説明

搬送設備の運転支援方法

【課題】予測可能な状況のもとでの生産再開の手段を提供し、生産への影響を最小限に低減するようにした搬送設備の運転支援方法を提供すること。
【解決手段】搬送装置によりワークを複数の供給保管装置と製造装置とに順次搬送するようにした搬送設備において、搬送設備が停止した後の復旧を行うに際し、停止した搬送設備の状況を特定するとともに、特定した状況を初期状態として、予め準備した複数のシナリオに基づいてシミュレーションを行い、シミュレーションの結果の中から生産への影響が最も好ましい結果を得たシナリオに従って復旧作業を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送設備の運転支援方法に関し、特に、液晶工場等のクリーンルーム内の搬送装置に適用して好適な搬送設備の運転支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルの生産は、多数の製造工程をそれぞれ異なる製造装置で行い、さらに複数の製造工程の異なる品種が製造装置を共有する。
ガラス基板の投入から全ての工程を終え、払出しを行うまでの数日から10数日の間のガラス基板は、ロット毎にカセットに入れられ、数100カセットのロットがクリーンルーム内で加工、搬送、保管のサイクルを繰り返している。
【0003】
一方、製造装置は、膜形成、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、レジスト剥離等の工程を複数回繰り返すため、同じ製造装置が複数回、生産工程に組み込まれる。
製造装置と搬送装置の何れかが停止すれば、当該装置が担当する工程以降の後工程に供給不足が生じ、当該装置の前工程では加工が終了しても次工程に送ることができず、滞留が生じ、時間経過と共に前工程と後工程の両方に影響が広がっていく。
【0004】
装置が停止した影響について単純な予測ができず、時間と共に影響の度合いも変化するため、装置停止後の復旧は、設備管理者の経験により復旧後の生産計画の優先順位を決め、定常操業までの間は非定常な操業を行っている。
この方法では、設備管理者の経験と技量に負うところが大きく、また同じ状況が繰り返し発生しないため、経験則が合理的な根拠に乏しい場合がある。
【0005】
一方、例えば、特許文献1及び2には、コンピュータによるシミュレーションを用いた制御方法が開示されている。
しかしながら、前者は、物流センターの受注情報から物流の予測をシミュレーションし、自動倉庫やピッキング、搬送の最適化を図るもので、生産への影響を低減する運転支援とは異なるものである。
また、後者は、シミュレーション結果に基づいて、搬送の優先順位を設定するものであり、非定常な状態を複数のシナリオに従ってシミュレーションを行うものではない。
【特許文献1】特開平8−2648号公報
【特許文献2】特開2001−38582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の搬送設備が有する問題点に鑑み、非定常な搬送で生じる状況をシミュレーションで仮想的に実行し、複数の実行計画の中から設備管理者が合理的な判断が下せる選択肢を提供することにより、予測可能な状況のもとでの生産再開の手段を提供し、生産への影響を最小限に低減するようにした搬送設備の運転支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の搬送設備の運転支援方法は、搬送装置によりワークを複数の供給保管装置と製造装置とに順次搬送するようにした搬送設備において、搬送設備が停止した後の復旧を行うに際し、停止した搬送設備の状況を特定するとともに、該特定した状況を初期状態として、予め準備した複数のシナリオに基づいてシミュレーションを行い、該シミュレーションの結果の中から生産への影響が最も好ましい結果を得たシナリオに従って復旧作業を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の搬送設備の運転支援方法によれば、搬送装置によりワークを複数の供給保管装置と製造装置とに順次搬送するようにした搬送設備において、搬送設備が停止した後の復旧を行うに際し、停止した搬送設備の状況を特定するとともに、該特定した状況を初期状態として、予め準備した複数のシナリオに基づいてシミュレーションを行い、該シミュレーションの結果の中から生産への影響が最も好ましい結果を得たシナリオに従って復旧作業を行うことから、非定常な搬送で生じる状況をシミュレーションで仮想的に実行し、複数の実行計画の中から設備管理者が合理的な判断が下せる選択肢を提供することができ、これにより、予測可能な状況のもとでの生産再開の手段を提供し、生産への影響を最小限に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の搬送設備の運転支援方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1〜図7に、本発明の搬送設備の運転支援方法の一実施例を示す。
【0011】
図1に、液晶パネル生産工場の概略のレイアウトを示す。
カセットの工程内のカセット搬送や、製造装置6(EQ1〜EQ48)への供給を行う自動倉庫を兼ねたカセット供給保管装置4(CS1〜CS8)の周囲には、製造装置6(EQ1〜EQ48)が配置され、ポート5を経由しカセットを製造装置6側に受け渡す。
また、カセット供給保管装置4は、ポート5と干渉しない位置に図示しない保管棚を配置しカセットの保管を行う。
一例として、複数数段ある棚の1段めの位置をポート5に割り当て、その上部の2段め以降を保管棚に割り当てる等で天井までの高さを利用し、カセットの保管を行う。
カセット供給保管装置4は、1台または複数台のスタッカクレーン7が矢印の方向に走行し、棚、ポート、入庫口、出庫口ヘカセットを搬送する。
工程間搬送装置1は、カセット供給保管装置4と間に出庫ポート2、入庫ポート3を経由しカセットの受け渡しを行う。
【0012】
搬送設備の各装置の稼動状態を図2に示す。
CS1〜CS6はカセット供給保管装置4の稼動状況を示し、OHVは、工程間搬送装置1の稼動状況を示す。また、EQ1〜EQ11は製造装置6の稼動状況を示す。
装置が稼動状況から非稼動状況に遷移するのは突発的な故障や事故以外に、計画的に設備の保守や修理を行うための停止がある。
また、数ヶ月に一度は全ての装置を停止して一斉に保守を行うこともある。
計画的な設備停止は停止時間が予め決められているが、突発的な故障や事故は停止から復旧までの時間の予測は個々の事例により異なり、復旧での時間予測が困難な場合もある。
【0013】
図3に、生産する工程毎にどの製造装置を割り当てるかを表示したプロセスフローを示す。
一般的な工場運営では、1つの工程を単一の製造装置に割り当てることは希で、同じ機種の製造装置を複数台導入し、複数の製造装置で生産できるようにし、単位時間当りの処理量が増加したり製造装置が故障した場合でも、他の製造装置で生産を継続する生産停止のリスク回避が行われている。
なお、図3において、製造装置の下のカッコ書きは、当該製造装置が接続するカセット供給保管装置を示している。
また、このプロセスフローは、生産する品種毎に割り当てる工程と製造装置が異なる。
【0014】
図4に、搬送設備の装置が停止した後の復旧のシナリオを示す。
複数のシナリオは、着眼点毎に異なるシナリオがある。
一例として、生産物の優先度の高いものから順に処理することもあれば、積極的な介入は行わない成り行きに任せる方法もある。
シナリオに記述される要素としては、故障している装置を代替できる装置があれば、代替経路を探し、代替装置に搬送する経路展開の指定、個々の搬送物に対する作業の優先順位、装置の復旧までの予測時間、装置の平均故障間隔等を指定する。
【0015】
図5に制御システムの構成を示す。
生産管理システムの指示で、搬送制御は工程間搬送装置であるOHV制御に工程間の搬送を指示し、工程内搬送に関してはカセット供給保管装置CS1からCS8の制御装置に搬送を指示する。
監視システムは搬送装置内の状況を監視し記録する。また、スケジューリングシミュレータは監視システムに接続し、シミュレーション開始時の装置の稼動状況や在庫状況を初期条件として入力し、装置の復旧から定常的な生産までの生産状況と搬送の状況をシミュレーションする。
なお、スケジューリングシミュレータは公知のものであり、監視システムでなく搬送制御コンピュータや工程間搬送のOHV制御あるいはカセット供給保管装置4のCS制御の個々の制御コンピュータと接続することも本発明の趣旨を逸脱しない範囲で可能である。
【0016】
図6に、搬送設備の装置が停止した影響の一例を示す。
カセット供給保管装置CS4に接続する製造装置が(8)の時点で停止し、(9)の時点で復旧したとする。
その結果、停止した製造装置に供給するためのカセットが、CS4では時間経過と共に増加する。
一方、停止した製造装置の下流工程に位置するカセット供給保管装置CS5、CS6では、次工程の製造装置に供給するカセットが減少し、停止状態がさらに継続した場合、供給不足が発生する。
製造装置は、カセット1個当りに数10分から数時間の加工時間がかかり、下流のカセット供給保管装置に影響がでるまでには、カセット供給保管装置に接続する製造装置の数と製造装置での加工時間の積に強い相関のある遅延時間を経過後に影響がでる。
また、この例では下流側の影響を示したが上流側では滞留が生じる。
【0017】
図7に、シミュレーションの方法を示す。
装置の停止が生じ、その影響が軽微でないと予想される場合に、復旧までのスケジューリングをシミュレーションする。
搬送装置と製造装置の稼動状況、既に仕掛かっているカセットの有無、カセットの保管棚に保管されているカセットの在庫状況を収集し、各カセットのプロセスフローのどの工程に位置しているかを特定する。
【0018】
各カセットの特定したプロセスフローの位置と装置状態を初期状態として、準備した複数のシナリオに基づいて、復旧までの状況、復旧後、定常操業までの数時間から数日間の生産状況と搬送状況をシミュレーションする。
この場合、シミュレーションで、棚の飽和やスタッカクレーンの稼動率、工程間搬送の稼動率や能力の飽和、払出しまでの遅延時間等を推定し、その結果を表示あるいは帳票に出力する。
【0019】
シミュレーションの結果に対し、設備管理者が工場の操業状態や生産計画を加味し、合理的に判断し、最適と推定できる結果が得られたシミュレーションのシナリオを選択する。
スケジューリングシミュレータは、選択されたシナリオを表示し、あるいは帳票出力し、もしくはコンピュータ間の通信により必要とするコンピュータに報告する。
【0020】
設備管理者は、最適と推定できるシナリオに従って、搬送制御あるいは生産管理に搬送の優先順位を設定し、復旧を行う。
この復旧段階は、設備管理者が人手介入により行う段階で、スケジューリングシミュレータが自動で処理を行うことは、本発明の趣旨を逸脱するものではない。
設備管理者に、合理的な判断が下せる選択肢を装置が停止した状況からのシミュレーション結果として提供することで、予測可能な状況のもとでの生産再開の手段を提供する。
【0021】
以上、本発明の搬送設備の運転支援方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、実施例に記載した構成を適宜組み合わせるなど、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の搬送設備の運転支援方法は、非定常な搬送で生じる状況をシミュレーションで仮想的に実行し、複数の実行計画の中から設備管理者が合理的な判断が下せる選択肢を提供するという特性を有していることから、例えば、予測可能な状況のもとでの生産を再開し、生産への影響を最小限に低減するようにした搬送設備の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の搬送設備の運転支援方法を実施する液晶パネル生産工場の概略レイアウト図である。
【図2】搬送設備の各装置の稼動状態を示す図である。
【図3】生産する工程毎にどの製造装置を割り当てるかを表示したプロセスフローである。
【図4】搬送設備の装置が停止した後の復旧のシナリオを示す図である。
【図5】制御システムの構成を示す図である。
【図6】搬送設備の装置が停止した影響の一例を示す図である。
【図7】本発明の搬送設備の運転支援方法の一実施例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0024】
1 工程間搬送装置
2 出庫ポート
3 入庫ポート
4 カセット供給保管装置
5 ポート
6 製造装置
7 スタッカクレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置によりワークを複数の供給保管装置と製造装置とに順次搬送するようにした搬送設備において、搬送設備が停止した後の復旧を行うに際し、停止した搬送設備の状況を特定するとともに、該特定した状況を初期状態として、予め準備した複数のシナリオに基づいてシミュレーションを行い、該シミュレーションの結果の中から生産への影響が最も好ましい結果を得たシナリオに従って復旧作業を行うことを特徴とする搬送設備の運転支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−286884(P2007−286884A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113259(P2006−113259)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】