説明

搬送用ベルト

【課題】薄型のベルトで屈曲性にも優れているとともに、ベルトの強度も有しており摩擦係数も安定させることができ、しかもソリを発生することのなく搬送を阻害することのない搬送用ベルトを提供する。
【解決手段】エラストマーからなり搬送面Aと駆動面Bを有する搬送用ベルト1であって、搬送面Aと駆動面Bには少なくとも一方の表面に短繊維6を配置してなる搬送用ベルト1であり、また、短繊維6の付着方法として静電植毛を用いてなる搬送用ベルト1であり、また、エラストマー中には心体2が埋設してなる搬送用ベルト1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATM、自動改札機、両替機、現金支払機等において紙幣や磁気カード、硬貨などを読取り、搬送する目的で好適に用いられる厚みの薄い搬送用ベルトにかかわり、詳しくは薄型のベルト特有の問題であるソリを防止し、しかもベルトと搬送物との間の摩擦力を安定させ正確で確実な搬送を行うことができる搬送用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
ATMなどでの硬貨の搬送、自動改札機、両替機等において紙幣やカードを搬送するのに、平ベルトや歯付ベルトなどの薄型のベルトがよく用いられている。これらのベルトは例えば特許文献1に開示されているようにエラストマー材料中に心線をスパイラル状に埋設し、ベルトの搬送面や駆動面に帆布を積層して表面の摩擦係数を安定させたり、表面の摩耗や亀裂を防止するために、また、ベルトの張力体として用いるために帆布を積層しているものがあった。
【0003】
更に、特許文献2には、同様にエラストマー材料からなるベルトの上層に導電性を有する帆布を積層し、ベルトの帯電を防止したようなベルトもある。特許文献3にはベルトの厚み方向の中心を境にベルトの構成材料を上下対称に配置することで、ベルトのソリを防止することが開示されている。
【0004】
【特許文献1】実開昭62−204058号公報
【特許文献2】特開2002−255324号公報
【特許文献3】特開平8−99704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特にこれらの搬送用途に供されるベルトは、非常に薄型である。薄型のベルトが前記のように表面に帆布を積層して構成されている場合、エラストマー材料と表面の帆布との間で線膨張係数が異なり、温度変化による熱膨張収縮量に差があるのでベルトにソリを発生しやすい。特に硬貨を搬送用ベルトで搬送する金融端末機では、重なった硬貨を1枚だけにして搬送できるように搬送用ベルトの上に硬貨1枚程度の厚みの隙間をもって逆転ローラが配置されており、搬送用ベルトが大きなソリを有していると硬貨が通過できなくなるといった問題があった。
【0006】
特許文献3では、ベルトの材料をベルト厚み方向の中心を境として上下対象に構成することでそれぞれの材料の間で線膨張係数の差があったとしてもそれぞれが打ち消しあってソリを発生させないようにしたベルトが開示されているが、例えば搬送に用いるベルトの搬送面に帆布を設ける場合、その反対面にもソリを防止する理由で同じ帆布を配置することになり、その分ベルトの厚みが増加してしまう。
【0007】
このようなベルトは装置全体をコンパクトにするためにも小径プーリに巻きかけて長期にわたって走行させることができることが求められ、薄くて屈曲性に優れていることが好ましい。
【0008】
そこで本発明では、小径プーリに巻きかけて十分に使用できる厚みで屈曲性にも優れているとともに、ベルトの強度も有しており摩擦係数も安定させることができ、しかもソリの発生を抑えることができ搬送を阻害することのない搬送用ベルトの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような目的を達成するために本発明の請求項1では、エラストマーからなり搬送面と駆動面を有する搬送用ベルトにおいて、搬送面と駆動面には少なくとも一方の表面に短繊維を配置してなることを特徴とする。
【0010】
請求項2は、搬送面と駆動面を形成するエラストマーの表面に短繊維を植毛することで配置してなる請求項1記載の搬送用ベルトである。
【0011】
請求項3は、短繊維がパイル糸を静電植毛したものである請求項2記載の搬送用ベルトである。
【0012】
請求項4は、短繊維を設けた面の単位面積あたりの短繊維量が16〜48g/mである請求項1〜3記載の搬送用ベルトである。
【0013】
請求項5は、ベルトを構成するエラストマー中には心体が埋設してなる請求項1〜4記載の搬送用ベルトである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1では、ベルトの表面に短繊維を配置することで、表面の保護をすることができ亀裂発生による裂けの防止や、ベルト表面の摩擦係数を安定化して搬送能力を一定に保ったり、駆動を安定化させることができ、尚且つベルト厚みを薄く仕上げることができるとともにソリの発生を抑えることができる。
【0015】
請求項2、3では、ベルトに短繊維を植毛によって配置しており、比較的容易に短繊維を付着させることができるとともに、短繊維の付着強度も高く、ベルトを走行させても長期間にわたって維持することができる。
【0016】
請求項4によると、短繊維を配置する量を16〜48g/mと限定しているので、ベルトの保護や摩擦係数の調整といった効果を十分に得られる、しかも多すぎることがないのでベルト表面の摩擦係数を安定化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明の詳細を説明する。図1は本発明の搬送用ベルトの斜視図であり、図2は図1におけるA−A断面図である。
【0018】
本発明の搬送用ベルト1は、心体2を接着ゴム3内に埋設せしめ、該接着ゴム3を上部には伸張ゴム4を積層して搬送面Aが形成され、接着ゴム3の下部には圧縮ゴム5を積層して駆動面Bが形成されている。
【0019】
ここでベルトを構成する心体2を構成する材料としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維などの有機繊維あるいはガラス繊維、スチールワイヤなどの無機繊維からなるロープ、織布もしくは編み布を挙げることができる。
【0020】
これらのような心体を埋設する前記上下接着ゴム3及び伸張ゴム4、圧縮ゴム5は、NR(天然ゴム)、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、H−NBR(水素化ニトリルゴム)などの単一材またはこれらを適宜ブレンドしたゴムあるいはポリウレタンなどからなる。
【0021】
また、本発明においてはベルト1の表面A、Bには帆布を積層することなくその代わりに短繊維6を配置することで、ベルトの表面A、Bから亀裂が発生してベルトが縱裂きするといった問題の防止や、ベルト表面A、Bの摩擦係数を安定化させることができ、尚且つベルトの厚みを薄く保ってベルトの耐屈曲性を優れたものにすることができるとともにベルトにもソリを発生することがないので良好な搬送性能を得ることができる。
【0022】
従来から前記のようなベルト11表面の保護や摩擦係数の調整・安定化の目的で図6、7に示すような帆布12を積層配置することがよく行われてきたが、積層した帆布12と、接着ゴム、伸縮ゴム、圧縮ゴムなどのエラストマー材料13との間で線膨張係数が異なるので温度変化で熱膨張・収縮量に差があり、その結果ベルト11のソリにつながってしまうという問題があった。
【0023】
本発明では帆布を積層することなく、その代わりとして短繊維6を配置している。接着ゴム3、伸張ゴム4、圧縮ゴム5などからなるエラストマーと短繊維6との間で素材として線膨張係数の違いがあったとしても、短繊維6の一本一本はそれぞれが独立しているのでベルト1全体のソリとなって発生するのを防止することができる。
【0024】
搬送用ベルト1の表面A、Bへ短繊維を配置する方法としては、植毛する方法を挙げることができる。短繊維6を配置する面の表面に接着剤を設けておいて短繊維6を植毛するが、ベルト1を製造する途中の未加硫ゴムのスリーブ7が金型に装着されている状態で、表面に接着剤をスプレー法や、ディップ法などの公知の方法で塗布する。
【0025】
接着剤としては、トルエン、メチルエチルケトンなどのゴムシートを融かすことができる有機溶剤、ゴム系接着剤、RFL(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス)接着剤、ウレタン系エマルション、アクリル系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、スチレン系エマルションなどがある。RFL液はレゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合体をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしてはクロロプレンゴム、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、ニトリルゴム、エチレン・α−オレフィン−ジエン共重合体ゴムラテックスである。また、RFL液にイソシアネート化合物も添加することができる。なお、接着剤を塗布する前に、表面をアルコール拭などのクリーニング処理、プライマー処理などの前処理を行ってもよい。
【0026】
接着剤の厚みは、特に限定されるものではないが、短繊維6を良好にさせるためにも約0.05〜1mm、好ましくは0.05mm〜0.5mmである。接着剤はあったほうが好ましいが必ずしも塗布しなくてもよい。
【0027】
続いて、図3に示すように公知の静電植毛機Sを用いて、ゴムスリーブ7の表面に静電植毛を行う。植毛処理としては、金型8をアースとして静電植毛機Sの電極に電圧を印加することにより電界を形成し、この電界内にレーヨン、綿、ポリエステル、ナイロン、アラミド、ポリビニルアルコール、炭素繊維、ポリテトラフルオロエチレンなどからなる表面を電着処理したパイルを供給し、飛ばせてゴムスリーブ7の表面に向けて突き刺すことによる植毛する。植毛後にはゴムスリーブを乾燥させる。
【0028】
また、上記のようにゴムシート表面に接着層を形成し、その上から短繊維を付着させる方法以外に、短繊維を含有する接着剤をゴムシートの表面に付着させて植毛層を形成する方法を採用することもできる。その場合は、上記ゴム系接着剤、RFL(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス)接着剤、ウレタン系エマルション、アクリル系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、スチレン系エマルション等の接着剤100質量部に対して5〜50質量部の短繊維を配合したものを用いることが好ましい。
【0029】
パイルの長さは0.1〜5.0mm程度が好ましく、アスペクト比(長さLmm/太さ直径Dmm)は30〜300の範囲が好ましい。また、植毛した短繊維の密度は、16〜48g/mの範囲が好ましい。16g/m未満であるとベルトを保護し縦裂きなどを防止する効果や、摩擦係数を調整する効果が十分にえられず、32g/mを超えると密度が高すぎて曲げ剛性が高くなりすぎるので好ましくない。
【0030】
植毛したゴムスリーブ7に適宜ジャケットなどを装着して加熱・加圧することによって未加硫ゴムを加硫する。そうすることで植毛した短繊維6はゴムの表面に露出した状態で強固に付着する。加硫したゴムスリーブ7を所定幅にカットすることで表面に短繊維を付着させたベルトとすることができる。
【0031】
また、図4に示すようにゴムスリーブ7の表面に接着剤をスプレー法、ディップ法等の塗布装置Tにて接着層9を塗布形成し、接着層9の上に静電植毛ではなく短繊維散布装置Uにより短繊維6を散布し接着層9に付着させるといった方法を採ることもできる。
【0032】
以上のような方法で金型8条のゴムスリーブ7に短繊維6を付着させることで、図5に示すように表面に短繊維6の層を形成したゴムスリーブを得ることができる。
【0033】
更に、伸張ゴム4と圧縮ゴム5を形成するゴムの未加硫時に短繊維を混入して短繊維配合ゴムとし、そのゴムでベルトを作成することによってゴム表面A、Bに短繊維6を露出させる方法もある。この場合、混入する短繊維として挙げられるのは、綿、ポリアミド、ポリエステル、レーヨン、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などである。これらの短繊維の長さは0.4〜10mmの範囲内であることが好ましく、0.4mm未満であるとベルト表面への露出量が不足し、耐摩耗性や耐亀裂性といった効果も十分に得られず、摩擦係数を調整する効果も薄い。
【0034】
一方、短繊維6の混入量についてはエラストマー100質量部に対して5〜40質量部が好適である。5質量部未満の場合は耐摩耗性や耐亀裂性の効果が少なくなり、40質量部を超えるとかえって物性を損ねることにつながるので好ましくない。
【0035】
次にベルトの表面に短繊維を付着させた本発明の実施例と、従来からあるベルトの片面に帆布を積層一体化した比較例に相当するベルトを作成して比較実験を行った。
【実施例】
【0036】
(実施例)
実施例としては、クロロプレンゴムを主成分とするゴム組成物中にナイロンからなる心線をスパイラル状に埋設した平ベルトの片面に0.4mm長さの短繊維を静電植毛により付着させた20mm幅で1.0mm厚みのベルトを用意した。付着させた短繊維の密度は32g/mである。出来上がったベルトを平坦な台の上に凹面を下にして載せ、ソリにより浮き上がった最大高さをソリ量として測定した。その結果を表1に示す。
【0037】
(比較例)
比較例としては、実施例と同様にクロロプレンゴム製でナイロン心線をスパイラル状に埋設した平ベルトの片面にナイロン製の帆布を積層一体化した20mm幅で1.0mm厚みのベルトを用意した。出来上がったベルトを平坦な台の上に凹面を下にして載せ、ソリにより浮き上がった最大高さをソリ量として測定した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果からわかるように平ベルトの片面に帆布を積層した比較例のベルトでは3.00mmと大きなソリが発生しているのに対して、帆布の代わりに短繊維を付着させた実施例ではソリの発生は見られるもののソリ量が0.85mmと小さなソリの発生にとどまっており、本発明の効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
例えばATMなどの金融端末において硬貨などを繰り出すのに使用する搬送用ベルトとして有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の搬送用ベルトの斜視断面図である。
【図2】本発明の搬送用ベルトの断面図である。
【図3】静電植毛しているところの正面図である。
【図4】短繊維を散布しているところの正面図である。
【図5】短繊維を付着したゴムスリーブの側面図である。
【図6】従来の搬送用ベルトの斜視断面図である。
【図7】従来の搬送用ベルトの断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 搬送用ベルト
2 心線
3 接着ゴム
4 伸張ゴム
5 圧縮ゴム
6 短繊維
7 内型
8 ベルトスリーブ
9 接着層
S 静電植毛機
T 塗布装置
U 短繊維散布装置
11 搬送用ベルト
12 帆布
13 エラストマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーからなり搬送面と駆動面を有する搬送用ベルトにおいて、搬送面と駆動面には少なくとも一方の表面に短繊維を配置してなることを特徴とする搬送用ベルト。
【請求項2】
搬送面と駆動面の少なくとも一方に接着層を設けて該接着層に短繊維を付着させて植毛配置してなる請求項1記載の搬送用ベルト。
【請求項3】
短繊維がパイル糸を静電植毛したものである請求項2記載の搬送用ベルト。
【請求項4】
短繊維を設けた面の単位面積あたりの短繊維量が16〜48g/mである請求項1〜3記載の搬送用ベルト。
【請求項5】
ベルトを構成するエラストマー中には心体が埋設してなる請求項1〜4記載の搬送用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−133136(P2008−133136A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283101(P2007−283101)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】