説明

搬送ローラーの製造方法及び円筒軸の製造方法

【課題】金属の板材から略円筒状の搬送ローラー又は円筒軸を形成した場合であっても、一対の端部が互いに接する接続部での腐食の発生を防止できる搬送ローラーの製造方法及び円筒軸の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、シート状の記録媒体上に情報を記録する印刷装置に設けられ、記録媒体を搬送する搬送ローラーの製造方法であって、板材を曲げて略円筒状の円筒部材を形成する工程S1と、板材の一対の端部が互いに接する接続部を電解めっきによって被覆するめっき工程S3とを有するという方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ローラーの製造方法及び円筒軸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シート状の記録媒体上に情報を記録する印刷装置が用いられており、この印刷装置には記録媒体を搬送する搬送ローラーが設けられている。搬送ローラーには中実の棒状部材が一般的に用いられている。
【0003】
一方、中実の材料は重量およびコストが嵩むという課題があるため、特許文献1には、金属板を曲げ加工して円筒軸を成形する技術が記載されている。
円筒軸は、プレス加工(打ち抜き加工や曲げ加工)等を用いて製造される。まず、大型の金属板から、打ち抜き加工等によって略矩形の板材(矩形板)が形成される。次に、曲げ加工によって矩形板を曲げて、略円筒状の円筒軸が形成される。この円筒軸は、矩形板の一対の端部が接する接続部を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−289496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術を印刷装置の搬送ローラーに適用しようとした場合には、下記のような課題があった。
大型金属板から矩形板を形成することにより、例えば大型金属板に腐食防止用の表面処理(亜鉛めっき等)が施されていたとしても、加工後の矩形板における一対の端部では金属の基材が露出している。そのため、矩形板の一対の端部が互いに接する接続部には腐食が生じやすいという課題があった。
また、搬送ローラーの外周面にはシート状の記録媒体が接触するため、接続部に腐食が生じると、記録媒体を汚したり記録媒体を正しく搬送することが難しくなるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、金属の板材から略円筒状の搬送ローラー又は円筒軸を形成した場合であっても、一対の端部が互いに接する接続部での腐食の発生を防止できる搬送ローラーの製造方法及び円筒軸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、シート状の記録媒体上に情報を記録する印刷装置に設けられ、記録媒体を搬送する搬送ローラーの製造方法であって、板材を曲げて略円筒状の円筒部材を形成する工程と、板材の一対の端部が互いに接する接続部を電解めっきによって被覆するめっき工程とを有するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、搬送ローラーにおける接続部は電解めっきによって被覆され、接続部における金属の基材の露出が無くなる。
【0008】
また、本発明は、めっき工程では、電解めっきに用いられる電極を接続部の近傍に配置するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、電解めっきに用いられる電極が接続部の近傍に配置されているため、接続部が重点的に電解めっきによって被覆される。
【0009】
また、本発明は、めっき工程では、電極における陽極を円筒部材の内側に配置すると共に、円筒部材を接地するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、陽極が接続部の近傍且つ円筒部材の内側に配置されると共に、円筒部材が接地されており、めっき溶液中の金属は陽極から接続部に向かって移動するため、接続部は電解めっきによって内側から被覆される。
【0010】
また、本発明は、めっき工程では、電極における陽極を円筒部材の内側に配置すると共に、電極における陰極を円筒部材の外側に配置するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、陽極が接続部の近傍且つ円筒部材の内側に配置されると共に、陰極が接続部の近傍且つ円筒部材の外側に配置されており、めっき溶液中の金属は陽極から接続部を挟んで配置される陰極に向かって移動するため、接続部は電解めっきによって内側から被覆される。
【0011】
また、本発明は、板材が一対の端部にそれぞれ設けられる凸部及び凹部を有し、円筒部材が凹部に凸部が嵌合して凸部の先端部と凹部の底部との間に形成される隙間部を有し、めっき工程では、陽極を隙間部から周方向で離間して配置するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、陽極が隙間部から周方向で離間して配置されているため、隙間部だけでなく、隙間部を介することで円筒部材の外周面が電解めっきによって被覆されることが防止される。
【0012】
また、本発明は、略円筒状に形成された円筒軸の製造方法であって、板材を曲げて略円筒状の円筒部材を形成する工程と、板材の一対の端部が互いに接する接続部を電解めっきによって被覆するめっき工程とを有するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、円筒軸における接続部は電解めっきによって被覆され、接続部における金属の基材の露出が無くなる。
【0013】
また、本発明は、めっき工程では、電解めっきに用いられる電極を接続部の近傍に配置するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、電解めっきに用いられる電極が接続部の近傍に配置されているため、接続部が重点的に電解めっきによって被覆される。
【0014】
また、本発明は、めっき工程では、電極における陽極を円筒部材の内側に配置すると共に、円筒部材を接地するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、陽極が接続部の近傍且つ円筒部材の内側に配置されると共に、円筒部材が接地されており、めっき溶液中の金属は陽極から接続部に向かって移動するため、接続部は電解めっきによって内側から被覆される。
【0015】
また、本発明は、めっき工程では、電極における陽極を円筒部材の内側に配置すると共に、電極における陰極を円筒部材の外側に配置するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、陽極が接続部の近傍且つ円筒部材の内側に配置されると共に、陰極が接続部の近傍且つ円筒部材の外側に配置されており、めっき溶液中の金属は陽極から接続部を挟んで配置される陰極に向かって移動するため、接続部は電解めっきによって内側から被覆される。
【0016】
また、本発明は、板材が一対の端部にそれぞれ設けられる凸部及び凹部を有し、円筒部材が凹部に凸部が嵌合して凸部の先端部と凹部の底部との間に形成される隙間部を有し、めっき工程では、陽極を隙間部から周方向で離間して配置するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、陽極が隙間部から周方向で離間して配置されているため、隙間部だけでなく、隙間部を介することで円筒部材の外周面が電解めっきによって被覆されることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】プリンター1の全体構成図である。
【図2】搬送部3及び排紙部4の構成を示す概略図である。
【図3】搬送ローラー31の構成を示す概略図である。
【図4】搬送ローラー31の成形工程の概略を示すフロー図である。
【図5】大型金属板9の平面図である。
【図6】矩形板70の平面図である。
【図7】矩形板70に対する曲げ加工の前半の工程を示す概略図である。
【図8】矩形板70に対する曲げ加工の後半の工程を示す概略図である。
【図9】搬送ローラー本体71を枠部92から切り離す工程を示す概略図である。
【図10】電解めっき処理の処理形態を示す概略図である。
【図11】搬送ローラー本体71におけるめっき層の変形例を示す概略図である。
【図12】電解めっきの第2の処理形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の搬送ローラーの製造方法及び円筒軸の製造方法に係る実施の形態を、図1から図12を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
以下の説明では、印刷装置として、インクを記録媒体である紙等に噴射し、文字や画像等の情報を記録するインクジェット式のプリンター(以下、単に「プリンター」と称する)の例を示す。
【0019】
まず、本実施形態に係るプリンター(印刷装置)1の構成を、図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るプリンター1の全体構成図である。
プリンター1は、記録媒体である紙等にインクを噴射し、文字や画像等の情報を記録する印刷装置である。プリンター1は、給紙部2と、搬送部3と、排紙部4と、ヘッド部5と、制御部CONTとを有している。
【0020】
給紙部2は、記録媒体である複数枚の記録紙(記録媒体)Pを保持すると共に、記録紙Pを搬送部3に向けて供給するものであって、給紙トレー21と、給紙ローラー22とを有している。
給紙トレー21は、複数枚の記録紙Pを保持するものであり、水平面との間に所定の角度(45°程度)を形成して設けられている。なお、記録紙Pとしては、インクによる印刷が可能なシート状の記録媒体が用いられ、普通紙、コート紙、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)用シート、光沢紙及び光沢フィルム等が用いられる。
【0021】
給紙ローラー22は、回転することで記録紙Pを搬送部3に向けて供給するローラーであり、給紙トレー21の搬送部3側に設けられている。なお、給紙ローラー22の外周面と対向する位置には不図示の分離パッドが設けられており、該分離パッドと給紙ローラー22とが協働して記録紙Pを一枚ずつ搬送部3に供給することができる。
【0022】
搬送部3は、給紙部2から供給された記録紙Pを排紙部4に向けて搬送するものであり、且つ記録紙Pに対する印刷動作が行われる箇所である。搬送部3は、搬送ローラー(円筒軸)31と、従動ローラー32と、プラテン33と、ダイヤモンドリブ34と、駆動部6(図2参照)とを有している。
搬送ローラー31は、回転することで記録紙Pを所定の印刷位置に正確に搬送するためのローラーであって、水平面内且つ記録紙Pの搬送方向と直交する方向で延在し、略円筒状に形成された円筒軸である。搬送ローラー31は、搬送部3に設けられ略U字型の一対の軸受(図示せず)に回転自在に軸支され、駆動部6の駆動により回転する。なお、搬送ローラー31の詳細は後述する。
【0023】
従動ローラー32は、略円柱状の部材であって、搬送ローラー31の軸方向に沿って間隔を空けて複数配置されている。また、従動ローラー32は、後述する搬送ローラー31の高摩擦層72(図3参照)に対向する位置に回転自在に設けられている。従動ローラー32には不図示の付勢バネが設けられており、この付勢バネの付勢力によって、従動ローラー32は搬送ローラー31の高摩擦層72に付勢されて接触している。このため、従動ローラー32は、搬送ローラー31の回転動作に従動して回転する。なお、従動ローラー32の外周面には、高摩擦層72との摺動による摩耗・損傷を緩和するため、例えばフッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【0024】
プラテン33は、ヘッド部5による記録紙Pへの印刷を行うときに、記録紙Pを下方から支持する箇所であり、水平面に略平行する上面を有している。
ダイヤモンドリブ34は、プラテン33の上面から上方に向けて突出する突部であり、搬送ローラー31の軸方向に沿って間隔を空けて複数配置されている。また、ダイヤモンドリブ34の頂面は、水平面と略平行に形成されており、この頂面によって印刷時の記録紙Pが下方から支持される。
【0025】
排紙部4は、搬送部3から印刷後の記録紙Pを排出するものであって、排紙ローラー41と、排紙ギザローラー42とを有している。排紙ローラー41と排紙ギザローラー42とは、互いに相反する方向で回転でき、この回転によって記録紙Pを引き出して排出する。
【0026】
ヘッド部5は、搬送部3に載置されている記録紙Pに対してインクを噴射するものであって、噴射ヘッド51と、キャリッジ52とを有している。
噴射ヘッド51は、制御部CONTの指示に従いインクを噴射する機器であって、その不図示の噴射口はダイヤモンドリブ34の頂面に対向して設けられている。キャリッジ52は、その下方に噴射ヘッド51を保持するものであって、搬送ローラー31の軸方向で往復移動自在に設けられている。また、キャリッジ52には、制御部CONTの支持に従い、キャリッジ52を往復移動させる不図示の駆動部が連結されている。
【0027】
次に、搬送ローラー31を回転駆動させる構成について、図2を参照して説明する。
図2は、搬送部3及び排紙部4の構成を示す概略図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のA矢視図である。
【0028】
上述したように、搬送部3は駆動部6を有している。駆動部6は、搬送ローラー31を回転駆動させるものであって、モーター61と、ピニオンギア62とを有している。
モーター61は、制御部CONTの指示に従い搬送ローラー31を回転させる電動機である。すなわち、制御部CONTがモーター61を制御して駆動させ、搬送ローラー31の回転及び記録紙Pの正確な搬送を実現している。ピニオンギア62は、モーター61の出力軸に一体的に接続されているギアである。
【0029】
搬送ローラー31には、第1駆動ギア35と、第2駆動ギア36と、第3駆動ギア37とが設けられている。
第1駆動ギア35は、搬送ローラー31を回転させるためのギアであって、搬送ローラー31における駆動部6設置側の端部に、圧入によって一体的に接続されている。また、第1駆動ギア35はピニオンギア62と互いに噛合しており、ピニオンギア62及び第1駆動ギア35を介してモーター61の駆動力が搬送ローラー31に伝達され、搬送ローラー31が回転する構成となっている。
【0030】
第2駆動ギア36は、モーター61の駆動力を排紙ローラー41に伝達するためのギアであって、第1駆動ギア35よりも小さい径を有し、第1駆動ギア35と隣接して配置されている。また、第2駆動ギア36は、圧入によって搬送ローラー31に一体的に接続されている。
第3駆動ギア37は、搬送ローラー31の回転駆動力を不図示の他の機器に伝達するためのギアであって、搬送ローラー31の第1駆動ギア35と逆側の端部に、圧入によって一体的に接続されている。
【0031】
排紙ローラー41における駆動部6側の端部には、排紙駆動ギア43が一体的に設けられている。また、排紙駆動ギア43と第2駆動ギア36との間には、中間ギア44が設けられ、中間ギア44は第2駆動ギア36及び排紙駆動ギア43のそれぞれと噛合している。すなわち、第2駆動ギア36、中間ギア44及び排紙駆動ギア43を介して、モーター61の駆動力が排紙ローラー41に伝達され、排紙ローラー41が回転する構成となっている。
【0032】
次に、搬送ローラー31の構成を、図3を参照して説明する。
図3は、搬送ローラー31の構成を示す概略図であって、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は(b)における接続部76近傍の拡大図である。
【0033】
搬送ローラー31は、所定の方向で延在する略円筒状に形成された円筒軸である。搬送ローラー31は、搬送ローラー本体(円筒部材)71と、高摩擦層72とを有している。
搬送ローラー本体71は、金属の板材を曲げて略円筒状に形成された円筒軸であり、板材の一対の端部である第1端部(端部)74と第2端部(端部)75とが互いに接する接続部76を有している。接続部76は、搬送ローラー本体71の軸方向に沿って延在している。第1端部74と第2端部75とは、径方向外側の縁部で互いに接触しており、第1端部74と第2端部75との間の隙間は、外側から内側に向かうに従い次第に幅広となっている。
【0034】
また、搬送ローラー本体71は、その表面に形成された第1めっき層77と第2めっき層78とを有している。
接続部76における、第1端部74と第2端部75との端面及びその近傍における径方向内側の表面には、電解めっき処理によって形成された第1めっき層77が形成されている。第1めっき層77を形成するための電解めっき処理には、電解ニッケルめっき、亜鉛めっき又はクロムめっき等が用いられる。第1めっき層77の層の厚みは、接続部76の部分で最も厚くなっており、接続部76から周方向で離間するに従い次第に薄くなっている。なお、第1めっき層77は、接続部76における径方向外側の表面には形成されていない。
【0035】
搬送ローラー本体71の内外周面及び端部には、無電解めっき処理によって形成された第2めっき層78が形成されている。第2めっき層78を形成するための無電解めっき処理には、無電解ニッケルめっき等が用いられる。第2めっき層78の層の厚みは、搬送ローラー本体71の内外周面及び端部の何れの箇所においても略均一となっている。また、第2めっき層78は、第1めっき層77の表面上にも形成されている。
【0036】
以上のように、接続部76における第1端部74と第2端部75との端面には、第2めっき層78だけでなく第1めっき層77も形成されており、上記端面は厚いめっき層を有していることから、上記端面は高い耐摩耗性を備えている。そのため、搬送ローラー31の回転に伴って軸周りでのねじり等が生じ、第1端部74と第2端部75とが互いに摺動して摩耗する状況においても、高い耐腐食性を維持することができる。
【0037】
高摩擦層72は、搬送ローラー本体71の両端部以外の外周面に設けられ、記録紙Pとの間の摩擦係数を向上させるための塗装層である。高摩擦層72は、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂からなる樹脂層と、該樹脂層表面に分散して配置されるセラミックス粒子とを有している。このセラミックス粒子には、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化珪素又は二酸化珪素等が用いられる。セラミック粒子は破砕処理によって粒径が調整されており、また、破砕処理を用いることでセラミック粒子は比較的鋭角な端部を有する形状となっている。
【0038】
続いて、搬送ローラー31を形成する方法について、図4から図10を参照して説明する。
図4は、搬送ローラー31の形成工程の概略を示すフロー図である。
搬送ローラー31の形成工程の概略としては、図4に示すように、まず、金属の板材からプレス加工(打ち抜き加工及び曲げ加工)によって略円筒状の搬送ローラー本体71を形成する(ステップS1)。次に、搬送ローラー本体71の外周面を研磨(センターレス研磨)して、その径、真円度及び振れ(延在方向での湾曲)を調整する(ステップS2)。次に、搬送ローラー本体71の接続部76に電界めっき処理を施す(ステップS3)。次に、搬送ローラー本体71の内外周面及び端部に無電界めっき処理を施す(ステップS4)。最後に、搬送ローラー本体71の外周面に高摩擦層72を形成して(ステップS5)、搬送ローラー31の形成が完了する。
以下の説明では、プレス加工によって板材から搬送ローラー本体71を形成する工程であるステップS1と、接続部76に電解めっき処理を施す工程であるステップS3とを、特に詳細に説明する。
【0039】
プレス加工によって金属の板材から搬送ローラー本体71を形成する工程(ステップS1)を、図5から図9を参照して説明する。
図5は、搬送ローラー本体71の材料となる大型金属板9の平面図である。
図6は、矩形板70の平面図である。
図7は、矩形板70に対する曲げ加工の前半の工程を示す概略図である。
図8は、矩形板70に対する曲げ加工の後半の工程を示す概略図である。
図9は、搬送ローラー本体71を枠部92から切り離す工程を示す概略図である。
【0040】
本実施形態における搬送ローラー本体71の形成には、順送プレス加工が用いられる。この加工法は、材料である金属板を一定のピッチで搬送しつつ、金属板に対して順次にプレス加工(打ち抜き加工及び曲げ加工)を施すものである。
まず、図5に示すような、大型金属板9を準備する。大型金属板9は、1mm程度の厚みを持つ略矩形の鋼板であり、電気亜鉛めっき鋼板(SECC)や冷間圧延鋼板(SPCC)が用いられる。大型金属板9の一対の端部には複数の孔部91が、その端部に沿って所定の間隔を空けて設けられている。孔部91は、大型金属板9に対して順送プレス加工を行うときに、一定のピッチで大型金属板9を搬送するために用いられ、大型金属板9は、隣り合う孔部91の間隔毎に搬送される。
【0041】
次に、図6に示すように、順送プレス加工における打ち抜き加工によって、大型金属板9から矩形板(板材)70を形成する。すなわち、大型金属板9から領域Sの部分を打ち抜き、矩形板70及び枠部92を形成する。
矩形板70は、所定の方向で延在する略帯状の矩形板材であって、大型金属板9から領域Sの部分が取り除かれることで形成される。
【0042】
矩形板70の一対の端部である第1端部74及び第2端部75は、矩形板70を略円筒状に形成したときに互いに接触して接続部76を形成する端部である。第1端部74及び第2端部75には、それぞれ凸部79及び凹部80が形成されている。凸部79及び凹部80は、凹部80に凸部79が嵌合することで、第1端部74及び第2端部75の延在方向でのずれを防止するためのものである。なお、凸部79の先端部79a、及び凹部80の底部80aは、共に矩形板70の延在方向と平行して形成されている。
【0043】
枠部92は、矩形板70の延在方向と直交する方向で延在する略帯状の板部であって、大型金属板9から領域Sの部分が取り除かれることで形成される。上述した孔部91は、枠部92の幅方向での略中央部に配置されている。
矩形板70と枠部92との間には、それらを互いに連結する連結部93(いわゆるタイバー)が架け渡され、矩形板70は連結部93を介して枠部92に支持されている。
【0044】
次に、矩形板70に対して、図7及び図8に示す順送プレス加工における曲げ加工を施し、矩形板70を略円筒状に形成する。なお、図7及び図8は、図6における線視B−Bでの断面図である。
【0045】
まず、図7(a)に示すように、第1雄型101と第1雌型102とで矩形板70を押圧し、矩形板70の幅方向での両端部を略円弧状に曲げる。なお、図7(a)では、矩形板70と、第1雄型101及び第1雌型102との間にそれぞれ隙間が形成されているが、この隙間は実際には存在せず、矩形板70と、第1雄型101及び第1雌型102とは互いに密着している。これは、図7(b)、図8(a)から(c)においても同様である。
【0046】
次に、図7(b)に示すように、第2雄型103と第2雌型104とで矩形板70を押圧し、矩形板70の幅方向での中央部を略円弧状に曲げる。この曲げ加工により、矩形板70の断面形状は第2雄型103側に開口する略C字状となる。
【0047】
次に、図7(c)に示すように、第1上型105及び第2上型106と、下型107との間に断面視略C字状に形成された矩形板70を配置し、且つ、矩形板70の内側に円柱状の芯型108を配置する。
ここで、第1上型105、第2上型106及び下型107の、それぞれのプレス面105a、106a及び107aは、いずれも形成される搬送ローラー本体71の外周面に応じた形状で形成されている。また、芯型108の外周面は、形成される搬送ローラー本体71の内周面に応じた形状で形成されている。なお、第1上型105及び第2上型106は、互いに独立して移動可能である。
【0048】
次に、図8(a)に示すように、芯型108を静止させた状態で、第1上型105を下型107に向かって移動させ、矩形板70の第1端部74側を押圧し、略半円状に曲げる。なお、第1上型105及び第2上型106と同様に、下型107を一対の割型とし、図8(a)に示す工程の際に、第1上型105と同じ側の下型を第1上型105に向かって移動させてもよい。
【0049】
次に、図8(b)に示すように、芯型108を下型107に向けて多少移動させると共に、第2上型106を下型107に向かって移動させ、矩形板70の第2端部75側を押圧し、略半円状に曲げる。
【0050】
次に、図8(c)に示すように、第1上型105、第2上型106及び芯型108を共に下型107に向かって移動させ、矩形板70を押圧する。このとき、第1上型105及び第2上型106は、下型107に当接している。この押圧により、矩形板70は略円筒状に形成され、矩形板70から搬送ローラー本体71が形成される。また、矩形板70の第1端部74及び第2端部75は互いに接触し、接続部76が形成される。
【0051】
最後に、図9に示すように、搬送ローラー本体71と連結部93との間を、カットラインCに従って切断する。なお、搬送ローラー本体71が形成された状態では、凸部79は凹部80に嵌合しているが、凸部79の先端部79aと、凹部80の底部80aとの間には所定の隙間部81が形成されている。この隙間部81は、第1端部74と第2端部75とを軸方向で均一に接触させるために設けられるものである。
以上で、順送プレス加工による搬送ローラー本体71の形成が完了する。
【0052】
次に、略円筒状に形成された搬送ローラー本体71の外周面に対して、公知のセンターレス研磨加工を施す。この研磨加工によって、搬送ローラー本体71の径、真円度及び振れが適切な精度に調整される。
【0053】
次に、搬送ローラー本体71に電解めっき処理を施す。この電解めっき処理について、図10を参照して説明する。
図10は、電解めっき処理の処理形態を示す概略図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【0054】
まず、搬送ローラー本体71を、電解めっきに用いられる金属(ニッケル等)が分散しためっき溶液中に浸し入れる。
また、搬送ローラー本体71の内側に、電解めっき用電極の陽極(電極)111を配置する。陽極111は、搬送ローラー本体71の軸方向と平行して延在する電極である。また、陽極111は、搬送ローラー本体71の接続部76の近傍に配置される。その一方で、陽極111は、凸部79と凹部80との間に形成される隙間部81から、周方向で離間した位置に設けられている。
陽極111は、スイッチ112を介して直流電源113に接続されている。また、搬送ローラー本体71は、接地されている。
【0055】
搬送ローラー本体71及び陽極111等を、図10に示すように配置した状態で、スイッチ112を入れる。搬送ローラー本体71が接地されているために、陽極111と搬送ローラー本体71との間には電界が生じるが、この電界は陽極111に近いほど強くなる。そのため、陽極111から、陽極111の最も近くに配置されている搬送ローラー本体71の接続部76に向かう、めっき溶液中の金属の流れが生じる。よって、接続部76の径方向内側の表面、すなわち第1端部74と第2端部75との端面及びその近傍における径方向内側の表面に、電解めっき処理によって第1めっき層77が形成される。
【0056】
また、陽極111は隙間部81から周方向で離間して配置されているため、隙間部81だけでなく、隙間部81を介することで搬送ローラー本体71の外周面が電解めっき処理されることを防ぐことができる。
以上で、搬送ローラー本体71に対する電解めっき処理が完了する。
【0057】
次に、搬送ローラー本体71に無電解めっき処理を施す。
この無電解めっき処理によって、搬送ローラー本体71の内外周面及び端部に第2めっき層78が形成される。上述したように、第2めっき層78は、第1めっき層77の表面にも形成される。
【0058】
最後に、搬送ローラー本体71の外周面に高摩擦層72を形成する。
まず、搬送ローラー本体71の両端部をマスキングし、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂を溶媒中に分散させ、この溶液を搬送ローラー本体71の外周面に塗布し、樹脂層を形成する。次に、粉体塗装法を用いてアルミナ粒子等のセラミックス粒子を、上記樹脂層の表面に付着させる。最後に、加熱処理により樹脂層を硬化させ、セラミックス粒子が表面に配置された高摩擦層72が形成される。
【0059】
なお、高摩擦層72を形成する方法としては、粉体塗装法の代わりに、セラミックス粒子を溶媒中に分散させ、この溶液を上記樹脂層の表面に塗布してもよい。また、予めセラミックス粒子をエポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂と共に溶媒中に分散させ、この溶液を搬送ローラー本体71の外周面に塗布することで、セラミックス粒子を含んだ樹脂層を形成してもよい。
以上の形成方法によって、第1めっき層77及び第2めっき層78を有する搬送ローラー31の形成が完了する。
【0060】
続いて、本実施形態に係るプリンター1の動作を、図1、図2を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、給紙部2における給紙ローラー22の回転により、給紙トレー21に載置された記録紙Pが搬送部3に向けて供給される。
駆動部6の作動により、搬送ローラー31が回転する。また、搬送ローラー31の外周面と接触して設けられる従動ローラー32が、搬送ローラー31と相反する方向で回転する。給紙部2から供給された記録紙Pは、搬送ローラー31と従動ローラー32との間に挟持され、また、搬送ローラー31の外周面には高摩擦層72が形成されているため、記録紙Pは搬送ローラー31の回転と共に正確に搬送される。
【0061】
ここで、駆動部6の作動により搬送ローラー31は回転するのであるが、この回転に伴い搬送ローラー31には軸周りでのねじり等が生じる。そして、このねじり等により、第1端部74と第2端部75とが互いに軸方向で摺動する。もっとも、接続部76における第1端部74と第2端部75との端面には、第2めっき層78だけでなく第1めっき層77も形成されており、上記端面は厚いめっき層を有していることから、上記端面は高い耐摩耗性を備え、結果として高い耐腐食性を維持することができる。
【0062】
搬送ローラー31の回転により、記録紙Pは、プラテン33におけるダイヤモンドリブ34の頂面上に搬送される。ダイヤモンドリブ34上に載置された記録紙Pに対して、キャリッジ52と共に適切な位置に移動した噴射ヘッド51からインクが噴射され、文字や画像等の情報が印刷される。この印刷後、記録紙Pは排紙部4の排紙ローラー41及び排紙ギザローラー42の回転により排出される。
以上で、本実施形態に係るプリンター1の動作が完了する。
【0063】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、金属の板材から略円筒状の搬送ローラー31を形成した場合であっても、第1端部74と第2端部75とが互いに接する接続部76での腐食の発生を防止できるという効果がある。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0065】
例えば、上記実施形態における搬送ローラー31を形成する工程では、電解めっき処理(ステップS3)を施した後に無電解めっき処理(ステップS4)を施しているが、これに限定されるものではなく、これらのステップを逆にしてもよい。このような方法を採用した場合には、搬送ローラー本体71のめっき層の構成は、図11に示すものとなる。
図11は、搬送ローラー本体71におけるめっき層の変形例を示す概略図である。
上記方法によって搬送ローラー本体71にめっき層を形成すると、第2めっき層78の表面上に第1めっき層77が形成される。なお、この構成によっても、接続部76における耐腐食性を向上させることができる。
【0066】
また、上記実施形態における第1めっき層77を形成する工程では、搬送ローラー本体71は接地されていたが、これに限定されるものではなく、図12に示す処理形態で第1めっき層77を形成してもよい。
図12は、電解めっきの第2の処理形態を示す概略図である。
電解めっき用の電極である陰極(電極)114は、接続部76の近傍且つ搬送ローラー本体71の外側に配置されている。なお、陰極114は接地されている。この状態でスイッチ112を入れると、めっき溶液中の金属は陽極111から陰極114に向かって移動する。したがって、このような構成によっても、第1端部74と第2端部75との端面及びその近傍における径方向内側の表面に、電解めっき処理によって第1めっき層77を形成することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…プリンター(印刷装置)、31…搬送ローラー(円筒軸)、70…矩形板(板材)、71…搬送ローラー本体(円筒部材)、74…第1端部(端部)、75…第2端部(端部)、76…接続部、79…凸部、79a…先端部、80…凹部、80a…底部、81…隙間部、111…陽極(電極)、114…陰極(電極)、P…記録紙(記録媒体)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の記録媒体上に情報を記録する印刷装置に設けられ、前記記録媒体を搬送する搬送ローラーの製造方法であって、
板材を曲げて略円筒状の円筒部材を形成する工程と、
前記板材の一対の端部が互いに接する接続部を、電解めっきによって被覆するめっき工程とを有することを特徴とする搬送ローラーの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送ローラーの製造方法において、
前記めっき工程では、電解めっきに用いられる電極を、前記接続部の近傍に配置することを特徴とする搬送ローラーの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の搬送ローラーの製造方法において、
前記めっき工程では、前記電極における陽極を前記円筒部材の内側に配置すると共に、前記円筒部材を接地することを特徴とする搬送ローラーの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の搬送ローラーの製造方法において、
前記めっき工程では、前記電極における陽極を前記円筒部材の内側に配置すると共に、前記電極における陰極を前記円筒部材の外側に配置することを特徴とする搬送ローラーの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の搬送ローラーの製造方法において、
前記板材は、前記一対の端部にそれぞれ設けられる凸部及び凹部を有し、
前記円筒部材は、前記凹部に前記凸部が嵌合して、前記凸部の先端部と前記凹部の底部との間に形成される隙間部を有し、
前記めっき工程では、前記陽極を前記隙間部から周方向で離間して配置することを特徴とする搬送ローラーの製造方法。
【請求項6】
略円筒状に形成された円筒軸の製造方法であって、
板材を曲げて略円筒状の円筒部材を形成する工程と、
前記板材の一対の端部が互いに接する接続部を、電解めっきによって被覆するめっき工程とを有することを特徴とする円筒軸の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の円筒軸の製造方法において、
前記めっき工程では、電解めっきに用いられる電極を、前記接続部の近傍に配置することを特徴とする円筒軸の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の円筒軸の製造方法において、
前記めっき工程では、前記電極における陽極を前記円筒部材の内側に配置すると共に、前記円筒部材を接地することを特徴とする円筒軸の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の円筒軸の製造方法において、
前記めっき工程では、前記電極における陽極を前記円筒部材の内側に配置すると共に、前記電極における陰極を前記円筒部材の外側に配置することを特徴とする円筒軸の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の円筒軸の製造方法において、
前記板材は、前記一対の端部にそれぞれ設けられる凸部及び凹部を有し、
前記円筒部材は、前記凹部に前記凸部が嵌合して、前記凸部の先端部と前記凹部の底部との間に形成される隙間部を有し、
前記めっき工程では、前記陽極を前記隙間部から周方向で離間して配置することを特徴とする円筒軸の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−12328(P2011−12328A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159693(P2009−159693)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】