説明

搬送装置

【課題】ワークの重量を有効に利用してコストの低減を図るものでありながら、前進端及び後進端に達した台車部を衝撃の非常に小さい状態で停止させることができる搬送装置を提供する。
【解決手段】ワーク載置部5を有し搬送経路に沿って前進・後進移動可能な台車部4と、載置部5にワークを積載したとき、該ワークの重量を利用して台車部5を前進移動させる力に変換する前進移動力発生手段と、台車部5にワイヤー16を介して連繋され台車部5の前進移動に伴って上昇されるウエイト6と、載置部5からワークを降ろしたとき、ウエイト6が下降する際の位置エネルギーを用いて台車部4を後進移動させる力に変換する後進移動力発生手段と、ウエイト6の上昇時にウエイト総重量を段階的に増加し、下降時にウエイト総重量を段階的に減少するウエイト総重量可変機構7と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば機械部品や製品などの各種のワークを一定の場所で移載した後、加工ステーションや出荷ステーション等の所定の場所に向けて次々と搬送する場合に用いられる搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを一定の場所から所定の場所に搬送する搬送装置としては、一般的に、モータ等の駆動源を備えたコンベア装置あるいは自走式無人搬送車が使用されているが、これら一般的な搬送装置の場合は、駆動源を稼動させるための電力が必要である。特に、大きな重量を持つワークを搬送させるには、そのワーク重量に見合ったパワーを持つ大型で且つ高出力の駆動源を要し、それに伴い消費電力も増加するために、イニシャルコストのみならずランニングコストの増大は避けられない。また、大型で且つ高出力の駆動源を用いることは、搬送現場の環境保全にも十分な配慮が必要となり、消費電力が大きいことと相俟って、環境に好ましくない負荷を与えることにもなる。
【0003】
このような一般的な搬送装置に代わるものとして、従来、ワークの重量を動力源に有効に利用してワークを搬送させるように構成した搬送装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1で提案されている搬送装置は、ワークの重量を動力源に利用して台車部を前進移動させると共に、その台車部の前進移動時に、バネやスプリングバランサ等の弾性体を伸張させてエネルギーを蓄積させ、その蓄積されたエネルギーにより台車部を後進移動させるように構成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4419659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した従来の搬送装置は、単純にワークの重量を利用してワークを積載した台車部を前進移動させるものであるため、台車部の移動速度は、重力加速度に比例して加速増大され、前進端に達したときに最高速度となって、固定ストッパーに激しく衝突して停止する。その結果、停止時の衝撃が非常に大きく、傷つきやすいワークの搬送には適用しにくいだけでなく、停止時の衝撃により台車部のワーク載置部からワークが落下して破損したり、付近の作業者にぶつかったりする不都合がある。また、激しい衝突を繰り返すことで固定ストッパーや台車部自体も破損したり不具合を発生したりしやすい。更に、それら不都合や不具合の影響で搬送の中断や度重なる補修等のメンテナンスの必要性から生産性の低下にも繋がりやすい。
【0006】
また、ワークを降ろした後の台車部の後進移動を、バネやスプリングバランサ等の弾性体に蓄積させたエネルギーで行うものであるため、台車部の移動速度を、ワークを積載したときの台車部の前進移動速度が最適になるように設定した場合、ワークを降ろした後の蓄積されたエネルギーは過大となり、台車部が後進端に達した(戻った)とき、固定ストッパーに激しく衝突し、その結果、固定ストッパーや台車部を破損したり不具合を発生したりしやすい。特に、弾性体に蓄積されるエネルギーは、変位量の二乗に比例して非常に大きくなるため、後進移動時において台車部が後進端に達したとき、固定ストッパーに激しく衝突するといった不具合の発生は避けられない。
【0007】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、ワークの重量を有効に利用してコストの低減を図るものでありながら、前進端及び後進端に達した台車部を衝撃の非常に小さい状態で停止させることができる搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために案出された本発明に係る搬送装置は、ワーク載置部を有し、搬送経路に沿って前進・後進移動可能な台車部と、前記載置部にワークを積載したとき、該ワークの重量を、前記台車部を前進移動させる力に変換する前進移動力発生手段と、前記台車部にワイヤーを介して連繋され、台車部の前進移動に伴って上昇されるウエイトと、前記載置部からワークを降ろしたとき、前記ウエイトが下降する際の位置エネルギーを、前記台車部を後進移動させる力に変換する後進移動力発生手段と、前記ウエイトの上昇時においてウエイト総重量を段階的に増加し、下降時においてウエイト総重量を段階的に減少するウエイト総重量可変機構と、を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記のごとき特徴構成を有する本発明によれば、載置部にワークを積載した状態で台車部を前進移動させる場合はワークの重量を有効に利用し、また、載置部からワークを降ろした状態で台車部を後進移動させる場合は台車部の前進移動時に上昇されるウエイトの位置エネルギーを有効に利用して、ワークをモータ等の駆動源を使用しないで次々と搬送させることができるので、イニシャルコスト及びランニングコストの低減が図れるだけでなく、環境に与える負荷も低減することができる。
【0010】
しかも、ワークの重量を利用する台車部の前進移動時には、台車部の前進移動に伴って上昇されるウエイトの総重量を段階的に増加させることにより、台車部の前進移動速度を重力加速度に比例して加速させることなく、徐々に減速させるなど適正な速度に制御することが可能で、前進端においては最低の速度に制御することができる。また、ワークを降ろした後にウエイトの位置エネルギーを利用する台車部の後進移動時には、台車部の後進移動に伴って下降されるウエイトの総重量を段階的に減少させることにより、台車部の後進移動速度をウエイトの位置エネルギーの大きさに比例して加速させることなく、徐々に減速させるなど適正な速度に制御することが可能で、位置エネルギーが最大となっている後進端で最大の位置エネルギーとなっていることから、台車部の後進移動の起動はスムーズに行うことができるだけでなく、後進端においては最低の速度に制御することができる。
従って、前進端及び後進端において台車部が固定ストッパーに激しく衝突することによる衝撃を非常に小さくすることができ、傷つきやすいワークの搬送にも好適に使用することができると共に、停止時にワーク載置部からワークが不測に落下して破損したり、付近の作業者にぶつかったりする不都合や、激しい衝突を繰り返すことで固定ストッパーや台車部自体が破損したり不具合を発生したりすることを十分に抑制することができるという効果を奏する。
【0011】
本発明に係る搬送装置において、請求項2に記載のように、前記載置部は、前記台車部に対して昇降可能に構成され、前記台車部には、載置部の昇降動作を回転動作に変換する駆動伝達部を介して正逆方向に回転駆動される回転体が設けられており、前記前進移動力発生手段は、上昇位置に位置する前記載置部にワークを積載したとき、該ワーク重量により下降する前記載置部の下降動作を、前記駆動伝達部を介して前記回転体の前進移動方向の回転動作に変換する手段であり、且つ、前記後進移動力発生手段は、下降位置に位置する前記載置部からワークを降ろしたとき、前記ウエイトの位置エネルギーにより前記載置部を上昇させると共にその上昇動作を、前記駆動伝達部を介して前記回転体の後進移動方向の回転動作に変換する手段であることが好ましい。
この場合は、載置部にワークを積載したときと、載置部からワークを降ろしたときとにおける重量変化に伴う載置部の昇降動作を、台車部に設けられた回転体の正方向又は逆方向の回転動作に変換することができるので、台車部の前進移動と後進移動との切り換えを両移動端において適切且つ合理的に行うことができる。
【0012】
特に、上記のように、載置部にワークを積載したときと、載置部からワークを降ろしたときとにおける重量変化に伴う載置部の昇降動作により、台車部に設けられた回転体の回転動作を正逆方向に変換する手段を備えた搬送装置において、請求項3に記載のように、前記載置部の昇降動作を回転動作に変換する駆動伝達部の回転部材は、前記回転体よりも小径であり、これら径の異なる回転部材と回転体とが同心で一体回転可能に構成されていることが好ましい。
この場合は、前記回転部材と回転体との径の比を変更することによって、台車部に対する載置部の昇降量を少なく抑えつつ、前進端から後進端までの距離、つまり、ワーク搬送距離を十分に延ばすことができる。
【0013】
また、本発明に係る搬送装置において、請求項4に記載のように、前記台車部が前進・後進移動する搬送経路は、前進方向側ほど低く位置するような傾斜経路に構成されており、前記前進移動力発生手段は、前記台車部の載置部にワークを積載したとき、そのワークの重量と傾斜搬送経路の傾斜角度により、台車部を前進移動させる力に変換する手段であることが好ましい。
この場合は、傾斜搬送経路の傾斜角度を大きくとることによって、搬送対象のワークが軽量なものであっても、そのワークの重量を利用しての搬送を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例に係る搬送装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】第1実施例に係る搬送装置の全体構成を示す平面図である。
【図3】第1実施例に係る搬送装置の全体構成を示す側面図である。
【図4】第1実施例に係る搬送装置における台車部の詳細な構成を示す要部の拡大正面図である。
【図5】第1実施例に係る搬送装置における台車部の詳細な構成を示す要部の拡大側面図である。
【図6】第1実施例に係る搬送装置におけるウエイト総重量可変機構の詳細な構成を示す要部の拡大側面図である。
【図7】第1実施例に係る搬送装置における台車部の前進移動時(ワーク搬送時)の動作を説明する要部の拡大正面図である。
【図8】第1実施例に係る搬送装置における台車部の前進移動時(ワーク搬送時)のウエイト総重量の変化状況を説明する要部の概略側面図である。
【図9】第1実施例に係る搬送装置における台車部の後進移動時の動作を説明する要部の拡大正面図である。
【図10】第1実施例に係る搬送装置における台車部の後進移動時のウエイト総重量の変化状況を説明する要部の概略側面図である。
【図11】本発明の第1実施例に係る搬送装置によるウエイト総重量の変化に基づく台車部の走行推力の変化特性の一例を示すグラフである。
【図12】本発明の第2実施例に係る搬送装置の全体概略構成を示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
<第1実施例>
図1は本発明の第1実施例に係る搬送装置の全体構成を示す正面図、図2は同搬送装置の全体構成を示す平面図、図3は同搬送装置の全体構成を示す側面図である。また、図4及び図5は同搬送装置における台車部の詳細な構成を示す要部の拡大正面図及び側面図であり、図6は同搬送装置におけるウエイト総重量可変機構の詳細な構成を示す要部の拡大側面図である。
【0016】
第1実施例の搬送装置1は、架台2と、該架台2の上端部において水平面に沿って一定長さの搬送経路を形成するレール3と、該レール3上に転載されて前進・後進移動可能な台車部4と、該台車部4に対して昇降可能なワーク載置部5と、台車部4の前進移動に伴って上昇するウエイト6と、載置部5にワークWが積載されたとき、該ワークWの重量を、台車部4を前進移動させる力に変換する前進移動力発生手段(後述する)と、ワーク載置部5からワークWを降ろしたとき、前記ウエイト6が下降する際の位置エネルギーを、台車部4を後進移動させる力に変換する後進移動力発生手段(後述する)と、ウエイト総重量可変機構7と、を備えている。
【0017】
架台2は、図3に示すように、一対の接地支柱2a,2aをその上端部、中間部及び下端部において横桟2bにより固定連結してなる枠部材2Aの二つを、ワーク搬送方向の両端部付近に互いに平行に配置し、これら二つの枠部材2A,2Aの上端部間に亘って水平部材2Bを掛け渡し固定連結することによって、図1に示すような略門型に構成されている。なお、架台2を構成する二つの枠部材2A,2Aにおける一対の接地支柱2a,2aの下端部には、それぞれ高さ調節用のジャッキ2c,2cが取り付けられている。
【0018】
前記レール3は、架台2を構成する水平部材2Bに固定されて水平面に沿って一定長さの搬送経路を形成している。該レール3による搬送経路の両端部、即ち、台車部4の前進端及び後進端に対応する水平部材2Bの側面部には、それぞれ台車部4と当接して台車部4の移動を停止させる固定ストッパー22,23が設けられている。
【0019】
前記台車部4は、図4及び図5に明示するように、架台2における水平部材2Bの幅方向両側に配置される一対の板部材4A,4Aと、この一対の板部材4A,4A同士をワーク搬送方向の両端部において固定連結する固定軸4Bと、これら固定軸4Bの軸心周りに回転可能に支持され前記レール3に転載されるローラ4Cと、前記水平部材2Bの下端部の両側角部にそれぞれ摺接して転動する振止め用ローラ4D,4Dとを有している。また、この台車部4における一対の板部材4A,4Aの上端部には、ワーク載置部5の昇降動作を回転動作に変換する駆動伝達部としての回転部材8と、この回転部材8の回転を介して正逆方向に回転駆動される回転体9と、が共通軸10を介して一体回転可能に枢支保持されている。前記回転部材8は、回転体9よりも小径に構成されており、これら回転部材8及び回転体9は共に後述するワイヤーを巻き取り・繰り出し可能な周溝付きドラム状に形成されている。
【0020】
前記ワーク載置部5は、ワークWを搬入・搬出可能なローラコンベア11を設置している載置部本体5Aと、該載置部本体5Aの中央部から上方に延設された吊り部材5Bと、該吊り部材5Bの上端部に固定連結されて台車部4における一対の板部材4A,4Aの外側に沿わせて上方に延設された一対の棒状部材5C,5Cと、該一対の棒状部材5C,5Cの上端部を互いに連結する連結部材5Dと、から構成されている。この載置部5における一対の棒状部材5C,5Cの外周面には、台車部4における一対の板部材4A,4Aに支承された上下複数個(図面上では3個で示す)の案内ローラ12,12がワーク搬送方向の両側から接触されており、これら案内ローラ12,12による一対の棒状部材5C,5Cの昇降案内によって、ワーク載置部5は、台車部4に対して直線的に昇降可能に構成されている。
【0021】
前記ワーク載置部5における連結部材5Dの中央部には、前記回転部材8に繰り出し可能に巻き取られているワイヤー13の端部が係止連結されている。また、前記台車部4における回転体9に繰り出し可能に巻き取られているワイヤー14の端部が、架台2における水平部材2Bの一端部から上方へ突出された突片15の先端近くに係止連結されている。
【0022】
また、前記台車部4における一対の板部材4A,4Aに一端部が係止連結されたワイヤー16の他端部は、架台2における水平部材2Bに固定のブラケット17に上下軸心周りに回転可能に支承された第1ガイドローラ18及び架台2における一方の枠部材2Aに固定のブラケット19に水平軸心周りに回転可能に支承された第2ガイドローラ20を経て前記枠部材2Aの外側を下向きに垂下されており、この垂下されたワイヤー16の端部に前記ウエイト6が取り付けられている。
【0023】
以上のような各構成からも明らかなとおり、第1実施例における前進移動力発生手段は、上昇位置(図1の実線で示す位置)にあるワーク載置部4のローラコンベア11上にワークWを積載したとき、そのワークWの重量により下降するワーク載置部4の下降動作が、ワイヤー13を介して回転部材8に伝達されて該回転部材8と一体の回転体9を正方向(反時計方向)の回転動作、即ち、台車部4を前進移動させる方向の回転動作に変換する手段である。
また、後進移動力発生手段は、下降位置(図1の仮想線で示す位置)にあるワーク載置部4のローラコンベア11上からワークWを降ろしたとき、台車部4の前進移動に伴ってワイヤー16を介して上昇されているウエイト6の位置エネルギーにより上昇するワーク載置部4の上昇動作が、ワイヤー13を介して回転部材8に伝達されて該回転部材8と一体の回転体9を逆方向(時計方向)の回転動作、即ち、台車部4を後進移動させる方向の回転動作に変換する手段である。
【0024】
ウエイト総重量可変機構7は、図6に明示するように構成されている。
すなわち、ワイヤー16を介して昇降されるウエイト6の昇降経路の複数個所(本実施例では3箇所で説明する。)には、3個の分割ウエイト6a,6b、6cを設置保持可能なウエイト支持部20a,20b,20cが架台2における一方の枠部材2Aに固定して3段に設けられている。これらウエイト支持部20a,20b,20c上に載置される分割ウエイト6a,6b,6cは、中心部にワイヤー16の通過用孔6a1、6b1,6c1を有すると共に、下方のものほど径が小さく、前記ウエイト6の上端部が最下位の分割ウエイト6aに嵌合可能、最下位の分割ウエイト6aの上端部が中間の分割ウエイト6bに嵌合可能、中間の分割ウエイト6bの上端部が最上位の分割ウエイト6cに嵌合可能な筒状の形態に形成されている。
【0025】
また、各ウエイト支持部20a,20b,20cのうち、最下位のウエイト支持部20aは、最も小径の分割ウエイト6aを設置保持した状態で前記ウエイト6が通過できる大きさの貫通孔部20a1を有し、中間部のウエイト支持部20bは、中間径の分割ウエイト6bを設置保持した状態で前記最小径の分割ウエイト6aが通過できる大きさの貫通孔部20b1を有し、最上位のウエイト支持部20cは、最も大径の分割ウエイト6cを設置保持した状態で前記中間径の分割ウエイト6bが通過できる大きさの貫通孔部20c1を有している。
【0026】
上記した分割ウエイト6a,6b,6cの形態及び各ウエイト支持部20a,20b,20cの構成によって、ウエイト総重量可変機構7は、前記ウエイト6が上昇するときには、各ウエイト支持部20a,20b,20cに設置保持されている各分割ウエイト6a,6b,6cがウエイト6側に順次移行し且つ嵌合してウエイト総重量を段階的に増加し、且つ、前記ウエイト6が下降するときには、該ウエイト6側から各ウエイト支持部20c,20b,20a側に分割ウエイト6c,6b,6aを順次切り離し設置してウエイト総重量を段階的に減少するように構成されている。
なお、図中21は、ウエイト昇降用のワイヤー16が振れないようにするためのワイヤー振れ止めガイド筒である。
【0027】
次に、上記のように構成された第1実施例の搬送装置1によるワーク搬送の動作について図7ないし図10を参照して説明する。
通常(搬送開始時)は、台車部4が図1の実線に示すように、固定ストッパー22に当接して搬送方向の始端位置、即ち、後進端位置(原点位置)に停止されている。このとき、ワーク載置部5は、図1の実線に示すように、台車部4に対して上昇位置に位置していると共に、ウエイト6は、図3及び図6の実線に示すように、最下位位置に降下している。
【0028】
この状態で、ワーク載置部5のローラコンベア11上にワークWを積載すると、図4に示すように、ワークWの重量によりワーク載置部5が下降し始めてワイヤー13が矢印D方向に引っ張られる。このワイヤー13の引っ張り力により該ワイヤー13を巻き取っている回転部材8及び該回転部材8と一体回転可能な回転体9がワイヤー14を巻き取りながら矢印R1で示す正方向(反時計方向)に回転動作される。これによって、台車部4が矢印X方向に向けて前進移動されて所定のワーク搬送が行われる。
【0029】
上述のような台車部4の前進移動に伴って、台車部4に連繋されているワイヤー16が引っ張られて図8の(a)に示すような最下位位置に降下していたウエイト6が上昇し始める。そして、ウエイト6が上昇していく過程において、図8の(b)〜(d)に示すように、3段のウエイト支持部20a,20b,20cに設置保持されている分割ウエイト6a,6b,6cが順次ウエイト6側に移行されて、ウエイト総重量が段階的(4段階)に増加されることになる。これによって、ワークWの重量を利用して台車部4を前進移動させるときの速度が重力加速度に比例して加速されることなく、徐々に減速させるなど適正な速度に制御することが可能である。特に、移動前進端では最低の移動速度に抑え、前進端に達した台車部4を固定ストッパー23に緩速度で当接させて殆ど衝撃のない状態で停止させることができる。
【0030】
次に、台車部4が、固定ストッパー23に当接して搬送方向の終端位置、即ち、前進端位置に停止されたとき、ワーク載置部5は、図1の仮想線に示すように、台車部4に対して下降位置に位置していると共に、ウエイト6は、図3及び図6の仮想線に示すように、ウエイト総重量が最大の状態で最上位位置に上昇している。
【0031】
この状態で、ワーク載置部5のローラコンベア11上に積載されているワークWをローラコンベア11から降ろすと、図9に示すように、最大のウエイト総重量にあるウエイト6の位置エネルギーにより、ワイヤー16を介して台車部4が矢印Y方向に引っ張り移動される。この台車部4の移動により回転体9がワイヤー14を繰り出しながら矢印R2で示す逆方向(時計方向)に回転動作されると共に、回転部材8がワイヤー13を巻き取りながら同方向(時計方向)に回転動作される。これによって、ワーク非積載の台車部4が原点位置に向けて後進移動されると同時に、ワーク載置部5が矢印U方向に向けて上昇される。
【0032】
上述のような台車部4の後進移動に伴って、台車部4に連繋されているワイヤー16が弛緩されて図10の(a)に示すような最上位位置に上昇して最大総重量にあったウエイト6が下降し始める。そして、ウエイト6が下降していく過程において、図10の(b)〜(d)に示すように、分割ウエイト6c,6b,6aが順次ウエイト6側からウエイト支持部20c,20b,20a側に切り離されて、ウエイト総重量が段階的(4段階)に減少されることになる。これによって、各ウエイト6,6a,6b,6cの位置エネルギーを利用して台車部4を後進移動させるときの速度が重力加速度に比例して加速されることなく、徐々に減速させるなど適正な速度に制御することが可能である。特に、移動後進端では最低の移動速度に抑え、後進端に達した台車部4を固定ストッパー22に緩速度で当接させて殆ど衝撃のない状態で停止させることができる。
【0033】
以上のように、台車部4の前進移動時及び後進移動時のいずれにおいても、台車部4を重力加速度に比例して加速させることなく、適正な移動速度に制御することが可能であって、前進端及び後進端において台車部4が固定ストッパー22や23に激しく衝突することによる衝撃を非常に小さくすることができる。従って、傷つきやすいワークの搬送にも好適に使用することができると共に、停止時にワーク載置部5からワークWが不測に落下して破損したり、付近の作業者にぶつかったりする不都合や、激しい衝突を繰り返すことで固定ストッパー22、23や台車部4自体が破損したり不具合を発生したりすることを抑制することができる。
【0034】
因みに、図11は、ワーク載置部5の昇降量(上下変位量)dを100mm、台車部4の移動距離Stを1000mm、ウエイト6の重量を1.7kg、各分割ウエイト6a,6b,6cの重量をそれぞれ0.5kgに設定した場合における台車部4の走行推力(N)(計算値)の変化特性を示すグラフである。
【0035】
図11に示すグラフからも明らかなとおり、ワークWが載置部5に積載され、該ワーク重量を利用して台車部4が前進端に向かって前進移動するときは、ウエイト総重量が1.7kg→2.2kg→2.7kg→3.2kgと段階的に増加することに伴い、走行推力(N)は、−17.64→−12.74→−7.84→−2.94と順次0に近づく。また、載置部5からワークWを降ろし、ウエイトの位置エネルギーを利用して台車部4が後進端に向かって後進移動するときは、ウエイト総重量が3.2kg→2.7kg→2.2kg→1.7kgと段階的に減少することに伴い、走行推力(N)は、16.66→11.76→6.86→1.96と順次0に近づく。
従って、走行推力に比例して変化する台車部4の移動速度は、前進端及び後進端に近付くにつれて段階的に減速されることになり、前進端及び後進端に達した台車部4を、固定ストッパー22及び23により衝撃の非常に少ない状態で停止させることが可能となる。
【0036】
なお、第1実施例の搬送装置1において、回転部材8と回転体9との径の比を変更することにより、ワーク載置部5の昇降量とワーク搬送距離とは任意に設定変更することが可能である。
【0037】
<第2実施例>
図12は本発明の第2実施例に係る搬送装置の全体概略構成を示す正面図である。第2実施例の搬送装置1は、台車部4とワーク載置部5とを一体化すると共に、架台2を構成する一対の枠部材2A、2Aの上端部間に亘って掛け渡し固定連結される部材(第1実施例における水平部材2Bに相当する)を前進方向側ほど低く位置するように傾斜させ、該傾斜部材により台車部4が前進・後進移動する一定長さの搬送経路を形成するレール3’を構成させたものである。したがって、第2実施例における前進移動力発生手段は、台車部4のワーク載置部5にワークWを積載したときのワークWの重量と前記レール3’の傾斜角度θとにより、台車部4を前進移動させる力に変換する手段である。
【0038】
また、台車部4に連繋され、架台2に設けたブラケット23に支承されたガイドローラ24を経て垂下されたワイヤー16の下端部にウエイト6が取り付けられている。このウエイト6及び分割ウエイト6a,6b,6c並びにウエイト支持部20a,20b,20c等から構成されるウエイト総重量可変機構7は、第1実施例と同様であるため、同一部材に同一の符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。
【0039】
上記のように構成された第2実施例の搬送装置1においては、ワーク載置部5にワークWを積載すると、ワークWの重量とレール3’の傾斜角度θとにより、台車部4及びワーク載置部5が矢印X方向に向けて前進移動されて所定のワーク搬送が行われる。
【0040】
そして、台車部4及びワーク載置部5の前進移動に伴って、台車部4に連繋されているワイヤー16が引っ張られてウエイト6が上昇し始め、このウエイト6の上昇過程でウエイト総重量が段階的(4段階)に増加されることによって、ワークWの重量を利用して台車部4及びワーク載置部5を前進移動させるときの速度が重力加速度に比例して加速されることなく、徐々に減速させるなど適正な速度に制御することが可能である。
【0041】
また、台車部4が前進端に達し停止された状態でワーク載置部5からワークWを降ろすと、最大のウエイト総重量にあるウエイト6の位置エネルギーにより、ワイヤー16を介して台車部4及びワーク載置部5が矢印Y方向に引っ張られて、台車部4及びワーク載置部5が原点位置に向けて後進移動される。
【0042】
そして、台車部4及びワーク載置部5の後進移動に伴って、台車部4に連繋されているワイヤー16が弛緩されて最上位位置に上昇して最大総重量にあったウエイト6が下降し始め、このウエイト6の下降過程でウエイト総重量が段階的(4段階)に減少されることによって、各ウエイト6,6a,6b,6cの位置エネルギーを利用して台車部4を後進移動させるときの速度が重力加速度に比例して加速されることなく、徐々に減速させるなど適正な速度に制御することが可能である。
【0043】
以上のように、第2実施例の搬送装置1においても、台車部4の前進移動時及び後進移動時のいずれの場合も、台車部4を重力加速度に比例して加速させることなく、適正な移動速度に制御することが可能であって、前進端及び後進端において台車部4が固定ストッパー22、22’に激しく衝突することによる衝撃を非常に小さくすることができる。従って、傷つきやすいワークの搬送にも好適に使用することができると共に、停止時にワーク載置部5からワークWが不測に落下して破損したり、付近の作業者にぶつかったりする不都合や、激しい衝突を繰り返すことで固定ストッパー22、22’や台車部4自体が破損したり不具合を発生したりすることを抑制することができる。
【0044】
加えて、第2実施例の場合は、台車部4の搬送経路を形成するレール3’の傾斜角度θを大きくすることによって、搬送対象のワークWが軽量なものであっても、そのワークWの重量を利用しての搬送を実現することができる。
【0045】
なお、上記各実施例においては、ウエイト総重量可変機構7として、4個のウエイト6,6a,6b,6cを用いたもので示したが、2個あるいは3個のウエイトを用いても、5個以上のウエイトを用いてもよい。
また、分割ウエイト6a,6b,6cの重量は、全て等しくしてもよいし、また、全て異ならせてもよい。さらに、搬送対象のワークの重量に応じて、重量の異なるウエイトと交換してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 搬送装置
3 レール(搬送経路)
3’ 傾斜レール(傾斜搬送経路)
4 台車部
5 ワーク載置部
6 ウエイト
6a,6b,6c 分割ウエイト
7 ウエイト総重量可変機構
8 回転部材(駆動伝達部)
9 回転体
20a,20b,20c ウエイト支持部
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク載置部を有し、搬送経路に沿って前進・後進移動可能な台車部と、
前記載置部にワークを積載したとき、該ワークの重量を、前記台車部を前進移動させる力に変換する前進移動力発生手段と、
前記台車部にワイヤーを介して連繋され、台車部の前進移動に伴って上昇されるウエイトと、
前記載置部からワークを降ろしたとき、前記ウエイトが下降する際の位置エネルギーを、前記台車部を後進移動させる力に変換する後進移動力発生手段と、
前記ウエイトの上昇時においてウエイト総重量を段階的に増加し、下降時においてウエイト総重量を段階的に減少するウエイト総重量可変機構と、を備えていることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記載置部は、前記台車部に対して昇降可能に構成され、
前記台車部には、載置部の昇降動作を回転動作に変換する駆動伝達部を介して正逆方向に回転駆動される回転体が設けられており、
前記前進移動力発生手段は、上昇位置に位置する前記載置部にワークを積載したとき、該ワーク重量により下降する前記載置部の下降動作を、前記駆動伝達部を介して前記回転体の前進移動方向の回転動作に変換する手段であり、且つ、
前記後進移動力発生手段は、下降位置に位置する前記載置部からワークを降ろしたとき、前記ウエイトの位置エネルギーにより前記載置部を上昇させると共にその上昇動作を、前記駆動伝達部を介して前記回転体の後進移動方向の回転動作に変換する手段である請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記載置部の昇降動作を回転動作に変換する駆動伝達部の回転部材は、前記回転体よりも小径であり、これら径の異なる回転部材と回転体とが同心で一体回転可能に構成されている請求項2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記ウエイト総重量可変機構は、前記ウエイトの昇降経路の複数個所に設けられた支持部上にそれぞれ分割ウエイトが設置されており、前記ウエイトが上昇するとき、前記支持部側から該ウエイト側に分割ウエイトを順次移行させてウエイト総重量を段階的に増加し、且つ、前記ウエイトが下降するとき、該ウエイト側から前記支持部側に分割ウエイトを順次切り離してウエイト総重量を段階的に減少するように構成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の搬送装置。
【請求項5】
前記台車部が前進・後進移動する搬送経路は、前進方向側ほど低く位置するような傾斜経路に構成されており、
前記前進移動力発生手段は、前記台車部の載置部にワークを積載したとき、そのワークの重量と傾斜搬送経路の傾斜角度により、台車部を前進移動させる力に変換する手段である請求項1に記載の搬送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−225317(P2011−225317A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95986(P2010−95986)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000191353)新明工業株式会社 (75)