説明

携帯型発光器具

【課題】有機エレクトロルミネッセンス素子を発光源とし、日常生活の中で容易に携帯でき、かつ、日常生活において活用したいときにその効用を的確に発揮することが可能な携帯型発光器具を提供する。
【解決手段】携帯型発光器具100は、有機機能層4が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子1を備え、有機エレクトロルミネッセンス素子1では、有機機能層4に対して、当該有機機能層4から発光された光の取り出しを阻害しない位置に電源8が配設されており、有機エレクトロルミネッセンス素子1がガスバリア性を有する包装容器20により真空または不活性ガス雰囲気に密封包装されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型発光器具に係り、特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を内包した携帯型発光器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、数V〜数十V程度の駆動電圧で自己発光が可能であり、柔軟性に富む等の利点から、有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence)素子(以下、有機EL素子という。)が、表示ディスプレイや照明等の種々の分野で新たな発光源として注目されている。
【0003】
近年では、この有機EL素子を、治療や美容の分野で使用する技術の開発が進められており、例えば、特許文献1には、患者の治療されるべき身体の領域に光を照射する有機EL素子が搭載された移動式の治療用発光機器が記載されている。また、特許文献2には、患者のあらゆる形状の患部に適用可能な有機EL素子を備えた包帯が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−520583号公報
【特許文献2】米国特許第7304201号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1や特許文献2に記載された機器等では、有機EL素子を備える機器や包帯を、患者自身が日常生活の中で利用できるものではなかった。特に、有機EL素子は、水分や酸素等に非常に弱いといった特性を有するが、そのような特性に対する対策については考慮されておらず、日常生活の中で使用したい場合に、その効用を十分に発揮させるための保存性が十分に保たれない虞れがあった。
【0006】
また、上記の特許文献1に記載された機器では、電源が有機ELに実装されておらず、電源と有機EL素子とが配線でつながれているとはいえ別体とされているため、携帯する際に、有機EL素子だけでなく電源も携帯する必要があった。しかし、これでは、日常生活の中で携帯して使用するには不向きであると言わざるを得ない。
【0007】
その点、特許文献2に記載された包帯では、電源が有機EL素子に実装されており、この有機EL素子を備える包帯が携帯用である旨が記載されているが、具体的にどのようにして当該包帯を携帯したり保存するかは記載されていない。例えば、このような包帯を、通常の包帯と同様に携帯、保存すれば、発光源である有機EL素子が酸素や水分を含む大気に曝される状態になり、やがて有機EL素子が発光不良を起こしてしまい、所望の効果を得ることができなくなる虞れがある。
【0008】
そのため、このような有機EL素子を備える機器等を治療や美容等の目的で使用する際には、患者自身がそのような機器等がある病院やエステサロン等に足を運ばなければならないのが現状である。
【0009】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、有機EL素子を発光源とし、日常生活の中で容易に携帯でき、かつ、日常生活において活用したいときにその効用を的確に発揮することが可能な携帯型発光器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の問題を解決するために、本発明の携帯型発光器具は、
有機機能層が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子を備える携帯型発光器具であって、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子では、前記有機機能層に対して、当該有機機能層から発光された光の取り出しを阻害しない位置に電源が配設されており、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子がガスバリア性を有する包装容器により真空または不活性ガス雰囲気に密封包装されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のような方式の携帯型発光器具によれば、有機EL素子がガスバリア性を有する包装容器により真空或いは不活性ガス雰囲気に密封包装されているため、有機EL素子の有機機能層が劣化することがなく、また、外部とつなぐ配線等もないため、ユーザーが日常生活の中で容易に携帯することが可能となる。
【0012】
そのため、例えば、災害時等の際に停電等で電気の使用が制限されたとしても、ユーザーが携帯型発光器具の有機EL素子を照明として使用することが可能となる。また、ユーザーが有機EL素子を用いた医療や美容等を行うために、わざわざそのような機器等がある病院やエステサロン等に足を運ぶ必要はなくなり、携帯型発光器具を身近に置いておき、好きなときに容易にかつ自由に使用することが可能となる。
【0013】
また、有機EL素子が包装容器内に保存されている間は、有機EL素子の有機機能層が劣化しないため、ユーザーが日常生活において有機EL素子を活用したいときに、有機EL素子の有機機能層から所定の光量の光を的確に発光させることができる。そのため、有機EL素子が発光不良を起こすことなく、所定の光量の光を発光させて、有機EL素子に期待される所望の効用を的確に発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る携帯型発光器具のうちの有機EL素子部分の概略断面図である。
【図2】本実施形態に係る携帯型発光器具の概略図であり、(A)は携帯型発光器具の外観を示す概略斜視図であり、(B)は(A)のX−X線に沿う概略断面図を表す。
【図3】包装容器により有機EL素子を3方封止する場合の携帯型発光器具の構成例を表す図である。
【図4】本実施形態に係る携帯型発光器具の使用の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る携帯型発光器具の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
[有機EL素子]
以下、まず、本実施形態に係る携帯型発光器具に使用される有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という。)について説明する。図1は、本実施形態に係る携帯型発光器具のうちの有機EL素子部分の概略断面図である。
【0017】
なお、図1では有機EL素子1の各構成部分が見易くなるように記載されており、各構成部分の相対的な大きさや厚み等は必ずしも現実の構成を反映していない。また、以下の説明において、上下方向等については、有機EL素子1を表した図1中における上下方向等に即して表すものとする(すなわち図中上側等を「上」や「上方」等と表す。)。なお、図1では図示を省略したが、本実施形態に係る有機EL素子1は、下方の患者の身体に貼付する等して用いられるようになっている(後述する図4参照)。
【0018】
本実施形態では、有機EL素子1は、後述する有機機能層4等を構築するベースとなる基材2を備えている。基材2としては、ガラス基板や樹脂基板等を用いることが可能であり、可撓性を有する樹脂基板が好ましく用いられる。基材2が可撓性を有していると、有機EL素子1を患者の身体の様々な形状に対応して貼付することが可能となり、治療や美容等のために患者の患部に適した形態とすることが可能となる。
【0019】
基材2の上方には、陽極電極3が設けられている。本実施形態では、後述する有機機能層4から発光した光を図中下方に取り出す(すなわちボトムエミッションする)ため、陽極電極3は、有機機能層4から発光される光を透過する透明電極とされている。そして、陽極電極3としては、例えば、インジウムとスズの酸化物からなるITO(Indium Tin Oxide)等を用いることが可能である。
【0020】
陽極電極3の上方には、有機機能層4が設けられている。有機機能層4としては、例えば、図示を省略するが、正孔注入層や正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等が積層されて構成される等した従来から有機EL素子に使用されている有機機能層を適宜選択して用いることが可能である。
【0021】
例えば、上記のような構成の有機機能層4は、後述する電源8から陽極電極3に正孔が供給され、陰極電極5に電子が供給されると、正孔や電子が各輸送層を通って発光層に輸送されて発光層内で結合する。そして、結合する際に生じるエネルギーによって発光層の有機分子が励起され、これが失活する時に放出するエネルギーの一部が光として取り出される。このようにして、有機機能層4の発光層が発光するようになっている。
【0022】
その際、有機機能層4は発光層を少なくとも一層有していることが好ましく、当該発光層には、発光スペクトルのピーク波長が可視光の赤領域から近赤外領域の範囲内である発光層材料を使用することが好ましい。
【0023】
なお、赤領域から近赤外領域とは、610nm〜2500nmの範囲を指す。例えば、携帯型発光器具をPDT(Photo Dynamic Therapy)として用いる場合、有機機能層4から発光される光は、(1)組織表面や血液成分に吸収され難い600nm以上の波長を有すること、(2)照射中に組織に対して熱傷を起こさないこと、および(3)光化学反応によって一重項酸素が生成するのに必要なフォトンエネルギーを有することが必要であるとされている。そのため、以上のことを考慮すると、PDTに用いる場合には、有機機能層4から発光される光の波長は600nm以上、800nm以下であることが好ましい。
【0024】
有機機能層4の発光層に用いられる、発光スペクトルのピーク波長が近赤外領域の発光層材料としては、ビスベンジミダゾ[2, 1-a:1', 2'-b']アンスラ[2, 1, 9-def:6, 5, 10-d'e'f']ジイソキノリン-6, 11-ジオンが好ましく用いられる。
【0025】
有機機能層4の上方には、陰極電極5が設けられている。陰極電極5としては、例えば、アルミニウム等の金属等の導電性の無機材料を用いることができる。なお、本実施形態では、陽極電極3が下側、陰極電極5が上側に配置されている場合を示すが、逆に、陰極電極5が下側、陽極電極3が上側に配置されるように構成することも可能である。
【0026】
本実施形態では、有機機能層4を空気中に含まれる酸素や水分から守るために、基材2の上方に形成された陽極電極3や有機機能層4、陰極電極5等を被覆するように封止層6が形成されている。封止層6は、例えば樹脂等で形成することが可能である。そして、本実施形態では、封止層6の上面は、回路基板7を貼付するために平坦状とされている。
【0027】
回路基板7としては、例えば、ポリイミドフィルムの基材に鉄箔の配線等が形成された可撓性を有するフレキシブルプリント回路基板等を用いることが可能である。図示を省略するが、回路基板7であるフレキシブルプリント回路基板には、駆動用IC(Integrated Circuit)が実装されている。なお、回路基板7の端部に、専用のコントローラーや外部機器と接続するための複数の端子が形成されていてもよい。
【0028】
本実施形態では、回路基板7上に電源8が配置されるようになっている。このように、本実施形態に係る有機EL素子1では、有機機能層4の、当該有機機能層4から発光された光を取り出す方向(すなわち図中の下方向)とは反対側(すなわち図中上側)に設けられた回路基板7上に電源8が配設されている。そして、電源8の+極が陽極電極3に、−極が陰極電極5にそれぞれ配線を介して電気的に接続されている。
【0029】
電源8としては、電池が好ましく用いられる。電池は一次電池或いは二次電池等を用いることができる。一次電池としては、例えば、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、ニッケル系一次電池、ニッケルマンガン電池、酸化銀電池、水銀電池、空気亜鉛電池、リチウム電池などを使用することができる。
【0030】
一方、二次電池としては、例えば、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、鉛蓄電池などを使用することができる。また二次電池に代えて、充電が可能な大容量キャパシターを用いてもよい。
【0031】
好ましい電池としては、一次電池の空気電池である。電源8を空気電池にすれば、後述するように包装容器20(図2(A)、(B)参照)から有機EL素子1を取り出して大気に接触させた後に電源8から各電極3、5への電荷の供給を開始させることが可能となり、有機機能層4の発光開始を容易に制御することが可能となる。また、形状は、特に限定されるものではないが、薄膜化の観点から紙状の電池が好ましい。
【0032】
なお、本実施形態では、ボトムエミッションである場合、電源8が有機機能層4から発光された光の取り出しを阻害しないようにするために、上記のように、電源8を、有機機能層4の、当該有機機能層4から発光された光を取り出す方向(すなわち図1中の下方向)とは反対側の有機機能層4の上方に設ける場合について説明した。
【0033】
しかし、電源8を設ける位置は、これに限定されず、電源8が有機機能層4から発光された光の取り出しを阻害しないようにすることができる位置であればよく、例えば、電源8を基材2上に有機機能層4と並設するように、すなわち図1において有機機能層4の横の基材2上に設けるように構成することも可能である。
【0034】
一方、本実施形態では、開封センサー9が包装容器20の開封を検出すると駆動用ICに信号を送信し、信号を受信した駆動用ICが電源8をオンする等して、有機EL素子1の有機機能層4からの発光を開始させるようになっている。この点については後で説明する。
【0035】
本実施形態では、回路基板7上には、電源8や開封センサー9、駆動用IC等の各回路等を外部から保護するための保護基板10が設けられている。保護基板10は、図1に示すように、例えば樹脂等で電源8等の回路基板7上の構造物を被覆するように構成することも可能であるが、例えば、電源8として空気電池を用いるような場合には、回路基板7と保護基板10との間に空隙を設け、空隙中に外気を取り込むことができるように構成することも可能である。
【0036】
一方、本実施形態では、有機EL素子1の基材2の有機機能層4が形成された面2aとは反対側の面2b側に粘着層11が形成されている。本実施形態では、上記のように有機機能層4から発光される光をボトムエミッションで取り出すため、この粘着層11は、この発光を透過させるために透明な層とされている。そして、この粘着層11により、有機EL素子1を、患者の身体に適切に接着させることが可能となる。
【0037】
有機EL素子1を接着させる被接着物は、例えば、有機EL素子1の用途によって異なってくる。有機EL素子1を治療や美容用に使用する場合は、患者の皮膚等に接着させるように使用される。また、例えば、有機EL素子1を照明用等に使用することも可能であり、このような場合は、粘着層11により有機EL素子1を壁等に接着させるように使用される。なお、この場合は、粘着層11は、基材2の面2b側ではなく、例えば保護基板10の上面側に設けられる。
【0038】
粘着層11としては、粘着性のある物質であればよく、樹脂が好ましく用いられる。粘着性の樹脂としては、酢酸ビニル樹脂、酢酪酸ビニル樹脂、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、ウレタン樹脂等を挙げることができる。その他、粘着層はゴム系,アクリル系,シリコーン系等の接着剤で構成されていてもよい。
【0039】
また、粘着層11は、基材2の面2bにおいて全面に形成されていることが好ましい。全面に形成されていることにより、被接着物に強固に接着することが可能となる。なお、後述するように基材2と粘着層11との間に通気層2が形成される場合も、粘着層11を基材2の面2bの全面に形成されていることが好ましい。
【0040】
なお、後述するように、有機EL素子1は、包装容器20内に密封された状態で保管され、使用時に包装容器20が開封されて使用される。そのため、保管状態において粘着層11が包装容器20の内側に接着してしまわないようにするために、粘着層11の表面(図1では下面側)を離型紙等で被覆させておくことが好ましい。
【0041】
本実施形態では、有機EL素子1の基材2の面2bと粘着層11との間に、通気層12が設けられている。通気層12は必ずしも設ける必要はないが、例えば有機EL素子1を治療や美容のために皮膚等と密接に接触させる場合には、皮膚等からの汗や熱の散発を促がすために通気層12を設けることが好ましい。
【0042】
なお、本実施形態では、上記のように有機機能層4から発光される光をボトムエミッションで取り出すため、この通気層12も、この発光を透過するような材料で形成され、好ましくは透明な層とされることが好ましい。そして、基材2や粘着層11、通気層12を上記のように有機機能層4から発光され取り出される光を透過する材料で形成することにより、有機機能層4からの発光を効率よく取り出すことが可能となる。
【0043】
[有機EL素子の製造方法]
次に、有機EL素子1の製造方法について説明する。
【0044】
まず、例えば基材2上に所望の電極物質、例えば、陽極用材料であるITOを1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように蒸着やスパッタリング等の方法により形成して陽極電極3を作製する。次に、後述するように、例えば不活性ガス雰囲気であるグローボックス内にて、当該陽極電極3上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等を積層して有機機能層4を形成する。
【0045】
この有機機能層4の形成方法としては、蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールを生成しにくい等の観点から、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法が特に好ましく用いられる。これらは層毎に異なる形成法を適用してもよい。また、これらの層の各々の膜厚は例えば5nm〜5μmの範囲の膜厚とされる。
【0046】
これらの層を形成した後、その上に、例えば、陰極用材料であるアルミニウムを1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着法やスパッタリング法等の方法により形成して陰極電極5を設ける。陰極電極5まで設けたら、例えば、樹脂からなる封止層6を介してフレキシブルプリント回路基板等の回路基板7を貼合する。当該回路基板7には、予め駆動用IC等の回路や電源8、開封センサー9等を設けておく。
【0047】
そして、回路基板7上から樹脂を塗布したり、所定の形状の基板を貼合する等して、回路基板7上に保護基板10を形成する。
【0048】
また、本実施形態では、基材2の下面2b側に貼合する等して通気層12を設け、さらにその下方から粘着層11を貼合する等して設ける。なお、粘着層11の下面側を、粘着層11を形成後、或いは粘着層11を通気層12に貼合する前に、離型紙等で被覆させておくことが好ましいことは前述した通りである。
【0049】
[携帯型発光器具]
次に、上記のような構成の有機EL素子1が包装容器20によって密封包装されて形成される本実施形態に係る携帯型発光器具100について説明する。図2は、本実施形態に係る携帯型発光器具の概略図であり、(A)は携帯型発光器具の外観を示す概略斜視図であり、(B)は(A)のX−X線に沿う概略断面図を表す。
【0050】
携帯型発光器具100は、図2(A)、(B)に示すように、上記の有機EL素子1が包装容器20により密封包装されて形成されている。また、携帯型発光器具100では、有機EL素子1が包装容器20により密封されている状態で、有機EL素子1が空気すなわち酸素や水分に曝されないようにするために、有機EL素子1が包装容器20により真空或いは不活性ガス雰囲気に密封包装されるようになっている。
【0051】
また、有機EL素子1が包装容器20により密封包装された状態で、包装容器20を介して外界の空気が包装容器20内に入り込まないようにするために、包装容器20にガスバリア性を持たせている。ガスバリア性とは、このように、包装容器20を介して外界の空気等が包装容器20内に入り込むことを阻止することができる性質や機能をいう。
【0052】
ガスバリア性を有する材料としては、水分や酸素など有機EL素子1の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに包装容器20の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造とした複合材料としてもよい。
【0053】
無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。該複合材料の形成方法については、特に制限はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることができる。
【0054】
また、ガスバリア性を付与するための好ましい形態としては、アルミニウムのような無機物を包装容器20の材料として使用することである。包装容器20の厚さとしては、材料により異なり適宜選択可能であるが、概ね15μm以上、70μm以下の範囲の厚さであることが好ましく、特に好ましくは15μm以上、50μm以下の範囲である。厚さが15μm以上であれば、包装容器20にピンホールがなくなるため、ガスバリア性が良好である。また、有機EL素子1に用いられる有機機能層4は、有機物のため光に弱い。従って、包装容器20は遮光性を有するものであると好ましい。
【0055】
本明細書において、ガスバリア性とは、酸素透過度10−3[ml/m・day・atm]以下、かつ、水蒸気透過度10−6[g/m・day・atm]以下であることを指す。
【0056】
また、ガスバリア性を有する包装容器20を用いて有機EL素子1を真空或いは不活性ガス雰囲気に密封包装する方法としては、例えば、グローボックス内等を真空或いは不活性ガス雰囲気とし、その条件下で、有機EL素子1を上下の2枚の包装材料20a、20b(図2(A)、(B)参照)で覆い、樹脂等を接着剤として用いて、当該包装材料20a、20bの周囲端部同士(図2(A)、(B)の密封部21参照)を当該接着剤で接着して包装容器20とする方法や、当該包装材料20a、20bの周囲端部同士に熱をかけて熱溶着して包装容器20とする方法等が挙げられる。
【0057】
ここで、当該樹脂等の接着剤は、ガスバリア性を有する包装材料20a、20bを接着させるためのものであるが、ガスバリア性を有するものであれば好ましい。接着剤として用いられる樹脂は、例えば、熱硬化性樹脂を用いることができる。また、樹脂の代わりに、ガラスフリットやクリームハンダを接着剤として用いることが可能であるが、これらに制限させるものではない。
【0058】
また、熱溶着する方法としては、例えば、レーザースポット照射が好ましい。このような方法であると、熱に弱い有機EL素子1にダメージを与えることなく所望の箇所のみに熱を与えることが可能であるため好ましい。上記のような密封包装を行うことにより、包装容器20内の雰囲気は真空或いは不活性ガス雰囲気下に保たれる。好ましくは水分量100ppm以下に保つことである。
【0059】
なお、本明細書においては、真空とは、概ね100pa以下の状態を指す。また、不活性ガスとしては、アルゴンやヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン、そして窒素等を挙げることができる。
【0060】
また、図2(A)、(B)に示した携帯型発光器具100では、包装容器20により有機EL素子1を4方封止する形態を示したが、この他にも、例えば、図3に示すように、包装容器20により図3では図示を省略した有機EL素子1を3方封止するように構成することも可能である。このように、有機EL素子1がガスバリア性を有する包装容器20により真空或いは不活性ガス雰囲気に密封包装されるように構成することが可能であれば、どのような密閉包装の仕方を採用することも可能である。
【0061】
さらに、図2(A)、(B)や図3では、包装容器20が袋状の包装容器である場合を例示したが、包装容器20は、ガスバリア性を有し、有機EL素子1を真空或いは不活性ガス雰囲気に密封包装することができるものであればよく、例えば弁当箱状等の箱状等に形成することも可能である。
【0062】
[携帯型発光器具の作用]
次に、上記のように構成された有機EL素子1や包装容器20を備える本実施形態に係る携帯型発光器具100の作用について説明する。
【0063】
本実施形態に係る携帯型発光器具100は、上記のように構成されているため、日常生活の中で容易に携帯することが可能である。その際、有機EL素子1は、有機機能層4から光を発光していないため、電源8の電力は、自然放電以外に放電されない。そのため、包装容器20を開封しない限り、電源8に蓄えられた電力は、比較的長時間維持される。
【0064】
また、有機EL素子1は、包装容器20により真空或いは不活性ガス雰囲気に密封包装されているため、酸素や水分に曝されることがない。そのため、包装容器20を開封しない限り、有機EL素子1の有機機能層4が劣化することがなく、包装容器20を開封して有機EL素子1を使用する際に、劣化していない有機機能層4から、発光不良を起こすことなく、所定の適切な光量の光を発光させることが可能となる。
【0065】
さらに、有機EL素子1は、上記のように基材2上(正確には基材2上に形成された有機機能層4上)に電源8が形成されているため、電源8を有機EL素子1に一体化することが可能になり、有機EL素子1の維持のために外部から配線等を介して電力を供給する必要もなく、携帯型発光器具100の保存や携帯が簡便になる。また、それとともに、携帯型発光器具100を使用したい時に場所を選ばずに使用することが可能となり、携帯型発光器具100がユーザーにとって非常に便利なものとなる。
【0066】
一方、本実施形態では、携帯型発光器具100の包装容器20を開封することにより、有機EL素子1の有機機能層4が自動的に発光する。以下、具体的に説明する。
【0067】
ユーザーが有機EL素子1を使用するために携帯型発光器具100の包装容器20を開封すると、有機EL素子1の周囲に外気(空気)が流入し、開封センサー9が包装容器20の開封を検出する。そして、前述したように、包装容器20の開封を検出した開封センサー9から駆動用ICに信号が送信されると、駆動用ICが電源8をオンする等して、有機EL素子1の有機機能層4からの発光が開始される。
【0068】
なお、開封センサー9は、上記のように包装容器20の開封を検出するものであればよく、前述したように有機EL素子1に設ける代わりに、例えば包装容器20の内側に設けることも可能である。また、上記のように開封センサー9から駆動用ICに信号を送信するように構成する代わりに、開封センサー9と回路基板7とを同期させて駆動用IC自体で開封を検出するように構成することも可能である。
【0069】
さらに、ユーザーが包装容器20を開封した後、手動で有機EL素子1の電源8をオンするスイッチ等を設けることも可能である。このように、包装容器20を開封した時点で、或いはその後で、有機EL素子1の電源8をオンする手法については適宜構成することが可能である。
【0070】
また、開封センサー9としては、例えば、酸素センサーや二酸化炭素センサー、水分センサー、湿度センサーを用いることが可能である。そして、このような開封センサー9を用いれば、包装容器20が開封される前と後とで包装容器20の内部の状況が変化することを捉えて、包装容器20が開封されたことを的確に検出することが可能となる。また、例えば、開封センサー9として受光センサーを用いれば、遮光性を有する包装容器20が開封された際に外部光が入ることを利用して、包装容器20の開封を検出することが可能となる。
【0071】
さらに、前述したように、電源8として空気電池を用いる場合には、包装容器20が開封されて有機EL素子1の周囲に流れ込んだ酸素と接触することで電力の供給が開始されるようになる。そのため、このような電源8を用いる場合には、必ずしも開封センサー9を設ける必要がなくなるといったメリットがある。
【0072】
なお、改めて説明するまでもないが、携帯型発光器具100では、包装容器20を開封して有機EL素子1を取り出して有機機能層4から発光させた後は、電源8の電力が消耗したり、有機機能層4が空気中の酸素や水分で劣化したりして発光が停止するまで、有機機能層4が発光し続ける。また、ユーザーが有機EL素子1の発光を手動で停止させることができるように構成することが可能であることは言うまでもない。
【0073】
[治療用や美容用に使用する場合の例]
本実施形態に係る携帯型発光器具100は、上記のように、治療用や美容用、或いは照明用等の様々な用途に用いることが可能である。以下、携帯型発光器具100を治療用や美容用に使用する場合の形態について説明する。
【0074】
図4は、本実施形態に係る携帯型発光器具の使用の一例を示す概略図であり、患者Hの患部に、本実施形態の包装容器20を開封して取り出した有機EL素子1を貼り付けている形態である。このように、患者Hの患部に有機EL素子1を直接貼り付ける場合には、基材2や回路基板7、保護基板10等を可撓性を有する材料で形成することが好ましい。
【0075】
有機EL素子1のこれらの部材に可撓性を有する材料を用いることによって、患者Hの患部の様々な形態に適合してこれらの材料が変形するため、患者Hの患部に有機EL素子1を容易かつ的確に貼り付けることが可能となる。
【0076】
本実施形態に係る携帯型発光器具100を治療用や美容用に用いる場合、有機EL素子1の大きさは、概ね20cm×20cm以下が好ましい。この範囲であると、治療用や美容用に用いる場合に大きすぎず、患部に貼り易くなり、また、患部にフィットし易くなる等の利点がある。
【0077】
また、携帯型発光器具100を治療用や美容用に用いる場合において、包装容器20を開封して取り出した有機EL素子1を患者Hの患部に直接貼り付ける場合、健康面や衛生面を考慮すると、治療や美容を短時間行うことが好ましい。短時間とは、例えば、24時間以内であり、好ましくは1時間以内である。24時間以内であると、有機EL素子1と接触している患者Hの患部が、汗や熱により赤くなったり、かぶれたり、過敏炎症が発生したりすることを抑えることができる。
【0078】
また、本実施形態に係る有機EL素子1を再利用することは、衛生面の観点から好ましくない。また、一旦、包装容器20から取り出した有機EL素子1は、有機機能層4に浸入した酸素や水分を除去することが困難である等の理由で、再度、有機EL素子1を保存することは困難である。
【0079】
[その他の使用例]
本実施形態に係る携帯型発光器具100を、例えば懐中電灯のような携帯用照明器具として使用することも可能である。この場合、有機EL素子1を懐中電灯等として用いることができる形状に構成することは言うまでもない。
【0080】
このように、携帯型発光器具100を、例えば携帯用照明器具として用いれば、照明が必要になるまで有機EL素子1を包装容器20内に密封包装しておくことで、有機EL素子1の有機機能層4が酸素等で劣化することを防止することが可能となる。そのため、有機EL素子1を発光させる際には、劣化していない有機機能層4から十分な光量の光を発光させることが可能となる。
【0081】
また、有機EL素子1を発光させる際には、包装容器20を開封して有機EL素子1を取り出すだけで発光するため、容易に照明を行うことが可能となる。このように、携帯型発光器具100を携帯用照明器具として用いる場合も、上記のように医療用や美容用に用いる場合と同様に、有機EL素子1を容易かつ的確に発光させることが可能となる。
【0082】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る携帯型発光器具100によれば、有機EL素子1がガスバリア性を有する包装容器20により真空或いは不活性ガス雰囲気に密封包装されているため、有機EL素子1の有機機能層4が劣化することがなく、また、外部とつなぐ配線等もないため、ユーザーが日常生活の中で容易に携帯することが可能となる。
【0083】
ユーザー自身で有機EL素子1を内包する携帯型発光器具100を携帯したり家にストックしたりすることは、ユーザー自身が当該携帯発光器具100を必要な時に使用するうえで、非常に合理的である。例えば、災害時等の場合であって停電等で電気の使用が制限されたとしても、ユーザーは本実施形態に係る携帯型発光器具100の有機EL素子1を照明として使用することが可能となる。
【0084】
また、ユーザーが有機EL素子を用いた医療や美容等を行うために、わざわざそのような機器等がある病院やエステサロン等に足を運ぶ必要はなくなり、本実施形態に係る携帯型発光器具100を身近に置いておき、好きなときに容易にかつ自由に使用することが可能となる。
【0085】
また、有機EL素子1が包装容器20内に保存されている間は、有機機能層4が劣化しないため、ユーザーが日常生活において有機EL素子1を活用したいときに、有機EL素子1の有機機能層4から所定の光量の光を的確に発光させることができる。そのため、有機EL素子1が発光不良を起こすことなく、所定の光量の光を発光させて、有機EL素子1に期待される所望の効用を的確に発揮させることが可能となる。
【0086】
なお、本実施形態に係る携帯型発光器具100では、上記のように、有機EL素子1がガスバリア性を有する包装容器20によって密封包装されるため、有機EL素子1自体には高いバリア性を付与する必要がない。そのため、バリア性を考慮することなく、簡易な構成で有機EL素子1を作製することが可能となり、これにより、有機EL素子1自体の製造コストの削減や製造工程の簡略化が図ることが可能となるといったメリットもある。
【0087】
なお、本発明が上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0088】
1 有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)
2 基材
2a 有機機能層が形成された面
2b 反対側の面
4 有機機能層
8 電源
9 開封センサー
12 粘着層
20 包装容器
100 携帯型発光器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機機能層が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子を備える携帯型発光器具であって、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子では、前記有機機能層に対して、当該有機機能層から発光された光の取り出しを阻害しない位置に電源が配設されており、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子がガスバリア性を有する包装容器により真空または不活性ガス雰囲気に密封包装されていることを特徴とする携帯型発光器具。
【請求項2】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子では、前記電源は、前記有機機能層の、当該有機機能層から発光された光の取り出し方向とは反対側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の携帯型発光器具。
【請求項3】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、使用時に、前記包装容器が開封されると、前記有機機能層からの発光が開始されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の携帯型発光器具。
【請求項4】
前記包装容器の開封を検出する開封センサーを備え、前記開封センサーが前記包装容器の開封を検出すると、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の前記有機機能層からの発光が開始されることを特徴とする請求項3に記載の携帯型発光器具。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子では、前記有機機能層から発光され取り出される光を透過し、かつ、可撓性を有する基材上に前記有機機能層が形成されており、
前記基材の前記有機機能層が形成された面とは反対側の面に、粘着層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の携帯型発光器具。
【請求項6】
前記粘着層は透明な粘着層であり、前記基材の前記有機機能層が形成された面とは反対側の面の全面に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の携帯型発光器具。
【請求項7】
前記電源は、空気電池であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の携帯型発光器具。
【請求項8】
前記包装容器は、アルミニウムで形成されており、かつ、厚さが15μm以上、50μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の携帯型発光器具。
【請求項9】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子の前記有機機能層の発光スペクトルのピーク波長が赤領域から近赤外領域の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の携帯型発光器具。
【請求項10】
治療用および/または美容用に用いられることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の携帯型発光器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−62200(P2013−62200A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201255(P2011−201255)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】