説明

搬送装置の設備監視方法

【課題】搬送システムの実稼動中に走行時の加速度を計測することで早期に異常箇所を特定し、搬送システムの停止や事故を未然に防ぐようにした搬送装置の設備監視方法を提供すること。
【解決手段】搬送車2が走行レール1上を走行する搬送装置において、x軸、y軸、z軸の3軸方向を独立して計測する2組の加速度センサS1、S2を搬送車2に設置し、搬送車2が走行する際の加速度センサS1、S2の各軸ごとの加速度を計測し、計測値に基づいて設備の状態を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置の設備監視方法に関し、特に、搬送システムの実稼動中に走行時の加速度を計測することで早期に異常箇所を特定し、搬送システムの停止や事故を未然に防ぐようにした搬送装置の設備監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶パネル製造工場のクリーンルームで稼動する搬送装置は、無人運転の自動運転を24時間の連続稼動にて行っている。
搬送装置は液晶ガラス基板の世代が変わるごとに大型化し、それを搬送する搬送装置も大型化し重量も増加している。
搬送装置に不具合が生じて運転がストップした場合には、製造ラインヘのワーク供給が停止し製造もストップする。このようなシステムの停止を未然に防ぐための予防保全が欠かせない。
【0003】
大型化した搬送装置では、搬送装置自体の経時的な磨耗や劣化以外に、搬送装置を設置している建築物側の経時的な変形によっても影響を受ける。
一例として、工程間搬送を行う天井搬送の搬送車では、軌道を天井から吊り下げる構造が用いられる。
平行に敷設した2本のレール(軌道)は共に水平に設置されているが、一方のレールが下がれば搬送車がその部分を通過するときに車体が揺動する。
建築物の変形は、搬送システムの重量による経時変化以外に地震や他の要因によっても起こる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の搬送装置が有する問題点に鑑み、搬送システムの実稼動中に走行時の加速度を計測することで早期に異常箇所を特定し、搬送システムの停止や事故を未然に防ぐようにした搬送装置の設備監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本第1発明の搬送装置の設備監視方法は、搬送車が走行レール上を走行する搬送装置において、3軸方向を独立して計測する2組の加速度センサを搬送車に設置し、搬送車が走行する際の加速度センサの各軸ごとの加速度を計測し、該計測値に基づいて設備の状態を判断することを特徴とする。
【0006】
同じ目的を達成するため、本第2発明の搬送装置の設備監視方法は、スタッカクレーンが走行レール上を走行する搬送装置において、2軸方向を独立して計測する4組の加速度センサをスタッカクレーンに設置し、スタッカクレーンが走行する際の加速度センサの各軸ごとの加速度を計測し、該計測値に基づいて設備の状態を判断することを特徴とする。
【0007】
この場合において、走行レールの敷設状態、車輪の変形、あるいは速度制御の異常を判断することができる。
【発明の効果】
【0008】
本第1発明の搬送装置の設備監視方法によれば、搬送車が走行レール上を走行する搬送装置において、3軸方向を独立して計測する2組の加速度センサを搬送車に設置し、搬送車が走行する際の加速度センサの各軸ごとの加速度を計測し、該計測値に基づいて設備の状態を判断することから、搬送システムの実稼動中に走行時の加速度を計測することで早期に異常箇所を特定し、搬送システムの停止や事故を未然に防ぐことができる。
【0009】
また、本第2発明の搬送装置の設備監視方法によれば、スタッカクレーンが走行レール上を走行する搬送装置において、2軸方向を独立して計測する4組の加速度センサをスタッカクレーンに設置し、スタッカクレーンが走行する際の加速度センサの各軸ごとの加速度を計測し、該計測値に基づいて設備の状態を判断することから、搬送システムの実稼動中に走行時の加速度を計測することで早期に異常箇所を特定し、搬送システムの停止や事故を未然に防ぐことができる。
【0010】
この場合、走行レールの敷設状態、車輪の変形、あるいは速度制御の異常を設備の状態として判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の搬送装置の設備監視方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に、カセットを運搬する有軌道搬送車の例を示す。
走行レール1を走行する搬送車2の車体に、x軸、y軸、z軸の3軸方向を独立に計測する2組の加速度センサS1とS2を設ける。
2組の加速度センサの各軸ごとの加速度の和信号すなわち同相信号と、加速度の差信号すなわち差動信号とを合成する。
そして、各軸方向の差動信号と同相信号をそれぞれ周波数で区分する。
【0013】
直流領域(DC領域)から1Hz程度の領域では、レールのうねりや高低差などのレールの変形が上下方向(z軸方向)あるいは横方向(y軸方向)の加速度として観測できる。
車体の進行方向(x軸方向)の加速度は、車体の加速・減速の加速度が支配的でありレールの異常検知には使えないが、走行制御装置で駆動する車体の加速度の目標値と実際の加速度を比較し、その差分を積分することで目標速度との差を検出し、走行駆動の妥当性の評価を行うこともできる。
【0014】
1Hzから10Hzの領域では、走行車輪や車体をy軸方向に保持するためのサイドローラなどの変形が観測できる。
走行車輪やサイドローラの走行中の回転周期がこの周波数帯に入るため、車輪やローラの偏心、偏磨耗等の変形が搬送車の上下方向(z軸方向)や横方向(y軸方向)の加速度として検出できる。
【0015】
10Hzから30Hzの領域では、駆動系に起因する機械振動やレール連結部分の段差による機械振動などが観測できる。
周波数が30Hz近傍あるいはそれ以上では、車体の振動伝播経路により位相が変化し、同相信号あるいは差動信号の何れか一方だけに信号が出ることが希になる。計測対象から除外するためフィルタで高周波成分は除去する。
表1に、加速度の方向と、同相信号と差動振動で観測できる主な項目を示す。
【0016】
【表1】

【0017】
一方、カセットの保管と工程内への供給を行うカセットストッカのスタッカクレーンのセンサ配置を図2に示す。
スタッカクレーン4は、その長さと高さが搬送車に比較し大きいため、スタッカクレーンの前後の揺動、上と下でのマスト部分の振動も含めて計測するために、2軸の加速度センサを4組使用し、センサS1、センサS2をスタッカクレーンの前部サドルに、センサS4を後部サドルに、センサS3をマストの上部に設置する。
【0018】
スタッカクレーンにおいても、搬送車と同様に差動信号と同相信号の3つの周波数帯の信号により観測する。
表2に、同相信号と差動信号の各軸ごとの項目を示す。4組のセンサの組み合わせで、同様の信号の観測できる組み合わせが複数箇所に存在するが、表2では代表的なものを列記している。
搬送車ではない項目として、スタッカクレーンの加減速の加速度と、マストの走行方向の剛性によるマストの前後方向の揺れが1Hz以下の周波数に現われる。
マストの横方向(y軸方向)の振動は、図2に示すような高さが数メートル以下のマスト上部を支持しない構造のスタッカクレーンでは、2本の走行レールの左右の高低差支配要因になる。
一方、高さが数メートル以上で上部を支持するスタッカクレーンでは、上下のレールの位置偏差と走行レールの左右の高低差の複合要因により左右の加速度が発生する。
【0019】
【表2】

【0020】
計測方法を図3、図4、図5に示す。
図3は、各センサの信号について差動信号、同相信号の合成と周波数の弁別をフィルタによって行い、その結果をAD変換器でデジタル化する方法を示す。
周波数の弁別までをアナログ処理するため、各信号を計測機器でチャート等に直接記録できる特長がある。
LPFは特定の周波数以上を遮断するローパスフィルタ、BPFは特定の帯域を通過させるバンドパスフィルタ、HPFは特定の周波数以上を通過させるハイパスフィルタを示す。
図4は、差動信号、同相信号の合成のみをアナログ信号で行い、その結果をAD変換する方法であり、図5は、各センサの信号を直接AD変換する方法を示す。
【0021】
図3に示す計測の処理フローを図6に、図4に示す計測の処理フローを図7に、図5に示す計測の処理フローを図8にそれぞれ示す。
計測可能であれば、各センサの信号を同相信号、差動信号の周波数弁別した信号をAD変換する。
【0022】
判定は2種類の評価を行う。
各信号の大きさが規定レベル以上になっているかの、信号レベルの絶対値の大きさで異常判定を行う絶対値判定と、数ヶ月から数年の範囲で大きさの傾向管理を行い、絶対値は正常な範囲に入っているが、増加傾向にある信号については急激に増加率が増えた場合に異常を判定する傾向判定の2種類を行う。
判定の結果、異常があった場合、緊急に対応を要する場合には自動運転を中断する。運転継続が可能なレベルであれば、警報を出力し、自動運転は継続する。警報のみの場合には、設備の定期点検時あるいは保守停止のときに、当該警報の発生要因となる箇所を点検する。
【0023】
計測不可の状態とは以下のような状態の場合を指す。
搬送車の場合、直線区間の走行中は計測可能であるが、停止してカセットの移載をしている期間は計測不可とする。曲線区間の走行中もy軸方向の加速度が発生するため、計測不可とする。
自動運転をしていない期間の計測不可とする。
自動運転以外には、レールの補修や修理後にテスト運転を行う場合は、テスト運転中も計測可能にする。
【0024】
スタッカクレーンについては自動運転で走行中と走行停止したあとの数秒間のみを計測可能にする。停止後の数秒間はマスト振動が減衰するまでの時間も監視対象に含めるためである。
自動運転をしていない期間の計測不可とする。
自動運転以外には、レールの補修や修理後にテスト運転を行う場合は、テスト運転中も計測可能にする。
【0025】
図4の構成に対応する図7の処理では、同相信号、差動信号を一定周期でAD変換し、メモリに記録する。AD変換した信号をそれぞれフーリエ変換し、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。変換後の判定処理は図6の処理フローと同様である。
【0026】
図5の構成に対応する図8の処理では、一定周期で各センサの信号をAD変換し、数値化された信号に対し、加算と減算により同相信号と差動信号を計算する。
同相信号と差動信号をそれぞれフーリエ変換し、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。変換後の判定処理は図6の処理フローと同様である。
【0027】
計測は、搬送車あるいはスタッカクレーンの制御装置で行うことができる。あるいは、制御装置とは別に計測装置を設け、判定した結果を制御装置に通知することもできる。計測装置を別に設ける方法は、既に既設設備に追加する場合に制御装置の改造が少なく済む利点がある。
【0028】
スタッカクレーンのセンサ配置は、2軸の加速度センサの配置を本発明の趣旨を逸脱しない範囲で場所を変更あるいは組み合わせを変更することができる。
例えば、センサS1を2軸から3軸に変更し、センサS4を省略する場合、レールの横方向のうねりは評価できないがセンサ数を減らすことができる。
また差動信号、同相信号だけでなく、センサの単独の信号を評価し、同様の結果を得ることもできる。y軸方向及びz軸方向は、定常的に加速度を発生しないため、y軸方向及びz軸方向のセンサの単独の信号で簡易的に評価することも本発明の趣旨を逸脱するものではない。
【0029】
以上、本発明の搬送装置の設備監視方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、実施例に記載した構成を適宜組み合わせるなど、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の搬送装置の設備監視方法は、搬送システムの実稼動中に走行時の加速度を計測することで早期に異常箇所を特定し、搬送システムの停止や事故を未然に防ぐという特性を有していることから、例えば、液晶工場等のクリーンルーム内の搬送装置の設備監視の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の搬送装置の設備監視方法の第1実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の搬送装置の設備監視方法の第2実施例を示す斜視図である。
【図3】振動の計測方法の第1実施例を示す回路図である。
【図4】振動の計測方法の第2実施例を示す回路図である。
【図5】振動の計測方法の第3実施例を示す回路図である。
【図6】第1実施例の計測方法の処理フローを示す図である。
【図7】第2実施例の計測方法の処理フローを示す図である。
【図8】第3実施例の計測方法の処理フローを示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 走行レール
2 搬送車
3 走行レール
4 スタッカクレーン
S1 加速度センサ
S2 加速度センサ
S3 加速度センサ
S4 加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送車が走行レール上を走行する搬送装置において、3軸方向を独立して計測する2組の加速度センサを搬送車に設置し、搬送車が走行する際の加速度センサの各軸ごとの加速度を計測し、該計測値に基づいて設備の状態を判断することを特徴とする搬送装置の設備監視方法。
【請求項2】
スタッカクレーンが走行レール上を走行する搬送装置において、2軸方向を独立して計測する4組の加速度センサをスタッカクレーンに設置し、スタッカクレーンが走行する際の加速度センサの各軸ごとの加速度を計測し、該計測値に基づいて設備の状態を判断することを特徴とする搬送装置の設備監視方法。
【請求項3】
走行レールの敷設状態、車輪の変形、あるいは速度制御の異常を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の搬送装置の設備監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−127441(P2007−127441A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318368(P2005−318368)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】