説明

携帯型振動診断装置

【課題】複数箇所を同時にしかも安全に簡易迅速に測定できる携帯型の振動診断装置を得る。
【解決手段】本発明に係る携帯型振動診断装置1は、複数の振動センサユニット3と、振動センサユニット3から送信される無線信号を受信して機器の診断を行う振動診断部5とを備え、振動センサユニット3は、振動センサユニット3を固定するマグネット7と、振動センサ9と、振動センサ9から出力された信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段13と、A/D変換手段13でデジタル信号に変化された信号を無線方式で伝送する無線送信手段15と、振動センサ9及び無線送信手段15の駆動用電源となる電池17とを備えてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、設備機器の振動を測定して前記設備機器の異常の有無を診断する携帯型の振動診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場などに設置された複数の設備機器、例えばポンプ、ファンなど回転機器などのように駆動しているものの異常の有無を診断する装置として、携帯型の異常診断装置がある。
このような従来の携帯型振動計は、ケーブル付きの振動センサ1つと、振動センサからの振動信号を増幅するアンプ、その振動信号から各種の測定値を演算する計算機(一般にPDA)で構成されるものが一般的である(特許文献1参照)。
この理由は、現場作業ではなるべく軽量でかつ持ち運びやすいものが要求されるためであり、簡便性を重視する結果、機能も最小限にとどめた1ch型、すなわち振動センサが1個の振動計となっている。
【0003】
他方、診断対象となる設備機器に各種のセンサを設置してオンラインで監視して、センサから得られるデータをユーザが設定した基準値と比較することにより、各機器の異常判定を行うものとして、例えば特許文献2に記載の「振動測定システム」がある。
特許文献2に記載の「振動測定システム」は、「振動加速度を検出するための加速度センサで検出した振動加速度信号をデジタル変換処理しそのデジタル信号を無線方式で計測器に伝送する加速度センサ機器と、振動を検出するための振動センサで検出した振動信号をデジタル変換処理しそのデジタル信号を無線方式で計測器に伝送する振動センサ機器と、回転数を検出するための回転パルス計で検出した回転パルス信号を無線方式で計測器に伝送する回転パルスセンサー機器とを備えたことを特徴とする」ものである(特許文献2の請求項1参照)。
特許文献2のものは、基本的には上述した携帯型の診断装置ではなくオンライン型のものであるが、一部の機能のみを携帯可能な携帯端末18で行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−337965号公報
【特許文献2】特開2009−8529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の携帯型の診断装置では、簡便性を重視して機能を最小限にとどめたため1ch型すなわち振動センサが1つの振動計となっていた。そのため、従来の携帯型の診断装置には以下のような問題がある。
(1)測定対象とする回転機器の振動診断を行うためには、少なくとも軸受の装備数(例えばモータとポンプの構成であれば少なくとも4点の軸受が存在する)分、センサを複数箇所に順番に設置して測定作業を繰り返し行う必要がある。このため、1ch型の振動計は測定時間そのものに多くの時間を要する。
(2)従来の1ch型振動計では複数の測定点に対して振動波形データを同時サンプリングすることができないため、位相情報を考慮した振動解析手法(例えば、リサージュ解析や実稼動解析など)が不可能という振動解析手法が制限されるという問題がある。
(3)従来の携帯型の振動計は、振動センサをケーブルで本体に連結しているため、測定対象設備に振動センサを取り付ける際、センサケーブルが回転体に巻き込まれないよう十分配慮する必要があり、また、軽量化のためにセンサケーブルの長さが短めになっているため、測定作業中に回転機器に接触しないような配慮も必要であり、このことが簡易迅速な測定作業を阻害する要因になっていた。
(4)また、振動センサがケーブルで接続されている従来例の場合、振動測定中にセンサケーブルが揺れると、それによって同軸ケーブルが曲げられたりねじれたりするとトリボ効果によりノイズが発生する。このノイズが振動波形データに重畳され、振動波形データに影響を与えるという問題があった。
【0006】
以上のように、従来の携帯型の振動計には種々の課題が残されている。
これに対して、特許文献2のオンライン型の場合には複数のセンサを用いて複数箇所を同時に測定可能であることから、上記携帯型の振動計の有している問題はないと言える。
しかしながら、オンライン型の振動測定装置は、振動センサを複数の測定箇所に予め設置しておくものであり、大がかりな段取りが必要となる。
また、振動センサを測定対象の機器ごとに予め設置しているため、測定対象機器ごとの初期設定作業など多くの時間を費やす必要がある。
さらに、振動センサの設置箇所を変更することができないという問題がある。なぜなら、振動センサの設置箇所が変更されると、以前に振動センサを設置していた箇所のデータと新に振動センサを設置した箇所におけるデータとが混在するためである。
このため、振動センサの設置箇所を変更するのではなく、別の振動センサを新に設置して、新に設定を行なう必要があり、設定作業等に時間と労力を要することになる。
【0007】
以上のように、従来の携帯型の振動計には種々の問題が残されており、他方、オンライン型の振動診断装置は、携帯型とは全くことなり、大掛かりな設備を必要とし、コストもかかり、さらには振動センサの設置箇所を任意に変更できないという問題がある。
【0008】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたもので、複数箇所を同時にしかも安全に簡易迅速に測定できる携帯型の振動診断装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、携帯型の振動計の有する種々の問題を解決するために、携帯型でありながら、複数チャンネルで複数箇所を同時に測定できるようにするために鋭意検討した結果以下のように考えた。
従来の携帯型の振動計では、振動計自体に積分回路、バンドパスフィルタ、A/D変換回路といったアナログ回路を付属させる必要があり、複数チャンネルにするとこの部分が大型化してしまうことにあった。
そこで、発明者は、従来の振動計が有していたアナログ回路の機能を振動センサ側に持たせると共に振動センサを小型化して無線にすることで従来の振動計が有している種々の課題が解決できると考えた。
また、複数の測定箇所に同時に振動センサを現場で設置し、しかも設置箇所を状況に応じて変更して振動解析をできるようにするため、振動センサの設置箇所を予めパターン化することで、簡易迅速な診断が可能になると考えた。
本発明は、上記の知見を基になされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0010】
(1)本発明に係る携帯型振動診断装置は、複数の振動センサユニットと、該振動センサユニットから送信される無線信号を受信して機器の診断を行う振動診断部とを備え、
前記振動センサユニットは、該振動センサユニットを固定するマグネットと、振動センサと、振動センサから出力された信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、該A/D変換手段でデジタル信号に変化された信号を無線方式で伝送する無線送信手段と、前記振動センサ及び前記無線送信手段の駆動用電源となる電池とを備えてなり、
前記振動診断部は、振動センサユニットから送信される無線信号を受信する受信部と、振動センサユニットから送信される振動波形データに基づいて振動波形データの解析を行う解析プログラムを記憶するプログラム記憶手段と、前記複数の振動センサユニットが設置される箇所の組合せのパターンを記憶する設置箇所パターン記憶手段と、該設置箇所パターン記憶手段に記憶されているパターンを選択するパターン選択手段と、前期受信部によって受信される振動波形データを前記パターン選択手段によって選択されたパターンに対応した振動波形データとして記憶する振動波形データ記憶手段と、該振動波形データ記憶手段に記憶されている振動波形データを基に前記解析プログラムによって振動診断を行う診断処理手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記振動診断部は携帯型PCによって構成され、前記受信部は前記携帯型PCに着脱自在の中継ユニットによって構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記解析プログラムは、周波数解析プログラム、リサージュ解析プログラム、実稼動解析プログラム、コヒーレンス関数解析プログラムの一つ又は複数であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、複数の振動センサユニットと、該振動センサユニットから送信される無線信号を受信して機器の診断を行う振動診断部とを備え、
前記振動センサユニットは、該振動センサユニットを固定するマグネットと、振動センサと、振動センサから出力された信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、該A/D変換手段でデジタル信号に変化された信号を無線方式で伝送する無線送信手段と、前記振動センサ及び前記無線送信手段の駆動用電源となる電池とを備えてなり、
前記振動診断部は、振動センサユニットから送信される無線信号を受信する受信部と、振動センサユニットから送信される振動波形データに基づいて振動波形データの解析を行う解析プログラムを記憶するプログラム記憶手段と、前記複数の振動センサユニットが設置される箇所の組合せのパターンを記憶する設置箇所パターン記憶手段と、該設置箇所パターン記憶手段に記憶されているパターンを選択するパターン選択手段と、前期受信部によって受信される振動波形データを前記パターン選択手段によって選択されたパターンに対応した振動波形データとして記憶する振動波形データ記憶手段と、該振動波形データ記憶手段に記憶されている振動波形データを基に前記解析プログラムによって振動診断を行う診断処理手段とを備えてなることにより、現場の診断状況に応じて、測定箇所を変更しながら振動波形データをサンプリングし、その場で種々の診断を行うことができるので、的確な診断を簡易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る携帯型振動診断装置の構成の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る振動センサユニットの説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る振動診断部の説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態において振動診断の対象とする機器の説明図である。
【図5】図4に示した機器に対して振動センサユニットを設置する箇所の説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態における振動センサユニットの設置パターンの説明図である(パターン1)。
【図7】本発明の一実施の形態における振動センサユニットの設置パターンの説明図である(パターン4)。
【図8】本発明の一実施の形態における振動センサユニットの設置パターンの説明図である(パターン7)。
【図9】本発明の一実施の形態に係る携帯型振動診断装置を用いて振動診断を行う動作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態1]
本実施の形態に係る携帯型振動診断装置1は、複数の振動センサユニット3と、振動センサユニット3から送信される無線信号を受信して機器の診断を行う振動診断部5とを備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0016】
<振動センサユニット>
振動センサユニット3は、図2に示すように、振動センサユニット3を測定箇所に設置するためのマグネット7と、圧電素子からなるセンサ部9(振動センサに相当)と、センサ部9から出力された信号を増幅するアンプ11と、アンプ11によって増幅された振動をデジタル信号に変換するA/D変換器13(A/D変換手段に相当)と、A/D変換器13でデジタル信号に変化された信号を無線方式で伝送する無線送信ユニット15(無線送信手段に相当)と、振動センサ及び前記無線送信手段の駆動用電源となる電池17とを備えている。
振動センサユニット3に電池17を搭載したことにより、別途駆動用電源を供給する必要がないので、振動センサユニット3を所望の箇所に設置できる。
なお、本実施の形態においては、振動センサユニット3を4個使用する例を示しているが、本発明においては、振動センサユニット3の数は4個に限定されるものではない。
【0017】
<振動診断部>
振動診断部5は、携帯型のPCに搭載される機器及びプログラムを実行することによって実現される機能によって構成される。
振動診断部5は、図3に示すように、振動センサユニット3から送信される無線信号を受信する中継ユニット19(受信部に相当)と、中継ユニット19から入力される信号を入力して振動波形データを記憶する振動波形データ記憶手段21と、振動波形データに基づいて設備の状態の診断に用いる解析プログラムを記憶するプログラム記憶手段23と、プログラム記憶手段23に記憶されている解析プログラムを選択する解析プログラム選択手段25と、複数の振動センサユニット3が設置される設置箇所の組合せパターンを記憶する設置箇所パターン記憶手段27と、設置箇所パターン記憶手段27に記憶されているパターンを選択するパターン選択手段29と、選択された解析プログラムを呼び出して診断を行う診断処理手段31と、作業者が作業指示のための情報等を入力するための入力手段33と、解析結果などを表示する表示手段35とを備えている。
以下、振動診断部5の各構成をさらに詳細に説明する。
【0018】
〔中継ユニット〕
中継ユニット19は、各振動センサユニット3から送信される各チャンネルのデータを受信して、振動波形データ記憶手段21に入力する。
中継ユニット19は、図1、図3ではPC(パーソナルコンピュータ)に着脱自在に取り付けることができるものを示している。しかし、中継ユニット19と同様の機能を搭載したものをPCに内蔵させてもよい。
【0019】
〔プログラム記憶手段〕
プログラム記憶手段23には、複数の解析プログラムがインストールされることによって記憶されている。
本実施の形態では、周波数解析プログラム37、リサージュ解析プログラム39、実稼動解析プログラム41、コヒーレンス関数解析プログラム43がインストールされている。
以下、各プログラムの機能を概説する。
【0020】
(周波数解析)
周波数解析は、測定した振動波形データに対してフーリエ変換を行い、振動波形データを周波数と振幅の関数に分解して解析するする手法である。
診断対象である機器の異常の種類によって発生する周波数が決まるので、周波数解析を行うことにより、異常原因を特定することが可能となる。
本実施の形態では、複数の振動センサユニット3を複数の測定点に設置して、複数点の振動波形データを同時採取することができるので、携帯型でありながらも、複数の測定箇所の振動波形データを同時にリアルタイムで比較して振動診断することができる。
【0021】
(リサージュ解析)
異なる2つの方向(水平と垂直)から同時測定した振動波形データを用いて、X,Y座標に合成して表示したものがリサージュ図であり、軸心まわりの動きを表すものである。
リサージュ解析は、リサージュ図が作る軌跡の形を観察することで、異常の種類を特定するものである。
本実施の形態では、複数の振動センサユニット3を異なる2つの方向の測定点に設置して、複数点の振動波形データを同時採取することができるので、携帯型でありながらも、リサージュ解析が可能となった。
【0022】
(実稼動解析)
実稼動解析とは、機器の運転状態における複数の測定点の振動波形データを同時採取し、それらの波形を用いて機器の実際の振動の動きをアニメーション表示によって可視化する解析手法である。測定時に生じている振動の様子をモニタなどの画面でアニメーション表示するので正常状態と異常状態の差を容易に判断することが可能となる。
本実施の形態では、複数の振動センサユニット3を複数の測定点に設置して、複数点の振動波形データを同時採取することができるので、携帯型でありながらも、実稼動解析が可能となった。
【0023】
(コヒーレンス関数解析)
コヒーレンス解析とは、異なる測定部位の2つの振動波形データを同時採取し、双方の振動波形データに関連性が認められるかを評価するためのコヒーレンス関数(関連度関数)を用いた解析手法である。
コヒーレンス関数とは、異なる測定部位の2つの振動波形データ間の関連度合を示すもので、全く関連がない場合は0、完全に関連している場合は1の値をとり、周波数別にその関連性を示すものである。
コヒーレンスの計算は2つの波形データ間のクロススペクトルとそれぞれの波形データのパワースペクトルによって計算される。コヒーレンスとクロススペクトルの関係は相関係数と共分散の関係と同じであり、クロススペクトルの大きさをパワースペクトルで割り、正規化したものがコヒーレンスである。
【0024】
本実施の形態においては、複数の振動センサユニット3を複数の測定点に設置して、複数点の振動波形データを同時採取することができるので、携帯型でありながらも、コヒーレンス解析が可能となった。
【0025】
〔設置箇所パターン記憶手段〕
設置箇所パターン記憶手段27は、複数の振動センサユニット3が設置される設置箇所の組合せのパターンを記憶する。
本実施の形態では診断対象として、図4に示す、送風機45を例に挙げて説明する。
送風機45は、基礎47の上に固定された設置架台49の上に設置されたモータ51と、モータ軸53にカップリング55を介して連結された送風機45の回転軸57と、回転軸57を回転可能に支持する第1軸受59、第2軸受61と、送風機本体63とを備えている。送風機45には、吸入側となる吸入側配管65と、排気側となる排気側配管67が接続されている。
【0026】
振動センサユニット3の設置箇所としては、図5に示すように、1A、1V、1H、2V、2H、3V、3H、4V、4H、5H、6H、7H、7A、8H、8Aの15箇所が想定されている。
なお、設置箇所を示す記号において、数字は対象機器を示し、アルファベットのAは軸方向を示し、Vは垂直方向を示し、Hは水平方向を示している。
【0027】
4つの振動センサユニット3を設置する設置箇所に関する設置箇所パターン(以下、単に「パターン」という場合あり)の例を表1に示す。表1においては、パターン毎に、その目的と、センサ設置箇所と、解析方法実施例が示されている。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示されたパターンの一部(表1において矢印で示したパターン1、4、7)について、図面を参照しながら説明する。
例えば、パターン1の場合には、センサ設置箇所として、1V、2V、3V、4Vとし、その目的は、各部位間のV方向の振動レベルの比較を行うことである。パターン1において使用する解析方法は、周波数解析及び/又は実稼動解析である。
なお、各パターンには、上述したようなセンサ設置箇所の他、対象機器例えばモータ51の回転数が併せて記憶されており、この情報が振動処理部において振動診断する際に用いられる。
パターン1の設置箇所のみを示した状態が図6に示されている。
【0030】
パターン4の場合には、センサの設置箇所として、1V、1H、2V、2Hとし、その目的は、モータ51の軸心まわりの軌跡調査である。パターン4の設置箇所のみを示した状態が図7に示されている。パターン4において使用する解析方法は、リサージュ解析である。
【0031】
パターン7の場合には、センサの設置箇所として、5H、6H、7H、8Hとし、その目的は、基礎47、設置架台49、送風機本体63、配管部の振動伝達状況の確認にある。パターン7の設置箇所のみを示した状態が図8に示されている。パターン7において使用する解析方法は、コヒーレンス解析である。
【0032】
〔パターン選択手段〕
パターン選択手段29は、設置箇所パターン記憶手段27に記憶されているパターンの中から作業者の指示によって要求されたパターンを設置箇所パターン記憶手段27から読み出す。パターンの選択は、例えば作業者が表示手段35上に表示されるボタン等によって選択するようにすればよい。パターン選択手段29によって振動センサユニット3の設置箇所のパターンが読み出されると、当該パターンのデータとして振動波形データ記憶手段21に振動波形データが保存される。
【0033】
〔診断処理手段〕
診断処理手段31は、振動波形データ記憶手段21に保存されている振動波形データを基に、作業者が選択した解析プログラムを読み出して振動診断を行う。
【0034】
次に、上記のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
図4に示した送風機45を対象として、送風機45から異常振動(もしくは異音)が発生した場合において、原因を究明するための振動調査を実施する場合を例に挙げて、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0035】
PC(携帯型パーソナルコンピュータ、モバイルPC)を立ち上げ(S1)、表1に示す、設置箇所パターンをリストにした測定箇所リストを、表示手段35に表示する(S3)。
本実施の形態における診断は、異常振動発生箇所を特定していくことから始める。
異常振動発生箇所の特定に際し、一般には、モータ51および送風機45の軸受部の何れかの1方向での4箇所の振動測定を行う。
そこで、本実施の形態では、例えば測定方向がすべてV(垂直)方向であるパターン1にて初回の測定を行うこととし、作業者は測定箇所リストの中から入力手段33によってパターン1を選択する指示をすると(S5)、パターン選択手段29が指示されたパターン1を読み出す。
【0036】
パターン1が選択されると、作業者は、パターン1で示された振動センサユニット3の設置箇所(図6参照)に振動センサユニット3を設置する(S7)。振動センサユニット3はマグネット7を有しており、所望の箇所に容易に設置することができる。
振動センサユニット3の設置が完了すると、測定を開始する(S9)。測定を開始することで、振動センサユニット3から送信される振動波形データが中継ユニット19を介して振動波形データ記憶手段21にパターン1のデータとして保存される。
所定時間が経過した後、作業者の指示によって解析プログラム、例えば周波数解析プログラムが指定されると、解析プログラム選択手段25が指定された周波数解析プログラム37をプログラム記憶手段23から読み出して、読み出された周波数解析プログラム37によって診断処理手段31が振動波形データ記憶手段21に保存されている振動波形データに基づいて振動診断を行う。
振動診断結果は、表示手段に表示される。
【0037】
上記の診断によって、振動センサユニット3を設置した4つの部位の振動が解析され、最も大きな振動が発生している部位が異常発生部位であると判断できる。その場合には、測定箇所変更の必要性がないとして、測定処理を終了する。
他方、上記の結果において振動の差異が明確ではなかった場合や、振動源が特定できないような場合は、測定点や測定方向を変えて他の部位の振動測定を行う必要がある。
異常の種類によっては振動が現れる方向性があるため、方向を変えた条件での測定が有効な場合がある。例えば、送風機インペラのアンバランスが原因であれば、V方向やA方向よりも構造上揺れやすいH方向の振動が大きくなる。
このようなことが想定される場合、S3の処理に戻って、測定箇所リストを表示させ、測定箇所リストから、例えば、H(水平)方向での振動(パターン2)を選択する。
パターン2が選択されると、上述したパターン1の場合と同様の処理によって、診断を行う。
【0038】
さらに、A方向(軸方向)の測定が必要な場合には、パターン3を選択して上記パターン1の場合と同様の処理を実施する。
ここまでの測定で、どの方向の振動が大きいのか、異常原因が何かを知ることができるが、なおも異常発生箇所や異常原因が特定できない場合は、他のパターンを選択して診断を実施する。
例えば、基礎47からの振動が大きいのか、あるいは配管の振動が大きいのかを判断するためにパターン7で測定を行う。
このようにして現場の状況に応じて、次々に測定箇所を変更しながら振動波形データをサンプリングし、その場で振動の大きさを比較したり、その場で周波数分析を行い異常な振動周波数を分析したりして異常原因を推定していく。
【0039】
なお、異常原因を絞り込むために、パターン5のようなV方向とH方向の組合わせにおいて振動を同時サンプリングして、リサージュ解析を行い、軸心まわりの挙動を確認することを行うこともできる。
あるいは、パターン1や2の同時サンプリングデータを用いて実稼動解析を実行し、振動モードや各測定点の位相情報を確認することにより異常原因を特定していくこともできる。
【0040】
以上のように、本実施の形態によれば、現場の診断状況に応じて、測定箇所を変更しながら振動波形データをサンプリングし、その場で種々の診断を行うことができるので、的確な診断を簡易に行うことができる。
このような効果は、従来の1チャンネルの携帯型の振動計や、オンライン型の振動装置ではなし得なかったものであり、その有用性は極めて高いものである。
【符号の説明】
【0041】
1 携帯型振動診断装置
3 振動センサユニット
5 振動診断部
7 マグネット
9 センサ部
11 アンプ
13 A/D変換器
15 無線送信ユニット
17 電池
19 中継ユニット
21 振動波形データ記憶手段
23 プログラム記憶手段
25 解析プログラム選択手段
27 設置箇所パターン記憶手段
29 パターン選択手段
31 診断処理手段
33 入力手段
35 表示手段
37 周波数解析プログラム
39 リサージュ解析プログラム
41 実稼動解析プログラム
43 コヒーレンス関数解析プログラム
45 送風機
47 基礎
49 設置架台
51 モータ
53 モータ軸
55 カップリング
57 回転軸
59 第1軸受
61 第2軸受
63 送風機本体
65 吸入側配管
67 排気側配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動センサユニットと、該振動センサユニットから送信される無線信号を受信して機器の診断を行う振動診断部とを備え、
前記振動センサユニットは、該振動センサユニットを固定するマグネットと、振動センサと、振動センサから出力された信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、該A/D変換手段でデジタル信号に変化された信号を無線方式で伝送する無線送信手段と、前記振動センサ及び前記無線送信手段の駆動用電源となる電池とを備えてなり、
前記振動診断部は、振動センサユニットから送信される無線信号を受信する受信部と、振動センサユニットから送信される振動波形データに基づいて振動波形データの解析を行う解析プログラムを記憶するプログラム記憶手段と、前記複数の振動センサユニットが設置される箇所の組合せのパターンを記憶する設置箇所パターン記憶手段と、該設置箇所パターン記憶手段に記憶されているパターンを選択するパターン選択手段と、前期受信部によって受信される振動波形データを前記パターン選択手段によって選択されたパターンに対応した振動波形データとして記憶する振動波形データ記憶手段と、該振動波形データ記憶手段に記憶されている振動波形データを基に前記解析プログラムによって振動診断を行う診断処理手段とを備えてなることを特徴とする携帯型振動診断装置。
【請求項2】
前記振動診断部は携帯型PCによって構成され、前記受信部は前記携帯型PCに着脱自在の中継ユニットによって構成されていることを特徴とする請求項1記載の携帯型振動診断装置。
【請求項3】
前記解析プログラムは、周波数解析プログラム、リサージュ解析プログラム、実稼動解析プログラム、コヒーレンス関数解析プログラムの一つ又は複数であることを特徴とする請求項1又は2記載の携帯型振動診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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