説明

携帯型放射線検出器

【課題】比較的簡易な構成で温度補償手段を実現する携帯型放射線検出器を提供すること。
【解決手段】放射線があたると光を発するシンチレータ11と、シンチレータ11が発する光を電気信号に変換する光検出器12と、光検出器12にバイアス電圧を供給するためのバッテリー21を有し、バッテリー21と光検出器12との間に、温度変化に応じて電流値が変化する温度センサ25を接続している電源部20と、を有する携帯型放射線検出器1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を検出する線量計を有する放射線検出器は、その種類により固有の温度特性を有している。従って、放射線を安定した精度で測定するためには、放射線検出器の温度特性に対して温度補償を施す必要があり、種々の方法が考えられ実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された技術がある。当該技術では、放射線検出器の出力電流パルスを電圧パルスに変換するために使用される前置増幅器に温度補償機能を持たせている。具体的には、前置増幅器の負帰還容量に負の温度特性を持たせて放射線検出器の温度特性を補償するようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載された技術がある。当該技術では、光電子増倍管の周辺温度を計測する測温手段を備えるとともに、当該周辺温度と、各周辺温度で所定の線量率検出感度を得るための光電子増倍管のバイアス電圧とを1対1で記憶させておく。そして、測温手段が周辺温度を計測すると、その周辺温度に対応する光電子増倍管のバイアス電圧を読み出し、そのバイアス電圧を光電子増倍管に与えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−12048号公報
【特許文献2】特開2003−35779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、放射線検出器の温度特性により前置増幅器の出力電圧パルスの波高値に現れる負の温度係数を前置増幅器に設けた負の温度係数の負帰還容量で補償するものであるため、パルス幅に負の温度係数が現れ、前置増幅器の出力電圧パルスを増幅するために設けられる主増幅器のゲイン−周波数特性により補償が目減りするという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術の場合、温度とバイアス電圧を対応付けて記憶させる手段や、所定の演算処理を行う手段を、例えばマイコンなどで実現する必要があるため、回路設計が複雑になるほか、コスト負担が大きくなる、放射線検出器の小型化の妨げになるなどの問題が生じ得る。
【0008】
本発明では、比較的簡易な構成で温度補償手段を実現する携帯型放射線検出器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、放射線があたると光を発するシンチレータと、前記シンチレータが発する光を電気信号に変換する光検出器と、前記光検出器にバイアス電圧を供給するためのバッテリーを有し、前記バッテリーと前記光検出器との間に、温度変化に応じて電流値が変化する温度センサを接続している電源部と、を有する携帯型放射線検出器が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的簡易な構成で温度補償手段を実現する携帯型放射線検出器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の携帯型放射線検出の機能ブロック図の一例である。
【図2】本実施形態の携帯型放射線検出器の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
図1は本実施形態の携帯型放射線検出器1の機能ブロック図の一例である。図1に示すように、本実施形態の携帯型放射線検出器1は、放射線センサ部10と、電源部20と、アナログ信号処理回路30と、出力部40とを有する。以下、各構成要素について説明する。
【0014】
放射線センサ部10は、シンチレータ11と光検出器12とを有する。シンチレータ11は、放射線があたると光を発する。本実施形態では、従来のあらゆるシンチレータを採用することができる。光検出器12は、シンチレータ11が発する光を電気信号(電圧パルス信号)に変換した後、当該電圧パルス信号をアナログ信号処理回路30に入力する。光検出器12は、例えば、シリコンフォトマルチプライヤーや、高電子増倍管などとすることができるが、携帯型放射線検出器1の小型化を考慮すると、シリコンフォトマルチプライヤーとするのが好ましい。このような放射線センサ部10は、従来技術に準じて実現できるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0015】
電源部20は、光検出器12にバイアス電圧を供給するためのバッテリー21を有し、バッテリー21と光検出器12との間に、温度変化に応じて電流値が変化する温度センサ25を接続している。
【0016】
温度センサ25は、温度変化に応じて電流値が変化する。例えば、温度センサ25として、温度トランスデューサを採用することができる。このような温度センサ25は、温度と電流値の変化に線型性を有することが知られている。
【0017】
本実施形態の電源部20は、温度センサ25をバッテリー21と光検出器12との間に接続することで、光検出器12に供給するバイアス電圧の値を温度に応じて線型的に変化させるよう構成している。そして、本実施形態の携帯型放射線検出器1は、このような電源部20を備えることで、光検出器12が出力する電圧パルス信号の波高値に現れる負の温度係数を補償する温度補償手段を実現している。以下、図1を用いてこのような電源部20の構成の一例を説明する。
【0018】
図1に示す電源部20は、バッテリー21及び温度センサ25の他、昇圧回路22、電圧レギュレータ23、電圧補正用抵抗24、ボルテージフォロアー26、および電圧調整回路27を有する。
【0019】
このような電源部20によれば、バッテリー21から供給される電圧は、昇圧回路22により光検出器12の動作に必要な電圧まで昇圧された後、電圧調整回路27において適切な電圧に変換され、光検出器12の陽極または陰極に入力される。また、昇圧回路22により適当な電圧に昇圧された後、電圧レギュレータ23に入力された電圧は、電圧レギュレータ23により電圧の絶対値が所定量減圧され定圧となった後、電圧補正用抵抗24に入力され、ボルテージフォロアー26を経由して光検出器12の陰極または陽極に入力される。温度センサ25は電圧補正用抵抗24とボルテージフォロアー26の間に接続されるとともに、アース28に接続されている。
【0020】
ここで、電圧補正用抵抗24に入力する電圧をV、ボルデージフォロアー26から出力され光検出器12に入力する電圧をV(−)、温度センサ25から流れる電流値をI、電圧補正用抵抗24の抵抗をRとすると、これらは以下の式(1)の関係となる。
【0021】
【数1】

【0022】
上述の通り、温度センサ25は、温度変化に応じて電流値が変化する。そこで、温度の変化をΔT、温度センサ25の温度係数をa、温度センサ25から流れる電流値の変化をΔIとすると、これらは以下の式(2)の関係となる。
【0023】
【数2】

【0024】
そして、上記式(1)及び(2)の関係より、ボルデージフォロアー26から出力され光検出器12に入力する電圧の温度変化に応じた変化ΔV(−)は、以下の式(3)で表わされる。
【0025】
【数3】

【0026】
上記関係に基づいて、ΔV(−)を放射線センサ部10のゲイン温度依存性に対して負の係数をかけることで、放射線センサ部10から出力される電圧パルス信号の波高値の温度依存性が少なくなる。
【0027】
なお、図1に示す電源部20の構成はあくまで一例であり、所望の温度補償手段を実現できる範囲で、その他の態様とすることができる。すなわち、バッテリー21と光検出器12との間に温度センサ25を接続する態様を変化させてもよいし、また、図1に示す複数のその他の部品(22、23、24、26、27)の中の少なくとも1つを含まなくてもよいし、また、図1に示されていないその他の部品を含んでもよい。
【0028】
アナログ信号処理回路30には、放射線センサ部10から出力される電圧パルス信号が入力される。アナログ信号処理回路30は、光検出器12から出力される電圧パルス信号のみを取得するため、前段回路で直流成分を除去する。その後、電圧パルス信号に対して、ある一定の電圧閾値を設け、閾値を超える信号のみをコンデンサーに蓄積し、蓄積された電圧値が、アナログ信号処理回路30から出力され、出力部40に入力される。
【0029】
出力部40は、アナログ信号処理回路30から入力された信号を利用して、放射線の検出結果を出力する。例えば、出力部40は、放射線センサ部10に入力した放射線の線量に応じて1cm線量当量を出力してもよい。出力部40による出力手段は特段制限されず、ディスプレイ、スピーカ、印刷装置などのあらゆる出力装置を利用して実現することができる。
【0030】
<<実施例>>
<実施例1>
<放射線測定装置の構成>
シンチレータ11にセリウム賦活ガドリニウムガリウムガーネットを、光検出器12にシリコンフォトマルチプライヤーを用いて放射線センサ部10を構成した。この場合の放射線センサ部10のゲインの温度依存性は−5%/℃程度の負の依存性をとる。
【0031】
電源部20は、図1に示す構成にした。温度センサ25の温度係数aは1×10−6、電圧補正用抵抗24に入力する電圧Vは23.3V、電圧補正用抵抗24の抵抗Rは56kΩとした。かかる場合、上記式(2)及び(3)に基づけば、光検出器12に入力する電圧の変化ΔVは、−0.05V/℃程度となる。
【0032】
<比較例1>
<放射線測定装置の構成>
電源部20が温度センサ25を有さない点以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0033】
<比較例2>
<放射線測定装置の構成>
電源部20が温度センサ25の代わりに、温度に応じて抵抗値が変化するサーミスタを有する点以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0034】
<測定>
実施例1、比較例1及び比較例2の放射線測定装置を周囲の放射線環境が大きく変化しない環境、具体的にはJIS_z_04333_2006に準拠し、周囲のγ線バックグラウンドが1cm線量当量率0.25以下になるように鉛等の遮蔽材で放射線測定装置を覆い10MBqのセシウム標準線源を、周囲の環境放射線を無視できる強度となるよう配置し放射線測定装置の周辺温度を−25℃から50℃の間で変化させながら、放射線測定結果の変化を観察した。そして、20℃における指示値を基準とし、それぞれの周囲温度における指示値から基準値を差し引いた値の基準値に対する百分率を求めた。
【0035】
結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
また、これらのデータをグラフにプロットした結果を図2に示す。縦軸が指示値の変化率を示し、横軸が放射線測定装置の周辺温度を示している。
【0038】
表1及び図2より、比較例1及び比較例2は温度変化に応じて変化率が大きく変動していることが分かる。これに対し、実施例1は温度変化の影響をほとんど受けず、ほぼ一定の測定結果を出力できることが分かる。さらに、実施例1は、周辺温度が−25℃以上50℃以下の範囲において、測定結果の変化率が10%以内に抑えることが可能であることが分かる。
【0039】
ここで、−25℃以上50℃以下という温度範囲は、JIS_z_04333_2006で定める特殊室外用X線及びγ線用線量当量率サーベイメータの基準に準拠し、極高温又は極低温下での使用を想定している。そして、このような温度範囲で測定結果の変化率を50%以内、好ましくは20%以内、さらに好ましくは10%以内とすることが好ましい。50%以内に抑えられた場合、JIS_z_04333_2006で定める特殊室外用X線及びγ線用線量当量率サーベイメータの基準に準拠し、極高温又は極低温下での使用が可能となるなどのメリットがある。20%以内に抑えられた場合、JIS_z_04333_2006で定める室外用X線及びγ線用線量当量率サーベイメータの基準と同等の変化率を極高温又は極低温下で達成できることから、極高温又は極低温下での高精度の測定が可能となるようなメリットがある。10%以内に抑えられた場合、JIS_z_04333_2006で定める室内用X線及びγ線用線量当量率サーベイメータの基準と同等の変化率を極高温又は極低温下で達成できることから、極高温又は極低温下でのより高精度の測定が可能となるようなメリットがある。
【0040】
以上説明した本実施形態の放射線測定装置によれば、周辺温度の影響を受けにくい携帯型放射線検出器が実現される。
【0041】
また、本実施形態の放射線測定装置は、バッテリー21と光検出器12との間に、温度変化に応じて電流値が変化する温度センサ25を接続するという比較的簡易な構成で、温度補償手段を実現している。すなわち、マイコンなどの高価な部品や、その他の多くの部品を要することなく温度補償手段を実現できる。結果、回路設計が容易になるほか、コスト負担の軽減を実現でき、また、放射線測定装置のより一層の小型化を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 携帯型放射線検出器
10 放射線センサ部
11 シンチレータ
12 光検出器
20 電源部
21 バッテリー
22 昇圧回路
23 電圧レギュレータ
24 電圧補正用抵抗
25 温度センサ
26 ボルテージフォロアー
27 電圧調整回路
28 アース
30 アナログ信号処理回路
40 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線があたると光を発するシンチレータと、
前記シンチレータが発する光を電気信号に変換する光検出器と、
前記光検出器にバイアス電圧を供給するためのバッテリーを有し、前記バッテリーと前記光検出器との間に、温度変化に応じて電流値が変化する温度センサを接続している電源部と、
を有する携帯型放射線検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の携帯型放射線検出器において、
前記光検出器から出力される電気信号の温度依存変化は、−25℃以上50℃以下の範囲において50%以内である携帯型放射線検出器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の携帯型放射線検出器において、
前記光検出器は、シリコンフォトマルチプライヤーである携帯型放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−88380(P2013−88380A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231544(P2011−231544)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】