搬送システムTを採用しているため、各工程を直進方向に配置することができるので、回転式のターンテーブルのように大きなデッドスペースが生じることを避けることができる。これにより、搬送システムTを省スペースなシステムとすることができ、積層接合体製造装置1を小型化することができる。
そして、上述した構成を備えているため、積層体固定治具100を積層体Wが収容される収容空間Sの排気状態を維持したまま、上流側の中間ステージ20からシャトル13に受け渡し、シャトル13によって搬送し、シャトル13から下流側の中間ステージ20に受け渡すという動作を繰り返すことにより、積層体固定治具100を連続して搬送し、連続して加圧することができる。
また、積層体固定治具100が加圧ロール50により加圧されている間は、加圧ロール50の送り速度に合わせた搬送速度で搬送するため、積層体固定治具100と加圧ロール50との間に生じる摩擦力を軽減することができ、積層体固定治具100や加圧ロール50の寿命を向上させることができるとともに、積層体Wに過大な負荷がかかるおそれがなく、高い品質の積層接合体を製造することができる。
これらにより、被加圧対象を一方向に搬送しながら連続的に加圧する直進方式の加圧手段(ロール式プレスやダブルベルト式プレスなど)に好適に用いることができる搬送システムTを提供することができ、積層接合体を効率的に製造することができる。
また、簡易な排気手段を採用することができるので、搬送システムに大容量で高価な排気手段を用いる必要がない。
【0089】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、積層体固定治具100を直進方向に搬送する搬送システムTについて示したが、これに限定されるものではない。例えば、ガイドレール15を円弧などの曲線状に形成し、クランクアーム11とリンク12との接続箇所およびリンク12とシャトル13の接続箇所を3次元的に可動に構成することで、積層体固定治具100を直進方向以外に搬送することもできる。更には、中間ステージ20を方向転換の基点として前後のガイドレール15を非直線状に配置することで中間ステージ20を基点として積層体固定治具100の搬送方向を変換することもできる。
【符号の説明】
【0090】
1…積層接合体製造装置
2…搬送手段
3…排気手段
3a…真空ポンプ
3b…圧力スイッチ
4…制御手段
5…加圧手段
10…クランクスライダ搬送装置
11…クランクアーム
11a…回動支点
12…リンク
13…シャトル
13a…載置面
13b…第1排気コネクタ
13c…近接センサ
13d…位置決めピン
14…モータ
15…ガイドレール
16…昇降シリンダ
20…中間ステージ
20a…載置面
20b…第2排気コネクタ
21…昇降シリンダ
50…加圧ロール
100…積層体固定治具
110…第1固定部材
111…第1柱状部材
112…第1シート部材
112a…排気孔
113…第1押さえ部材
114…排気路
114a…第1排気路
114b…第2排気路
115…真空パッド
116…第1排気ポート
116a…逆止弁
116b…シール部材
116c…スプリング
116d…連通部
117…第2排気ポート
117a…逆止弁
117b…シール部材
117c…スプリング
117d…連通部
118…位置決めピン
120…第2固定部材
121…第2柱状部材
122…第2シート部材
122a…可撓シート部材
122b…剛性付与部材
123…第2押さえ部材
124…固定ねじ
125…調節ビス
126…位置決め穴
130…シール部材
130a…収容部
130b…排気部
131…収容空間形成部材
132…厚さ調整部材
170…流路カバー
S…収容空間
T…搬送システム
W…積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜材料が積層された積層体を加圧手段により加圧し積層接合体を製造する積層接合体製造装置において前記積層体を固定する積層体固定治具を搬送する搬送システムであって、
前記積層体固定治具に接続可能な排気手段と、
前記積層体固定治具を載置するシャトルと、前記シャトルを搬送方向に沿って往復運動させるスライダと、前記スライダを駆動する駆動手段と、を備えた積層体固定治具を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送された前記積層体固定治具を前記シャトルから受け取り載置するための中間ステージと、を備え、
前記積層体固定治具は、前記積層体を収容可能な収容空間を備え、前記収容空間と連通する排気路が形成され、前記収容空間と排気手段とを接続する排気路を切り替え可能な第1排気ポート及び第2排気ポートを備えており、前記収容空間に積層体を配置し排気手段により前記収容空間を排気することにより、前記積層体を前記収容空間内に密着固定させる治具を用い、
前記シャトルは、前記積層体固定治具を載置したときに前記第1排気ポートと連通し、前記排気手段により前記収容空間を排気するための第1排気コネクタを備え、
前記中間ステージは、前記積層体固定治具を載置したときに前記第2排気ポートと連通し、前記排気手段により前記収容空間を排気するための第2排気コネクタを備え、
前記搬送手段は、前記シャトルに前記積層体固定治具を載置して前記第1排気コネクタを介して前記収容空間を排気した状態で前記加圧手段に向かって前記積層体固定治具を搬送し、搬送方向の下流に位置する中間ステージに前記積層体固定治具を受け渡し、前記中間ステージにおいて前記第2排気コネクタが前記第2排気ポートと連通した後に、排気路を切り替えて前記排気手段により前記収容空間を排気することにより、前記積層体固定治具の収容空間内を排気状態に維持したまま搬送することを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
前記加圧手段は複数の加圧部を備えており、前記複数の加圧部に対応して前記シャトル及び中間ステージがそれぞれ設けられており、
前記搬送手段の複数のシャトルは、連動して作動するように構成されており、
前記搬送手段は、中間ステージに載置された積層体固定治具を前記シャトルに受け取って前記第1排気コネクタを介して前記収容空間を排気した状態で搬送し、隣接する下流側の中間ステージに受け渡すことを特徴とする請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記加圧手段は、被加圧対象を直進方向に搬送して加圧する加圧手段であって、
前記積層体固定治具としては、直進方向に搬送しながら加圧可能に構成された積層体固定治具を用い、
前記積層体固定治具の加圧は、前記搬送手段により前記積層体固定治具を搬送しながら行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の搬送システム。
【請求項4】
前記搬送手段は、前記積層体固定治具が前記加圧手段により加圧されている間は、前記積層体固定治具を前記加圧手段の送り速度に合わせた搬送速度で搬送することを特徴とする請求項3に記載の搬送システム。
【請求項5】
前記搬送手段及び中間ステージの少なくとも一方が昇降手段を備え、前記加圧手段により前記積層体固定治具が加圧される加圧面を基準にして、一方が他方に対し相対的に昇降することにより前記積層体固定治具の受け渡しを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の搬送システム。
【請求項6】
第1排気ポート及び第2排気ポートは、前記収容空間に外気が逆流することを防止する逆止弁を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の搬送システム。
【請求項7】
前記スライダは、一端が回転駆動を行う駆動手段に接続され回動するクランクアームと、クランクアームの他端とお互いに回動可能に一端が接続されたリンクと、リンクの他端と接続されリンクによって往復運動するシャトルを搬送方向に案内するガイドレールと、を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の搬送システム。
【請求項8】
前記クランクアームの回転角の角速度を算出し、算出された角速度に基づいて前記搬送手段による前記積層体固定治具の搬送速度を制御することを特徴とする請求項7に記載の搬送システム。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の搬送システムを備えた積層接合体製造装置。
【請求項10】
膜材料が積層された積層体を加圧手段により加圧し積層接合体を製造する積層接合体製造装置において前記積層体を固定する積層体固定治具を搬送する搬送方法であって、
前記積層体固定治具に接続可能な排気手段と、
前記積層体固定治具を載置するシャトルと、前記シャトルを搬送方向に沿って往復運動させるスライダと、前記スライダを駆動する駆動手段と、を備えた積層体固定治具を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送された前記積層体固定治具を前記シャトルから受け取り載置するための中間ステージと、を用意し、
前記積層体固定治具は、前記積層体を収容可能な収容空間を備え、前記収容空間と連通する排気路が形成され、前記収容空間と排気手段とを接続する排気路を切り替え可能な第1排気ポート及び第2排気ポートを備えており、前記収容空間に積層体を配置し排気手段により前記収容空間を排気することにより、前記積層体を前記収容空間内に密着固定させる治具を用い、
前記第1排気ポートから前記収容空間を排気した状態で前記加圧手段の上流から前記加圧手段に向かって前記積層体固定治具を搬送する工程と、
前記搬送された積層体固定治具を搬送方向の下流に位置する中間ステージに受け渡し、前記中間ステージにおいて排気路を切り替えて前記第2排気ポートから前記収容空間を排気する工程と、を備えたことを特徴とする搬送方法。
【請求項11】
前記加圧手段が、被加圧対象を直進方向に搬送して加圧する加圧手段である場合に、
前記積層体固定治具が前記加圧手段により加圧されている間に、前記積層体固定治具を前記加圧手段の送り速度に合わせた搬送速度で搬送する工程を更に備えたことを特徴とする請求項10に記載の搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−112448(P2013−112448A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258884(P2011−258884)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【特許番号】特許第5136681号(P5136681)
【特許公報発行日】平成25年2月6日(2013.2.6)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【Fターム(参考)】