説明

携帯型放射線検出器

【課題】シンチレータを有する放射線検出器において、鉛でシンチレータを覆うことなく、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高めることを課題とする。
【解決手段】放射線があたると光を発するシンチレータ30と、シンチレータ30が発する光を電気信号に変換する光検出器20と、鉛以外の金属で構成され、シンチレータ30の少なくとも一部を覆い、一部の放射線を遮蔽する遮蔽材40と、を有する携帯型放射線検出器1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータを利用した放射線検出器においては、放射線のエネルギーの高低に応じて感度が異なるという問題が発生し得る。そこで、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高める技術が望まれている。
【0003】
特許文献1には、上記課題を解決するために、鉛からなるフィルタでNaIシンチレータを覆う技術が記載されている。そして、NaIシンチレータは低エネルギー側の感度が高エネルギー側よりも高いという特性を有するが、当該フィルタによれば、低エネルギーの放射線ほど大きく減弱できるので、感度が均一化の方向に調整されると記載されている。また、当該フィルタの厚さを調整したり、あるいはフィルタに貫通孔や凹凸を設けたりすることで、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−108796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術の場合、以下のような課題があることを見出した。鉛の厚さを厚くすればするほど放射線は減弱されるが、厚くし過ぎると、逆に低エネルギー側の感度が低くなり過ぎることで、感度分布の均一性が損なわれる。すなわち、感度分布の均一性を高めるためには、最適な厚さを選択する必要がある。上記フィルタとして鉛を用いた場合の最適な厚さは薄くなり過ぎるので、持ち運びを前提とした携帯用の放射線測定装置にはふさわしくない(以下の、「発明を実施するための形態」の実施例で詳細を述べる)。また、鉛は毒性を有するため、近年、その使用に様々な規制がかけられている。特許文献1に記載の技術は当該流れに反するものであり、上記課題を解決するための現実的な手段とはいえない。
【0006】
本発明では、鉛でシンチレータを覆うことなく、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、放射線があたると光を発するシンチレータと、前記シンチレータが発する光を電気信号に変換する光検出器と、鉛以外の金属で構成され、前記シンチレータの少なくとも一部を覆い、一部の放射線を遮蔽する遮蔽材と、を有する携帯型放射線検出器が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鉛でシンチレータを覆うことなく、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の携帯型放射線検出器の機能ブロック図の一例である。
【図2】本実施形態の携帯型放射線検出器の効果を説明するための図である。
【図3】比較例の放射線検出器の効果を説明するための図である。
【図4】本実施形態の携帯型放射線検出器の一部の断面模式図の一例である。
【図5】本実施形態の携帯型放射線検出器の一部の断面模式図の一例である。
【図6】本実施形態の携帯型放射線検出器の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
<第1の実施形態>
本実施形態は、鉛以外の金属でシンチレータの少なくとも一部を覆い、一部の放射線を遮蔽することで、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高める。
【0012】
図1は、本実施形態の携帯型放射線検出器1の機能ブロック図の一例である。図1に示すように、本実施形態の携帯型放射線検出器1は、光検出器20及びシンチレータ30を有する放射線センサ部10と、遮蔽材40と、アナログ信号処理回路50と、出力部60と、電源部70とを有する。
【0013】
シンチレータ30は、放射線があたると光を発する。本実施形態では、従来のあらゆるシンチレータを採用することができ、その種類、形状、大きさは特段制限されない。このようなシンチレータ30は、低エネルギーの放射線に対する感度が、高エネルギーの放射線に対する感度に比べて高いという特徴を有する。
【0014】
光検出器20は、シンチレータ30が発する光を電気信号(電圧パルス信号)に変換した後、当該電圧パルス信号をアナログ信号処理回路50に入力する。本実施形態の光検出器20は、例えば、シリコンフォトマルチプライヤーや、高電子増倍管などとすることができる。このような放射線センサ部10は、従来技術に準じて実現できるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0015】
アナログ信号処理回路50には、光検出器20から出力される電圧パルス信号が入力される。アナログ信号処理回路50は、光検出器20から出力される電圧パルス信号のみを取得するため、前段回路で直流成分を除去する。その後、電圧パルス信号に対して、ある一定の電圧閾値を設け、閾値を超える信号のみコンデンサーに蓄積し、蓄積された電圧値が、アナログ信号処理回路50から出力され、出力部60に入力される。
【0016】
出力部60は、アナログ信号処理回路50から入力された信号を利用して、放射線の検出結果を出力する。例えば、出力部60は、放射線センサ部10に入力した放射線の線量に応じて1cm線量当量を出力してもよい。出力部60による出力手段は特段制限されず、ディスプレイ、スピーカ、印刷装置などのあらゆる出力装置を利用して実現することができる。
【0017】
電源部70は、光検出器20、アナログ信号処理回路50及び出力部60に電圧を供給するためのバッテリーを有する。
【0018】
このようなアナログ信号処理回路50、出力部60及び電源部70は、従来技術に準じて実現できるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0019】
遮蔽材40は、鉛以外の金属で構成され、シンチレータ30の少なくとも一部を覆い、一部の放射線を遮蔽する。すなわち、遮蔽材40は、一部の放射線がシンチレータ30に到達するのを抑制する。具体的には、遮蔽材40は、銅、鉄、タングステン、銅合金、ステンレス、鉄合金、タングステン含有ゴム、鉛ガラスなどの金属あるいは高密度ゴム、ガラスなどで構成される。例えば、遮蔽材40は銅パイプ、鉄パイプなどの筒状体(断面形状は円形の他、四角形、その他の多角形、その他の形状であってよい。)であり、その内部空間にシンチレータ30が位置してもよい。かかる場合、筒状体の両端開口部は閉じていてもよいし、開いていてもよい。また、筒状体に局所的に内部空間(シンチレータ30が位置する空間)と外部空間とを繋ぐ開口が設けられていてもよい。このような開口を有していても、シンチレータ30の少なくとも一部を覆い、一部の放射線を遮蔽することで、一定の本発明の効果(放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高める)は得られる。
【0020】
なお、遮蔽材40は、金属の種類に応じて厚さを適当に調整することで、エネルギーが高い放射線ほど高い透過率を有するように構成している。厚さと透過率の関係については、以下の実施例で詳細を述べる。シンチレータ30は、上述の通り、低エネルギーの放射線に対する感度が、高エネルギーの放射線に対する感度に比べて高いという特徴を有する。このようなシンチレータ30を、上記特徴を有する遮蔽材40で覆うことで、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高めることができる。本実施形態では、遮蔽材60として鉛以外の金属を採用するので、鉛の使用規制などの流れに反しない安全な機器を実現することができる。
【0021】
<実施例>
<実施例1>
光検出器20にシリコンフォトマルチプライヤー、シンチレータ30に5×5×15mmサイズのセリウム賦活ガドリニウムガーネットを用いて放射線センサ部10を構成した。そして、遮蔽材40を有さない場合と、遮蔽材40として所定厚さの銅を採用した場合の放射線エネルギーに対する感度分布を測定した。
【0022】
図2に測定結果を示す。図中「なし」は、遮蔽材40を有さない場合のデータであり、図中「銅厚○○mm」は、遮蔽材40として○○mmの厚さの銅を採用し、当該遮蔽材40でシンチレータ30の一部を覆った場合のデータである。
【0023】
検出感度はAm214(59.8keV)、Cs137(662keV)、Co60(1.35MeV)標準ガンマ線源を、それぞれ同一の距離から検出器に照射し、Cs137(662keV)・銅厚1mmの条件で検出部の長手方向に直交する方向からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量率を相対感度=1と規格化して、それぞれの条件で表示される1cm線当量率をCs137(662keV)・銅厚1mmの条件で表示される1cm線当量率で割った値を相対感度として算出した。
【0024】
図2の遮蔽材40を有さない場合のデータ(図中、「なし」)より、当該シンチレータ30は低エネルギー側の感度が強く、エネルギーが高くなるにつれて感度が低くなることが分かる。また、当該データと、所定厚さの銅(遮蔽材40)でシンチレータ30を覆ったその他のデータとの比較により、シンチレータ30を所定厚さの銅で覆うことで、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性が高まることが分かる。
【0025】
また、(1)銅の厚さを厚くするほど低エネルギー側の透過率を抑制できることが分かるとともに、(2)銅の厚さが所定の限度を超えると低エネルギー側の透過率を抑制しすぎてしまい、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を妨げる傾向が読める。すなわち、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高めるためには、銅を所望の厚さに設定する必要がある。そして、図2に示すデータより、好ましい銅の厚さは、0.5mm以上2mm以下、より好ましくは0.75mm以上1.25mm以下であることが分かる。このような厚さの銅板の場合、携帯型の機器として十分な強度を得ることができる。また、重量が過度に大きくなることもない。このため、持ち運びを前提とした携帯型放射線検出器1の遮蔽材40として、銅は最適であると言える。
【0026】
なお、遮蔽材40として鉄を採用した場合、図2に示す銅と同様の傾向を示すことを本発明者は確認している。
【0027】
<比較例1>
シンチレータ30を鉛で覆った点を除いて、実施例1と同様にして放射線検出器を構成し、放射線エネルギーに対する感度分布を測定した。
【0028】
図3に測定結果を示す。図中「なし」は、遮蔽材40を有さない場合のデータであり、図中「鉛厚○○mm」は、○○mmの厚さの鉛でシンチレータ30の略全面を覆った場合のデータである。
【0029】
図3より、図2に示す銅と同様の傾向を示すことがわかる。そして、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高めるために好ましい鉛の厚さは、0.25mm付近であることが分かる。このような厚さの鉛板の強度は携帯型の機器として不十分であり、持ち運びを前提とした携帯型放射線検出器に適用した場合、容易に破損してしまう恐れがある。
【0030】
すなわち、放射線エネルギーに対する感度分布の均一性を高めるためにシンチレータを覆う部材として鉛を採用した場合、使用規制の問題のほか、最適な厚さが薄くなってしまい、強度が不十分になるという問題も発生することが分かる。特に携帯型放射線検出器に、シンチレータを覆う部材として鉛を採用した場合、鉛の強度の問題は顕在化すると考えられる。
【0031】
<第2の実施形態>
まず、本実施形態の概要について説明する。
【0032】
本実施形態の携帯型放射線検出器1は、小型化を実現するため、光検出器20としてシリコンフォトマルチプライヤーを採用する。かかる場合、光検出器20と接続するシンチレータ30の端面(光検出器20との接続面)の大きさは小さくなってしまう。本実施形態では、このような端面の大きさが制限されてしまうシンチレータ30の感度を高めるため、シンチレータ30の形状を縦長形状に構成する。かかる場合、携帯型放射線検出器1の感度に方向依存性が現れてしまうことを本発明者は見出した。本実施形態では、このような方向依存性を改善するため、特徴的な構成の遮蔽材40を採用する。
【0033】
次に、本実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態の携帯型放射線検出器1の機能ブロック図は、実施形態1で示した図1と同様である。そして、アナログ回路信号処理回路50、出力部60及び電源部70の構成については、第1の実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0034】
図4に本実施形態の携帯型放射線検出器1の光検出器20、シンチレータ30及び遮蔽材40を含む部分の断面模式図の一例を示す。図4(B)は、図4(A)のa−a線における断面模式図である。なお、図中に各部材の縦横の長さをmmの単位で示しているが、これはあくまで一例であり、これに限定されない。また、光検出器20、シンチレータ30及び遮蔽材40を除くその他の部材の構成はあくまで一例であり、これらの中の一部または全部を含まなくてもよいし、また、図示しないその他の部材を含むこともできる。
【0035】
光検出器20はシリコンフォトマルチプライヤーである。このような光検出器20は、受光部分の配線の物理限界や素子の面内均一性の限界といった理由から、その大きさの上限は10mm×10mm角程度となる。図示する例では6mm×6.5mm角のシリコンフォトマルチプライヤーを採用している。光検出器20をこのように構成した場合、携帯型放射線検出器1のより一層の小型化が実現される。
【0036】
シンチレータ30は、例えば可視透過型のエポキシ系接着剤21を介して、光検出器20と接続される。接続の詳細は従来技術に準じて実現できるので、ここでの説明は省略する。シンチレータ30は、光検出器20と接続する面(以下、「接続面」)と、接続面と対になる面(2つの端面)とを有し、一方の端面から他方の端面に向けて延伸した縦長形状である(以降、延伸した面を「側面」という)。例えば、四角柱(2つの端面が四角)、円柱(2つの端面が円)、三角柱(2つの端面が三角)などであってもよい。図示する例では、シンチレータ30は、5mm×5mm×17mmの四角柱形状である。
【0037】
上述の通り、光検出器20の大きさの上限は5mm×7mm角〜10mm×10mm角程度となる。このため、シンチレータ30の接続面の大きさ(端面の大きさ)も同じ程度の大きさとなってしまう。本実施形態では、このように端面の大きさが制限されるシンチレータを縦長形状に構成し、側面の面積を大きくすることで、感度を高めている。
【0038】
しかし、シンチレータ30の形状がこのような縦長形状である場合、端面側に比べて側面側の放射線に対する感度が高くなる。すなわち、シンチレータ30の感度に方向依存性が現れてしまう。なお、端面に比べて側面の面積が大きくなるほど、当該感度の差は大きくなる。本実施形態では、当該不都合を、以下で説明する遮蔽材40により改善している。
【0039】
本実施形態の遮蔽材40は、以下の点で第1の実施形態の遮蔽材40と異なる。なお、その他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0040】
(1)本実施形態の遮蔽材40は、シンチレータ30の一部を覆う。すなわち、本実施形態の遮蔽材40は、シンチレータ30の全部を覆うことはない。
【0041】
(2)本実施形態の遮蔽材40は、シンチレータ30の側面の露出面積よりも端面の露出面積の方が大きくなるように、シンチレータ30の一部を覆う。例えば、シンチレータ30の側面は完全に覆い、端面は覆わないまたは一部のみ覆ってもよい。図示する例では、遮蔽材40は、シンチレータ30の側面は完全に覆い、端面は覆っていない。また、図示する例では、遮蔽材40の厚さは1mmである。
【0042】
反射材31は、可視光を反射する機能を有する。反射材31はシンチレータ30を覆い(例えば、光検出器20と接続する接続面を除く略全面を覆う)、シンチレータ30が発する光を効率よく光検出器に導く。このような反射材31は、テフロン(登録商標)、ESR(Enhanced Specular Reflector)反射フィルム、硫酸バリウム等の材料で構成される。図示する例では、反射材31はシンチレータ30と遮蔽材40の間に位置し、その厚みは0.25mmである。このような反射材31により、測定精度が向上する。
【0043】
黒色の可撓性材料32は、遮蔽材40の内部にできた空間に充填され、シンチレータ30を覆う(例えば、光検出器20と接続する接続面を除く略全面を覆う)。例えば、遮蔽材40をパイプなどで構成し、その内部にシンチレータ30等の部材を挿入することで図4に示すような構造を得る場合、遮蔽材40の内部に空間が形成されてしまう場合がある。このような空間に黒色の可撓性材料32を充填することで、複数の部材を固定する。なお、充填部材を可撓性材料で構成することで、温度変化に対する耐久性能を高めることができる。また、充填部材を黒色にすることで、遮光効果を高めることが出来る。
【0044】
このような黒色の可撓性材料32としては、例えば、カーボンで着色したシリコーン樹脂や、ゴムや、エラストマー等とすることができる。図示する例では、黒色の可撓性材料32は、反射材31と遮蔽材40の間に位置し、その厚みは0.25mmである。
【0045】
遮光性の絶縁ゴム22は、光検出器20を覆う。このように構成することで、外部からの光(シンチレータ30が発した光と異なる光)が光検出器20に当たることを抑制できる。結果、測定精度が向上する。図示する例では、絶縁ゴム22は、光検出器20のシンチレータ30と接続する側の面を除く略全面を覆い、その厚みは1mmである。
【0046】
電極23は電源部70と繋がっており、光検出器20に所定の電圧を供給する。
【0047】
遮光用アルミシート41は、シンチレータ30の端面側を覆う。このような遮光用アルミシート41を設けることで、容易に遮光できる。
【0048】
本実施形態の携帯型放射線測定装置1は、光検出器20としてシリコンフォトマルチプライヤーを採用することで、携帯型放射線検出器1の小型化を実現している。かかる場合、シンチレータ30の端面(光検出器20との接続面)の大きさが制限されてしまう。そこで、本実施形態の携帯型放射線測定装置1は、シンチレータ30を縦長形状に構成することで、感度を高めている。
【0049】
しかし、上述のようにシンチレータ30を縦長形状にした場合、感度の方向依存性(端面側に比べて側面側の放射線に対する感度が高くなる。)が現れる。そこで、本実施形態の携帯型放射線測定装置1は、シンチレータ30の側面の露出面積よりも端面の露出面積の方が大きくなるように、シンチレータ30の一部を遮蔽材40で覆うことで、当該感度の方向依存性を改善している。
【0050】
<実施例>
光検出器20にシリコンフォトマルチプライヤー、シンチレータ30に5×5×15mmサイズのセリウム賦活ガドリニウムガーネットを用いて放射線センサ部10を構成した。そして、図5(A)に示すように1mm厚の銅板でシンチレータ30の側面のみを覆ったものと、図5(B)に示すように1mm厚の銅板でシンチレータ30の側面及び端面を覆ったものを作成し、662kev及び60kev各々の放射線に対する感度の方向依存性を測定した。
【0051】
測定は、Am214(59.8keV)、Cs137(662keV)標準ガンマ線源を、それぞれ同一の距離から各角度で検出器に照射し、Cs137(662keV)・銅厚1mmの条件で側面側に直交する方向からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量率を相対感度=1と規格化して、それぞれの条件で表示される1cm線当量率をCs137(662keV)・銅厚1mmの条件で側面側に直交する方向からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量率で割った値を相対感度とした。
【0052】
図6に結果を示す。シンチレータ30の側面のみを覆った場合(図5(A))のデータは、図中「○○kev−端面銅板無し」として示すデータである。シンチレータ30の側面及び端面を覆った場合(図5(B))のデータは、図中「○○kev−端面銅板有り」として示すデータである。また、図6にシンチレータの配置方向を示している。
【0053】
図示する結果より、シンチレータ30の側面及び端面を覆った場合には、60kevの放射線に対して、端面側の感度が側面側に比べて著しく低くなることが分かる。かかる場合の側面側及び端面側の感度比(側面:端面)は、
(端面側からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量率)/(側面側からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量)
の計算式より、1:0.3と算出される。すなわち方向依存性が見られる。
【0054】
これに対し、シンチレータ30の側面のみを覆った場合の60kevの放射線に対する側面側及び端面側の感度比(側面:端面)は、
(端面側からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量率)/(側面側からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量)
の計算式より、1:0.9と算出される。60kevの放射線に対する方向依存性が大きく改善されていることが分かる。
【0055】
また、シンチレータ30の側面及び端面を覆った場合の662kevの放射線に対する側面側及び端面側の感度比(側面:端面)は、
(端面側からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量率)/(側面側からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量)
の計算式より、1:0.85と算出される。
【0056】
これに対し、シンチレータ30の側面のみを覆った場合の662kevの放射線に対する側面側及び端面側の感度比(側面:端面)は、
(端面側からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量率)/(側面側からガンマ線を照射した場合に表示される1cm線当量)
の計算式より、1:0.85と算出される。1mm厚の銅板は、662kevの放射線の透過を大きく抑制しないため、当該エネルギーの放射線に対しては、端面に銅板があろうとなかろうと、大きな差がないものと考えられる。しかし、図6より、わずかに662kevの放射線に対する方向依存性が改善されていることが分かる。
【0057】
以上より、放射線のエネルギーが小さくなるほど方向依存性が大きく現れることが分かる。そして、本実施形態の構成によれば、60kev以上662kev以下のエネルギー範囲で、放射線に対するシンチレータ30の側面側における測定感度を1とすると、端面側における測定感度を0.8以上である携帯型放射線測定装置が実現される。すなわち、方向依存性を改善した携帯型放射線測定装置が実現される。
【符号の説明】
【0058】
1 携帯型放射線検出器
10 放射線センサ部
20 光検出器
21 エポキシ系接着剤
22 絶縁ゴム
23 電極
30 シンチレータ
31 反射材
32 黒色の可撓性材料
40 遮蔽材
41 遮光用アルミシート
50 アナログ信号処理回路
60 出力部
70 電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線があたると光を発するシンチレータと、
前記シンチレータが発する光を電気信号に変換する光検出器と、
鉛以外の金属で構成され、前記シンチレータの少なくとも一部を覆い、一部の放射線を遮蔽する遮蔽材と、
を有する携帯型放射線検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の携帯型放射線検出器において、
前記遮蔽材は、エネルギーが高い放射線ほど透過率が高い携帯型放射線検出器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の携帯型放射線検出器において、
前記遮蔽材は、厚さ0.5mm以上2mm以下の銅板で構成される携帯型放射線検出器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の携帯型放射線検出器において、
前記シンチレータは、2つの端面を有し、一方の前記端面から他方の前記端面に向けて延伸した形状であって、前記延伸方向に伸びる側面の面積よりも、前記端面の面積の方が小さく、
前記遮蔽材は、前記シンチレータの前記側面の露出面積よりも前記端面の露出面積の方が大きくなるように前記シンチレータの一部を覆う携帯型放射線検出器。
【請求項5】
請求項4に記載の携帯型放射線検出器において、
前記遮蔽材は、前記シンチレータの前記側面を完全に覆う携帯型放射線検出器。
【請求項6】
請求項4または5に記載の携帯型放射線検出器において、
前記遮蔽材は、前記シンチレータの前記端面を覆わない携帯型放射線検出器。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1項に記載の携帯型放射線検出器において、
60keV以上662keV以下のエネルギー範囲の放射線に対する前記シンチレータの前記側面側における測定感度を1とすると、前記端面側における測定感度は、0.8以上である携帯型放射線検出器。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか1項に記載の携帯型放射線検出器において、
前記シンチレータの前記端面は、アルミシートで覆われている携帯型放射線検出器。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の携帯型放射線検出器において、
前記シンチレータは、さらに、黒色の可撓性材料で覆われている携帯型放射線検出器。
【請求項10】
請求項9に記載の携帯型放射線検出器において、
前記可撓性材料はシリコーン樹脂である携帯型放射線検出器。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の携帯型放射線検出器において、
前記シンチレータと前記光検出器は、可視光を透過するエポキシ系接着剤で接続されている携帯型放射線検出器。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の携帯型放射線検出器において、
前記光検出器は、シリコンフォトマルチプライヤーである携帯型放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−88381(P2013−88381A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231547(P2011−231547)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】