説明

携帯機器用外装膜、携帯機器用外装部材、及び携帯機器用塗料

【課題】ソフト感のある触感品質と外観品質とを同時に確保し易い携帯機器用外装膜を提供する。
【解決手段】携帯機器の外装部材10の表面に形成された外装膜12であり、ナノインデンテーション法により測定される表面の押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ソフト感のある触感が得られる携帯機器用外装膜と、この外装膜が表面に形成された携帯機器用外装部材と、この携帯機器用外装膜を形成可能な携帯機器用塗料とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の携帯機器の塗膜等の外装膜として、ソフト感のある触感が得られるものが使用されている。ソフトタッチ塗料と称される塗料により形成された外装膜などである。例えば、下記特許文献1には、ビロードのようなソフト感などを与える塗料が提案されている。ここでは、特定のポリウレタン樹脂微粉末を共存させて、ポリエステル又はポリエーテル樹脂と、ポリイソシアネートとを貧溶媒中で反応させることで、外装膜を形成している。また、下記特許文献2には、ウレタン合成皮革等の表面に塗布することで、皮革やビロードのような触感が得られるスウェード調表面仕上用被覆組成物が提案されている。ここでは、ポリウレタン樹脂を主成分とし、ポリブチレンとシリカとを特定の割合で配合している。
【0003】
また、各種の携帯機器の外装膜には、立体感のある外観が得られる立体的模様が形成されたものが多数存在する。多くの場合、立体的模様は外装膜の表面に模様凸部を設けることで形成されている。立体的模様を有する外装膜を製造する方法は、模様に応じて様々であるが、例えば、フラットなベース膜部を形成し、このベース膜部上に模様付けを行うことで、立体的模様を構成する模様凸部を形成している。なお、例えば、下記特許文献3のように、平坦であっても視覚的に立体的に見える塗料も存在する。
【特許文献1】特開平7−292053号公報
【特許文献2】特開昭61−285268号公報
【特許文献3】特開平11−293156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の携帯機器に形成されているようなソフト感のある触感が得られる外装膜では、ソフト感が触感により判断される品質であるため過剰に軟質に形成されていた。そのため、耐スクラッチ性に劣り易く、使用者や他の物品等の接触頻度が高い携帯機器の表面に用いると、使用中に傷等が生じて携帯機器の外観品質を低下させ易かった。
【0005】
また、従来の立体的模様を有する外装膜では、立体感が外観により判断される品質であるため、硬質に形成されていた。そのため、携帯機器の表面に用いると、使用時に硬い触感を受け易く、携帯機器の触感品質が劣り易かった。特に、外装膜表面に模様凸部を設けて立体的模様を形成した場合には、模様凸部によりザラついた触感を受け易かった。
【0006】
更に、ソフト感のある触感が得られる外装膜に模様凸部を設けて立体的模様を形成するとすれば、模様凸部が存在する分接触抵抗が大きくなり、耐スクラッチ性が悪化しく、特に、起伏の小さい模様凸部により立体的模様を形成する場合には、模様凸部を鮮明に形成することが容易でなく、立体感のある外観を得難かった。
【0007】
そこで、この発明では、ソフト感のある触感品質と外観品質とを同時に確保し易い携帯機器用外装膜を提供することを課題とする。また、そのような携帯機器用外装膜を備えた携帯機器用外装部材を提供することを他の課題とすると共に、そのような携帯機器用外装膜を形成し易い携帯機器用塗料を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するこの発明の携帯機器用外装膜は、携帯機器の表面に形成された外装膜であり、ナノインデンテーション法により測定される表面の押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmであることを特徴とする。
【0009】
また、この発明の携帯機器用外装部材は、上記のような携帯機器用外装膜が基材表面に形成されていることを特徴とする。
【0010】
更に、この発明の携帯機器用塗料は、携帯機器の表面に、立体的模様を有する外装膜を形成するためのポリウレタン系の塗料であり、シリカを含有し、得られる外装膜のナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなるように前記シリカが配合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明の携帯機器用外装膜によれば、使用者や他の物品の接触頻度が高い携帯機器表面の外装膜として、ナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmの膜を用いるので、使用時にソフト感のある触感が得られると同時に、外装膜の耐スクラッチ性を確保できて使用時に傷等を生じ難くすることができる。そのため、ソフト感のある触感が要求される携帯機器において触感品質と外観品質とを同時に確保し易い。
【0012】
この発明の携帯機器用外装部材によれば、上記のような携帯機器用外装膜が基材表面に形成されているので、ソフト感のある触感を得易いと共に耐スクラッチ性を確保し易い外装部材を提供することができる。
【0013】
この発明の携帯機器用塗料によれば、ポリウレタン系の塗料に、得られる外装膜のナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなるようにシリカが配合されているので、ソフト感のある触感が得られるポリウレタン系の塗料であっても、硬化後に得られる外装膜はソフト感のある触感と耐スクラッチ性とを同時に確保することが可能である。しかも、シリカが含有されることにより、塗装時に立体的模様の形状を形成し易く、塗装及び硬化時に立体的模様の輪郭を維持し易い。そのため、硬化後に得られる外装膜の立体的模様を鮮明にして、立体感のある外観を得易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0015】
この発明において、携帯機器とは、例えば、携帯電話等の通信機器、デジタルカメラ等のカメラ、ノートパソコン等の情報機器、これに付属する無線LANアダプタ、カードリーダ等の付属機器、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機器など、携帯して使用されることで使用者や他の物品等が表面に直接接触する頻度が高い各種の機器である。また、外装部材とは、ポリカーボネート等の硬質な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アルミニウム等の金属、セラミックスなど、各種の硬質材料から任意の形状に形成された基材を備え、携帯機器の外表面を構成する部材であり、例えば、筐体などである。更に、外装膜とは、例えば、塗膜、フィルムなど、外装部材の基材の表面を十分な接合強度で密着して被覆する膜である。この実施の形態では、塗膜を備えた筐体の例について説明する。
【0016】
図1に示すように、この実施の形態の筐体10は、基材11の表面が塗膜12により被覆されており、塗膜12は、後述する塗料を塗布して硬化することで形成されている。
【0017】
塗膜12は、基材11の表面に連続して平坦に形成されたベース膜部13と、このベース膜部13の一方の表面に一体化して設けられた模様凸部14とを備えている。模様凸部14は、ベース膜部13に不定形な形状で部分的に微細に突出して設けられており、塗膜12を外部から視認した際、立体感のある外観が得られる立体的模様を構成している。この立体的模様は、例えば、レザートーン、サテン、レザーサテン等、適宜選択することができ制限されない。
【0018】
この塗膜12では、少なくともベース膜部13は、硬化後にナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmの範囲となる塗料により形成されていることが必要である。
【0019】
ナノインデンテーション法では、薄膜等の表面に圧子を極低荷重でコンマ数ミクロン〜数ミクロン押し込んだ際、負荷曲線及び除荷曲線などを利用して、圧子にかかる荷重と射影面積とから押し込み硬度などが測定される。このようなナノインデンテーション法を利用して測定される表面の押し込み深さは、塗膜の膜厚に比べて極微細な押し込みにより測定される値であるが、後述する実施例から明らかなように、携帯機器を使用する際、使用者が触感により感じる程度のソフト感の結果と好適に対応している。そのため、この表面の押し込み深さを携帯機器の表面に適したソフト感のある触感の有無を示す好適な指標として使用することが可能である。
【0020】
即ち、このナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmである塗膜であれば、携帯機器の表面に必要な適度なソフト感のある触感を得ることが可能であり、この表面の押し込み深さがこの範囲から外れる場合には、使用者が触れた際、硬い触感を認識し易く、携帯機器の表面のソフト感としては好ましくない。
【0021】
同時に、このナノインデンテーション法により測定される表面の押し込み深さは、後述する実施例から明らかなように、携帯機器を使用する際、使用者や他の物品が接触しても傷等が生じ難い程度の耐スクラッチ性とも好適に対応している。そのため、この押し込み硬度を携帯機器の表面に適した耐スクラッチ性の有無を示す好適な指標として使用することが可能である。
【0022】
即ち、このナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmである塗膜であれば、ソフト感のある触感が得られる塗膜であっても、携帯機器の表面に必要な耐スクラッチ性を確保することが可能であり、この表面の押し込み深さがこの範囲から外れる場合には、使用時に塗膜の傷等の破損を生じ易く、外観品質が低下し易くなるため好ましくない。
【0023】
この塗膜12では、ベース膜部13と模様凸部14とは、同一の材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってよいが、ベース膜部13と模様凸部14とが異なる塗料により形成される場合、塗料のビヒクル或いはビヒクルの樹脂成分が同一であることが好適である。ベース膜部13と模様凸部14との間の十分な接合強度を確保できるからである。
【0024】
このような塗膜12の厚さは、ナノインデンテーション法により測定される押し込み硬度が得られる範囲となるように形成すればよいが、例えば、ベース膜部13の厚さが10μm以上15μm以下とし、ベース膜部13及び模様凸部14を合わせた塗膜12全体の厚さが10μm以上30μm以下、好ましくは15μm以上25μm以下としてもよい。この実施の形態では、このような薄い範囲の塗膜であっても、所定の押し込み硬度とすることで、十分にソフト感のある触感を得ることが可能だからである。
【0025】
次にこのような塗膜を形成するための塗料の例について説明する。
【0026】
塗料は、軟質な膜を形成可能な樹脂成分を備え、この樹脂成分中にシリカ微粒子が分散状態で配合されているビヒクルを備えたものであれば適宜選択可能である。軟質な膜を形成可能な樹脂成分としては、所謂、ソフトタッチ塗料と称される塗料において樹脂成分として使用されるものであってもよい。例えば、2液性ポリウレタン樹脂組成物を樹脂成分とするポリウレタン系塗料、ポリエステル−ポリオール系塗料などが好適に使用可能である。
【0027】
2液性ポリウレタン樹脂組成物を用いる場合、主剤としては、例えば、ウレタン系等が挙げられる。また、硬化剤としては、例えば、イソシアネート系等が挙げられる。
【0028】
一方、樹脂成分に配合されるシリカ微粒子は、樹脂成分に対する混合割合を調整して均一に分散させることで、塗料の樹脂成分によって得られるソフト感を調整することが可能な材料である。
【0029】
この実施の形態では、シリカ微粒子と樹脂成分との混合割合は、硬化後に得られる塗膜12のナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなるようにすることが必要である。シリカ微粒子の混合割合が過剰に大きい場合には得られる塗膜12のソフト感が不足し易くなり、一方、過剰に小さい場合には、得られる塗膜12のソフト感が軟質になり易くなる。耐スクラッチ性は、塗膜12が硬い程強いため、シリカ微粒子の混合割合が小さい程確保し難くなる。ここでは、混合される樹脂成分の硬化により得られる柔軟性が異なるため、樹脂成分に応じて、シリカの混合割合を適宜調整することが好ましい。
【0030】
軟質の外装膜を形成するための塗料、特に、ポリウレタン系の塗料では、一般に塗装時に模様凸部を形成し難く、また、塗装時或いは硬化時に模様凸部の形状、特に模様凸部の周縁の形状を明確に形成し難い。ところが、得られる塗膜12の押し込み硬度が所定範囲となるように、シリカ微粒子の混合割合を調整すると、これらの欠点を改善することが可能である。
【0031】
そのため、この実施の形態の塗料では、硬化後にソフト感のある触感が得られる塗料であっても、塗装時には模様凸部を形成し易くでき、更に、塗装時或いは硬化時に模様凸部の輪郭を鮮明に形成し易くできる。その結果、塗膜12のベース膜部13及び模様凸部14をそれぞれ前記のように薄肉に形成したとしても、立体感のある外観が得られる立体的模様を形成することが可能である。
【0032】
なお、この塗料に添加する顔料は、特に制限されないが、黒色とする場合には、例えばカーボンブラック等を適宜混合することができる。
【0033】
また、この実施の形態の塗料には、硬化して得られる塗膜12の押し込み硬度が所定の範囲に設定可能な範囲において、シリカ微粒子の他に各種の添加剤を添加することが可能である。
【0034】
また、このような塗料に用いる溶媒としては、シンナー等を使用することができる。溶媒の使用量は塗装方法等に応じて適宜選択することが可能であるが、ベース膜部13を形成するための塗料としては、粘度が26mPa・s〜32mPa・sの範囲とするのが好適であり、模様凸部14を形成するための塗料としては、粘度が40mPa・s〜45mPa・sの範囲とするのが好適である。
【0035】
次に、このような塗料を用いて、塗膜12を形成する例について説明する。
【0036】
基材11の表面に、まず、第1工程としてベース膜部13用の塗料を微細な液滴として均一に噴霧して塗布することで、ベース膜部13の塗装を行う。その後、乾燥させ、第2工程として、模様凸部14用の塗料を、模様を形成するように第1工程より大きな液滴として噴霧して塗布し、模様凸部14の塗装を行う。
【0037】
ここで、第2工程で噴霧する塗料は、第1工程で使用した塗料と同一の塗料としてもよく、同質の塗料とすることもできる。同質の塗料とは、第1工程で塗布した塗料と反応又は分離することがなく、一体化して一つの塗装膜を形成しうる塗料であり、前記のようにビヒクル或いはビヒクルを構成する樹脂成分が同一の塗料とすることができる。
【0038】
また、第2工程で噴霧する塗料の液滴を第1工程で噴霧する塗料の液滴より大きくするのは、得られる塗膜に立体感のある模様凸部14を形成し易くするためのである。この第2工程における塗料の液滴の大きさは、どのような立体感を与えるかに応じて適宜設定することが可能である。なお、液滴の大きさは、例えば、噴霧するノズルの口径を調整したり、噴霧圧力を調整することで、容易に設定可能である。
【0039】
更に、第1工程及び第2工程において、噴霧塗布を行うスプレーガンは重力式、圧送式等各種のものを使用可能であるが、塗料詰まりを防止し易い等の理由で、液ダレを防ぐような構造を有する低圧霧化用スプレーガンとするのが好適である。この低圧霧化用スプレーガンとしては、例えばアネストイワタ社製LPH−101(商標)、メサック社製スプレーガン、旭日サナック社製スプレーガン等が挙げられる。
【0040】
以上のようなこの実施の形態の塗膜12によれば、ナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmの膜であるので、使用時にソフト感のある触感が得られると同時に、外装膜の耐スクラッチ性を確保できて使用時に傷等を生じ難くすることができる。そのため、ソフト感のある触感が要求される携帯機器において触感品質と外観品質とを同時に確保し易くすることができる。
【0041】
また、基材11の表面全体に連続して形成されているベース膜部13が、このような押し込み硬度を有しているので、使用時にソフト感のある触感と耐スクラッチ性とを確保し易くできる。
【0042】
特に、ベース膜部13と模様凸部14とを同一の塗料で形成した場合には、塗膜12全体が特定の押し込み硬度となるため、ソフト感のある触感と耐スクラッチ性とをより確保し易くできる。
【0043】
また、この塗膜12では、ベース膜部13及び模様凸部14を合わせた膜厚10μm以上30μm以下、好ましくは15μm以上25μm以下のような薄肉に形成していも、押し込み硬度を特定の範囲とすることで、十分にソフト感のある触感を得ることが可能であると同時に、立体感を有する外観を得ることが可能である。
【0044】
また、この実施の形態では、ポリウレタン系の塗料に、硬化後にナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなるようにシリカが配合された塗料を用いれば、軟質の外装膜を形成可能なポリウレタン系の塗料であっても、塗膜12の十分なソフト感のある触感と耐スクラッチ性とを容易に確保することができる。しかも、軟質の塗膜12を形成可能なポリウレタン系の塗料であっても、シリカが適度に含有されているため、塗装時には立体的模様の形状を形成し易く、また、塗装及び硬化時には立体的模様の形状を維持し易い。そのため、硬化後に得られる塗膜12に立体的模様を鮮明に形成でき、立体感のある外観を得易くすることが可能である。
【0045】
なお、上記実施の形態は、この発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば、上記では、塗膜12の例について説明したが、基材11の表面を被覆して十分な接合強度で接合可能なフィルム等であっても、この発明を同様に適用可能である。その場合、基材11に接合された状態で、ナノインデンテーション法により測定される表面の押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなるようにすればよい。
【実施例】
【0046】
以下、この発明の実施例について説明する。
【0047】
[実施例1]
【0048】
(試験片の作製)
【0049】
基材11として、平坦なアルミ板を用い、第1工程として、ベース膜部13の塗装を行い、20分間室内放置して乾燥した後、第2工程として、模様凸部14の塗装を行い、100℃で1時間硬化させて、レザートーンの模様を表面に有する塗膜12を形成し、外観及び触感試験用の試験片を作製した。また、第1工程のベース膜部13の塗装を同様に行った後、第2工程を行うことなく、100℃で1時間硬化させて、押し込み硬度試験用の試験片を作製した。
【0050】
塗料として、ウレタン系主剤と、イソシアネート系硬化剤とを、主剤:硬化剤の重量比が4:1となるように混合した樹脂成分を含有すると共に、硬化後に得られる塗膜のナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなるようにシリカ微粉末を含有するものを用いた。ここでは、第1工程と第2工程とで同じ塗料を使用した。また、溶剤としてシンナーを用い、第1工程のベース膜部13用の塗料の粘度を30mPa・sとし、第2工程の模様凸部14用の塗料の粘度を40mPa・sとした。
【0051】
塗料の塗布には、アネストイワタ社製の低圧霧化用スプレーガンを使用して、基材11の表面に噴霧することで行った。その際、第1工程のベース膜部13用の塗料の塗布条件を2.5〜3.5Kg/cmのエアー圧とし、第2工程の模様凸部14用の塗料の塗布条件を0.1Kg/cm以下のエアー圧とした。
【0052】
得られた試験片の塗膜12のベース膜部13の厚さを多数箇所で測定したところ10〜20μmであり、ベース膜部13及び模様凸部14を合わせた塗膜12全体の厚さを多数箇所で測定したところ15〜25μmであった。
【0053】
(押し込み深さ試験)
【0054】
ナノインデンテーションMH4000(NEC社製、商標)を用い、ナノインデンテーション法により押し込み深さを測定した。圧子は三角錐ダイヤモンドを使用し、荷重を0.3mNとし、同一試験片について2回ずつ測定し、その範囲を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
(触感試験)
【0056】
10人のパネラーにより、試験片の表面に指で触れたときの触感を評価した。
【0057】
評価は、ざらつきがあり、ソフト感が劣るものを×、ソフト感が優れているがベタツキのあるものを△、ソフト感が優れておりベタツキのないものを○とした。結果を表1に示す。
【0058】
(外観試験)
【0059】
10人のパネラーにより、試験片の表面を視認したときの外観を評価した。
【0060】
評価は、模様凸部14により形成された模様の立体感について行い、立体感が劣るものを×、立体感が劣りはしないが優れてはいないものを△、立体感が優れているものを○とした。結果を表1に示す。
【0061】
(スクラッチ試験)
【0062】
ステンレス鋼製で、端部周縁に糸面取りを施した丸棒を試験片の表面に45°の角度で当接させ、所定回数往復させたときの傷の程度を目視により評価した。
【0063】
評価は、模様凸部14のない表面により行い、基材11表面が露出したものを×、基材11は露出しないものの傷が生じたものを△、傷が生じないものを○とした。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
【0065】
第2工程の模様凸部14用の塗料の粘度を45mPa・sとする他は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0066】
各試験の結果を表1に示す。
【0067】
[比較例1]
【0068】
塗料として、レザートーン塗料を用い、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0069】
各試験の結果を表1に示す。
【0070】
[比較例2、3]
【0071】
塗料として、それぞれ異なるソフトタッチ塗料を用い、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0072】
各試験の結果を表1に示す。

【表1】

【0073】
表1の結果から明らかな通り、実施例1、2では、塗膜12のベース膜部13のナノインデンテーション法により測定される表面の押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなっているので、ソフト感の評価が良好であり、携帯機器として十分なソフト感のある触感が得られていた。
【0074】
同時に、このような実施例1、2では、何れも耐スクラッチ性の評価が良好であり、携帯機器として十分な耐久性が得られていた。
【0075】
更に、実施例1、2では、何れもソフト感のある触感が得られる2液性ポリウレタン系塗料であり、しかも、実施例1では膜厚が25μm以下、実施例2では30μm以下であるにも拘わらず、シリコン微粒子の混合割合が適度に調整されたものであるため、立体感の評価が良好なものとなっている。この理由と一つには、模様凸部14の周縁の境界が明らかに明瞭に形成できていることが挙げられた。
【0076】
特に、実施例2では、ベース膜部13用の塗料と模様凸部14用の塗料とを同じにしていても、模様凸部14用の塗料の粘度を噴霧可能な範囲で45mPa・s以上となるように調製しているため、立体感の評価が実施例1よりも、更に良好であり、より優れた外観が得られていた。
【0077】
これに対し、比較例1では、実施例1、2に比べ、ソフト感の評価が低く、携帯機器として適切なソフト感のある触感は得られていない。ここでは、ナノインデンテーション法により測定される表面の押し込み深さが、荷重0.3mNのときに1μm以下となっており、押し込み深さが、携帯機器を使用する際に使用者が触感により感じる結果と好適に対応していることが確認できた。
【0078】
また、比較例2、3では、ソフト感の評価は比較例1よりは良好であるものの、耐スクラッチ性の評価は実施例1、2より低く、携帯機器として適切な耐久性が得られていない。ここでは、ナノインデンテーション法により測定される表面の押し込み深さが、荷重0.3mNのときに6〜8μmとなっており、押し込み深さが、携帯機器を使用する際に傷等を生じ難くできる耐スクラッチ性と好適に対応していることが確認できた。
【0079】
更に、比較例2、3では、実施例1、2より立体感の評価は低く、シリカ微粒子を存在させることで立体感が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明の実施の形態の携帯機器用外装部材の一部を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0081】
10 筐体
11 基材
12 塗膜
13 ベース膜部
14 模様凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯機器の表面に形成された外装膜であり、
ナノインデンテーション法により測定される表面の押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmであることを特徴とする携帯機器用外装膜。
【請求項2】
連続するベース膜部と、該ベース膜部に一体化して立体的模様を構成する模様凸部とを備え、少なくとも前記ベース膜部が前記押し込み硬度を有することを特徴とする請求項1に記載の携帯機器用外装膜。
【請求項3】
前記ベース膜部と前記模様凸部とが同一材料からなることを特徴とする請求項2に記載の携帯機器用外装膜。
【請求項4】
膜厚が、10μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の携帯機器用外装膜。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載された外装膜が基材表面に形成されていることを特徴とする携帯機器用外装部材。
【請求項6】
携帯機器の表面に、立体的模様を有する外装膜を形成するためのポリウレタン系の塗料であり、
シリカを含有し、
得られる外装膜のナノインデンテーション法により測定される押し込み深さが、荷重0.3mNのときに4μm〜5μmとなるように前記シリカが配合されていることを特徴とする携帯機器用塗料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−269940(P2009−269940A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118837(P2008−118837)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】