説明

携帯カメラ用絞り構造

【課題】絞りの複雑さ及びサイズを軽減したカメラ用調節可能絞り構造を提供する。
【解決手段】本発明は、一般にデジタルカメラ、特に、小型デジタルカメラの分野に関する。特に本発明は、携帯カメラ用絞りの調節に関する。本発明の調節可能絞り構造は、少なくとも二つの電極と、その電極間に電場を生じさせるためにその電極に電圧を印加する電気回路とを有する。またその構造は、その中心に孔を持つセンターユニットをその電極の間に有する。センターユニットは、誘電体または電歪ポリマーといった電気活性材料で作成される。絞りはセンターユニットの形状を変形させることにより調節可能となっている。センターユニットの形状は、電気回路により電極間に生じた電場により変形させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にデジタルカメラ、特に、小型デジタルカメラの分野に関する。特に本発明は、携帯カメラ用絞りの調節に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、デジタルカメラ及びカメラ付き携帯電話のような携帯カメラが広く普及している。携帯カメラのサイズは、携帯カメラが、携帯電話、腕時計、MP3プレーヤーまたはポケットコンピュータといった他の携帯装置と一体化される場合、重要な役割を持つ。そのカメラのサイズは、カメラの構成部品(レンズ、シャッター、絞り構造(ときによってはシャッターと絞りの組み合わせ、すなわち、絞りシャッター)及びイメージセンサなど)のサイズを小さくすることによって小さくすることが可能である。カメラの構成部品のサイズが小さくなるにつれて、カメラもだけでなく最終製品もまた小さくなる。また、カメラの構成部品の簡単さ、信頼性及び電力消費量も、携帯カメラ装置における重要なファクターである。
【0003】
サイズの小型化を達成するために、構成部品点数を最小化し、またはその調節機能を制限することもよく行われている。これらの解は、代表的に、全体サイズと得られる画像品質間での妥協の産物となるか、またはユーザビリティの低下をもたらす。
【0004】
本発明は、カメラの構成部品の絞り構造を特に発展させることを取り扱う。カメラの絞りは、フィルムまたはデジタルセンサに到達する光の量を制御するために使用される。その絞りは、レンズの開口の直径を意味する。絞りの直径が大きくなるにつれて、より多くの光がフィルムまたはイメージセンサに到達する。絞りはFナンバーで表され、Fナンバー(またはf値)が小さいほどレンズの開口(絞り)は大きくなる。
【0005】
絞りサイズは被写界深度に影響する。小さな絞り(図1Aにおけるf/22のような高いFナンバー)は、離れた物体のシャープネスを向上させる、すなわち、言い換えれば、被写界深度を大きくする。そのことは、前景から背景まで、写真のより多くの要素に対してシャープに焦点が合うことを意味する。これは、観察者を写真に引き込む、写真に対する深さの明確な感覚を創造することができる。小さな絞りは、特にたいていの風景写真について使用されることがよく知られている。
【0006】
図1Bに、大きな絞り(f/4といった小さなFナンバー)の効果を示す。大きな絞りは被写界深度を浅くする。そのことは、写真においてシャープに焦点の合う領域が小さくなることを意味する。小さな絞りは、背景及び他の気をそらす要素に焦点を合わなくする一方、被写体を孤立させるために特に使用されることがよく知られている。大きな絞りの幾つかの有用な用途には、ポートレイト及び野生生物のクローズアップが含まれる。
【0007】
焦点の合わない光は、絞り値が増加するにつれて(絞りサイズが小さくなるにつれて)はっきりとしてくると一般に言われている。
【0008】
図2に、調節可能な絞りの従来技術の実装品の分解組み立て図を示す。その従来技術の実装品は、動作のためにアクチュエータ(例えば、ステッピングモータ)を必要とする、複雑な絞り羽根機構を有する(部品点数は代表的に10点を超える)。図2A〜図2Dに示すように、所望の絞りサイズとなるように、アクチュエータにより絞り羽根機構を動作させることが可能である。
【0009】
しかしながら、従来技術の絞りの実装品に関して、幾つかの問題がある。第1に、それらは非常に複雑であり、故障またはジャムを起こすリスクが存在する。第2に、従来技術の絞りの形状は完全な円形ではなく、そのことが写真における歪曲に影響を与える可能性がある。また、従来技術の絞りの重量及びサイズを従来の手法により減らすことは容易ではない。さらに、従来技術の絞りの実装品の製造は、その絞り構造の複雑さのために、非常に複雑であり、時間を浪費する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の絞りの実装品に関する問題を解決することにある。特に、本発明の目的は、従来技術の絞りの複雑さ及びサイズを軽減し、製造プロセスを簡単化し、少ない消費電力で円形形状を持つフルに調節可能なステップレスの絞りを提供することにある。
【0011】
本発明の目的は、独立請求項に記載した特徴とともに達成される。特に本発明の目的は、調節可能な絞り構造によって達成され、その調節可能な絞り構造は、少なくとも二つの電極と、その少なくとも二つの電極間に電場を生じさせるために、その少なくとも二つの電極に電圧を印加する電気回路と、電気活性材料で作成され、本質的にその少なくとも二つの電極間に配置されたセンターユニットとを有し、センターユニットの形状を電気回路により電極間に生じた電場により変形させることにより絞りを調節する。
【0012】
本発明は、請求項1によるカメラ用調節可能絞り構造に関する。
さらに本発明は、請求項8による調節可能絞り構造を有する携帯カメラに関する。
また本発明は、請求項13によるカメラの絞りを調節する方法に関する。
本発明はまた、請求項18によるカメラ用調節可能絞り構造における変形可能電気活性材料の使用方法に関する。
【0013】
本発明の実施態様は、調節可能な孔を構成するために従来より使用されてきた、幾つかの可動部を用いて実装される従来技術の機械構造を、可動部を有さず、ビルトインされた検知能力を持つ一つの素子に変更するものである。そのため、このシステムの複雑さは著しく軽減され、そのサイズも小型化される。
【0014】
本発明の絞り(構造)の重要な部品の一つはセンターユニットである。センターユニットは、分離した可動部を持たず、伸長して絞りを中心に縮小する能力を持つ。本発明の一つの利点は、誘電体または電歪ポリマーといった電気活性材料の利用に基づくものであり、その電気活性材料は電極間に配置される。印加された電圧がその電極間に電場を生じ、電気活性材料を変形し(「絞り込み」)、それを伸長及び/または縮小させる。絞りサイズは動作回路による動作電圧により制御され、その回路の静電容量または抵抗によって測定される。そのため、ビルトインされた検知能力を用いる非常に簡単なアプリケーションとすることが可能である。
【0015】
本発明の実施態様は、公知の従来技術を超える明確な利点を提供する。システムの複雑さは、10〜20点の小さな部品の代わりに一つの素子となることで軽減される。さらに、センターユニットを制御する回路の電気的容量または抵抗値から、現在の絞りサイズを容易にかつ正確に検出可能である。絞りユニットの重量及びサイズは、従来の絞りよりも非常に小さくなる。また、本発明の絞りは、絞りサイズが変更されるときにのみ電力を消費する。静的な状態(すなわち、固定された絞りサイズが維持される)では、電流はシステムを流れない。さらにまた、可動部を有さずにフルに(ステップレスに)調節可能な絞り及び完全に円形の絞り形状を生成することができる。さらにまた、本発明の絞りは、絞りのセンターユニットに使用される電気活性材料により非常に早い応答時間(msecレベル)を持つため、絞りシャッター(シャッターと絞りの組み合わせ)として使用することも可能である。
【0016】
本願に提示された本発明の例示的な実施態様は、添付の請求項の適用性を制限するよう解釈すべきものではない。動詞「〜を有する」は、本願において、挙げられていない特徴の存在を排除しない、オープンな限定として使用される。従属請求項に挙げられた特徴は、明示的に述べられない限り、相互に自由に組み合わせられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】二つの写真の例における被写界深度に対する絞りサイズ(fナンバー)の違いによる効果を示す図である。
【図1B】二つの写真の例における被写界深度に対する絞りサイズ(fナンバー)の違いによる効果を示す図である。
【図2】従来技術の公知である調節可能絞り構造に対する実装品の分解組み立て図である。
【図2A】従来技術の公知であるアクチュエータを備えた絞り羽根機構により達成される様々な絞りサイズを示す図である。
【図2B】従来技術の公知であるアクチュエータを備えた絞り羽根機構により達成される様々な絞りサイズを示す図である。
【図2C】従来技術の公知であるアクチュエータを備えた絞り羽根機構により達成される様々な絞りサイズを示す図である。
【図2D】従来技術の公知であるアクチュエータを備えた絞り羽根機構により達成される様々な絞りサイズを示す図である。
【図3A】例示としての、本発明の有利な実施態様による絞り構造の断面図である。
【図3B】例示としての、本発明の有利な実施態様による、電場が電極間に印加されたときの絞り構造の断面図である。
【図4A】例示としての、本発明の有利な実施態様による、電極間の電場を変化させることにより達成される様々な絞りサイズを持つ絞り構造の斜視図である。
【図4B】例示としての、本発明の有利な実施態様による、電極間の電場を変化させることにより達成される様々な絞りサイズを持つ絞り構造の斜視図である。
【図4C】例示としての、本発明の有利な実施態様による、電極間の電場を変化させることにより達成される様々な絞りサイズを持つ絞り構造の斜視図である。
【図4D】例示としての、本発明の有利な実施態様による、電極間の電場を変化させることにより達成される様々な絞りサイズを持つ絞り構造の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付の図面に従って、例示的な実施態様を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
【0019】
図1A及び図1Bは、二つの写真の例における被写界深度に対する絞りサイズ(fナンバー)の違いによる効果を示し、図2は、従来技術の公知である調節可能絞り構造に対する実装品の分解組み立て図を示し、図2A〜図2Dは、従来技術の公知であるアクチュエータを備えた絞り羽根機構により達成される様々な絞りサイズを示す図である。これらについては、従来技術の説明(背景技術の項)に関連して既に説明した。
【0020】
図3Aは、本発明の有利な実施態様による、絞り構造300の断面図を示す。その絞り構造は正の電極302と負の電極304とを有する。正の電極と負の電極間に、中心に孔308を持つセンターユニット306が配置される。そのセンターユニットは電気活性材料で作成される。さらに、絞り構造は、電極302と304間に電場を生じさせ、それにより絞りサイズを制御するために、電極302及び304に電圧を印加する電気回路310も有する。電気回路310は、その回路の静電容量または抵抗に基づいて絞りのサイズを測定するためにも使用される。電気活性材料306の周囲には、絞り構造の骨格を形成する剛性の金属フレーム312が存在する。
【0021】
絞り(孔308のサイズ)は、センターユニット306の形状を変形させることにより調節される。その形状は、上記の電気的手段310を用いて、上記の電極302、304間に生じる電場を変化させることにより変形する。
【0022】
図3Bは、本発明の有利な実施態様による、電場314が電極302、304間に印加されたときの絞り構造300の断面図を示す。例示の絞り構造300は、二つの電極302、304間に置かれ、中心に孔を持つ誘電体(シリコン/ポリマーベース)の薄箔または薄板の円形部品を有する。電圧が印加されると、電極302、304は、生じた電場314により互いに引き付け合う。そのとき絶縁体(=誘電シート)は、図3Bの太い矢印で示したように、厚さ方向に圧縮され、x−y方向に伸長する(体積が一定に保たれる)。
【0023】
円形シートの外側には剛性の金属フレーム312が存在し、全ての伸長が中心点の方へ向かうことを強いて、これにより絞りサイズを変更させる(代表的には、その孔のサイズは数ミリメートル変化可能である)。電場は入力電圧[V(+),V(-)]の値で調節可能である。電力は絞りサイズが変更されるときにのみ消費され、要求された形状が保たれるときには電流は流れない。
【0024】
図4A〜図4Dは、本発明の有利な実施態様による、電極(+,-)間の電場を変化させることにより達成される様々な絞りサイズAを持つ絞り構造300の斜視図を示す。
【0025】
上記の実施態様とともに本発明を説明し、本発明の幾つかの利点を明らかにしてきた。本発明はこれらの実施態様のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲を通じた本発明の精神及び範囲内において可能な全ての実施態様を含むことは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラ用調節可能絞り構造であって、
少なくとも二つの電極と、
前記少なくとも二つの電極間に電場を生じさせるために、前記少なくとも二つの電極に電圧を印加する電気回路と、
電気活性材料で作成され、前記少なくとも二つの電極間に本質的に配置されたセンターユニットとを有し、
前記センターユニットの形状を、前記電気回路を用いて前記少なくとも二つの電極間に生じた電場により変形させることにより絞りを調節する、
ことを特徴とする調節可能絞り構造。
【請求項2】
前記センターユニットは、前記電場が印加されたときに伸長し、かつ前記センターユニットの中心に前記絞りを縮小するよう適合される、請求項1に記載の調節可能絞り構造。
【請求項3】
前記センターユニットは、本質的に中心に孔を有し、本質的に円形である、請求項1または2に記載の調節可能絞り構造。
【請求項4】
前記センターユニットは誘電体で作成される、請求項1〜3の何れか一項に記載の調節可能絞り構造。
【請求項5】
前記センターユニットは電歪ポリマーで作成される、請求項1〜3の何れか一項に記載の調節可能絞り構造。
【請求項6】
前記絞りサイズは、前記電気回路の動作電圧で制御される、請求項1〜5の何れか一項に記載の調節可能絞り構造。
【請求項7】
前記絞りサイズは、前記少なくとも二つの電極に電圧を印加する前記電気回路の静電容量または抵抗により測定される、請求項1〜6の何れか一項に記載の調節可能絞り構造。
【請求項8】
調節可能絞り構造を有する携帯カメラであって、前記調節可能絞り構造は、
少なくとも二つの電極と、
前記少なくとも二つの電極間に電場を生じさせるために、前記少なくとも二つの電極に電圧を印加する電気回路と、
電気活性材料で作成され、前記少なくとも二つの電極間に本質的に配置されたセンターユニットとを有し、
前記センターユニットの形状を、前記電気回路を用いて前記少なくとも二つの電極間に生じた電場により変形させることにより絞りを調節する、
ことを特徴とする携帯カメラ。
【請求項9】
前記センターユニットは、前記電場が印加されたときに伸長し、かつ前記センターユニットの中心に前記絞りを縮小するよう適合される、請求項8に記載の携帯カメラ。
【請求項10】
前記センターユニットは誘電体で作成される、請求項8または9に記載の携帯カメラ。
【請求項11】
前記絞りサイズは、前記電気回路の動作電圧で制御される、請求項8〜10の何れか一項に記載の携帯カメラ。
【請求項12】
前記絞りサイズは、前記少なくとも二つの電極に電圧を印加する前記電気回路の静電容量または抵抗により測定される、請求項8〜11の何れか一項に記載の携帯カメラ。
【請求項13】
カメラの絞りを調節する方法であって、調節可能な前記絞りの構造は、
少なくとも二つの電極と、
前記少なくとも二つの電極間に電場を生じさせるために、前記少なくとも二つの電極に電圧を印加する電気回路と、
電気活性材料で作成され、前記少なくとも二つの電極間に本質的に配置されたセンターユニットとを有し、
前記方法は、
前記センターユニットの形状を、前記電気回路を用いて前記少なくとも二つの電極間に生じた電場により変形させるステップと、
それにより前記絞りを調節するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記センターユニットは、前記電場が印加されたときに伸長し、かつ前記センターユニットの中心に前記絞りを縮小するよう適合される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記センターユニットは誘電体で作成される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記絞りサイズは、前記電気回路の動作電圧で制御される、請求項13〜15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記絞りサイズは、前記少なくとも二つの電極に電圧を印加する前記電気回路の静電容量または抵抗により測定される、請求項13〜16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
カメラ用調節可能絞り構造における変形可能電気活性材料の使用方法であって、前記調節可能絞り構造は、
少なくとも二つの電極と、
前記少なくとも二つの電極間に電場を生じさせるために、前記少なくとも二つの電極に電圧を印加する電気回路と、
前記電気活性材料で作成され、前記少なくとも二つの電極間に本質的に配置されたセンターユニットとを有し、
前記センターユニットの形状を、前記電気回路を用いて前記少なくとも二つの電極間に生じた電場により変形させることにより絞りを調節する、
ことを特徴とする使用方法。
【請求項19】
前記センターユニットは、前記電場が印加されたときに伸長し、かつ前記センターユニットの中心に前記絞りを縮小するよう適合される、請求項18に記載の使用方法。
【請求項20】
前記センターユニットは誘電体で作成される、請求項18または19に記載の使用方法。
【請求項21】
前記絞りサイズは、前記電気回路の動作電圧で制御される、請求項18〜20の何れか一項に記載の使用方法。
【請求項22】
前記絞りサイズは、前記少なくとも二つの電極に電圧を印加する前記電気回路の静電容量または抵抗により測定される、請求項18〜21の何れか一項に記載の使用方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【公開番号】特開2012−123415(P2012−123415A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53256(P2012−53256)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2008−558837(P2008−558837)の分割
【原出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(398012616)ノキア コーポレイション (1,359)
【Fターム(参考)】