説明

搬送ベルト

【課題】 少なくとも底部断面が円弧状の溝部を有するプーリと組み合わされるループ状の搬送ベルトにおいて、高い走行安定性および搬送能力を有する搬送ベルトを提供することである。
【解決手段】 少なくとも底部断面が円弧状の溝部を有するプーリ10と組み合わされるループ状の搬送ベルトであって、下部2は前記溝部に収容されるように断面が円弧状で構成され、上部3はその表面が平面で構成され、かつ下部から上部までの高さh1は、前記プーリ溝部の深さh2よりも高いことを特徴とする搬送ベルト1である。前記平面の上部両側端からフランジ部が延設され、かつこのフランジ部が前記プーリ溝部上端より上方に位置しているのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類、カード、硬貨などの搬送装置に使用される搬送ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
金融機関などで、紙葉類(例えば紙幣など)、カード、硬貨などを搬送するのに使用される搬送ベルトは、断面が円形の丸ベルトや、搬送面が平面である平ベルトなどが使用される。前記丸ベルトは、その下部が、断面が円弧状の溝部を有するプーリに収容された状態で走行するため、走行中にこのプーリから外れにくく、走行安定性に優れる。しかしながら、前記搬送物は柔軟であったり、硬貨のように形状が丸く、搬送時に硬貨同士が重なるなどの不安定な挙動を示すものが多い。このため、丸ベルトで前記搬送物を搬送する場合には、下記のような問題がある。
(I)丸ベルトは搬送物との接触が線接触であり、搬送物を押圧する力が弱いので、前記搬送物を搬送にしにくい(例えば、搬送物が硬貨などの場合には、硬貨が搬送されにくく、滞留しやすい)。
(II)搬送物から生じる紙粉や磨耗粉がベルトに付着した場合には、ベルトの摩擦力が低下するので、さらに搬送しにくくなる。
(III)線接触は接触部の圧力が高いので、ベルトの搬送物との接触部に傷が入りやすく、この傷の進展により、ベルトが切断されやすい。
【0003】
一方、平ベルトは搬送物との接触が面接触であるので、搬送物を安定して搬送することができるが、一般に、丸ベルトよりも安定して走行させることが難しく、走行中に蛇行してプーリから外れるという問題がある。
特許文献1には、平ベルト本体の下面に長手方向に沿って断面V型のガイドを少なくとも一個設け、該ガイドの両側面部を高硬度、両側面部以外の残余部を低硬度の2層構造としたことを特徴とするVガイド付搬送ベルトが記載されている。これによると、このガイドとガイド溝を有するプーリとを嵌合した状態で走行させるので、平ベルトの蛇行を確実に防止することができると記載されている。
【0004】
しかしながら、一般に、ガイドとガイド溝との組み合わせは、丸ベルトと円弧状の溝部との組み合わせに対して走行安定性が低く、ベルトの逸脱を防止する規制力が小さい。このため、硬貨のような搬送時に不安定な挙動を示すものを搬送する場合には、ベルトに偏った荷重がかかりやすく、搬送中に前記ガイドがガイド溝から外れて、ベルトがプーリから外れるおそれがある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−35845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、少なくとも底部断面が円弧状の溝部を有するプーリと組み合わされるループ状の搬送ベルトにおいて、高い走行安定性および搬送能力を有する搬送ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、上記搬送ベルトにおいて、所定の形状を有する下部が前記プーリ溝部に収容されるので高い走行安定性が得られ、かつ上部表面が平面であるので高い搬送能力が得られるという新たな知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明における搬送ベルトは、以下の構成からなる。
(1)少なくとも底部断面が円弧状の溝部を有するプーリと組み合わされるループ状の搬送ベルトであって、下部は前記溝部に収容されるように断面が円弧状で構成され、上部はその表面が平面で構成され、かつ下部から上部までの高さは、前記プーリ溝部の深さよりも高いことを特徴とする搬送ベルト。
(2)上部平面と断面が円弧状の下部との間に、断面が直線状で構成される両側部を有する前記(1)記載の搬送ベルト。
(3)前記平面の上部両側端からフランジ部が延設され、かつこのフランジ部が前記プーリ溝部上端より上方に位置している前記(1)または(2)記載の搬送ベルト。
(4)前記上部平面に近いベルト内部に補強用芯材が埋設されている前記(1)〜(3)のいずれかに記載の搬送ベルト。
(5)前記上部平面を粗面にした前記(1)〜(4)のいずれかに記載の搬送ベルト。
(6)前記粗面は布目形状を有する面である前記(5)記載の搬送ベルト。
(7)前記粗面はベルトの幅方向に沿って横溝を設けた面である前記(5)記載の搬送ベルト。
(8)前記粗面はベルトの長手方向に沿って縦溝を設けた面である前記(5)記載の搬送ベルト。
(9)前記粗面の表面粗さがRmax5〜50μmである前記(5)〜(8)のいずれかに記載の搬送ベルト。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)によれば、所定の形状を有する下部を前記プーリ溝部に収容するので高い走行安定性が得られ、かつ上部表面を平面にするので高い搬送能力が得られるという効果がある。上記(2)によれば、走行中にベルトが傾くことによる走行安定性の低下を抑制することができるので、搬送面の傾きが防止でき、より安定した搬送能力が得られる。上記(3)によれば、上部平面に所定のフランジ部を延設するので搬送面が広くなり、より高い搬送能力が得られる。また、プーリの外周部によってベルトフランジ部を保持することによって、搬送面の傾きを防止し、より安定した搬送能力が得られる。さらに、走行中にベルトが傾いた場合には、このフランジ部がプーリ上部に接することにより、ベルトが傾くのを抑制することができるので、より高い走行安定性および搬送能力が得られる。上記(4)によれば、ベルトを補強するための所定の芯材を前記上部平面に近いベルト内部に埋設するので、ベルトに傷が入った場合には、傷の進展がこの芯材により妨げられ、ベルトの耐久性を向上することができる。上記(5)〜(9)によれば、上部平面を所定の粗面にするので、搬送物から生じる紙粉や磨耗粉がベルトの上部平面に付着しても、この平面の摩擦力が低下するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかる搬送ベルトについて図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明における搬送ベルトを示す破断斜視図であり、図2は、この搬送ベルトと底部断面が円弧状の溝部を有するプーリとを組み合わせた状態を示す要部の拡大断面図である。図1,図2に示すように、この搬送ベルト1の下部2は、断面が円弧状の溝部を有するプーリ10に収容されるように断面が円弧状で構成されている。この状態で、ベルト1を走行させることにより、高い走行安定性が得られる。また、搬送ベルト1の上部3は、その表面(搬送面)が平面で構成されていると共に、搬送ベルト1の下部2から上部3までの高さh1は、プーリ10の溝部の深さh2よりも高い。これにより、高い搬送能力が得られる。
【0011】
搬送ベルト1の材料としては、搬送ベルトとして使用することができる各種公知の弾性材料を使用することができ、例えばゴム、合成樹脂、熱可塑性エラストマーなどの1種または2種以上を用いることができる。前記ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、H−NBR(水素添加ニトリルブタジエンゴム)等が挙げられる。前記合成樹脂としては、例えばポリウレタン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。前記熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等が挙げられる。
【0012】
搬送ベルト1の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば上記材料で筒状のベルトを作成し、この筒状のベルトを周方向に切断して角ベルトを作成し、この角ベルトの片面を、片面の断面が図1,図2に示す円弧状となるように研磨することによってループ状の搬送ベルト1を製造することができる。また、帯状の角ベルトを作成した後、上記と同様にしてこの帯状角ベルトの片面全周を研磨し、ついでこのベルトの両端部を接合することによって製造してもよく、所定の形状に射出成型し、このベルトの両端部を接合することによって製造してもよい。
【0013】
また、図1,図2に示すように、搬送ベルト1は、上部3と下部2との間に、断面が直線で構成されている側部4,4を有する。そして、図2に示すように、この側部4,4は、一方がプーリ10の溝部内に入り、他方がプーリ10の溝部上端より上に出ている。また、プーリ10は、断面が円弧状の溝部底部と溝部上端との間は、断面が直線状で構成されている。この状態で、搬送ベルト1とプーリ10とを組み合わせ、ベルト1を走行させ、走行中にこのベルト1が傾いた場合には、ベルト1の側部4,4がプーリ10の溝部の両側面に接触するので、ベルトの傾きが抑制されると共に、搬送面の傾きも抑制される。
【0014】
図3(a)は、本発明の他の搬送ベルトを示す破断斜視図であり、図3(b)は、本発明のさらに他の搬送ベルトを示す破断斜視図である。図3(a),(b)に示すように、これらの搬送ベルト31,41は、下部32,42から上部33,43に向かって広がった形状を有している。本発明の搬送ベルトをこの形状にした場合には、搬送面を図1に示す搬送ベルト1よりも広くすることができるので、搬送能力がより向上する。なお、上記した以外の構成は、前記した搬送ベルトと同様であるので、説明を省略する。
【0015】
図4は、本発明のさらに他の搬送ベルトを示す破断斜視図であり、図5は、この搬送ベルトと底部断面が円弧状の溝部を有するプーリとを組み合わせた状態を示す要部の拡大断面図である。図4,図5に示すように、この搬送ベルト51は、平面(搬送面)の上部53の両側端からフランジ部54,54が延設されている。このフランジ部54,54を設けることにより、搬送面が図1に示す搬送ベルト1よりも広くなり、搬送能力がより向上する。そして、このフランジ部54,54は、プーリ10の溝部上端11より上方に位置している。これにより、走行中にベルト51が傾いた場合には、このフランジ部54,54がプーリ10の上部に接するので、ベルト51が傾くのを抑制することができる。
【0016】
搬送ベルト51の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば前記した搬送ベルトと同様にして角ベルトを作成し、この角ベルトの片面および両側面を、片面および両側面の断面が図4,図5に示す円弧状を有し、かつ他面の両側端が図4,図5に示すフランジ部を有するように研磨することによってループ状の搬送ベルト51を製造することができる。なお、上記した以外の構成は、前記した搬送ベルトと同様であるので、図1と同じ符号を付して説明を省略する。
【0017】
図6は、本発明のさらに他の搬送ベルトを示す要部の拡大断面図である。図6に示すように、この搬送ベルト61は、上部63の平面に近いベルト61の内部に、ベルト61の長手方向に延びる態様で補強用の芯材64,64,64,64を埋設している。これにより、ベルトに傷が入った場合には、傷の進展がこの芯材により妨げられるので、ベルトの耐久性が向上する。
【0018】
前記芯材64,・・・,64としては、特に限定されるものではなく、各種の公知のものを用いることができ、例えばケブラー繊維、金属線、ポリエステルコード、ナイロンコード、ガラスコード、アラミド、レーヨンなどを糸状や繊維状などの形状にしたものが挙げられる。なお、芯材の形状は特に限定されるものではなく、上記したケブラー繊維などをシート状(織布)や編組状にしたものであってもよい。
上部63の平面に近いベルト61の内部に埋設される芯材の本数は特に限定されるものではなく、必要な搬送力に合わせて、強度、伸び率を持ったものを選定すればよい。芯材64,・・・,64は、上部63の平面に近いベルト61の内部に等間隔で埋設してもよく、中央部分または両側縁部分のいずれかが密になるように埋設してもよい。なお、芯材64,・・・,64を上部63の平面に近いベルト61の内部に埋設する方法としては、特に限定されるものではなく、各種の公知の方法で埋設することができる。また、この芯材は、前記したフランジ部に設けてもよい(図示せず)。
上記した以外の構成は、前記した搬送ベルトと同様であるので、図1と同じ符号を付して説明を省略する。
【0019】
本発明における搬送ベルトは、その上部平面(搬送面)を粗面にしてもよい。これにより、搬送物から生じる紙粉や磨耗粉がベルトの搬送面に付着しても、この搬送面の摩擦力が低下するのを抑制することができる。
前記粗面としては、図7(a)〜(c)のものが挙げられる。図7(a)は、本発明における粗面を、布目形状を有する面にした搬送ベルトを示す破断斜視図である。図7(a)に示すように、この搬送ベルト71は、上部73の平面に布目の形状を有する金型を用いて布目を転写し、上部73の平面を、布目形状を有する粗面にしたものである。
図7(b)は、本発明における粗面を、ベルトの幅方向に沿って横溝を設けた面にした搬送ベルトを示す破断斜視図である。図7(b)に示すように、この搬送ベルト81は、上部83の平面を、ベルト81の幅方向に沿って横溝を設けて粗面にしたものである。
図7(c)は、本発明における粗面を、ベルトの長手方向に沿って縦溝を設けた面にした搬送ベルトを示す破断斜視図である。図7(c)に示すように、この搬送ベルト91は、上部93の平面を、ベルト91の長手方向に沿って縦溝を設けて粗面にしたものである。
前記横溝および縦溝の形状としては、例えば半円形、V字形、矩形、台形等が挙げられる。なお、上記した以外の構成は、前記した搬送ベルトと同様であるので説明を省略する。
【0020】
本発明における粗面の表面粗さは、Rmax5〜50μmであるのがよい。これにより、搬送物から生じる紙粉や磨耗粉がベルトの搬送面に付着することにより生じる搬送面の摩擦力の低下を、確実に抑制することができる。これに対し、前記Rmaxが5μm未満であると、搬送面の摩擦力が低下するおそれがあり、50μmを超えると、搬送面の耐摩耗性が低下する為あまり好ましくない。
前記表面粗さRmaxは、表面粗さ計で測定して得られた値であり、日本工業規格JIS−B0601に規格化されている「表面粗さ−定義及び表示」に準拠したものである。
【0021】
本発明の搬送ベルトは、金融機関で紙葉類(例えば紙幣など)、カード、硬貨などを搬送する搬送装置などに使用され、これらの搬送物を確実に搬送することができる。また、本発明の搬送ベルトが使用される搬送装置は、上記搬送装置に限定されるものではなく、例えば精密機器、食品、遊戯機器、工作機などの搬送装置の搬送ベルトとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における搬送ベルトを示す破断斜視図である。
【図2】本発明における搬送ベルトと底部断面が円弧状の溝部を有するプーリとを組み合わせた状態を示す要部の拡大断面図である。
【図3】(a)は、本発明の他の搬送ベルトを示す破断斜視図であり、(b)は、本発明のさらに他の搬送ベルトを示す破断斜視図である。
【図4】本発明のさらに他の搬送ベルトを示す破断斜視図である。
【図5】本発明のさらに他の搬送ベルトと底部断面が円弧状の溝部を有するプーリとを組み合わせた状態を示す要部の拡大断面図である。
【図6】本発明のさらに他の搬送ベルトを示す要部の拡大断面図である。
【図7】(a)は、本発明における粗面を、布目形状を有する面で構成した搬送ベルトを示す破断斜視図であり、(b)は、本発明における粗面を、ベルトの幅方向に沿って横溝を設けた面で構成した搬送ベルトを示す破断斜視図であり、(c)は、本発明における粗面を、ベルトの長手方向に沿って縦溝を設けた面で構成した搬送ベルトを示す破断斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1,31,41,51,61,71,81,91 搬送ベルト
2,32,42 下部
3,33,43,53,63,73,83,93 上部
10 プーリ
54 フランジ部
64 芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも底部断面が円弧状の溝部を有するプーリと組み合わされるループ状の搬送ベルトであって、
下部は前記溝部に収容されるように断面が円弧状で構成され、上部はその表面が平面で構成され、かつ下部から上部までの高さは、前記プーリ溝部の深さよりも高いことを特徴とする搬送ベルト。
【請求項2】
上部平面と断面が円弧状の下部との間に、断面が直線状で構成される両側部を有する請求項1記載の搬送ベルト。
【請求項3】
前記平面の上部両側端からフランジ部が延設され、かつこのフランジ部が前記プーリ溝部上端より上方に位置している請求項1または2記載の搬送ベルト。
【請求項4】
前記上部平面に近いベルト内部に補強用芯材が埋設されている請求項1〜3のいずれかに記載の搬送ベルト。
【請求項5】
前記上部平面を粗面にした請求項1〜4のいずれかに記載の搬送ベルト。
【請求項6】
前記粗面は布目形状を有する面である請求項5記載の搬送ベルト。
【請求項7】
前記粗面はベルトの幅方向に沿って横溝を設けた面である請求項5記載の搬送ベルト。
【請求項8】
前記粗面はベルトの長手方向に沿って縦溝を設けた面である請求項5記載の搬送ベルト。
【請求項9】
前記粗面の表面粗さがRmax5〜50μmである請求項5〜8のいずれかに記載の搬送ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−168844(P2006−168844A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359585(P2004−359585)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】