説明

搬送用ベルト

【課題】 低コストで、搬送物を傷つける虞がない搬送用ベルトを提供する。
【解決手段】 ゴム状弾性体からなり、硬貨・メダル40を搬送するための搬送用ベルト10であって、搬送用ベルト10の表面は、表面処理により摩擦係数を変化させた表面処理部11Aと、未処理部11Bとからなり、未処理部11Bは、搬送方向に亘って間欠的に且つ搬送方向に直交する方向に沿って設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動改札機、現金預金支払機、両替機、自動発券機、又はメダル交換機において、硬貨・メダルを搬送する搬送用ベルトに関する。なお、硬貨・メダルとは、「硬貨及び/又はメダル」を指し、硬貨とは、貨幣、賭博用硬貨、代用硬貨を含む概念であり、メダルとは、記念メダル、遊戯用メダルを含む概念である。
【背景技術】
【0002】
自動改札機、現金預金支払機、両替機、自動発券機、メダル交換機等において用いられる搬送用ベルトは、硬貨・メダル等を装置内で円滑に移送する搬送力が求められる。そこで、セラミック粒子等の粒子を表面に突出させて搬送面を凹凸面とした搬送用ベルトなどが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の搬送用ベルトは、搬送物と接触面積が小さく、ベルトに油や水が付着した場合においても一定の摩擦係数を維持することができるものである。しかしながら、この搬送用ベルトは、表面に突出させた粒子により、搬送物にキズをつけてしまうことが避けられなかった。
【0003】
また、表面に突起を形成した搬送用ベルトも提案されている。しかしながら、表面に突起を付けると金型投資が大きくなるという問題や、生産性を高くするのが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−191176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑み、低コストで、搬送物を傷つける虞がない搬送用ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、ゴム状弾性体からなり、硬貨・メダルを搬送するための搬送用ベルトであって、前記搬送用ベルトの表面は、表面処理により摩擦係数を変化させた表面処理部と、未処理部とからなり、前記未処理部は、搬送方向に亘って間欠的に且つ搬送方向に直交する方向に沿って設けられていることを特徴とする搬送用ベルトにある。
【0007】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理は化学的処理であることを特徴とする搬送用ベルトにある。
【0008】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理部は、前記未処理部よりも摩擦係数が低いことを特徴とする搬送用ベルトにある。
【0009】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の搬送用ベルトにおいて、前記未処理部の搬送方向の幅は、搬送する硬貨・メダルの幅よりも大きいことを特徴とする搬送用ベルトにある。
【0010】
本発明の第5の態様は、第1〜4のいずれか一つの態様に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理部は、イソシアネート成分を含む表面処理液により表面処理されたものであることを特徴とする搬送用ベルトにある。
【0011】
本発明の第6の態様は、第1〜5のいずれか一つの態様に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理部の搬送方向の幅W、前記未処理部の搬送方向の幅Wとしたとき、W/Wが0.5以上3以下であることを特徴とする搬送用ベルトにある。
【0012】
本発明の第7の態様は、第1〜6のいずれか一つの態様に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理部と前記未処理部とが面一であることを特徴とする搬送用ベルトにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の搬送用ベルトは、表面が、表面処理により摩擦係数を変化させた表面処理部と、未処理部とからなり、未処理部は、搬送方向に亘って間欠的に且つ搬送方向に直交する方向に沿って設けられていることにより、搬送面に摩擦係数の異なる領域が搬送用ベルトの搬送方向に交互に並設されることとなり、摩擦係数の高い領域で硬貨・メダルを搬送することができる。本発明によれば、搬送物を傷つけることなく搬送することができる。また、この搬送用ベルトは、製造の際に特別な金型や装置が不要であり、製造方法も容易であるため、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1に係る搬送用ベルトの概略斜視図である。
【図2】実施形態1に係る搬送用ベルトの製造方法の一例である。
【図3】他の実施形態に係る搬送用ベルトの概略斜視図である。
【図4】試験例1の実機を想定したメカにおける搬送用ベルトの概略斜視図である。
【図5】試験例2及び3の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の搬送用ベルトの一実施形態を示す図である。
【0016】
(実施形態1)
図1に示す搬送用ベルト10は、ゴム状弾性体11からなる。この搬送用ベルト10の表面は、表面処理により摩擦係数を変化させた表面処理部11Aと、表面処理されていない未処理部11Bとからなる。この表面処理部11A及び未処理部11Bは、搬送方向に亘って交互に且つ搬送方向に直交する方向に沿って設けられている。
【0017】
ここで、表面処理部11A及び未処理部11Bが搬送方向に直交する方向に沿って設けられているとは、表面処理部11A及び未処理部11Bが搬送方向に直交する方向、すなわち、本実施形態では搬送用ベルト10の短手方向に延設されており、且つ表面処理部11A及び未処理部11Bが搬送方向に並設されていることをいう。好適には、表面処理部11A及び未処理部11Bが搬送用ベルト10の短手方向に対して実質的に平行に設けられている状態をいうが、効果を損なわない範囲であれば搬送用ベルト10の短手方向に対して傾斜していてもよい。例えば、表面処理部11A及び未処理部11Bは、搬送方向に対して角度が70〜110°となるようにするのが好ましく、特に好ましくは85〜95°である。
【0018】
このように、搬送用ベルト10の表面が表面処理部11Aと、未処理部11Bとからなることにより、搬送面に摩擦係数の異なる領域が設けられることとなる。そして、表面処理部11A及び未処理部11Bが、搬送方向に直交する方向に沿って設けられていることにより、搬送面に摩擦係数の異なる領域が搬送用ベルトの搬送方向に交互に並設されることとなり、摩擦係数の高い領域で硬貨・メダル40を搬送することができる。本実施形態では、表面処理部11Aは、イソシアネート成分を含む表面処理液により表面処理されたものとした。これにより、表面処理部11Aの摩擦係数を未処理部11Bの摩擦係数よりも低いものとした。
【0019】
図1に示す方向に硬貨を搬送する際には、表面処理部11Aよりも摩擦係数の高い未処理部11Bに硬貨・メダル40が保持されて搬送される。搬送用ベルト10が傾斜している場合、硬貨・メダル40は搬送用ベルト10の下方へと滑り落ち易いが、摩擦係数の高い未処理部11Bで保持されて、搬送される。すなわち、硬貨・メダル40は、表面処理されて摩擦係数が低くなった表面処理部11Aを滑り、摩擦係数が高い未処理部11Bで保持されて、搬送される。
【0020】
上述したように、本実施形態の搬送用ベルト10は、未処理部11Bにより硬貨が搬送される。未処理部11Bの搬送方向の幅は、搬送する硬貨・メダル40の幅と同等以上であればよいが、硬貨・メダル40の幅よりも大きいのが好ましい。これにより、硬貨・メダル40を確実に搬送することができる。一方、表面処理部11Aの搬送方向の幅は特に限定されず、未処理部11Bの幅と同じであっても異なっていてもよく、硬貨・メダル40を搬送する量や仕様にあわせて適宜設定すればよいが、表面処理部の搬送方向の幅W、未処理部の搬送方向の幅Wとしたとき、W/Wが0.5以上3以下を満たすのが好ましく、0.5〜2を満たすのがさらに好ましい。これにより、搬送性能の高い搬送用ベルトとすることができる。なお、表面処理部11Aの搬送方向の幅を調整することにより、硬貨・メダル40を搬送する間隔や搬送性能を調整することができる。
【0021】
表面処理部11Aと未処理部11Bは、なだらかに連続している状態、すなわち、表面処理部11Aと未処理部11Bとが面一であるのが好ましい。例えば、表面処理部11Aと未処理部11Bは、ほとんど段差がなく、表面処理部11Aの厚さと未処理部11Bとの厚さの差は10μm以下であるのが好ましい。表面処理部11Aは厚さをほとんど厚くすることなく設けることにより、搬送物を傷つける虞がなく、搬送用ベルトの取り付けスペースの制約もなくすことができる。
【0022】
ここで、ゴム状弾性体11は、搬送用ロールや搬送用ベルトに従来から用いられているものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、ウレタンゴム、ニトリルゴムを好適に用いることができ、特にウレタンゴムが好ましい。
【0023】
表面処理部11Aは、表面処理により摩擦係数を変化させたものである。表面処理としては、ブラスト処理、サンドペーパー処理、ラッピングフィルム処理等の物理的処理、又は紫外線照射処理、酸処理、表面処理液による処理等の化学的処理が挙げられるが、化学的処理が好ましい。化学的処理により表面処理することにより、搬送用ベルトの搬送面、すなわち、表面のみを変化させることができ、搬送用ベルトの機械特性等を維持することができるためである。また、化学的処理によれば、搬送用ベルトの表面をばらつきがなく安定した任意の摩擦係数とすることができる。
【0024】
本実施形態では、搬送用ベルト10の表面に、表面処理部11Aと未処理部11Bとをそれぞれ2つ以上設けたもの、すなわち、摩擦係数の異なる表面処理部11Aと未処理部11Bが搬送方向に交互に並設された状態となっている。これにより、本実施形態では、摩擦係数の高い未処理部11Bで複数の硬貨・メダル40を効率よく搬送することができる。
【0025】
本実施形態の搬送用ベルト10の表面は、イソシアネート成分を含む表面処理液により表面処理された表面処理部11Aと、未処理部11Bとからなる。ここでいう表面処理部11Aとは、ゴム状弾性体11の表層部に、イソシアネート成分を含有する表面処理液を含浸させて形成した表面処理層の表面を指す。このような表面処理部11Aを設けることにより、搬送用ベルト10の表面の平坦性を維持したまま、摩擦係数の異なる領域を形成することができる。
【0026】
この表面処理層は表面から内部に向かって漸次疎になるように一体的に形成される。表面処理層(表面処理部11A)は、表面処理液中の有機溶剤がゴム状弾性体11に浸透することにより、ゴム状弾性体11がわずかに膨潤して微細な溝が発生し、この微細な溝に表面処理液中の少なくともイソシアネート成分が充填されることにより形成されるものであり、未処理部11Bと比較してごくわずかに厚さが厚くなるが、10μm以下程度の差である。したがって、表面処理部11Aは、搬送用ベルトの表面にコーティング層を形成した場合のように表面に凹凸が生じることがないため、搬送不良が生じる虞がない。また、搬送用ベルトの表面に粒子を設けた場合のように、搬送する硬貨・メダル40を傷つける虞がない。さらに、コーティング層のように剥がれたり、粒子を設ける場合のように脱落したりする問題がない。
【0027】
本発明で用いられる表面処理液は、有機溶剤に、少なくともイソシアネート成分を溶解させたものである。表面処理液に含まれるイソシアネート成分としては、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)などのイソシアネート化合物、および前記の多量体および変性体などを挙げることができる。さらに、ポリオールとイソシアネートからなるプレポリマーを挙げることができる。
【0028】
また、表面処理液には、ポリエーテル系ポリマーを含有させてもよい。ここで、ポリエーテル系ポリマーは、有機溶剤に可溶であるのが好ましく、また、活性水素を有して、イソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものが好ましい。
【0029】
活性水素を有する好適なポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、エピクロルヒドリンゴムが挙げられる。ここでいうエピクロルヒドリンゴムは未加硫状態のものを指す。エピクロルヒドリンゴムは、表面処理層に導電性と共に弾性を付与することができるため好ましい。なお、エピクロルヒドリンゴムは、末端に活性水素(水酸基)を有しているが、ユニットに水酸基、アリル基などの活性水素を有しているものも好ましい。なお、エピクロルヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体やその誘導体などを挙げることができる。
【0030】
活性水素を有する他の好適なポリエーテル系ポリマーとしては、水酸基又はアリル基を有するポリマーが挙げられ、例えば、ポリオール、グリコール等が挙げられる。このようなポリエーテル系ポリマーは活性水素を有する基を両末端に備えたものよりも片末端にのみ備えたものが好ましい。また、数平均分子量が300〜1000であることが好ましい。表面処理層に弾性を付与することができるためである。このようなポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル、ポリアルキレングリコールジメチルエーテル、アリル化ポリエーテル、ポリアルキレングリコールジオール、ポリアルキレングリコールトリオール等を挙げることができる。
【0031】
このように表面処理液にポリエーテル系ポリマーを添加することで、表面処理層の柔軟性や強度が向上する。
【0032】
また、表面処理液には、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーから選択されるポリマーを含有させてもよい。
【0033】
本発明の表面処理液に用いられるアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、所定の溶剤に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものである。アクリルフッ素系ポリマーは、例えば、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有する溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。また、アクリルシリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。
【0034】
また、表面処理液中のアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、イソシアネート成分に対し、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーの総量を10〜70質量%となるようにするのが好ましい。10質量%より少ないとカーボンブラック等を表面処理層中に保持する効果が小さくなる。一方、ポリマー量が70質量%より多いと、電気抵抗値が上昇し放電特性が低下するという問題や、相対的にイソシアネート成分が少なくなって有効な表面処理層が形成できないという問題がある。
【0035】
さらに、表面処理液は、イソシアネート成分、および必要に応じて含有されるこれらポリエーテル系ポリマー、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーを溶解する有機溶剤を含有する。有機溶剤としては特に限定されないが、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン等の有機溶剤を用いればよい。
【0036】
上述した表面処理液により表面処理された表面処理部11Aの摩擦係数は、未処理部11Bよりも摩擦係数が低くなる。表面処理部11Aの摩擦係数は、表面処理液にイソシアネート成分のみを使用した場合、これにフッ素系ポリマーやシリコーン系ポリマーを添加した場合、さらに、カーボンブラックを添加した場合など、成分を調整することにより比較的容易に変化させることができる。例えば、イソシアネート成分とフッ素系ポリマーやシリコーン系ポリマーとを含む表面処理液を用いる場合は、イソシアネート成分のみを含有する表面処理液を用いる場合と比較して、さらに摩擦係数が低下する。
【0037】
表面処理部11Aは、カーボンブラックを含有する表面処理液を用いることにより更に低摩擦係数化を図ることができる。かかるカーボンブラックは表面処理液に分散させた状態で表面処理層を形成することにより、表面処理層内に固定することができる。
【0038】
ここで、カーボンブラックとしては、低摩擦係数化の目的のためであれば、導電性を有さないカーボンブラックを用いればよいが、逆に、導電性カーボンブラックを添加することにより、表面処理層により導電性を付与することができる。なお、導電性カーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック(ライオン社製)、トーカブラック#5500(東海カーボン社製)などが挙げられる。表面処理液中のカーボンブラックは、イソシアネート成分に対して40質量%以下であるのが好ましい。これより多すぎると脱落等の問題が生じ好ましくないからである。
【0039】
表面処理層(表面処理部11A)は、ゴム状弾性体11に表面処理液を含浸させ、乾燥硬化させることにより形成することができる。このような表面処理層は、主にイソシアネート成分が硬化して形成されたもので、イソシアネート成分の密度が表面から内部に向かって漸次疎になるように一体的に形成される。ゴム状弾性体11に表面処理液を含浸させる方法としては、ゴム状弾性体11の所定の範囲にマスクを形成して表面処理液をスプレー塗布する方法や、図2に示すように、芯体1に被覆させたゴム状弾性体11の表面に、表面処理液を染み込ませた複数の所定幅のスポンジロール30又はハケを押し当てて、ゴム状弾性体11を引き抜くことにより、複数の表面処理部11Aを一度に形成する方法などが挙げられる。ゴム状弾性体11の表面に表面処理部11A及び未処理部11Bを形成した後は、所定の幅に突っ切り等することにより、搬送用ベルト10となる。
【0040】
本発明の搬送用ベルトは、製造の際に特別な金型や装置が不要であり、製造方法も容易であるため、低コストで製造することができる。
【0041】
本実施形態では、図1に示すように、表面処理部11A及び未処理部11Bが、搬送方向に亘って交互に且つ搬送方向に直交する方向に沿って設けるようにしたが、これに限定されるものではない。本発明の搬送用ベルトは、未処理部が、搬送方向に亘って間欠的に且つ搬送方向に直交する方向に沿って設けられていればよく、例えば、図3に示す搬送用ベルト20のように、ゴム状弾性体21の表面は、未処理部21Bの搬送方向に直交する方向の端部が表面処理部21Aとなっていてもよい。すなわち、ゴム状弾性体の表面の未処理部は、搬送方向に直交する方向の端部から端部まで設けられていなくてもよい。
【0042】
本発明の搬送用ベルトは、自動改札機、現金預金支払機、両替機、自動発券機、又はメダル交換機において好適に用いられるものである。
【0043】
以下、具体的な実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものでないことは言う
までもない。
【0044】
(比較例1)
ウレタンからなるゴム弾性体を成形し、突っ切りすることにより、外径φ143mm×幅30mm×厚さ1.0mmのゴム状弾性体1を形成した。これを比較例1の搬送用ベルトとした。
【0045】
(実施例1)
〈表面処理液の調製〉
酢酸エチル100質量部、イソシアネート化合物(MDI)20質量部を、ボールミル
を用いて3時間分散混合した。
【0046】
〈ゴム状弾性体1の表面処理〉
表面処理液を20℃に保ったまま、マスクを介して、ウレタンからなるゴム状弾性体1に表面処理液をスプレー塗布した後、100℃に保持されたオーブンで10時間加熱し、未処理部の幅60mm、表面処理部の幅30mmの搬送用ベルトを得た。
【0047】
(比較例2)
ゴム状弾性体1の表面全体を表面処理した以外は実施例1と同様にして、比較例2の搬送用ベルトを得た。
【0048】
(比較例3)
幅70mm毎に、直径6mm×高さ2mmの突起を幅方向に2つ並べた突起付きの搬送用ベルトを比較例3の搬送用ベルトとした。
【0049】
(試験例1)
実施例1及び比較例1〜3の搬送用ベルトを実機を想定したメカに組み込み、500円硬貨を100枚搬送する搬送時間を10回測定した。
【0050】
具体的には、図4に示すように、各搬送用ベルトは、回転自在に設けられる直径20mmの一対のプーリに傾斜角度が30°となるように保持され、また、搬送面とは反対側の面には内周面側からテンションプーリが圧接されて、所定のテンションがかかった状態とした。そして、プーリに設けられる図示しない回転駆動手段により、プーリ及び搬送用ベルトを回転駆動させて、硬貨を図中の矢印の方向、すなわち、搬送用ベルトの下部側から上部側へ搬送した。
【0051】
500円硬貨を搬送する際に硬貨の二重搬送があるか否かを調べた。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(試験例2)
図5に示すように、角度が20°、30°、40°のジグ50に実施例1及び比較例1〜3の搬送用ベルト10を取り付けて、所定の高さに硬貨40を置き、硬貨40が滑って所定の位置で止まるか否かを調べた。なお、試験は25℃で湿度55%の環境下でそれぞれ3回行った。硬貨40が所定の位置で止まらずに滑り落ちた回数を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すように、表面に表面処理部と未処理部とを有する実施例1の搬送用ベルトは、表面に突起を有する比較例3のベルトと同様に、20°、30°のジグでは硬貨(500円)を所定の位置で確実に止めることができた。また、質量の小さい硬貨(1円)の場合も20°では所定の位置で止めることができた。このように、実施例1と比較例3は、硬貨の種類を変更しても同じ傾向を示していた。これより、本願発明の搬送用ベルトは、表面に突起を形成した搬送用ベルトと同等の搬送性能を有することがわかった。
【0056】
これに対し、表面全体を表面処理した比較例2の搬送用ベルトは、角度が20°であっても硬貨を所定の位置で止めることができず、搬送性能が低いことがわかった。
【0057】
表1に示すように、表面に表面処理部と未処理部とを有する実施例1の搬送用ベルトは、表面に突起を有する比較例3のベルトと同じ搬送時間で硬貨を搬送することができ、硬貨の二重搬送も見られなかった。
【0058】
表面処理を行っていない比較例1の搬送用ベルトは、搬送時間は速かったが、10回すべてにおいて硬貨の二重搬送が起きて、硬貨がつまってしまった。また、表面全体を表面処理した比較例2の搬送用ベルトは、硬貨の二重搬送は生じなかったが、搬送時間が100秒であった。
【0059】
(実施例2)
未処理部の幅(W)30mm、表面処理部の幅(W)30mmとした以外は、実施例1と同様にして搬送用ベルトを得た。
【0060】
(実施例3)
未処理部の幅(W)30mm、表面処理部の幅(W)60mmとした以外は、実施例1と同様にして搬送用ベルトを得た。
【0061】
(実施例4)
未処理部の幅(W)30mm、表面処理部の幅(W)90mmとした以外は、実施例1と同様にして搬送用ベルトを得た。
【0062】
(実施例5)
未処理部の幅(W)30mm、表面処理部の幅(W)120mmとした以外は、実施例1と同様にして搬送用ベルトを得た。
【0063】
(試験例3)
図5に示すように、角度が20°、30°のジグ50に各実施例の搬送用ベルト10を取り付けて、所定の高さに硬貨40を置き、硬貨40が滑って所定の位置で止まるか否かを調べた。なお、試験は25℃で湿度55%の環境下でそれぞれ3回行った。硬貨40が所定の位置で止まらずに滑り落ちた回数を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例1〜5の搬送用ベルトは、20°、30°のジグにおいて、いずれも1回以上硬貨を所定の位置で止めることができ、硬貨・メダルの搬送力があることが確認された。
【0066】
しかしながら、W/Wが4である実施例5では、角度が20°のジグの場合は、3回のうち1回硬貨を所定の位置で止めることができず、角度が30°のジグの場合は、3回のうち2回硬貨を所定の位置で止めることができなかった。
【0067】
これに対し、W/Wが3以下である実施例1〜4の搬送用ベルトは、500円硬貨の場合は、20°、30°のジグいずれにおいても所定の位置で確実に止めることができ、質量の小さい硬貨(1円)の場合でも20°では所定の位置で確実に止めることができた。
【0068】
これより、W/Wが3以下の搬送用ベルトは、特に搬送性能が高いことがわかった。
【符号の説明】
【0069】
10,20 搬送用ベルト
11,21 ゴム状弾性体
11A,21A 表面処理部
11B,21B 未処理部
40 硬貨
50 ジグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状弾性体からなり、硬貨・メダルを搬送するための搬送用ベルトであって、前記搬送用ベルトの表面は、表面処理により摩擦係数を変化させた表面処理部と、未処理部とからなり、前記未処理部は、搬送方向に亘って間欠的に且つ搬送方向に直交する方向に沿って設けられていることを特徴とする搬送用ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理は化学的処理であることを特徴とする搬送用ベルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理部は、前記未処理部よりも摩擦係数が低いことを特徴とする搬送用ベルト。
【請求項4】
請求項3に記載の搬送用ベルトにおいて、前記未処理部の搬送方向の幅は、搬送する硬貨・メダルの幅よりも大きいことを特徴とする搬送用ベルト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理部は、イソシアネート成分を含む表面処理液により表面処理されたものであることを特徴とする搬送用ベルト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理部の搬送方向の幅W、前記未処理部の搬送方向の幅Wとしたとき、W/Wが0.5以上3以下であることを特徴とする搬送用ベルト。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の搬送用ベルトにおいて、前記表面処理部と前記未処理部とが面一であることを特徴とする搬送用ベルト。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−51682(P2012−51682A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195095(P2010−195095)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】