説明

携帯型ナビゲーション装置

【課題】 携帯型ナビゲーション装置において、横道に逸れた場合の経路を事前に簡便に探索する技術を提供する。
【解決手段】 歩行者が通る通路網を表す通路ネットワークを用いて、経路探索、案内を行う機能を携帯端末10に備える。携帯端末10には、その動きによって方位を検出できる機能を備えておく。ユーザが現在位置で、特定の方向に向けて携帯端末10を振るなどして方位を指定すると、指定された方位に存在するリンクを検出し、そのリンクを経由して目的地に向かう新経路1〜3が探索される。探索された新経路1〜3についての道のりや所要時間などの情報は、案内中の案内経路の情報と対比する形でユーザに提供される。
こうすることにより、ユーザは、案内途中に気になる通りを見つけた場合など、その通りに進む前に目的地までの経路情報を知ることができ、無用な大回りなどを回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,携帯端末によって経路案内を行う携帯型ナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地図データベースを利用して、指定された出発地から目的地までの経路を探索し、経路案内するナビゲーション装置が普及している。近年では、携帯電話、PND(Personal Navigation Device)などを用いた携帯型ナビゲーション装置も利用されている。
ナビゲーション装置に関する従来技術として、特許文献1、2記載の技術がある。
特許文献1に開示される技術は、車載用のナビゲーション装置において、経路案内中に、車両の方向指示器の操作が検出されると、これに応じて経路を再探索するものである。
特許文献2に開示される技術は、携帯端末で経路案内をする際に、端末に生じた加速度を検出し、その結果に基づいていわゆるヘディングアップ表示を制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−210292号公報
【特許文献2】特開2008−304319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
携帯型ナビゲーション装置は、主として歩行者が携帯して使用するものである。歩行者の場合、車両で移動する場合に比べて、移動中に周囲を見回す余裕があり、指定された経路から逸脱して種々の経路に容易に移動できることができる。従って、経路案内中に、ユーザの興味を引く街路や店舗が見つかった場合、ユーザは、指定された経路から横道に逸れ、新たに見つけた街路、店舗等に立ち寄りたくなることがある。このようなことは、経路案内中に限らず、経路探索を開始しようとするときにも起こり得る。
車両で移動する場合と異なり、徒歩の場合、わずかな経路変更が、大きな影響を与えることがある。例えば、歩行速度は比較的遅いから、予め案内されている経路から少し横道に逸れて目的地まで大回りになると、当初案内されていた経路から所要時間が大幅に増大してしまうことも起き得る。また、横道に逸れた経路では、階段や坂道が多く、体力を消耗してしまうことも起き得る。かかる弊害を回避するためには、横道に逸れる前に、事前の経路探索を行うことが好ましい。
しかし、特許文献1は方向指示器の操作に応じて経路探索を行う点で車載のナビゲーション装置に関する技術であり、携帯型ナビゲーション装置に適用することはできない。また、特許文献2は、携帯型ナビゲーション装置の動きを案内表示に活用する技術であり、上述した事前の経路探索を行うものではない。
本発明は、かかる課題に鑑み、携帯型ナビゲーション装置において、横道に逸れた場合の経路を事前に簡便に探索する技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、指定された目的地までの経路を案内する携帯型ナビゲーション装置であって、前記目的地までの探索済みの経路を記憶する経路探索結果記憶部と、通路網をノードおよびリンクで表した通路ネットワークデータベースを記憶する通路ネットワークデータベース記憶部と、携帯端末の動きによって指定された指定方位を検出する方位検出部と、現在位置を検出する現在位置検出部と、前記現在位置を基準として、前記指定方位が、前記探索済みの経路とは異なるリンクの方向を指しているとき、該リンクを経由して現在位置から前記目的地に至る経路を探索する方位指定経路探索部とを備える構成とすることができる。
以下、方位指定経路探索部によって探索された経路を、方位指定経路と呼ぶこともある。
【0006】
本発明によれば、ユーザは方位を指定することによって、自身の行きたい方位を特定した経路探索を行うことができる。従って、自身がある通路に行きたいと思ったときに、その通路を通って目的地までの経路を知ることができ、その通路に向かうか否かの判断材料とすることができる。
本発明では、方位の指定は、携帯端末の動きによって、直感的かつ簡便に指定することが可能である。方位は、例えば、携帯端末を指定方位に向けるという動きに基づいて検出する方法、携帯端末を指定方位に向けて振るという動きに基づいて検出する方法などをとることができる。
本発明では、従前に探索済みの経路と異なる方位が指定されたときに経路探索を行う。こうすることによって、指定された方位が探索済みの経路と重なる場合、無駄な経路探索が行われるのを抑制することができる。
方位指定経路探索部による経路探索は、方位検出部による方位が検出されたことに応じて自動的に実行するようにしてもよいし、方位を指定した上でユーザが経路探索の指示を入力したときに実行するようにしてもよい。
【0007】
本発明の携帯型ナビゲーション装置においては、方位指定経路探索部による経路探索結果と探索済みの経路とを比較した比較情報を提示する経路比較情報提示部を備えてもよい。
こうすることにより、方位を指定した経路探索によって得られた経路が、従前の経路に比べて、どれだけ遠回りか、どれだけ魅力的かなどの情報を得ることができ、経路選択の判断材料とすることができる。
比較情報は、例えば、それぞれの経路全体を地図上に表示する方法、種々の項目について両者を対比した表や図、両者の差分を示した表や図を表示する方法などで提供することができる。両者を対比等する項目としては、距離、所要時間、階段の有無、坂道の有無や斜度、照明・屋根・ガードレールなど通行しやすさや安全性に関する情報、商店・観光スポットの数などとすることができる。
【0008】
本発明においては、また、現在位置が、方位指定経路探索部により探索された経路および探索済みの経路のいずれにあるかを判定し、該判定結果に応じて案内すべき経路を切り替える経路案内部を備えてもよい。
例えば、ユーザが従前の経路を離れて方位指定経路探索部によって探索された方位指定経路に向かったと判定されると、案内対象を方位指定経路に切り替えることができる。こうすることによって、ユーザが指定するまでなく、適正な経路案内が行われるから利便性が向上する。
案内対象を方位指定経路に切り替えた場合、従前の経路については、消去してしまってもよいし、そのまま保存しておいてもよい。従前の経路を保存しておく場合には、ユーザが一旦、方位指定経路に向かった後、引き返したような場合、案内対象を従前の経路に戻して案内を継続することができる利点がある。
【0009】
本発明は、他の態様として、携帯端末によって指定された目的地までの経路を案内する携帯型ナビゲーション装置であって、通路網をノードおよびリンクで表した通路ネットワークデータベースを記憶する通路ネットワークデータ記憶部と、前記携帯端末の動きによって、ユーザが指定した方位を検出する方位検出部と、現在位置を検出する現在位置検出部と、前記現在位置を基準として前記指定された方位に対応するリンクを経由して、現在位置から前記目的地に至る経路を探索する方位指定経路探索部とを備える構成とすることができる。
この態様では、探索済みの経路から逸脱した通路に進もうとする場合に限らず、方位を指定した経路探索を活用することができる。例えば、目的地に向かう経路を新たに探索しようとするときに、とりあえず目の前にある特定の通路を通りたいといった要請に応じた経路を簡便な操作で探索することが可能となる。
【0010】
また、上述の各態様において、携帯端末の加速度を検出する加速度検出部を備える場合には、方位検出部は、加速度の検出結果に呼応して、ユーザが指定した方位を検出するようにしてもよい。
こうすることによって、ボタンを押すなどの余分な操作なく簡便に方位を指定することができる利点がある。例えば、携帯端末を動かし、指定する方位に向けて停止させるという操作では、停止するときの負の加速度が所定値以上になった時点で方位を検出するようにすればよい。また、指定する方位を含む鉛直面内で上下に携帯端末を振るという操作では、振るときの加速度が所定値以上となった時点で方位を検出するようにすればよい。
【0011】
本発明は、上述した態様の他、携帯型ナビゲーション装置を構成するコンピュータによって経路案内を行う経路案内方法として構成してもよいし,かかる経路案内をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムとして構成してもよい。また,かかるコンピュータプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体として構成してもよい。記録媒体としては,フレキシブルディスクやCD−ROM,光磁気ディスク,ICカード,ROMカートリッジ,パンチカード,バーコードなどの符号が印刷された印刷物,コンピュータの内部記憶装置(RAMやROMなどのメモリ)および外部記憶装置等,コンピュータが読み取り可能な種々の媒体を利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】携帯型ナビゲーション装置の構成例である。
【図2】方位指定経路の探索例を示す説明図である。
【図3】方位の指定方法を示す説明図である。
【図4】イベント発生による各処理の移行を示す説明図である。
【図5】通常経路探索処理のフローチャートである。
【図6】方位指定経路探索処理のフローチャートである。
【図7】経路比較情報出力処理のフローチャートである。
【図8】経路案内処理のフローチャートである。
【図9】リストメンテナンス処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
A.全体構成:
図1は、携帯型ナビゲーション装置の構成例である。この装置は、歩行者用に、指定された目的地までの経路を探索、案内するための装置であり、携帯端末10とサーバ30とをネットワークNEで接続して構成されている。サーバ30の機能を携帯端末10に組み込んで、スタンドアロンの装置として構成してもよいし、複数のサーバ30からなる分散システムとして構成してもよい。
【0014】
携帯端末10としては、いわゆる多機能携帯電話またはスマートフォン、携帯電話、PDA(Personal Data Assistance)、PND(Personal
Navigation Device)など携帯可能な種々の情報端末を利用できる。多機能端末に限らず、ナビゲーション装置としての専用装置であってもよい。携帯型ナビゲーション装置としての機能を実現するため、携帯端末10には、端末側主制御部11の制御下で動作する図示する種々の機能ブロックが用意されている。これらの機能ブロックは、ハードウェア的に構成してもよいし、CPU、RAM,ROMを備えるコンピュータにコンピュータプログラムをインストールすることによってソフトウェア的に構成してもよい。
携帯端末10には、方位センサ13、加速度センサ14、GPS15の3種類のセンサが設けられている。方位センサ13は、携帯端末10がいずれの方位を指しているかを特定するセンサである。実施例では、3軸の電磁コンパスを用いるものとしたが、携帯端末10が水平に保持されていることを前提に方位を検出可能な機構としてもよい。加速度センサ14は、携帯端末10の3軸方向の加速度を検出するセンサである。1軸または2軸のセンサを用いることも可能である。GPS15は、全地球測位システム(Global Positioning System)であり、携帯端末10の現在位置を検出する。
携帯端末10の入出力に関連する機能は次の通りである。通信部12は、ネットワークを介してサーバ30との通信を行う。コマンド入力部16は、携帯端末10の画面や操作部を介してユーザのコマンドを入力する。表示制御部17は、携帯端末10の画面への表示を制御する。画面への表示としては、経路探索・案内において目的地等の指定を行うための設定画面の表示、経路の探索結果の表示、経路案内の表示などが挙げられる。音声出力制御部18は、経路案内などの音声出力を制御する。
経路案内部19は、経路の探索結果に従い、GPS15によって検出された現在位置に応じて、表示制御部17を介して経路の地図などを表示したり、音声出力部18を介して音声出力をしたりして、経路案内を行う。後述する通り、案内の対象となる経路は、サーバ30によって探索され、記憶されている。経路案内部19は、サーバ30から案内の対象となる経路の情報を予め取得、記憶しておいて、経路案内をする。一つの目的地に対して複数の経路が存在する場合には、案内対象として選択された一つの経路の情報のみを予め取得、記憶するようにしてもよいし、探索された複数の経路を予め取得、記憶しておき経路案内部19が、案内対象を選択するようにしてもよい。予め経路の情報を記憶しておく構成に限らず、経路案内の過程で、経路の情報をサーバ30から逐次、取得する構成をとることも可能である。
【0015】
サーバ30は、CPU、RAM、ROMを備えるコンピュータであり、サーバ側主制御部31の制御下で稼働する図示する種々の機能ブロックが備えられている。これらの機能ブロックは、主として、所定のコンピュータプログラムをインストールすることによってソフトウェア的に構成されているが、ハードウェア的に構成することもできる。
サーバ30のハードディスクには、地図データベース記憶部38、通路ネットワークデータベース記憶部39が用意されている。地図データベース記憶部38は、地図を描画するために、道路、建物などの地物を表すポリゴンデータ等で構成される地図データベースを記憶している。通路ネットワークデータベース記憶部39は、通路網をノードおよびリンクで表した通路ネットワークデータベースを記憶している。ここで、本実施例では、主として歩行者が利用する装置であるから、通路ネットワークデータベースは、歩行者が通行可能な通路を対象とするネットワークである。例えば、一本の道路の両側に歩道が設けられている場合には、それぞれの歩道に対応するリンクが整備されている箇所もあれば、階段など、いわゆる狭義の「道路」とは呼べない場所に対応するリンクが整備されている箇所もある。もっとも、本実施例の携帯型ナビゲーション装置を車用として活用する場合には、通路ネットワークデータベースは、自動車が通行可能な道路を対象として整備することが好ましい。
通信部32は、ネットワークを介して携帯端末10との通信を行う。通常経路探索部34は、通路ネットワークデータベース39を参照して、指定された出発地から目的地までの経路を探索する。経路探索は、ダイクストラ法など周知の方法を用いることができる。方位指定経路探索部35は、現在位置からユーザによって指定された方位に存在するリンクを経由するという条件下で経路探索を行う。通常経路探索部34とは、経路探索を実行する条件が異なるだけであり、手法は同様である。通常経路探索部34、方位指定経路探索部35により探索された経路は、経路探索結果記憶部37に一時的に記憶される。リストメンテナンス部36は、このように経路探索結果記憶部37に蓄積される経路探索結果のうち、経路案内の状況に応じて、不要となったものを消去する。経路比較情報生成部33は、一つの目的地に対して、通常経路探索部34、方位指定経路探索部35によって、複数の経路が探索された場合に、これらの経路を比較する情報を生成し、携帯端末10に提供する。
【0016】
本発明の構成要件は、上述した複数の機能ブロックで構成されることもある。例えば、本発明における方位検出部は、方位センサ13および加速度センサ14が対応する。また、経路比較情報提示部は、経路比較情報生成部33と表示制御部17が対応する。携帯端末10とサーバ30との機能の分担によっては、他の構成要件も複数の機能ブロックの連携によって構成され得る。
【0017】
B.経路探索例:
本実施例では、指定された出発地、目的地間で最適の経路を探索する「通常経路探索」の他、ユーザが指定した方位に存在するリンクを経由するという条件下で経路を探索する「方位指定経路探索」を行う。
図2は、方位指定経路の探索例を示す説明図である。図中の道路には、細線で示したリンク、点で示したノードからなる通路ネットワークが構築されている。ユーザは、目的地までの経路を探索して得られた、案内経路に沿って通行中に現在位置に到達したものとする。
ここで、ユーザが分岐路を見つけ、その分岐路の方向に行ってみようと考えたとする。このとき、本実施例では、図示するように、携帯端末10を分岐路の方向に向けることで自分の向かいたい方位を指定するのである。携帯端末10は、方位を指定されると、現在位置を基準として、指定された方位から片側θの中心角で半径rからなる扇形の領域を設定し、この中に存在するリンクL1を検出する。そして、ユーザが、このリンクL1を通る経路を要求していると判断するのである。
従って、方位指定経路探索では、このリンクL1を経由する経路探索を行う。具体的には、リンクL1の端にあるノードを「経由地1」に設定し、目的地までの経路探索を行う。こうすることによって、図中に示す新経路1を得ることができる。
方位指定経路探索では、リンクL1に沿った方向で、経由地1よりも遠方の経由地2、経由地3を設定してもよい。こうすることによって、経由地2を通る新経路2、経由地3を通る新経路3を併せて得ることができる。「経由地1」だけを用いた新経路1では、ユーザが行ってみたいと思った分岐路から、すぐに元の案内経路に戻ってしまう意図に沿わない経路となっていることがある。経由地2、経由地3のように、より遠方の経由地を設定することにより、ユーザの意図に沿った経路を提供できる可能性を向上させることができる。
遠方の経由地の設定方法について説明する。通路ネットワークデータを構成するリンクL1〜L3には、リンクの形状、属性などのデータの他、道路名称が格納されている。従って、道路ネットワークデータ上は、リンクL1〜L3のように個別のリンクとしてデータが格納されていても、道路名称が共通のリンクをたどることにより、一つの道なりのリンク列を特定することができる。経由地の設定は、例えば、こうして特定される道なりのリンク上のノードを順次、指定する形で行うことができる。いくつのノードを経由地として設定するかは、ノードの数、現在位置からの直線距離または道のり、それぞれの経由地を通る新経路1〜3の距離などに応じて取捨選択することができる。道路名称に基づいて経由地を設定する他、道路種別が共通のリンクをたどって経由地を設定するようにしてもよいし、現在位置から所定距離内にあるノードを網羅的に経由地に設定する方法をとってもよい。
【0018】
方位指定経路探索において、ユーザが方位を指定する方法について説明する。
図3、方位の指定方法を示す説明図である。
図3(a)は、携帯端末10の上端を指定方位に向け、ボタンを押す(矢印A)ことによって方位を指定する方法を示している。携帯端末10の画面上で方位を指定する方法に比べて、携帯端末10自体を指定方位に向けるという動きによって指定するため、直感的な操作によって指定できる利点がある。またボタンを押すことで指定するため、「方位指定」というユーザの意図を携帯端末10に明確に入力することができ、誤指定を抑制することができる。
図3(b)は、携帯端末10の動きと、その加速度によって方位を指定する方法を示している。経路案内の過程で携帯端末10がP1の状態にあったとすると、ユーザは矢印Bのように携帯端末10を動かし、その上端を、状態P2のように、指定方位に向けて停止させる。携帯端末10の加速度センサによって検出される水平加速度を図の下側に示した。状態P1から矢印B方向に動かし始めた瞬間に水平方向に正の加速度が生じ、移動中は、ほぼ0付近で振動し、停止させる時には、負の加速度が生じる。従って、携帯端末10は、負の加速度が所定値Thbを超えた瞬間を検出することによって、動きが停止したことを検出でき、その時点での方位を検出することでユーザから指定された方位を特定することができる。所定値Thbは、矢印Bの移動中の振動を検出せず、停止時の負の加速度を検出できる範囲で任意に設定可能である。
図3(c)は、携帯端末10の垂直方向の動きによって方位を指定する方法を示している。ユーザは、方位を指定する場合には、その方位を含む鉛直面内で矢印Cのように携帯端末10を振る。この動作中の垂直加速度の様子を図の下側に示した。携帯端末10を振っている間、垂直方向の加速度は激しく振動する。携帯端末10は、所定値Thcを超える加速度が所定回数または所定期間、検出された時点で携帯端末10の方位を検出することでユーザから指定された方位を特定することができる。ここでは、複数回、振る例を示したが、所定値Thcを超える加速度が1回検出された時点で方位を特定するようにしてもよい。
【0019】
C.ソフトウェア構成:
方位指定経路探索を含む経路探索・案内処理を実現するためのソフトウェア構成について説明する。本実施例では、イベントドリブン型のソフトウェア構成をとっており、各機能を実現するソフトウェアは、所定のイベント発生に応じて起動する。以下では、まず、イベント発生とソフトウェアの起動、移行の概要を示した後、それぞれのソフトウェアの処理内容を説明する。
図4は、イベント発生による各処理の移行を示す説明図である。ソフトウェアは、主として通常経路探索処理S100、方位指定経路探索処理S200、経路比較情報出力処理S300、経路案内処理S400、リストメンテナンス処理S500の5つから構成されている。各ソフトウェアで利用する経路探索結果は、経路探索結果記憶部37に用意された経路探索結果リスト37Aを介して行われる。
通常経路探索処理S100は、指定された出発地、目的地間で経路探索を行うソフトウェアであり、方位指定経路探索処理S200は、図2,3で示した方位指定の経路探索を行うソフトウェアである。これらで得られた経路探索結果は、経路探索結果リスト37Aに格納される。
経路比較情報出力処理S300は、一つの目的地に至る複数の経路が探索されている場合に、これらを比較する情報をユーザに提供するソフトウェアである。経路案内処理S400は、ユーザに経路を案内するソフトウェアである。これらの処理の対象となる経路は、経路探索結果リスト37Aから読み出される。
リストメンテナンス処理S500は、経路探索結果リスト37Aから不要な経路を消去するソフトウェアである。
【0020】
それぞれの処理は、次のイベントによって起動、移行する。
通常経路探索処理は、目的地設定イベントEV1および経路不存在イベントEV3の発生時に起動する。目的地設定イベントEV1は、ユーザが経路探索の目的地を設定したことを表すイベントである。経路不存在イベントEV3は、経路案内処理S400の途中に、ユーザが既存の経路から逸脱し、案内すべき経路が存在しなくなったことを表すイベントである。経路不存在イベントEV3の発生によって、いわゆるリルート機能を実現することができる。
方位指定経路探索処理S200は、方位検出イベントEV2の発生時に起動する。方位検出イベントEV2は、図3に示した方法によって、ユーザが特定の方位を指定したことを示すイベントであり、通常経路探索処理S100、経路案内処理S400の途中で発生する。例えば、ユーザが目的地を指定することによって通常経路探索処理S100が起動している際に、方位検出イベントEV2が発生すれば、指定された目的地に向かう方位指定経路探索処理S200が実行されることになる。また、図2に示したように、経路案内中にユーザが気になる分岐道路を見つけ、方位検出イベントEV2が発生した場合も、従前の経路案内で指定された目的地に向かう方位指定経路探索処理S200が実行されることになる。図4に示した例に加えて、方位指定経路探索処理S200を、目的地設定イベントEV1に応じて起動する構成をとることも可能である。
経路比較情報出力処理S300は、経路追加イベントEV4の発生時に起動する。経路追加イベントEV4は、経路探索結果リスト37Aに新たな経路が追加されたことを表すイベントである。つまり、通常経路探索処理S100、方位指定経路探索処理S200によって、新たな経路探索結果が経路探索結果リスト37Aに追加されると、経路追加イベントEV4が発生し、経路比較情報出力処理S300が起動することになる。もっとも、通常経路探索処理S100は、経路探索結果リスト37Aに何も経路が存在しない状態で実行されるのが通常であるから、経路比較情報出力処理S300が起動しても、比較情報を生成せずに処理を終了することになる場合が多い。
リストメンテナンス処理S500は、イベントの発生とは無関係に定期的に稼働させるものとした。経路探索結果リスト37Aに蓄積された経路数が所定数を超えるなどのイベントに応じて起動させる構成をとることも可能である。
以下、各処理の内容について説明する。
【0021】
C1.通常経路探索処理:
図5は、通常経路探索処理のフローチャートである。通常経路探索処理は、指定された出発地、目的地間で経路探索を行う処理である。主として通常経路探索部34の機能に相当し、ハードウェア的にはサーバ30のCPUによって実現される処理である。
CPUはユーザの操作に従って目的地を入力する(ステップS101)。また、出発地を入力する(ステップS102)。出発地は、現在位置とする方法、ユーザが指定する方法をとることができる。
次に、CPUは、指定された出発地から目的地までの経路を探索する(ステップS103)。経路探索は、通路ネットワークデータに格納されている各ノード、リンクに付されたコストに基づいて、ダイクストラ法などの周知の方法によって行うことができる。
経路探索が完了すると、CPUは探索結果を経路探索結果リスト37Aに格納して、この処理を終了する(ステップS104)。
【0022】
C2.方位指定経路探索処理:
図6は、方位指定経路探索処理のフローチャートである。方位指定経路探索処理は、図2,3で示した方位指定の経路探索を行う処理である。主として方位指定経路探索部35の機能に相当し、ハードウェア的にはサーバ30のCPUによって実現される処理である。
CPUはユーザの操作に応じて指定方位を入力する(ステップS201)。方位は、図3に示した種々の方法で指定することができる。
次に、CPUは、指定方位が、探索済みの経路と異なる方位かを判断する(ステップS202)。図2で示したように、指定方位を中心とする扇形の領域を設定し、探索済みの経路のリンクがこの中に存在するか否かを判定すればよい。探索済みの経路は、案内中の経路に限らず、経路探索結果リスト37Aに記憶されている全経路を対象として判断してもよい。探索済みの経路と指定方位が同一である場合には、指定方位に沿った経路は既に得られていることを意味するから、CPUは、新たな経路探索を行うことなく、方位指定経路探索処理を終了する。
指定方位が探索済みの経路と異なる場合には、CPUは、指定方位にあるリンクを特定する(ステップS203)。例えば、図2で示した扇形の領域内のリンクを特定する方法をとることができる。そして、特定されたリンクに道なりに、現在位置から近い順にN点(Nは自然数)のノードを選択し、これらを経由地に設定する(ステップS204)。経由地とすべきN点は、予め定められた所定数だけ選択する方法、現在位置から所定距離内のノードを選択する方法などによって選択することができる。
こうして経由地が設定できると、CPUは、現在位置を出発地、目的地を通常経路探索処理で設定された地点とし、上述の設定されたN点の経由地を一つずつ用いて経路探索を行う(ステップS205)。経路探索は、通常経路探索処理と同様、ダイクストラ法などによって行うことができる。この経路探索によって、N通りの経路が得られることになる。
CPUは、こうして得られたN通りの経路の探索結果を、経路探索結果リスト37Aに格納して、この処理を終了する(ステップS206)。
【0023】
C3.経路比較情報出力処理:
図7は、経路比較情報出力処理のフローチャートである。経路比較情報出力処理は、一つの目的地に至る複数の経路が探索されている場合に、これらを比較する情報をユーザに提供する処理である。情報の生成については主として経路比較情報生成部33の機能に相当し、ハードウェア的にはサーバ30のCPUによって実現される処理であり、情報の提供については主として表示制御部17の機能に相当し、携帯端末10のCPUによって実現される処理である。
CPUは、経路探索結果リスト37Aから、案内経路および新経路を読み込む(ステップS301)。案内経路とは、現在、経路案内中の経路である。新経路とは、経路案内中に方位指定経路探索処理などによって新たに探索された経路である。
CPUは、これらの経路に基づき、経路比較情報を生成し(ステップS302)、携帯端末10に送信することによって、携帯端末10の画面上に経路比較情報を出力する(ステップS303)。図中に、経路比較情報の出力例を示した。
比較地図D1は、案内経路および新経路の全体を地図上に表示するものである。図中の例では、出発地、現在位置、目的地に対し、案内経路(図中の実線)と、新経路としての経路1(図中の破線)および経路2(図中の一点鎖線)が表示されている。このように全体経路を比較して表示することにより、ユーザは、新経路1、2が案内経路に対してどれくらい遠回りになるか、これらの経路がどのような場所を通るのか、などを視覚的、直感的に把握することが可能となる。
対比表D2は、案内経路および新経路を種々の項目で比較した結果を示している。図の例では、道のり、所要時間、階段の多さ、坂道の程度、観光スポットの有無や多さ、ショッピングスポットの有無や多さなどを表示する例を示した。表現方法は例示した態様に限らず、数値で表した項目(道のり、所要時間)をグラフィックスで表しても良いし、グラフィックスで表した項目(階段の多さ、坂道の程度、観光スポット、ショッピング)を数値、文字等で表しても良い。また、この他にも種々の情報を提示可能であるし、対比すべき情報をユーザがカスタマイズできるようにしてもよい。
差分出力D3は、案内経路と新経路との差分を示している。例えば、「道のり」は、「新経路の道のり−案内経路の道のり」を表している。図の例では、「+□km」であるから、新経路は案内経路よりも遠回りになることが分かる。他の項目も、それぞれ案内経路を基準として、新経路の値または状態を表している。図の例では、経路1は、案内経路よりも、所要時間が増え、階段も多いが、坂道は少ないまたは下り気味であること、観光には向かないこと(破線の図柄は不適であることを表す)、ショッピングにはやや向いていることを示している。対比表D2と同様、数値、グラフィックなどの表現形式は任意に設定可能であり、提供すべき情報の種類も任意に設定可能である。また表示すべき項目をユーザがカスタマイズ可能としてもよい。
これらの経路比較情報が提供されることにより、ユーザは、これらを新経路に向かうか否かの判断材料とすることができる。
【0024】
C4.経路案内処理:
図8は、経路案内処理のフローチャートである。経路案内処理は、ユーザに経路を案内する処理である。主として経路案内部19の機能に相当し、ハードウェア的には携帯端末10のCPUによって実現される処理である。
CPUは、案内対象とすべき経路を読み込む(ステップS401)。経路探索結果リスト37Aに経路が一つしか記憶されていない場合には、その経路が案内対象となる。複数の経路が記憶されている場合には、現在位置に対応する経路が対象となる。現在位置に対応する経路が複数存在する場合には、通常経路探索によって探索された経路を案内対象とする。案内すべき経路は、ユーザが選択するものとしてもよい。
CPUは、現時位置を検出し(ステップS402)、案内対象となっている経路上か否かを判断する(ステップS403)。現在位置が経路上である場合には、地図上に経路を表示し、この先の進行方向を案内するとともに、適宜、音声出力するなどの態様で案内出力を行う(ステップS404)。目的地に到着したときは、案内を終了し(ステップS405)、到着していないときは、現在位置の検出(ステップS402)にもどる。
一方、現在位置が経路上にない場合(ステップS403)、つまり経路案内中にユーザが案内対象の経路から逸脱した場合には、CPUは経路探索結果リストから、他の経路を検索する(ステップS410)。他の経路が存在する場合には(ステップS411)、その経路を案内対象に切り替えて、経路の読み込み(ステップS401)から案内処理を再開する。この切り替えは、例えば、図2に示したように、経路案内の途中で方位指定経路探索を行って得られた新経路1等に進み始めたときに行われることになる。ユーザが案内経路から逸脱し、新経路1に入ったことが検出されると、ステップS411における他の経路として新経路1が選択され、新経路1の案内が開始されるのである。こうすることにより、ユーザは手動で案内すべき経路を切り替える必要がないため、利便性が向上する。
ステップS411において、他の経路が存在しない場合は、経路案内を継続することはできないから、CPUは、経路不存在イベントを発生する(ステップS412)。図4で示した通り、経路不存在イベントをトリガとして、通常経路探索処理が起動されるから、新たな経路が探索され、いわゆる通常のリルート機能を実現することができる。
【0025】
C5.リストメンテナンス処理:
図9は、リストメンテナンス処理のフローチャートである。リストメンテナンス処理は、経路探索結果リスト37Aから不要な経路を消去する処理である。主としてリストメンテナンス部36の機能に相当し、ハードウェア的にはサーバ30のCPUによって実現される処理である。
CPUは、現在位置を検出し、従前の通行軌跡を読み込む(ステップS501)。従前の通行軌跡は、経路案内処理において、現在位置の履歴をログとして保存しておけばよい。
CPUは、経路探索結果リストから経路を読み込み(ステップS502)、消去条件を判定する(ステップS503)。本実施例では、現在位置が経路上にないこと(条件1)および通行軌跡は経路を通過したこと(条件2)の両者を満たす場合に消去すべきものとした。現在位置が経路上にない場合には、その経路は現時点で経路案内の対象となっておらず不要であることを表している。また、通行軌跡が経路を通過した場合には、将来においても経路案内の対象とならないと考えられることを表している。従って、これらの条件1、2を満たす経路は、経路案内に使用されることのない不要な経路と判断されるからである。
消去条件の判定例を図中に示した。図示する通り、経路a〜cが経路探索結果リストに格納されている場合を考える。この例では、現在位置は経路a上にあり、通行軌跡も経路aに属しているから経路aを通過したとは言えない。従って、経路aは条件1、2ともに満たさないから消去対象とはならない。これに対し、経路bについて、現在位置は経路b上にないから条件1を満たす。また、通行軌跡は経路bの端点を通りすぎているから条件2も満たす。従って、経路bは消去対象となる。経路cについては、現在位置は経路c上にないから条件1を満たす。しかし、通行軌跡は経路cの端点を通り過ぎていないから条件2は満たさない。従って、経路cは消去対象とはならない。
このように消去条件を判定すると、CPUは、消去条件を満たす経路を経路探索結果リストから消去する(ステップS504)。こうすることによって、経路案内に利用されない無用な経路が、経路探索結果リストに蓄積され、処理速度が低下することを回避できる。
なお、ユーザによっては、一旦、経路から逸脱した後、引き返して元の経路に戻る場合も考えられる。かかる場合に、元の経路に復帰して経路案内できるようにするため、条件2を、「通行軌跡は経路を所定距離以上通過した」と代えても良い。こうすることで、通り過ぎた後もしばらくは経路探索結果リストに経路が記憶されているから、ユーザが引き返した場合でも、円滑に経路案内を行うことができる。
【0026】
D.効果および変形例:
以上で説明した実施例の携帯型ナビゲーション装置によれば、ユーザは方位を指定することによって、自身の行きたい方位を特定した経路探索(方位指定経路探索)を行うことができる。従って、自身がある通路に行きたいと思ったときに、その通路を通って目的地までの経路を知ることができ、その通路に向かうか否かの判断材料とすることができる。案内中の経路を逸脱して、通路を進み始めたときに新たな経路探索が行われるリルート機能と異なり、実際に通路に向かう前に経路を知ることができるため、通路に進んでは引き返すなどの無駄な移動、無用な大回りなどを抑制することができる。
【0027】
本実施例は、種々の変形例をとることも可能である。
(1)本発明の「携帯型」とは、ナビゲーション装置の一部が携帯型となっていれば足りるから、実施例のように経路探索および案内に携帯端末10を用いる例に限らず、方位指定の機能のみを携帯端末10に持たせ、車載型のナビゲーション装置のような固定型の装置で経路案内等を行う構成としてもよい。
(2)本実施例では、通常経路探索処理は出発地、目的地を指定するものとしたが、この時点で方位を指定可能としてもよい。こうすることで、当初からユーザの望む方位を通る経路を得ることが可能となる。
(3)実施例では、歩行者用の装置を例示したが、本実施例は、歩行者以外にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は,携帯型ナビゲーション装置において、横道に逸れた場合の経路を事前に簡便に探索する技術を提供するために利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
10…携帯端末
11…端末側主制御部
12…通信部
13…方位センサ
14…加速度センサ
15…GPS
16…コマンド入力部
17…表示制御部
18…音声出力制御部
19…経路案内部
30…サーバ
31…サーバ側主制御部
32…通信部
33…経路比較情報生成部
34…通常経路探索部
35…方位指定経路探索部
36…リストメンテナンス部
37…経路探索結果記憶部
38…地図データベース記憶部
39…通路ネットワークデータベース記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指定された目的地までの経路を案内する携帯型ナビゲーション装置であって、
前記目的地までの探索済みの経路を記憶する経路探索結果記憶部と、
通路網をノードおよびリンクで表した通路ネットワークデータベースを記憶する通路ネットワークデータベース記憶部と、
携帯端末の動きによって指定された指定方位を検出する方位検出部と、
現在位置を検出する現在位置検出部と、
前記現在位置を基準として、前記指定方位が、前記探索済みの経路とは異なるリンクの方向を指しているとき、該リンクを経由して現在位置から前記目的地に至る経路を探索する方位指定経路探索部とを備える携帯型ナビゲーション装置。
【請求項2】
請求項1記載の携帯型ナビゲーション装置であって、
前記方位指定経路探索部による経路探索結果と前記探索済みの経路とを比較した比較情報を提示する経路比較情報提示部を備える携帯型ナビゲーション装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の携帯型ナビゲーション装置であって、
現在位置が、前記方位指定経路探索部により探索された経路および前記探索済みの経路のいずれにあるかを判定し、該判定結果に応じて案内すべき経路を切り替える経路案内部を備える携帯型ナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−233827(P2012−233827A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103751(P2011−103751)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(597151563)株式会社ゼンリン (155)
【Fターム(参考)】