説明

搬送機構、及び、これを用いた真空処理装置

【課題】大型の基板であっても、安定して搬送することができ、同時に、搬送する基板の下方に充分なスペースを確保することができる搬送機構を提供することにある。
さらに、係る搬送機構によって基板を安定に搬送しながら効率良く真空処理を行いうる真空処理装置を提供することにある。
【解決手段】駆動軸に回転運動を付与する駆動系と、駆動軸に該駆動軸の中央に最も径が大きいコロを有するローラーとを具備し、ローラーに接触する金属ベルトを、駆動系でローラーを回転させることにより進行させて、金属ベルト上の被搬送物を順次移送させることを特徴とする搬送機構であり、及びそれを備えた真空処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルの製造工程等で使用される、被搬送物としてガラス基板のような大型基板の搬送にも対応した搬送機構、及び、該搬送機構を用いた真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、液晶パネルの成膜処理を行う真空処理装置において、ガラスのような大型基板を水平にした状態で搬送する(以下、水平搬送という)ために、特許文献1,2に開示されたような搬送機構が提案されている。
【0003】
特許文献1には、基板の搬送方向に配列した複数のローラーシャフトに複数の幅の細いローラーを適当な間隔で配置した搬送機構が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、基板の大型化に伴い、基板にダメージを与えず安定的に搬送を行うことを主眼とした機構として、予め撓んだシャフトにローラーを具備した搬送ローラーを備えた搬送機構が開示されている。
【0005】
上記のとおり、大型基板を安定的に搬送させることは、基板へのダメージを抑制することになり、装置の安定稼動に寄与するものである。また、最近の成膜プロセスの多様化とその性能の安定化に対する要望に呼応するために、成膜処理時における、例えば、加熱や冷却性能の制御を容易にする機構を基板搬送の近傍に設置できる真空処理装置を提供することが必要であった。
【0006】
特に、基板を水平搬送する場合に、搬送される基板の下部(真空処理装置の底面上)にそれらの機構が設置できる真空処理装置を提供することは、成膜プロセスの多様化とその性能の安定化において重要なことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−338893号公報
【特許文献2】特開2004−352427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2に開示された真空処理装置においては、搬送する基板の下部にローラーシャフトやそれに具備される複数のローラーを支持するための軸受けや支持部が必要となる。
【0009】
その理由は、基板の幅方向において、ローラーが基板に均等に接して、基板を前方に均等に押し出す必要があるためである。基板の自重による垂れ下がりや加熱雰囲気による撓み量増加などにより、ローラーが基板に均等に接していない場合には、基板を押し出す力が該幅方向において不均一になるため、搬送方向が歪んだり、結果として基板自体にダメージを与える恐れがある。
【0010】
また、上記した軸受けや支持部は、搬送方向に直交する方向(幅方向)の中央付近の装置底部に設置されるため、係る位置に加熱や冷却機構を独立したユニット形式で設置しようとすると、スペースに制約を受けることになる。そのため、幅方向の中央付近に充分なスペースを確保することができる搬送機構が望まれていた。
【0011】
本発明の課題は、大型の基板であっても、安定して搬送することができる搬送機構を提供することにある。また、同時に、搬送する基板の下方に充分なスペースを確保することができる搬送機構を提供することにある。
【0012】
本発明においては、さらに、係る搬送機構によって基板を安定に搬送しながら効率良く真空処理を行いうる真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1は、駆動軸に回転運動を付与する駆動系と、前記駆動軸に該駆動軸の中央に最も径が大きいコロを有するローラーとを具備し、前記ローラーに接触する金属ベルトを、前記駆動系で前記ローラーを回転させることにより進行させて、前記金属ベルト上の被搬送物を順次移送させることを特徴とする搬送機構である。
【0014】
本発明の第2は、複数のプロセスチャンバを有し、前記プロセスチャンバに被搬送物を搬送するための搬送機構を備えた真空処理装置であって、前記搬送機構として、前記本発明の搬送機構を少なくとも1台備えていることを特徴とする真空処理装置である。
【0015】
本発明の第3は、前記金属ベルトに対して前記被搬送物が載置される側と反対側に、加熱又は冷却の独立したユニットが配置されることを特徴とする真空処理装置である。
【0016】
本発明の第4は、前記被搬送物が、少なくとも一辺が1mを超えるガラス基板であることを特徴とする真空処理装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の搬送機構においては、金属ベルトを使用して大型のガラス基板等の被搬送物の撓みに合わせて金属ベルトの中央部が凸形状になるように搬送するため、金属ベルトと被搬送物の密着性が向上し、被搬送物の幅方向において均等に被搬送物を押し出すことができ、大型の基板であっても安定して被搬送物を搬送することができる。
【0018】
また、金属ベルトを支えるローラーは、少なくとも両端で支持して十分な張力と搬送速度が得られればよく、従来のローラーのような、ローラーの幅方向中央部で下方からローラーを支える軸受けや支持部を設ける必要がない。
【0019】
そのため、該ワイヤーの下方において充分なスペースを確保することができ、真空処理装置において、被搬送物の下方に加熱や冷却パネル等を設置することができる。さらに、金属ベルトと被搬送物との密着性が向上するため温度分布の均一性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る搬送機構を用いた真空処理装置の側面図である。
【図2】本発明に係る搬送機構を用いた真空処理装置を上から見た平面図である。
【図3】本発明に係る搬送機構の駆動ローラーの断面図である。
【図4】本発明に係る搬送機構のフリーローラーの断面図である。
【図5】本発明の真空処理装置の一実施形態であるインライン型の真空処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の搬送機構は、電子デバイスを製造するための真空処理装置に好ましく適用されるが、本発明において電子デバイスとは、電子技術を利用した装置全般を指す。例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の各種表示用素子、太陽電池等である。
【0022】
図1は、本発明の搬送機構の一実施形態を用いた真空処理装置の概略構成を示す正面図である。また、図2は係る搬送機構を用いた真空処理装置を上から見た平面図である。尚、図1においては、便宜上、図2に示した一部の部材を省略している。
【0023】
本発明の搬送機構は、被搬送物として、一辺が1m以上のガラス基板の搬送に適しており、例えば、G5(1100mm×1300mm)対応のガラス基板である。
【0024】
図1、図2において、符号6は係る被搬送物である基板であり、本例においては、係る基板6を金属ベルト1の上に載置して、直接、金属ベルト1を前方に押し出して搬送する駆動ローラー2と、該駆動ローラー2のガイド用としてフリーローラー3から構成される。
【0025】
駆動ローラー2は、駆動軸5に取り付けられており、駆動軸5の先には、不図示のモータ等の駆動系が配置されている。それにより、駆動ローラー2に接する金属ベルト1は基板6を搬送する。
【0026】
一方、フリーローラー3は、基板6を載置した金属ベルト1の搬送時の受け渡しをスムーズにさせるため、駆動系は持たずに駆動ローラー2の前後に配置する。
【0027】
また、符号12は、補助ローラー12であり、補助ローラー12で金属ベルト1の両端部分を押さえ込むことができ、金属ベルト1の走行を安定させて基板6の搬送方向を安定させるための部材である。なお、金属ベルト1にテンションを与えるためのテンションローラー4が配置されていてもよい。
【0028】
さらに、金属ベルト1をはさんで上部には上部ヒータ7、下部には下部ヒータ8を配置することで、基板6の表裏の温度差を制御することができる構成にしてもかまわない。
【0029】
図3により本発明に係る駆動ローラー2と、図4によりフリーローラー3について詳細に説明する。
【0030】
図3は、駆動ローラー2の断面図(図2図示のA-A断面)であり、図4は、駆動ローラー2と同様の方向から見たフリーローラー3の断面図である。
【0031】
図3及び図4に示されるように、駆動ローラー2及びフリーローラー3は、駆動軸5に複数個のリング状コロ11が配置している。
尚、図4においては、便宜上、図3に示した一部の符号を省略している。
【0032】
本発明に係る搬送機構が有する駆動ローラー2は、図3に示されるように、駆動軸5の中央部分9に配置されるリング状コロ11の外径が、駆動軸5の両端部分10に配置されるリング状コロ11の外径より大きく、金属ベルト1の巾方向の中心位置に該当する駆動軸5に配置されるリング状コロ11の外径を最も大きいものにすることを特徴としている。
【0033】
この場合、最も大きい外径を有するリング状コロ11は1つのときでも、複数個のときでもかまわない。
また、この場合、中央部分9と両端部分10で外径における回転速度が異なるため、中央部分9のリング状コロ11は駆動軸5と連結し、両端部分10のリング状コロ11は軸受(不図示)等で駆動軸5に対してフリーになるようにし、分割した構造としている。
【0034】
このように、金属ベルト1の中央部分9が膨らんだ凸形状にすることで、その位置に載置した基板6も自重や熱膨張の影響で撓み、凸形状に撓んだ基板6との密着性は向上する。
【0035】
さらに、基板6の大きさや板厚、または材質によって、撓ませる量が異なるが、リング状コロ11の組み合わせを変えることで、基板6の撓みに最適な凸形状を作り出すことも可能である。
なお、補助ローラー12は、両端部分10のテーパー形状に合わせるように傾斜がついている。金属ベルト1の厚みを薄くすることで、補助ローラー12が金属ベルト1を押さえ込むことができ、金属ベルト1はローラー形状に沿って凸形状となる。
【0036】
係る構成の搬送機構により、不図示の駆動系が駆動ローラー2の駆動軸5を回転させると、駆動軸5に連結したリング状コロ11が金属ベルト1に順次接触することにより、金属ベルト1上に載せられた基板6は駆動軸5の回転方向の前方に搬送する。
【0037】
一方、上述のとおり、フリーローラー3は、基板6を載置した金属ベルト1の搬送時の受け渡しをスムーズにさせるために、駆動系は持たずに駆動ローラー2の前後に配置されるものであり、図4のように、一実施例として、本発明に係る搬送機構が有する駆動ローラー2と構造的な特徴を合わせてもかまわない。
【0038】
次に、本発明の真空処理装置について説明する。
【0039】
本発明の真空処理装置は、複数のプロセスチャンバと、該チャンバに順次基板を搬送するための搬送機構を備えており、係る搬送機構として、前記した本発明の搬送機構を少なくとも1台備えていることを特徴とする。
【0040】
図5は、本発明の搬送機構を備えた真空処理装置の一例の構成を示す斜視図である。図中、符号30はそれぞれプロセスチャンバ(プロセスチャンバとしてカソード31を搭載したスパッタチャンバを含む)であり、紙面手前側から奥側に向かって、本発明の搬送機構で基板20を搬送しながら各チャンバ内において所定の処理を行う。
【0041】
図6に示すように、本発明の搬送機構を備えた真空処理装置においては、チャンバ30内において、幅方向中央部に従来のようなローラーを支持するための軸受けや支持部等を設ける必要がない。そのため、充分なスペースが確保され、所望の装置、部材を設置することができる。
【0042】
よって、電子デバイスの成膜プロセス上、基板の加熱や冷却が必要な場合において、基板の上方だけでなく、下方にも温度調整パネル40を載置することができ、効率良く成膜プロセスを行うことができる。
【0043】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 金属ベルト
2 駆動ローラー
3 フリーローラー
4 テンションローラー
5 駆動軸
6、20 基板
7 上部ヒータ
8 下部ヒータ
9 中央部分
10 両端部分
11 リング状コロ
12 補助ローラー
30 プロセスチャンバ
31 カソード



【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に回転運動を付与する駆動系と、前記駆動軸に該駆動軸の中央に最も径が大きいコロを有するローラーとを具備し、前記ローラーに接触する金属ベルトを、前記駆動系で前記ローラーを回転させることにより進行させて、前記金属ベルト上の被搬送物を順次移送させることを特徴とする搬送機構。
【請求項2】
複数のプロセスチャンバを有し、前記プロセスチャンバに被搬送物を搬送するための搬送機構を備えた真空処理装置であって、前記搬送機構として、請求項1に記載の搬送機構を少なくとも1台備えていることを特徴とする真空処理装置。
【請求項3】
前記金属ベルトに対して被搬送物が載置される側と反対側に、加熱又は冷却の独立したユニットが配置されることを特徴とする真空処理装置。
【請求項4】
被搬送物が、少なくとも一辺が1mを超えるガラス基板であることを特徴とする請求項2又は3に記載の真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121715(P2012−121715A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275576(P2010−275576)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】