説明

携帯型電子デバイスのための、磁場センサおよび加速度計を使用して姿勢および角速度を検知するシステムおよび方法

【課題】動的な物体の姿勢および角速度を含んだ動き情報を決定するシステムである。
【解決手段】3つの略直交する方向における磁場の強度および/または方向を、本体基準座標系において測定するための磁場検知デバイス71と、物体の全加速度を本体基準座標系において測定するために適合されている加速度検知デバイス72と、フィルタにおいて、全加速度の測定データおよび磁場の測定データと運動力学的モデルとを組み合わせることによって、姿勢および角速度を算出するために適合されているプロセッサ75とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスへの入力技術に関する。より具体的には、本発明は、電子デバイス自体にて実行されるアプリケーションプログラムへの、姿勢または姿勢変化、または、角速度に対応する入力信号を発生させるための角速度および動的な姿勢角を、3軸の磁力計および3軸の加速度計を用いて生成するように適合されている電子デバイスまたは電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型デバイス、および、以下に限定されるわけではないが、特に携帯無線デバイス(移動電話、携帯電話、コードレス電話、テキストメッセージデバイス、ポケベル、トークラジオ、携帯ナビゲーションシステム、携帯音楽プレーヤー、携帯動画像プレーヤー、携帯マルチメディアデバイス、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム等)が、日々の生活においてますます用いられている。技術が進歩するにつれて、携帯型電子デバイスは、大きさおよび重量が縮小される一方、より多くのアプリケーションを実装するようになる。典型的に、ユーザインターフェースおよび電源が、携帯型デバイスの容積および重量の大部分を構成している。
【0003】
携帯型デバイスのユーザインターフェース、および、より具体的には、当該ユーザインターフェースの信号入力部は、携帯型デバイスの操作および操作性に対して非常に重要である。従来、携帯型デバイスへのユーザコマンド入力およびデータ入力は、キーボードまたはキーパッド、マウス、ジョイスティック、タッチペンまたはデジタルペン、または、装置自体を使用したジェスチャーのような入力デバイスを使用して実行されてきた。画面スクロールおよびメニューナビゲーションのために、矢印ボタン、サムホイール、ゲーム用ハンドル、および、他のデバイスが、携帯型デバイスに含まれていてもよい。
【0004】
しかしながら、携帯型デバイスが、より洗練され、より小さくなるにつれて、従来のキーパッド、矢印ボタン、サムホイール、または、デジタルペン/タッチペンでの入力は、コンポーネントのパーツが極小である場合、不便であるか、非現実的であるか、または、楽しくないものとなり得る。より洗練されたナビゲーションを必要とするより複雑なメニュー、3次元マップ、および、最新型のゲームでは、この問題を悪化させてしまう。
【0005】
携帯型デバイスに実装されたアプリケーションに対する動きに関する入力信号データを発生させるために、例えば加速度計やジャイロスコープ等の動き検知デバイスの開発、および、携帯型デバイスへのそれらの実装が提案されてきた。加速度計は、特定の力の加速度、すなわち、重力加速度を含んだ「全」加速度を測定する。典型的に、3軸加速度計は、全加速度ベクトルの3つの直交する成分を測定する。磁力計は、例えば、局所的な磁場の強度および/または方向を測定する磁場検知デバイスである。3軸磁力計は、磁場ベクトルの局所的なx軸成分、y軸成分およびz軸成分を測定することによって、ある磁場の強度および/または方向を検知する。
【0006】
磁気コンパスは、地球磁場のN極に対する方位角を提供することができるデバイスである。簡単な磁気コンパスは、水平面に配置された場合に、地球磁場のN極に対する方位角、すなわち、「ヘディング」を提供する簡単な磁場検知デバイスであり得る。レートジャイロスコープは、感度軸に適用された角速度を測定する特定のデバイスである。
【0007】
近年、MEMS(微小電子機械システム)加速度計および磁力計が、「電子コンパス」や「デジタルコンパス」、または、「方位センサ」を形成するために幅広く結合されている。加速度データは、ロールおよびピッチの角度を計算するために使用される。また、計算されたロールおよびピッチの角度は、キャリアの本体基準座標系において測定される、磁力計により得られた地球磁場の測定データを、局所レベル基準系における磁場の測定データに変換するために使用される。局所レベル基準系における磁場の測定データは、ヨー角、すなわち、ヘディング角を計算するために使用される。
【0008】
例えば、Robin等の米国特許第7,138,979号明細書には、携帯型デバイスの方位に基づいた入力信号を発生させる方法およびシステムが開示されている。Robinは、空間的な方位におけるデバイスの変化を検出し、更に、当該変化を表す位置信号を発生させるために、カメラを使用するジャイロスコープおよび/または加速度計を開示している。Robinによれば、入力信号は、カーソルを移動させるため、ゲームのエレメントを操作するため、等のために使用され得る。
【0009】
Abe等の米国特許出願公開第2006/0046848号明細書は、振動型ジャイロセンサを備える携帯型デバイス上での実行に適したゲームを開示している。振動型ジャイロセンサは、方向における変化に反応して作用するコリオリの力からもたらされる振動における変化から角速度を検出する。Abeの教唆によれば、ジャイロセンサは、ゲームの表示画面に垂直な軸の周りの回転の角速度を検出する。角速度データから、2次元の回転角データが計算される。
【0010】
しかしながら、RobinおよびAbeによって開示されたジャイロセンサは、高価であり、大きさおよび重量において比較的大きい。また、RobinおよびAbeは、携帯型デバイスの3次元の「姿勢」よりもむしろ携帯型デバイスの2次元の「方位」を取り扱っている。したがって、携帯型デバイスの3次元の姿勢についての入力信号データを発生させる方法、デバイスおよびシステムを提供することが望ましい。また、ジャイロセンサを伴う従来のデバイスよりも経済的で、小さく、そして軽い、入力信号データを発生させるデバイスおよびシステムを提供することが望ましい。
【0011】
従来、ジャイスコープは、角速度および動的な角度を提供するための、慣性姿勢検知システムの重要なコンポーネントであった。しかしながら、3軸ジャイロスコープを備えることにより、コスト、消費電力および大きさが著しく増加し得る。これは、電池駆動の携帯型デバイスにおいて望ましいことではない。更に、現行の低価格のMEMSジャイロスコープ自体は、例えばバイアスドリフトのような多くの動作問題を抱えやすく、携帯型消費者電子システムに対しては、依然として磁力計および加速度計ほど使い勝手は良くない。本発明によれば、角速度および動的な角度は、以下に記述されているように、電子コンパスを使用して検出され得る。
【0012】
ジャイロスコープとは対照的に、電子コンパスは、慣性姿勢の位置と同様に、ヨー、ピッチおよびロールの角速度を検知できることが有益である。ジャイロスコープは、完全な角度位置情報を提供せず、むしろ角度位置情報の相対的な変化を提供するのみである。
【0013】
また、ジャイロスコープは、磁力計と比べ、比較的大きくなる傾向にある。例えば、3軸磁力計は、約0.2インチ×0.2インチ×0.04インチ(約5mm×5mm×1.2mm)以下に製造され得る。3軸ジャイロスコープは、著しく大きくなるであろう。
【0014】
従来の姿勢検知デバイスは、完全な動き状態、すなわち、ピッチ、ロールおよびヨーを提供するために、2軸または3軸加速度計、3軸磁力計、および、3軸ジャイロを備えている。加速度計が安価になりつつあるにも関わらず、ジャイロスコープは、その技術的および製造的な複雑性に起因して、加速度計の数倍も高価なままである。
【0015】
更に、理想的な自由空間では、すなわち、重力加速度が0であり、磁場が存在しないという条件の下では、動き情報の6つの自由度が、2軸または3軸加速度計および3軸磁力計を使用して集められ得る。しかしながら、地球上では、既知の重力加速度および磁場が存在することが有用な基準として機能し得るので、動き情報は、自由空間における方法とは異なる方法を使用して決定され得る。結果として、ジャイロスコープと交換する磁場検知デバイスは、非常に安価であることが望ましい。
【0016】
「電子コンパス」、すわなち、電子的なコンパス、デジタルコンパス、または、方位センサは、とりわけ、磁気ヘディング角を提供するために、一般的なキャリア本体において加速度計と磁力計とを組み合わせている。しかしながら、キャリア上にて実行可能な、動きに基づいたアプリケーションに対する電子コンパスの使用には、2つの大きな欠点が存在する。第1に、角速度は直接的に測定されない。第2に、傾斜角(ロールおよびピッチ)の測定値は、キャリアが静止している場合にしか正確ではなく、それ故に、動的な効果を補償できない。動的な効果を補償できないことにより、磁気ヘディング角が不正確になってしまう。
【0017】
Townsend等の米国特許出願公開第2003/0158699号明細書(以後、「Townsend」と称する)には、静的なロール、静的なピッチ、および、静的なヨーの角度を計算するために、加速度計測定データと磁力計測定データとを組み合わせる方位システムが開示されている。しかしながら、Townsendには、動的なロール、動的なピッチ、および、動的なヨーの角度および角速度の決定について教示されていない。それ故に、Townsendのシステムは、一般的な電子コンパスの欠点の双方を被る。
【0018】
Horton等の米国特許第7,216,055号明細書(以後、「Horton」と称する)には、3軸ジャイロスコープ、3軸加速度計、および、磁場検知デバイスを含む姿勢・機首基準システム(AHRS)が開示されている。残念なことに、ジャイロスコープは、コスト、大きさおよび電力要求を著しく増加させてしまう。Hortonでは、ロール、ピッチ、および、ヨーの角度の解を得るために、ジャイロデータが組み込まれている。更に、Hortonは、ロール、ピッチ、および、ヨーの角度の誤差を推定するためにカルマンフィルタを含んでいる。これは、ジャイロバイアスと同様に、経時的にドリフトを続ける姿勢ドリフトを相殺するために使用されている。
【0019】
カルマンフィルタは、当業者にはよく知られており、様々なアプリケーションにおいて使用されている。しかしながら、カルマンフィルタは、状態ベクトルの数式および測定ベクトルの数式を有する標準的な計算枠組を提供する。結果的に、状態方程式および測定方程式は、個別のアプリケーションの各々に対して特定されるべきである。
【0020】
民生用アプリケーションでは、コストが非常に重要な因子である場合、機能的要求を満足させる低コストの解決策が、商品化を成功させる鍵となるであろう。したがって、物体の姿勢および角速度を決定するためだけでなく、物体に対する、3つの直行する軸の周りのまたは3つの直行する軸における、磁場強度および加速度を測定するための姿勢検知および動き検知デバイスを提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第7,138,979号明細書(公開日:2006年11月21日)
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0046848号明細書(公開日:2006年3月2日)
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0158699号明細書(公開日:2003年8月21日)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
携帯電話、ゲームデバイス等のような携帯型電子デバイスの姿勢検知および動き検知システムが開示されている。携帯型電子デバイスに実装され得る当該システムは、電子コンパスのように、2軸または3軸加速度計、および、3軸磁場センサを備えている。先ず、加速度計および磁場センサからの測定値が、姿勢角および角速度を計算する信号処理部によって処理される。続いて、これらのデータは、携帯型電子デバイスに関連した特定のアプリケーションプログラムに対する入力信号に変換される。
【0023】
より具体的には、上記システムは、動的なピッチ/ロール/ヨーの角度および角速度を、ジャイロスコープを使用せずに、フィルタにおいて、姿勢の運動力学的特性を加速度計および磁力計からの測定データと組み合わせて使用することによって直接的に測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の先のおよび他の目的、特徴および利点は、同様の符号が異なる図面を通して同様の部分を表す添付の図面に示されているように、以下に示す本発明の好適な実施形態のより詳細な記述から明白になるであろう。
【図1】従来技術に係る、空間における硬性物体の姿勢角を示す図である。
【図2】従来技術に係る、入力信号発生の生成器を示すブロック図である。
【図3】本発明の技術を使用する、3次元マップのアプリケーションに関連した装置の図である。
【図4】本発明の技術を使用する、飛行シミュレータゲームのアプリケーションに関連した装置の図である。
【図5】本発明の発明に係る、姿勢の信号および姿勢変化の信号をアプリケーションプログラムに供給する方法のフローチャートである。
【図6】(A)は、従来技術に係る、キャリア本体基準系(carrier body frame of reference)および局所ナビゲーション接基準系(local navigation tangent frame of reference)に対するピッチ角を示す図である。(B)は、従来技術に係る、キャリア本体基準系および局所ナビゲーション接基準系に対するロール角を示す図である。(C)は、従来技術に係る、キャリア本体基準系および局所ナビゲーション接基準系に対するヨー角を示す図である。
【図7】本発明に係る姿勢および動き検知システムの図である。
【図8】本発明に係る第1の姿勢および角速度のフィルタの図である。
【図9】本発明に係る第2の姿勢および角速度のフィルタの図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、物体の姿勢を検知する姿勢検知デバイス、および、搬送体(キャリア)のような物体の角速度を検知する動き検知デバイスに関する。姿勢および動き検知デバイスは、3軸磁力計のような3軸磁場センサ、および、2軸または3軸の加速度計のような2軸または3軸の加速度検知デバイスを備えている。より具体的には、キャリアに実装されている姿勢および動き検知デバイスは、キャリア内の他のアプリケーション(例えば、3次元(3D)マップ、ゲーム等)のための姿勢および角速度に対応する入力信号を発生させるための、キャリアの姿勢および角速度を決定するために、電子コンパスを使用する。
【0026】
(基準系)
空間における硬性物体10の姿勢は、3つの角度、すなわち、ヨー、ピッチおよびロールの角度によって記述され得る(図1を参照)。典型的に、これらの角度は、局所的な接平面、例えば、地球の重力ベクトルに対して垂直な平面、または、地球の黄道面を基準とする。ヨー(Ψ)は、局所的な接平面において、真北方向、すなわち、地球の磁極軸から物体10の順方向に時計回りに測定された角度として規定される。ピッチ(θ)は、物体の長手方向軸と局所的な水平面との間の角度として規定される。慣例的に、航空宇宙アプリケーションでは、正のピッチは「上昇」と呼ばれ、負のピッチは「下降」と呼ばれる。ロール(φ)は、物体の局所的な水平面と実際の平面との間における長手方向軸の周りの回転角として規定される。慣例的に、航空宇宙アプリケーションでは、正のロールは、「右翼下げ」と呼ばれ、負のロールは、「右翼上げ」と呼ばれる。
【0027】
図6Aから図6Cは、局所ナビゲーション接基準系(T)と、標準的な本体(「物体」または「キャリア」)基準座標系(B)と、局所レベル基準系(local-level frame of reference)(L)との関係性を示しており、これら3つの全ては、物体の姿勢を記述するために使用され得る。局所ナビゲーション接基準系(T)は、北(N)軸、東(E)軸、および、下(D)軸として規定される。それ故、局所ナビゲーション接基準系(T)における軸は、XN、YE、および、ZD、と表示される。本体基準座標系(B)の軸は、物体の順方向を通る正のXB軸、「右」方向を通る正のYB軸、および、「下」向きの正のZB軸として規定される。
【0028】
任意選択で、加速度検知デバイスおよび磁場検知デバイスの3つの軸は、本体基準座標系(B)に沿って配置され得る。しかしながら、何れのオフセットまたはミスアライメントも、本発明の結果または教唆に影響を与えはしない。局所レベル基準系(L)のx軸(XL)は、局所的な水平面における本体基準座標系のx軸(XB)の投影として規定される。局所レベル基準系(L)のy軸(YL)は、局所レベル基準系(L)のx軸(XL)に垂直である。局所レベル基準系(L)のz軸(ZL)は下向きである。
【0029】
(入力信号発生システム)
図2は、典型的な入力信号発生システム20のブロック図を示している。3軸磁場センサ22、3軸加速度計24、A/D変換器26、および、データ処理部28が、姿勢および角速度の解を供給するように構成及び配置されている。変換装置29は、アプリケーションプログラム21に対して適切な入力信号27を発生させるために、当該姿勢および角速度の解を使用する。
【0030】
検知デバイス22、24の姿勢が変化する際に、すなわち、検知デバイス22、24がX軸、Y軸およびZ軸の少なくとも1つの周りに回転する際に、検知デバイス22および24は、測定された磁場強度Mx、MyおよびMz、および、加速度Ax、AyおよびAzに比例した出力信号を発生させる。典型的に、磁場センサ22がMx、My、Mzを検知し、加速度計24がAx、Ay、Azを検知する。
【0031】
6つの磁場強度と加速度とのパラメータは、処理部25に送信される。処理部25は、1つ以上の処理デバイス22、24に実装され得るか、または、個別の電子デバイス、ローカルの電子デバイス、または、リモートの電子デバイスであり得る。処理部25は、測定されたパラメータデータを処理するための信号およびデータ処理部を備えている。例えば、処理部25は、アナログからデジタルへの(A/D)変換のためのA/D変換器26、データを処理するデータ処理部28、等を備え得る。
【0032】
より具体的には、データ処理部28は、姿勢角および角速度を算出するための磁場および加速度の測定値を処理するために適合され得る。続いて、これらのデータは、当該データを入力信号27に変換するために適合されている変換部29に入力され得る。続いて、変換された入力信号27は、変換された姿勢角および角速度のデータを操作して動き状態に反映させるアプリケーションまたは駆動プログラムを含む電子処理デバイス21に送信される。
【0033】
従来技術によれば、3軸磁場センサは、X軸、Y軸、および、Z軸の周りのそれぞれの磁場強度Mx、My、Mzを測定するために適合され得る。一方、3軸加速度計は、X軸、Y軸、および、Z軸におけるそれぞれの加速度Ax、Ay、Azを測定するために適合され得る。したがって、空間における物体10のピッチ(pitch)は、次式によって算出される。
【0034】
【数1】

【0035】
そして、空間における物体10のロール(roll)は、次式によって算出される。
【0036】
【数2】

【0037】
ここで、
【0038】
【数3】

【0039】
は、キャリア本体基準系において得られた、3軸加速度計からの加速度の測定値(gを単位とする)に対応している。したがって、ピッチおよびロールの双方は、2軸または3軸加速度計を使用して決定され得る。なお、式(2)におけるロールは、2軸加速度計が使用され、キャリアのピッチ角が比較的小さい、すなわち、キャリアのピッチ角が20度未満である場合に、次式を使用しても凡そ計算され得る。
【0040】
【数4】

【0041】
ヨーの算出は僅かに複雑であり、加速度計および磁場センサの双方からの測定データを必要とする。より具体的には、ヨーは、次式を使用して算出され得る。
【0042】
【数5】

【0043】
および
【0044】
【数6】

【0045】
ここで、
【0046】
【数7】

【0047】
は、キャリア本体基準系(B)において測定された、3軸磁力計からの地球磁場に対応している。近似角速度が、それぞれ次式を使用して角度変化の時間微分を算出することによって得られ得る。
【0048】
【数8】

【0049】
ここで、ωx、ωy、ωzは、それぞれX軸、Y軸、および、Z軸の周りの物体の回転の角速度に対応している。
【0050】
このアプローチは、計算付加が小さいという優れた利点を有している。しかしながら、待ち時間、動的な誤差、ロール/ピッチ/ヨーの結合の無視、および、変化する硬鉄/軟鉄の状態に対する脆弱性という欠点が存在し、これらは、アプリケーションによっては容認され得ない。このアプローチは、本体軸の回転角速度が、オイラーの姿勢角における変化の速度に等しいことを仮定しており、これは凡そ正しい。携帯型デバイスを用いると、硬性/軟性の磁性物質(例えば、鉄)の局所的な集中により生じる硬鉄および軟鉄の歪みによって、角度が継続的に変化させられ得ることは、当業者には十分理解され得る。
【0051】
本発明は、極めて動的な操作および振動を含み得る過酷な状況において、高精度の角速度および姿勢の測定値を提供する。
【0052】
(改良された姿勢および角速度)
正確かつ即時の姿勢および角速度を実現するために、最新型への主要な改善には、姿勢および角速度のフィルタのシステムへの実装が含まれている。以下のより詳細に記述されているように、フィルタの状態方程式の一部として姿勢の運動力学的モデルを使用する、(第1および2の姿勢および角速度のフィルタと表された)姿勢および角速度のフィルタの2つの好適な実施形態が開示されている。
【0053】
図7を参照すると、姿勢および動きに関連した入力データをプログラムまたはアプリケーションに供給するために、3軸角速度データ、動的なロール、動的なピッチ、および、動的なヘディングの角度の測定データを決定するために適合されたシステム70が、装置22、24、26および28(図2)の他の好適な実施形態として示されている。システム70は、地球磁場を動的に測定し、キャリアの本体基準系(B)において表される磁場測定データ信号79を発生させるために適合されている3軸磁力計71、キャリアの本体基準系(B)において表される全加速度測定データ78を発生させるために結合されている3軸加速度計72、および、3軸角速度、3軸加速度、および、姿勢角を計算するためにデータ信号78および79を受信するプロセッサ75を備えている。
【0054】
磁力計71および加速度計72は、上記において詳細に記述されており、それらの相互間における関連性および相互作用、ならびに、それらのプロセッサ75に対する関連性および相互作用を説明する必要がある場合を除き、改めてより詳細に記述されることはないであろう。プロセッサ75は、とりわけ、磁力計71および加速度計72からのデータを受信して格納するために適合されている。更に、プロセッサ75は、物体またはキャリア上にて起動するアプリケーションまたはプログラムへの入力のための3軸角速度データおよび動的なロール/ピッチ/ヘディングの角度のデータを計算して出力するために、当該データを使用するために適合されている。プロセッサ75は、姿勢および角速度のフィルタ80、90の1つを使用して、地球磁場測定データ79および全加速度測定データ78と、キャリアの姿勢および角速度の運動力学的モデルとを最良に組み合わせることが好ましい。
【0055】
地球磁場は、硬鉄および軟鉄の歪みのような局所的な磁場の歪みを受け易い。小型の携帯型デバイスアプリケーションでは、ホストシステムからの硬鉄および軟鉄歪みは変化し続け得る。結果として、処理デバイス75は、磁力計自動キャリブレーションモジュール84(図7)、および、補償モジュール85(図7)を備えている。磁力計自動キャリブレーションモジュール84は、局所磁場のスカラー長は一定であるという原理に基づいて、厳しい環境における変化する硬鉄および軟鉄の歪み効果を含んだ磁力計誤差を推定する。補償モジュール85は、磁場の測定生データを補正するために、硬鉄および軟鉄を含んだ推定された磁力計誤差を使用する。
【0056】
また、小型の携帯型デバイスアプリケーションでは、低コストの加速度計が工場において十分にキャリブレートされていないことがよく起こり得る。結果として、加速度計は、動作の時間および温度の範囲に亘り、著しいバイアスドリフトを有し得る。加速度計の精度を更に改善するために、処理デバイス75は、加速度計自動キャリブレーションモジュール76(図7)、および、補償モジュール77(図7)を備えている。キャリアが静止している場合、加速度計の生の出力は重力加速度のみ反映するという事実を利用することによって、加速度計自動キャリブレーションモジュール76は加速度計の誤差源を推定する。補償モジュール77は、全ての加速度の測定生データを補正するために、推定された加速度計誤差を使用する。
【0057】
磁力計自動キャリブレーションモジュール84、および、加速度計自動キャリブレーションモジュール76は、地球磁場ベクトルの測定値、および、地球の重力加速度の測定値の軌跡の制約を、制限された地形領域において経時的に利用する。測定値に誤差が存在しない場合、軌跡は球状であるべきである。しかしながら、ハード/ソフト誤差を含むセンサ誤差が存在する場合、軌跡は楕円体状となる。センサ誤差の推定は、任意の軌跡の制約を満足する、楕円体のパラメータ同定をすることによって実現され得る。磁力計自動キャリブレーションモジュール84、および、加速度計自動キャリブレーションモジュール76は、システム70のホストシステムに対する互換性、柔軟性および適合性を保証しつつ、新しいハードウェアの可能性を支持しながら、様々な動作環境における性能を改善するために備えられている。
【0058】
好適な実施形態として、カルマンフィルタに基づいた枠組のアプローチが、地球磁場の測定値および加速度(特定の力)の測定値からロール/ピッチ/ヘディングの角度および角速度を同時に推定するために、姿勢および角速度のフィルタに対して用いられる。カルマンフィルタは、経時的に観測された間接的な測定であって、ノイズおよび他の誤差を含む間接的な測定から重要なパラメータを見つける再帰的で最適な推定器であって、単にデータ測定値からノイズを除去するためだけのものではない。新しい測定値が利用可能になると、それらは処理され得る。推定された重要なパラメータは、状態ベクトルに形成される。間接的かつノイズを含む観測値は、測定ベクトルに形成される。
【0059】
状態方程式および測定方程式が、カルマンフィルタに対して確立される必要がある。カルマンフィルタの計算には、時間伝播と測定の更新という2つの段階(フェーズ)が含まれている。時間伝播は、前測定時点から現測定時点までの状態ベクトルを、現測定時での状態ベクトルの前推定値として伝える。測定の更新は、現測定ベクトルを使用して、状態ベクトルの前推定値を補正する。
【0060】
キャリアの姿勢は、数学的に姿勢四元数(姿勢クォータニオン)を用いて表され得る。オイラーの定理に従って、姿勢四元数の構成要素は、次式のように表される。
【0061】
【数9】

【0062】
キャリア本体系から局所ナビゲーション系への余弦回転行列は、次式のように姿勢四元数を使用して直接形成される。
【0063】
【数10】

【0064】
動的なロール、動的なピッチ、および、動的なヨーの角度は、余弦回転行列
【0065】
【数11】

【0066】
から抽出され、次式のように表され得る。
【0067】
【数12】

【0068】
姿勢四元数の運動力学微分方程式を次式のように定義し得る。
【0069】
【数13】

【0070】
したがって、姿勢四元数の微分方程式は、角速度の行列表現ΩangularRate(4×4非対称行列)を含んでいる。角速度行列ΩangularRateは、各座標軸についての角速度から成り、次式のように表される。
【0071】
【数14】

【0072】
ただし、
【0073】
【数15】

【0074】
図8を参照すると、第1の姿勢および角速度のフィルタ80が、姿勢四元数の微分方程式および角速度の運動力学的微分モデルから成る状態方程式を用いている。角速度の運動力学的微分モデルは、低次および/または高次の過程を用いてモデル化され得る。好適な実施形態では、
【0075】
【数16】

【0076】
が、1次マルコフ過程としてモデル化され得る。
【0077】
状態方程式は、次式によって与えられる。
【0078】
【数17】

【0079】
そして、第1の姿勢および角速度のフィルタ80に対する状態ベクトルは、次式によって表される。
【0080】
【数18】

【0081】
加速度計データおよび磁力計データによって直接計算されたロール/ピッチ/ヨーは、第1の姿勢および角速度のフィルタ80の測定ベクトルとして用いられる擬似角度として表される。第1の姿勢および角速度のフィルタ80の測定方程式は、姿勢四元数とロール/ピッチ/ヨーとの関係性を表している式(8)を使用する。擬似角度の測定値は、次式のように計算される。
【0082】
【数19】

【0083】
ここで、
【0084】
【数20】

【0085】
は、キャリア本体基準系(B)において測定された、3軸磁力計からの地球磁場に対応しており、
【0086】
【数21】

【0087】
は、キャリア本体基準系において得られた、3軸加速度計からの加速度の測定値(gを単位とする)に対応している。
【0088】
擬似ロール、擬似ピッチ、および、擬似ヘディング計算モジュール89は、フィルタ80測定値の発生を実行する、これにより測定ベクトル(擬似ロール、擬似ピッチ、および、擬似ヘディング)が計算される。モジュール89は、スタンドアロンのデバイス、または、処理デバイス75の一部であり得る。測定の更新モジュール82は、測定ベクトルが利用可能である場合に、計算値の出力(Yk)88を生成するための、状態ベクトルの測定を更新する。更新された状態ベクトル(Xk)86は、順々に、再帰的に時間伝播モジュール83にフィードバックされる。時間伝播モジュール83は、フィルタの測定値間において状態ベクトルを時間伝播させる。
【0089】
図9を参照すると、第2の姿勢および角速度のフィルタ90が、姿勢四元数の微分方程式、角速度の運動力学的微分モデル、および、磁力計誤差から成る状態方程式を用いている。第2の姿勢および角速度のフィルタ90の状態ベクトルは、次式によって表される。
【0090】
【数22】

【0091】
ここで、
【0092】
【数23】

【0093】
は、好適な実施形態において、一定値としてモデル化され得る磁力計誤差である。一定値を使用することは簡単であり、磁力計の実際の誤差の振る舞いと整合するが、当業者には、計算負荷の増大を伴う、より正確な高次モデルが使用され得ることが十分理解されている。
【0094】
第2の姿勢および角速度のフィルタ90の測定方程式は、局所ナビゲーション接基準系から本体基準座標系への、磁場ベクトルおよび加速度ベクトルの変換方程式を使用しており、次式のようにモデル化され得る。
【0095】
【数24】

【0096】
ここで、ZmagおよびZaccelは、それぞれ、(磁力計誤差補償モジュール85において、硬鉄および軟鉄を含んだ任意の推定された誤差を補償した後の)3軸の磁場の測定ベクトル、および、3軸の加速度の測定ベクトルを表している。CTBは、CBT(式(7))転置行列を表している。
【0097】
【数25】

【0098】
は、局所ナビゲーション接基準系(T)において、北向き(N)、東向き(E)、および、下向き(D)に測定された、地球磁場ベクトルの成分に対応している。
【0099】
これら既知の局所磁場ベクトルは、例えば、米国の国家地球空間情報局(NGA)、英国の国防地理センター(DGC)等により提供される世界磁気モデルのような世界磁気モデル73(図7)、または、同様の地球規模の磁場モデルからのものであることが好ましい。NGA/DGCの世界磁気モデルから計算された7つの磁場成分は、以下の通りである。
・F−磁場の全強度
・H−磁場の水平方向の強度
・X−磁場の北方向成分
・Y−磁場の東方向成分
・Z−磁場の垂直方向成分
・I(DIP)−地磁気伏角
・D(DEC)−地磁気偏角(磁気変動)
世界磁気モデル73は、測定値の基準を、真北、すなわち、磁北ではなく地理的な北とするように、磁気ヘディングに偏角補正を自動的に適用する。局所ナビゲーション接基準系(T)における地球の局所的な磁場は、任意の地球上の位置に対して、世界磁気モデル73を介して正確に知られる。多くのアプリケーションでは、キャリアの位置の解は、GPS受信器74(図7)から利用可能である。世界磁気モデル73は、GPS受信器74によって発生された緯度/経度/高度のデータに基づいて、局所ナビゲーション接基準系(T)における正確な局所的な磁場データを提供するために用いられ得る。
【0100】
任意選択的に、局所磁場ベクトルは、第2の姿勢および角速度のフィルタ91において、略「ユニバーサルな」値を伴って先行読み込みされ得る。この任意選択により性能が劣化するが、GPS位置情報が利用不可能な場合、この任意選択は好ましい。上記は、開示された正確な形状に対して網羅的あることを意図するものではなく、本発明を開示された正確な形状に対して限定することを意図するものでもない。実施形態は、発明の原理およびその適用の例示を提供するために選択され記述された。変更例および変形例は、本発明の範疇に存在する。
【0101】
時間伝播モジュール93は、フィルタ90の測定値間において状態ベクトルを時間伝播させるために適合されている。更に、測定の更新モジュール92は、状態ベクトルの測定を更新するために適合されている。
【0102】
上記に開示されているように、位置情報が世界磁場モデルに対して使用できない場合、第1の姿勢および角速度のフィルタに対して設計されている測定ベクトルおよび測定方程式が、第2の姿勢および角速度のフィルタに対しても形成され使用され得る。
【0103】
第1および第2の姿勢および角速度のフィルタ80、90の双方のシステムおよび測定方程式が非線形であるので、第1および第2の姿勢および角速度のフィルタ80、90は、拡張型カルマンフィルタ、シグマポイントカルマンフィルタ等のような非線形のカルマンフィルタを用いて実行され得る。
【0104】
実際に、第1および第2の姿勢および角速度のフィルタ80、90の双方を用いると、3軸加速度計からの静的な重力加速度の測定値が、キャリア自身の加速度に起因して動的に歪んでしまう。キャリアの加速度の効果を低減させるために、フィルタ適合型制御モジュール81(図8)、92(図9)が、加速度ベクトル測定値の長さをモニタリングすることによって、姿勢および角速度のフィルタ80、90の利得を自動的に調整する。例えば、加速度ベクトル測定値の長さが1gよりも大きい場合、フィルタ80、90の利得は低減される。
【0105】
大きな時間変化する磁場外乱は、フィルタの推定値に対して著しい効果を奏し得る。例えば、キャリアが大きな磁気源付近を通過する場合、これにより地球磁場の大きな歪みが生じ、磁力計はこの大きな歪みを測定する。一旦、キャリアが磁気外乱源の磁場強度を超えた磁場に曝されたのであれば、地球磁場は正確に測定され得る。フィルタは、測定情報が信用できない状況に対して非常に速く反応するように設計されている。
【0106】
磁場のモーメント外乱による悪影響を低減させるために、フィルタ利得適合型制御81(図8)が、高精度の状態推定値を実現するために提供される。フィルタ利得適合型制御モジュール81は、磁場ベクトル測定値のスカラー長をモニタリングすることによって、擬似ヘディング測定データ88に関するフィルタ80の利得87を自動的に調整する。例えば、磁場ベクトル測定値のスカラー長において変化を検出する場合、フィルタ適合型制御モジュール81は、擬似ヘディング測定値88に関するフィルタの利得87を調整、すなわち、低減する。
【0107】
ここで再び、第2の姿勢および角速度のフィルタ90を使用する測定値は、地球磁場の測定値によって形成され、結果的に磁場外乱を被る。磁場外乱の効果を低減させるために、フィルタ利得適合型制御92は、高精度の状態推定値を実現するように設計されている。
【0108】
フィルタ適合型制御モジュール92は、磁場ベクトル測定値のスカラー長をモニタリングすることによって、磁場測定値に関するフィルタ90の利得97を自動的に調整する。例えば、磁場ベクトル測定値のスカラー長の変化が検出される場合、磁場測定値に関するフィルタ90の利得97が低減される。
【0109】
好適な実施形態として、3軸磁力計によって測定された地球磁場ベクトルの長さ(大きさ)、および、3軸加速度計によって測定された全加速度ベクトルの長さ(大きさ)は、帯域通過デジタルフィルタによってフィルタリングされる。これにより、ノイズおよびDCオフセット(DCオフセットとは、信号の平均振幅のことである)の双方が、フィルタ適合型制御モジュール81および92に対する、磁場外乱および加速度変化の信頼できる指標を得るために除去され得る。帯域通過デジタルフィルタは、低い遮断周波数および高い遮断周波数を有している。これにより、低い遮断周波数と高い遮断周波数との間の周波数を伴う信号のみが帯域通過周波数を通過する。
【0110】
(本技術の例示的な使用)
携帯電話30における電子コンパスのアプリケーションが、図3に示されている。この開示のために、携帯電話30は、更に、3次元(3D)マップのプログラムを実行して、ユーザに携帯電話(および仮想空間のマップ)を3軸の全ての周りに回転させるために適合されている。動き検知を伴う従来の携帯電話、または、動き検知を伴わない従来の携帯電話は、入力信号の発生を実現するために、少なくとも6つの入力デバイス、例えば、ボタン、すなわち、X軸回転用の2つのボタン、Y軸回転用の2つのボタン、および、Z軸回転用の2つのボタンを必要とするであろう。
【0111】
しかしながら、動き検知デバイスとして電子コンパスを用いると、方向指示矢印ボタンは必要ではない。より具体的には、電子コンパスを用いると、携帯電話30が回転されるにつれて、センサ信号が、姿勢角(Φ、θ、Ψ)および角速度(ωx、ωy、ωz)を提供するように処理され得る。姿勢角および角速度は、姿勢角および角速度をアプリケーションプログラム21への適正な入力信号27に変換する変換器29に入力され得る。
【0112】
端的に言えば、入力信号27の発生には、方向指示矢印ボタンは必要ではなく、むしろ、ユーザは、センサ信号、例えば、Mx、My、Mz、Ax、AyおよびAzを生成するために、単に携帯電話30の姿勢を変化させればよい。アプリケーションプログラムが3Dマップのアプリケーションである場合、マップを3つの軸の周りに回転させることは可能である。従来のナビゲーションボタンに必要であるパネルの表面領域が不要であることは、有益である。結果的に、ナビゲーションボタンに使用されるはずの表面領域を、他の目的に使用することができ、携帯電話30をより小さく生成することができる。
【0113】
携帯型ゲーム機40にて実行可能な飛行シミュレータゲーム用のアプリケーションが、図4に示されている。本実施形態のために、ゲーム機40は飛行シミュレータであるが、当業者であれば、3次元および姿勢の制御を含む無数のゲーム機40およびゲームプログラムに、本発明の教唆を適用することができることを十分に理解し得る。
【0114】
飛行機の姿勢を制御する従来のゲーム機は、数多くの入力デバイス、例えば、ゲーム機の表面上のボタン、または、その代わりとなる、ゲーム機に任意選択的に結合されるジョイスティックが必要である。対称的に、本発明によれば、電子コンパスを用いると、ゲーム機自体をX軸、Y軸、および/またはZ軸の1つ以上の軸に沿って回転させることによって、飛行機の姿勢を制御するために使用され得る飛行機の姿勢の入力信号が発生される。
【0115】
動きおよび姿勢検知用システム、および、このようなシステムを有する携帯型電子デバイスを記述したので、姿勢および姿勢変化の入力信号をアプリケーションプログラムに供給する方法、物体の慣性姿勢および慣性姿勢変化を決定し、当該物体によって実行されるアプリケーションプログラム上で実演される動作を変化させる方法、携帯型電子デバイス上で実行可能であるアプリケーションプログラムに対して入力信号を発生させる方法を以下に記述する。図5におけるフローチャート、および、図2を参照すると、方法が、2軸または3軸の加速度計および3軸の磁場センサを、携帯型電子デバイスに実装させるステップ(ステップ1)を含んでいる。当該方法は、信号の第1の組を生成するために当該2軸または3軸の加速度計を適合させるステップ(ステップ2A)、および、信号の第2の組を生成するために当該3軸の加速度計、例えば電子コンパスを適合させるステップ(ステップ2B)を更に含んでいる。
【0116】
2軸または3軸の加速度計によって生成された信号の第1の組(ステップ2A)は、X軸、Y軸およびZ軸における加速度および/または加速度における変化Ax、AyおよびAzに対応しており、これらは、携帯型電子デバイスの慣性姿勢における変化に比例している。同様に、3軸磁場センサによって生成された信号の第2の組(ステップB)は、X軸、Y軸およびZ軸についての磁場強度および/または磁場強度における変化Mx、MyおよびMzに対応しており、これらもまた、携帯型電子デバイスの慣性姿勢における変化に比例している。
【0117】
続いて、信号の第1および第2の組が処理される(ステップ3)。これには、A/D変換器を使用してアナログ信号をデジタル信号に変換することが含まれ得るが、これに限定されるわけではない。続いて、デジタル信号が、ピッチ、ヨー、ロール、すなわち装置の姿勢、および/または、それらに対する変化、および、X軸、Y軸および/またはZ軸の周りの角速度、および/または、それらに対する変化の1つ以上を計算するために、例えば、処理部を通して処理され得る(ステップ4)。
【0118】
続いて、計算されたピッチ、ヨー、ロール、および/または、角回転が、携帯型電子デバイス上で実行されるか、または、携帯型電子デバイスによって実行可能なアプリケーションプログラムと互換性のある入力信号に変換される(ステップ5)。より具体的には、計算されたピッチ、ヨー、ロール、および/または、角回転は、アプリケーションプログラム上での動作を変化させる入力信号に変換される。
【0119】
例えば、3D画像操作に関連した使用では、まず加速度および磁場強度が計算され、続いて、X軸、Y軸および/またはZ軸に沿った3D画像の動きおよび移動、および/または、X軸、Y軸および/またはZ軸の周りの3D画像の回転を記述するために適合され得る。したがって、携帯型電子デバイスが、1つ以上の自身の慣性軸の周りに回転される場合、加速度および磁場強度の一部または前部は、ピッチ、ヨー、ロールにおける変化、および/または、角回転における変化に変換される変化であるであろう。これらの変化が変換され、携帯型電子デバイス上にて実行されるアプリケーションプログラムに入力される場合、3D画像は、回転した携帯型電子デバイスからの入力信号に比例して移動される。
【0120】
しかしながら、本発明のアプリケーションは、携帯型デバイスに限定されるものではない。実際に、本発明は、携帯型であろうとなかろうと、ヒューマン・マシン・インターフェース、すなわち、ユーザインターフェースを有する何れの電子デバイスにも適用可能である。例えば、当業者であれば、本発明のピッチ、ヨー、ロールの関数を、パソコンへの入力信号を発生させるためのマウスを用いた使用や、テレビ、ラジオ、DVDプレーヤー、ステレオシステムまたは他のマルチメディアデバイス、および、電子楽器(例えば、電子ピアノまたは電子オルガン)のようなホストデバイスへの信号を発生させるリモコンに対して適合し得るが、これに限定されるわけではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的な物体の動的なロール、動的なピッチ、および、動的なヨーの測定値を含んだ上記動的な物体の姿勢と、上記動的な物体の角速度とを含んだ動き情報を決定する方法であって、
3軸の加速度センサおよび3軸の磁場センサを有する検知デバイスを設けることと、
3つの直交または略直交する方向における磁場の強度および方向の少なくとも1つを、上記磁場センサを使用して本体基準座標系において測定することと、
上記物体の全加速度を、上記加速度センサを使用して上記本体基準座標系において測定することと、
姿勢および角速度を算出するために、上記3つの直交または略直交する方向における磁場の強度および方向の少なくとも1つおよび上記全加速度と、上記物体の姿勢および角速度の運動力学的モデルとをフィルタにおいて組み合わせることと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記フィルタは、利得を有する第1の姿勢および角速度のフィルタであって、姿勢四元数の微分方程式および角速度の運動力学的微分方程式含んだ状態方程式を有する第1の姿勢および角速度のフィルタである、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記物体の上記角速度の運動力学的微分方程式は、1次マルコフ過程としてモデル化されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記第1の姿勢および角速度のフィルタは、測定ベクトルとして、擬似ロール、擬似ピッチおよび擬似ヘディングを使用し、測定方程式として、姿勢四元数とロール/ピッチ/ヨーとの関係性を使用し、
上記擬似ロールおよび上記擬似ピッチは、全加速度を使用して計算され、上記ヘディングは、上記本体基準座標系から局所レベル基準系に変換される磁場の測定値を使用して計算されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
測定ベクトルが利用可能である場合、状態ベクトルの測定を更新することを更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
フィルタの測定値間において上記状態ベクトルを時間伝播させることを更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記物体が加速度外乱および磁場外乱に曝される場合、測定の更新を減少させるために、上記第1の姿勢および角速度のフィルタの上記利得を調整することを更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
上記フィルタは、利得を有する第2の姿勢および角速度のフィルタであって、姿勢四元数の微分方程式、上記物体の角速度の運動力学的微分方程式、および、上記磁場センサに対する誤差モデル方程式を含んだ状態方程式を有する第2の姿勢および角速度のフィルタである、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記磁場センサの誤差は、一定値としてモデル化されている、
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記第2の姿勢および角速度のフィルタは、上記フィルタの測定ベクトルとして、上記3軸の磁場センサからの上記磁場の測定値、および、上記加速度センサからの加速度の測定値を使用し、上記フィルタの測定モデル方程式として、局所ナビゲーション接基準系から上記本体基準座標系への磁場ベクトルおよび加速度ベクトルの変換方程式を使用しており、上記局所ナビゲーション接基準系における上記磁場ベクトルは既知である、
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
測定ベクトルが利用可能である場合、状態ベクトルの測定を更新することを更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
フィルタの測定値間において上記状態ベクトルを時間伝播させることを更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記物体が加速度外乱および磁場外乱に曝される場合、測定の更新を減少させるために、上記第2の姿勢および角速度のフィルタの上記利得を調整することを更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
上記物体の位置を決定するために、全地球測位システム(GPS)受信器を使用しており、上記位置は、経度、緯度および高度を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
上記経度、上記緯度および上記高度を世界磁気モデルと組み合わせて使用して、局所ナビゲーション接基準系にて表された局所磁場ベクトルを提供することを更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
周辺環境の硬鉄/軟鉄歪みアイテムを含んだ誤差源を推定することによって、上記3軸の磁場センサを自動的にキャリブレートするステップを更に含んでおり、上記推定は、誤差の無い局所磁場ベクトルの長さは一定値であるという原理に基づいている、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
3軸の加速度の誤差源を推定することによって、上記3軸の加速度センサを自動的にキャリブレートするステップを更に含んでおり、上記推定は、上記物体が静止している場合、誤差の無い加速度の測定値は重力加速度のみであるという原理に基づいている、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
動的な物体の姿勢および角速度を含んだ動き情報を決定するシステムであって、
3つの直行するまたは略直交する方向における磁場の強度および方向の少なくとも1つを、本体基準座標系において測定するために適合されている磁場センサと、
上記物体の全加速度を上記本体基準座標系において測定するために適合されている加速度センサと、
フィルタにおいて、全加速度の測定データおよび磁場の測定データと、上記物体の姿勢および角速度の運動力学的モデルとを組み合わせることによって、姿勢および角速度を算出するために適合されているプロセッサと、
を備えている、
ことを特徴とするシステム。
【請求項19】
上記フィルタは、利得を有する第1の姿勢および角速度のフィルタであって、姿勢四元数の微分方程式および上記物体の角速度の運動力学的微分方程式を含んだシステムの状態方程式を有する第1の姿勢および角速度のフィルタである、
ことを特徴とする請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
上記物体の上記角速度の運動力学的微分方程式は、1次マルコフ過程としてモデル化されている、
ことを特徴とする請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
上記第1の姿勢および角速度のフィルタは、フィルタの測定ベクトルとして、擬似ロール、擬似ピッチ、および、擬似ヘディングの角度を使用し、フィルタの測定方程式として、上記姿勢四元数とロール、ピッチおよびヨーの角度との関係性を使用しており、
上記擬似ロールおよび上記擬似ピッチは全加速度を使用して計算され、上記擬似ヘディングは上記本体基準座標系から局所レベル基準系に変換される磁場の測定値を使用して計算されている、
ことを特徴とする請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
上記フィルタは、測定ベクトルが利用可能である場合、状態ベクトルの測定を更新する、
ことを特徴とする請求項19に記載のシステム。
【請求項23】
上記フィルタは、フィルタの測定値間において上記状態ベクトルを時間伝播させる、
ことを特徴とする請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
上記プロセッサは、3軸の磁場センサの周辺環境から、上記磁場の硬鉄/軟鉄歪みを含んだ誤差源を推定することによって、上記3軸の磁場センサ自動的にキャリブレートするように構成されており、誤差源の推定は、誤差の無い局所磁場ベクトルの長さは一定値であるという原理に基づいている、
ことを特徴とする請求項18に記載のシステム。
【請求項25】
上記フィルタは、上記物体が加速度外乱または磁場外乱に曝される場合、上記測定の更新を減少させるために、上記第1の姿勢および角速度のフィルタの上記利得を調整する、
ことを特徴とする請求項22に記載のシステム。
【請求項26】
上記フィルタは、利得を有する第2の姿勢および角速度のフィルタであって、姿勢四元数の微分方程式、上記物体の角速度の運動力学的微分方程式、および、3軸の磁場センサの誤差モデル方程式を含んだ状態方程式を有する第2の姿勢および角速度のフィルタである、
ことを特徴とする請求項18に記載のシステム。
【請求項27】
上記第2の姿勢および角速度のフィルタは、フィルタの測定ベクトルとして、上記3軸の磁場センサからの上記磁場の測定値、および、3軸の加速度センサからの測定値を使用し、フィルタの測定モデル方程式として、局所ナビゲーション接基準系から上記本体基準座標系への磁場ベクトルおよび加速度ベクトルの変換方程式を使用しており、
上記局所ナビゲーション接基準系における上記磁場ベクトルは既知である、
ことを特徴とする請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
上記物体の位置を決定するために適合されている全地球測位システム(GPS)受信器を更に備えており、
上記位置は、経度、緯度および高度を含んでいる、
ことを特徴とする請求項18に記載のシステム。
【請求項29】
上記経度、上記緯度および上記高度を世界磁気モデルと組み合わせて使用して、局所ナビゲーション接基準系における磁場ベクトルを提供する手段を更に備えている、
ことを特徴とする請求項28に記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−29512(P2013−29512A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−166923(P2012−166923)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(508145012)メムシック,インコーポレイテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】Memsic,Inc.
【住所又は居所原語表記】One Technology Drive,Suite 325,Andover,Massachusetts 01810,United States of America
【Fターム(参考)】