説明

搬送ローラ及びその製造方法

【課題】プリンタやコピー機などの事務機器の紙送りや、その他各種フィルム状やシート状の材料の搬送に使用する搬送ローラについて、送られる材料に対して確実な摩擦力を確保するため、均一な細かな凹凸面であって、凹凸面の先端は十分な摩擦力を発揮できるように先端が尖っており、しかも製造工程を簡単にして低コストでの量産を可能とした搬送ローラを提供すること
【解決手段】被切削部材10の表面に切削ナーリング加工を行い、所望形状の凹凸面9を形成するようにし、搬送ローラ8の表面の適宜箇所に切削ナーリング加工による凹凸面9が形成してあるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタやコピー機などの事務機器の紙送りや、その他各種フィルム状やシート状材料の搬送に使用する搬送ローラ及びその製造方法に関するものであり、特にローラに形成する凹凸面の形状とその製造方法に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタなどにおけるローラによる紙送りを確実なものとするために、金属製のローラを使用する場合に、ローラの表面に凹凸を形成して摩擦を大きくしたものがある。従来、この凹凸の形成方法としては下記の特許文献1〜4に示されるようなものがある。
【0003】
特許文献1に示すものは、金属の円筒体の外周面に、切削砥石により複数の連続した溝を相互に交叉させて形成するようにしたものである。特許文献2に示すものは、金属の円筒体の外周面に、溶射又はセラミック粒子の接着よる凹凸面を形成するようにしたものである。特許文献3に示すものは、金属製丸棒の軸線方向に整列した切り刃を有するパンチユニットにより、金属製丸棒を回転させつつ目打ち加工を行うようにしたものである。特許文献4に示すものは、棒状部材の外周面に微小送りピッチのネジ切り加工後、平目ローレットを用いてローレット加工を行い凹凸面部を形成するようにしたものである。
また、金属円筒体の表面にレジストをドット状に印刷し、エッチング液に浸してエッチングすることにより凹凸面を形成するようにした方法もある。
【特許文献1】特開平5−70012号公報
【特許文献2】特開平8−73094号公報
【特許文献3】特開2004−238194号公報
【特許文献4】特開平10−193223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に示すものは、形成できる溝の幅をそれほど細くすることはできず、有効な摩擦力を発揮するような細かな凹凸面は形成できない。また、一本を仕上げるのに時間を要し大量生産には不向きであった。特許文献2に示すものは、細かな凹凸面は形成できるが、耐久性に欠けるとともに、均一な凹凸面を形成できないという問題があった。さらに、特許文献3に示すものは、凹凸面を形成するためにはいちいちパンチユニットを往復運動させる必要があり、製造に時間を要するとともに、でき上がる凹凸面も不揃いになり易く均一な凹凸面を形成するのは困難であった。
【0005】
一方、特許文献4に示すものにあっては、微小送りピッチのネジ切り加工後、平目ローレットを用いてローレット加工を行い凹凸面部を形成するようにしたので、細かな揃った凹凸面を形成することは可能である。しかし、製造にネジ切り加工とローレット加工の2工程を要し、製造に時間を要す問題があった。さらに、特許文献4に示されているローレット加工は該文献の図1(b)の平目ローレットと棒材の関係から明らかなように型押し転造によるローレット加工である。型押し転造によるローレット加工の場合、材料に対して平目ローレットを強く押し付ける必要があるので、材料へのストレスが大きく長尺材料への加工が困難である。また、平目ローレットの幅分ずつしか加工できないので、加工速度を上げることもできず大量生産には不向きである。さらに、加工後の先端の突起は潰れ気味で尖っておらず十分な摩擦力を発揮できないという欠点もある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、均一な細かな凹凸面であって、凹凸面の先端は十分な摩擦力を発揮できるように突起の先端が尖っており、しかも製造工程を簡単にして低コストでの量産を可能とした搬送ローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の搬送ローラはローラの表面の適宜箇所に切削ナーリング加工による凹凸面が形成してあるものである。
【0008】
また、本発明の搬送ローラは上記に加え、ローラは金属製であり、硬化及び(又は)耐摩耗処理がしてあるものである。
【0009】
また、本発明の搬送ローラは上記に加え、耐摩耗処理としてDLCコーティングがしてあるものである。
【0010】
一方、本発明の搬送ローラの製造方法は被切削部材の表面に切削ナーリング加工を行い、所望形状の凹凸面を形成するようにしたものである。
【0011】
また、本発明の搬送ローラの製造方法は上記に加え、被切削部材は棒状部材としたものである。
【0012】
また、本発明の搬送ローラの製造方法は上記に加え、被切削部材は中空部材としたものである。
【0013】
また、本発明の搬送ローラの製造方法は上記に加え、被切削部材は金属材料を使用し、切削ナーリング加工後に、焼き入れ処理をするようにしたものである。
【0014】
また、本発明の搬送ローラの製造方法は上記に加え、被切削部材は金属材料を使用し、切削ナーリング加工後に、セラミックコーティング処理をするようにしたものである。
【0015】
また、本発明の搬送ローラの製造方法は上記に加え、コーティングはDLCコーティングとしたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る搬送ローラ及びその製造方法によれば、均一な細かな凹凸面であって、凹凸面の先端は十分な摩擦力を発揮できるように、先端に尖った突起が形成された搬送ローラとなる。しかも、製造工程が簡単なので低コストでの量産が可能となる。
【0017】
また、凹凸面の先端は十分な摩擦力を発揮できるように尖らせながら、硬化処理や耐摩耗処理をすることにより、先端部の摩耗を防止できるので、長期にわたり初期の摩擦力を維持できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
先ず、本発明の搬送ローラの実施例の説明に先立ち、本発明において重要な位置を占める切削ナーリング加工について説明する。なお、本発明でいう切削ナーリング加工とは、切削式ローレット工具を使用して行うローレット加工のことである。
【0019】
ナーリング加工には大別して、型押し(押し付け)転造によるローレット加工(以下「転造ナーリング加工」という。)と、本発明で実施する切削ナーリング加工の二種類がある。
【0020】
転造ナーリング加工は、図1及び図2に示すように、ホルダー1に取り付けたローレット駒2のローレット目3は回転軸4と平行となっている。そして、加工時には加工部材5の回転軸に対しに対しローレット駒2のローレット目3が平行となるように、ローレット駒2を加工部材5に対して直角に押し付けるようにし、加工部材5を回転させることによりローレット目を転造加工する。加工部材5はローレット駒2により切削されるのではなく、ローレット駒2を押し付けられることにより加工されるいわゆる塑性変形である。なお、上述したように特許文献4に示されるものもこの転造ナーリング加工である。
【0021】
一方、切削ナーリング加工は、図3に示すように、カッター6の刃7は回転軸4に対しねじれ角度を持って形成されている。そして、例えば図3に示すように加工部材5の回転軸と平行となうように目を削るには、刃7のねじれ角度分を相殺するように加工部材5に対しカッター6を傾けて当接させる。そして、この状態で加工部材5を回転させることにより、切削しながらローレット加工が行われることになる。
【0022】
すなわち、切削ナーリング加工の場合は、カッター6を加工部材5に対し傾けることにより、刃7のエッジの鋭い部分が送り方向にできる。加工部材5を回転させると、この刃7の鋭いエッジ部分が最初に加工部材5に食いつき、そして加工部材5の回転に同調してカッター6も食いつきながら回転する。そしてカッター6を順次移動させることによって加工部材5は切削されることになる。
【0023】
切削ナーリング加工は転造ナーリング加工と比べ、加工材料にカッターを押し付けて塑性変形を行うものではないので、転造ナーリング加工に比べ加工材料や機械(旋盤)への負荷(ストレス)が小さい。したがって、無垢の金属材料に限らず、それよりも強度の低い中空材や合成樹脂、あるいは曲がり易い細長い材料に対しても加工可能となる。また、旋盤を本来の切削加工に使用できるので、通常の周速と送りで加工でき加工時間を短くできる。さらに、切削により凹凸面を形成するので、仕上がり面がきれいであるとともに、凹凸面の先端が尖った突起となり、本発明の目的とするとところの摩擦力を高めた搬送ローラとするには最適なものとなる。
【実施例1】
【0024】
次に、本発明の搬送ローラの実施例を図4に基づいて説明する。
搬送ローラ8には所望間隔をおいて切削ナーリング加工により形成した凹凸面9が形成してある。図示した例では、凹凸面9はクロスパターンの切削面としたが、この切削面9の形状は後述するようにこの形状に限るものではない。
【0025】
図示した例は、長さ320mm,直径10mmのステンレス製の棒状部材に、20mm間隔で長さ30mmの凹凸面9を5箇所形成したものを示したものである。なお、凹凸面9の大きさや突起部の高さは任意に選択することができる。さらに、被切削材料はステンレス製の棒状部材に限るものではなく中空部材でもよく、またその素材も他の金属や合成樹脂でもよく、その長さや太さも用途に合わせて適宜選択すればよい。
【0026】
そして、被切削材料が金属材料の場合は焼き入れによる硬化処理や、セラミックコーティングによる表面硬化処理や耐摩耗処理を必要に応じて施してもよい。セラミックコーティングとしては例えばDLCを厚さ1〜3μmコーティングする。なお、セラミックコーティングはDLCに限るものではなく、CrN,TiCrN,TiAlN,TiN,TiCNなどをローラの材質や用途に応じて選択可能である。
【実施例2】
【0027】
次に、本発明の搬送ローラの製造方法の実施例を図5〜図7に基づいて説明する。
【0028】
図5(A)は同図(B)に示すストレートパターン(平目)の凹凸面9を形成する方法を示したものである。(A)に示すようにカッター6は刃7のねじれ角30度のものを使用し、これをホルダー1に対して回転軸4を30度傾けて取り付ける。そして、これにより被切削部材10を切削ナーリング加工すると、刃7は被切削部材10に対して平行となるので、(B)に示すストレートパターンの凹凸面9が形成されることになる。
【0029】
図6(A)は同図(B)に示すクロスパターン(四角目)の凹凸面9を形成する方法を示したものである。(A)に示すようにカッター6は刃7のねじれ角15度のものを使用し、これをホルダー1に対して回転軸4を30度傾けて取り付ける。そして、これにより被切削部材10を切削ナーリング加工すると、刃7は被切削部材10に対し45度ねじれていることになるので、(B)に示すクロスパターンの凹凸面9が形成されることになる。
【0030】
図7(A)は同図(B)に示すダイヤモンドパターン(菱形目)の凹凸面9を形成する方法を示したものである。(A)に示すようにカッター6は刃7のねじれ角0度のものを使用し、これをホルダー1に対して回転軸4を30度傾けて取り付ける。そして、これにより被切削部材10を切削ナーリング加工すると、刃7は被切削部材10に対し30度ねじれていることになるので、(B)に示すダイヤモンドパターンの凹凸面9が形成されることになる。
【0031】
なお、被切削部材としては棒状部材のみならず中空部材も使用可能である。転造ナーリングと比べ切削ナーリングは被切削部材への負荷が小さいので、無垢の丸棒に限らず、例えば中空の細長い材料にもナーリング加工が可能となる。また、切削ナーリング加工により形成される凹凸面の突端は尖っているので、この先端の摩耗を防ぐためには焼き入れやセラミックコーティングによる硬化処理や耐摩耗処理は特に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の搬送ローラは、プリンタやコピーなどの事務機器の紙送りに限るものではなく、その他フィルム状やシート状の素材であれば各種用途において利用可能である。また、切削ナーリング加工は各種材料に対して可能であるので、搬送ローラの材料もその用途に合わして、金属製でも合成樹脂製でもよく、また無垢の丸棒でも円筒状のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】転造ナーリング加工を示す正面図である。
【図2】転造ナーリング加工を示す平面図である。
【図3】切削ナーリング加工を示す平面図である。
【図4】本発明に係る搬送ローラの正面図である。
【図5】本発明に係る搬送ローラの製造方法を示す平面図(A)と、それにより形成される切削面(ストレートパターン)を示す図(B)である。
【図6】本発明に係る搬送ローラの製造方法を示す平面図(A)と、それにより形成される切削面(クロスパターン)を示す図(B)である。
【図7】本発明に係る搬送ローラの製造方法を示す平面図(A)と、それにより形成される切削面(ダイヤモンドパターン)を示す図(B)である。
【符号の説明】
【0034】
1 ホルダー
2 ローレット駒
3 ローレット目
4 回転軸
5 加工部材
6 カッター
7 刃
8 搬送ローラ
9 凹凸面
10 被切削部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラの表面の適宜箇所に切削ナーリング加工による凹凸面が形成してあることを特徴とする搬送ローラ。
【請求項2】
ローラは金属製であり、硬化及び(又は)耐摩耗処理がしてある請求項1に記載の搬送ローラ。
【請求項3】
耐摩耗処理としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングがしてある請求項2に記載のローラ。
【請求項4】
被切削部材の表面に切削ナーリング加工を行い、所望形状の凹凸面を形成するようにしたことを特徴とする搬送ローラの製造方法。
【請求項5】
被切削部材は棒状部材である請求項4に記載の搬送ローラの製造方法。
【請求項6】
被切削部材は中空部材である請求項4に記載の搬送ローラの製造方法。
【請求項7】
被切削部材は金属材料を使用し、切削ナーリング加工後に、焼き入れ処理をするようにした請求項4〜6の何れかに記載の搬送ローラの製造方法。
【請求項8】
被切削部材は金属材料を使用し、切削ナーリング加工後に、セラミックコーティング処理をするようにした請求項4〜7の何れかに記載の搬送ローラの製造方法。
【請求項9】
コーティングはDLCコーティングである請求項8に記載の搬送ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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